最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第百十一話Project Siren

1週間後 セカンド・エノ 地上長嶺邸

「……なんというか、深海棲艦も大変なのな」

 

「今ノ話デソウ言エル貴様ハ、中々ニ珍シイゾ」

 

「いやだって、ウチの連中はワールドクラスの激重な過去を背負ってるからなぁ。耐性は付いてる」

 

鬼ヶ島攻略から1週間が経ち、研究所に残されたデータは丸々コピーし、ついでに幾つか検体として深海棲艦の遺体や標本を回収。そのまま解析に当たっている。

深海棲艦の方も、どうやら研究所に辿り着いたのがトリガーだったのか、以前の記憶というのを思い出しており、今はその事情聴取中なのだ。

 

「それで、これまでこれを思い出さなかった……いや、記憶が文字通りの封印されていたのは何故だ?」

 

「知ラン」

 

「知らんってお前……」

 

こうも迷いなく即答されては困る。というか、よく知らなくて江ノ島に辿り着けたものだ。色々と記憶と合致しない事が発生し、それを疑問に思った事は無かったのだろうか。

 

「コレハ我々、穏健派ヲ作ッタ方ノ深海棲姫ガ施シタ措置ダ。今トナッテハ、知ル術ハナイ。ダガ、予想ハデキル」

 

「じゃあその予想を聞かせてくれ」

 

「保険ダ。穏健派トハ、言ウナレバ異端者ノ集マリ。深海棲艦ノ中デ「人トノ共存共栄ヲ」ト唱エレバ、確実ニ殺サレル。特ニ貴様ガ殺シタ深海棲姫ハ、ソノ色ガ強カッタト聞ク。モシ我々ガ同胞ニ捕マッタトシテモ、穏健派ノ灯火ヲ消サヌ為ノ措置ダロウ」

 

「確か穏健派の深海棲艦は、あの深海棲姫が直接作らないと生まれないんだったな」

 

「ソウダ。例エ今ノ穏健派ガ全滅シヨウト、0デハナク1カラノスタートニデキル。ソノ為ノ保険ダ」

 

どうやら深海棲艦の至上命題とは、戦って人類を滅ぼすことらしい。これが全ての行動原理だそうで、これを遂行する為なら仲間を殺す事も厭わない。その為、穏健派だの人類との共存共栄なんて唱えようものなら速攻殺されるそうだ。

 

「やっぱあれか、単独で生き残るのはキツいのか?」

 

「艦娘ト同ジダ。食事ヲ取ラズトモ、燃料ガアレバ生キレル。ダガ私達ノ様ナ姫級ハ、普通ニ生キルダケデ大量ノ燃料ガ必要ダ。シカモ補給能力ガ有ロウト、ソモソモノ資源ガ必要ナノダ。トナレバ、他ノ深海棲艦ノ拠点ニ寄生シナクテハナラナイ」

 

「寄生ときたか。まあ他の深海棲艦からすれば、穏健派は害悪そのものか」

 

案外、その寄生先でボロを出さない為の記憶封印もあるのかもしれない。今となっては、その本人が死んでいるのだ。それにもう、どうでもよくもある。

 

「時間ダ。私ハ帰ル。今日ハ、ダンケルクガスイーツヲ作ルカラ食ベテクル」

 

「おいおい。そこは食べるじゃなくて、作るじゃないのか?」

 

「細カイノハ苦手ダ」

 

戦艦棲姫と入れ違う形で、グリムが入ってくる。その目元にはクマができているが、大体こういう調査の際は時間を忘れて作業する男だ。問題はない。多分、報告が終わればベッドにダイブするだろう。

 

「どうでした?」

 

「いや。彼女達も何故に記憶が封印されてたかは分からないんだと。大方、保険とかそういう理由だろうって」

 

「そうですか。しかし、問題ありません。彼女達についても分かりました」

 

「マジ!?」

 

「マジです」

 

長嶺が座るデスクに、タブレットをスライディングさせて手渡す。PDF化した膨大な資料が保存されており、これを全部読むのは一苦労だろう。

 

「Project Siren。どうやらこれは、世界評議会の楽園計画『Project Eden』という……まあ平たく言えば世界征服計画の為に企画された物でした。当初の予定では深海棲艦という人類共通の敵を作り出し、世界評議会統治による恒久平和の実現を目指すものだったそうです」

 

