最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第百五話後始末

UR戦終結より1週間後 セカンド・エノ 長嶺邸宅 会議室

「さて、お前達。まずは先日の対UR戦、ご苦労だった。未だ戦後処理がてら色々とゴタ付いているが、これでアイツらの名前が表に出てくる事もないだろう」

 

あれから1週間が経ったが、本当に長い1週間だった。何せ普通の討伐や報復、或いは懲罰といった戦闘なら基本的に破壊して終われた。だが今後、URは霞桜が運営していく事になる。その為にも色々とやる事が多かった。

パッと思い付くだけでもUR側の組織体制をどうするか、元URの人員を何処まで食い込ませるか、今後どの程度まで事業を行うのか、具体的に何処の誰とどの程度繋がっていたのか、今後とも繋がっていた方が得なのか、不利益な相手だった場合、どの様に縁切りするべきかetcetc。他にも方々への恩売りの為の情報売買や、UR拠点内で発見された一般人の対応なんかも入ってくる。

 

「早速だが、各員報告を」

 

「あー、すみません。私は最後でお願いします。マーリンの方からスタートしてください」

 

いつもなら大体こういう時、グリムからスタートし大隊番号順で話していき、そこから艦娘、そして重桜、ユニオン、鉄血、ロイヤルの四大陣営。更にサディア、北方連合、東煌、アイリス、ヴィシアと続く。ロイヤルメイド隊や航空隊の場合は、この後に言う事となっている。

因みにこういう順番になっているのは、別に序列がどうこうではなく、単純に席順がこういう感じになっているからである。大隊は単純に成立の早い遅いだけだし、陣営の方もイベントではライバル関係だったりするが、そうでもなければ普通に仲良しだ。

 

「では、私から行きましょうか。霞桜の人的被害についてですが、戦死者は0名です。負傷者も運送中の事故で左小指の骨折、全治1週間の者が1名、軽い打撲が3名、捻挫が2名、合計6名が出ていますが全員完治済みです。PTSD等の被害は認められず、現在はローテーションを組んでの休息に入っています」

 

日本を出奔というか脱北ならぬ脱日してきてから、仕事面の組織体系も色々と変わった。これまで基本的に長嶺が1人で仕事を回していた。というのも、一応は秘密的組織である霞桜。規則上は長嶺が大半の部分の職務を追う必要があり、無駄な決済もかなりあった。勿論他の大隊長、特に事務方に強いグリム、マーリン、カルファンといった面々がよくサポートしてくれていたが、それでも限度があった。

だが今となっては、それも過去の事。セカンド・エノに来てから、各大隊には明確に仕事が分割され、ハッカーであるグリムの病的なまでの効率化改革によって楽になった。そんな訳で、現在のマーリンは霞桜の人事を担当している。

 

「次、俺。URから色々な技術、手に入った。武器、弾薬、その他の資源も一杯。詳しくはデータ送る。言うのが面倒な位ある」

 

レリックは技術屋な事もあり、兵站の管理を行っている。技術屋、つまりは様々な資材を使って色々とやるのがレリックの仕事だ。兵器を作るにしろ、修理するにしろ、資材を消費する。管理者と消費者を一元化した方が楽なのだ。

 

「次は俺だな!ゴホン。とっ捕まえて来た奴らは、戦闘員、非戦闘員に分けてあります。ご命令通り、非戦闘員を幹部と被害者に更に分けました!んで、被害者の方は空き部屋への軟禁、負傷している者や精神的にヤバい連中は病院に放り込んでます。

てぇーっと、戦闘員及び幹部は面倒な奴は神々の住う世界への直通便に乗せて出国(処刑)させて、情報を持っている者は尋問(拷問)フルコースで、こっちに鞍替えしたい奴は保護して、それ以外の反抗的な奴だとか、色々と人道に反する事してた奴はサンドバッグにしてますぜ」

 

バルクは主に警備担当なのだが、今回はひっ捕えてきたテロリスト共の仕分けをやっている。元々一般人で連れ去られて来た、何かしらの理由で売られた者については、殺す事はないが対応を後回しにするので軟禁ないし入院。

幹部や管理・運営をしていた者は監禁&尋問、口を割らなければ拷問。鞍替えしたい奴は保護するが、なんか面倒な奴や余りにヤバい事をしていた奴、例えば嬉々として拷問して楽しんでたとかレイプ魔な奴とかは監禁し、今後の余生はサンドバッグとして色々される事となる。

 

「次は私ね。って言っても、これと言う報告は無いわ。取り敢えずUR付きだった情報網無くして、空いたリソースを他の各方面に配置換えとかして強化した位かしらね?」

 

