最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第九十七話古き友

1週間後 イギリス ロンドン テムズ川近くのカフェ

「やっぱり、ロンドンで飲む紅茶は美味しいな」

 

「あら、私共が淹れるお茶はお気に召さない、という事でしょうか?」

 

「まさか。エディンバラの淹れる紅茶とサフォークかダンケルクが作った菓子のコンビは、ロイヤルファミリーのお茶会にも劣らないさ」

 

この日、長嶺の姿は霧の都ロンドンにあった。ここに来た目的はURの傭兵担当ラーことイスマエルを、こちら側に引き込む為である。この1週間、色々と調べた結果、イスマエルは仕事が原因で方々に敵を作っていた。傭兵稼業ともなれば、やはりこういう怨恨も少なからず出てくる。それは仕方がない、避けようがない事だ。

だがどうやら面倒な敵も作っていたらしく、イスマエルへの報復の為に5年も動いている連中がいた。これに長嶺は目を付けた。その連中に秘密裏に情報を入手できるヒントを与え、情報を自らの手で掴み取らせ、イスマエルの家族を襲う計画を建てさせる事に成功したのだ。言うなれば、マッチポンプである。今回は緊急時の火力要員兼家族を保護した後のケアの為にベルファストも同行させている。

 

「ご主…いえ、雷蔵様。この後はどうされるのですか?」

 

「特に何も。その馬鹿共が来るのは夜らしいからな。それまでは、ゆっくりロンドン観光でも……あー、そうだ。ちょっと遊びに行くか」

 

「遊びに、ですか?」

 

「あぁ。ちょっと爺さん婆さんに会いに行こう」

 

そう言って長嶺が向かった先はバッキンガム宮殿。柵や壁で囲われた広大な敷地と、それを取り囲むように配置された特徴的な帽子を被った衛兵達がいる。勿論観光客も大量にだ。

 

「ここがバッキンガム宮殿.......。ロイヤルの宮殿と良く似ています」

 

「さーて、出るかなぁ?」

 

長嶺は懐からスマホを取り出すと、何処かに電話を掛け始めた。暫くすると相手が出た様で、長嶺が話し出す。

 

「いやっほー、元気してる?………いやね、今婆さんの家に来てるのよ。……いやー、ついでついで。ちょっとこっちに用事があったし、久しぶりに会いたいなと。…………グラサンに帽子被れば問題ねーよ。…………オッケー、じゃあ今から行くわ」

 

「雷蔵様、一体どなたとのお電話ですか?」

 

「ん?まあ、付いてくれば分かる」

 

そのまま長嶺は正門から離れ、裏側にある通用口の様な場所に向かう。勿論ここにも衛兵が立っているが、観光客や民間人は殆どいない。それにここは通用口なだけあって飾りっ気もなく、なんでここに来たのかは分からなかった。

困惑するベルファストを他所に、長嶺は堂々と衛兵に近づく。本来なら怒鳴られ、場合によっては銃すら向けられるが、長嶺がそんな事を知らないはずが無い。

 

「ら、雷蔵様!」

 

「よう、お疲れさん。この国の婆さんの客なんだが、話は通っているか?」

 

「フラグシップ様でしょうか?」

 

「そうか、フラグシップと来たか。あぁ、合っている」

 

「少々お待ちを」

 

衛兵は無線で何処かに連絡を取ると、すぐに衛兵4人それを従えたフロックコートを着た初老の男性が奥からやって来た。

 

「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」

 

「.......まさか」

 

ベルファストはこれからの展開が分かってしまった。去年の夏頃、江ノ島鎮守府にあるお客様がやって来た。1人はアメリカ合衆国の現職大統領ビンセント・ハーリング。そしてもう1人は、イギリス王室女王エリザベス・アレクサンドラ・メアリーである。

 

「(ご主人様!何故いきなりここに来てしまったのですか!?)」

 

「(いやだって、別に予定なかったし)」

 

「(ご友人の家に遊びに行くのとは違うのですよ!?!?)」

 

「(いや、俺からすりゃ歳の離れた友達なんだが……)」

 

完璧主義や堅物なまでの生真面目とまで行かずとも、メイド長というポジションにいるのもあって、どちらかと言うとベルファストも硬い部類には入る。ことさら礼節やマナーというのにうるさい。そんな彼女にとって不躾にも突拍子もなく宮殿に遊びに行き、あまつさえ今の格好で中に入り主人と会うなんて言語道断なのである。

