ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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#4

 

     五

 

*20xx/5/11-21:07

 ティンク・カールベル皇女様御一行のお忍び観光は若さゆえか、短時間に次から次に場所を変え、隠れてこっそりついていくのは大変だったが、浅草寺から高岡高校に向かい、その屋上で夕食と観測会を始めたところで、いったん落ち着きを見せていた。

 ハッテマスとヘリアンテスは、高校から少し離れたビルの屋上から双眼鏡で学校の屋上の様子を交代で眺めていた。

 ハッテマスは約束の時間までもう少しと、時計を見ながら少し安心し、気を緩める。

 そこに突然ヘリアンテスが。

 

「ねぇ、ハッちゃんあそこ」

 

 異変に気付いたヘリアンテスがハッテマスの肩をつかんで裏通りを指さす。

 既に時刻は午後九時を回っており、街灯の明かりが届かない所に、所々薄っすらと影を落としていた。

 そんな陰にひっそりと潜むように、カウボーイハットにトレンチコートを着た人物が身動ぎ一つせずに立っていた。

 その気配の無さから、周りの風景に同化しているようにも感じれるが、日が落ちているとはいえ既に初夏の気温、気づいてしまうと異様な光景だ。

 

「あれね、皇女様が言っていた怪しい売人って」

「東京ではあんな格好逆に目立ますのにね。それにあれ絶対暑苦しいですわ」

 

 自分達の事を棚にあげてヘリアンテスが感心する。

 

「ちょっと、どうするの」

 

 腰を浮かせて今にも飛び出しそうな勢いのヘリアンテスの肩を掴んでハッテマスが尋ねる。

 

「どうって」

「このまま暫く様子を見るのか、根米警視正に連絡して別働隊を送ってもらうのか」

 

 自分達の任務はあくまで皇女様達の監視と護衛。

 やる気丸出しのヘリアンテスと違ってハッテマスとしてはイレギュラーは出来るだけ避けたい。

 仮にも一国の皇女様がお忍びで観光しているのだ。自分達以外にも監視が付いているはずだ。

 連絡をすればその部隊のひとつが動いてくれるにちがない。

 

「なにを言ってますの、連絡している間に逃げられますわ。ここは私達で職質しますわよ」

「あ、うん。そう言うと思った」

 

 一応別の選択肢があることを示唆したが、逆効果だったようだ。

 敵や困難から逃げない。ヘリアンテスが祖国で勇者なのはそういう前向きな姿勢によるところも大きいのだが、今ここでは勘弁して欲しいと思う。

 

「行きますわよ」

 

 掛け声と共に、ヘリアンテスの背中に炎を纏った剣が左右に四本づつ、羽のように生えて広がる。

 ビルの上から飛び降りようとするヘリアンテスに慌てて掴まると、高々とビルの谷間を飛び越えて、炎の剣を羽が代わりにトレンチコート男の背後にふわりと降り立つ。

 

「ギャラクシーポリスです。そこの人、聞きたいことがあります。ゆっくりとこちらを向いてください」

 

 ヘリアンテスが威勢よく啖呵を切る。

 同時に彼女の前に警察官であることを示す認識票が浮かび上がった。

 ハッテマスは飛び降りるために掴んだ腕を放して、邪魔にならない様に二歩ほど下がると、トレンチコート男がゆっくりと振り返る。

 

「これは、これは、お勤めご苦労様です」

 

 繁華街の裏手とは言え、この時間には人通りの少ない通り。

 隠れて佇んでいるには普通に怪しい場所だが、トレンチコートの男の場所からだと、高校の屋上の様子が辛うじて見える絶妙な場所だ。

 

「こんな所に隠れるように皇女様に何の御用ですか?」

「ちょ、リア…」

 

 一応、皇女様の件はお忍びということになっている。

 例え、相手がほぼほぼ黒でも、堂々と皇女様の事を尋ねるヘリアンテスにハッテマスが頭を痛める。

 

「偶々ですよ、自分はここで人と待ち合わせをしているだけで」

 

 だが、相手も当然とばかりにその事には一切触れずに、そのままヘリアンテスと会話を続ける。

 

「あなたが皇女様と何らかの取引を行い、皇女様を連れ去ったことは記録から見て明白です。大人しく同行し、協力するのであれば手荒なまねはしませんわ」

「………」

 

 返事がない変わりに、辺りの空気が冷淡に殺気立つ。

 

