最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第九十四話ショタ化

翌々日 セカンド・エノ 工廠区画 倉庫

「にしてもまぁ、ホント大量にゲットしたよなぁ」

 

「物凄い山ですね.......。というかこれ、比喩表現ではなく普通に山ですよ」

 

セカンド・エノの工廠区画には倉庫区画が併設されているのだが、その倉庫の中には大量の金銀財宝がゴロゴロしている。他の倉庫には絵画や彫刻等の美術品&芸術品、各国の有名ブランドの衣服やカバン、麻薬製造施設からパクって来た調合設備や医療設備及び医薬品用に使う為の麻薬、高級家電や家具が収まっている。

 

「今回の総額っていくらだったの?」

 

「いやもう、訳分からん金額だよ。現金と貴金属に限定しても、3.8兆ドル。それ以外の全てを含めて行ったら、なんだかんだで35兆ドルに届くらしい。アメリカの国家予算5年分だ」

 

途轍もない金額にオイゲンと大和も、完全にドン引きしている。なんだかんだ大金慣れしている長嶺を持ってしても、総額を聞いた時は普通に「計算間違ってね?」と突っ込んだ程だ。当然である。

 

「それで、これからどうするの?」

 

「戦争の準備さ。色々やる事がある。霞桜の新兵器の量産、弾薬の増産、お前達用の新兵器の量産、車の改造、新兵器の慣熟訓練etc。あげればキリがない」

 

「車って何のことですか?」

 

「あー、まだ言ってなかったな。今回の強盗で、大量の車を手に入れたんだ。この車をお前達専用の車両にしようと思ってる。まあ身長とかを加味するから、駆逐艦とか軽巡の一部には渡さないが、まあ全員1台は車が貰えると思っていい。お前らも車選んどけよ」

 

そう言いながら長嶺はタブレットを操作し、今回車が選べる者にのみカタログを送信。車を選んで貰う。とは言えそのリストには最新から古いクラシックカーまで、世界各国の車が大量に記載されており、選ぶには一苦労だろう。

 

「.......ねぇ指揮官。私達、誰も免許持ってないわよ」

 

「そこは抜かりない。グリムが教習用のVR訓練システムを作ってあるし、シュミレーターの数もかなり作ってある。それに教習した所で、車を引き渡すまでにかなり時間がかかるからな」

 

「車って、そのまま渡すんじゃないんですか?」

 

「おいおい大和!この俺が、そんな簡単に車を渡すと思っているのか?当然、改造を施した上で納車する。だからほら、これ見てみろ」

 

タブレットには車両の3Dモデルが表示されている。上の項目には『engine』『aero』『interior』とあるが、その横に『weapon』とある。明らかに車には不必要というか、基本何処の国だろうと違法な改造項目になる項目が堂々と表示されていた。

 

「あの、明らかに物騒な項目が並んでいるんですが.......」

 

「だってそうしなきゃ、改造の意味がないじゃん」

 

「大和、諦めなさい。だって雷蔵と霞桜よ?」

 

「.......それもそうですね」

 

大和もオイゲンも、とっくに理解するのを諦めている。こういう時、見た目普通の中身化け物を生み出すのがコイツらだ。伊達に長い事関わっていない。とは言え、理解するのを諦めただけで理解できてる訳でも、納得している訳でもない。

 

「さーて、そんじゃ俺も車改造しますかねぇ」

 

「あら、雷蔵にはマスターシロンがあるじゃない。増やすの?」

 

「まあな。ちょっと良い車が手に入ったんで、ソイツも俺の武装車両に加えてやろうかと。それに元々、普段使いのSF90XXストラダーレもあったから、この際、これも武装車に改造しようと思ってる」

 

「何台作るつもりなんですか?」

 

「えーと?ストラダーレ、GTR、ランボルギーニシアン、レクサスLFAだな」

 

これにマスターシロンを加えた5台を、長嶺1人で運用する事になる。普通に考えれば1人で5台所有とか、維持費も馬鹿にならない無駄とすら言える行為なのだが、ここでは違う。これら全てに武装が施され、尚且つ自動運転と自律戦闘が行える機能を有したAIが搭載される。普通に戦力としてカウントできるのだ。