カルファンは主にヒューミントとオシントを担当している。元暗殺者という前職で培った独自のコネ、情報網を巧みに使い情報収集を行い、それを一つのインテリジェンスとする事が仕事だ。

 

「…俺の方はバルクの兄貴から移された連中から情報を漁っています。ただ量が多いんで、情報はもうちょい待ってください」

 

ベアキブルもカルファンと同じヒューミント担当だが、実働部隊の色合いが強い。今回の様に尋問によって情報を集めたり、ヤクザ時代のスキルである脅しの技術を使って諜報員を作ったりだとか、そういう暗部を請け負っている。今回捕まえたテロリスト達も、使えそうな者は霞桜入りだろうが、使えない者や信用がない者については外部諜報員や捨て駒として使われるだろう。

 

「最後は俺だな。九大公の大半を確保した訳だが、まあ当然、その大部分は使い物にならない。ブレキリは俺が殺し、ネェフェルトゥムとハトホルは攻撃で吹き飛んだ。残るはセト、トト、ミン、ヘルメース、ヌト。だがセトとトトは性格的にアレだから、コイツらはサンドバッグとかで良いだろう。

残ったのはミン、ヘルメース、ヌトな訳だが、俺としてはミンをメインとし、ヘルメースをその補佐。ヌトは独立させて、そのままカルファンの嬢ちゃん辺りにでもやろうかと思ってる」

 

ラーマエルは本来であれば教育担当であり、訓練メニューの作成や部隊内の監査を行うのが仕事だ。だがURの内情に詳しい為、今回はURの活用方法や経営方針、更にはバルクの仕分け作業等にもアドバイザーの様な立ち位置で働いている。

 

「艦隊、航空隊の方からの議題は…………無いな。よし、なら次は俺だ。またと思うかもしれないが、我々は新たに仲間を迎える。入れ!!」

 

長嶺が大声を張り上げると、会議室の重厚な両開きのドアが開く。中に入って来たのは丸メガネに白衣というインテリ系マシマシかと思いきや、それに反して筋骨隆々の白人系の男だった。

 

「彼の名はゼビオソ。URの六騎士が1人、だった男だ。だが今回、レリックの物凄いアピール及び面接などの試験を行った結果、新たに第七大隊を新設し、そこの大隊長となってもらう事になった。

 

「えっと、ゼビオソ、です。これからはテスランと名乗ります。私は爆薬の扱いに長けているので、皆さんの兵器の強化の助けになる、筈です。よろしくお願いします」

 

何処か辿々しいが、そこは愛嬌。いきなり1週間前は敵として戦ってた連中の、それも幹部達の前に引き摺り出されたのだ。こうもなる。

 

「テスラン。面談の時も言ったが、別に元敵だからってだけで、何も足をぶん投げられる訳じゃない。ほら、そこ。人類の敵、深海棲艦だっているんだ」

 

「ソノ通リ。ココハ居心地ガ良イ。敵ダッタダケナラ、何ノ問題モ無イ。安心シロ。元敵トイウ、同ジ立場ノ先輩ダ。信ジロ」

 

「…………本物の深海棲艦かよ」

 

「本物ダ。何ナラ艤装ヲ」

「部屋壊れるからダメ」

 

「ムゥ」

 

「むくれてもダメ。先に言っておくが色仕掛け、癇癪、脅し、泣く、怒鳴る、全部ダメな?」

 

深海棲艦というより戦艦棲姫は小悪魔的というか、天然というか、ズレているというか、コミュニケーションを取ってみると結構おもしろい。上記の駄々の捏ね方は実践しており、全部長嶺によってスルーされてきた。本人としては実験の一環として、様々な人間のコミュニケーション手段を試しているらしいが、何というか見た目とやる事のギャップのせいか可愛い奴認定されている。

 

「あ、あのー………」

 

「はいテスラン!」

 

「総隊長さん。この部隊?組織?は、その、いつもこんなノリなんでしょうか?」

 

「至って平常ー♪」

「新人には異常ー♪」

「「ラララ〜ラララ〜ラー油〜♪いきなり歌ってごめーん♪まことにすいまめーん♪」」

 

いきなりジョイマンのネタをし出すバルクとベアキブルに、テスランどころか全員が目に点になる。だがだからラーマエルはニヤリと笑うと、すぐに2人のギャグに乗った。

 

「なんだこいつぅ〜!」

 

「…………………テスラン、今のは無視していい。まあ、ヤベェ連中がヤベェままで居られる場所だ。気楽に、な?」

 

