最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第百七話不幸な一日

30分後 セカンド・エノ 食堂

「おっ!?今日の日替わり、カツとじか!!」

 

食堂前のデジタルサイネージに表示されたメニューに、長嶺は少しルンルンになりながら手早く注文。本日のランチはトリプルカツとじ、ご飯特盛り、鴨ローストサラダ、豆腐とお揚げの味噌汁。いつもながらの大食いメニューをまだかまだかと持っていた時、入り口からバルクが物凄い勢いで飛び込んできた。

 

「総長!!総長は何処だ!!!!!」

 

「バルク?どうした、血相変えて。ってか食堂で騒ぐんじゃねーよ」

 

「そ、総長!!大変です!!偵察に行ってた連中に重傷者!!危険な状態だそうで!!!」

 

「はぁ!?取り敢えず格納庫に医療班向かわせろ!!俺もすぐ行く!!!!間宮!!!!」

 

「キャンセルにしときます!」

 

「頼んだ!!」

 

長嶺は昼時でだんだん客が増えて来た食堂から飛び出し、格納庫に走る。格納庫に長嶺が着いた時、丁度偵察隊を乗せた黒鮫弍型がエレベーターから格納庫に入ってくる所だった。

 

「管制!フロア停止!!」

 

『了解!』

 

格納庫にある全ての機体は、移動式の床の上に駐機される。大量に出撃する時にも駐機する時にも素早く対応でき、分解整備する際にはそのまま整備区画に運んでいける利点があるのだ。今回の場合は駐機区画まで待ってる暇はないので、すぐに止めさせた。

 

「開けろ!!」

 

ハンドサインでパイロットにカーゴを開けるように指示し、カーゴドアのある後ろに回り込む。

 

「大丈夫か!!!!」

 

「総隊長!エンビルが脇腹やられて、意識失いました!!ずっと心臓マッサージを続けてます!!後、アドレナリンも打ってます!!」

 

「OKホプキンス!それでいい!続けろ!!傷の具合を見る!!!!」

 

見れば左脇腹が抉り取られた様に欠けており、かなり出血している。多分この感じだと、内臓にもダメージが少なからずある。場合によっては、臓器全摘の可能性すらある程だ。

次に意識を確認したが、案の定意識はない。だがまだ呼吸は正常であり、死戦期呼吸にはなっていない。まだ最悪は最悪でも、手遅れではないかもしれない。

 

「総隊長!」

 

「出血がやばい!!ここで緊急手術して取り敢えず凌ぐ!!執刀は俺だ!!エンパーラー!!輸血準備!!バビロン!!デューラー!!急いで準備しろ!!!!ゴーゼン!!挿管準備!!!!コカザリ!!FASTだ!!!!レーバーリ!!ホプキンスと代われ!!」

 

大急ぎで全員が動き出す。一応これでも長嶺は、ハーバードで医学博士の称号を手に入れており、医師免許こそ持っていないが医術には精通している。平たく言えばブラックジャックだ。こういうときにも、しっかり役に立つ。

 

「あ、あの!私達にできる事はありませんか!?」

 

吹雪を筆頭とした、偵察に出ていた連中がそう声をかけてきた。もう素人の力でどうこうする域は過ぎ去っており、ハッキリ言えば邪魔である。それでも、気持ちはわからなくはない。

 

「………そこからそこ。全力で綺麗にしろ!消毒液振り撒いて、とにかくできる限り綺麗にだ!それが終わったら布吊るして、仕切りを作ってくれ!!そこをオペ室にする!それが終わったらすぐに出て行ってくれ!!」

 

「ッ!?総隊長!胸腔内に出血!!ドレーンを使います!!」

 

「おう!輸血……は来てないから、取り敢えず乳酸リンゲルで血圧を確保!持たせるぞ!!ゴーゼン!」

 

「挿管して気道を確保します」

 

「よろしい!!」

 

指示を出しつつも、傷口から考えられるダメージを予測し手術を組み立てる。今回の手術は治療目的ではなく、治療への橋渡し。出血を止めて、破損した臓器の損壊部分を切除し、感染症を防止するダメージコントロール外科と呼ばれる手術を行う。これは普通の手術が可愛く思えるほどの、超スピード勝負でありミスが死に直結する。最早「私、失敗しないので」ではなく「これ失敗できないので」である。

