最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第百話アートは良く分からん

2時間後 アフリカ大陸 サハラ砂漠

「差し詰め、サンドクルーズって所か」

 

『詩人だなサンダーボルト。現地人も、砂漠を『海』と例える。間違いじゃないさ!』

 

セカンド・エノを出撃して早二時間、既に各部隊ごとに別れて進撃中だ。本部、第一大隊は憲兵隊長アドロアが取り仕切る『FOB A(アルファ)』、第二、第三大隊は爆弾魔ゼビオソが取り仕切る『FOB B(ブラボー)』、第四、第五大隊は暗殺者アラが取り仕切る『FOB C(チャーリー)』、そして長嶺と第七大隊は拷問官チュクウが取り仕切る『FOB D(デルタ)』に向かっている。

各艦娘とKAN-SENも各侵攻部隊に割り振られており、FOBを占領後は本陣のVille Pimordialeへ突入。斬首作戦へと移行する。

 

「にしてもまあ、何にもないわ。マジで見渡す限り砂砂砂。当然っちゃ当然だが、ラクダの群れ位あれよ」

 

『ラクダはアフリカの馬みたいな物なんですよ、総隊長さん』

 

無線でそう語りかけてくるのは、第七大隊の副長ワーデンである。元は何処ぞの部族の族長一家の次男らしく、アフリカの自然環境に詳しいレンジャーの様な存在だ。

 

「それは知ってるが、馬だって野生のがいるだろ」

 

『それが居ないんですよ。世界にいるラクダの内、その9割以上が家畜化されたラクダです。野生のラクダは確認されている限りでは、中国の砂漠に数百頭程生き残っています。そんな訳で砂漠のラクダは、全部飼われてると思ってて大丈夫です。間違っても食べないでください』

 

「……食べれんの?」

 

『食べれますよー。この辺じゃ、祝い事のご馳走です。七面鳥みたいな物ですよ。尤も、焼きじゃなくて丸煮ですけどね』

 

全く想像がつかない。というかラクダは馬並みに大きく、荷物どころか人を背中に乗せる事ができる大きさだ。そんなサイズの動物を丸煮とか、イメージすら湧いてこない。

だがラーマエルの部下である第七大隊の隊員達は食べた事があるらしく、なんか味の話で盛り上がってる。

 

「お前ら食べた事あるのかよ」

 

『あるぞー』

『ありまーす!』

『美味いっすよ意外と』

『ただ量がエグいっす』

『食べた翌日、全員でトイレ争奪戦です』

 

「あの大きさだからな。例え子供のラクダでも、数十人単位で腹を満たせるわな」

 

『あー違う違う。ラクダ本体じゃなくて、付け合わせの米でやられたな』

 

「いやアホか!!」

 

メインディッシュじゃなくて、付け合わせで腹を膨らませてどうする。そんな馬鹿話をしていると、随伴している移動司令拠点『プレジデントファイター』のレーダーが接近してくるヘリコプターを探知した。

 

『総隊長、指示を』

 

「ラーマエル及び配下の野郎共。丁度いい、その力を試してみろ」

 

『いいねぇ。やったろうじゃないの!!行くぞ野郎共!!!!』

 

『『『『『『うっしゃぁぁぁ!!!!!!!』』』』』』

 

ラーマエル指揮下の第六大隊は、新たに機甲部隊として編成されている。使う戦車は特殊強襲戦車『チャリオット』だ。通常の戦車を踏み潰せる程に大きく、堅牢で、そして戦艦のように重武装な戦車という言葉ですら物足りない兵器だ。

 

『Mi24Pハインド!エンブレムは俺達の古巣だぜ』

 

『ちょっと抵抗はあるが、あんなクソみたいな生活よりも楽しいこっちの方が断然良い!!』

 

『やろうぜ!!』

 

『一斉攻撃だ、撃て!!!!』

 

ラーマエルの号令の下、一斉に高出力型TLSを撃つ。TLSこと戦術光線システム(Tactical Laser System)は、読んで字の如く光学レーザー兵器である。本来なら戦闘機用だが、これを改造し地上配備型やより大型の航空機に搭載する様に開発されたのが、この高出力型である。

