最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第九十九話崩壊の足音

ラーマエル加入より1週間後 セカンド・エノ 大講堂

『よーし、野郎共。揃ってるな』

 

ステージの上に上がった長嶺は、講堂に集まった全員を見る。ラーマエルと麾下の傭兵団が加わった事で、講堂の密度はいつもよりも高い。嬉しいことだ。

 

『江ノ島を飛び出して、もう2ヶ月も経った。当面の敵をURと絞って準備を重ねて来た訳だが、いよいよ我々は1ヶ月後にアフリカへの全面侵攻を開始する!!』

 

長嶺の言葉に、講堂内にどよめきが広がる。だがどの者の顔も、戦意は充分という感じだ。

 

『本当なら「URなんぞ単なるテロリスト、素人の集まり!我らの敵ではなーい!!」なんて強気な発言でもしたかったんだが、生憎とそう言えそうにはない。

まずURの本部、Ville Pimordialeの周囲には4つのFOBが存在している。先にこの4箇所を落とさなくては、後々面倒なのだ。しかもこれ、FOBと言いつつ普通に要塞。かなり面倒だ。という訳で我々はまず、この4箇所を同時に襲撃。制圧後、そのみVille Pimordialeに雪崩れ込むシンプルな作戦で行く』

 

作戦自体はシンプルもシンプル、全くもって普通の作戦だ。だが寧ろ、問題はここからである。

 

『で、だ。肝心の戦力なんだが、正直想像がつかない。これを見て欲しい』

 

スクリーンに映し出されたのは、Ville Pimordialeの衛生写真である。砂漠には不釣り合いな要塞ではあるが、ズームで表示されたのは中にある兵器群達だ。

 

『対空戦車ツングースカ、LAR160自走多連装ロケット砲、カエサル自走砲、果てはチェンタウロ戦闘偵察車、PL01。しかもマーキングには、鎮守府襲撃時にシリウス戦闘団が使っていた物が描かれている。

もう分かるだろ?恐らくこの戦争、奴らも絡んでやがる。簡単で楽しいテロリスト狩りが一転、ガチの戦争に化けやがった。しかも奴らは髑髏兵、バーサーカーと呼ばれる人造兵器まで持っている。

この髑髏兵とバーサーカーの詳細は後からするが、お前達にはこの髑髏兵、バーサーカーの対処法を改めて学んで貰う。特に今回からは、これまで基礎部分しか教えていなかった艦娘とKAN-SENも対象だ。いいか!今回の敵は、ある意味で深海棲艦よりも強力だ!!舐めてかかるな!!!!』

 

長嶺の言葉に、全員が「おう」と答える。本当ならサクッと終わらせたい相手ではあったが、シリウス戦闘団がいるのならそうもいかない。色々と考えることは山積みだ。

ここからはグリムにバトンタッチし、どこの部隊が何処を攻めるのか。艦隊の編成はどうなるか等を発表していき、この全体会議も終わった。執務室に戻る道すがら、長嶺はラーマエルをとっ捕まえる。

 

「ラーマエル」

 

「どうしたサンダーボルト?」

 

「一応もう一度だけ聞かせてくれ。URの連中とシリウス戦闘団の関わりについて、お前は全く知らないんだな?」

 

「あぁ。そもそも、そのシリウス戦闘団なんて名前すら、ここで初めて聞いたくらいだ。というかそもそも、俺もファーストキングについては知らない事が多すぎる」

 

ラーマエルことイスマエルは知っての通り、ほんの1ヶ月前までは九大公の1人、ラーとしてURに所属していた。九大公はURの幹部であり、言うなればファーストキングの側近である訳だが、彼がCIAのエージェントだったというのも知らなかったらしい。

 

「トーラス・トバルカインという名に聞き覚えは?」

 

「………ないな。いや待て……」

 

「知ってるのか!?」

 

「いや、トーラス・トバルカインなんて名前は知らないが、だがファーストキングが何度か電話している相手がいたな。名前は確か……リングスミス?」

 

「……コードネームか?」

 

リングスミスなんて名前は、こちらも初めて聞いた名前である。一応グリムに頼んで、シリウス戦闘団関連の情報を洗って貰うが多分出てこないだろう。

 

