同時刻 FOB
『ねぇ、ベーくん。なんかさ、静かじゃない?』
「やっぱ姉貴もそう思うか?明らかに不自然だよなぁ、これ」
FOB
所がこのFOB
『ここは新入りちゃんに動いてもらいましょうよ』
「新入り……あー。そうだ、動いて貰おう」
『はいはーい。という訳で超重爆飛行場姫ちゃーん、聞こえる?』
『ン。聞コエルヨ、カルファン』
この攻撃部隊には元々いた戦艦棲姫と港湾棲姫を筆頭に、日本脱出直前に参加した深海棲艦が全員纏めて配置されている。理由は勿論、裏切り対策だ。
では何故、同じ理由で第六大隊を近くに置いている長嶺の元に配置されず、こっちに配置されているのかと言うと、一重に足止めの為である。雑魚ならいざ知らず、姫級ともなれば艦娘とKAN-SENという艤装を持つ者しか対応できない。だがそれはあくまで、戦闘に限った話。カルファンの操糸術は、糸を体内に入れ込んで操るという技がある。これを使えば姫級であろうと、操って足止めや拘束、何なら同士討ちすらできるのだ。
そしてベアキブルはカルファンの妹であり、カルファンの援護にはこの上ない存在である。普段は確かに特攻隊長の様な立ち位置であり、戦闘では基本、敵陣に突っ込んで盛大に掻き乱す奴ではあるが援護もできる。戦闘ではなく足止め、或いは拘束を考えるとこの部隊が1番なのだ。
『偵察機を飛ばして、中の様子を見てくれる?』
『オッケー。任セテ』
超重爆飛行場姫は一式陸攻(八幡部隊)を離陸させ、同時にパラディンからアサルトドローンが飛び立つ。十数分程すると、超重爆飛行場姫から映像が送られて来た。
『コレ見テ。中ハモウ、戦闘ガ終ワッタミタイ。爆発ノ煙トカ死体ガ見エル』
『……ここは私達が攻めるのよね?』
「あぁ。だが、ホントに嫌な予感がしてきたぞ……」
この戦闘の後というのが引っかかる。戦闘の後というのは、裏を返せば戦闘があったという事である。当然の事ではあるが、今の状況下では誰と戦闘したのかが分からない。少なくとも現在各地で攻勢を仕掛けてる、我らが頼れる仲間達ではないのは確かだ。となると第三者な訳だが、こうもタイミングが良いと「敵の敵は味方だろう」と言いのける自信はない。
「全車、警戒を厳にしろ。嫌な予感がする……」
『ベーくんの勘って妙に当たるわよね』
「それも悪いのだけな」
結局何の抵抗もなく、すんなりと基地の中に入れてしまった。だが中は既に廃墟と死体の山であり、ますます様子が可笑しい。
「野郎共!警戒しろ!!」
「艦隊のみんなと組んで、周囲を警戒しながら探って!!」
ベアキブルとカルファンの脳裏には、作戦前に短期集中で対策した髑髏兵の事が頭によぎる。確証はないし、そもそも関係ない筈だが、それでも頭によぎってしまう。
「……もしかして髑髏兵かしらね?」
「コイツらの味方の筈だ。同士討ちって事になっちまう。だがこの、何とも言いようが無い違和感はなんだ………」
今は動いて、情報をかき集めるしかやりようが無い。幸い即席チームが素早く探索を開始しており、死体の確認を霞桜の隊員が行い、その間の護衛を艦娘、KAN-SEN、或いは深海棲艦が担当している。
「な、何よこれ……」
「おっと、駿河の嬢ちゃん。あんまり見ない方が良いぜ?」
「流石にこんなの見てたら、幾ら何でも腐っちまうよ。俺達みたいな本職でもキツいってのに、嬢ちゃん達みたいな免疫がない連中には殊更キツいだろうさ」
「にしてもまあ、酷ぇこって」
隊員達は知っての通り、死体なんて見慣れている。それも拷問されて死んだ死体の様な、損壊が激しい死体も数多く見てきたし、何ならその手の死体を作った事もある。
だがそんな隊員達を持ってしても、酷いと言わしめる程には遺体は損壊が激しかった。一応人が人の原型を留めているが、まあまあの確率で曲がっちゃいけない方向に腕や足が曲がってたり、首から上が無かったりと、バリエーション豊かである。
