最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第百六話鬼ヶ島威力偵察作戦

1週間後 PPX0896315 上空

『PPX0896315に到着した。降下スタンバイ』

 

PPX0896315。中東太平洋に存在する味気ない名前を持つ、特段これといった物がない海域。辺り一面海水であり、島なんかも無い。地図上ではそうなっているし、衛星でもそう映っているだろう。

だがこの海域には、世界でも本当に一握りしか知らない場所がある。URのサーバーから手に入れた深海棲艦の本拠地。それがこの海域にあるのだ。今ではPPX0896315なんて言い難いので、取り敢えず『鬼ヶ島』と呼ばれている。深海島とかセイレーン島とかも案として出ていたが、それだと余りに安直すぎる上に世界評議会にでも聞かれたらバレそうだという意見もあり、まだ深海島やセイレーン島よりは捻られている鬼ヶ島が名前となった。

 

「よーし、お嬢ちゃん方に脳筋の野郎ども!!鬼ヶ島に到着したぞ!!!!」

 

「おい待て!俺達の嬢ちゃん達の扱いの差よ!!」

 

「俺達にも愛を!!」

 

安定の艦娘とKAN-SENには優しく紳士的に接し、霞桜の野郎共には紳士も何もあったもんじゃない辛辣な扱いという差に、乗り込んでいる霞桜の隊員達からブーイングがあがる。

 

「お前ら、俺の愛が欲しいのか?」

 

「「…………」」

 

「そこは正直か」

 

まあ普通に考えて、むさっ苦しい野郎の愛なんざ要らない。どうせなら艦娘とKAN-SENのお嬢ちゃん方みたいな美女or美少女の愛の方がいいに決まっている。例え同性愛者とか腐ってる連中でも、美形の方が良いという奴の方が多い。

 

「あーコホン!仕切り直しだ!とまあ、鬼ヶ島にはついた。下もクリアだ」

 

ジャンプマスターの隊員が、壁にあるボタンを殴り付ける様に力強く押す。ボタンを押すと後方のハッチが開き、青い空と青い海という見慣れた船上が顔を出した。

 

「行ってこい!!勝利を!!!!」

 

降下する者達に敬礼を送り、そのまま振り返って腕を振り下ろし海を指す。これを合図にまずは艦娘とKAN-SENが飛び降りていく。

 

「吹雪、行きます!!」

「夕立、突撃するっぽい!!」

「頑張って行きましょー!!」

「連装砲ちゃん、一緒に行くよ」

「駆逐艦、浜風、出ます!」

「さーて♪浦風、出撃じゃ!」

「磯風、抜錨する。艦隊出撃だ」

「第十六駆逐隊、天津風。抜錨よ!」

「綾波、頑張るです」

「ジャベリン、全力で行きまーすっです!」

「状態良好。行こ」

「ニーミ、行きます!!」

「島風っ、抜錨です!」

 

「川内!三水戦、出撃します!」

「神通、いきます」

「那珂ちゃん、現場入りまーす!」

「Atlanta、抜錨。艦隊、前進」

「艤装展開!さあ、恐れおののけ!」

「行くぞ!続け!!」

「ダイドー、行きます!」

「勝利と栄光は我が誇らしき主に捧げます!」

 

「ユニコーン…頑張る!」

「五航戦、翔鶴、出撃します!」

「五航戦、瑞鶴出撃よ!」

 

今回参加するのは艦娘からは吹雪、夕立、睦月、島風、浜風、浦風、磯風、天津風、川内、神通、那珂、アトランタ、翔鶴、瑞鶴。KAN-SENからは綾波、ジャベリン、ラフィー、ニーミ、島風、レーゲンスブルク、ハルピン、ダイドー、シリアス、ユニコーンである。

 

「次はお前らだ、脳筋野郎共」

 

「うっしゃぁ!!!!」

 

「行くぞ野郎共!!楽しい楽しい遠足の時間だ!!!!」

 

艦娘とKAN-SENに続き、水上装甲艇『陣風改』がレールをギャリギャリ言わせながら8隻飛び出す。今回この陣風は調査用のドローンや機材を満載しており、艦隊の簡易拠点として随行する。

 

「俺達も行くぞ!!!」

 

「おぉ!!!!!」

 

「嬢ちゃん共を援護するぞ!!!!」

 