「相手が何者かは俺も分からん。だがファーストキングはあの時、カンパニーがどうのとか言っていた。あの時はてっきり何処ぞの企業がちょっかいかけて来てるのかと思ったが、今となっては…」

 

「CIA関連だと?」

 

「あぁ。あの人が本当にCIAのエージェントって言うなら、カンパニーの意味も丸っ切り違う。本来の意味ではなく、CIAを示している可能性も出てくる」

 

CIAの別名と言えば「ラングレー」が有名だが、この様に「カンパニー」というのもある。因みにFBIは「ビューロー」と呼ぶのだとか。

 

「一応洗ってはみるが、痕跡はないかもな」

 

「やはりか」

 

「プロなら足跡なんざ残さない。それにファーストキングに直通で話せるっていうなら余程の高官か、或いは同じような特殊な組織へ潜入しているエージェントの可能性が高い。いくらCIAが陰謀オンパレードの闇が深い組織とはいえ、普通の職員に「世界最大のテロリスト兼麻薬組織のボスはCIAエージェントです」なんてバレれば一発アウトだろ」

 

幾らCIAと言えど、全員が全員ジェームズ・ボンドの様な秘密諜報員というわけではない。オペレーター、事務員、その他色々いるし、そういう秘密諜報員同士でも誰がどんな事をしているか知らないというのが殆どだ。誰が何処でどんな任務を行っているかを全て知っているのは、上の人間のみである。

 

「確かにURは俺が言うのもアレだが、基本的にアメリカみたいな大国からは嫌われていたからな。しかも国どころか、正義とやらを信奉する国民にまで。そんな敵の首領がアメリカの、それもCIAの人間と露見すれば大変な事になる。それこそ大統領の首がすげ変わるレベルのな」

 

「今更もう遅いのは分かっているが、どうやら知らず知らずの内に俺達はヤバい底なし沼に足を踏み入れたんだろうな」

 

「全く。後悔はないが、それでも色々と複雑だよ」

 

「…………イスマエル、今ならまだ間に合うぞ。降りたって文句は言わない」

 

ラーマエル以下、新設された第六大隊の人間からしてみれば、今から攻めるのは元々の古巣。しかもついこの間まで居た場所だ。それを攻撃するのは、こういう職業を選んでいても簡単に割り切れる事ではない。

 

「別に俺は、あの組織を滅すのは寧ろせいせいするって考えてる。拾ってもらった恩はあるが、もう返しきってるだろ。それにあの組織の人間は、上に行けば行くほど基本的に全員人格破綻者だ。唯一マトモに会話できたのは、そうだな。六騎士のゼビオソ位だな。アイツは爆弾にしか頭にないヤバイ奴だが、酒の趣味は悪くない」

 

「本当にそれでいいのか?」

 

「あぁ。それに部下の連中も全員が俺の子飼いだ。忠誠を誓っているのは、組織ではなく俺だ」

 

「それ、総隊長としては聞き捨てならんのだが?」

 

「なに、俺が裏切らなければアイツらも裏切らないって話だ」

 

全く解決していない。それつまり「俺が裏切る時が来たら、大体全員裏切ります」という事に他ならない。流石に、幾ら何でも「はいそうですか」とはならない。

 

「なんだ、気にしてるのか?」

 

「気にするわ!普通に恐ろしいだろ!!」

 

「心配すんな。取り敢えずはお前達と居るのが楽しいって思ってるから、早々裏切ることない。それに何より、俺達は傭兵だ。お前の下についた今となっても、その本質は変わってない。俺達は契約を遵守する。今回で言えば、そうだな。お前が俺達に不当な扱いをしなければ、例え今の何十倍の金を積まれようと裏切らない」

 

「つまり不当な扱いを受け続けていたから裏切ったと?」

 

「そうだ。俺達からすりゃ、渡りに船ってやつよ」

 

ある意味で傭兵というのは分かりやすい。要は金だ。『金の切れ目が縁の切れ目』という言葉通りで、金が払われなければ当然、傭兵は依頼主に仕える義理はない。金を払い続ければ裏切ることも無い。

傭兵もあくまで信用商売であり、一度裏切れば長期的には基本的にマイナスとなる。よほどの馬鹿でなければ、その辺りはちゃんと理解している。まして一流の傭兵派遣企業ともなれば尚更だ。

 

「……まあ、今はそれでいいか」

 

「そうだ、それでいい」

 