通常のTLSが航空機を一薙ぎで溶断するのに対し、高出力型ともなれば一撃の下に戦車を消滅(・・)させる威力を持つ。そんなのを幾ら「空飛ぶ歩兵戦闘車」という名前がついているハインドでも、マトモに真正面からモロにお見舞いされればどうしようもない。ハインドの末路に、大隊の隊員達はガラの悪そうな豪快な笑い声を上げていた。

 

「ま、まるで愚連隊だな」

 

『これで良いのかしらね?』

 

「まあ、そんだけフラストレーション溜まってるんだろ。聞けばかなり冷遇されている割には、1番酷使されてたらしい。しかも「戦うしか能がない」とか何とか、裏では陰口叩かれていたそうだ」

 

ラーマエルが言うには、UR内での傭兵部門は格下扱いだったそうだ。単純な戦闘能力では、六騎士の部隊の方が強い。一応市場規模だけなら組織内最大規模だが、売上の方は市場の大きさでカバーしているだけで実際の単価は安く、裏では散々な言われようだったそうだ。

だが霞桜の場合、全員がプロフェッショナルではあるが、できない者には技術を与えて能力の底上げをしていく方針が出来上がっており、傭兵というだけあって各地を転戦してきた歴戦の猛者達であれば習得も早く、逆に砂漠という環境に限っては霞桜以上のポテンシャルを持っていた事もあり、逆に既存メンバーからも教えを請われていた。その結果、自己肯定感が上がったようで、今の様に嬉々としてUR相手にも戦闘を挑んでいる。

 

『敵機甲部隊も来ました!シルエット識別……T80U!!』

 

「第七大隊下がれ。今度はこっちが遊ばせて貰う。全艦、艦隊戦を仕掛けろ」

 

長嶺の指示に、フリーダムフリートが動き出す。座席に座りながら艤装を纏っていき、装備し終えると同時に屋根が開いて射出。そのまま車両はオートモードに切り替わり、援護態勢に入る。

 

「こっちもだ、戦闘用意!」

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

マスターシロンも戦闘モードに切り替わる。戦闘状態ではAIが切り替わる為、ボイスも男性の声となる。それと同時に車体に内蔵されていた武器が展開され、照準が自動的に戦車にロックされる。

 

「全艦、攻撃開始。戦車だからって侮るな。迷いを捨て、敵を排除しろ」

 

彼女達は戦う為に生まれてきたとはいえ、実際に人を殺したことは少ない。というか大半がその経験がなく、あっても大人数でやっている為、余り実感というものが無い。攻撃すれば相手が死ぬという、単純明快な戦場の絶対法則であっても、彼女達には麻薬の様に作用する可能性がある。その時のために、長嶺は後方に控え援護の準備をしている。だがどうやら、長嶺の心配は杞憂だったようで彼女達は果敢に攻撃を敢行していく。

 

「来ちゃったか。仕方ない、始めるよ」

 

「さあ、始めましょうか!My dear guns... Open fire!」

 

「雲龍型輸送艦ですって?冗談。雲龍の本当の力、見せてあげるわ」

 

「要するに全部倒せばいいのよね?Gotcha♪」

 

「龍神の砲撃を喰らうといい――」

 

全員、一切の迷いなく攻撃を開始。しかも本来であれば対艦用の兵装である以上、戦車では一溜りもない。砲弾の雨に何の抵抗もできず、というか視界内に目標であるこちらを捉える事なく、全車壊滅した。

 

『敵性反応、消失しました。オールクリア。警戒モードに移行します』

 

「何というか、我が部下ながら恐ろしい位頼もしいな」

 

指揮官として、部下の成長というのは嬉しいものだ。だが成長の方向が、ちょっとばかり心配になる方向ではある。まあテロリストに身を落とした今では、最早遅すぎる話だ。戦場でビビって尻尾巻かれるよりは、一緒に戦ってくれる方が楽である。