「あぁ、はい………」

 

やった3人は気づいて無いが、他の参加者達からは「コイツら大丈夫か」という目を向けられている。特に女性陣の目が痛い。そういう目で見られて無い筈の長嶺とグリムですら、ヒシヒシと痛みを感じる目なのに3人は気付いてないのか反応を示さない。

しかしこの微妙な空気、グリムとしては違う意味で最悪であった。何せ今から今後の方針を話そうというのに、こんな滑った後の気不味い空気感で大真面目に話さないといけない。さっきまで痛くなかった胃が急に痛くなる程だ。

 

「えっとですね、この空気感ですが切り替えてください。今から重要な話をしますので。

コホン。私からの報告は、先の戦闘の後、サーバールームから手に入れたURとは直接関係ないものの重要なデータについてです。スクリーンをご覧ください」

 

グリムは話す傍らで、肘置きのコンソールで部屋の明かりを消した上でスクリーンを降ろし、プロジェクターのスイッチを入れる。

 

「この世界の海は深海棲艦によって支配されています。我々が帝国海軍として最後に戦ったペルーン作戦にて多数の深海棲艦の排除に成功し、現在では主要な航路を護衛は必要とはいえ安全に航行できる程度には数を減らせました。しかし今もまだ、人類の敵である事には変わりありません。

とは言え我々は、深海棲艦について知らなさすぎる。当の深海棲艦ですら、自分達のことは詳しくわからない。そうですね、戦艦棲姫さん?」

 

「ソノ通リダ。我々ガ分カルノハ、コト戦闘ノミダ」

 

「とまあ、こんな具合です。現在分かっているのは深海棲艦も生物であり、艦娘とKAN-SENと同じく艤装と呼ばれる軍艦の兵装を扱える存在である。これだけです。SF映画の様に地球外生命体、エイリアンないし、その存在が作り上げた生物兵器説、地底人説の様な荒唐無稽な陰謀論すら真面目に国際機関で議論される程ですから、その不明確さはお分かりでしょう。ところが……」

 

プロジェクターが稼働し、映像が投影される。映し出されたのは、深海棲艦に関するデータだ。一見すれば何なのか分からない為、一度見た事のある長嶺を除けば全員が不思議そうに見ている。

 

「プロジェクト・セイレーンと呼ばれる極秘計画のデータ、だそうです」

 

「待ってよグリムさん!セイレーンはあたし達の敵よ!?」

 

セイレーンと言えばKAN-SEN達が元いた世界の敵であり、向こうの世界での深海棲艦の様な立ち位置にいた存在だった。だが転移してすぐの頃は戦ったが、それ以降は戦うどころか表舞台にすら姿を現していない。

 

「落ち着いてください、ニュージャージーさん。そちらのセイレーンではありません。資料を見てもらった方が早いでしょう。皆さん、タブレットを」

 

椅子の横に設置されているタブレットを取り出し、送られて来たProject Sirenの計画書を表示する。表示した側から読み進めていくが、読み進めていく度に皆の顔色が変わっていった。

 

「……見ての通りです。我々人類が目の敵とし、実際に世界を半壊させた人類史上最強最悪の怨敵である深海棲艦。彼女達はどうやら、人為的に生み出された生物兵器だったそうです。詳しいところは皆さん各自で見て貰うとして、一度スライドに戻ってください。この際、深海棲艦の正体どうこうはどうでも良いのです」

 

スライドに表示されたのは、この計画書の時系列だとか各項目を簡単にまとめたスライドだった。グリムは立ち上がり、スクリーンの前に立つと説明を始める。

 

「深海棲艦を作った目的は当初こそ最強の生物兵器を作り、それを用いて世界を支配するつもりだったようです。所が作ってみたオリジナルと呼ばれる存在が、暴走だか自我に目覚めただかで独自行動を開始。何故かは分かりませんが、世界を半壊せしめる存在となった様です」

 

「ソノ話、覚エガアル」

 

「何だと!?」

 

「深海棲艦ハ生マレタ瞬間カラ、人類ヲ憎ンデイル。ソノ原因ハ、アル者ノ意思ダト聞イタ事ガアル」

 

「誰だ、その野郎は」

 

「深海棲姫ダ」

 

戦艦棲姫の答えに、長嶺は椅子に深く座って考える。今の話が本当だとすれば、深海棲姫は計画書でいう所のオリジナル。もしくはその志を継いだ存在。そもそも深海棲姫は初めて江ノ島で戦った時に「深海棲艦ノ女王ニシテ総旗艦」だと言っていた。繋がりはする。

 