そう言って腕を組み、うんうんと頷くラーマエル。なんかツッコミ入れるのもアホらしくなって来たので、今はもうそれで良いだろう。こういうタイプは、そういう主義とか考え方には強いこだわりを持っている。プライドに引き合いに出した以上は、早々裏切る事もないだろう。

ラーマエルと別れ、そのまま執務室へと向かう。執務室には大体入り浸っているオイゲンと、本日の秘書艦である鹿島がいた。

 

「お帰りなさい提督さん」

 

「あら、来たのね」

 

「あら来たのねじゃねーよ。ここ俺の執務室だからな?」

 

最近は大体いつでもオイゲンが居て、執務を手伝ったり1人でのんびりオンラインで雑誌を読んでたりと、かなり自由奔放に過ごしている。まるでデカい猫だ。

 

「提督さん、何か手伝うことはありますか?」

 

「手伝うねぇ。なんかあったか?」

 

脳内にあるタスクと、念の為にパソコンに記載してあるタスクとを見比べるが、今日は仕事という仕事はない。あるにはあるが、基本的に長嶺単体で終わる事ばかりだ。

 

「無いわ」

 

「1つもですか?」

 

「いや……マジで無いね。うん」

 

「あっ、じゃあ私、例の髑髏兵対策聞きたいわ」

 

「いやそれ、動画付きの説明を全員に一斉送信してるぞ?」

 

会議の後、髑髏兵及びバーサーカーの基本情報と対策を合わせて動画で送信している。訓練で使うAR装置にも、既にステータスは入力済みだ。

 

「だとしてもよ!ねぇ鹿島?」

 

「はい!是非、提督さんに直接教えて欲しいです!私、普段は教える立場であって教わる事はありませんし」

 

「まあそう言うなら、良いけど。そんじゃ取り敢えず、コイツらがなんなのかを改めて説明しておくか。髑髏兵ってのは人間に特殊なウイルスを注入し、人為的に無理矢理進化させたスーパーエリート兵士だ。

コイツらは皮膚を硬化させることで銃弾に耐える装甲を持ち、皮膚の色をカメレオンみたいに変えて実質透明になれて、どういう原理かは知らないが短距離の瞬間移動が可能で、高い運動能力と生命力を持ち、感覚器官が異様に発達した化け物だな」

 

「えっと、それ勝てないんじゃ……」

 

「それに勝てるのアンタだけよ……」

 

鹿島とオイゲンは、余りのスペックに完全に固まった。そんな相手を倒すなんて、長嶺以外じゃ無理だろう。戦車とか爆撃機を投入して、周りごと全部吹っ飛ばす勢いの攻撃でもないと常人には無理だ。

 

「それはお前らの言う通りだ。普通なら俺クラスでもないと無理だろう。だがな、やりようはある。まず装甲。あくまで弾くのは普通のライフル弾であって、霞桜の銃ならダメージは与えられる。というか正直、至近距離からのショットガンなら、普通のでもある程度は効果があるからな。透明化も動体感知センサーとサーモには反応するから、これも看破できる。

運動能力はどうとでもできるし、生命力の高さも攻撃を当て続ければ倒せる。感覚器官も霞桜だろうがお前達だろうが、装備で人為的に向上させることができる。しかもこっちはオンオフ切り替えが出来るが、向こうはそれができない」

 

「なら瞬間移動はどうするの?」

 

「そこだ。詰まるところ、髑髏兵の攻略で最も面倒なのは瞬間移動だ。こればっかりは仕組みが分かんねぇから、妨害のやりようが全くない。お手上げだ。

だがこの瞬間移動、万能という訳じゃない。射程は大体50mが限界だし、瞬間移動はするが出現時は数秒のタイムラグがある。その間にカウンターを合わせることは可能だ。しかも出現の瞬間にも、独特の音が出てる。完全な無音じゃないから探知は可能だ」

 

「探知って、どうやるんです?」

 

「レーダーだよ。お前達の艤装とシービクターなら装備にレーダーがある。それを持ってすれば、転移されても分かる」

 

そう。髑髏兵は強く厄介ではある。だが霞桜の装備と艤装という、本来であれば投入できない手段を用いれば撃退は可能なのだ。しかも髑髏兵にとって、戦場では常に一方的な狩り。猛者数人で寄って集って戦えば倒せる可能性もあるが、基本的な戦術は集団戦法。それを倒せるのは、同じ髑髏兵か長嶺と長嶺が親友と呼んだあの3人だけだ。