そんなことを考えながら、FOB Dへと進撃する一行。FOBの高い壁が見えてきて、もう少しだというところで問題が起きた。なんとFOB周辺に、巨大かつ深い塹壕が掘られていたのだ。

 

「サンダーボルト、どうする?」

 

「どうするもこうするも、チャリオットでも無理だろこれ。ここからは歩兵戦だ」

 

「だよなぁ。はいはーい野郎共ー。チャリオットはオートモードに切り替えて、仕事を始めるぞ」

 

チャリオット他、兵器群は置いていかざるを得ない。急過ぎて下りも上りもできないし、長さもかなりあるのでチャリオットロードがフルスピードで突っ込んでジャンプしても、砂の壁に突き刺さる未来しか見えない。

だが歩兵であれば話は別だ。隊員達はジェットパックを使えば一飛びに越えられ、艦娘とKAN-SENも新たに艤装に反重力装置を仕込んである。未だ色々と制約が多い兵器だが、この位なら余裕で飛び越えられる。

 

「お前達!!UR傭兵部門流のご挨拶を教えてやれ!!!!」

 

「一つ!ノックは盛大に!!!!」

 

チャリオットとチャリオットロードの火薬、電磁投射両用砲が一斉に、正面の壁に向けて撃つ。壁は轟音と共に崩れ去り、辺りに破片と粉塵を撒き散らして両者の視界を奪った。その瞬間を逃さず、すかさず攻撃に移る。

 

「一つ!取り敢えず入る前にばら撒けるもの全部ばら撒け!!うっしゃぁ!!!!!」

 

軽機関銃のアイアンストーム、或いはシービクターの専用兵装のイシスを持っている隊員が破口から中に弾丸をばら撒く。薬莢の転がる音が心地いいが、銃声の方は重なりすぎて一つの音のように聞こえる状況だ。

 

「一つ!お辞儀、挨拶の代わりに爆発物!!そーれ!!!!」

 

その後ろから、無数のグレネードやらロケット弾が撃ち込まれる。中から爆発音が鳴り響き、こっちにまで爆風が来る始末だ。

 

「以上3箇条!後は弾丸の押し売りセールだ!!!!!」

 

「……いやー、古巣に対して容赦ないねー」

 

もう既に広場というか、表にいた連中は大半が吹き飛ばされてる。これには敵ながら、同情を禁じ得ない。だがそれよりも考えるのは、第七大隊の暴走っぷりは霞桜に相応しいという事である。何せ世界中のヤベェ連中が集まりまくっているのが霞桜であり、その個性は半端ないものだ。

そんな訳で新参者がこういうド派手な大暴れをすると、先輩隊員たちは大喜びで仲間と認めるという風潮がある。この暴れ方なら、仲間どころか同志として認められることだろう。

 

「サンダーボルト!どうやら敵は、中に逃げ込んだようだぞ!!」

 

ラーマエルの報告に、長嶺は面倒臭そうな顔をしながら正面の建物を睨む。てっきり如何にも前線キャンプな場所かと思いきや、バリバリの要塞拠点。しかも中に入る扉は固く閉ざされて、絶対入ったら面倒な場所である。だが入らなければ、攻略はできない。

 

「突入隊を編成しろ。一部はここに残り、念の為に警戒しておけ。内も外もな。編成は任せる」

 

「オーライ。とっとと決めよう」

 

ラーマエルは兵士の特性を鑑みながら、手早く突入部隊を選出し編成していく。フリーダムフリートの方も旗艦級の戦艦と空母が手早く考えてくれたお陰で、意外と早く決まった。

 

「よし。それじゃ、行くぞ!!」

 

『ようこそ侵入者の皆さん』

 

「………誰か、なんか言った?」

 

なんか今、聞いたことが無い女の声が聞こえた。とりあえず艦娘とKAN-SENの居る方向を全員で見るが、当の本人達も困惑している。

 

『ちょっ!こっちだって!こっち!!』

 

「………総隊長さん。もしかしたら、幽霊かもしれません」

 

「ワーデン!?」

 

「ここは拷問官のいる拠点ですよ?非業の死を遂げた者達が、日本で言う、えっとじ、じ、じ、ジバニャン?」

 

