翌々日 セカンド・エノ 長嶺自室 会議室
「集まったようだな。始めよう」
中国から帰還した翌々日、長嶺は幹部達をいつもの会議室へと集めた。目的は勿論、中国で入手した情報の報告である。
「俺や武蔵、港湾といった一部が中国に行ってきたのは知っての通りだ。そこで深海棲艦関連や世界評議会に関する情報、その他色々と入手してきた。グリム」
「はい。深海棲艦についてですが、彼女達が艦娘の先祖と言える存在であり、人為的に作られた言わば生物兵器である事は知っての通りですが、その作成については我々も何度か遭遇している髑髏兵。あの兵士達の技術が使われているそうです」
大和と長門の顔が少しだけ曇る。元々冗談でも真面目でも「艦娘と深海棲艦、実は同じなんじゃないか」というのがあった。故に深海棲艦が作られた技術を応用して、艦娘が作られたという真実には、さほと大きなパニックにはならなかった。というか個人個人はいざ知らず、大人数でどうこうという様な大騒ぎは1つたりとも起きていない。
しかし敵だと言って、ずっと戦い続けていた相手が自らと良く似た存在であるという事実に驚きやショックは少なからずあり、個人個人では多かれ少なかれ混乱はあった。とはいえ、そこは長嶺指揮下の艦隊。その程度では、そこまでの影響はなかった。
「一応これでも重要なことではありますが、これよりも我々にとって最重要なことがあります」
グリムは自らを落ち着かせる様に、一呼吸置くと話始めた。今回の調査で知り得た、最も重要な情報を。
「……長嶺連合艦隊司令長官の抹殺。そして江ノ島にいる艦娘と深海棲艦の確保と、職員及び謎の戦力の抹殺。これが過去に実行された作戦プランの中にありました」
「よし殺しましょう。必ず殺しましょう………」
「………ふざけてる」
「弾幕浴びせて殺してやる…………」
「カエシがいるな。ヤキ入れてやる…………」
「今回ばかりは付き合うわよ。世界中、地獄の果てまで手伝ってあげるわ」
「どうやら、本気で殺さないといけない様だ…………」
「今の状況の元凶か」
「なんという、圧が凄いよ。流石にホームをメチャクチャにされると、こうなるか」
大隊長の内、最近になって仲間になり江ノ島に思い入れが無いラーマエルとテスランは、単純に裏に世界評議会がいた事や他大隊長の反応なんかに驚いている。対するマーリンからベアキブルまでは勿論、珍しくメビウス1までもがキレている。
「つまり、私達の家を奪ったのは世界評議会だと?」
「そういう事になるな。殺すしかない」
「ふふふふふふ………。私達の家を奪っておいて、無事で済む訳ないわぁ……」
「姉様。直ちに世界評議会を潰しましょう」
「指揮官。私達を止めてくれるな!全員、この世から排除するぞ!!」
「ハニーの言う事でも、今回ばかりは聞かないから。止めないでね」
「今回ばかりは、私も本気で頭に来たわ…………」
「あらビスマルク、奇遇ね。今回は私も、いつもみたいにクールでいられる自信ないわ。例え雷蔵の頼みでもね」
「ロイヤルの総力を挙げて殲滅してくれる…………」
「光なんて届かせません。地獄の業火の光でも浴びればいいのです」
「我らが艦隊の栄光に泥を塗る所業は、流石に生かしておけませんね………」
「全員シベリア送りにしてやろう。いや、どこか劣悪な環境で死んでもコキ使ってやろうか……」
「はぁ……奴ら、絶対殺してやるよ」
「彼の者らに救いは必要ありません。死あるのみです」
「海賊は怨みを忘れない。復讐してやる!!」
「今回ばかりは止めません。私共も皆様と同じ思いです」
「私モ珍シク、怒リニ悶エテイルゾ。アァ、久シブリダ」
そして大隊長以上にブチギレてるのが、艦娘とKAN-SENである。もう顔から笑顔が消え去り、可愛く美しい見た目なのに、背後から阿修羅が見え隠れしている。美人が怒ると迫力が凄いが、それが17人もいれば凄まじいものがある。
「本当なら後から多数決でも取るつもりだったが、面倒だ。今取ってしまおう。江ノ島鎮守府、奪還するのに賛成なや」
