最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第九十二話霞桜流カジノ強盗

1ヶ月後 セカンド・エノ セントラルタワー 執務室

「いやー。世界最強のテロリストやってて良かったわ」

 

「なんと言いますか、流石本職だっただけはありますよね.......」

 

この1ヶ月、このワールドディザスターは着々とURへの宣戦布告の準備を進めていた。例の兵器群は全て量産体制に入っており、フルオートメーション化された工廠では続々とロールアウトしている。

それに並行する形で、宣戦布告代わりとなる強盗の準備も進めていた。URは幾ら下手な国家以上の力があると言っても、あくまで国家ではなく麻薬組織が母体の武装集団。こちらと同じテロリストだ。外務省や外交官といった存在は、当然存在する訳がない。ならば宣戦布告の方法とはこちらが向こうの嫌がる事、今回で言えばURが管理するカジノや拠点に攻め込んで金や施設を奪う事である。

 

「しかも本職は本職でも、こっちは専門家揃いの特殊部隊。映画の凄腕強盗団よりも何もかも上だ」

 

「ホント、前代未聞ですよ?世界同時襲撃なんて」

 

「いいじゃねーか。犯罪史に名を刻もう」

 

「刻まれるんですかねぇ?」

 

この強盗作戦、映画の様に1箇所を襲ったり、転々と襲っていく訳でもない。各国にチームを送り、同時に襲撃するのだ。かなり無茶苦茶である。

だがそれは、普通の強盗団ならの話。こちらにいるのは世界有数の天才共だ。同時襲撃程度、サクッとやってみせる。

 

「それじゃ決起集会と行こうか」

 

長嶺とグリムは同じセントラルタワー内にある、全員を収容できる大講堂に向かう。部屋には既に全員が揃っており、まるで大規模作戦の説明かの様に緊張している様だ。

 

『よぉ!野郎共。.......なーに、そんな硬くなるな。リラックスしようぜリラックス。

まあいいか。という訳で、我々がテロリストとなって初となる仕事の時間だ。今回の目標、といっても複数なんだがな。この赤いピンが打たれている場所で、カジノ強盗を行ってもらう!!』

 

当然だが、全員がザワ付いた。これまで幾ら非正規特殊部隊とはいえ軍隊という公的機関に属していた霞桜と、普通に表社会の軍隊で精鋭と言われて来たフリーダムフリート。どちらも強盗とは正反対の立ち位置にいただけに、やはり驚きはするらしい。

 

『目標はロンドン、ベルリン、パリ、ベネチア、シドニー、上海、ホノルル、ロサンゼルス、ニューヨークにあるカジノ群。それからミャンマー、インドネシア、タイ、アフガニスタン、ウズベキスタン、メキシコに点在している麻薬栽培拠点の内ピックアップした中規模の拠点だ。これを3日後の世界標準時0000を持って同時に襲い、カジノ組は金庫の中身全てを盗め。麻薬組は燃やすなり爆破するなりして破壊しろ。

俺が指揮する大隊長クラスで編成したチームは、アフリカ大陸の近くにあるペリコール島に潜入。ここを占領し、根こそぎ奪う。フリーダムフリート、及び航空隊については各強盗の援護に回ってもらう。洋上に展開し、緊急時は援護を行え。とは言え、これは最後の手段にしろよ?』

 

100歩譲って、航空隊の援護は派手だが問題ないだろう。だがKAN-SENというより、艦娘の場合は犯人が日本から離反し反乱を起こした江ノ島艦隊ですと声高に宣言する様なものだ。

恐らく今後、自らを明かす時もくるだろう。だが今はまだ、その時ではない。

 

『詳細に関しては、後から個別にスマホへ送信する。それを各自参照して貰いたい。

さっきも言った通り、これは反乱しワールドディザスターを名乗って初めての作戦だ。だが、命じる事は変わらない。野郎共!!楽しもうぜ!!!!!!』

 

同じテロリストという土俵でも、その等級は天と地ほどの差がある。かたや寄せ集めの烏合の衆か或いは正規軍程度。かたや世界最強の非公式特殊部隊にして各方面の天才集団。この程度の任務、一方的にどうにでもできる。

