ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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テレビ番組のプロデューサーの近藤はノンフィクション報道一筋のテレビマンだが、最近は技術の進歩や多様性で視聴率も取れず燻っていた。
 時を同じくして、ハッテマスに迷惑料代わりに合コンのセッティングを頼まれたヘリアンテス。合コンなどしたことのない彼女は悩みを大きくする。
 そんな中、近藤は次の報道番組につなげる為、ヘリアンテスは合コンを成立させる為、二人は合コン番組を企画する。


捜査報告書 No.23【☆2「合コン?」】- ハッテマスメイン
#1


*20xx/5/14-14:35

 浮遊警視庁のエントランスホールの右手奥に、十数席の小さなロビー施設が設けられている。

 業者や浮遊警視庁に所要のある人々が、待ち合わせ、打ち合わせに使うのが主な利用目的だが、窓際の絶景を楽しめるのと、パーテーションで区切られている為、大声を出さない限り、話し声で人に迷惑を掛けないという観点から、警視庁内部でもここを利用する人も多い。

 そんな場所の一スペースに、警察官の制服を着た女性と、背広を着た男性が向か会って打ち合わせをしていた。

 

「…以上の理由で、いい企画だとは思うのですけど、今回はご縁がなかったということで」

 

 そう言って、今時珍しい紙の束の企画書をテーブルの上に置いたのは、広報課の佐倉浩美巡査だ。

 

「そこを何とか…」

 

 くたびれた背広を着た口髭の濃ゆい五十代ぐらいの男性、近藤俊也がテーブルに頭をつけて懇願する。

 

「ごめんなさい。何か良い企画が出来たら、改めてご一緒にお仕事しましょう」

 

 懇願する近藤に社交辞令を言いつつ佐倉巡査が立ち上がって、頭を下げる。

 近藤も慌てて立ち上がると、頭を下げて。

 

「こちらこそ貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました」

 

 横目で、佐倉巡査が視界から消えるのを待って、頭を上げると、ぞんざいに椅子に座り直す。

 

「はぁああ…」

 

 冷え切ったコーヒーと書類をまとめたファイルを眺めながら、近藤はため息をついた。

 書類には【企画書 テレビ特番・浮遊警視庁二十四時、異星人の最終防衛ライン】とタイトルが打たれ、最後に企画者である近藤の名前が書かれていた。

 自分がテレビ局に入社した当時はに考えられないほど誰でも簡単に動画をとれるようになり、報道やドキュメント番組は日を追うごとに肩身の狭い思いをするようになってしまった。

 テレビ局に入社した頃は、世の不正を暴くとか、リアルな現場を映し出すとか使命に燃えていたが、今ではくすぶった煙すらも見当たらない。

 

「今じゃ企画の内容より、数字ばかりが気になって仕方がないしなぁ…」

 

 自虐地味に独り言をつぶやくと最後に少しだけ残っていたコーヒーを流し込む。

 警視庁広報でもPR動画を配信している時代、視聴率が取れないこの手の企画に風当たりが厳しくなっている。

 報道の尊厳と、企業としての利潤。テレビ局の製作と警視庁の広報の板ばさみにため息ばかりが増える。

 近藤が腕時計に目をやり、再度、企画書のタイトルを見て、再度ため息と共に書類に手を掛けたとき。

 

「ぜんぜん、ないわよ」

 

 パーテーションの背後から少し荒げた女性の声が聞こえてきた。

 

「ううう…、イチローと練りに練ったいいアイデアですのに…」

 

 驚いて、背後に意識を向けると、聞き覚えのある声が響いてくる。

 以前取材で同行させてもらった、ヘリアンテス巡査の声だ。

 もう一人は判らないが、きっと同僚の警察官の誰かだと思われる。

 一度、同行取材をしたことがあるが、あの時はなぜか小さなトラブルに巻き込まれ、結局、作品はお蔵入りになった苦い経験が一瞬よみがえる。

 

「ハッちゃんに隠れファンが多いのは事実よ。誰かさんと違って実務能力は高いから。ただ、同じ職場にいるわけだから、その気があるなら男のほうから声をかけろっての、そんなヘタレ共相手に合コンしたって何の意味もないわよッ」

 

 相手の語気が強まり、思わずヘリアンテスが身を縮める気配がパーテーション越しに伝わってくる。

 

「ううぅ、そんなに声を荒げてまで言わなくても…」

「このさい事情が事情だから、合コンなのは譲るとして、なにが楽しくて、毎日顔を突き合わせている職場のヘタレと合コンしなきゃならないのよ」

「ええと、それは合コンに勝つ為ですわ…」

「勝ち負けを決めるのはリアじゃない。ハッちゃんでしょ。なら、今回はサポートに徹するべきよ」

 

 理由は分からないが、どうやらヘリアンテス巡査が合コンを企画したがっているようだ。

 美人で強く、真面目で誰からも愛されているイメージの彼女が合コンを企画するのは不思議な感じがする。

 同時に勝つための合コンという発想はヘリアンテス巡査らしく、それはそれで面白いのではと思う。

 

「いや、でも、やるからには…」

「なに、あんたも男作ってリア充したいわけ」

「ごめんなさい。私が悪かったからその言葉は使わないでください」

「分かればよろしい。とは言ったものの、私も合コンとかはしたことないし、どうしたものか…」

「………」

 

 背後の会話が途切れた。

 同時に男性の心の中のアクマが囁きかける。

 前回はなぜか謎の不幸が重なって、ヘリアンテス巡査と上手く信頼関係が築けなかったが、彼女の臨む企画を提示すれば、信頼関係が築けて、それを足掛かりにドキュメント番組の企画も通しやすくなるはず。