「おいおい、コイツは内臓が全部抜き取られてるぞ」
「こっちのは鋭利な刃か何かを、連続して突き刺して引きちぎってる。まるで巨人が齧ったみたいだ」
「なんだこりゃ!?脊髄を引っこ抜いてやがる……」
見れば見るほど、訳が分からない死体の状況に隊員達も不気味さを感じ始める。隊員達でこれなのだから、既に艦娘とKAN-SEN、取り分け駆逐艦には既にグロッキーな事になっているのもチラホラ出てきた。
取り敢えずカルファンや姉妹達が慰めているが、それでも焼け石にぬるま湯な気がしてならない。そんな時、建物の奥から片腕が無く、ついでに全身に血と肉片を纏わせた女が飛び出してきた。
「た、たす……助け、て………」
命からがら、という言葉が良く似合う状態だ。しかもよくよく見ると、その格好はかなり質がいい。血だらけで良く分からなかったが、まるで砂漠の国の姫君の様なドレスを着ている。
「おぉい!!大丈夫かー!!!!」
何人かの隊員が彼女の元に駆け寄ろうとする。現れた瞬間は警戒していた他の連中も、少しだけ気が緩んでしまう。だがカルファンだけは、女の正体が分かった。
「待って!!」
『ど、どうしたんです、姐さん?』
「その女、アラよ。ここの主、『ジョーカー』の異名を持つ暗殺者のアラ。間違いないわ」
全員の顔が強張り、駆け寄っていた隊員も即座に立ち止まり銃口を向ける。だが次の瞬間、その生き残ったアラは建物の奥から伸びてきた黒い腕に掴まれて、断末魔と共に建物の中へと引き摺り込まれて行った。
しかも中からは、何か硬いものを噛み砕く鈍い音が鳴り響いている。一歩ずつ近付いていく度に、中からは言い表せられない生臭い異臭が鼻を突き刺して来て、まず間違いなく中が地獄になっているのは入らずとも分かった。
「野郎共!!構えろ!!!!!!」
ベアキブルの指示に、示しを合わせたかの様に素早く動く。霞桜の隊員達、否。かつて大勢力を誇った裏社会の伝説、西條会の組員達は銃口を。艦娘とKAN-SEN、そして深海棲艦達は砲口を。さっきから異臭と聞きたくない鈍い音を鳴らしてくる、魔王城の様な風格すら覚える建物の方に向け、恐らくもう間も無く出てくるであろう敵に備える。
「ギャオオオオオ!!!!!」
建物の中から色は黒だが、アベンジャーズのハルク、或いはfalloutシリーズのベヒモスの様な巨体が叫び声を上げながら出てきた。それもワラワラと、大量にである。
こちらを認識するや否や、長嶺が訓練や演説で言っていた様に、口元からヨダレを垂らし、戦場で感じる殺意とは違う捕食者が獲物に向ける経験した事がない種類の殺意を向けてくる者、股間にぶら下がってるブツが、文字通り発射前の榴弾砲の様になっている者、或いはその両方の3種類に別れていた。
「なんだよ、クソッ…。総代が言っていたのは、マジだったのかよ………」
「俺達は奴らの活き餌で、差し詰め嬢ちゃん達は孕み袋ってか?」
「まるでゴブリンスレイヤーだな。笑えねぇ……」
「おう誰か調査兵団呼んで来い」
「最悪、エレン・イェーガーでもいいぞ。始祖の巨人の座標でどうにかして貰おう」
比較的若い隊員達はショックを受けている様だが、最も激しかった頃の裏社会を生き抜いた中年層のおっちゃん共は、かなり余裕がある様で冗談を言い合っている。
一方の女性陣はというと……
「何あれキモッ!!!!!」
「どうやら、私達はハズレを引いたみたいね………」
「私に発情するなんて……許せないッ!!!!」
「オ姉チャン、怖イヨ………」
「大丈夫ヨ、ホッポ。私ガ守ルカラ」
まあ、当然の反応である。特に駆逐艦や北方棲姫の様な、ちびっ子組にはキツい。というか普段冷静で纏め役や、場合によっては姉や母親の様な事をする戦艦、空母、重巡層であっても、ちょっと目の前の変態巨人は流石に恐怖を覚える。
「狼狽えるなッ!!!!!!」