奴と言い切る前に、全員の手がズババっと上がる。満場一致のお手本の様に、全員が賛成に票を入れた。まあ、当然だろう。江ノ島鎮守府は、このセカンド・エノにいる者に取っては唯一無二の家だった。このセカンド・エノでの生活も楽しいが、やはり江ノ島は特別なのだ。一種の故郷とすら言える。
「だよな。とは言えだ、野郎共。現実問題として、江ノ島を奪還するのは不可能だ。表向きというか、この世の真実としては「江ノ島鎮守府の提督にして連合艦隊司令長官の長嶺雷蔵が、深海棲艦と密通し鎮守府内に姫級の深海棲艦を住まわせていた。それを処断し、ハヤト・レグネヴァが新たに長官兼提督の座に着いた」という風になっている」
「でもそれは、事実とは異なるじゃないですか!」
「その通りだ。イラストリアスの言う通り、事実とは異なる。でもな、存外その辺の事なんて世の中どうでもいい。事実だ真実だなんて、立場だとか権力者の都合だとかで、いとも容易く書き換わり、変貌し、それが時間や人を通って行くたびに変質し、いつしか別の何かとなる」
「その口ぶり、何か手を考えてるな?」
ラーマエルの言葉に、長嶺はニヤリと笑う。付き合いは短いかもしれないが、代わりに純真無垢な、大人になるにつれて鎧を纏う様に見えにくくなる本質の部分をラーマエルは一番よく知っている。なのでこういう時、長嶺の考えそうな事は予想できるのだ。
「相手が俺達に奴らの都合のいい事実や真実を被せるなら、こっちも同じことをしてやればいい。それも純然たる、覆しようのない事実と真実でだ」
「…………総隊長殿。それってまさか」
「世界に全てリークする。無論これは本来なら博打だ。だが俺には、頼れる味方がいる。世界各国の友人達なら俺のやった事に合わせてくれるし、それにもう一手間考えてある」
「もう一手間とは?」
「簡単だ。世界の中心で、声高に叫ぶんだよ。場所はニューヨーク、マンハッタンだ」
この意味をわかる者。大隊長達ならグリム、マーリン、ベアキブル。艦娘とKAN-SENなら大和、赤城、ビスマルク、ウェールズヴェネト、リシュリュー、それから地理的にエンタープライズとニュージャージーが身を乗り出して驚く。他は余り分かっていないのか、長嶺のプランよりも周りの反応に驚いていた。
「は、ハニー?そこって確か………」
「おう、その通りだ。……どうやら、分からないのもいるみたいだな。オーライ、わかりやすく言ってやる。国際連合本部ビルを襲撃して、オンラインで全部ぶちまける」
今度は全員が椅子から転がり落ちない勢いで驚いていた。国連本部襲撃とか、最早9.11並みの大事件となる。しかも潜入ではなく、襲撃の時点で暴れる事は確定だ。嫌でも衆人環視どころか、世界中の人の目や耳に入る。
「そ、そそそ総隊長殿?マジで言ってます?」
「マジです、大マジです。決行は準備ができたら即日だ。お前ら準備しろー」
「そんな適当ですか!?」
「グリム、俺達人類の裏切り者よ?今更、国連本部襲撃とかでオタオタするか。あっ、念の為に非殺傷弾に換装しとけ。極力人を殺さずクリーンに行けば、少しは評判上がるだろ」
そう言って1人笑う長嶺だが、他は乾いた苦笑いしかできなかった。しかし襲撃自体には乗り気ではあるので、2週間で全ての準備を終わらせて、2週間後には全軍を持ってニューヨークへと飛んだ。
2週間後 ニューヨーク 防空識別圏付近
「総隊長!!お客さんが出やがった!!!!機数8!!高速で向かってきます!!!!」
「流石はアメリカ。対応が早い。機種は?」
「不明!!恐らくF22!!!!」
現在、黒鮫弍型の群れは各機が限界まで寄って、大型機程度に見える様に配置している。スクランブルで8機上がるのは珍しいが、こちらも8機に見える様飛んでいる。問題はない。
『……こちらUSAF。所属不明機の編隊へ!!貴様らは、我がアメリカの領空を侵犯しようとしている!!直ちに引き返せ!!!!』
「どうします?」
スピットの言葉に、長嶺は無言で無線機を手に取り、チャンネルを接近中の戦闘機に合わせる。何をするのか分かった以上、スピットもハリケーンも自然と笑みが溢れる。