それを知っているからこそ、霞桜の人間は拳を掲げて雄叫びをあげる。お陰で艦娘とKAN-SENの声は、普通に掻き消されてしまい全然聞こえない。

 

『お前らなぁ、耳が死ぬわ。コイツらの声聞こえねーもん。まあ、俺達らしいか』

 

部屋からゾロゾロと出ていき、長嶺も自室へと戻り準備を始める。といっても、長嶺の受け持つペリコール島への潜入はかなり簡単だ。既にこの1ヶ月間で、島内外の偵察や侵入ルートの策定も終わらせている。

 

「提督、失礼します」

 

「おー大和。珍しいな、どうした?」

 

「いえ、その。少し、反抗的かもしれませんが宜しいでしょうか?」

 

「勿論だ。何か不平不満、そこまで行かずとも疑問があるなら今のうちに解決した方がいい」

 

部屋に入って来た時の大和は正直、何処か顔が強張っていた。流石にどんなに仲が良くとも、こういう大掛かりな事に対して真っ向から否定したりするのは、どんなに仲が良くとも緊張してしまうものだ。特に大和の様な真面目なタイプだと尚の事である。

 

「ありがとうございます。では、単刀直入に聞きます。本当にこの強盗は、必要な事なのでしょうか?」

 

「.......まあ、ぶっちゃけ強盗に拘る必要はないな。だが、メリットもある」

 

「お金、でしょうか?」

 

「そうだ。そもそもが汚い金だし、やっぱ盗られたら向こうにも分かりやすくダメージが入るだろ?」

 

今回強盗を選んだのはダメージを入れやすく、こちらのプラスになり、向こうに宣戦布告の意を分かりやすく伝えられる点にある。

とは言え、強盗ではなく別のやり方で出来なくもない。幹部の暗殺、拠点の爆撃&爆破、サイバー攻撃etc。どの手段でも余裕で実行可能だ。

 

「しかし、強盗だと一般の方にも被害が出るのでは?」

 

「まあな。だが、今回の目標は裏カジノと麻薬栽培施設だ。大半はクズ。死んだってどうって事ないなんて言うつもりはないが、正直有象無象が死んだって何の問題もない。

それに実動は俺達、人間辞めてる狂人軍団のお仕事だ。お前達が気に病む必要はない」

 

「.......違いますよ、雷蔵さん」

 

「ん?え、雷蔵さん?」

 

知っての通り、これまで大和は長嶺の事を「提督」と呼んでいた。なのに何の脈略もなく、いきなりの「雷蔵さん」呼びは不快感は無いが普通にびっくりする。

 

「私含めこのリストに名前が載っている者は、みんな覚悟はできています。なのでその様な、特別な配慮はいりません。なのでどうか、必要があれば私達に命令してください」

 

大和が渡して来たタブレットには、艦娘とKAN-SENの名前が陣営と艦種ごとにズラリと列挙されていた。勿論一部の、特に駆逐艦の様な子供の様な精神を持った者達は名前が載っていないが、主力艦級に関してはザッと見た感じ殆ど、或いは全員の名前が載っている。

 

「.......お前達の覚悟は受け取った。だが、生憎と今回の作戦ではフリーダムフリートの出番が無い方が良いんだ。流石にまだ正体をバラすのは、余りに早過ぎるだろうよ。

だが確実に、このURとの戦闘で間違いなく人を殺してもらう事になるはずだ。その時はお前達の覚悟、存分に示して貰うぞ」

 

「はい!」

 

「所でさ、さっきのいきなりの雷蔵さん呼びは何だったんだ?」

 

「はぇ?.......ッ//////」

 

どうやら特に何も意識する事なく、ふと口をついて出てしまったらしい。その証拠に顔を真っ赤にして俯き、何ならそのまま頭から湯気を出しそうなくらいに照れている。というかお手本通りすぎて、ちょっと一周回って面白い。

 

「.......ダメでしたか/////?」

 

「いや、別に不快には思ってねーよ。単純にびっくりしただけだ。それに、お前と武蔵は俺の初めての艦娘だ。寧ろ普通なんじゃないか?