「みんな落ち着きなさい!!!!!!」
だがここでベアキブルとカルファンが、空中に拳銃を1発ずつ撃ってそう叫んだ。自然と意識が切り替わり、恐怖も残っているが後ろ、或いは無線の先で喋る我らの大隊長の言葉に耳を傾ける。
「訓練を思い出せ!!親父はなんて言った!!バーサーカーは普通の銃じゃ倒せないが、俺達の装備と練度であれば問題無く倒せると言っていただろうが!!!!!!ならば今!!俺達がやるべき事は怯える事ではなく、いつもの様に嬢ちゃん達の前に立ってカッコよく戦う事だろうが!!!!!!!」
「私達なら大丈夫!!!!!!あんな真っ黒な変態ヤリチン食人男になんて負けないわ!!!!特にみんなは艤装を使って戦える!!例え格闘戦を挑んでも、こっちが力技でゴリ押せる位には差があるの!!!!大丈夫!!一緒にやっつけてやろうじゃない!!!!!!」
ベアキブルもカルファンも、まだ二十代前半の若者だ。だがベアキブルは物心ついた頃から組員達からの英才教育を受け、13歳からは本格的に運営に関わり始め、16歳からは実質的に運営を一手に担いながらも、抗争で先陣切って暴れていた強者であり、指揮官としても戦士としても経験は充分にある。
カルファンは双子の妹でありながら高校生の頃より、年齢を偽って世界中で暗殺を成功させてきた凄腕のアサシン。暗殺者は基本的に単独であり、自前のチームを組んでいる場合もあるが、大抵は金で雇った1回限りのチームである事が多い。従って指揮官としてはベアキブルには遠く及ばない。だがその分、話術には長けている。ターゲットの懐に滑り込む為の話術は、必然的に人の心を動かす話し方や内容の組み立て方を身につけており、演説やこうやって人を勇気付けさせる事についてはベアキブルにも劣らない。
「だとさ。行くぞ野郎共、巨人を駆逐してやれ!!」
「姐さんのオーダーだ!男なら良い女の願い事位、叶えてみせろよ!!!!」
第五大隊の中隊長クザンと第四大隊の中隊長ホプキンスの叫びに、他の隊員達も呼応して雄叫びにも似た鬨の声を上げる。
そこから始まったのは、一方的な虐殺であった。バーサーカーは大きいだけで、霞桜の隊員からすれば普通に弱い部類だった。お陰で全員、普通にあれこれジョークを飛ばしながら戦い始める。
「おいおい!俺達のケツにチンコ突っ込みたいとさ!!」
「ハッ!あんなの入れたら、裂けるどころか死ぬわ!!」
「そもそも隣にいい男いるんだろ!絡んでろ変態野郎!!」
まるで「さっき怖がらせやがった報いじゃ!!」とでも言わんばかりに、色々と叫び散らかしている。だがまだジョークを飛ばすだけなら可愛いものだ。中には……
「ほわたぁ!!!!!!」
「ギャオオオオオ!?!?!?」
「ヒエッ………」
「アイツ、金玉とチンコを切り落としやがった…………」
「男としての慈悲ないんか…………」
「それ、ちょっと男として越えちゃならんラインだろ…………」
去勢手術(麻酔無し)を実行し、地面に落ちたボールを蹴飛ばして他のバーサーカーにプレゼントしたり、切られた奴の口に切ったブツを捩じ込んだりしてる奴がいた。当然他の隊員は流石にドン引きである。
「貴様らは我らの姫に劣情を抱いた。その罪、万死に値する。男としても生物としても死ね」
長ドス片手に死体の上に乗って、そう静かに呟く犯人。この男、第五大隊の隊員でありながら非公式の戦闘(?)部隊『姫君親衛隊』の隊長、パッツァンである。尚この『姫君親衛隊』は当然、非公式の集団である。
この部隊がなんなのかと言えば艦娘、KAN-SEN、最近は深海棲艦も含めた女性陣を、悪漢どもから守る連中であるのだが、要はアイドルの親衛隊みたいな連中だと思って貰っていい。
「おうおう!天龍様のお通りだ!!!!」
「あら〜。天龍ちゃんと私を本気にさせるとは、悪い子ね。死にたいの?うふふ…」
「ヒノ…カタマリトナッテ…シズンデシマエ……!」