 

「どうやら、Ms.はかなり緊張しておられるようですね」

 

「彼女にとっては、落ち着かないのさ」

 

「長嶺様、これが普通の反応かとは思いますが?」

 

「おいおい俺は、世間じゃ世界を裏切った大罪人だろ?そんな狂人が今更、宮殿に私服で入ったくらいでジタバタするかよ。しかもここ、何回も来た事あるし」

 

長嶺はこれまで何度も、このバッキンガム宮殿には遊びに来ている。何なら王室の私的なパーティーに招かれたこともあるし、そのまま泊まった事すらある。

 

「こちらにてお待ちです」

 

初老の使用人がそう言うと、長嶺はノックもせず堂々と中に入った。慌ててベルファストも中に入る。部屋の中には大きなベッドがあり、その上に女王はいた。

 

「お久しぶりね、Sir長嶺」

 

「おう、エリザベスの婆ちゃん。全く、寝たきりになったって聞いた時は驚いたぜ。見舞いが遅れて悪かったな」

 

「いいのよ。貴方も貴方で、大変だったのだから」

 

そう言って笑うエリザベスだが、その笑みは何処か元気がない。素人のベルファストにも分かる。恐らく、もう長くないのだと。

 

「そちらのお嬢さんは、確かベルファストだったわね?」

 

「はい、女王陛下。この様な格好で失礼致します、エディンバラ級軽巡洋艦、ベルファストでございます。本日はご主人様のお供で参りました」

 

「そう。今日はデートかしら?Sir長嶺も隅に置けないわね」

 

「いい女だろ?アンタにだって負けない。俺の嫁達はみんな、アンタと真っ向から勝負できる良い女達さ」

 

恐らく揶揄うつもりで言ったのだろう。それを真正面から堂々と言い返す長嶺の姿にエリザベスは少し驚いた様な顔をしたが、すぐに優しそうな微笑みを浮かべながら2人を見つめる。

 

「………昔は敵を全て打ち倒す暴力の権化だったのに、今はとても人間らしいわ。大切な物を手に入れたのね」

 

「何を言うかと思えば。心配しなさんな!今も昔も、その本質は一ミリたりとも変わっちゃいない。敵は有象無象の区別なく、我が前に立ちはだかるなら全て殲滅するのみ。それが仲間や家族のためなら尚の事だ」

 

「そう.......」

 

「遅くなりました、母上」

 

部屋に入って来たのは、現国王のチャールズ・フィリップ・アーサー・ジョージである。入って来たチャールズに、長嶺は「よう」と言いながら軽く手を上げる。

 

「Sir長嶺、久しぶりに見たぞ。全く、予め言ってくれれば総出で歓迎したと言うのに。皆、お前に会いたがっているのだ。是非今度会ってくれ」

 

「いいぜぇ。どうせなら、ゲーム大会でもやるか?」

 

「それは私も入っていいのかな?」

 

「勿論だ。人数が多い方が楽しい」

 

一応目の前にいるのは現職のイギリス連邦の王と、先代の女王なのだが、まるで近所の知り合いと話すかのように砕け切った会話である。毎度毎度驚かせられた来た為、今後驚くことはないだろうと思っていたが違ったらしい。

 

「ところで、そちらのご令嬢は?まさかSir長嶺の妻かね?」

 

「ご挨拶が遅れました、国王陛下。メイドのベルファストと申します。ご主人様とは、夫婦の誓いも建てさせて頂いております。本日は何分急の来訪だった為、この様な格好での御目通り、どうかご容赦くださいませ」

 

そういって頭を下げるベルファストの姿は、優雅その物でありチャールズも目を見開く。下手をすれば、この宮殿の商人達よりも完璧かつ優雅なお辞儀であった。

 

「エリザベス婆さんから聞いてるかもしれないが、彼女はテムズ川にいるあのベルファストだ。KAN-SENと呼ばれる、まあ艦娘の亜種だと考えてくれ」

 

「そうか.......。他にも我がイギリスのKAN-SENとやらはいるのか?」

 

「結構たくさんいるぞ。写真見る?」

 

「見せて貰えるのか!?」

 

「お、おう。何なら婆さんも見るか?」

 

「えぇ!とても面白そうだわ」

 

そのまま2時間くらい、ベルファストも交えてロイヤルのKAN-SEN達を紹介した。どうやらエリザベス的には、戦艦『ヴァンガード』が居る事が嬉しかったそうで、彼女の存在を知った時には目をキラキラさせていた。