 

「提督!準備できました!!」

 

「ストレッチャー持って来い!!このまま手術だ!!!!」

 

エンビルをストレッチャーに慎重に移し、急拵えの手術スペースに固定。その横に心電図だとか人工心肺だとかの医療機器を設置し、ものの5分でオペの準備を整える。

 

「これより緊急手術を開始する!メス!」

 

脇腹の周りの血液を吸引機で吸収しつつ、先に胸腔ドレーンを刺して血液と漏れ出た空気を排出させる。これをしないと、場合によっては肺が外圧で潰れる可能性がある。

 

「やっぱり漏れ出てますね……。バビロン、滅菌ガーゼ準備してくれ」

 

「おう」

 

「デューラー、変わろう。ドレーンの方を面倒見てくれ」

 

「はい」

 

見たところ、脇腹の傷は想定より深かった。大腸が6割方消えてるし、脾臓も完璧に損傷している。ついでに横隔膜にも穴が空いており、物凄く簡単に言えばしっかり死ねる様な傷であった。割と奇跡とラッキーの連続で生き残っている。

 

「脾臓は全摘だ。先に横隔膜から片付ける。縫合!」

 

針と糸で横隔膜の穴を塞ぐ。これだけ聞くと簡単そうだが、実際はピンセットを使い指先の感覚と勘だけで、縫合する他ない。しかもモタモタしているとエンビルと天国の距離が近付いてしまうので、かなり大急ぎでやらなくてはならない。

 

「……………やり辛ぇ!!エンビルをやりやがったのもそうだが、こっちのフラストレーションで犯人ぶっ殺しそうだわ!!!!」

 

「そんな事言えるなら、案外余裕ありますね総長」

 

「もうここまで来たら、悪いがエンビル本人の力だ。全力を尽くしても、コイツの生きる気力が無ければ死ぬ。そこまでの橋渡しはやるけどな」

 

横隔膜の治療が終われば、次は脾臓の摘出。そして腸の縫合である。この辺は意外と楽にできる部類ではあるが、それでもかなり神経を使う。最後に仮縫合で出血を止めたら、外付けの救急車仕様の車に乗せて医療区画に搬送させた。

 

「そ、総長……。エンビルは…あの野郎は助かりますか?」

 

「まあやるだけやったし、後は向こうの治療が間に合えばな。それより、何があった?」

 

「撤退の際、アイツが被弾したんですよ。コイツ(黒鮫弍型)に乗り込む瞬間で、飛び立った後に本人が気が付きました。そのまま倒れて、後は俺達で応急手当てを」

 

「そうか。報告は後で聞く。俺、まだ昼飯食べてねーから食べてから執務室に行く。そうだなぁ、15時に執務室だ」

 

「了解!」

 

因みに日替わり定食は完売してしまったらしく、泣く泣くチキン南蛮3枚、米特盛、天ぷら盛り合わせ2人前をやけ食いしてる長嶺が目撃されたとか。

 

 

 

15:00 執務室

「失礼します、総長」

 

「おう、来たな。まあ座れよ。ベール!」

 

「はい、ご主人様。紅茶でございますね?」

 

「あぁ、頼む」

 

ベルファストが外に出たタイミングで、ホプキンスは長嶺に話し始めた。例の深海棲姫について。

 

「総長。我々はあの海域で、深海棲姫に遭遇しました」

 

「………同型か?」

 

「いえ。奴は狂った様に「殺す」と連呼していた上、艤装はボロボロ。まるで幽霊船でした。オマケに我々を認識した時の言葉が「あの男の仲間」とか言ってたん、恐らく同型艦ではなく、あのペルーン作戦で我々と戦った、あの深海棲姫でしょう」

 

長嶺は息を吐きながら、ソファーに深く座る。深海棲姫と言えば、長嶺らが日本から逃げ出す前、1番最後に行った大規模反攻作戦。ペルーン作戦にて戦い、霞桜から戦死者86名、兵士として戦えなくなり除隊せざるを得なかった者12名を出す、霞桜史上最悪の被害を齎した相手である。恐らく戦うとなれば、かなり手強い相手だろう。