 何より、彼女をメインにした合コン番組なら、きっと数字が稼げるはずだと…。

 

「あのう…」

 

 思い切って立ち上がり、ヘリアンテス達のテーブルの前に立つ。

 

「すいません、盗み聞きするつもりはなかったのですが、つい耳に入って来てしまいまして、ああ、私こういう者です」

 

 そう言って男性は慣れた手つきで二人に名刺を差し出す。

 ― GTV プロデューサー 近藤俊也 ―

 と名刺には書かれている。

 二人は警戒した目つきで、仕方なく受け取った名刺と男性を交互に見る。

 何度か仕事で顔を合わせていたはずなのに、ヘリアンテス巡査は覚えていないのか、小さく首をかしげた。

 警戒を解こうと、ありったけの営業スマイルをしながら、近藤は二人の女性を改めて確認する。

 肩口で揃えられた燃えるような真紅の髪、誰もが魅了される赤い瞳と日本人離れした顔立ちの美女、見間違えることなどありえない。

 ヘリアンテス・ルクサ・イグニース。

 浮遊警視庁の数少ない異星人警察官、ヘリアンテス巡査だ。

 もう一人の紅い眼鏡の女性は面識はないが、ヘリアンテス巡査の事を愛称のリアと呼ぶぐらい仲が良いと聞いた事のある、生活安全課の山本千尋巡査だろう。

 初対面補正があるにしても、近藤の事を相当警戒している様子だ。

 

「現在自分は、異星人犯罪のドキュメンタリーの企画を進行してまして、その説明と許可を貰いに本日は警視庁にお伺いしたのですが、お二人の会話が偶然にも耳に入ってしまったものですから」

 

 そこで男性は言葉を区切り、一旦二人を交互に見てにこりと微笑む。

 少しでも警戒心を解こうと、近藤も必死だ。

 

「その自分の局の番組になるので手前味噌で申し訳ないのですが、男女の出会いの場を作る番組、まぁ、合コン番組をやっていまして、もし、よろしければ、お手伝いさせていただけないかと」

「………」

 

 あからさまに不審者を見る目つきで近藤を睨む二人に心の中で動揺しつつも、興味を引く言葉はないかと必死に搾り出す。

 

「私どもの番組であれば、勝てる合コンをご提供できると思います」

「えっ、それはホントですの」

 

 勝てる合コンという単語に、ヘリアンテスの真紅の瞳が輝きを増す。

 勝てる合コンなど、勢いだけの出任せだが、相手の興味さえ引いてこちらのペースにすれば押し切れるはず、そう確信した近藤は少し身を乗り出し。

 

「ええ、絶対とか、確実に勝てるとは言いませんが。その辺の婚活ビジネスなんかより、確実に勝てる方法をご提供いたします」

 

 キッパリと言い切る。

 

「やらせ…(モゴモゴ)」

「すいません、こんなオープンな所で話をしていた私達も悪いのですけど、これはすごくプライベートなことですので、お気持ちはありがたいのですが、お断りさせていただきます」

 

 瞳が輝きを増したヘリアンテス巡査の口を強引に塞いで、山本巡査が早速話を打ち切る。

 

「警察官として、合コンみたいなチャライ企画に警戒するのは当然だと思います。ただ、ヘリアンテスさんは合コンに勝ちたいですよね」

 

 食い下がる近藤に、口元を押さえられながらヘリアンテス巡査が大きく頷く。

 

「ですよね。でしたら、さっそく企画書を出しますので、一度、一度でいいので、チャンスをくれませんかね?」

「すいません、本当にプライベートなことなので、私達はこれで」

 

 そう言って山本巡査が頭を下げると、興味ありそうな顔をしているヘリアンテス巡査を無理やり引きずってエレベーターホールのほうに移動していった。

 近藤は暫く二人の影を目で追っていたが、視界から消えるのを待って、急ぎ足で受付に行くと。

 

「すいません、GTVの近藤ですが、広報課の佐倉巡査ともう一度、連絡を取りたいのですが」

 

 少しでも企画を通せる情報があればと、先ほど企画書を突き返され、分かれたばかりの佐倉巡査を再度尋ねる事にした。

 

 

 

「ねぇ、ちぃちゃん。いたいからそろそろ離していただけませんか」

「気軽に知らない人についていかない。そんなんじゃ、子供達の手本にはなれないわよ」

「大丈夫ですわ、悪意も敵意もありませんでしたし」

 

 山本巡査は心の中で、無駄にスペック高いヤツは困るわと愚痴りながら、

 

「仮に、あなたが合コン番組出てみなさい。ヘリアンテスのお姉ちゃん、合コン番組みたいな変な番組に出ているんだって、子供達の人気は駄々下がりよ」

「そ、それは困まりますわ」

「でしょ」

「でも、勝てる合コンを知っているっておっしゃってましたし」

「合コンの成功と、子供達の人気どっちが大事なの」

「もちろん両方ですわ」

 

 ヘリアンテスは悪びれるそぶりもなく、言い切ると思い出したように。

 

「ああ。そうですわ。ハッちゃんの合コンですし、ハッちゃんだけ出ればよろしいのでは」

「そんなこと出来るわけないでしょ。いろいろな意味で」

「それでは、何時も合コンしている佐倉さん達にでも…」

「と・に・か・く。あの調子じゃ、絶対ごり押しで企画書持ってくるから。絶対に断ること。子供達の為にも」

 

 山本巡査はこれ以上の議論はなしとばかりに言葉をさえぎるように言い渡す。

 

「えっ、うん、その…」

「い・い・わ・ね」

「はいッ」

 

 山本巡査は強引にヘリアンテスに約束させたが、不安は一切ぬぐえなかった。

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