というかそもそも軍を離れた今、提督はちょっと似合わんだろ。勿論、みんなが呼びやすい呼び方をすれば良いんだがな」

 

「ならこれからは雷蔵さんってよびますね!」

 

「お前がそれが良いと言うんなら、それでいいぞ」

 

それを聞くと大和は、ものすごい上機嫌で部屋を出ていった。ホント、そのままスキップでもするんじゃないかと思う位にルンルンである。

大和を見送ると、今度こそ強盗の準備とルートの確認なんかを行い、ついでに他のチームへアドバイスをしたりして過ごし、いよいよ強盗作戦当日となった。

 

 

 

世界標準時00:00 イギリス ロンドン 

「時間だな。作戦を開始するとしよう」

 

世界各地に散らばった隊員達の腕時計が、一斉に鳴った。これが合図である。合図と同時に、ロンドンではトレーラートラックが動き出した。新たに開発された総本部車『フォートコマンダー』である。この車両は霞桜各大隊の移動本部車両として開発された、フルトレーラー式の大型武装トラックだ。

 

「早速準備だ。コントロール!信号ジャックと行こうぜ」

 

『よしきた、任せてくれ』

 

フォート「コマンダー」とある様に、このトラックにはハッキングに使えるスーパーコンピューターが搭載されている。交通システムを書き換えて交通を自由自在に操る事も、逃走しながら監視カメラの映像に細工することも、自動運転の車両を乗っ取る事も、ネットや通信ができる機器が繋がっていれば大抵の事はできてしまう。

 

「さぁ、ショータイムだ。ロンドン交通局メインネットワーク、最上位管理者として侵入。都市交通管理システムにアクセス開始。現在の全ての管理者の権限を剥奪し、最上位管理者に都市交通管理システムの全コントロール権限を付与」

 

画面が切り替わり、ロンドン中の交通状況、信号機の示す色、地下鉄やバス等の公共交通機関の運行状況といった様々な情報が表示される。とは言え現状、既に終電が動いた後であり公共交通機関の大半は車庫や駅に止まっており、本来であれば明日、というか今日の朝まで動かない。

だがバスにしろ電車にしろ、自動運転システムが搭載されている。これをセカンド・エノのスーパーコンピューター経由し、衛生回線を繋げば遠隔操作で操れば好きな様に動かすことができる。同様に一般車両でも自動運転システムが組み込まれている最新の車であれば、運転者のコントロールを遮断して操れる。例えば歩道に乗り上げさせて人を轢き殺したり、川にハリウッド映画並みのダイブをキメさせたりもできるのだ。

 

「システムを掌握した。どうする?」

 

『このまま目標までの道を全てクリアにしてくれ!そのまま加速する!!』

 

「了解だ。都市交通管理システム、信号機へアクセス開始。ルート上と周囲の信号機を全てマニュアルコントロールに変更。ルート上を青に固定する」

 

裏カジノのあるホテルまでのルートを全て青信号に切り替え、周囲の信号を赤にセットした事で画面上でも、その通りに表示された。信号機には「Lock」の文字が付いており、これを解除しなくては12時間はこのままだ。

 

「そうだ、ついでにトラップも仕掛けておこう。ダブルスタンダードシステム、インストール」

 

このダブルスタンダードシステムとは、かなり面倒臭い代物だ。大体のシステムは何かをする時に、YESかNOかを問われる。例えば今回の信号機のロックを解除するとしよう。解除を選択したら画面には「ロックを解除しますか? YES NO」という具合に、実効するしないを選択させる画面に切り替わる筈だ。普通ならYESを押せば当然ロックが解除されるし、NOを押せばロックは継続される。

だがダブルスタンダードシステムを使うと、YESとNOを書き換える事ができる。今回ならYESを押してもNOと同じ状態になるし、NOを押しても普通にNOとして処理されるのだ。今回の様な場面で使えば単なる性格の悪い時間稼ぎシステムであるが、使い様によっては最強のシステムにもなる。もし自爆ボタンに適用されれば、NOを選んだがドカーンなんて展開にもできる。危険どころの騒ぎではないだろう。

 