最後にシービクターを纏った隊員達が飛び降り、各艦隊のエスコートに入る。全部隊の展開を確認すると、黒鮫弍型は危険海域(ホットゾーン)より離脱。通信や各部隊の集めた情報を集積、繋ぎ合わせての支援を行う手筈となっている。

 

「よーし最終確認だ野郎共!耳かっぽじって良く聞け」

 

今回の作戦で全体の指揮を担当する第三大隊の中隊長、ホプキンスが全員を1箇所に集めた。

 

「今回の任務は大きく分けて2つ。偵察と観光だ。この鬼ヶ島は知っての通り、奴ら深海棲艦共のホーム。我々にとっての江ノ島やセカンド・エノだ。となりゃ、まあ絶対ホームセキュリティがある。それもブザーとかじゃなくて、入れば最後、相手を殺してくる様な凄まじいのだ。これの詳細と、詰めている艦隊規模を把握する。衛星で無理なら、俺達の足でやるだけだ。

観光の方は至って簡単。この辺りをぐるぐる回って、どんな場所かを調べるフィールドワークみたいなもんだ。できれば前線拠点とかに使えそうな場所を見つけたいが、それは神のみぞ知るって訳だ。適当に期待しておこう。

再三言っているが、これは偵察任務。決戦は後だ。今回はとにかく情報だけ集めろ。終わればとっとと帰って、宿舎でのんびりやる。良いな?死ぬんじゃねーぞ!!」

 

そう。今回はあくまでも偵察であって、戦闘ではない。今回の情報を元に後ほど、決戦という形で真正面から殴り合う。だから今回は、情報を集めて生きて戻る事が要求される。

とは言え、それを理解できない馬鹿は隊員の中にも艦娘とKAN-SENの中にも居ない。隊員達は戦場を渡り歩いてきた歴戦の古兵達であり、艦娘とKAN-SENはそもそも戦う為だけに生まれてきている。こんなのは当然だ。

艦娘とKAN-SENはそもそも戦う為だけに生まれてきている。こんなのは当然だ。

 

「ほいじゃ、ウチらは観光組じゃのぉ」

 

「観光組ってなんか……」

 

「サボってる感が凄いな……」

 

今回の陣容を簡単に説明すると、浦風、浜風、磯風の3人は観光組。翔鶴、瑞鶴、ユニコーン、シリアス、ダイドーと陣風改2隻が後方待機。残りが適当に散らばり、実際に威力偵察として乗り込む事になっている。速度重視の駆逐艦と経験豊富な軽巡で編成されているのは、威力偵察で敵に見つかろうと逃げられる為だ。

 

「そ、そんな事ないよ3人とも!」

 

「観光も大事っぽい!!」

 

「お土産、期待してるにゃしぃ!」

 

「せ、川内さん!これ、フォローになってるのでしょうか?」

 

「フォローになってないよねぇ。だって浜風と磯風、見るからにガクッてなってるし」

 

吹雪はともかく、夕立と睦月のフォローのつもりの言葉が逆にダメージを与えてしまい、真面目な浜風と磯風は見るからに項垂れている。浦風はこういうのを気にしないタイプなので、いつもの明るい笑顔を見せており、なんかそれが逆に2人を引き立たせてしまっている。

側から見れば結構面白い光景なのだが、こういうのに鈍感なKAN-SENの島風はオロオロしながら近くにいる川内に助けを求める始末だ。なんか逆にその姿が、浜風と磯風の惨めさというか勝手に自己嫌悪モードに入っている面白さを余計に際立たせているのだが、それは気にしてはいけない。

 

「ほんじゃな観光組!」

 

「お土産は美味そうな魚で頼むよ!」

 

「お菓子は300円までな!」

 

「弁当と水筒は忘れるな!」

 

「バナナはオヤツに入りません!」

 

隊員達が茶化す様に大声で捲し立てる。いつもの流れではあるが、2人のネガティブゲージを余計に加速させる。次の瞬間、ホプキンスの鉄拳制裁が降り注いだのは別の話だ。

各部隊はすぐに別れて独自に行動を開始し、予め定められたルートを突き進む。霞桜組は後方から付いていき、ドローンを展開しながらの偵察だ。

 

「ドローン展開!ハッチ解放!!」

 

「よっし!行ってこいや!!」

 