「…………いや、今はそこじゃないな。グリム、続きを」

 

「はい。この計画を推し進めていたのは、世界評議会と呼ばれる組織である事がわかりました。リストをご覧ください」

 

タブレットのリストに表示されている名前。その名前の大半は一般人は知らないが、中には有名な政治家や起業家もいる。なによりリストに載っているのは、表社会で不動の地位を獲得している政財界の大物達だ。

 

「見ての通りです。我々は期せずして、世界の闇を知ってしまいました。これを無視することもできます。私は先んじて総隊長殿に今回の話をしましたが、総隊長殿。もう一度、聞きます。どうされますか?」

 

全員の視線が長嶺に集中する。だが長嶺はいつもの様に堂々と、何の変わりもなく普通にしている。そんな状態で口を開いた。

 

「どうするも何もあるか。そもそも世界を敵に回す形で、今の形に落ち着いてるんだ。やる事なんざ1つだ。世界をひっくり返す!別に世界が滅ぼうが、映画よろしく支配されようが、俺達の知った事じゃない。だが俺達に害が及ぶなら、俺達の方から乗り込んで何もかも滅茶苦茶に破壊する。それが俺達だろ?なら俺が命じるのは1つ。世界評議会とやらに宣戦布告し、ついでに世界を救うだけだ」

 

長嶺はここで言葉を区切ると、椅子から立ち上がり仲間達を一瞥し大声を張り上げた。

 

「野郎共!!ここに宣言する!!以降、我々ワールドディザスターは真の意味で、世界の災厄となる!!!!情報を集めろ!!グリム!カルファン!ベアキブル!世界評議会!下部組織と思われる世界騎士団とシリウス戦闘団!関係する事、しそうな事!ヒューミント、シギントその他諸々の手段で一切合切全部洗え!!!!

レリック!テスラン!武装の整備、及び開発を推し進めろ!!いつでも戦える様にな!!

マーリン!ラーマエル!兵を鍛えろ!!特に新入りは念入りにな!!

各艦隊は偵察部隊の編成を頼む!!恐らく同時に深海棲艦の拠点も強襲する事となる!だが情報が必要だ!!対深海棲艦に於いて最強の戦力なのは、他でも無いお前達だ!!深海棲艦についてはお前達に一任する!!

最後に航空隊!各部隊の要請に応じて、適宜サポートを頼む!!」

 

やる事は変わらない。いつもの様に自分が与えられた仕事を全力でこなし、長嶺の背中を追いかけるだけだ。一拍の間を置いて、全員が威勢のいい返事をする。新入りのテスランも、困惑気味ながら声を上げた。この日よりワールドディザスターは、真の意味でのディザスターとなる。

 

 

 

同時刻 日本 防衛省 

「本日のスケジュールです」

 

「あぁ、ありがとう」

 

東川はいつもの様に、エレベーターから降りて執務室に行くまでの廊下で部下や秘書達からの報告を聞く。常に取り巻きの様に、5、6人の部下が東川には付いているのだ。

 

「間も無くアメリカ第7艦隊司令がお見えになります。会議の案件はここに」

 

「うむ」

 

「昼食は総理大臣と官房長官が同席されます。レストランは何処にいたしましょう?」

 

東川が指示しようとしたその時、スマホが鳴った。表示されている相手の名前を見るや否や、東川は部下達を凄い剣幕で退出させる。誰も居なくなったのを確認し、部屋に鍵をかけた上で電話に出た。

 

「もしもし」

 

『俺だ親父』

 

「一体どうした、この電話には掛けて来ないと言っていただろ!」

 

『そうも言ってられないんだわ。深海棲艦の正体が分かった』

 

「はぁ!?!?」

 

息子である長嶺からの連絡は、大体面倒な事か面倒事の種かのどちらではある。だが今回ばかりは、今までの歴代の中でも断トツで面倒な話だ。聞きたくは無いが、聞かざるを得ない。

 

「詳しくはデータを送るが、簡単に言おう。連中は世界評議会とかいう世界を裏から牛耳る連中が作り出した生物兵器であり、その製造方法なんかも発見した。資料の解析が完了次第、俺達は拠点を強襲する」

 

『それで何故、俺に連絡して来た?何か、して欲しいんだろ』

 

「あぁ。簡単に言えば、俺達の成果を比企ヶ谷に渡したい。それを持って、アイツの発言力を高めさせる」

 

『……そのお膳立てをしろと?』

 

「そうだ」

 

今の比企ヶ谷は海軍内で冷遇されつつあるらしい。何せ今の連合艦隊司令長官は、あの葉山だ。流石に私怨を前面に出しているわけでは無いが、それでも色々理由をつけては冷遇しているそうだ。