「目標を捉えた!このまま突っ込むぞ。何かに掴まれ!!!!」

 

ドライバーはアクセルを踏み込み、ギアを1番上にまで上げると、深夜のメインストリートを爆走する。その状態でハンドル下のスイッチを入れると、トレーラーヘッドのフロント部分が変形し、突撃用の衝角が展開される。

 

「突撃じゃぁ!!!!!!」

 

エンジンは更に唸りをあげ、フォートコマンダーはそのまま進行方向にあったホテルへと突っ込んだ。このホテルこそが目標の裏カジノであるのだが、普段は普通にホテルとして一般の客を迎えている。

だが深夜というのもあり一般の客は1人も居らず、従業員もいきなり突っ込んできたトレーラートラックに驚いていて動かない。

 

「追い払うぞ。攻撃開始!なるべく当てるなよ!!」

 

このフォートコマンダー。要塞の名の通り、対艦ミサイルの直撃にも耐える装甲と多数の武装を保有している。127mm連装速射砲を筆頭に、各種大型機関砲の他、軽装甲目標(ソフトスキンターゲット)や歩兵様の兵装として、12基のGAU19ガトリング機関砲と多数の銃眼を備える。

これらを使い、なるべく従業員達に当てない様に壁や天井に向けて撃ちまくる。テーブルやソファ等の家具は穴だらけになり、照明は割れ、壁や天井、それから柱なんかは穴だらけになる。

 

「きゃぁぁぁ!!!!!!」

 

「逃げろー!!!!」

 

「死にたくない死にたくない死にたくない!!!!」

 

ホテルマン達は為す術なく、散り散りになって逃げていく。一帯の掃討が完了すると、今度は本番の泥棒行為のスタートである。後ろのトレーラーのハッチが開き、中から軍隊並みの装備を身に纏った完全武装の隊員達が降りてくる。因みに今回は念の為、これまで鹵獲してきた市場に流れている普通の武器等を装備している。

 

「仕事を始めよう。さぁ、俺達を導いてくれ」

 

ARコンタクトレンズにこのホテルの見取り図が表示され、カジノまでのルートが表示される。それに従ってカジノを目指すが、案の定武装した警備員達がやって来た。

 

「射殺しろ!!」

 

「カジノに近づけるな!!!!」

 

「止めるぞ!!!!」

 

スーツ姿の用心棒達が9mm弾系統の拳銃で隊員達を攻撃してくるが、その前に壁や柱の影に滑り込み、難なく弾丸をやり過ごす。

 

「おーおー。兵隊アリがうじゃうじゃ出てきたぞー」

 

「アリの巣コロリ持ってきたっけ?」

 

「ライフル弾ならあるぞ」

 

「上等!!」

 

一応拳銃の弾とは言え、弾丸が真横を通り過ぎ隠れている場所の近くに弾が当たりまくる、そんな空間にいる。その筈だが、隊員達はこんな感じで軽口を叩き合う余裕があった。

ここの用心棒達がどういう戦場を渡り歩いたかは知らないが、霞桜の隊員達は全員が一騎当千の猛者達。いつもは長嶺や大隊長というイレギュラーが目立ち、メインの戦闘も海上だった事もあり、その他大勢という感じだが、その「その他大勢」に含まれる隊員達は、その全員が普通に各国の特殊部隊に今すぐ入隊しても、第一線で戦える力量を持っている。というか元々、そういう特殊部隊や精鋭部隊にいたなんて隊員も普通にいる。彼らは「その他大勢」でありながら、そんな言葉で片付けられる程の存在では無い位、全員が主人公はれる位に強いのだ。

 

「はいはい。そろそろうるさいぞ。黙ろうや」

 

そんな隊員達は、素早く遮蔽物から飛び出してライフルを撃ちまくる。用心棒達が飛び出してきた相手に照準を合わせるよりも先に、こちらが照準を合わせて撃てば何の問題なく制圧できる。用心棒側は一応、こちらの2〜3倍はいたのだが数秒で全員射殺してしまった。

 

「クリア」

 

「先を急ごうぜ。また絡まれたら面倒だ」

 

「待っててねお宝ちゅわぁん!!」

 