「間違って………いや、外れでもないか。地縛霊の事だろ」

 

「あーそれです!その地縛霊がいるかも…」

 

あの猫妖怪も、トラックに轢かれて死んだ猫の地縛霊という設定だし、一応カスってはいる。そんな馬鹿話をしていると、スピーカーから大音量で中性的な声の怒鳴り声が響いた。

 

『こっちだって言ってるでしょうがぁ!!!!!』

 

「ぐえぇぇぇ!!!!」

 

「音波兵器だ………」

 

「うるっせぇ!!!!」

 

『全く。改めて、ようこそ侵入者諸君。このMaison du sang et du chagrinが主、チュクウが歓迎してあげるわ』

 

Maison du sang et du chagrin。フランス語で血と嘆きの館という意味だが、拷問官には相応しい名前だろう。

 

「生憎と、別に俺達はアンタのティーパーティーとか晩餐会に出席する為に来たんじゃないぜ?」

 

『大体予想はついてるわよ。前はよく来たわよ、アンタらみたいな命知らずが。でも最近は来なかったから、久しぶりでアタシも嬉しいのよ。だから特別に、アタシとゲームする権利をあげるわ。そうねぇ、4人。アンタらの中から4人、代表を選びなさい。その4人にだけ、入館を許可するわ。

それ以外が入ってきたら、全員纏めて吹き飛ばすわ。ここには自爆装置があるから、スイッチ一つで館ごと跡形もなく吹き飛ばせるわよ」

 

「………ラーマエル、オイゲン、それから長門!一緒に来い。招待に応じてやろう」

 

「我らも行くぞ」

 

「僕たち動物だしねー」

 

古巣で元は幹部だったラーマエル、艦隊の中で最も対人戦闘経験があるオイゲン、重装甲かつ高い攻撃力を持つ戦艦の中でも上位に君臨する艦娘の長門、そして八咫烏と犬神。この編成であれば、ある程度の事は突破出来るはずだ。

 

『決まったようね。じゃあ、扉を開けるわ』

 

重苦しい音と共に、目の前の壁が開き中への通路が開かれる。長嶺を先頭に中に入ると、扉は閉まり完全に隔離された。しかも外部への通信もできないオマケ付き。

 

「完全に閉じ込められたな」

 

「それで、どうするのだ提督?」

 

「どうするも何も、前に進むだけだろ。一本道で他に行く道がないんじゃ、進むしかねーよ」

 

「サンダーボルト!ここは例のワンコロ、犬神だったか?そいつを先行させろ」

 

「僕?」

 

正直疑問はあるが、ラーマエルに言われた通り犬神を先頭に進み出す。その道すがら、ラーマエルはチュクウについて色々と教えてくれた。かなりのサイコパス野郎であり、拷問が大好きで、脳神経に関する医学的知識を独学で手に入れたらしい。そしてこの拠点にも、恐らくかなり強力なトラップがあるそうだ。

 

「つまり我々は化け物の口に入り込んでしまった、そういう訳なのか?」

 

「そんな所だよ。噂じゃ、部下も偶にトラップで死んでるらしい。しかもトラップが全部原始的だそうだ。地雷とかじゃなくて……」

 

「止まって!そこの床下、多分トラップがあるよ」

 

犬神が立ち止まる。よく見ると、床に感圧版の仕掛けがある。取り敢えずそこに八咫烏が降り立つと、床が観音開きになり落とし穴が開いた。しかも下には、剣山のように刃物が無数に天を向いて設置されており、白骨死体やらミイラやら恐らく死後1、2週間の腐乱死体もあった。

 

「とまあ、こんな具合のベトコンがジャングルに仕掛けた様な罠だらけって訳だ」

 

「何ともまあ」

 

「……私達、見ない方がいいかしら?」

 

「正直、この臭いだけで吐きそうなんだが………」

 

ラーマエルも長嶺も、最早腐乱死体の臭いで吐く域は超えている。まあ臭いし、何より気分がいいものでもなく、オエっとはなるがそれだけだ。だがオイゲンも長門も普通の死体ならいざ知らず、こういう損壊の激しいのはキツいだろう。