屋内任務であれば蜘蛛みたいな足も備えたクアッドコプター式ドローン『サイレント』の出番だが、生憎とサイレントは静音性、探知能力共に人間が持つには最高の性能を誇るが、耐久力というのは全くない。拳銃弾どころか、下手をすれば投石でも撃墜できる。何より屋内ならともかく、海のど真ん中で運用することを考えるならかなり遅い。

そこで今回は鎮守府の警備に使われている、アサルトドローンとチェイサードローンを持ってきている。アサルトドローンには催涙ガスグレネードランチャーとショットガンが搭載されており、催涙ガスグレネードを他の弾薬に変更すれば、普通のグレネードランチャーとしても運用できる。チェイサードローンはGAU19バルカン砲1基、スティンガーミサイル10発、ハイドラロケット弾16発ポッド2基を固定搭載している為、このままでも威力偵察には充分だ。まあまあ大型の部類に入る事から、探知装備やセンサー類もサイレントを上回る。

 

「早速始めるか。こちらレセプター。島風の嬢ちゃん方と天津風の嬢ちゃん。早速だが、このまま先行して瀬踏みを頼む。コースはそっちに任せるから、好きにやってくれ」

 

『おじさん達はどうするの?』

 

「俺達は3人の尻をゆっくり追いかけるさ。大丈夫、3人の後ろにはチェイサードローンを付ける。情報はそっちにもリアルタイムで共有するから、思う存分走ってこ」

『みんなおっそーい!!!!!』

 

次の瞬間、陣風改の真横を何かが猛スピードで水飛沫を上げながら飛び出していく。バニーガールを思わせるうさ耳と結構エロいスカートとパンツに、セーラー服とかいう痴女みたいな服を着た少女。艦娘の島風である。

 

「あのー、言うとる側から艦娘の島風ちゃん飛び出して行ったんですけど?」

 

「スタートダッシュって、マリオカートじゃねーんだから………」

 

「しゃねーよ。だって我らがSpeed demonなんだぜ?そりゃぁ、飛び出すさ」

 

KAN-SENの島風はマトモな部類なのだが、艦娘の島風はとにかくスピードにこだわる。精神年齢が幼いというのもあって、自由気ままに動く上に走る事が大好きであり、最早スピード狂の部類に入るレベルのスピード好き。いつもの事とは言え、心臓には悪い。

 

『島風さん飛び出していっちゃいましたけど………』

 

『あんのスピード狂めぇ………。追いかけるわ、着いてらっしゃいな!』

 

『は、はい!』

 

「きぃーつけろー」

 

「転ぶなよー」

 

KAN-SENの島風と天津風が暴走独走中の島風を追い掛ける。勿論その後ろからは、チェイサードローンが最大出力で追いかけていく。この3人は駆逐艦の中でもスピード極振りであり、今回の瀬踏み任務では最高に輝く人材だ。島風は言わずもがな、天津風は島風には劣るものの、島風に搭載している高温高圧缶、所謂ボイラーを搭載している。お陰で島風には少し及ばないものの、島風のフルスピードについていける数少ない海上戦力なのだ。

 

「待ちなさい島風ぇ!!!」

 

「待ってくださいよ島風さーん!!!!」

 

「みんなおっそーい!!!!かけっこしたいんでしょ、負けないよー!!!!」

 

「「「キュイ!キュイ!」」」

 

艦娘の島風には艤装の一部として、連装砲ちゃんと呼ばれる独立した主砲が付いているのだが、その連装砲ちゃんも嬉しそうに島風について行き爆走する。だが追いかけている天津風とKAN-SENの島風は溜まったもんじゃない。

 

「かけっこしてるな」

 

「にしても島風が島風を追いかけるって、なんかこんがらがるよな」

 

「しゃねーよ。だって艦娘とKAN-SENって、似た様な存在だし。今更だろうよ」

 

「そりゃそーか」

 

一方の霞桜の隊員達は、モニターを眺めながらインスタントのコーヒーとか緑茶とか紅茶を啜っていた。こっちはチェイサードローンが勝手に追いかけてくれるので、特に操作する事はない。ドローンが集めた情報がモニターに表示されるので、それを見て異変を早期に見つけるのが仕事だ。

 

「っておぉ!?!?島風止まれぇぇぇ!!!!!」

 