 

「さーて、そんじゃ俺達は帰るよ」

 

「残念だ、Sir長嶺。できれば今度は、指名手配されていない状態で来て欲しいな」

 

「善処するよ。まあ、いつになる事やら」

 

「.......Sir長嶺。どうか今一度、貴方の顔をよく見せて頂戴」

 

エリザベスの言葉に長嶺は素直に従った。ベッドの近くに歩み寄り、その傍に跪く。エリザベスはそのしわくちゃな手で長嶺の顔を、まるで宝石を扱うかの様に優しく丁寧に触る。

 

「我が最高の騎士。私の血の繋がらない孫。そして私の歳の離れた友達。Sir長嶺。私は貴方という騎士と巡り会えて、とても嬉しかったわ。死ぬ前にもう一度会いたいと思っていたけれど、それが叶ったわ」

 

「.......本来なら「まだ生きれる」とでも言うべきなんだろうが、まあ医者の視点から見れば婆さんはもう長くないわな。俺もアンタみたいな婆さんと会えて楽しかったよ。アンタは国民からすりゃ、誇り高き女王陛下だろう。だが俺からすりゃ、ただの知り合いの婆さんに過ぎねぇよ。出来ることなら、また婆さん特製アップルパイを齧りながらお茶がしたかったよ」

 

「叶いそうには無いわね.......」

 

「そんじゃま、それはあの世に俺が行ってからのお楽しみって事で。ほら、あの世には知恵の実みたく美味い林檎の木位あるだろ。クイーンの特権とかコネとかで、俺が逝くまでに見つけてくれよ。血の繋がらない孫からの、最初で最後のオネダリだ」

 

「そう。なら、叶えないとね」

 

「頼むぜエリザベスの婆さん。そんじゃ、次はあの世でな」

 

そう言って出て行く長嶺。もう色々型破りすぎてベルファストは放心状態だったが、メイドとしての習慣で身体が勝手に長嶺に追従し部屋から出て行く。それを見送るエリザベスの顔は、とても穏やかで優しい笑みを浮かべていた。

 

「ら、雷蔵様!!何なのですか最後の挨拶は!!!!!」

 

「まあまあベルファスト。良いのだよ、母上とSir長嶺の仲だ」

 

「し、しかし国王陛下!」

 

「私もこの地位に立って実感するが、我々王侯貴族というのは特権階級だ。例え家族の前だろうと常に礼節を持って振る舞わなくてはならない。そういう立ち居振る舞いをし、こういう立場に入れば人は皆私達を敬ってくれる。これは栄誉な事であるのは間違いないし、決して不快な事でもない。だがね、やはり寂しいのだよ。分け隔てなく会話してくれる者が欲しいのだ。それに母上はもう長くない。そうだろう、Sir長嶺?」

 

話を振られた長嶺は、深く溜息を吐くと静かに語り出す。その顔は何処か悲しそうで、寂しそうな顔だ。

 

「俺もカルテを読んだわけでも診察をした訳でもないが、あの手の顔ってのは何度も見てきた。チャールズ王、覚悟しておけ。エリザベス女王は今日明日には死ぬぞ」

 

「ど、どういうことですか?」

 

「母上は末期癌なのだよ。無理をしすぎたのだろう。発見が遅れ、判明した時には既に全身への転移が始まっていた。今は最新の治療で痛みは抑えているが、医者からも半年持たないと診断されていた。だがまさか、そんなにも早いとは.......」

 

「日本には『病は気から』っていう諺があるが、これはマジだ。流石に気合いだ根性だで永遠に生きるのは無理だが、自己治癒力を上げたり下げたりはできるし、極度の思い込みを与える事で殺す事もできる位、思い込みや足の力は大きい。

婆さんは在位中、きっと気を張り続けいたんだろうよ。それで身体を抑え付けられていたが、単純に気力が持たずに一気に広まったんだろうさ。そして婆さんが今まで生きてきたのは、どうやら俺ともう一度話したいと言う願いだったらしい。それが果たされた今、もう枷が外れたも同然。となれば…」

 

「そうか.......。ありがとう、我が国最強の騎士よ。王として、1人の母を憂う息子として、心からの感謝を」

 

そういってチャールズは深々と、長嶺に頭を下げた。その行為がどれ程の気持ちが込められているか等、何も言わずとも分かる。その姿に、長嶺はいつもの笑みを浮かべて答える。