 

「八咫烏、取り敢えず閉めようか」

 

「うむ。流石にこれは我とて気分が良い物ではないのでな」

 

「僕も鼻が曲がりそうだよ……」

 

そのまま進んで行くと、またも大量の様々な致死性トラップの洗礼を受けた。硫酸シャワー、落とし穴及びその先が溶鉱炉、棘付きの丸太が横から殴ってくる、毒ガスゾーン、火炎放射器、でかいハンマーが上から殴りにかかってくるetc。原始的なのが多いが、それでも殺意が高いのがよく分かる

 

「行き止まりね」

 

「みたいだな。提督、どうする?」

 

「戻ろうにも、横に部屋は無かったしな。ラーマエル、なんか鍵とかないの?」

 

「持っていると思うか?」

 

ここに来るまで見事に一本道で、他に道も無ければ扉もなかった。どうしようかと考えていると、またさっきの声がスピーカーから聞こえてきた。

 

『いやー、凄いねー。そんな君達には、アタシと謁見する権利を与えよう!そこから先はアタシのアトリエだから、トラップはもう無いよ。安心して進んでね!!』

 

そう言うと、目の前の壁がスライドして道が現れた。しかもこれまでのトラップゾーンとは違い、白を基調としたとても清潔な廊下である。トラップは無いとの話だが、それでも警戒しながら中に入る。

 

「アトリエ……という割には、見事に真っ白だな」

 

「チュクウは血が好きな奴だ。てっきり血液をペンキ代わりに塗っているかと思っていたが、どうやら違うらしい」

 

「血をペンキ代わりって……」

 

「うむ……まるで吸血鬼だ………」

 

かつてどこぞの女王は、若返る為に処女の生き血をシャワーの様に浴びていたという。ペンキの様に塗るやつがいても、驚きもするし感性も可笑しいが、あり得なくはないだろう。

 

「ねぇ主様!なんか壁にあるよ?」

 

「ホントだ。…………なんだこれ」

 

壁にあったのは額縁に入った水槽のような物だ。水槽の中には何か入っており、奥にもズラリと同じように並んでいる。

 

「水色の液体……水か?」

 

「水にしてはなんか、色が濃すぎない?」

 

「うぅむ……。ッ!!て、提督!!こ、これを見ろッ!!!!」

 

長門が血相を変え、水槽の真ん中に浮かぶ何かを指差す。よくよく見てみると、それは人間の指先であった。

 

「………サンダーボルト。チュクウの砦、つまりここには特殊なギロチンがあると聞いた事がある」

 

「おい…………それなんかもう、殆ど答えが出ているようなものだぞ……」

 

「そのギロチンは首ではなく、人の身体を等間隔に切り落としていく代物だそうだ…………」

 

長嶺以外の八咫烏と犬神含めた全員の顔がサーッと青くなる。話しているラーマエルも言いながら顔を青くしているし、長嶺も青くとまではいかないが普段見せない強張った表情をしていた。

つまり恐らくこの指先というのは、そのギロチンで落とされたものであり、この先の額縁にも同じように犠牲者の輪切り死体が収められているという事になる。

 

「行くのは怖いが、進むしかない。オイゲン、長門。怖かったら目を背けていい。俺達が誘導するから、目を瞑っても良いぞ」

 

「あぁ。流石にこれは我々でも、目を背けたくなるレベルだ。お嬢さん達が目を背けるのは、寧ろ当然というものだよ。何より、無理して見たら確実にトラウマになる。悪いことは言わない、見ない方がいい」

 

2人は顔を見合わせると、目を瞑り手を差し出す。長嶺が2人の手を握り、ゆっくりと狂気の空間を歩き出した。

 

「我が主、これが芸術なのだろうか……?」

 

「チュクウにとっては、芸術でありアートなんだろ。俺は芸術の造詣はないし、絵を見ても上手い下手しか感じないが、流石にこれは訳がわからん」

 

「噂じゃ、生きたままでこの所業をするらしい。正気の沙汰じゃない」

 