 

「戦うとしたら、かなり厄介です。奴は我々の戦法を知っている上、心なしか前よりも強くなっていました」

 

「下手に手負いの動物は生存本能からか強くなるし、臥薪嘗胆なんて言葉もある。奴は俺達への怨みを忘れてないんだろう。マジ物の亡霊だ」

 

考えただけで頭が痛くなる。ペルーン作戦によって、深海棲艦の活動は非活性化している。全くないという訳ではないが、それでも弱体化したのは確かだ。だが一応総旗艦とか呼ばれてる存在が本格的に動き出せば、世界はまた不安定になる。

そういう展開の方が世界評議会の連中にとってはラッキーなのだろうが、敵のラッキーは当然こちらにとってはアンラッキーだ。となれば全力で邪魔する他ない。

 

「失礼致します。紅茶をお持ちしました」

 

紅茶とついでにシフォンケーキも一緒に持ってきてテーブルに置くと、ベルファストはすぐに部屋から出て行った。何も言ってないが、部屋に2人だけにしてくれる辺り流石である。

 

「それで、偵察の方はどうだった?深海棲姫以外にも収穫はあったんだろ?」

 

「えぇ。それはもう、色々と。まず本拠地となる島ですが、要塞ですよコイツは。五芒星型の本島に、三角形型の砲台が五芒星の角同士を繋げる辺から飛び出す様に配置されていて、当然の様に姫級が設置されていました」

 

そう言って見せてきた映像には、各角には港湾棲姫、飛行場姫、泊地棲姫が配置されている。勿論その周りにも大量の深海棲艦が群がっていて、集合体恐怖症にとっては地獄だろう。

 

「陣地内部には恐らく例のクローン施設が収められていると思われる、人間が建てた様なビルがあります。他が深海棲艦の黒かったり禍々しかったりするんで、ある意味コイツは浮いてましたよ。

このビルの周りにも超重爆飛行場姫8体、飛行場姫32体が居ましてね。ちょーっと上を飛んだだけで、戦闘機が追っかけてきましたよ」

 

「そりゃ真上飛ばれりゃ追い掛けるわ」

 

「違いない。さて、これだけでも空前絶後の防衛態勢ですが、水上艦隊の方も頭がおかしいですよ。姫級のオンパレード。ざっと数えただけでも100体近いのが待機してます。それが一個艦隊で、ここには最低でも5個います。勿論、周りにも雑魚どもが取り囲んでましてね、正直恐ろしい限りですよ」

 

ホプキンスが見せる写真には、海を埋めつくす程の深海棲艦が居た。水面が深海棲艦で埋まっているのだから、その数は下手をすれば万に届くかもしれない。

 

「実を言うと、今回の本拠地。どうやらコイツらだけじゃないんです」

 

「どういう意味だ?」

 

「それが島から凡そ20kmから手前までは普通の海域なんですが、そこから先、島の領域とでも言うんですか?そこに入ると、途端に海が赤く染まり、空もドス黒い雲に覆われます」

 

見せられた写真は、確かに言う通りだった。血でも流しているのかと思う程に赤い海面に、嵐の様に真っ暗な空。もしこれがいきなり現れると言うのなら、かなり異常である。

 

「一応この海域の周りは、まるで封印するかのように機雷がグルリと囲んでまして分かりやすくはあります。この機雷に引っ掛かると、魚雷艇に襲われますがね。

問題はその奥。この赤い海域です。この海域に入ると、途端に装備が腐食し出すんですよ」

 

「腐食?サビるってことか」

 

「はい。原因は不明ですし、入った瞬間に急にサビる訳ではありません。しかし1時間もいれば、その内に行動不能に陥るでしょう。しかもこれは我々の装備だけではなく、艤装についても同じでした」

 

錆びというのは、中々に恐ろしい。艦娘にしろKAN-SENにしろ、人の身で水面で戦えるのは艤装の力に他ならない。これが無ければ最後、溺れるだけだ。当然霞桜の隊員達も、海で戦えたり空を飛べるのは、レリック作の強化外骨格を始めとした特殊装備あってこそ。