 

「んなもん必要ねぇ。俺は俺がやりたいようにやっただけだ。歳離れちゃいるが、俺もアンタ含め友達みてぇな物だと思ってる。気にする事はない。むしろ俺も、死ぬ前に会えてよかった」

 

「葬儀には……いや、無理か。君は表向きというか、しっかりとした国際指名手配犯だったな」

 

「見送り位はするさ。俺流のな。じゃあな!」

 

そう言うと長嶺は踵を返し、そのまま宮殿を後にした。余りに非常識的すぎる出来事に、流石のベルファストも頭が追いついてなかったが夜にある本来の任務の為、思考を切り替えた。

一度ホテルに戻り、着替えてから食事を摂りイスマエルの家へと向かう。その道中、長嶺は一応今回の任務に付いて質問した。

 

「さてベル。今回の任務、覚えているな?」

 

「はい。今回の任務はUR幹部、傭兵部門の長であるラーことイスマエル様の奥様と御息女を対立している麻薬カルテルからの襲撃を阻止し、イスマエル様に恩を売ることです。我々はこの恩を条件に、寝返りを要求します。合っていますか?」

 

「パーフェクトだ」

 

……とは言ったが、実際の作戦とは全く違う。実際の作戦はイスマエルの家族を襲わせ、そのまま誘拐してもらい、共闘して取り返す方向という筋書きだ。それにベルファスト含め、この作戦に関係している霞桜の面々も襲撃の情報はイスマエルの周りを探っていたら偶々手に入った物だと知らされているが、これの絵を描いたのも長嶺である。知り合いの情報屋に頼み、麻薬カルテルの連中に匿名で情報をリークし、同時期に彼らの上司を装いメールで襲撃の指示を出し、それをグリムがキャッチしたというのが本当のところだ。

つまり今夜発生する全ての事件、事象は、言うなれば長嶺が作り出した壮大にしてリアルな茶番劇。イスマエルという人間を駒にする為の、一夜の幻想劇にすぎないのだ。

 

「雷蔵様。私はどの様な事をすればよろしいでしょうか?」

 

「取り敢えずは俺と共に行動して貰う。例え銃撃戦になろうと、お前を守ってやるから心配するな」

 

「全く。そのような発言を素で話されるのは、大変ズルいですよ?」

 

そう言ってそっぽを向くベルファスト。窓に反射するその顔は、真っ赤になっておりとても可愛らしい。普段なら揶揄う所だが、生憎と今は任務前。そういう訳にもいかない。

 

『総隊長!聞こえますか!?』

 

それにどうやら、茶番劇も始まったらしい。オペレーターから慌てた声で無線が入り、それに出る。

 

「どうした?」

 

『目標の家に武装集団が押入り、女性と子供を連れ去って行きました!!ご指示を!!!!』

 

「おいおいおいおいマジかよ。.......取り敢えず現地警察の動きを止めろ。介入されたら厄介だ。どうせヤサは割れてるし、追跡の必要はない。それよりもカルテルの動きに注視しろ」

 

『了解!』

 

「ベル、飛ばすぞ」

 

カーキ色のランボルギーニ シアンをかっ飛ばし、イスマエルの家を目指す。いつものマスターシロンではないが、これにも色々と武装は装備してある。因みにこれは、いつかのペリコール島から奪ってきた車である。

 

「そろそろ目的地だ。ベル、銃の使い方は分かるな?」

 

「はい。実戦は初めてですが、訓練は一通り受けております」

 

「オーライ。だが当然、海と陸じゃ勝手が丸っ切り違う。ビビり散らかしながら、しっかり付いてこい。フォローは任せろ」

 

そう言いながら、長嶺はベルファスト用にカスタムした白いSIG SAUER P229を渡す。少しだけ色々と見つめると、太腿のホルスターにしまった。

 

「着いた。先行する、付いてこい」

 

長嶺は車の外に出ると、銃も構えずに堂々と家へと歩いて行く。ベルファストは銃を出して、軽く緊張しながら長嶺の後を追う。

 

「取り敢えず気配はない。だがトラップの可能性はあるから、絶対に俺から離れるなよ」

 

「は、はい!」

 

「そんじゃ、お邪魔しまーすと」

 

扉を開ける玄関に入ると、玄関も廊下もぐちゃぐちゃになっていた。マットは捲れてズレ、写真が入っていた額縁は割れて床に落ちており、多数の足跡がある。

 