「なんだ、救国の英雄にでもなるのか?」

 

「実際その通りです。深海棲艦を生み出し、現在の世界そのものを一度破壊、つまりリセットし、国連統治の状況を作り上げ、国連軍に対深海棲艦兵器を配備し、深海棲艦を殲滅して、後は国連傘下の世界をそのまま世界評議会の傘下に収めると。掻い摘んで説明するなら、これが楽園計画の概要です」

 

なんともロクでもない計画だ。世界征服掲げてる時点でお察しではあるが、にしても酷い。盛大なる自作自演の茶番英雄譚ではあるが、今の現状下では多分通用してしまう。その位、世界は滅びかけている。

 

「しかしこれ、どうやら早々に頓挫してるんですよ」

 

「どういう事だ?」

 

「深海棲艦です。本来なら深海棲艦は、完全にコントロールされる筈だったそうです。しかし今の深海棲艦は、その計画からは逸脱した存在だそうで。というか当初の計画では、ここまで破壊する予定はなかったそうです」

 

「ロクでもない自作自演の盛大なる茶番劇だと思っていたが、それなら単なる馬鹿な話じゃねーか」

 

楽園計画で最も重要なのは、どう考えても深海棲艦及びProject Sirenだろう。ここをしっかりしてしまえば、どういう既存兵器を使っても演出次第で最強の切り札、人類の希望にできてしまう。裏を返せば、Project Sirenが頓挫すると全部ご破産してしまうだろう。そのご破産する部分が頓挫してるのだから、いよいよ笑えない。

 

「Project Sirenで作られる予定だった深海棲艦は、概ねは現在世界を破滅に追いやっている……いえ、追いやっていた深海棲艦と余り変わりはありません。艤装と呼ばれる既存兵器が通用しない、特殊な装備を人間サイズの生物兵器が運用し海を駆ける。こういうコンセプトです。

しかし自己進化性を組み込んだ結果、どうやら自律性とか自我に目覚めた様でして。ここに元々含まれていた闘争心だとか、その根源として人類を排除すべき対象と認識していた事が災いし、世界評議会の手綱から逃れ、今の世界を作ってしまったそうです」

 

「……なんともお粗末な話だな。自分達が手に入れる予定の物を、その為に作った傀儡が一切合切纏めて台無しにしてんだから」

 

「えぇ。世界評議会なんて付いてますから、その傘下の研究員も世界の叡智が集まった組織かと思いきや、結果はこれですからね。

この自由意志を持った深海棲艦というのが、言うなればプロトタイプの深海棲艦だそうで、姉妹の様な深海棲艦だったそうです。画像を確認したところ、深海棲姫である事が分かりました。ついでに言うなら、あの研究所の惨状を作ったのも深海棲姫、恐らく我々が倒した方ですね」

 

研究所に突入したときの死体の山は、幾つか胸骨が砕け散っていたのがかった。恐らくはあの触手で貫いていたのだろう。戦って実感したが、あの触手を閉所戦で使われるとかなり面倒だと思う。研究員達に逃げ場は無かっただろう。

 

「データを調べた所、どうやら対深海棲艦兵器というのも開発できていたそうです。その1つが、あの研究所のタレットに使われていた弾丸。我々の対深海徹甲弾の様なヤツです。ですがこれは、製造にコストが掛かるそうで結局は断念されました。

そしてもう1つ、代替案として計画、実行されたのが発展型深海棲艦の製造です」

 

「………おいそれ、なんか嫌な予感してきたんだが………………」

 

「この発展型深海棲艦には、海を取り戻す事を使命とし、同じく艤装を扱う生命体です。しかしどういうわけか、妖精という霊的な何かと共に戦い、通常の人間の言う事は聞かず、同じく妖精が見える人間にのみ絶対服従します。その名を艦娘というそうです」

 

「マジかよ…………」

 

つまり深海棲艦と艦娘は、本当の意味でイコールである。これまでルーツが謎とされてきた艦娘だが、同じ存在に生み出されたのなら、色々合点がいなくもない。

 

「しかし何故奴ら、態々日本なんぞにばら撒いた。使うならアメリカとかロシアとか、それこそ国連で使えばいい物を」

 