『おっそーい!!!!』

 

「機雷原だッ!!!!」

 

隊員の叫びに艦娘の島風は全力で急ブレーキを掛ける。大量の水飛沫を巻き上げるも一歩間に合わず、機雷に触雷。爆発してしまう。

 

「島風!!」

 

「島風さん!!!!」

 

『ッ!?いや、待て!生命反応はまだある!!生きてはいる!!!!』

 

すぐに天津風とKAN-SENの島風が駆け寄る。爆発音を聞きつけた深海棲艦が寄ってくる事も考慮し、周囲をチェイサードローンで固める。

 

『どうだ!?外傷はあるか!?!?』

 

「あうぅっ……」

 

「小破って所ね。目立った外傷は無いわ!」

 

「島風さん、大丈夫ですか?」

 

「いったいなぁ…………。でもまだ大丈夫」

 

艦娘の島風は目を回してはいたが、幸いにして大きなダメージは無かったらしい。結構ピンピンしている。

 

『不味いな。敵影探知!魚雷艇!!絶対今のでバレた!方位、030と342!!数、凡そ80!!!!』

 

この報告に3人の顔が強張った。魚雷艇は装甲は薄い上、主砲が着弾した時の水飛沫で吹き飛ばす事もできる。だがそれでも一撃必殺の魚雷は脅威である上、数が多いと脅威度も上がる。

 

「迎撃するわ!!」

 

『チェイサードローンで援護する!攻撃開始だ!!』

 

チェイサードローンの下部にサソリの尾の様に垂れ下がっているパーツが展開し、GAU19バルカン砲が顔を出す。勿論弾丸には、通常弾ではなく対深海徹甲弾を装填してある。

 

『ファイアー』

 

バルカン砲の銃身が高速回転し、12.7mm口径の弾丸を魚雷艇にばら撒く。容易く魚雷艇の装甲を突き抜け、みるみる数を減らしていくが、それでも向こうの数の暴力の前には焼け石に水だ。

 

「連装砲ちゃん、よっろしくー!!」

 

「逃さないわ!」

 

「負けたからって怒らないでくださいね!」

 

3人も攻撃を始める。現在の艦娘とKAN-SENの艤装は、言うなればお互いのいいとこ取り。艦娘の艤装並みの破壊力と、KAN-SENの艤装並みの連射能力を有している。こういう相手には強い。

 

「オラー!!どけどけどけぇ!!!!!」

 

「霞桜のお通りじゃぁぁぁ!!!!」

 

「ひーーーはーーーー!!!!」

 

魚雷艇の処理に陣風改も突入し、中にいた隊員達もグリフィスを乱射。魚雷艇のお掃除を手伝う。

 

「なんでおじさん達がいるのよ!!」

 

「掃除にゃ男手がいるだろ!?」

 

「そういう事!!何よりこんなパーティー……」

 

「野郎がエスコートしなきゃなぁ!!!!!」

 

「マナース、メイクス、メーンだったか!?!?」

 

隊員達と3人が大乱闘している間、他の偵察部隊は機雷原を突破。本拠地に近付いたのだが、この機雷原を超えた瞬間、海は赤く染まり空もどす黒くなっていた。

 

「うぅ……見てるだけで気分悪くなる景色です………」

 

「こんな所でお昼寝でき……Zzz」

 

「ラフィーちゃん!?」

 

「ちょっとラフィー!起きなさいって!!」

 

「……図太いねラフィー」

 

この赤く染まった海面とドス黒い雲という異常な海を見て尚、そのまま昼寝できる図太さを賞賛すべきなのか、しっかり怒るべきなのか分からなくなる。

 

「しっかし、機雷原を抜けた瞬間にこれか。全く、訳がわからないねぇ」

 

ハルビンは軽くあくびをしながら、海を見つめる。そもそもこの海自体、出現の仕方からして可笑しい。海面が赤いとかも可笑しいのだが、例えば段階的に赤くなるとかではなく、いきなり機雷原を抜けた瞬間に赤くなった。この赤いのが赤潮とかが原因だとして、機雷原がそれを堰き止めていたとしても、空の方は全く説明がつかない。さっきまで空は青く「海と空」と聞いて頭に思い描く様な、綺麗で美しい真っ青な空だった。