「きもい。キモいよ」

 

ナビに従い、まずはエレベーターの点検ハッチへと向かう。この点検口からラペリングで地下へと降り、一気に地下金庫を目指す。金庫から略奪した物は、このラペリング装備で上に上げる手筈だ。

 

「それじゃ手筈通りに」

 

ここで突入チーム8名は、3つのチームに別れた。1つが突入チーム。地下金庫まで行き、中にある全てを奪ってくる仕事だ。残る2つは実質同じで、この階層にある点検ハッチと下層の地下金庫区画のラペリング装備と突入・脱出口を守るチームである。

ラペリング装備の設置が終わると、突入チームの前にラペリングの警護チームが降下。素早く安全を確保する。

 

『地下金庫区画クリアだ。降りて来い』

 

「行くぞ」

 

本来ラペリングというのは、まあまあ難しい。あんな映画みたいに素早くやるには、かなりの技量が必要となる。だがコイツらの場合、最早ラペリングではなく飛び降りに近い。そんな映画以上のスピードで素早く下まで降り、地下金庫区画まで到達した。

 

「move!」

 

恐らくこの先は、向こうも完全武装の護衛がいる筈だ。何せここは地下金庫というカジノの心臓部。そんな安い警備な訳がない。

念の為、上に控えるフォートコマンダーからホテルの監視カメラ映像にアクセスして貰い、この先の警備室やシステムの管理室がある部屋を確認してもらうと、案の定アサルトライフルやらマシンガンを装備した完全武装の護衛がいた。ちょっとこれは、流石の霞桜でも面倒な相手だ。

 

「コイツは面倒だな」

 

「だな。突破できるが、時間がかかりすぎる」

 

「なら、コイツを使おう」

 

隊員の1人が自分の腕に装備している、人の顔を覆える程度の金属板を指差して不的な笑みを浮かべる。この提案の他の隊員達も、ニヤリと笑い、この金属板を持つ者の後ろに一列で並んで隊列を組んだ。

 

「それじゃ、突入開始だ」

 

この金属板、ただの金属板では無い。ボタンを押すと、ガシャンという音と共に人間1人を余裕で覆える大型の盾に早変わりした。

この金属板は長嶺も装備している平泉。簡単に言えば、コンパクトに折り畳める大型ライオットシールドだ。12.7mm対深海徹甲弾、つまりライフル弾や対物ライフルは勿論グレネードやミサイルどころか、腕は持たないだろうが戦車の主砲をも耐えうる装甲を持つ。更に500000ルーメン以上の光量を放つライトを数十個配置し、盾自体にスタンガン機能すら搭載した最強の盾だ。この盾を先頭に、まるで特殊部隊の様に隊列を組んで中へと入る。

 

「敵だ!!」

 

「盾を持ってる!!火力を集中させろ!!!!」

 

現代戦に於ける盾は、正直なところ価値がない。相手が暴徒やデモ隊程度の武装であれば、盾は身を守る防具として期待できる。だが弾丸相手となれば話は別だ。防弾盾というのもあるが、それでも精々がサブマシンガン程度。フルサイズのライフル弾にもなれば、数発は耐えるだろうが貫通するのは時間の問題だろう。少なくとも、アサルトライフル数挺から同時に撃たれれば最後、盾は盾としての機能を全うできない。

だが先述の通り、この平泉は腕が持つかは別として戦車砲すら弾くチート装備。たかがライフル弾程度を弾き返せなくてどうする。

 

「か、硬ぇ!!」

 

「撃ち続けろ!!!!」

 

「クソッ!そろそろ壊れろよな!!」

 

金庫を守備するテロリスト達は、そんな盾だとは知らずに弾丸をとにかく撃ち込み続ける。だが無論、全く効果はない。とは言え幾ら通用しないとは言えど、流石にずっと撃たれ続ける訳にはいかない。これは耐久テストではなく、純然たる実戦。そろそろ反撃の時だ。

 

「喰らえ!」

 

シールドの持ち手に仕込まれているトリガーを引くと、次の瞬間シールドに搭載されたライトが光る。700000ルーメン以上という、車のヘッドライトの約20倍もの明るさを照射されれば、数秒間は視界が失われる。