「このProject Siren、源流はどうやら中国、正確には今は亡き中華人民共和国だそうです。ここと近く、尚且つ国家機能が麻痺といいますか、保身や既得権益にしがみつく権力者が多く、言うなれば自由主義陣営でありながら隠蔽しやすい国家であり、一方でスピリチュアルとかオカルトでは世界を救う存在だとか言われ、唯一の妖精を見る事ができる人種が居たから、だそうです。

日本に英雄の地位を渡しつつ、その裏では世界評議会が全てを操る。恐らく時がくれば、それを全て自らの傘下に収めてしまう腹積りだったのでしょう。実際、日本人は勤勉で実直な国民性ですから、兵隊として戦わせるには最適な民族かもしれません」

 

「その日本人としては、なんとも言えねーよ」

 

グリムの言葉には苦笑するしかない。耳が痛い話だが、日本は正直腐っている。政治不信やら権力者のアレコレは、今に始まった問題ではない。「日本人の兵士、ドイツ人の士官、アメリカ人の将軍こそ最強の軍隊」なんていうのは、有名な話だ。事実なだけに、余計に耳が痛い

 

「しかし彼らの計画は、恐らくはまたしても崩れ去っています」

 

「その心は?」

 

「我々の存在です。元々は対艦娘制圧部隊として生まれる筈が、いつの間にか対深海棲艦部隊兼、国家の裏切り者を排除する部隊になっていますね?総隊長殿なら、何かわかるのでは?」

 

「…………あれこれ、奴らの思惑にとっては真逆の存在じゃね?」

 

今でこそ対深海棲艦部隊と秘密警察よろしく秘密裏に裏切り者の排除を行う……行っていた、我らが海上機動歩兵軍団『霞桜』であるが、元々は艦娘へのセーフティだった。深海棲艦並みの能力を持つ艦娘を、武力で押さえつけるための組織。そうなる筈だった。

 

「その通りです。あくまでこれは仮説ですが、霞桜を設立しようとしていた連中が評議会のメンバーないし、その裏にいた筈です。そして我々が今、この立場に追いやるキッカケを作った反艦娘、反海軍の権力者達も恐らくは」

 

「スゲーな。てことは、なんだ?俺達は気せずして、世界を救ってましたってか。それも無意識で。とんだ英雄だな、俺達は」

 

「あくまで仮説ですよ?しかし、こうすると筋は通るんですよ」

 

「ってかさ、これがマジだとすんじゃん。そしたら俺達、もしかしなくても世界評議会の連中殺しにくるよな?」

 

「そうなんですよ…………」

 

状況を整理しよう。まず霞桜。仮説が正しいなら、本来の霞桜の任務とは恐らく艦娘が不要になった時の排除を行うか、或いは武力的な統制化に置くための汚れ役。ところが艦娘と共闘し、深海棲艦を滅ぼす部隊に変貌したばかりか、日本に仇なす不穏分子の排除とかを担う部隊にもなり、世界評議会に敵対する組織と化した。

その指揮官は提督となり多数の戦果を上げていたが、深海棲艦に接触した為、人類の裏切り者だとかで排除できる様になる。反艦娘だとか反海軍の権力者を使い糾弾は成功するが、恐らく排除目的で派遣されたシリウス戦闘団を殲滅して戦力を低下させずに脱出。行方知れず。その行方知れずの軍団は、いつのまにか世界征服計画とか深海棲艦開発計画を知ってしまっているのだ。これは何処をどう考えても、排除案件だろう。今すぐかどうかは別として、必ず排除対象となる。

 

「まずは仮説をどうにかしないとな。すぐに情報を集めさせろ」

 

「わかっています。想定は?」

 

「当然、奴らにバレていることが想定だ。あの研究所が放棄されていたし、そもそもProject Sirenの件もトバルカインの独断だろう。となると恐らくはバレてないと思うが、流石に今回は文字通り世界が相手だ。いくら何でも、俺達の手に余る。お前が前に言ったようにな。ここは最悪を想定し行動する」

 

「わかりました」

 

長嶺らも『ワールドディザスター』なんて名乗っているが、世界評議会は別物だ。こちらはあくまで、長嶺を筆頭とした軍隊。対して世界評議会は各国の政財界に食い込み、場合によっては時間こそ掛かるが各国正規軍を投入できる可能性すらある。単純な戦闘能力は勝ろうと、やはり政治力や経済力では負けるのだ。

 

「それから、例の死体になってた深海棲姫とかの件ですが」

 

「あー、あれな」

 