「私の火力は誰にも負けないわ!!」
「指揮官様の為の身体に下卑た目線を向けるなんて……。ソウジ、して差し上げましょうか。ふふ、ふふふ、ふはははははは!!」
彼女達も負けてはいない。何せ江ノ島という特異な環境に、年単位で住んでいれば普通とは掛け離れても来る。トップである長嶺を筆頭に人間を辞めてる連中が、大量に在籍しているのだ。当然である。
「海の…いえ!砂漠の砂と!!」
「なりなよ〜」
しかも大井と北上という、魚雷戦のスペシャリストが編み出した陸上雷撃戦法を収めていたりもするので、そこら辺の艦娘や深海棲艦よりも強さの度合いがずば抜けている。
因みにこの陸上雷撃戦法というのは、魚雷発射管から魚雷を打ち出し、それを蹴り飛ばして打ち込むという脳筋戦法である。だが艤装によってパワーが何千倍、何万倍、或いはそれ以上に引き揚げられた艦娘、KAN-SEN、深海棲艦であれば、そんな奇想天外かつ不可能な戦法も成立させられてしまう。
「あら、すごいですね〜。そうだ、大井ちゃーん。酸素魚雷を1本くださいませんか?」
だがそんな連中の中でも、恐らく最も異彩を放つのはこの女であろう。鉄血の超巡、ローンである。
「良いけど…何に使うのかしら?」
「新しい魚雷の使い方をお見せしますよ〜」
彼女は見た目こそブランドのボブカットで、所謂ゆるふわ系の容姿をしたお姉さんであり、胸もかなりのものをお持ちであり、胸部を強調するスーツを着ていることも相まって、殊更大きく見えるようになっている。下半身の衣装もミニスカートであり、露出した白い太ももがとても眩しい。とまあ、見た目だけならゆるふわ系のエロいお姉さんだ。
だがしかし、その見た目と中身は掛け離れており、普段は駆逐艦と一緒に料理やスイーツを作り、色んな連中に分けている家庭的な子だが、いざ会話してみると言葉の節々に狂気が見え隠れしており、いざ戦闘になると美しい物を無惨に破壊する事に快楽を覚え、戦場での殺し合いに溺れており血を見たい性分が爆発し、敵を木っ端微塵に破壊する事が大好きな、赤城とか隼鷹を筆頭としたヤベンジャーズとは違う意味でヤバい奴である。
何せここまでの狂気は霞桜の中でも多くはなく、一部の隊員達からは軽く引かれる位にはヤバい。そしてその長である長嶺も、初めてこの狂気を目の当たりにした時は意外すぎてフリーズしかけた位だ。今となっては慣れており、その狂気すらも戦略に組み込んでキリングマシーンとして運用している。
「まあ良いけど。はい」
「ありがとうございます〜」
ローンは大井から魚雷を受け取ると、まるで野球バットを持ったガラの悪い男の様に手の上で魚雷を弾ませながら、目の前のバーサーカーに近づく。
「ギャオオオオオ!!!!!」
もう何度目か分からない、大地を震えさせるかの様な雄叫びを上げるバーサーカーロード。腕が6本もあり、パワーも通常のバーサーカーよりも上だ。しかしローンは意に返さない。
「さっきから見ていれば、何なんですかアナタ達は。私達を見るなりチンポを大きくして、下卑た目線を浴びせてくる。私達は容姿も整っていますし、振り向くのも構いません。ですがそんな目線を浴びせるばかりか、チンポを見せ付ける様な変態は生きる価値ありません。
何より私を見たというのに自殺や自爆しないだけでなく、殺すのに私の手まで煩わせるなんて―― 許せないっ!!!!」
まるでローンの周りだけ、重力発生装置でもあるのかと思う程にローンの周りだけが歪んで見える。それどころかドス黒いオーラか何かまで見える始末だ。
流石のバーサーカーもこれには恐れをなした様で、逃げようと踵を返す。だかもうローンに睨まれては、逃げるなんて事はできない。否、させて貰えない。
「ふふ、私のことを見て逃げようとするなんて、まさか逃げられるとでも思っているんですかぁ〜?」