もしもこれが無けれな、海の上で戦うなんてまず無理だ。この太平洋のど真ん中で溺れ死ぬか、深海棲艦のいい様にされるだけ。死刑宣告にも近い。

 

「早急な調査がいるな」

 

「海水については、既に分析に回しました。何かわかるかもしれません」

 

ここまでのを纏めるとこうなる。本拠地は要塞で、500〜600の姫級が居て、下手をすれば万に届く雑魚艦も居て、ついでに深海棲姫が蘇っていて、オマケに本拠地周辺には謎のサビる海域が広がる。

改めて考えると、かなりの無理ゲーである。これを攻めるのは、中々に骨が折れる。考えただけでも、頭と胃が痛くなる。

 

「……………なぁ。これって、深海棲艦には影響ないのか?」

 

「はい?」

 

「深海棲艦の連中も詳しいことは知らんが、多分水面に浮かべるのは艤装のおかげだよな?」

 

「そりゃまあ……」

 

「なら何でコイツらは、サビの影響を受けていないんだ?」

 

当然だが、この仮称『サビ海域』は、あくまでも対侵入者用の処置だろう。侵入者を足止めし、機動力を落とし、そこを深海棲艦の火力で叩く。言われなくても当然わかることだ。

なら普通に考えるのなら、深海棲艦にはこの影響がないということになる。少なくとも向こうのほうが錆びるにしても、ある程度の耐性を持っているだろう。でなくては、このトラップは使えない。流石に自分も相手も機動力が下がり、最悪死ぬとかいうトラップを仕掛ける馬鹿はしないだろう。

 

「確かに考えてみれば、コイツらはサビの影響を受けてない様に見えましたね。とすると……」

 

「何か深海棲艦に秘密があるんだろう。幸いこっちにも、深海棲艦はいるし、海水のサンプルもゲットしてる。これを元に艤装とか装備を改修すれば良い」

 

まだやりようはある。何よりそういう訳のわからない謎敵を倒すのは、霞桜というより江ノ島の専売特許。いつもの様にやるだけだ。

 

「ホプキンス、他に報告は?」

 

「特にはありませんな」

 

「ならレポートにまとめて、提出を頼む。俺は早速、このサビ海域への策を考える」

 

長嶺は執務室を出て、そのままレリックの元へと向かう。レリックの作業部屋には、URの幹部ゼビオソ、現・霞桜第七大隊大隊長テスランが居た。

 

「総隊長さん、お疲れ様です」

 

「おーテスラン!どうだ、ここには慣れたか?」

 

「いえ………。URもかなり、それこそ西部劇の地の果ての酒場のように世紀末な場所でしたが、ここは何と言えばいいのか…………。天国と地獄を混ぜたカオスというか…………」

 

「あーうん。わからんでもない。なんというか、言語化が難しいよな。俺が言うのもアレだが」

 

普通なら「テメェふざけんな!拾ってやった恩を忘れたか!?」とか何とか言って、怒鳴られてもおかしくない答えだろう。しかしここは長嶺が指揮する連中の集まり。霞桜の隊員共は優秀なのは間違いないが、同時に奇人、変人、狂人の軍団。本来ならこうやって、秩序を持って動く事自体が中々にイレギュラーとすら言える。

こういう連中の吹き溜まりは、往々にして問題が噴出しまくる。部隊内でのイジメ、否、最早殺し合い一歩手前の物や精神的、性的な暴力、或いはそもそもコミュニケーションから取れない。実際、テスランの元々いたURが正にそれだった。ヤク中は多いし、それが元で喧嘩が始まって小競り合い程度の殺し合いが頻発する。そんな組織だった。

 

「話を聞く限りだと、総隊長さんのお力だとか」

 

「なんからしいな」

 

「らしい?」

 

「俺、そういうの興味ねーのよ」

 

「あー、左様で」

 

極珍しい例とはいえ、稀にこういう奴がいる。天然の無自覚のカリスマを発揮し、意のままに操る。しかも本人はそれに気が付かない。そういう奴に限って、大抵デカい何かをしでかすものだ。

 

「ん。総隊長来てた。何の用?」

 

「おーレリック。いや、例の海水の件なんだが」

 