 

「あら?ねぇ、これ何かしら」

 

「なんでしょう.......。香水?」

 

「なんだ、何を見つけた?」

 

オイゲンが拾った豪華な装飾が施された小瓶。中には液体が入っているのだが、一帯何なのかは分からない。試しに蓋を取って見たのだが、次の瞬間、長嶺を白い煙が包み込んだ。

 

「雷蔵!!!!!」

 

「雷蔵さん!!!!!!」

 

幸いすぐに煙が晴れたのだが、そこに居たのは長嶺ではなかった。長嶺っぽいが、明らかに小さい。小学生低学年程度の身長にまで縮んだ、中性的な見た目をした子供がいた。

 

「ら、雷蔵さん?」

 

「ッ!」

 

子供は周りを軽く見回すと、明らかに子供らしからぬ動きで宝の山に背を向けながら飛び込み、そのまま装飾が施された短刀を引っ掴み、そのままオイゲンに鞘から刀を抜きながら飛び掛かる。

 

「殺すっ!!!!!」

 

「ちょっ!?落ち着きなさい!!!!」

 

子供を止めようと腕を伸ばすが、その腕をまるで蛇のように擦り抜け、そのまま心臓目掛けて突っ込む。もう防げないと本能的に悟ったオイゲンは艤装を素早く展開し、無理矢理だが刃を通させない様にする。案の定、その豊満な胸に当たりこそしたが、刃はポッキリ折れてしまい、刃先はそのまま空を舞い倉庫の地面に突き刺さる。

普通ならこれで終わりそうなものだが、子供はそのままバックステップで距離を取ったが、そこをすかさず大和が抱き締めて止めた。

 

「落ち着いてください雷蔵さん!!!!」

 

「放せ!!!!俺は雷蔵なんて名前じゃない!!!!」

 

「じゃあ誰なんですか!!!!」

 

「どうだっていい!!!!仇を!!仇を!!!!仇を取る!!!!!!!」

 

明らかに異常だ。錯乱している。大和が押さえ込んでいる間に、オイゲンが無線で館内放送に無線を繋ぎ、セカンド・エノ全域にコードレッドを発令した。

 

「みんな聞こえる!?こちらはプリンツ・オイゲン!コードレッドよ!!指揮官が錯乱してる!!すぐに医療班は第6倉庫に来て!!!!」

 

コードレッドはセカンド・エノ全域を戦闘態勢に突入させる非常時のコードであり、人1人が錯乱した程度で使う事はまずない。

だが長嶺は知っての通り、単独でセカンド、エノにいる全員を殲滅する位造作もない存在だ。そんな最強戦力が錯乱し、そのまま外に出ればどうなるか分かった物じゃない。

 

「オイゲン姉ちゃん!」

 

「奥方様、大丈夫か?」

 

「犬神!!八咫烏!!」

 

一足先に倉庫に飛び込んできた犬神と八咫烏だが、大和の腕の中で暴れる子供の姿を見るとすぐに固まってしまった。その姿は、確かに長嶺が子供の頃の姿と瓜二つである。

 

「我が主!我が分かるか!?」

 

「主様!犬神だよ!!」

 

「やた、がらす?いぬがみ?」

 

「そうだ、そうだとも。大丈夫だ、落ち着くがいい」

 

「ここは安全だよ。大丈夫、ここにいる人達はみんな主様の味方だから」

 

八咫烏と犬神の姿を見て安心したのか、長嶺の警戒心が一瞬弱まった。その瞬間、長嶺の腕に麻酔針が突き刺さる。着弾と同時にシリンジが起動し、麻酔薬が体内に侵入。そのまま長嶺の意識を奪った。

 

「見事」

 

『まさか、八咫烏にこんな指示を出されるとは思っていませんでしたよ』

 

無線機の向こうから、マーリンの声が聞こえる。どうやら麻酔針を撃ち込んだのはマーリンだったらしい。長嶺並みの肉食獣の様な勘を持つ男を撃ち抜くなら、認識外の場所からの超長距離狙撃しかないだろう。対長嶺の戦法としては、悪くはない解答と言える。

 

「オイゲンさんに大和さん!総隊長は!?」

 

「大丈夫です!麻酔で眠ってるだけで、怪我はありません」

 

「よし。大和さんはそのまま抑えててくれ。担架乗せるぞ!イチ、ニ、サンッ!」

 

取り敢えず長嶺を医療棟に運び込み、そのまま鎮静剤なんかを投与。念の為、麻酔弾とかゴム弾を装備した隊員達が部屋の外で待機している。

 

「.......ぁ」

 

「起きたか、我が主」

 

「八咫烏か.......。ここは何処なんだ?」

 

「ここは我が主が、その家族と共に作り上げた居城。セカンド・エノの医療棟だや...