ローンは飛び出し、そのまま襲い掛かる。他の皆もてっきり魚雷を棍棒の様に鈍器にするのかと思っていたが、何と彼女は弾頭を後ろに、スクリュー前にして構えた。そしてそのまま高速回転するスクリューを、バーサーカーの頭に突き刺す。
「——————————!?!?!?!?」
言葉にならない悲鳴を上げ、悶え苦しむバーサーカー。それもそのはず。何せ魚雷というのは、水中を自走する爆弾。そのスクリューは毎分何百回転もする。それをバーサーカーとはいえ、人体に押し当てれればドリルの様に肉を切り裂いて大穴を開ける武器へと早替わりだ。
「ふふふ……。さぁ、次は誰かしら〜?」
返り血に塗れ、服と肌を真っ赤に染め上げても尚、ローンはふわふわとした笑みを浮かべる。普通なら優しそうな笑みと捉えられるだろうが、バーサーカーにとっては破壊神の微笑みに他ならない。恐れをなしたバーサーカー達はまたも逃げるが、ローンは嬉々としてその背中を追いかけて1人残らず平らげた。
「ねぇ、ベーくん……。私達の出番、ある?」
「無いな。まあ、俺達はこの後活躍するとしよう。どうせこれは前哨戦だしな」
後方で構えていた2人は、結局何もする事が無く終わる。そこから数十分もすれば、このFOB
数十分後 Ville Pimordiale 王宮
「ファーストキング!ファーストキングはお出でか!!」
「うるさいぞブレキリ!全く、今は優雅な朝食な時間であるぞ!!!!」
「は、ハハッ、申し訳ありませぬ!しかしながら、緊急事態であります!」
ここでファーストキングも、ブレキリことブレキリフヌアデが顔を真っ青にしている事に気づき、溜め息を吐き、嫌々ながら話せとジェスチャーを送る。
「本日8時頃より、我が配下が指揮官を務めまする前哨基地に次々と所属不明の大規模軍勢が現れまして、瞬く間に占領されました………」
「何だと?」
「どうやら敵の狙いはここです。軍勢は戦闘態勢を敷いており、今にも攻め込んで来そうな勢いであると斥候が申しております。どうか、ご決断を!」
「待て!ちょっと待て!」
流石のファーストキングも、こんな風に優雅な朝が地獄の始まりに早変わりするとは思っていなかった様で、ガラにもなく混乱していた。頭を抱え、項垂れながら考える。
「おやおや、お困りの様だねぇ。ファーストキング?」
部屋に入ってきたのは、茶色のソフト帽とコートを着こなす紳士風の容貌をした男。現在は日本に居るはずの、トランプ使いの紳士であった。
「……トバルカイン」
「やぁ、ブレキリくん。何やら外にまで聞こえていたが、FOBが落ちたそうじゃぁないか」
「黙れ部外者!この問題は王たるファーストキングがお決めになる事!!貴様は黙って客間に引っ込んでいろ!!!!」
「まあまあ。そんな邪険にしないでくれたまえよ。しかしこのやり口、恐らくは長嶺雷蔵だろうねぇ」
今このURでは、長嶺雷蔵というのは禁句である。トバルカインは結局、長嶺雷蔵=煉獄の主である事は伝えていない。だが一方で、長嶺雷蔵個人の人間としての戦闘能力は包み隠さず伝えた。
事実としてURの闇カジノとペリコール島、更には売買に使っていた闇サイト、その他長嶺雷蔵にまつわる話を調査するべく各地に飛んだ諜報員は長嶺やその仲間の情報に近付きすぎた瞬間に消されていたり、UR関連の車列が無作為に襲われていたりと、かなりの被害を被ってきた。その結果、長嶺及びその一派に対する恐怖が伝染し、そこから尾鰭と背びれが付いて化け物扱いになっている。そんな人物の名前が出れば、いくらファーストキングと言えど顔を青くするだろう。
「と、トバルカイン!!貴様が止めるという話だろう!?」
「勿論仕事はするさ。だがねぇ、あの軍団は強すぎる。まあ、期待しないで待っていてくれたまえ。
あぁ、それから。ここにいる人員は全員、武器を持たせておく事をオススメするよ。武器がないなら棒切れでも、棍棒でも、ライトスタンドでも良い。使える物は全部使って、移動災厄を止めるがいい」