「少し待つ。海水より、こっちの方が大事。テスラン、着てみろ。多分、要望通り」

 

後ろからバーリが入ってきて、台車で運んできた強化外骨格Mk2一式をテスランの前に並べる。カラーリングが水色になっている辺り、これがテスラン専用の強化外骨格なのだろう。

各大隊長は必ず、自らが率いる大隊のイメージカラーに塗装された強化外骨格を着用する。本部大隊はメタリックブルー、第一大隊はダークグリーン、第二大隊はオレンジ、第三大隊は青、第四大隊は紫、第五大隊はグレー、第六大隊はガンメタル、そして第七大隊は水色だ。勿論、任務によっては通常の強化外骨格を装備する事もある。例えば潜入任務や、隠密作戦等だ。しかし前線で戦う時や最初から派手にやる時は、必ずこの専用カラーのアーマーを着用する。

 

「………なんか、ゴツくね?」

 

「そういう要望。爆弾処理に耐えられる様に、外付けで対爆装甲を追加してる。でもこれ、シービクターには邪魔。だからワンタッチで取れる。テスラン、やってみる」

 

「は、はい」

 

次の瞬間、ガキンという音が鳴り、そのまま平安時代の甲冑とかの様に装備されていた装甲板が地面に落ちる。まあ水上で使う事はないだろうが、これ海のど真ん中でやったら装甲板の回収不可能だろう。

 

「テスランの要望は対爆スーツ機能の他に、右腕にマルチデュフューザー、左腕にX線照射装置、背中にマニュピレーターと工具コンテナの増設。爆弾の解体にメインを置いてる。でも、それだと面白くない。ので、攻撃機能付けてる」

 

レリックがタブレットを操作すると、追加装備が動き出す。まずマルチデュフューザーからは、なんと炎が放出され、後ろの一対のマニュピレーターには平泉、その下の恐らく工具箱と思われる箱にはトゲが付いてハンマーの様になっている。

 

「マルチデュフューザーは要望の液体窒素とか液体の噴霧機能に加えて、火炎放射器機能も搭載。マニュピレーターは俺のと違って、精確な操作は無理。だから盾持たせた。道具箱のはハンマーになるし、9mmマシンガンも付けてる。処理中も安心」

 

「た、確かにこれなら戦いながら解体ができる。何より……」

 

「何より?」

 

「これ、物凄いカッコいい……!!」

 

「ッ!!!!」

 

テスランの感嘆の呟きに、レリックが今まで見た事ないくらい嬉しそうな顔でテスランの手を握る。そしてそのままブンブン手を振るが、テスランも長嶺も何も喋らないレリックに苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「お2人共。大隊長は、一応それで喜んでます。超喜んでます」

 

「やっぱり?」

 

「はい。大隊長は喜ぶと言葉を失う事がありますから」

 

「……………俺、それ初耳」

 

意外な一面に驚いたが、そんなのはお構いなしに今度は専用兵装を持ってきた。どうやら3種類あるらしく、ドローンとライフルと謎の盾の様な物がある。

 

「あーテスラン?お前は一体、どんな武器を頼んだんだ?」

 

「えっと銃は中距離のアサルトと、近距離で使える携行しやすいサブマシンガンかマシンピストル。それから自爆ドローンと、爆弾解体ドローンですね。はい」

 

「とするとライフルとドローンは良いとして、何だこの黒い盾?いや、盾にしちゃ何か材質が盾っぽさゼロだな。なんだこりゃ…………」

 

「それは最後。まずはこれ。名前はヘリオス。本体はこれ」

 

そう言いながら、レリックはブルパップ方式のマシンピストルサイズの銃を渡す。だがマガジンのサイズが、マシンピストルにしてはゴツい。どう見ても多分これは、5.56mmのフルサイズライフル弾を装填するマガジンだ。明らかにピストルで扱う代物じゃない。

 

「あ、あのー………」

 

「ん、分かってる。「ライフル弾仕様のマシンピストルなんて使いこなせない」でしょ?」

 

「はい………」

 

「ノープロブレム。ターボリックガスコンデンサーシステムの改造版を実装してる。今度のは反動制御してくれるから、実際の反動は凄く少ない。撃ってみたら分かる」

 