 

「俺に家族はいない」

 

どうやら何も覚えてはいないらしい。何より長嶺の目が、初めて会った頃の、復讐のみを考え他はどうでもいいどころか復讐がてらに心中するのではないかと思わせる位の、無機質で殺意がありありと籠った目になっている。

こういう目の長嶺は、一度火がつけば最後。腕をぶった斬られようが、致命傷を負おうが、そんなの関係ないと言わんばかりに突撃していく化け物となる。言ってしまえば、爆弾の様な物だ。

 

「.......そうだったな。だが我が主、落ち着いて聞いて欲しい。我が主の主観から、この世界は10年程度は経っておるのだ。その10年で家族ができている」

 

「何を言ってるんだ?」

 

「タイムスリップの様な物だな。我が主はさっきの倉庫で、謎の煙を浴び、身体が今のサイズにまで小さくなった。恐らく記憶もそれに連動して、その身体と同じ年代の記憶までしか残っていないのだろう。それ以降の今日に至るまでの記憶は喪失してしまっているのだ」

 

「いや、ちょっと待て!なら復讐は!?復讐はどうなったんだ!!」

 

「片が付いたと言って差し支えない。あの一件の原因を作った虎杖高弥、その背後で結託していた八咫烏のチーフ、あの時のオペレーター達、その他の関係があった者は全員殺している」

 

「死神は?」

 

八咫烏は口を閉ざした。長嶺の報復は完了した。親友と呼んだ彼らを死に追いやった原因を作った者は、その悉くが悲惨な末路を辿り苦しみ抜いて死んだ。だが唯一、極東の死神だけは手掛かりが掴めず今日に至るまで殺せていない。

 

「.......まだだ」

 

「そうか。なら今すぐ出るぞ」

 

「待つのだ我が主!!ここには、我が主が必要なのだ!!」

 

「俺は必要ない」

 

普段の長嶺ならこんな事言う訳がない。だが記憶が無い以上、大事だの必要だのと言われたところで、全く心に響かない。それどころか邪魔とすら思える。そんなに邪魔したいのなら、このセカンド・エノとやらを破壊してやろうかという考えがよぎるほどだ。

 

「入るわよ雷蔵」

 

「奥方様!」

 

「アンタ、倉庫の奴か」

 

病室に入ってきたオイゲンに対して、長嶺は敵意とまでは行かずとも決して嬉しそうな雰囲気ではない。寧ろ邪魔というか、面倒臭そうというか、そういう目で睨み付けてくる。

 

「そうよ。プリンツ・オイゲン。アンタのフィアンセよ」

 

「フィアンセねぇ」

 

「信じろなんて言わないわ。でも、私はアンタが好きなの。それにここにいるみんなは、好き好んでアンタに着いてきたわ。叛逆の汚名を背負ってね」

 

「叛逆だと?」

 

オイゲンはこのセカンド・エノが出来上がった経緯を話した。当初は長嶺だけが叛逆の罪を被る予定だったが、元々の拠点にいた全員が長嶺と共に行く事を選択たこと。叛逆を起こして日本から脱走し、そのまま国際指名手配犯となっていること。自分以外にもフィアンセがいること。何よりこの集団に於ける長嶺の重要性も語った。

 

「それを信じろと?」

 

「信じて欲しいけど、私がそっちの立場なら早々信じられないわ。だから別に信じなくていい。でもそういう事実があるって事は覚えておいてほしいわ」

 

「.......取り敢えず、お前の事は信じてやる。殺すならとっくに殺してるだろうし、何より俺に取り入ろうとか利用しようってなら、馬鹿正直にそんな荒唐無稽な事は言わない。もっと現実味がある事を言うだろ?」

 

記憶が無くなっていようと、こういう冷静な所は長嶺らしい。普通ならパニックになりそうな物だが、普通に相手の話を客観的に分析し、そこから答えを導き出す。それをこの年齢でやるのは流石としか言いようがない。

 

(主様、聞こえる?)