「上がるぞ」

 

「え!?ど、土足ですか?」

 

「あぁ。靴を脱いだら普通に怪我するぞ。この感じ、まあ間違いなく中も荒れてるからな。それに靴下じゃ、いざという時に走ったり咄嗟の行動ができない」

 

そう言いながら、長嶺はズカズカと上がり込む。ベルファストも少し戸惑ってはいたが、すぐに上がり込んだ。だがそれでも、違和感と申し訳なさは拭えない。これだけ荒らされていたら今更土足で上がった所でそこまで変わりはないだろうが、それでも「それはそれこれはこれ」というヤツである。

 

「ひ、酷いですね.......」

 

「まあぐちゃぐちゃとは言え、死体が無いならラッキーだ。この手の場合、死体が2,3体転がって血の海出来てるまでがデフォルトで、死体が解剖されてたり壁に貼り付けられていても珍しくない」

 

「そ、それは.......。できれば一生見たくないですね」

 

「なーに心配すんな。俺と一緒に現場に出てれば、一度は見るだろうよ」

 

「………あの。先程から何故、そんなに部屋を物色しておられるのですか?」

 

さっきから長嶺は、部屋を歩いては物色している。まるで何かを盗む前の空き巣のようだ。まさかとは思うが、何かを盗み出すつもりなのだろうか?

 

「いや念の為、金目の物の有無を見ておこうと思ってな。あればプロ、なければアマチュアの可能性が高い」

 

「そういう物なのですか?」

 

「一概に言えないが、アマチュアや素人は安い報酬で雇える。だから臨時ボーナスとして、金目の物を失敬する事もザラだ。逆にプロは仕事をサクッと終わらせて、そのまま逃げる。当然あくまで傾向の話だし、敢えて金目の物を盗み出しフェイクに使う事もあるがな」

 

『総隊長、ラーが帰宅しました。警戒を!』

 

オペレーターからの報告に、長嶺はすぐに行動した。流石にいきなり銃撃戦はあり得ないが、それでも念の為に扉の影に隠れベルファストもキッチンに隠れてもらう。

 

「ただい……ま」

 

玄関の扉が開くと、イスマエルの声が聞こえた。だが家の惨状を見て、全てを察したのだろう。即座に戦闘モードに切り替わり、急に静かになる。

 

「………リビングの扉の陰!そこにいるのは誰だ!!!!」

 

「腕は衰えず、か。いいねぇ」

 

「貴様は…誰だ?」

 

「サンダーボルト、と言えば覚えているか?イスマエル。ほら、オマーンで戦った少年傭兵」

 

最初は訝しんでいたイスマエルだったが、すぐに驚きに満ちた顔でこちらを見てくる。だが戦闘モードを解くことはない。まだ疑っているらしい。

 

「.......覚えている。だが、これはお前がやったんじゃないか?だとしたら、随分なご挨拶だな」

 

「この状態だからな、そう思うのも仕方ない。お決まりだが、こう言おう。俺、いや。俺達はやっていない」

 

「なら、何故ここにいる?同窓会という訳でもないだろ」

 

「あぁ。この顔を見れば、ある程度は分かるんじゃないか?」

 

暗闇から出てきた長嶺の顔に、イスマエルは益々顔を強張らせた。その顔はURが追っている長嶺雷蔵その物であり、かつての戦友は敵だったのだ。もう展開が急すぎて、イスマエル自身何が何だかわかっていない。

 

「サンダーボルト……。貴様は長嶺雷蔵、なのか?」

 

「そうだ。今回ここに来たのは、お前を引き抜く為。俺の率いる部隊に、是非お前の傭兵を加えたい。勿論、報酬その他は応相談。望む額を出す」

 

「サンダーボルト。お前は傭兵を金で動く連中だと思ってるのか?」

 

「まさか。そういう連中もいるが、お前の傭兵団はそうじゃない事は知ってる。だが傭兵だろうとなかろうと、命掛けて戦うんだ。金はいるだろう?