 

「オマケに、奴等は訓練をしていない」

 

「どういうこと?」

 

「髑髏兵のウイルスはこれだけのトンデモチートを手に入れるだけあって、それに似合うだけのデメリットを孕んでる。ウイルス投与後、96時間で感染者は死亡する。お陰で基本的に髑髏兵になる前に訓練を積み、その後に投与する。とは言えそれでも、ウイルスの恩恵を生かしきる事はできてない。つまり経験則で言えば、こちらに圧倒的なまでのアドバンテージがある」

 

「万能というわけではないのですね」

 

鹿島の言う通り、万能というわけではない。強いのは強いが、かと言って何でもできる訳ではない。むしろそういう意味では、こちらの方が遥かに強い。

 

「次はバーサーカーだが、まあこっちは別に対策も何もない。単なる防御力お化けのパワータイプ本能直結型化け物だから、適当に火力集中してれば簡単に倒せる」

 

「あら、そうなの?」

 

「小銃弾程度は防ぐ皮膚と、車を簡単にぶん投げる怪力を持っていて、食欲か性欲、或いはその両方が爆発的に向上する。しかも偶に腕が増えてたりする。使えるのは1ヶ月だけ。それだけの怪物だ」

 

「いやそれ、普通に脅威です……」

 

「いやいや。これ、あくまで普通の兵士目線ならの話だ。普通の兵士なら脅威だが、こっちは日頃から深海棲艦相手に戦ってる霞桜と、人の身でありながら艦艇の装備をぶん回せるお前達。バーサーカーだろうがバーサーカーロードだろうが、それは勘定に入ってない。勝てるさ」

 

今後の訓練でも分かるだろうが、このバーサーカーは行動と本能は直結している。お陰で動き自体はとにかく読みやすい。基本直線でしか動かず、騙し討ちやらトラップやらは仕掛けてこない。これほどまでに敵として、わかりやすい相手はいない。

 

「でもそんな簡単に倒せる相手なんですか?」

 

「バーサーカーはともかく、髑髏兵はその限りじゃないな」

 

「その為の短期集中訓練ね?」

 

「そういうこと。どうせ暇だし、俺が直接教えよう。演習場行くぞ」

 

3人はセントラルタワー内にあるメインエレベーターから、そのまま地上に上がる。このセカンド・エノの地上は、知っての通り廃墟だらけの島だ。しかも大半の施設は地下ないし海中であるため、殆ど地上部分は廃墟があるだけ。そこで屋外の対人戦闘用の演習場か、グラップリングフックを利用したパルクール場として使っている。

この演習場には普通の的や標的ドローンを自動でランダムに配置する装置は勿論、ARとホログラムを用いた極めてリアルな演習システムも存在する。今回の対髑髏兵対策訓練では、この演習システムを用いて戦う。幾ら霞桜とて流石に、リアルで髑髏兵の転移は再現ができない。一応レリックが頑張ったらしいが、当然無理だった。

 

「それじゃあ、まずは俺がやってみせるから、取り敢えず見てろ」

 

オペレーターの隊員に合図を送り、演習システムが機動する。長嶺の正面に偽物とは思えない程にリアルな髑髏兵が現れ、そのまま何処かに瞬間移動で消える。

 

「何処に行った?」

 

転移されては生身ですぐに見つけるのは難しい。普段なら殺気やら何やらを勘で掴めるが、今の敵は心を持たない演習システムが作った偶像。その手の手段では探知のしようがない。

だが次の瞬間、背後から「ブォン」という独特の音が鳴る。転移した時になる音だ。タイミングを合わせ突き刺そうとしてくるマチェットを、そのまま髑髏兵の腹に突き立てその瞬間に銃弾を叩き込む。

 

「とまあ、こんな感じだ」

 

「いや今、生身でやってのけたわよね!?」

 

「これじゃお手本になりませんよ……」

 

「そう言うなって。ほら次、お前らがやってみろよ」

 

2人も試しにやってみるが、これが全く勝てない。騙し討ちでいきなり来られては、かなり難しいのだ。だがそこは流石、長嶺の下で戦って来ただけはある。回数を重ねるごとに動きが良くなり、31回目にして攻撃を当てることに成功した。