 

(犬神?)

 

(原因、分かったよ)

 

「マジか!?!?」

 

念話である以上、声は出さない。だが流石に、これには声が出るどころか叫んでしまった。八咫烏もオイゲンも、いきなりだったのでビクッとしている。

 

「いきなりどうしたの?」

 

「犬神がこれの原因を見つけたらしい!」

 

「よかったじゃない!」

 

犬神の話によるとこうだ。あの瓶には呪物が込められており、長嶺はそれを至近距離で浴びた事で小さくなったと。とは言え呪い等に絶対的な耐性を持つ神授才をその身に宿している関係上、明日から明後日には元に戻るらしい。

 

「それで、こんなふざけた真似しやがったのは何処の誰だ?」

 

(呪いの形質はアフリカ、ブードゥーに近いかな)

 

「今の俺はその辺の連中と敵対してるのか?」

 

(してるよ。多分、その組織がやったんだと思う)

 

「じゃあお礼参りだ。おいお前!俺の部下達を集めろ。いるんだろ!?」

 

「.......はいはい、分かったわよ」

 

人使いが荒いが、まあそこは気にしないでおこう。とは言え、いつもの長嶺とは程遠いのも確かだ。いつもの長嶺なら、こんな言い方はしない。もっとマイルドに言う事が多い。過去を知らなければ幻滅したかもしれないが、オイゲンは長嶺の過去を知っている。あんな体験をしたとなれば、こういう風になった所で可笑しくはない。

 

「八咫烏。アイツ、確かプリンツ・オイゲンとか言ったな。殺すべきと思うか?」

 

「落ち着け我が主。確かに今の判断基準からすれば知り過ぎている存在だが、案ずることは無い。記憶が欠落している間に、色々と変わっている。今の主には信じられないかもしれないが、彼女も含め皆、神授才も過去も『鴉天狗』も知っている。殺すなんて今更という物だとも」

 

「.......随分と腑抜けたんだな」

 

「いいや。腑抜けたのではなく、成長し強くなったのだ。1人で出来ぬ事、それを仲間に頼るという方法で解決できるようになった。今の我が主には信じられないとしても、我が知る主はそう成長したのだ」

 

当時の長嶺は全てを基本1人で完結させ、八咫烏と犬神の力しか借りなかった。今でも基本1人で完結させるのは変わらないが、無理そうだったり楽ができそうなら味方を頼りもする。こういう考えを持つようになったのは、今の長嶺から2年後くらいからだ。

 

「.......そうまで言うなら、殺しは無しだ。それに未来の俺っていうのも変な感じだが、こうなる前の俺が集めた連中を見てみたい。リストを見せてくれ」

 

「心得た」

 

長嶺はタブレットを受け取り、代表者のリストを確認していく。パーソナルデータから、性格に至るまで。その全てを頭に叩き込もうと、必死に流し見る。

 

「どうやら、かなりの個性派揃いだな」

 

「我が主に負けず劣らずの仲間であるぞ」

 

「どうやらその辺は変わってないらしいな。取り敢えず、会って指示だけ出したい」

 

「心得た。案内しよう」

 

八咫烏の先導で、自室の1階に設けられた会議室に向かう。中には既にいつもの代表者達が揃っており、案の定部屋に入ってきた長嶺の姿に全員がギョッとした目で見てくる。

 

「俺だってなぁ、好き好んで記憶失ったり身体小さくしてねぇのよ。そんな目で見るんじゃねぇ」

 

「い、いえ。失礼しました総隊長殿。私は副長」

「グリムだろ。そっちはマーリン。レリック、バルク、カルファン、ベアキブル。記憶は無いが、名前位は覚えてきた」

 

「わ、私達も覚えているか提督!?」

 