にも関わらず、いきなり真っ黒。長い移動距離があった訳でもなく、機雷原を抜けた瞬間に暴風雨にでもなってそうな程にドス黒い雲。何もかもが可笑しい。

 

「なぁアトランタ。これって普通のことじゃないよな?」

 

「どう考えても異常。ドス黒い雲はデフォだけど、それでもいきなりじゃないし、遠くから見れば何の変哲の無い普通の海に見える。それに海面は変化しないから、今回のこれはどう考えてもおかしい」

 

『その異常だが、どうやら見た目だけの物じゃないぜ』

 

陣風改に乗っている隊員の1人がそう言った。隊員はすぐにモニターに出ている分析結果を、全員のARコンタクトレンズに転送。表示させる。

 

『どうやらこの赤い海の原因は、何らかの特殊な物質だ。精密分析に回さない事には分からないが、どうやら鉄を腐食させるらしい。つまり……』

 

「まさか艤装が壊れるのか!?」

 

『恐らくな。少なくとも動きは鈍るし、長時間いれば立ち往生、下手をすれば艤装自体が崩壊するかもしれない。そうなりゃ、この大海原に身一つで放り出される。

いくら艦娘とKAN-SENが海で戦うために生み出された存在とは言え、その海で戦う能力自体は艤装だ。理論上では俺達でも艤装さえ使えれば、海で戦えるだろう。その艤装が封じられるのは、君達を普通の女性にしてしまうって訳だ』

 

「ど、どどどうしよう!!」

 

「大ピンチです!!」

 

「みんな仲良くサメの餌?いやだ……」

 

「落ち着いて3人とも!!」

 

『なーに。ちょっと偵察するだけなら、あまり問題にはならない。本格的な戦闘さえなければな』

 

なんて言っていると、無線から応援要請が届いた。どうやら第三水雷戦隊が大規模な艦隊と接敵した様で、手が足りないらしい。すぐに各偵察部隊は第三水雷戦隊の救援に向かった。

 

「右から来るよ!!!!」

 

「あーもー数多すぎるっぽぃぃぃ!!!!!」

 

「チィッ!!レジーナ!焼きなさい!!!!」

 

第三水雷戦隊が接敵したのはレ級15隻、ネ級45、チ級17。いくら精鋭だろうと、水雷戦隊ではまず倒せない重装部隊であった。しかも本拠地にいるだけあって、全員がflag shipクラスの実力を持つエリート。中々倒せない。

 

「顔はやめてぇ!!!!」

 

「那珂ちゃん!!」

 

「那珂!!」

 

近くにいた数人が那珂の周りを取り囲む様に動き、他の者もその外周を囲む様にして援護する。その動きを見て、深海棲艦達はニタリと不気味な笑みをこぼしていた様に見えた。何か作戦や罠があるのかと思っていたその時、南の空から噴式景雲改、菊花改、震電改、ワイヴァーン、F7Fタイガーキャットの航空隊が飛んで来た。

 

『こちら五航戦翔鶴!皆さん、ご無事ですか!?』

 

『航空隊で援護するから、その隙に体勢を立て直して!!』

 

『お姉ちゃん達!がんばって!!』

 

「だってさみんな!水雷魂を見せるよ!!」

 

「「「「「「はい!!」」」」」

 

「……それ、私も入ってるの?」

 

川内の言葉に、第三水雷戦隊の面々が大きく返事をする。第三水雷戦隊。江ノ島鎮守府に長嶺が配属されてから編成された、最古参クラスの精鋭水雷戦隊である。数々の作戦に参加し、勝利を齎したエース達である。

そして今回だけ、臨時に水雷戦隊と行動を共にしているレーゲンスブルクはノリについていけず、1人訳がわかっていなかった。

 

「五連装酸素魚雷、いっちゃってー!!!!」

 

「いい風!やるわ!!」

 

「わわっ!魚雷発射!!」

 

 

「みんな、付いて来な!!」

 

「Open Fire!!」

 

「やる、です!!」

 

「んぅ。敵いっぱい」

 

「当たれ!!」

 

「行っきますよー!!」

 

ここに来て散らばっていた偵察部隊が合流し、戦力差が埋まった。それでも未だ、多勢に無勢。普通なら心が折れる事だろう。だが彼女達は、世界最強の化け物、長嶺雷蔵が率いる艦隊。そして何より、少し前までは最精鋭艦隊として人類反抗の切先の如く活躍してきた英雄達なのだ。潜ってきた場数が違う。この程度の敵に臆する様な、そんな連中ではないのだ。

