ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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◎簡単なあらすじ
 京王線沿線の街に佇む"闇明神社"で秋祭りが開催された。
 雑踏警備として出動しているヘリアンテスへの取材に来た記者の横山智里は、
 天然かつマイペースな彼女に翻弄される。
 そこに、虎頭の大男達が突撃してきて…


捜査報告書 No.2【堕天使降臨】- ヘリアンテスメイン
#1『お祭りがあると、ギャラポリは出動するわけ?』


 チョコレートとシナモンの香りが一瞬鼻先をかすめた。法被を着た子供達が、チュロスを頬張りながら、目の前を駆けていく。

 横山智里はふっと笑い、それまで見ていた手帳のページを閉じた。

 闇明(あんめい)神社の参道は笑顔と活気に満ちている。

 参道に並んでいる屋台で買ってきたのだろう。鳥居から敷地に入て最初の屋台がチュロスだったのを思い出した。

 他の屋台は唐揚げ、メンチカツ、コロッケ、天ぷら、アメリカンドッグ、サーターアンダギー串、春巻きなんてものが並んでいる。

 秋祭りに春巻きというのはどうなんだろう? と思わなくも無いが、とにかくこのお祭りで扱われる屋台の食べ物は揚げ物ばかりで、ジャンクフードが苦手な智里は匂いで頭がクラクラし始めていた。

 いかんいかん。と頭を振り、中々現れないターゲットを見つけようと、目をこらした。

 右手で携帯電話を操作し、高校時代の後輩が出るまで待った。

 

「はい。山城です。どうしました? 先輩?」

 

 浮遊警視庁の地域部に所属する山城香苗の脳天気な声が耳に入る。

 

「イグニース巡査の姿が見えないわ。本当に今日来るんでしょうね?」

「間違いないですよぉ。一日中警視庁の情報収集に勤しんでいるあたしが掴んだ情報なんですから。記者クラブよりも重要視する人だっているんですよ」

「あんたの勤務態度に問題があることだけは確かなようね。そういえば、テニス部時代もさぼり癖が…」

「その後輩から聞いた噂話で記事を書いている人に説教なんかされたくありませーん」

 

 電話の向こうでガラガラッという音が聞こえた。ストローでジュースでも飲み干したのだろう。電話中のマナーもなってない。

 

「昨日十五時過ぎ、ヘリアンテス巡査の上司に当たる外事特課の根米課長から彼女に指令があったらしいんです。人手が足りないので、今日その付近の雑踏警備に当たるようにって」

「このお祭りの為に?」

「そうです。お祭りの場で浮かないような格好で行くように指示があったそうですから」

「お祭りがあると、ギャラポリは出動するわけ?」

「いやいや…そんなわけないですよ。その辺りの異星人居住者って結構多くって、外務省が把握している正規の人数と監視カメラとAIで分析している人数に大きな乖離があることがわかっているんです。非正規の異星人が多い地域では犯罪も多くなりやすい傾向にあるので、ポイントを絞って外事特課メンバーも警戒に当たるんですよ」

「じゃあ、他のギャラクシーポリスに代わったという可能性は?」

「百パーセントありえませんよぉ」香苗はケラケラと笑った。

「そもそも他の外事特課メンバーが異星人宇宙船の不時着調査で忙しいからってのが理由だし。そして、あのイグニース巡査を子供神輿が巡行する地域に行かせるってのも断腸の思いで…」

「不時着? そんなことがあったの?」

「あ、これまだ公表されてなかったッ。先輩今のは聞かなかったことに…」

「記者に何を言っているのよ? 今度その件もしっかり聞かせてもらうわ」

「……先輩の方からの情報提供も、おまけがあればなー。なんて思っちゃいます」

「ええ。考えておくわ」

 

 電話を切った。

 あんな性格だが、香苗の情報精度はかなりのものだ。信頼するとしよう。

 胸元から一枚の写真を取り出す。黄金色のボブカットに真紅の瞳が印象的な一人の美女が写っている。

 ヘリアンテス・ルクサ・イグニース巡査

 銀河の遙か彼方からこの日本にやってきた魔法を使う異星人捜査官だ。

 日本が銀河の異星と交流を結んだことで、それまで経験したことがない犯罪捜査に対応するために派遣された人員の一人だ。

 地球人から見ると異形な姿をした異星人が多い中、彼女はほとんど地球人と同じ見た目のうえ、その素晴らしい美貌とプロポーションから多くの注目を浴びていた。

 彼女の人柄、能力、日本に来た動機など、知りたいことは山ほどある。

 【週刊ギンガ】は比較的ゴシップを取り扱うことが多いし、読者は概ねそういうのを目当てにウチの誌面を購入している。しかし、智里としては交流が始まった異星人の歴史や文化の違いも聞いてみたいと思っている。

 銀河の他の星々はどのようなものなのか、広大な宇宙を旅する気分はどうか、そして、彼女たちから見た日本はどのような国か、何の為にこの国に来たのか。その他、彼女たちの視点を通じて見える宇宙というものを聞いてみたい。