 

「や、やった!」

 

「流石に疲れるわね……」

 

「お前達、よくやったな。今の感覚を忘れるな。髑髏兵相手に単騎での攻撃は、余程慣れてないと単なる自殺行為だ。だが連携して、死角を補えばその限りじゃない」

 

「こうして訓練を受けると、それが良くわかりますね………」

 

「お前ら、今日はもう解散だ。どうせ秘書艦業務もないし、部屋に帰って休め」

 

2人はフラフラになりながらも、部屋へと戻っていく。長嶺はそのまま、秘密基地へと向かう。この場所は長嶺がこっそりセカンド・エノの適当な廃ビルに作った、長嶺だけが知る秘密基地。廃墟をそのまま何も改装せずに利用しており、あるのはペットボトル数本が入るミニ冷蔵庫、ハンモック、キャンプ用のミニライトとミニコンロ。後は元からある壊れた小型のソファだけという、ザ・秘密基地である。

長嶺は懐から衛星通信用のイリジウムアンテナモジュールを搭載した、特殊なスマホを取り出してある男に電話をかける。

 

「よぉ、ヴラースチ。久しぶりだな」

 

『この電話に掛けてくるとは、何の用件でしょう。ガスパージン長嶺?』

 

相手はロシア最大のマフィア組織『レニングラード』のボス、ヴラースチと呼ばれる男だ。ヴラースチとは権力という意味であり、彼はネット上で確固たる地位を確立している。

 

「ヴラースチ。1つ頼みたい事がある。お前が運営しているサイト、アレを買わせてくれないか?」

 

『何を馬鹿な。あのサイトを渡す訳がないでしょう。殺しますよ?』

 

レニングラードの収入源は、世界最大の闇サイト『Зловещий узел』である。日本語に直すと『邪悪な結び目』という意味になるこのサイトだが、実を言うと霞桜も大変お世話になっているサイトでもある。設立当初の調達はこのサイトだったし、自分達で全て賄えるようになってからも情報の入手、敵から奪って来た武器やら麻薬はここで換金しているし、マネーロンダリングなんかでもここを使っている。

なのだがこのサイトはURの連中も、物資の購入から手に入れた諸々の商品を流すのに使っている。何せこのサイトは銃や弾薬、違法薬物とそれを作る化学薬品を筆頭に、個人情報やら暗号資産、人間、暗殺者や運び屋等の違法なお仕事をしている連中との橋渡し、偽造品、盗品、不法な医療サービス及び臓器、カルト的オカルト的物品、銀行、果ては戦車や戦闘機の様な兵器や政府の裏情報まである。URにとってもいい市場なのだ。

 

「まあまあ。別に二束三文で買い叩く訳じゃない。ちゃんとお前に利のある話を持って来てる」

 

『ほう?まぁ、あなたがそういうのです。お得意様の話位は聞いてあげましょう』

 

「実を言うと最近、Зловещий узелには世界各国の警察やら諜報機関が入っている。それも相当数だ」

 

『全ては把握していませんが、それでもある程度は把握していますよ。それが何か?』

 

「連中、お宅のサーバーからデータを抜き取ったらしい」

 

『そんなバカな!!!!』

 

闇サイトというのは潰すのが難しいが、データが手に入れば容易に潰せてしまう。何せどんなに頑張ろうと、所詮はIT。ITの弱点はサイトの弱点でもある。

 

「俺の知り合いが教えてくれたよ。それにどうやら、NSAとCIAが共同で開発中のプロトタイプOSを使ったらしい。痕跡は無いだろうよ」

 

『まさか助けるから寄越せと!?』

 

「いや、悪いが助けようは無い。データ取られてるし。そこで俺達が提供するのは高度なセキュリティシステムと、新サイト開設の凡ゆる支援だ」

 

『…………どういう意味だ?』

 

「最早時限爆弾が仕掛けられたも同然のサイトを切り離し、新しくサイトを作ろうぜって話だ。そうすればダメージは最小限で済む」

 

