ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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#3『どこかで感じたとすれば、それはあんたの家のキッチンさね』

「リアさん。なんだか、本当にコスプレした人がいらっしゃいましたね」

「いえ、あれはこすぷれじゃあありませんわ」

「え?」

「惑星フェリーネの一団ですわね。まだ日本とは国交を結んでいないはずなのですが…」

 

 あの頭はマスクなどではなく、本物のようだ。

 フェリーネ人達は他には目もくれず、本殿に供えられた一房の花を乱暴に分捕って吟味し始める。

 

「*****! *……****……」

「++! +++! +++++++++++++++++ッ」

 

「あのぉ……」すぐ横にいた宮司さん(多分)が話しかけた。

「どちら様でしょう?」

 

 ふんっと鼻を鳴らした虎人間は、手に持った花を高々と掲げて何かを叫び始めた。

 部下と思しき側のもう一人が、最近普及し始めたギャラフォンを起動して音声通訳の補助をしている。

 

「聞いて下さい! 地球人よ! 我々はこの星の人間じゃねぇ!」

 

「それはわかってるよ!!」

「目的を言えよ!」

 

 野次馬が騒ぎ始めた。

 

「うるせぇ! 私たち一同は、この植物が欲しい。とても大量に欲しい。だから、貴方たちが保有のここにあるこの植物の種子を全部俺たちに寄越せ!」

 

 どうやら、アプリのバージョンが古くて無茶苦茶な翻訳をしてしまっているようだ。

 日本語に関する文献を無作為に選んでディープラーニングさせたどうしようもないやつだ。

 

「どうして、それが必要なのですか? 何かご事情がおありのようですが」

 

 この時点で110番だが、人が良いのだろう。宮司は再度話しかけた。

 虎人間の眼がちょっとウルっとした。

 

「よくぞ尋ねてくれました! この植物は、数千年前に生きていた私たちのご先祖が、このオリオン腕のどこかを冒険中に偶然見つけて持ち帰ったものたい! それからずっと、この植物は私たちの大事な産業だったんや。ばってん、十年前に俺たちの星に、メテオが落ちてきた。メテオは北の方の永久凍土にブチ当たって、氷と一緒に睡眠していたタチの悪いウィルスも一緒におはようしてパンデミックした。ウィルスの駆除はミッションコンプリートしたが、その時には、この植物は絶滅してしまっていた!」

 

 虎人間は、感極まったのかつーーと涙を流し始めた。

 オリオン腕というのは、銀河の中心から伸びるスパイラル・アームの一つで、この太陽系が存在するだが腕だ。虎人間達の言い方からすると、彼らは遙々別の腕から来たのかもしれない。

 

「では、正式に輸入するとか…」

「この国の外務省のお役人様は、頭がダイヤモンドでできている。パンデミックの事件のおかげで、国交を結びたくないって言っちょるんやで!」

「しかし、だからといって持って行って良いとは言えん」

 

 いつの間にかなずな婦人がフェリーネ人達の前に立っていた。

 

「おばぁちゃん。貴様らにとっても大事なんだろうが、ワイらにとっても神聖で無くてはならないものなんぜよ。せやから――」

「いや、銀河連邦の法律に、星間帰化生物発生に関する取締り事項がある。我々が許可すれば、関与が疑われて罰せられる可能性がある。一粒たりとも持って行ってはならんよ」

 

 場が凍り付く。

 

 ヘリアンテスに耳打ちした。「本当ですか?」

 

「ええ。生態系を破壊することは厳しく咎められるので、悪質と認められると大変なことになりますわ」

「なるほど……けど、さっきの射手座の件といい、なずなさんって何でそんなこと知ってるんですかね?」

 

 ヘリアンテスの言うとおり、もしかしたら本当に凄い人なのかもしれない。

 その腰が曲がった小さな老人が放つ、謎の威圧感に、虎人間の眼が泳ぎ始めた。

 

「……ええぇと……せやかて……それでも………」

 

「頭ぁ!」

「負けちゃダメだぁ!」

「遙々こんな青い地球くんだりまで来て、おばぁちゃんに叱られて帰るなんて嫌なんだぜ!」

 

「――ええぇい!」

 

 虎人間のお尻から生えている尻尾が伸び、屋台の前にいた女の子と男の子の躰に巻き付いた。

 

「――はっ」

 

 ヘリアンテスが眼を見開いた。

 智里も気がついた。先ほどヘリアンテスと話していた姉弟だ。

 尻尾は女の子を軽々と持ち上げて引き寄せ、虎人間はその子を人質に取った。

 

「もう頼まねぇ! この娘のママよ! 種子を持ってこいッ。若しくは俺たちを置いてあるところに案内せい! そうなさらなかった場合、代替手段としてこのジャリンコを拐かしてご覧に入れ候!」

「お待ちなさい!」

 

 凜とした通る声。カッカッカッと規則正しい足音を響かせ、ヘリアンテス・ルクサ・イグニースが虎人間へと歩を進める。

 

「このわたくしの前で、そのような狼藉は許しませんっ」

「お姉ちゃん!」

「誰だ? あなた様は?」

「警視庁公安部外事特課所属。ヘリアンテス・ルクサ・イグニースですわ。貴方達へは、惑星インフェリスタス イグニース王国の元戦士と名乗った方がわかりやすいかしら?」

 

 虎人間達が眼をギョッと見開いた。

 