「どうやら同士討ちを避ける為だったそうで、やはり穏健派の深海棲艦は他の深海棲艦からは狩られる個体だったそうです。勿論、物理的に。そこで深海棲姫は一先ず自らの能力で戦艦棲姫を始め、自ら思想を含ませた穏健派の姫級を作り上げ、通常通りに他の深海棲艦に紛れ込ませます。

そしてそのまま普通の深海棲艦として動かし、もし何かしらの深海棲艦との和平に応じる者や、その可能性がある者、或いは協力者になり得る者を認識すると、自動的に穏健派の思想がアンロックされ、対象に合わせた行動をとります。しかし全ての記憶ではなく、あくまで穏健派の思想だけです。今回で言うなら総隊長殿が協力者として認識されたのでしょう。

この協力者に接触すると、例の深海棲姫に情報が自動的に無意識下で送信され記憶が全て蘇り、深海棲姫の元に導かれる予定でしたが……」

 

「その肝心の送信先たる深海棲姫は、その送信のタイミングで既にグズグズの死体となっていて、記憶は戻らず穏健派の思想だけが残ったと」

 

「はい。今回記憶が戻ったのは、全くの偶然でしょう。その辺りは、私より総隊長殿の方が詳しいのでは?」

 

「まあ脳神経だの記憶だのもメカニズムは知ってるが、深海棲艦のは流石に知らねーよ。

でも人間なら、あり得なくはないな。とはいえ脳及び記憶関連は、今も高名な学者達が頭捻って研究する分野だ。何とも言えんよ」

 

しかし深海棲艦もまた、クローニング技術で生まれている。恐らく人間の遺伝子が使われているのだから、脳関連も人間と同じと考えていい。脳の記憶の種類は色々あるが、昔嗅いでた匂いを嗅ぐとか、昔の友人知人と再会し当時の記憶を思い出すといったように、かつて訪れた場所や物と記憶が紐付きはする。恐らく今回記憶が戻ったのも、それなのだろう。

 

「こう言っては何ですが、我々にとっては記憶よりも目先の問題が大量ですからね。それに現状で不自由も何も無いんですよね?」

 

「あぁ。彼女達も記憶が全て戻ったが、かといって懐かしさだとか、家族がどうとかは無いらしい。生みの親たる深海棲姫が死んでいた事は悲しいらしいが、それももう割り切れているそうだ。何かあればケアするさ。今や彼女達深海棲艦もまた、俺の大事な家族だ。お前達や艦娘とKAN-SENと同じ様に守る。

で、それはそれとしてだ。お前この情報、何処から手に入れたんだ?深海棲姫は死体だろ」

 

「ある意味では、深海棲姫本人にですよ。あのポッドにいた訳ですが、ポッドの機能に思考を記録する機構がありまして。今報告した事は、深海棲姫の記憶や思考の記録から入手したものです」

 

「何というか、人権も何もあったもんじゃ無いな。取り敢えずその装置、封印で」

 

「はい。しかしできれば、一度試してみたいとは思います。尋問には有用かと」

 

確かにそれはそうだ。もしこれが人間にも適用可能なら、尋問した情報の裏取りにも使える。というか尋問・拷問の類が必要なくなる。これは大きい。

 

「いいだろう。確かURから攫ってきた戦闘員達がいるだろ?そいつらの、そうだな。やってる事がエグい奴とか、死んでも問題ない様な奴使って試せ。記録はしっかりやれよ?あぁ、死んじまったら処分も頼む」

 

「ありがとうございます」

 

彼らは便宜上捕虜と呼ばれているが、国際法上の定義では捕虜ではない。色々議論があるが基本的に、交戦国の軍事組織か、何処かの国家の軍事組織か、一定の規律と指揮系統を持つ組織の何れかに所属するか、戦争中に敵対勢力の一部として戦闘に従事している必要がある。

URこれのどれにも当てはまらず、というか長嶺達も言ってしまえば非合法の武装勢力、テロリストである。テロリストがテロリスト捕虜にしてる時点で、人権も何もあったもんじゃない。利用できるモノは利用するし、別に家族じゃないのだ。死のうが何しようが知ったことではないし、ここにきた時点で既に死んだ者としてカウントしてるのだ。今更死んでも、カウントが早かっただけにすぎない。

 

「さて。じゃあ俺は俺で動きますかね」

 

「何をされるので?」

 