実際かつて覇権を握っていたシルクロードの様な闇サイトは、同じような手口で閉鎖に追い込まれている。Зловещий узелは覇権サイトが軒並み潰された、群雄割拠の戦国時代に生まれたサイトだ。当時としては世界最高峰のセキリュティと暗号化性能を持っていたのと、その後の深海棲艦による世界的な情勢不安が追い風となって現在の地位にまで上り詰めている。それ故にデータ漏洩の怖さは良く知っている。

 

『しかし、あなたは今のサイトを買って何のメリットがあるのです?』

 

「まあ、普通なら無いわな。だが近々、俺達はURを攻める。もしその前にマーケットだったЗловещий узелが、ICPOにでも摘発されたらどうなる?」

 

『ッ!?…………恐ろしいですね。しかもそれをやる為だけに、サイトを丸々買うと?』

 

「あぁ。別途で金も出そう。そうだなぁ、5000億ルーブルでどうだ?」

 

『……………いいでしょう。金は問題ありません。新サイトについては?』

 

「最新鋭のセキュリティシステム、暗号化技術を提供しよう。見返りとして我々はЗловещий узелの運営権の譲渡、それから新サイトでの手数料免除と継続的な情報提供を求める」

 

『取引成立です』

 

ヴラースチは典型的なインテリ野郎であり、如何にもなメガネをかけている。今頃電話口の向こうでは、メガネを得意気にクイッとしてるだろう。何はともあれ、これでURは物を売る事も買う事もできなくなる。銀行からの引き出しも不可能だ。そのまま長嶺は、イギリスへと電話を掛ける。

 

『おやおや、テロリストからの電話とは。私を失脚させるつもりかね、Mr.長嶺?』

 

「そんなつもりはなかったが、失脚させるのも面白そうだ」

 

相手はMI5 G Branch(国際テロ対策部)部長、ハワード・アンダーソンである。生憎とICPOにコネはないが、この男であれば強力なパイプを持っている。

 

『それはごめん被るね。それで、用件は何だ?』

 

「世界が血眼になって捜査してる闇サイト『Зловещий узел』それの経営権を俺が買い取った」

 

『ほう』

 

「ほうって、なんか他にあるだろ言うこと。「びっくりしたー」とか「なぜお前がそれを持ってるー」とか」

 

『いや、特にないが』

 

危うく力が抜けたまま、下に落ちそうになる。このアンダーソンという男、優秀ではあるが基本的にめんどくさがりなのだ。職責なんざ興味なく、大体こんな素っ気ない反応を返す。だが先述の通り優秀なのは優秀なので、問題はないだろう。

 

「…………はぁ。もういいや。で、このサイトをICPOにリークさせて潰して欲しい。できるか?」

 

『できなくはないが、何故そんなことを?』

 

「パーティーの準備とだけ言っておこう。まあ、お前らの仕事がちょっとばかり減るから心配すんな」

 

『そういうニュースなら大歓迎だ。楽しみにしておこう』

 

これでЗловещий узелは終わる。ICPO、インターポールという国際機関が閉鎖に追い込んだのであれば、CIAとNSAが確保したであろうデータも単なるゴミだ。そのデータは余り表に出されては新サイトでも困るだろうし、こういう終わり方ならURの連中も攻撃だとは思わない。完璧だ。

 

「さぁ、楽しんでくれるかな?」

 

そう言いながら長嶺は高らかに笑う。この攻撃により、URは途轍もないダメージを受けることになる。補給を断たれて短期決着を取らざるを得ず、そもそもの物資も足りない物がチラホラ出てくる。何より構成員の士気は下がっている。元より規律や団結に欠ける組織である以上、実際の戦闘となればどうなるか予測もつかない。

URは世界最大の麻薬組織かもしれないが、所詮はそれだけにすぎない。対してこちらは軍隊だ。規律を叩き込まれ、一度命令があれば戦闘マシーンと化し、鍛え上げられた練度と連携、そして軍隊でしか運用できない高性能な兵器群を使う。

しかもこちらは、その軍隊がそのままテロリストになった集団だ。普通の軍隊では取れない行動、それこそマフィアやギャングが好む本来なら法で縛られている手段を行使できる。最早これはマフィアやギャング同士の抗争でも、テロリストの紛争でもない。純然たる戦争なのだ。

 

 

 

1ヶ月後 セカンド・エノ 格納庫区画

『お前達。いよいよ我々は日本を飛び出し、初めて『ワールドディザスター』として戦闘行為を行う。だが例え名を変え形を変え立場を変えようと、俺達は俺達なのは変わらない。だからこそ、俺はこう言おう。

ワールドディザスターとか、そんなのは全部忘れろ!!俺達は日本で!海軍で!江ノ島で戦っていたように、ただいつもの様に暴れるだけだ!!!!眼前敵を殲滅しろ!邪魔する物はぶっ殺しぶっ壊せ!