「うへぇ。拷問よりも酷いな」

 

2人がいないので口には出さないが、輪切りにされた顔は見た事もない位に顔が苦痛と恐怖に歪んでいた。ラーマエルの言う噂通りに、生きたまま輪切りにされていったのだろう。

この輪切りゾーンを抜けると、今度は豪勢な扉が見えてきた。安定の一本道なので、扉を開ける。だが今度も中々に凄まじく、夥しいまでの人間の標本が設置されていた。しかも縦に割られていたり、歯が全部無かったり、腹が切り裂かれていたりと、バリエーション豊かであり、人体の不思議展みたいになっていた。

 

「なんなのだこれは!!!!」

 

「これまさか全部本物………」

 

「……この臭い、人間のだよ」

 

「数百体はいるぞ……」

 

「標本がどうのと聞いたことがあるが、こんなにもか……」

 

取り敢えず近くの赤子、それも恐らく胎児の標本を確認してみる。どうやら犬神の言う通り本物で、プラスティネーション加工されてるらしい。

 

「ら、雷蔵!これ模型よね!?リアルな人体模型よね!?そうだと言って!!」

 

「生憎とコイツは本物の死体を加工した標本だ。プラスティネーションっていう、人間の体内にある水分と脂肪分を丸ごとプラスチックとか、合成樹脂に置き換えて保存する加工法だな。

気持ち悪いのは認めるが、これ自体は別に普通の技術だ。医学の発展にも寄与する、素晴らしい革新的な標本技術でもある。問題なのは、この死体が何処から湧いてきたかだろ。ラーマエル、その辺どうだ?」

 

「……恐らく、この中に俺が引き渡した連中も居るはずだ。攫ってきた連中の内に使い物にならない者だとかは全員チュクウが連れて行ったし、俺達が戦闘の中で確保した捕虜は全員ではないが連れて行かれている。恐らくその行き着いた先っていうのが拷問による死か………」

 

「この手のチュクウ言う所のアートの材料にされたって訳か」

 

「恐らくな………」

 

この標本の数は数百体、しかも齢80とか90の爺さん婆さんから、先述の胎児まで老若男女、全て網羅されている。恐ろしい限りだ。しかも縦に切られてるのとかは別として、全身が標本になっているタイプはポージングまでしてある。気色悪い事この上ない。

 

「取り敢えずとっとと進むぞ。全てが終わったら、纏めて火葬してやろう。流石にこんなプラスチックの塊になっちまったら、土葬や獣葬じゃ埋葬できねぇしな」

 

長嶺の一言で、一行はまた進み出す。次のゾーンに繋がるであろう扉を目前にした時、またしてもチュクウの狂いまくったアートが目に入った。世界各国の美女達が身体丸ごと全部、皮膚も剥がさずにプラスティネーション加工された上で、切り刻んで並べ替えたオブジェが大量に配置されていたのだ。

 

「標本の次はオブジェか……。チュクウとやらの宗教は知らんが、地獄行きは確定であるな」

 

「導きの神様が地獄行きって言うんなら、それはもう絶対だね」

 

「……お前らぁ。チュクウは絶対に殺すな、半殺しにしろ。セカンド・エノに連れ帰る」

 

「こ、殺せじゃないのか?」

 

ラーマエルは分からないらしいが、オイゲンと長門はすぐにピンときたようだ。二人の頭によぎる、河本山海の名前。あの男は長嶺の逆鱗に触れるどころかフルスイングでぶん殴った結果、長嶺によって捕えられて現在もセカンド・エノの何処かに幽閉されており、そこで終わりなき拷問を受け続けている。チュクウも同じ目に合わされるのだろう。

 

「ラーマエル。一つ、良いことを教えてやろう。我が霞桜に於いて、死とは時に慈悲だ。ここまでのクズには、最早死すら生温い。寿命尽きるその時まで、全ての技術を用いて時間をかけて丁寧に痛みを経験してもらう。アイツの大好きな拷問さ」

 

「サンダーボルト……お前恐ろしいぞ…………」

 