「ハッちゃん、後ろに回りこんで退路を断って」

「この狭い道路でどうやって」

「軽くジャンプで飛び越えるだけでしょ」

 

 魔法で作った剣を足場にでもして軽いジャンプで人の頭を超えられるヘリアンテスからしたら造作もない事だが。

 

「こっちは一般人だって言っているでしょ」

 

 魔力が皆無に等しいハッテマスの身体能力は地球人と変わりない。

 

「あなたの目的は、皇女様に近づいたのはなぜですか?」

 

 退路を絶てず容疑者確保が難しくなったので、事情聴取を兼ねて時間稼ぎに作戦を切り替える。

 

「これは慈善事業ですよ。地球での思い出を皇女様に提供するね。地球とシューバーリが友好関係になれば私も苦労した甲斐があるというもので」

「あからさまに胡散臭くない」

 

 ハッテマスの呟きにヘリアンテスは小さく頷く。

 

「信用して欲しいなら、その帽子をとって素顔を見せなさい」

「信用ですか、難しいですね。帽子を取ったぐらいで私が信用される空気でもなさそうですが」

「なら、これは貴方が皇女様にお売りになったモノですわね」

 

 そう言ってヘリアンテスは懐からペンダントを取り出して見せる。

 

「おや、それはなんとも出来の悪いペンダントですね。百年もすればアンティーク的な値打ちがつくかもしれないですが、今なら二千円って所でしょうか」

 

 その評価に、ハッテマスが心の中で同意する。

 

「目利きのお話をしているわけではありませんわ。このペンダントで皇女様をどうするおつもりでしたの」

「そう言われましても…、おっ」

「おっ?」

 

 今まで飄々としていたトレンチコート男が、珍しく驚いたような声を上げた。

 

「意外です。設計は完ぺきだったはず」

「設計?」

「いえ、何かそのペンダントにされましたか?」

「していませんわ。これは証拠品ですもの」

「そうですか、これが噂の不幸体質…、ですか、実に趣深い」

「いったい何を…」

「リアッ」

 

 怪訝そうに相手を観察するヘリアンテスにハッテマスが異変に気付いて叫ぶ。

 すると、目の間に突き出したペンダントが急に発光しだして…

 

「もしかして爆…」

 

 ヘリアンテスが爆弾と言いかけた時、ペンダントからキチリと嫌な音がする。

 

―ドンッ―

 

 閃光と共に当たり一帯に大きく衝撃と爆音が響き渡る。

 皇女様から預かっていたペンダントが爆発したのだ。

 音と光はすごかったが、破壊力はたいした事無く咄嗟に張ったヘリアンテスの防御魔法で近隣の建物等の被害は防ぐことが出来た。

 しかし、視覚と聴覚を数秒奪われた為、目の前から容疑者は忽然と消えていた。

 

「ゲホゲホ…、だから人呼んでさっさと渡しておきなさいって」

「こんな小さなペンダントがいきなり爆発するなんて普通思いませんわ」

「それはリアが持っていたから、爆発したんでしょう」

「ええ~ぇ、今回のはハッちゃんのほうが引き寄せていると思いますわ。私何も得したことないですし」

 

 容疑者のこれが不幸体質という言葉に踊らされてお互いに不幸の責任を押し付け合う。

 

「大丈夫かッ」

 

 二人の様子がおかしいとカバーに周ったアスワード警部と倉林巡査部長が爆発音に慌てて駆けつけてきた。

 

「損得なら、あんたのお守りとか、私は今日は損な役回りばっかりよ」

「今日の私は悪くないですわ。運勢だって最高の日なんだですから」

「あのう…」 

 

 言い合いを続ける二人に倉林巡査部長が恐る恐る声をかける。

 

「喧嘩はそれぐらいにして、とりあえず服を着てください」

 

 そう言って、アスワード警部と倉林巡査部長は都市型迷彩用のジャケットを脱いで二人の前に突き出す。

 二人共、爆撃でダークスーツはズタボロになり、白と水色の下着も今にも朽ち果てそうになっていた。

 

 

 

     六

 

*20xx/5/11-23:37

「とにかく、おつかれさまーッ」

 

 テーブルを挟んで、三つのグラスがキィンと小気味いい音を立てる。

 ハッテマスは手にしたビールグラスを一気に呑み干すと、恥ずかしげも無く、

 

「うーん、うまい。生き返る」と大声で叫びながらグラスを大きな音を立ててテーブルに戻す。

 