さぁ錨を上げろ!!マガジンを刺せ!!魚雷を装填しろ!!チャージングハンドルを引け!!航空隊を青空に羽ばたかせろ!!砲を構えろ!!相手が深海棲艦とか内部のクソ共から、世界的なデカいクソ共に変わっただけだ!!いつもの様に敵を殲滅し、俺達の邪魔する全てをぶち壊してやれ!!!!!!』

 

格納庫中に、家族達の声が響き渡る。英雄の頂点たる連合艦隊司令長官でありながら深海棲艦と密かに通じていた有史以来最悪の世界的裏切り者であり、今では国際指名手配犯となり付いてきた彼らもテロリストとなった。だがそうであろうと、彼らは何も変わらない。

 

「装備最終チェック!急げぇ!!」

 

「野郎共!出撃の時間だ!!!!」

 

「総員、車両搭乗!」

 

今回の戦闘では自律稼働型武装車改めロードスレイブが大量に投入される。その為、隊員の大半とフリーダムフリートの面々は車に乗り込んだ上で、カーゴスペースに乗り込む事になる。

 

「メインシステム起動」

 

『こんにちは閣下。自律稼働型武装車ロードスレイブ、マスターシロン。メインシステム起動しました。

ガソリン、満タン。各武装、満載装填。火器管制システム(FCS)、正常。エンジン、正常。電気系統、正常。オイル、正常。タイヤ空気圧、正常。ブレーキ、正常。自律稼働モード、正常。車両制御システム、オンライン。指揮通信システム、オンライン。データリンク、オンライン。各部異常は認められません』

 

「了解した」

 

車両達はロボットアームが迅速かつ丁寧にカーゴスペースに納めていき、普通に手動で入れるよりも遥かに早く搭載できる。この間に戦闘機隊は一足先に空へと上がる。

 

「コントロール、こちらメビウス1。戦闘機隊、離陸準備完了。これより地上に上がる」

 

『コントロール了解』

 

島の中でも一際大きな廃墟ビルから、管制塔がせり出す。それに合わせて恐らく元はメインストリートだったであろう通りから、航空機用の滑走路が誘導灯と共に上がって来て、数十秒で立派な滑走路が出現する。

 

「航空機発進。滑走路展開」

 

「ラジャー。滑走路、展開する。誘導灯展開」

 

「風向き、風速共に問題無し。離陸に支障は認められず」

 

「エレベーターハッチ解放。離陸準備よし」

 

一方地下からは地上へと繋がる超大型エレベーターが、戦闘機達を1分足らずで地上まで上げる。地上に到着しハッチが開くと、そこには滑走路と抜けるような青空が広がっていた。

 

「コントロールタワー。こちらメビウス1。全機、地上に上がった。離陸許可を求む」

 

『離陸を許可する。グッドラック』

 

「メビウス1ラジャー。Cleared for take off」

 

メビウス中隊を先頭に他のグレイア、フォーミュラー、カメーロ、レジェンドの各飛行隊も離陸。これに合わせて随伴のMQ58改ハイパーヴァルキリーも離陸し、各機と並走しアフリカ大陸を目指す。

 

『総隊長殿。戦闘機隊、全機離陸しました』

 

「では俺達も行こう。全機発進!!」

 

「オーライ総隊長!パーガトーリィより全機!!総隊長のお達しだ!行くぞ!!!!」

 

当然だが戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫弍型』は、数がべらぼうに多い。そこで島内にある4箇所の垂直発着口を解放した上で、本来ならエレベーターで上がるところを自力で上げる。更に滑走路につながる超大型エレベーターをフル稼働させて、とにかく素早く離陸させていく。

十数分後には、百数十機という巨大な航空機の群れが出来上がる。24機の戦闘機が先導し、編隊はアフリカ大陸を目指して飛んで行く。後の歴史に『堕ちた英雄達の逆襲』として名を刻む事になる戦争の幕開けである。

 

 

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