ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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#2『いせいじんさんはいっぱい見るけど、こんなキレイな人初めてみた!』

「まぁ、これでいいでしょう」

 

 目立ちまくる鎧を脱がせ、余っていた大人用の法被を借りて着てもらった。

 その際、裸のヘリアンテスの躰にさらしを巻くのを手伝ったのは智里だが、胸の大きい人のさらしの巻き方がわからず、憧れるのと同時に若干イラっとしてしまった。

 

「これがこの国の神事に使う装束ですのね」

 

 何となくウキウキしているように見える。

 

「おお。異星人といっても、別嬪さんは何を着させても似合うねぇ」

 

 若干腰が曲がった年配の女性が社務所のパイプ椅子に腰掛けた。法被を快く貸してくれた常磐なずなだ。この神社の氏子の一人らしい。

 

「このような立派なものを貸して頂いて、心より感謝申し上げますわ」

 

 ヘリアンテスが深々と頭を下げた。

 言葉遣いが若干妙なのと、行動が突飛ではあるが、立ち居振る舞いは品の良さを感じる。

 従軍期間が長いようだが、元いた惑星インフェリシタスのイグニース王国では有名な貴族の御令嬢らしいので、やはり育ちが良いのだろう。

 

「ところで、御神輿も担ぎ手の皆さんも準備万端みたいですけど、巡航は始まらないんですか?」

「予定時間にはなっているんだがね、巡航前にお供えする御神酒が来ていないのさ。まぁボチボチだと思うけどね」

 

 ヘリアンテスが袖をクイクイしてきた。

 

「オミキって何ですの?」

「神様にお供えする日本酒のことです。祭事において神様と同じものを頂くことで、御利益があるものとされています」

 

 それを聞いたヘリアンテスが満面の笑みを浮かべた。

 

「素晴らしいですわ。この国のお米のお酒はとても美味しいですし、とても楽しみですわ」

「……勤務中ですよね?」

「わーぁ…お姉さん、凄く綺麗ね」

 

 そんなヘリアンテスに興味を持ったのか、小学校中学年くらいの女の子と低学年くらいの男の子が話しかけてきた。おそらく姉弟だろう。

 その途端、ヘリアンテスの真紅の瞳がハートマークになった。

 

「まぁまぁまぁ! わたくしのこと!?」

 

 女の子に目線を合わせるようにしゃがみ、肩をガッチリと掴んだ。

 会って数十分だが、一番テンションが高い瞬間だ。

 

「……う…うん。がいこくの人?」

「ええ! もうちょっと本当のことを言うと、この星じゃない別の星から来たの!」

 

 はぁ、はぁ……と、鼻息荒く答える。未だに幼女の肩を掴んで離さない腕がぷるぷる震えている。

 何故だろう……

 抱きしめたい衝動を必死に堪えているように見えた。

 

「へー、いせいじんさんはいっぱい見るけど、こんなキレイな人初めてみた!」

「わたくしも、あなたのような天使を初めて見ましたわぁ!」

 

 天使いうた……

 

「……子供好きで…いらっしゃるのですね?」

「ええッ!! それは勿論!!」

 

 もの凄く力強い肯定だ。

 

「お姉さんのおほし様はなんていうの?」

「インフェリシタスよ!」

「どこにあるの?」

 

 ヘリアンテスは空を見上げた。

 

「ええと……恒星は地球からも見られる筈なのですけれど…パムテルはどちらの方角かしら?」

「何です? それ」

「インフェリシタスの母天体ですわ。たしか、地球ではアルナスルっていう名前だったと思います」

「え? ええぇと……たしか、インフェリシタスはいて腕でしたよね。だから……」

「アルナスルは、射手座の矢尻部分の恒星だろう?」なずな婦人が言った。「射手座は日本では夏の星座だよ。今は見られんさ」

 

 ヘリアンテスはしょぼーんとなった。

 