「覚えてきたぞ、長門。とは言え記憶がないのは確かだ。何が得意で何が苦手かとか、どんな思い出があるかなんかは期待してくれるな。

だから俺は伝える事を伝えたら、とっとと部屋で休む。俺をこんな風にした奴を探れ。戻るまでの業務は任せる。以上だ」

 

何とも冷たく、事務的な命令である。いつもなら笑ったりジョークの1つでも飛ばしそうな物だが、そういうのがない。流石にこれにはみんな驚いている。「いつもの長嶺じゃない」と。

長嶺はそそくさと部屋から出て行き、残った面々はまるで鳩に豆鉄砲を食らったかのようにポカーンとしている。

 

「.......皆の者、我が主を許してやってはくれぬか」

 

「いや、まあ、許しも何も気にしてませんよ。ねぇ皆さん?」

 

グリムの言葉に全員が頷く。別に今の様な対応をされる事は、まあショックじゃないと言えば嘘になるが怒りが沸いてくることはない。記憶を失ったのなら、当然とすら言える反応なのだ。それに対して怒るというのは、中々に度し難い。

 

「ただあんなに違うのは、ちょっと気になりますがね。少なくとも私達が会った頃は、もう今の総隊長殿でしたから」

 

「そうだろうな。.......知っての通り、我が主は親友に先立たれ、仲間と思っていた大人に裏切られ、瀕死、いや。死んだと言っても差し支えない傷を負ったのは知っての通りだ。

幾ら幼少より闇の中で生き、常に暗闇の中に身を置いていたとしても、所詮は小童にすぎない。その結果、主は人間不信に陥ったのだ。誰も信じず、1人で何もかもやろうとしていた。今だけは見守ってやってくれ」

 

「まあ、そりゃそうだわな。これまでだって、所詮は20いかないガキだったんだしよ」

 

「そもそも親父自体が異質だからなぁ。普通に考えりゃ、俺達みたいな社会のゴミ連中と対等に話せるどころか、それを率いて軍隊を作って規律を持って統治するなんざ、余程経験がないと無理な話だ。それを親父は当然の様にやってのける。んなガキ、早々いねーよ」

 

改めて考えてみると、やはり長嶺雷蔵という男は色々おかしい。今更ながらその事実を再認識した訳だが、かと言って何かいい手が見つかるわけでもない。

 

「何かボスを元に戻す方法はないかしら?」

 

「まあ、あるにはあるぞ」

 

「あるの!?」

 

八咫烏のまさかの回答に、カルファンも周りの全員も驚いている。そう、あるのだ。一応の方法は。

 

「神授才は超能力、という認識だろうが実際は違う。神が授けた能力は、不可能を可能にする奇跡の能力とすら言える。我が主が明確に、解呪をイメージすれば答えるやもしれん」

 

「なら早くそうさせないと!」

 

「事はそう上手くはいかぬのだよ奥方様。我が主の能力は炎。その炎は毒を無力化し、傷を癒す。だが呪いは払えんのだ。無論、神授才自体に特効が付いている関係上、例え即死級の呪いだろうが弱体化できる。それでも完全遮断や即時回復はできぬがな。そんな芸当ができるのは、我が主の友。ヒデと呼ばれる男の神授才位だろう」

 

「でもその人、死んでるんじゃねーの?」

 

「その通り。故にすぐは無理だろうな」

 

幾ら霞桜の技術力を持ってしても、死者を復活される事はできない。そもそも神授才事態、当人含め全員が訳のわからない能力だ。それを全面的に信頼して頼ることはできない。

 

「あー、みんないるー!」

 

「犬神よ、戻ったのだな」

 

「うん。主様の呪いが分かったから」

 

全員の顔色が変わる。その報告は、今最も欲しい報告だ。犬神もそれが分かっているようで、咳払いをしてから話し始めた。

 

「今回使われたのはブードゥー教系の呪物。作り方とかはわからないけど、平たく言えば対象者を細胞にまで退化させて殺す術だよ」

 

「.......それはどういう意味かしら?」

 

「ビスマルク姉ちゃんは子供ができるメカニズムは分かるよね?精子と卵子が合体して細胞分裂を繰り返し、やがて形作られる.......。この呪いは精子と卵子どころか、その精子と卵子の前まで戻してしまう呪いだよ。