 

「アハハハハ!イイジャン!ノッテキタ!!!!」

 

レ級達が無数の艦載機を繰り出し、艦隊に襲いかかる。更にネ級とチ級が魚雷を大量に放ち、たちまち海面に魚雷の航跡が波のように伸びている。

 

「回避!!」

 

誰かが叫び、全員が大急ぎで逃げ惑う。だが真上に居た艦載機達がそれを「待ってました」と言わんばかりに襲いかかってきて、忽ち艦隊は散り散りに逃げざるを得なくなった。

勿論翔鶴に瑞鶴、それに乗るユニコーンの艦載機達が頑張ってくれているが、それでも数が圧倒的に足りていない。そんな時、今度はコイツらが突っ込んできた。

 

『ロック!!』

 

『俺達おっさんも忘れてんじゃねーぞ!!!!』

 

陣風改に乗った霞桜の隊員達である。この陣風改には対多数戦闘にも対応できる様、対空・対地・対艦に使えるマイクロミサイルを数百発単位で装填した多目的ミサイルランチャーを搭載している。こんな無数の航空機が入り乱れる状況であれば、空域を支配することすら可能なのだ。

 

「皆さんこちらへ!!」

 

「私達が援護する!!」

 

「うち達が来たんじゃ、もう安心じゃぁ!!」

 

「シリアス、参ります!ダイドー姉様!」

 

「ダイドーも参ります!皆さん、やりましょう!!」

 

観光組の浜風、磯風、浦風。それに降下した海域付近で待機していたシリアスとダイドーも共に来ており、これで全ての艦娘とKAN-SENが揃った。

 

「ホプキンスより各員。どうやら熱烈な歓迎パーティーに招待されたらしい。マナーは気にせず、とっととパーティーを終わらせるぞ」

 

『『『『おう!』』』』

 

更に深部偵察に赴いていた、ホプキンス率いるシービクター部隊も合流し、これで一気に劣勢程度にまで勢力が整った。

 

「撃ちます、当たって!!」

 

「パーティー始めよ!?」

 

「てぇえええ~い!!」

 

艦娘とKAN-SENの攻撃も激しくなり、深海棲艦達も少しずつ動きが鈍くなる。その瞬間、シービクター達が動いた。

 

「おるるるぁ!!!!」

 

「グフゥッ!!!!」

 

「この距離からなら、レ級でもタダじゃ済まねぇぞ!!!!」

 

ホプキンスがレ級の腹に渾身の蹴りを叩き込み、身をエビの様に仰け反った瞬間、顔面にゼロ距離で対深海棲艦用歩兵機関銃イシスの5.56mm対深海徹甲弾を叩き込む。シービクターの兵装は数を集めれば姫級でも倒せる程に強い。ペルーン作戦の時の様に全大隊で使用すれば、複数の姫級でも同時に相手取って倒せるだろう。

しかし単体運用では、重巡か精々タ級位までが限界である。これだけでも化け物クラスなのだが、少なくとも通常種であれば最強格のレ級ならばシービクターとて勝てない。だがゼロ距離で叩き込めば、話は変わってくる。レ級は頭部全体が消し飛び、青い血を吹き出しながら倒れた。

 

「おらぁ!!!!」

 

ガンッッ!!!!!!

 

因みにホプキンスのは特異例である。基本はよく言えば連携、悪く言えば寄ってたかってタコ殴りにするか、対深海棲艦用パイルバンカーでぶち抜く。爆圧ボルトによる火薬の力と、後部に搭載したジェットの力でパイルを打ち出すロマン兵器ではあるが、その威力は姫級を大破ないし撃沈せしめる。

程なくしてレ級を筆頭とした深海棲艦は倒せたが、どうやらそう上手くは行かないらしい。

 

『海中よりアンノウン近付く!生物、自然物の可能性低い!!何だこれは…………。巨大なヤツだ、注意しろ!!!!!』

 

陣風改の中でモニターを見ていた隊員がそう叫んだ。全員が海中を警戒するが、海中から現れたのは黒い巨大な触手だった。

 

「触手!?」

 