「頭!?」

「インフェリスタスのヘリアンテスって……」

「うん。あの星のおっかない魔物軍王を何人も成敗されたレジェンドソルジャーの名前やん! せやけど……」虎人間の頭はびしぃ! と肉球から人差し指部分を突きつけて叫んだ。「そんな凄い戦士がこんな辺境の星にご就職されているわけがない! 俺たちをビビらせるご冗談だ! あなた達! やっておしまい!」

 

「「「うおぉぉぉーーーッ」」」

 

 子分達が棍棒やナイフを片手に一斉に襲いかかった。

 

「リアさん!」

 

 いくらなんでも丸腰であの人数に一斉に襲われたらッ

 助け出そうと駆けだした時、一瞬周囲が眩い光に覆われた。

 甲高い幾つもの金属音と共に見えてきたのは、空中に浮かぶ無数の剣に守られたヘリアンテスの姿だった。

 

「ハァッ!」

 

 空中の剣がヘリアンテスの気合の声と共に奔り、虎人間の子分達をはじき返した。

 どうやら、あの剣はヘリアンテスの意志で自由に操ることができるらしい。

 

「あれは……」

 

 虎人間の頭は、人質の子供達を子分に任せ、ナイフを突き出して警戒を強めた。

 

「頭…間違いねぇ。やつは本物です」

「ああ……こんな所でとんでもねぇお方に面会しちまった……」

 

 完全に優勢に立ったヘリアンテスは、胸を張って声高らかに叫んだ。

 

「わたくしの前で子供に危害を加えることは許しません。悪しき魂を持つ者よ、我が国で受け継がれし魔法、炎の剣で塵にしてあげましょう!」

 

 決まった! と言うように、得意げな表情で手を前に突きつけた。

 

「いいぞーッ。ねぇちゃん!」

「格好いいでござるーーーッ」

「でもやりすぎるなよー!」

 

 その時、駐車場の方から緑色の作業着を着た男性が入ってきた。後ろに大きな樽を乗せた軽トラが見える。

 

「なずなさーん。御神酒お待たせしましたー……って、何か取り込み中?」

「……間が悪い時に来ちゃいましたね」

「まぁ、終わるまで待っててもらうさ」

 

 御神酒を運んできた酒屋さんを余所に、

 ヘリアンテスが操る剣がその数を増していく。

 すると、高い気温が更に高まっていった。

 

「何か、どんどん暑くなっていきますね…」

「あのリアって子の影響かねぇ」

 

 なずな婦人も扇子で顔を仰いでいた。

 この暑さは真夏以上だ。ただ事ではない。

 

「なんか、ただ気温が高いだけじゃないですね。結構覚えがある熱さの気がします」

「あんた、家で料理はするかい?」

「はい? まぁ、しますけど」

「どこかで感じたとすれば、それはあんたの家のキッチンさね」

 

 気温は高いが、背筋が急激に寒くなった。

 ヘリアンテスは言った。自分の魔力によってこの神社に奉られた神の力が活性化していると。

 周囲を見渡した。連なる屋台は揚げ物ばかり。そして、虎人間の頭が握って離さない茶色の植物に付いている黒い種の周りで怪しい靄がユラユラと揺れている。

 法被を着ただけで活性化した神の力。今戦闘モードで高まったヘリアンテスの魔力の影響は……

 

「常磐さん。一応聞きますけど、この神社で奉られている神様っていうのは……というか、彼らが欲しがっている種っていうのはもしかして……」

「ああ、あんたの想像通り、『菜種』さね」

 

「++++++ーーー」

 

 悲痛な叫び声をあげながら一人の虎人間が天から落下してきた。さっきヘリアンテスが弾き飛ばした虎人間の子分の一人だ。

 

「えらく長い滞空時間でしたね…」

 

 その子分は、御神酒の樽を積んだ軽トラの荷台に落下した。

 衝撃で落ちた巨大な樽がゴロゴロと転がってくる。

 樽の向かう先では、ヘリアンテスが周囲の剣に炎を纏わせ、「喰らいなさい」と命じて一気に虎人間へと飛ばした。

 虎人間周辺の靄が急速に巨大化し、ヘリアンテスの魔法に引火したのか、巨大な炎を発した。「――何事ばいッ」

 その炎めがけて、転がってきた樽が石につまづいてジャンプ。吸い込まれるように飛び込んでいく。

 

「――リアさんッ!」

 

 炎・油・酒。導き出される答えは――

 目の前で一瞬の閃光がはしる。

 以前ネットで見た、温度の上げすぎで燃える天ぷら油に水をぶっかける実験動画を思い出した。

 水蒸気爆発だ。

 一瞬の内に発生した爆炎と衝撃波は、何故か横方向に、それもよりによってヘリアンテスめがけて噴出し、彼女を神社の大木へと叩きつけた。

 

「――げふぅッ……ですわ……」

 

 麗しの女戦士は、そのままどしゃッと前のめりに倒れ、ぴくりとも動かなくなった。

 辺りに静寂が立ちこめる。

 虎人間達も、神社の神主さんも、法被を着た子供達も、もちろん智里も暫く微動だにできないでいた。

 何が起きたのかは理解できる。しかし、起きた事象のあまりのミラクルさ加減に思考停止を余儀なくされ、これから何をすればいいのかわからないのだ。

 虎人間の頭と人質の子供達が、眼を点にしてこっちを見てきた。

 

 眼が合っちゃった……

 

 こんな時、どんな顔すればいいの? と訊かれているようだった。

 

 笑えば良いと思うわ。と心の中で答えた。

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