「当然、調査だ。明日、中国に飛ぶ。関係施設のデータ、それ全部送ってくれ」

 

「なるほど。東川蔵茂、煉獄の主としてのツテを使う訳ですか」

 

「そういうこと」

 

長嶺はニヤリとグリムに笑いかける。こうなったら使える物は、本当の意味で何でもかんでも使って利用するしかない。

 

「それでは後程、データを送信します。私はこれで」

 

「おう」

 

グリムが退室するや否や、即スマホを手に取り張の個人携帯に電話を掛ける。

 

『煉獄か!?大丈夫か!生きてるか!?我が国に亡命するか!?』

 

「世界の裏切り者だよ、おっちゃん。生きてるから落ち着け」

 

開始3秒で、挨拶かのように「亡命するか」なんて言われるとは思わなかったが、この豪快さは懐かしい。CNLFにいた連中の内、実働部隊の連中は揃いも揃って豪快な連中が多かった。この張はその中でも随一で大佐でありながら、下手な兵士よりも強い武闘派として名が通っており、何度も拠点で次の戦いで前線に行くか行かないかで部下とバトっていた。

 

『す、すまん!だが貴様が日本を脱出したのには、本当に驚いたんだぞ。煉獄の事だ、死ぬ事は絶対にないが消息を絶ったんだ。心配したんだぞ』

 

「ありがとよ。それでだ、今回連絡したのは正に脱出した理由についてだ。詳しく知りたい事がある」

 

『もちろん何でも言ってくれ!どんな事でも、我が国にできる事ならいくらでも協力しよう』

 

やはり戦友というのはいい。まだ何も言っていないにも関わらず、二つ返事で協力すると言ってくれている。しかも我が国まで付いてだ。

 

「今回の一件だが、簡単に言えば世界を敵に回す。権力者共の闇が詰まった部分に突撃して情報集めたいんだ。詳細は悪いが、話せない。だが場合によっては、深海棲艦の全てがわかるだろう」

 

『おいちょっと待て!!深海棲艦!?は、え!?まさか、深海棲艦の正体がわかったのか!!??』

 

「あぁ。この組織が作った生物兵器である事を、俺達は既に突き止めている。今回はこの情報の確度を上げる為の調査だ」

 

いつもの事ではあるが、長嶺は大事な事をさも普通かのようにサラリと言う。張は電話口ですっ転ばん勢いで驚いているが、長嶺は平然としていた。

 

『わ、わかった!絶対全面的に支援しよう!!』

 

「ありがとう。明日、そっちに行く。目標は後から送信するから、よろしく頼む。それから密入国の形になるから、適当に手配しておいてくれ」

 

『承知した!待っているぞ!!』

 

張との電話を終えると、次は目標となるデータを確認する。場所はかつての新疆ウイグル自治区、その中にある放棄された核実験施設だ。内部構造は不明だが、どうやら大規模な施設だったらしい。深海棲艦が出てくる可能性もある以上、ある程度の戦力は確保したい。しかし密入国である以上、大人数では目立ってしまう。6名前後だろう。

 

「まず科学方面の人間としてビスマルク、それから深海棲艦から拠点機能が使える港湾棲姫。この2人は確定だな。

次は火力要員。戦艦クラスとなると、やはり大和型か。ある程度、この手の心得があるとなると艦娘よりも、KAN-SENだな。武蔵。それから偵察として、空母がいる。連携も考えると、信濃でいいだろう。タンク役……魔術関連で薬剤やら生物学に造詣があるヒンデンブルクが最適か」

 

鉄血のリーダーにして、元が技術者だったビスマルクZwei、深海棲艦にして拠点機能が使える港湾棲姫、最強の火力と最上位の装甲を持ち、尚且つこういう隠密作戦にも対応できるKAN-SENの武蔵、同じ大和型でありながら空母随一の航空機運用能力を持つ信濃、装甲と火力のバランスが良い上に、魔術が趣味でそこから薬剤だの生物学だのに手を出しているヒンデンブルク。最強にして、鉄壁の布陣だろう。

これに長嶺と、いつも通り犬神と八咫烏。そしてセカンド・エノからも、遠隔支援が行われる。これで問題ないだろう。

 

 

 

翌々日 旧新疆ウイグル自治区 旧核実験施設

「いやまあね、おっちゃんが来るのは期待してたよ。うん。だけどな、何特殊部隊連れてきてんだよ!!!!」

 