恐らく今後は日本、正確には帝国海軍とエンカウントする場面も増える。表では争わなければならないが、裏では繋がっておかなくては面倒だ。そんな時、即座に動ける人材として比企ヶ谷は最高なのだ。

 

「こんな状態だが、それでもアイツは俺の部下だ。何よりこういう時の為に、俺はアイツを、アイツらを残して来た。今こそアイツらの出番だ」

 

『わかった。すぐに形を整えよう』

 

「頼む」

 

長嶺は電話を切ると、そのままソファに項垂れる。高級品なだけあって、座り心地は良い。となれば寝心地も良いものな訳で、姿勢的にキツイが寝ようと思えば寝れる感触だ。

 

「なーんかやる気おきねー」

 

「あら、珍しい事もあるのね」

 

対面に座るオイゲンが優雅に紅茶を啜りながら、面白いオモチャを見つけたと言わんばかりにニマニマとした顔で見てくる。いつもなら乗るだろうが、今日はその気にもなれない。

 

「俺だって人間だっての。まあ、結構やめてるけど」

 

「何かあったのかしら?」

 

「んぁ?」

 

「雷蔵がそういう風になる時って、大体何かあったじゃない。こういう時くらいは嫁に頼りなさい」

 

仕事モードの長嶺であれば、決してこんなボロは出さないだろう。だが長嶺とて四六時中気を張り続けるなんて土台無理な話で、何も無い時は普通に弱音も吐けばこんな風にもなる。そしてこうなった時の長嶺は、いつもでは考え付かない位、色々と読みやすい。

 

「………将軍達。例のシリウス戦闘団の幹部だが、下手すりゃ俺の親友かもしれねぇ」

 

「ちょっと待って。親友って、前に言ってた人達よね?その……」

 

「あぁ。戦車に自爆特攻して、サメに自爆特攻して、そして海に身投げした連中。そう、蔵茂と共に死んだ、俺の親友。あり得ないんだが、何ともな」

 

100歩譲って海への身投げは、助かる可能性がなくも無い。もしかしら海流に上手く乗れて、運良く何処かの海岸に打ち上げられたかもしれない。或いは近くを航行していた船に助けられたかもしれない。

だがどう考えても、自爆は100%死んでいる。例えば自爆の瞬間を見ていないとかなら可能性はあるが、話の中では長嶺の目の前で自爆している。これで助かるとは、まず考えにくい。それで助かったら、いよいよ持って化け物とかの類だ。

 

「何か理由があるのね?」

 

「もう3年くらい前だ。まだ俺が江ノ島に来たての、お前達とも出会っていない頃だ。一度だけ怨霊だと名乗った3人組を、当時の第五遊撃隊の連中が見た事があったらしい。まあ、その後に深海棲姫が江ノ島を襲って俺も昏睡するわ、連合艦隊司令長官を押し付けられるわ、お前達KAN-SENが来るわで、余り詳しいことは調査ができてなかった。

だけどな、今回戦って良くわかった。奴らには犬神と八咫烏の術は効かない上、世界でも数人しか知らない神授才を封殺した。何より戦い方が武器は違えど、アイツらと驚く程に似通っていた」

 

「………それで、どう、するの?」」

 

「どうしようかを悩んでる。というか、俺でも今の俺の事を理解できてない。正直死んだと思った連中が、敵だか味方だか分からねぇ連中に居るかもしれないってのが分かったが、かと言って何をするかを明確に出せねぇよ」

 

多分やる気が出ないのも、これが原因なのだろう。日を増すごとに落ち着いては来ているが、それでも喉の奥に刺さった小骨のように気になる。

 

「気分転換でもする?」

 

「色々試したけどダメ。ゲーム、ギャンブル、酒、研究、女も。色々とやったが、全然ダメだった」

 

「だから昨日は激しかったのね」

 

「その節はありがとうございました。あーストレスで禿げそうだよ………」

 

落ち込んでいる訳でも、悲しみに暮れている訳でもない。落ち込んでいるなら励ますし、悲しんでいるのなら悲しみを共有し慰めるだろう。だが言ってしまえばモヤモヤしているだけなので、これでは解決のしようも無い。

 

「仕事でもして気を紛らわせば?」

 

「そうするかぁ……」

 

渋々ではあるが、長嶺はいつもの様に仕事を始める。不思議なもので、やって行く内にモヤモヤは一旦消え去り効率も地味に上がった。お陰で全体の業務が少しばかり少なくなったらしい。

 

 

 

 

 

 

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