まあ取り敢えずスカウトは後回し。今はお前の家族の方が問題だ。どうやら家族は揃って連れ去られたらしい。リビングに置き手紙があるから見て来い」

 

「………怪しい動きをすれば殺す!」

 

「どうぞご自由に」

 

イスマエルは長嶺の横をすり抜ける様にして、リビングに入る。踏み荒らされた部屋に愕然とするが、ナイフでピン留めされた置き手紙を見て目の色が変わった。

 

「おいサンダーボルト!それかそこの女!!知っている事全部吐け!!!!」

 

「やったのは南米の麻薬カルテル、シルバリアの連中だ。奴らは郊外の倉庫を拠点にしているらしい。恐らくそこに、お前の家族はいる筈だ。警察には手を回してあるから、その拠点に乗り込んで暴れ回ってもある程度は黙認される。やるか?」

 

「当然!!」

 

「なら手を貸そう。最近は俺も暴れてなかった。ここいらで久しぶりに暴れねーと、腕が訛って弱くなる」

 

イスマエルと長嶺はお互いに腕を差し出し、ガッチリと握手する。共闘で決まりだ。先に長嶺とベルファストは外に出て車に乗り込み、イスマエルは自室から愛銃を引っ張り出してから車に乗り込む。

 

「イスマエル、しっかり付いてこいよ」

 

『遅れるつもりはない』

 

イスマエルの愛車、マクラーレン720Sはシアンの後を追い掛ける。2台のスーパーカーが夜のロンドンを疾走していく様は、とても絵になる物で通りにいる人々も珍しそうに見ている。だがそんなの気にする余裕もなく、イスマエルは車を飛ばす。長嶺の場合は結構余裕あるので、信号待ちの間にエンジン吹かしたり手を振ったりしていた。

30分程で目的の倉庫に到着し、車を近くの目立たない場所に停めて忍び寄る。

 

「所で今更だが、そっちの姉ちゃんは誰だ?」

 

「メイドだ」

 

「は?」

 

「初めましてイスマエル様。雷蔵様の元で、メイド長をしております。ベルファストとお呼びください」

 

「………もう驚かねぇ」

 

初めて出会った時もそうだったが、目の前の男は一々人を驚かさなくては落ち着かないのかと言いたくなる程に、毎回毎回こちらの想像を超える事を仕出かす。もう6,7年は会ってなかったが、この性格というか性質は変わってないらしい。

 

「さーて、歩哨が2人。どうする?」

 

「お前は左」

 

「へいへい」

 

歩哨の背後に忍び寄り、イスマエルはその怪力で首を180度無理矢理回転させて脊椎ごと破壊し、長嶺はナイフでサクッと静かに殺す。

 

「腕は鈍らずか」

 

「これでも現役だから、な!」

 

そう言いながら、長嶺は扉を蹴破った。爆発の様な轟音と共に、鉄の扉がひしゃげて中へと吹っ飛んでいく。恐らく大の男が結構な力をこめないと開かない扉の筈なのだが、まるで木製の薄いドアを破砕するかのように容易く破壊してみせた。化け物である。

 

「えぇ………」

 

「いつもの事ながら、恐ろしいですね……」

 

「こ、殺せぇ!!!!!」

 

「柱の影に隠れろ!!」

 

カルテルの戦闘員達は、一斉に銃弾をお見舞いしてくる。カルテルと聞くと拳銃程度かと思うかもしれないが、長嶺達がカチコミを仕掛けた連中は普通にFN FALやらAK74、果てはRPK軽機関銃まで装備している。こちらはベルファスト用に改造したP226と長嶺の阿修羅HG2挺、それからイスマエルのS&W M500が2挺と心許ない。

 

「ら、雷蔵様!勝てるんですかこれ!!」

 

「なーに心配すんな。見てろ」

 

長嶺がイスマエルを銃でチョイチョイと差す。次の瞬間、イスマエルは滑るように影から飛び出しM500を乱射。銃声はかなりの爆音で重苦しい物だが、それを感じさせない軽やかな動きで相手の懐や死角から銃弾を叩き込んでいく。

 

「ま、まるで雷蔵様みたいですね…」

 

「今の二挺拳銃スタイルは、アイツが元ネタだ。奴はメインは乗り物に乗るか、ロケランみたいな重火器だが、こういう時は二挺拳銃で戦うんだ。そーら、俺達も援護するぞ。殺さなくていいから、とにかく撃ちまくって場を賑やかせ!!」

 

「かしこまりました!」

 

ベルファストが適当に撃って戦場を盛り上げている間に、長嶺は手近の機関銃手2人を襲撃する。正面に立てば弾幕でやられるが、逆に側面や背後に立てれば銃本体の重さ故に即応できない。

 

「いい銃だな。貸してくれよ!」

 

1人は背後からナイフを突き立て、もう1人は素早くナイフを喉目掛けて投げ付けて殺す。これで軽機関銃2挺が手に入った。長嶺はそれを二挺持ちで引っ掴み、構える。

 

「おうお前ら!!俺の相手もしてくれよな!!!!!!」

 

ドカカカカカカカカカカッ!!!!