「恐ろしくて結構!行くぞ!!」

 

扉を開けると、中には玉座があった。人骨できた玉座だ。その玉座に黒髪の美しい女性、チュクウが座っていた。ちなみに男である。

 

「アタシのアートはどうだったかしら?」

 

「どうも何も、あんなの初めてよ!!」

 

「あれがアートだと言うのなら、貴様は狂ってる!!」

 

「おいチュクウ!テメェ、俺との約束を破ってんだろ!?なぁ!!俺達の捕まえた捕虜を、なんであんな目に合わせたッ!!!!」

 

「あれ?もしかしてその声、ラー?アンタ、そっち側に行ったんだ。へぇ。まあ、でも今は良いか。それで、そっちの指揮官さんは?」

 

「……俺の感想か?教えてやるよ。犬神!!」

 

「動くな!!」

 

犬神がそう叫ぶと、チュクウの身体は一切動かなくなった。意識は残っているので、本人はパニック状態である。

 

「な、なんで!!」

 

「コイツは妖怪、本物のモンスターだ。妖術ってヤツだよ。お前には今後、この世の苦痛という苦痛を味わってもらう。心配するな、殺しはしないから」

 

「くふ……ふふふ………」

 

クチュウは笑い出す。てっきり恐怖で可笑しくなって、狂って笑い始めたのかと思った。だが違った。奴は、歓喜の笑みを浮かべ言いのける。

 

「そっか!!!そうか!!!!!アタシもアートになるんだ!!ねぇ!!アタシをアートにするんなら、美しく最高のアートにしてよね!!!!!!!」

 

「く、狂ってる!貴様狂ってるぞ!!」

 

「なんで笑えるのよ!?」

 

「2人とも分かってないなぁ!!アタシはね、アートが好きなんだよ!!!!アタシがその一部になるなんて、こんな嬉しいことはないわ!!!!!!」

 

コイツは狂人の中でも筋金入りらしい。そう言って狂ったように、歓喜の大笑いを続ける。聞くに耐えない。

 

「犬神、黙らせろ」

 

「……そうだね。黙れ!!」

 

犬神がそう叫ぶと、チュクウは口を閉ざす。んーんー言っているが、さっきよりも断然マシだ。

 

「取り敢えず念の為、部屋を検める。チュクウは転がしとけ」

 

長嶺がそう言った瞬間、四方八方から敵兵達が現れる。数百人はいるだろう。しかもアサルトライフルに防弾チョッキまで着て、完全武装状態だ。だがこちらには艦娘とKAN-SENがいる。負ける要素はない。

 

「ようやく俺達にあった歓迎が来たな」

 

「ふっ。提督よ、コイツらはどうする?」

 

「殲滅しろ。生かそうが殺そうが自由だ」

 

「あら、わかりやすい命令ね」

 

「それじゃ、暴れるとしようか」

 

「我らも始めよう」

 

「僕も、そろそろ暴れて鬱憤を晴らしたかったんだ!」

 

それから始まったのは、一方的な屠殺であった。長嶺、犬神、八咫烏は言わずもがな、いつものように暴れる。

 

「吹雪の術!!」

 

「翼旋!!」

 

「ライフル弾程度で俺の進撃は止まらねぇぞ!!!!」

 

長門とオイゲンも凄まじい。こちらは艤装に物を言わせてなので、ある意味1番酷い。何せ人間の姿形とはいえ、その中身は超弩級戦艦と重巡洋艦なのだから。

 

「全主砲、斉射!て――ッ!!」

 

「火力全開!Feuer!!」

 

残るラーマエルはというと、まるで物語の騎士のようにレイピアで戦っていた。右手のアダムをレイピアモードにし、左手のイヴは銃剣をつけてダガー代わりにして戦う。

 

「戦神ラーの前に立ち塞がるというのなら、我が剣を受けてみるがいい!!」

 

しかもレイピアで戦うと見せかけて、普通に発砲してくるのでタチが悪い。要塞守備隊は数分もしない内に殲滅され、チュクウのMaison du sang et du chagrinは陥落した。

 

 

 

 

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