 きっと智里が知らない思いがあるはずだ。

 

【女神降臨。麗しの異星人捜査官の素顔】

 

 誌面の見出しはこのようにしようと決め、手帳に書き記した。

 周囲が少し騒がしくなってきた。

 そろそろ子供神輿が出る頃なのだろうか。と思ったが、ざわついているのは本殿とは逆方向だ。

 なんだろう? と人だかりの先を覗いてみる。

 すぐにざわつきの正体はわかったが、先ほどとは別の「なんだろう?」が生まれた。

 金銀で光り輝くそれはそれはゴツい見た目でド派手な鎧を着込んだ女性が、ガッチャンガッチャン音を立てながら参道を進んでいった。

 全身光り輝く鎧で覆われているが、兜はかぶっていないので、顔は確認できた。

 とても信じたくなかったが、その女性こそ智里が取材をしたかったイグニース巡査その人だった。

 ヘリアンテスが智里の横を通り抜けていく。

 はっと我に返った。

 

「イグニース巡査っ」

「はい?」

 

 真紅の双眸がこちらを見つめる。

 目の前で見ると、本当に綺麗な女性だということがわかる。

 一流の彫刻家が作ったかのような整った顔立ちに、全ての女性が羨むようなきめ細かい肌をしている。

 ブーツを履いているわけでもないのに、智里が少し見上げるような形になっているので、女性としてもやや長身だ。

 これに加えて、写真で見る限りグラビアアイドルのようなバストに腰もくびれて、股下も長いという躰の持ち主だ。

 資料上、年齢は25歳となっていた。智里が24歳なので、1つ年上ということになる。育った星が違うので、年齢の数字自体はほとんど意味がないのだが、ヘリアンテスの産まれた惑星インフェリスタスは公転周期が地球とほぼ同じらしいので、この銀河で生きてきた時間としては、本当に同年代と言えるのだ。

 小さく品の良さそうな唇が開く。

 

「わたくしをご存じなのですか?」

「え……ええ……。ニュースを見ている人なら、結構知られていると思います」

「あら、それは困りましたわね。課長からは目立たずに警戒するように言われていましたのに…」

 

 ヘリアンテスは本当に悩むように眉をひそめるた。

 

「えぇと…イグニース巡査。顔が知られているかどうかよりも、そのような格好をしていると嫌でも目立ってしまうと思いますが…」

「え? そうですの?」

 

 ヘリアンテスは自分の鎧を首を動かしながらチェックした。

 

「どこかおかしなところがあるかしら?」

「いやいやいやッ。周りを見てください。ここにいる誰もそんな鎧着てないでしょう?」

 

 周囲の野次馬達は、遠巻きに見ながら携帯で写真を撮ったりしている。無許可でそんなことをするのはマナー違反だが、ヘリアンテス自身は全く気にしていないようだ。

 

「よく見たらそうですわね。神事に参列するとのことでしたから、祖国で使っていた祭事用の鎧が適切だと思いましたが…」

「あの……一つ聞いても良いですか?」

「何かしら?」

「ご自宅からここまで、どうやって?」

「京王線ですわ」

「電車に乗ってここまで着たんですか?」

「タクシーで来たかったのですが、肩当てが窓ガラスに当たって閉められませんでしたの。おかげで道に迷ってしまいましたわ」

 

 そういう問題じゃ無いと思ったが、このままでは取材にならない。彼女のペースに付き合っていると話が脱線どころか宇宙船で大気圏を突破してしまう。

 すぅ~~は~~と深呼吸をした。

 懐に入れていたケースから素早く名刺を取り出した。

 

「イグニース巡査。申し遅れましたが、わたくしこういうもので――」

「ねぇちゃ~ん。こっち向いてポーズとってくれ~」

「コスプレかぁ? 来るとこと日付を間違ってるぜ~」

「何のキャラクターだ? 見たことねぇなぁ」

「デザイン的に90年代じゃない?」

「――ふつくしぃ……神々しいでゴザるぅぅぅーーッ」

 

 パシャ。パシャ。パシャ。と鳴りまくるシャッター音。

 両手で名刺を差し出す智里の先で、ヘリアンテスは参拝客達から写真を求められていた。

 

「え……ええと……いえーい……ですわ」

 

 目をパチくりしながらぎこちなくピースのポーズを取る自称雑踏警備の警察官。

 

「モテモテですね…」

「嬉しくないですわ……もっと、こう…小さい子供達に囲まれる感じで…」

 

 はぁ……とため息をつき、力の抜けた手でヘリアンテスの腕を取って社務所の方へと連れて行った。




◎登場人物紹介
 ※異星人の年齢は地球人に換算したものです

 ○ヘリアンテス・ルクサ・イグニース(25) 
  警視庁 公安部 外事特課 生活安全総務係の巡査。

 ○横山智里(24)
  週刊ギンガの女記者。

 ○山城香苗(23)
  警視庁 地域部 地域総務課 庶務係所属
 
 ○常磐なずな(74)
 闇明神社の氏子総代
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