 

二挺拳銃ならぬ二挺軽機関銃で、戦闘員達に弾幕を浴びせる。軽機関銃2挺の弾幕は考えられる、ほぼ全ての遮蔽物を破壊してみせる強力な物で戦闘員達も慄き動きも悪くなる。

 

「イスマエル!ハンティングだ!!」

 

「ッ!そのまま続けろ猟犬!!」

 

「あいよハンドラー!!」

 

長嶺が猟犬の様に獲物たる戦闘員達を追い立て、その背後からイスマエルがハンターの様に狩る。理想的な狩猟戦術だろう。だがこうも連続して弾をバラ撒いていると、その内銃身が熱でやられてしまう。

 

「あっ、ジャムった」

 

「今だ!!機関銃野郎を殺せ!!!!!!!」

 

戦闘員達が一斉に襲いかかってくるが、逆に懐に入り込み鈍器となったRPKをフル活用する。まず1人を渾身の力でぶん殴りノックダウンさせ、他2人は銃口を喉元に押し込んで無理矢理刺殺。残りは阿修羅で撃退する。

 

「サンダーボルト!それ、誰から教わった!!」

 

「俺が自分で編み出した!!」

 

「グロいわ!!」

 

これまでかなりの戦場を渡り歩いて来たイスマエルだが、流石にこんなやり口は見せしめの為の拷問でもないと見た事がない。というかこれを咄嗟の判断で実行できる辺り、中々に狂っている。

 

「う、動くな!!」

 

「か、カレン!キャシー!!」

 

2人の戦闘員が連れて来たのは、自らの娘カレンと妻のキャサリンであった。人質のつもりらしい。となれば、次の要求は見当が付く。イスマエルが目配せの為に長嶺を見つめると、長嶺もすぐにこちらを見つめて来た。何をするか即座に理解した2人は、その時を待つ。

 

「よ、よし!なら次は銃を捨てろ!!」

 

「変な事はするなよ!コイツら殺すぞ!!」

 

「クソッ!」

 

「はいはい。撃つなよー。バン!」

 

それを合図に、早撃ちの要領で長嶺とイスマエルが撃った。2人の銃弾は、戦闘員2人の頭を正確に撃ち抜き無力化する。

 

「パパ!!」

 

「あなた!!」

 

「もう大丈夫!もう大丈夫だからな!!」

 

イスマエルは2人を強く抱きしめる。流石に邪魔するのはアレなので、長嶺とベルファストは帰ろうとするとイスマエルが呼び止めた。

 

「ま、待ってくれ!ありがとう、家族を失わずに済んだ!だがスカウトの件、その話は」

「『いつか、戦士の理想郷を作る』だったか?」

 

その言葉を聞いた瞬間、イスマエルの顔色が変わった。この言葉はかつて、イスマエルが長嶺に語った夢なのだ。社会に馴染めない、戦う事しか知らない戦士達の受け皿となり、その武力を世界の為に使うという物だ。

 

「果たしてお前の飼い主は、その大義に合っているのか?それにちょっと調べた限りじゃ、傭兵部門は予算を削減され冷遇されているばかりか、ファーストキングがイタズラに兵を死なせ、お前の傭兵も悪の尖兵に成り下がってるそうじゃねぇか。

こっち側に来いよ。世の為人の為とは言わねぇが、クソッタレの世界がマシなクソッタレの世界になる様に暴れようぜ」

 

「……………少し考えさせてくれ」

 

「勿論だ。だが、早めに決めろよ。次戦場で出会えば、お前だろうとお前の傭兵だろうと容赦なく殺すからな」

 

そう言うと、長嶺は倉庫を出て行った。ベルファストはその後を追う。車に乗り込みホテルへの帰路に着いたが、終始無言であった。だが、このニュースでそうも言ってられなくなる。

 

『…BBCがロンドンよりお伝えします。英王室バッキンガム宮殿は、本日午後、先王陛下エリザベス2世の死去を発表しました』

 

「えっ…」

 

「おいおい、もう逝くかよ。ちょっと早すぎないか?」

 

 

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