「ブレキリ!全員を武装させるのだ!!この際、商品に手をつけても構わん!!拒否する者には例の薬を投与してやれ!!!!」
「ハハッ!直ちに!!!!」
ブレキリは足早に部屋を出ていく。トバルカインも部屋から出ようとするが、ファーストキングがそれを止めた。
「トバルカイン。1つ、聞きたい。この状況に、政府はなんと?」
「……何を勘違いしているのかねスレイブくん。君はあくまで政府の
今後とも政府への変わらぬ忠誠を誓うのなら、是非とも今回の結果を持って示してくれたまえ。勝利は当然として、彼らの持つ装備や艦娘、後は例のKAN-SENとかいう艦娘とは似て非なる存在を確保し、政府に献上する位はやらなくてはね」
「…………それが望みとあらば」
「結構。では私も失敬するよ。ではな、ファーストキング。楽しみたまえよ」
トバルカインは今度こそ部屋が出ると、そのまま将軍達がいる部屋へと向かう。中には3人の、まだ青年に差し掛かるか差し掛からないかの瀬戸際にいる男達がいた。
「将軍達よ。いよいよ君達が望む、あの男がやってくる。備えは大丈夫かね?」
「勿論だぜおっさん!あの野郎と久しぶりに本気で戦うんだ、ウズウズして堪んねーや!!!!」
「バカ。声量を考えろ、うるさい」
「あぁ!?やるかテメェ!!」
「まあまあ、落ち着いて。折角の本格的な再会なのに、喧嘩してちゃ始まらないでしょ?」
ハルバードを持っている豪快な男と大剣を持つクールな男が喧嘩を始めようとし、それをバトルアックスを持つ優男が止める。どうやらお決まりのパターンらしい。
「この調子なら、まあ大丈夫だろうなぁ。さて。では諸君、指揮を頼むよ」
「おじさんはどうするのだ?」
「あの部隊には、確かITに強い男がいた筈だろう?名前は、えっと、なんと言ったかな……。あぁ、思い出した。グリムとか言う奴だ。そのグリムへの、置き土産を準備してくるだけさ」
トバルカインはそう言うと、今度は王宮の地下にあるサーバールームに向かう。王宮自体は見た目こそ砂漠の城という感じだが、中身はかなりハイテクだ。特に地下のサーバールームには、カードキー、暗証番号、指紋、網膜認証を備えたセキリュティシステムがある。
「我々のメッセージに気づいてくれるのやら。いや、気付いて貰わねば困る。この世界を解放できるのは、長嶺雷蔵しかいない。漸くここまで来たのだ。このチャンス、無駄にはしない……」
トバルカインはサーバー上に、他のネットワークからは切り離した独立したファイルを作成し、そこに持ってきていたUSBからデータをそっくり移す。データを移したタイミングで、トバルカインの電話が鳴った。
『首尾どうだ、トバルカイン』
「えぇ、順調ですよ。もう間も無く、長嶺雷蔵とその部下達がここに攻めてきます」
『例のデータは?』
「ご要望通りに。この情報には、あの男であろうと引っくり返る事でしょう。何せ……」
トバルカインがその続きを言おうとするが、それを電話の相手は止める。今トバルカインが移したデータは、言うなればパンドラの箱。開ければ最後、世界が滅びかねないデータだ。
『そこから先は言うでない』
「失礼を閣下。どうも私は、口が軽くていけませんな」
『伊達男、だからな貴様は。まあ良い。頼むぞ』
「お任せください」
ここからのトバルカインの仕事は至極単純。長嶺雷蔵と戦い、その能力を鍛えるサンドバッグに徹し、ある程度の所で撤退するだけだ。
とは言っているが、要は正面からド突き合って戦うだけ。戦士として生きる者が、最も得意とする事だ。
「我らが救世主たる長嶺雷蔵よ、楽しもうじゃないか」
トバルカインはいつも浮かべている不適な笑みとは違う、どす黒くもある笑みを浮かべてサーバールームを後にする。その他には既に、獲物のトランプが握られていた。