いきなり物凄い光に照らされた上に、視界が潰れれば、訓練した兵士でも一瞬動きが止まる。その瞬間を、隊員達は見逃さない。即座に攻撃し護衛を排除。突入から僅か1分で、室内にいた15人の護衛を殲滅してみせた。

 

「クリア」

 

「金庫に急ぐぞ」

 

「あ、いや。ちょっと待ってくれ」

 

ここで突入チームの1人である、自称「怪盗」の元コソ泥ホワイトキッドがチームを呼び止めた。この男、かなり鼻が効く。ある意味で犬以上だ。

 

「なんだ?」

 

「ここの壁、よく見ろ。継ぎ目が他の壁とは違う。そして床には、何かを引きずった様な後がある。この配置から見ると……」

 

ホワイトキッドは壁に手を置きながら、廊下を歩き出す。その後にチーム全員が付いていくが、ホワイトキッドは近くにあった監視カメラのモニタールームの前で止まった。

 

「えーと.......。おっ!これこれ」

 

中に入り、周囲を見渡す。ちょっと見回すと1つのデスクに向かって一直線に進み、そのままテーブルの下のスイッチに手を伸ばした。そのスイッチを押すと、さっきの壁が開き、なんと中に隠し金庫があったのだ。

 

「なっ?」

 

「流石、元怪盗殿」

 

「よく見つけるぜ」

 

「コイツも掻っ払うか」

 

すぐに金庫の中に滑り込み、中にある貸し金庫の様な鍵付きの引き出しを電動ドリルで無理矢理破壊してこじ開けていく。どうやら中身は金銀財宝や現金ではなく、帳簿やデータドライブ等の記録類であった。流石に何が何なのかは分からないが、解析すれば何か分かるだろう。

 

「よーし、全部盗んだな。金庫に行くぞ」

 

突入チームは金庫を目指して突き進む。途中、生き残りの護衛がいたが即座に排除して、地下最深部の大金庫に到達した。

 

「デケェ.......」

 

「映画とかに出てくる大金庫のソレだぜ」

 

「こりゃ人力じゃ無理だな」

 

「その為のコイツだろ?」

 

このチームのリーダーであるガーランは、自らのスマホを懐から取り出してコードを金庫のセキュリティ端末に接続する。この大金庫の扉、流石に扉は人力だとかなり骨の折れる代物である。何せ扉だけで4トンもある。かと言って霞桜お得意の破壊も無意味だ。ロックはドリルで破壊できる代物ではないし、爆破しようにも装甲が対戦車ミサイルを直撃させても壊れないらしいので、流石に普通の歩兵火力ではゴリ押せない。

ならば方法はただ一つ。ネットワークから侵入して、金庫の方から扉を開けて貰えばいい。普通の強盗団なら諦めそうなものだが、こっちには世界で最も優秀な伝説のハッカーであるグリムがいる。金庫の開閉システムを操るシステムなんて、片手間にプログラムできてしまう。後はそのソフトをスマホなら何なりにインストールし、それを物理的に接続してしまえばいいだけだ。

 

「はい、皆さん。ご唱和ください。せーの!」

 

「「「「開けーゴマ!!」」」」

 

隊員達の声に合わせるかの様に、金庫の重厚な扉が開く。後は中にある全てを奪うだけだ。現金、金塊、ダイヤモンド等の宝石、他にも何故かある美術品。これら全てをバックの中に詰め込み、素早く脱出する。この間、僅か3分である。

 

「泥棒完了!」

 

「奪えた?」

 

「当然!」

 

「とっととズラかるぞ。家に帰るまでが泥棒だ」

 

ボストンバックを手分けして運び、来た道を戻る。だがどうやら、URの皆さんは泥棒行為に大変お怒りらしく、完全武装のテロリスト達がこっちに向かっていると、上にいるフォートコマンダーから連絡があった。

 

『どうする?』

 

「レリック謹製のアレ、使っちゃおうぜ」

 

『使っちゃうか!!』

 