 満珍飯店…、安くて夜遅くまでやっているだけの中華料理屋に本日のご苦労さん会と言うことで、ハッテマスとヘリアンテス、倉林美希が上司への報告を終えて集まった。

 

「あいかわらず、良い呑みっぷりだな」

 

 美希がすかさずハッテマスのグラスにビールを注ぐ。

 

「せめてこの瞬間だけでも、楽しまなきゃ、私の休日はもうこれで最後なんだから」

「うう、だから、悪かったって言っているじゃない」

「ってか、美希の特殊任務が皇女様の護衛だと知っていれば、迷わずそっちに連絡したのに」

「ははは…、ごめん、ハッちゃん。さすがに機密事項多いからおいそれと仕事の話できなくてさ」

 

 元々、皇女様来日併せて、アスワード警部と倉林巡査部長が陰ながら護衛にあたっていたのだが、当然その内容を話せるわけもなく、友人達には特別任務でしばらく居ないとだけしか伝えていなかった。

 その為、皇女様の居場所が分かっても、ハッテマス達の前に姿を見せる事もできず、美希たちも犯人を逃がして悔しい思いをしていた。

 

「つくづく、警察官なんて面倒な仕事よね」

「ええ、そう?私はさ、厨房で働くハッちゃんの方がすごいと思うぜ」

「そんなことないわよ。あの上司の下で働くよりは」

 

 結局、許可無くハッテマスを現場に出した事や、相棒に連絡しなかった事、ペンダントを直ぐに渡さなかった事など、浮遊警視庁に戻ったヘリアンテスは根米警視正にこってりと絞られた。

 当然、ハッテマスも今回ばかりはそれを横で一緒に聞く羽目に…。

 まぁ、まぁ、もう一杯と、ハッちゃんにグラスを空けるように言う美希のスマホにメールの着信を知らせる音が鳴る。

 

「鑑識からの色報告だ。あのペンダント、大きさや、残留物から、あんな大きな爆発することはあり得ないって。せいぜい証拠隠滅に小さくショートするぐらいだろうって」

 

 美希のメールにハッテマスとヘリアンテスがお互いに顔を見る。

 

「あれは、決して不幸体質ではありませんわ。最初から皇女様に危害を加えるために仕組まれていたものですわ」

 

 調書でも、散々そう主張したヘリアンテス。決して不幸体質による事故とは認めていない。

 

「まぁ、過ぎたことだし、その話題ほじくり返さないでよ。いいじゃない。何がどうあれ皇女様が無事だったんだから」

 

 そう言って、ハッテマスは不幸体質の話はここで終了と言い切る。

 

「ああ、それに、最後に皇女様のいい笑顔が見れたのはよかったぜ」

 

 そう言って、倉林美紀が今回の任務に思いをはせる。

 

「ほんとはリアじゃなくて、美希がお迎えに行きたかったんじゃないの?」

「いや、私の仕事はあくまで監視と護衛だから」

「さすがプロ、いいこと言いうわ。ねっ、リア」

「ううぅぅ…。ハッちゃんそれは言わないお約束…」

 

 爆破騒ぎの後、いったん着替え直した二人の元に根米課長とラウルキンさんが現れ、騒ぎにならないように、空から皇女様をお迎えに行ってほしいとヘリアンテスに最後の仕事を任せた。

 

「なんにせよ、公務で毎日作り笑いの皇女様を見てきたからな。最後はヘリアンテスでよかったともうぜ」

「それはどういう意味ですの」

「単純だからじゃない」

「もう、ハッちゃん。今日は当たりが強いですわ」

「当然よ、私の貴重な休日を奪ったんだから」

「同じ休日でも、皇女様とは天と地の差だけどな」

「まったくよ。皇女様と同じなのは明日はお仕事って事ぐらい」

「次の休日までが待ち遠しいぜ」

「そうよね。さぁ、リアもそんな落ち込んでないで、のんで、のんで」

 

 ビール瓶を手に持ったまま、ハッテマスがせかすようにヘリアンテスを煽る。

 一気にコップを空にしたヘリアンテスに待ってましたとばかりにビールを注ぐ。

 

「リアも明日から仕事頑張ろうね」

「えっ、私明日公休だけど」

 

 一瞬時が凍りつく。

 

「はぁああぁぁぁッ」

 

 その後小さな店が壊れんばかりのハッテマスの怒号が飛んでいった。

 

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