「ねぇちゃん……もう行こう? このお姉さん、なんだか怖いよ……」

「ええー? なんだか金ピカのよろいとか着てたし、正義の味方っぽいかんじだよ?」

「そんなかっこをしているところが、ものすごく不安なんだよ……ママに頼まれたサーターアンダギー買ってこうよ」

 

 姉の腕を取って、無理矢理引き剥がす。

 

「そうね。じゃあ、お姉さん。またね!」

「ああぁぁぁ……」

 

 天使が去った後のヘリアンテスは、秋を迎えた枯れた向日葵のように、ガックリと項垂れた。

 

「巡査。警備任務なんですよね? 仕事しなくていいんですか?」

「……それもそうですわね……」

「で…では、イグニース巡査。お仕事の邪魔にならないよう、インタビューをさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「構いませんわ。えーと……ヨ…コ…ヤ…マ…チ…サ…トさん…と呼べばよろしいのかしら?」

 

 智里が渡した名刺を眉を潜めながら見つめている。どうやら漢字はまだ苦手らしい。

 

「はい。横山が苗字で、智里が名前です。ご自由にお呼び下さい」

「では、チサトさんと呼ばせて頂きますわ。わたくしもリアで結構です」

「リア?」

「愛称ですわ。ヘリアンテスというのも長くて呼びにくいでしょうし、『イグニース』は祖国。『ルクサ』はわたくしが祝福を受けた神殿の名称ですのでね。日本の方々のようにミョウジというもので呼び合うのに少々違和感がありますの」

「家系を表す名は無いんですね」

「イグニースに生を受けた者は、イグニースの子ですわ。我が国民はすべからく同胞を愛し、産まれ出でた子の誕生を祝い、その成長に責任を持つべし。というのが長く続く国の方針ですの」

 

 地球で言うところの全体主義に近い。

 惑星インフェリシタスは魔物との生存戦争がずっと続いているようなので、それが原因なのだろう。

 もはやペースをこっちが握るのは無理に思えた。

 しかし、割と簡単に色々話してくれそうだ。自由に喋らせた方がいいかもしれない。

 ふと気づくと、汗で手帳のページがふやけはじめていた。秋にしては、今日の気温は異常に高い。

 

「今日は結構暑いですね。天気予報だとそこまででもなかったような…」

 

 というより、急に暑くなり始めた気がする。

 

「そうさねぇ。確かに妙な日だよ」

「ふむふむ…」ヘリアンテスが何かを確かめるように法被をつまんであちこちを見始めた。

「わたくしの影響ですわね」

「え?」

「わたくしがこの神社の装束を着たことで、ここで奉られている神の力がわたくしの魔力に反応して活性化しているようですわ。お祭りも関係していると思います」

「ははぁ、そりゃあ有り難いね。来年は豊作かもしらんわねぇ」

「何かの収穫ですか?」

「まぁ、そうだねぇ」

 

 秋祭りは、その年の収穫への感謝と翌年の豊作を祈願することが多い。ここもそのようだ。

 ヘリアンテスが、常磐氏をじっと見つめた。

 

「リアさん。どうかしましたか?」

「ご婦人。貴女様はとても位の高いお方ではありませんか?」

「そこら辺のババァさね」

「ご謙遜を。この場所の魔力に似た力の加護を感じます。この地の重要人物。非常に徳の高いお方とお見受けしますわ」

「ウチの次男が眼科を営んどるけど、紹介しようかい? 精神科医なら、孫の嫁がたしかそうだよ」

 

 なずな婦人の返しにフフっと笑った。

 こういう所はいいんだけどなぁ……

 そんな風に考えていると、ヘリアンテスの顔から一瞬で表情が消え、鋭い眼光が鳥居の方へと向けられた。

 

「*******ーーッ」

 

 けたたましい足音を響かせ、十人程の巨大な人影が、参道を土煙をあげながら突っ込んできた。

 身長は二メートルほど。プロレスラーのような筋骨隆々な体躯に虎の頭がくっついていた。

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