「クラーケンか………?」

 

「み、みなさん!もしかして、あの触手って………」

 

吹雪が何かを言おうとした瞬間、奴が現れた。色んな深海棲艦の艤装を一つにまとめた様な、とっ散らかったカオスで禍々しい、巨大な化け物の様な艤装。無数の巨大な黒い触手。病的なまでに真っ白な髪と肌。人を簡単に貫きそうな3本の角。間違いない。奴は……

 

「深海棲姫………。総長が倒したんじゃ無かったのか……………」

 

「オ前達……アノ男ノ仲間!!!!!」

 

次の瞬間、辺りに深海棲姫の絶叫が響き渡る。キンキンとした高音で、耳から脳へ音波の槍が貫く様な感覚と、その槍が脳内で脳みそを削り切りながら反射しているかの様な感覚が同時に襲い掛かる。

 

「殺ス…… 殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス……… 殺ス!!!!!!」

 

怨嗟の呪詛。そんな生易しい物ではない。それを瞬時にその場にいた全員が読み取る。誰も命令せずとも、全員が動いた。本能が「とにかくここから離れろ!!!!」と叫ぶのだ。

 

「逃ガスモノカ!!!!!」

 

触手が逃げようとする隊員達と艦隊に襲いかかるが、それをホプキンス率いるシービクターを着た隊員達が迎撃する。

 

「うぅわヤベェよ!!!!何だよあれ!!怨霊かッ!!!!!!!」

 

「殺されたんだろ!?死んだんだろ!?死んどけや!!!!復活すんなゾンビかよ!!!!」

 

「誰か!!アンデルセン神父呼んでこい!!!!」

 

「アーカードでも可!!!!」

 

悪態吐きながら弾丸をばら撒く。多分コイツら、見かけに寄らず結構余裕あるだろう。だがそれでも、怖い物は怖い。というかこれは、多分誰であっても逃げ帰る。

 

「あぁ!?クソッ!倒したのに追いかけてきやがる!!」

 

「痛覚ねーのか!?」

 

「撃ち続けろ!!」

 

深海棲姫の触手は弾が当たれば、一瞬怯みはする。触手がビクンと震えて、動きが止まるのは確かだ。でもそれは一瞬であって、すぐにまた追いかけてくる。このままでは不味い。

 

『やばい事なってんなぁ!?援護するからコースそのままで突き進め!!!!』

 

黒鮫弍型のパイロットが無線でそう言うと、深海棲姫の背後が爆発し、そのまま体が前のめりに倒れ込む。爆炎の中を突き破る様に、深海棲姫の背後から現れたのは黒鮫弍型だった。

 

『とっとと逃げるぞ!!このまま着水するから、大急ぎで飛び込んで来い!!!!』

 

黒鮫弍型は部隊の頭上を追い越すと、そのままスラスターで急制動を掛けつつ着水。カーゴドアを開け放つ。

 

「急げー!!!!陣風を先に入れる!!他はここを守ってくれ!!!!」

 

この言葉を聞くや否や、艦隊はその場で反転。バック航行でありったけの砲弾と魚雷をばら撒く。その間に陣風改はフルスロットルでカーゴスペースに突っ込み、レールに車体を噛み合わせて無理矢理止めて積載していく。積載が終われば駆逐艦から順に乗り込み、最後にシービクターが乗り込んでいく。

 

「パイロット!全員乗った!!」

 

「うわぁ!!触手がまた来た!!!!」

 

「このまま最大推力で出す!!全員、何かに捕まれ!!!!」

 

カーゴドアの閉鎖が確認されるや否や、黒鮫弍型はスクラムジェットエンジンにも火を入れる。本来ならジェットエンジンで加速し切ってから、スクラムジェットエンジンに切り替える。そうしなければ、エンジンの寿命を大幅に縮めるばかりか故障の原因にすらなる。

だが今回ばかりは、そうでもしなければ無理だ。壊れるかもしれないが、瞬間的に得られる爆発的な推力無くして逃亡はできない。

 

「離水!!!!」

 

エンジンが物凄い轟音を上げながら、一気に加速し飛び立つ。カーゴでは阿鼻叫喚の地獄絵図だが、何とか海域からの撤退に成功。深海棲姫に遭遇しながらも、誰1人欠けることなく逃げ切れたのだ。

 

 

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