ガーランの要請により、フォートコマンダーは秘密兵器の準備に入る。とは言っても準備は簡単で、127mm連装速射砲の中に特製砲弾を装填して撃つだけだ。

 

「はい、じゃぁポチッとな!」

 

発射トリガーを引くと、速射砲から特製砲弾が飛び出す。砲弾はそのまま天井に突き刺さり、次の瞬間EMPパルスがホテル中を駆け巡った。このEMPパルスはホテル内に存在する霞桜の所有物以外の全電子機器を無力化し、ホテル内の照明が落ちた。

 

「行くぞ」

 

このEMP弾頭は着弾した対象をスキャンし、それに合わせた波形でEMPパルスを照射。霞桜が保有する電子機器には作用しない特殊な周波数のパルスで、建物全体の電子機器を完全に破壊して無力化するチート兵器である。

建物内全体の電子機器が無力化される為、照明や監視システムは勿論、スプリンクラー等の防災設備、今回で言えば金庫の扉等の電子システムも破壊されてしまう為、使い所は考えねばならない。だがそれでも、この兵器を使えば意図的にターゲットの建物だけを安全かつ正確に無力化できるのは、とてつもなく魅力的だ。

 

「こっちはナイトビジョンでスイスイと進めちまう」

 

「チートだぜ」

 

「チートなんて人聞きの悪い事を言うんじゃない。装備の差だよ」

 

テロリスト達がいきなりの停電にワタワタしている中、隊員達はナイトビジョンで素早く移動。念の為、ナイフでサクッと増援を無力化し、目的の点検ハッチまで到達。品物を素早く上に上げ、突入チームと下にいた防衛チームも上に上がる。

 

「お帰り」

 

「あぁ。大量だぜ」

 

「知ってる。あの重さ、かなり盗ってきたな?」

 

「おうよ」

 

合流した2つのチームはフォートコマンダーへと向かい、品物を詰め込んで離脱する。だが当然、周囲は警察がバッチリ固めている訳で、強行突破になる。

 

『全員乗ったぞ』

 

「っしゃぁ!!!!しっかり捕まってろよ!!!!!」

 

だがフォートコマンダーにかかれば、例えパトカーや装甲車でバリケードを作ろうと意味を為さない。ドライバーはアクセルを目一杯踏み込み、そのまま出入り口を突き破ってパトカーの方へと突っ込んだ。

 

「た、退避!!!!!!」

 

「奴ら正気かよ!?!?」

 

「あー!!!俺のパトカーが!!!!!」

 

「御愁傷様!始末書頑張れよ!!」

 

パトカー3台が空を舞い、フォートコマンダーはそのまま空港目指して真夜中のロンドン市内を爆走する。その後ろをパトカーが追いかけるのだが、フォートコマンダーが速すぎてパトカーが突き放されていくという無茶苦茶な事になってしまう。

 

「アクセルもっと踏めよ!!」

 

「限界に踏んでるって!!」

 

「何なんだよあのトラック!!!!」

 

「インタセプターを呼べ!!」

 

ロンドン市警察には、インターセプターと呼ばれるカーチェイス専門の特殊部隊がいる。いつもなら高速などのカーチェイスに投入されるが、今回はイレギュラーという事で、フォートコマンダーの追跡に投入された。

 

『前のトラック!直ちに止まれ!!』

 

「うるさいよっと!!」

 

だが、そんなので止まるフォートコマンダーとドライバーではない。ハンドル下のスイッチを押し、オイルを散布してパトカーをクラッシュさせる。ついでにマキビシを撒いたり、ハッキングした鉄道で踏み切りをこちらが超えた瞬間にバリケードとして移動させたりして、ロンドン市内を大爆走。そのまま空港の滑走路へ突入した。

 

「回収よろしく!!」

 

『任せろ!』

 

滑走路に侵入すると、フォートコマンダーの上空に超大型輸送機が飛来した。戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫弍型』である。これまでの黒鮫から更にパワーアップした黒鮫弍型は滑走路に着陸し、そのままフォートコマンダーを自身の腹に収めると、滑走路の終わる寸前で急上昇し、そのままイギリスの領空からマッハ6の快速で飛び去った。

 

 

 

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