それから呪いが入ってた小瓶だけど、アレは転送されてきたんだよ。ここの物じゃない」

 

取り敢えず精子と卵子の下りは、皆が理解できなくもない話だった。しかし転送というのは訳がわからない。そんなテレポーテーションなんて言われても、訳がわからない以前に発想すらない。

 

「つまりその、ここの場所がバレたと?」

 

「違うよ。この瓶の元の持ち主がターゲットだったんだと思う。でも今回の強盗で持ってきちゃって、運悪く主様が呪いを受けた。多分、盗み出す時に紛れ込んだんだと思うよ」

 

「にわかには信じられませんね」

 

「そんなオカルト話となると、アイリスとかの領分か?」

 

「ハルピンさん!我々は宗教であって、こんな実害をもたらす呪いの類は専門外です!!」

 

リシュリューが心外だと言わんばかりに文句を言うが、まあ正論だろう。何れにしろ、原因やルートも証拠がないのでは対策のしようがない。

 

「でも大丈夫。術者の場所はわかったから」

 

「分かった、というと?」

 

「そのまんまだよ。元の持ち主を殺す為に送り込まれた物だって言ったでしょ?だから瓶に、呪いが発動したかどうかを確認するアラームみたいな術も掛けられてた。このアラームの行き先を辿れば分かるよ。詳しい場所とかは分からないし、どんな術者かも分からないけどね」

 

「にしても、こんな呪いの類があるとは.......。信じられないな」

 

「何言ってるのウェールズ姉ちゃん。僕は妖怪、八咫烏は神様だよ?スピリチュアル、オカルト、都市伝説。その存在証明だよ」

 

忘れがちだが犬神は妖怪、八咫烏は神である。というか長嶺の神授才も、充分にオカルトだ。今更すぎる。

 

「とは言え、この科学全盛の現世では笑われるだろうな。だが呪いも術も存在する。その技術は失われこそすれ、存在していたのだ。今も未開の自然が多い場所には、霊的な物が宿っている。

本来であれば、術も呪いも人の世のために使う物。決してこのような使い方ではない。何より我が主を傷つけた事、それが許せん」

 

「そうだよねぇ。そんなゴミクズには、教育してあげなくちゃ。滅ぼす?」

 

「良い案だ。だがそれは、我が主がやる事ぞ」

 

どうやら八咫烏と犬神も、見た目の割にブチギレているらしい。見た目はいつも通りだが、その身からはしっかり怒気が漏れ出ている。

 

「なら早速、指揮官を呼ぶとしよう」

 

「待ってエンプラ姉ちゃん!まだ主様には伝えないで!!」

 

「左様。今伝えれば、手加減などせずに周りの国ごと滅ぼしかねん。あの頃の主は加減を知らないと言うか、過激と言うか.......。とにかく今の主よりも、普段の数倍苛烈な報復をしかねない。頼む、黙っていてはくれまいか?」

 

長嶺を怒らせたらどうなるかは、エンタープライズに限らず全員が知っている。故にすぐに同意してくれた。

会議の方もこのまま流れ解散となり、長嶺は面会謝絶のまま翌日を迎えた。

 

「んぁ?」

 

翌朝、目を覚ました長嶺だが、昨日の記憶がなく覚えているのは倉庫で大和とオイゲンと話していた事のみ。何がどうなっているのかと色々考えていると、八咫烏と犬神がやってきた。

 

「目覚めたか、我が主」

 

「あ、あぁ。なあ八咫烏?俺、昨日の記憶がないんだけど」

 

「主様、これ。昨日の監視カメラ映像、見るといいよ」

 

犬神に言われるがまま映像を見たが、本人的には全くもって信じられない事が起きている。子供化して、そのままオイゲンを襲うとか流石に混乱する。しかも記憶がないとくれば、余計にだ。

 

「.......これマジ?」

 

「マジだ」

「マジだよ」

 

「犯人は?」

 

「わかっておる」

「大体の場所はね」

 

「.......報復するぞ」

 

絞り出したセリフはこれだけだったが、実に長嶺らしい。長嶺は準備を始める。今から奴らが出来るのは、別れのメールを家族に送り祈ることだけだ。

 

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