言われるがまま、隣にある射撃場で撃ってみた。連射力が凄まじく、サブマシンガン並みの連射性能である。だが肝心の反動はライフルには似合わない程に少なく、精度は絶対落ちるが片手でも扱えるだろう。

 

「す、すごい!」

 

「次はこのライフルユニットを接続して。グリムのプライマスの銃身を流用してるから、電磁加速機構でストッピングパワーが上がる」

 

言われた通りにアサルトライフルの、機関部品だけが抜き取られた様なライフルユニットにマシンピストルを嵌め込む。そのまま普通のライフルと同じ様に構えると、何と連射力が抑えられて、何故か反動が普通のアサルトライフル並みに戻った。

 

「今、反動が普通のに!」

 

「そう。ターボリックガスコンデンサーシステムは、本来なら発射ガスを増幅して弾をさらに加速させるシステム。ライフルユニットを接続すると、自動的に連射能力をライフル並みに抑えて、ターボリックガスコンデンサーシステムは普通の働きをする」

 

言っている事は簡単そうだが、これを実際に作るとなると大変だ。それは爆弾系とはいえ同じ技術者であるテスランにも分かった。しかもわざわざ、ライフルユニットの下にはグレネードランチャーまで付いている。これは嬉しい。

 

「次はコレ。ドローン。総隊長は分かるはず」

 

「それ、サイレントか?」

 

「そう。それの改造品」

 

小型多目的ドローン『サイレント』。4つのローターを持つクアッドコプターでありながら、羽とローターを折りたたむと3対6本の足で壁や天井を蜘蛛の様に動き回る事ができるドローンだ。

このサイレントには胴体にロボットアームが仕込まれており、盗聴器や隠しカメラを仕掛けられる他、拳銃位の重量なら引き摺って運搬もできる。さらに翼の方にも胴体には小型ながらも爆弾倉、ボムベイがあり、予備のカメラや盗聴器の格納、あるいは手榴弾に変更すれば自爆も爆撃もできる。そんな兵器だ。

 

「名前はテンペスト。ローター6つのヘキサコプターで、飛行性能を向上。脚も3対6本から5対10本に強化。それからロボットアームをこれまでのハッキング可能なロボットアームに加えて、精密作業用、近接格闘用、スタンガン使用のいずれかに換装可能。全体的にパワーアップさせてる。これは今後、サイレントと置き換える予定」

 

「じゃあ、最後のは?」

 

「これはプレゼント。名前はヴォルカニックフォージ。簡単にいえば盾兼グレネード投射機(・・・)

 

「グレネードランチャーではなく、投射機(・・・)?」

 

グレネード"ランチャー"はよく聞くし、何より戦場でも結構使う兵器だ。装甲車に装備されてたり、ライフルにマウントしたりして使う。だがグレネード"投射機"は聞いた事がない。

 

「そう。今は模擬弾だから、安心して使って欲しい。じゃあそれを、左腕に付けて、こう振って」

 

レリックは腕を右肩の辺りまで振り上げると、そのまま横薙ぎにビュンっと振る。テスランも言われた通りに振ってみる。

 

「えっと、こうッ!?」

 

テスランが腕を振り上げた瞬間、投射機の中から2本のレールが勢いよくスライドしてきた。中には黒い小さなボールがギッシリ詰まってきる。

 

「そのまま振って」

 

「は、はい!」

 

そのまま横薙ぎに振ると、ボールが遠心力で吹っ飛んでいく。射撃場にバラバラと転がる訳だが、ボールなので特にこれという迫力はない。何というか、地味だ。

 

「今はボールだけど、本来はこれにグレネードを詰め込む。一度に合計30個のグレネードが投射されるから、例えば今のやり方だと横薙ぎに扇状の加害範囲が形成される。縦に振れば飛距離も伸びるし、投げ方次第で色々な場面に対応できる。グレネードはレールの上と下、両方から投げられるから色々試せ。一応、ライフル弾に耐えられる装甲はあるから盾としても使える」

 

「…………レリック。これは、僕のロマンだよ」

 