「良いではないか良いではないか」

 

張趙雲。現職の新・中華民国陸軍総司令長官であり、かつてCNLFの軍事指導者として中国民主化革命を成功に導いた英雄である。当然長嶺の戦友でもあり、自らもまた『黒腕の張』の名を轟かせていた戦士でもある。故に今回の話を持ち込んだ時点で、絶対付いてくるとは思っていた。指揮官ではあるが、どっちかというと長嶺と同様に前線で暴れたいタイプの男だ。予想通りではある。

だがしかし、流石に中国軍の特殊部隊『飛龍』を連れてくるとは思わなかった。しかも一個小隊60余名に加え、攻撃ヘリコプターWZ19が8機同行し、近隣飛行場には空軍のJ20が4機待機しているらしい。当然、輸送用のZ20もいる。頭が痛い。

 

「そう仰らないでください閣下!」

 

「我々は閣下と共に戦えるのが誇りなのです!!」

 

「我々の国の未来の礎を築き上げた、影の英雄と共に戦えるなら本望だ!!」

 

物凄いキラッキラした目で見られても困る。もうここまでされたら、ため息吐いて一緒に行くしかない。それに場合によっては、戦闘も予想されるだろう。その為に態々、武蔵とヒンデンブルクまで連れてきたのだ。

 

「契約者。連れてきちゃったのだから、もう諦めなさい」

 

「もう引き返す事叶わず。なれば、共に戦うのみ……」

 

「戦力が増えたと考えればいいわ」

 

「なんというか、割り切りなさいとしか言えないわね………」

 

「大人数ノ方ガ楽シイ」

 

「そういう問題か!?」

 

ヒンデンブルク、武蔵、港湾棲姫、そして多分信濃は肯定というか、良いだろうという考えであり、唯一ビスマルクだけは同情してくれている。というかその横でハイタッチして喜んでる張と、中国軍の精鋭部隊たる飛龍の隊員達。お前らそれで良いのかと思ってしまう。

 

(我が主。良いではないか、諦めよ)

 

(もう連れて行くしかないって)

 

「はぁーぁ…………。おっちゃん、指揮は俺が通る。これは飛龍に関してもだ。構わないな?」

 

「当然だ。少なくとも、俺は煉獄の指揮を信じられる」

 

「我々としても異論はありません英雄殿。しかし、その能力は見定めさて頂きます。一応私は、部下達の命に責任があります。もし相応しくないと感じた時は、迷わず指揮権を剥奪いたします。構いませんか?」

 

確か周とかいう、若い隊長は長嶺を前にしてそう言い切った。こんな事でどうこういう男ではないとは言え、天上人とすら言える張がいる目の前でもある。

これに関しては無礼だと言う者は言うだろうが、寧ろ長嶺も張も感心する。何せそれを恐れず言い切るということは、本気で部下を大切に思っている証拠だ。

 

「周少佐だったな。無論、構わない。なんなら俺が飛龍の人間を捨て駒に使っている、無意味に殺されていると感じたら、迷わずに俺を殺すが良い。その権利と義務が、アンタにはある筈だ。おっちゃん、いいよな?」

 

「あぁ。新・中華民国陸軍総司令長官の職権に基づき、仮にそのような行動に取ったとしても一切の罰は与えないさ。尤も、万が一……いや、そんな事態は絶対に起こらないだろうがな」

 

暫くして部隊は、放棄された核実験施設に降り立つ。3機のZ20の内、2機に乗ってる隊員はラペリング降下で周囲を確保し、張や長嶺の乗る機体は着陸して降りる。

 

「張将軍、周少校!部隊、集結しました!!」

 

「うむ」

 

「英雄殿、お願いします」

 

周に促される形で、飛龍部隊の面々の前に立つ。家族と呼ぶ最愛の仲間達ではないが、今回共に戦う以上は同等の存在になる者達だ。しっかり顔を見て、いつもの様に話す。

 

「……今回の作戦は俺が指揮を取る。俺は英雄殿なんて、そんな大層な奴じゃない。お前達と変わらない、戦場に生きる戦士だ。いつものように、お前達が訓練でやるように存分に戦うが良い。さぁ、楽しい楽しい宝探しの始まりだ!行くぞ!!」

 

斯くして、中国での調査が始まった。この調査が、吉と出るか凶と出るか。それは誰にもわからない。

 

 

 

 

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