テスランは我が子を慈しむ様に、ヴォルカニックフォージを撫でながら見つめる。だがその目は慈しむ様でありながら、同時に狂気的でもあった。

 

「この子に詰めるグレネード、僕が開発するよ。僕とレリックで、それを最強にしよう!」

 

「…………やろう!!!!」

 

そう言うと2人はガッシリと固い握手をし、やれ「火薬はこれで」だの「いやそれだと、点火の時にこういう問題が」だのと、2人だけの世界に入り込んでいる。ここにバーリが居れば良かったが、バーリは仕事でも残ってるのか兵器系を運んできたら姿が消えていて話すに話せない。

 

「あ、あのーレリックー?」

 

「総隊長、今忙しい」

 

「あーうん。知ってる。だがな、俺の用事というか指示だけ聞いてもらって良いか?」

 

「早く言う」

 

「あーはい。あのですね、例の海水のサンプル。分析は………まあ、そのヴォルカニックフォージ完成後でいいからさ、分析の時に深海棲艦の素材も一緒に解析して欲しい。多分、そこに突破口がある筈だから」

 

「ん。じゃあ総隊長、俺達作るから。邪魔したら殺す」

 

「えぇ……………」

 

レリックはこと技術関係の話となると、大体こうなる。長嶺を巻き込む場合は別だが、基本的に拘りが強い職人気質なので開発の時に、向こうから誘ってくる事はない。開発にタッチするのはこっちが誘った時か、何か問題とか面倒な時にこちらに機材とか素材の支援を求める位だ。それでも本日のレリックはなかなかに辛辣である。

 

「エンビルは死に掛けてるし、俺は限定食い逃して、邪魔者扱い。…………やってらんねー。適当な奴ら連れ込んで発散するかなー」

 

この後、長嶺の自室からは何やらベッドが軋む音が聞こえたらしい。

 

 

 

 




・ヘリオス
銃身長 540mm
作動方式 ガス圧作動方式
使用弾薬 5.56mm、40mmグレネード
有効射程 2500m以上
装弾数 40発
テスラン専用の可変式ライフル。本体はブルパップ式マシンピストルであり、一応の使用目的は爆弾の処理や設置時の護身用。その為、片手で扱える様になっている。しかし5.56mm弾を扱う代物であり、反動が凄まじかった。そこでターボリックガスコンデンサーシステムの改良版を搭載し、発射ガスを外部に放出。これにより反動を抑える事に成功している。
専用のライフルユニットを接続する事により、通常のアサルトライフルと同様に扱う事も可能。ライフルユニットそのものにグリムの専用兵装、プライマスに採用された電磁加速機構を搭載し、本体自体もユニットに接続すると通常のターボリックガスコンデンサーシステムに切り替わり、連射力も落ちる様になっている。その結果、高い精度とスナイパーライフル並みの凄まじいストッピングパワーを獲得した。

・テンペスト
全長 65cm
全幅 40cm
全高 60cm
元々配備していたドローン『サイレント』をテスランの要望に合わせて改造する際に、ついでなので作り上げた後継機。ローターが4つから6つに増え、脚部も3対6本から5対10本にパワーアップ。さらにローターが増えた事で爆弾層も2つ増え、飛行性能、パワー共に向上した。
ロボットアームが従来の回線に直接接続してハッキングも可能なマニュピレーターから、精密操作が可能なマニュピレーター、近接格闘用にナイフを装備したアーム、スタンガンを装備したアームに換装できる様になり、様々な用途に扱える。

・ヴォルカニックフォージ
縦 20cm
横 15cm
テスラン専用のグレネード投射機。某身体が闘争を求める系のゲームから着想を得た兵器であり、2列のレールに合計30個のグレネードを装備。それを腕を振った時の遠心力と、レールからの射出機能でばら撒き加害範囲を形成するトリッキーな兵器。例として横薙ぎなら扇形、縦方向なら縦に広い加害範囲を形成する。装置はレリック、仲間のグレネードをテスランが開発した事で、規模の割にエグい威力を発揮する。ちなみに地味に防弾性能があり、深海棲艦の砲撃を防ぐ事もできる。ただ中身がグレネードなので、もし貫通すれば木っ端微塵である。
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