「こちらゴールドフォックス。悪いが、そのつもりは無い。というかこっちは、楽しい楽しい大戦争をしに来たんだ。引き下がるかよっ!!!!」
「全機!!ブレイク&クルーズ!!!!!」
スピットの指示で編隊をブレイクさせ、亜音速から黒鮫弍型本来の巡航速度であるマッハ2.5にまで加速させる。レーダー上では8機の大型機が、数百機に膨れ上がった上に音速を突破するのだ。パイロットも地上管制もパニックになるだろう。
「メビウス中隊。彼らを相手してやれ」
『ウィルコ』
今回、メビウス中隊含め、戦闘機には制空装備で随伴してもらっている。攻撃機には空対地ミサイルなんかを積んでいるが、今回は黒鮫弍型が直接支援に入る。火力的には、ニューヨーク全土を火の海にする事もできるほどだ。それだけの兵装を搭載している。
「メビウスが相手している間に、こちらはニューヨーク市街に突入だ。突っ込め!!」
「ラジャー!!」
高度を下げ、水面スレスレからニューヨーク市街に突入して行く黒鮫弍型。その姿はまるで映画そのもの。流石のアメリカ軍も対応が追いつかず、妨害という妨害もないまま市街へと突入できてしまった。
「流石に抵抗なく行けるな!」
「そうっすねー。アメリカとて、こんな奇襲じゃ対応できるわけないでしょ」
「スピット、ハリケーン。後は頼むぞ」
長嶺はカーゴへと戻る。スピットとハリケーンの2人は、何も言わずサムズアップして長嶺を見送る。
パーガトーリィのカーゴには、プレジデント・ファイターとそれに乗り込む霞桜の隊員達、それから艦娘より大和、KAN-SENからは赤城、加賀、エンタープライズ、ニュージャージー、ウェールズ、ベルファスト、オイゲン、ビスマルクと各陣営の代表達が居た。
「総長!こっちは準備万端、いつでも行けます!!」
「よろしい。じゃあとっとと乗り込め!派手にタッチダウン決めるぞ!!」
「「「「「っしゃぁ!!!!!!」」」」」
隊員達はノリノリで乗り込み、正に意気揚々というのだろう。一方の艦娘とKAN-SEN達の方は、結構顔が引き攣っていた。
「おいおい、どうしたお前達。今更怖いか?」
「い、いえ。その、襲撃は怖くありませんよ?でも、その、パラシュートとか無しでトラックごと、直接ニューヨークに降ろすというのが………」
「少しでも失敗したら、道路に真っ逆さまだろう?怖くないはずがない………」
大和とエンタープライズの言葉に、他のKAN-SEN達も横で頷いている。今回の襲撃は、奇襲による強襲。パラシュートだ何だと、悠長にやっている暇はない。そこで黒鮫弍型を低空侵入させて、直接トラックを道路にハードランディングさせる方式を取っている。どうやらそれが怖いらしい。
「そうか。………いい手がある」
「ホント!?」
「あぁ。諦めろ」
サムズアップと共に、気持ちのいい笑顔で言い退ける。だってもうパラシュート搭載する暇ないし、別に死ぬことはない。ちょっと物凄く揺れて、死ぬほど怖いだけだ。うん、何も問題ない。
「総隊長にお嬢さん方ー。カーゴ発ニューヨーク行き、地獄の暴走連結トラック、まもなく発車ですよー」
「へいへーい。ほらほら、乗り遅れる前に行くぞ」
「できれば乗り遅れたいわよ………」
ノリッノリで乗り込んでいく長嶺の背中に、そうオイゲンが呟いた。それが口火を切ったかの様に、他のKAN-SEN達からも不満が上がる。
「今回ばかりは、指揮官様を恨みそうですわ……」
「ね、姉様が指揮官を恨む……だと…………」
「珍しい事もあるものだな。あの赤城が指揮官を恨むだなんて」
「私も恨むわよ」
「ウェールズ……それ、私も乗せてもらうわ」
「今回ばかりはご主人様の行動が愚かでないと祈るばかりです」
「やっぱ私、ここに残るわ!うん、バックアップも大事よね!!」
「ニュージャージーさん、諦めましょう………」
もうここまで来たら、引き返すことは叶わない。非常に遺憾ではあるが、乗るしかないのだ。
『間も無く降下ポイント!!』
『グリムより各部隊へ。現在ニューヨーク都市管制ネットワーク、NYPDデータリンク、ニューヨーク市交通管制システムを掌握しています。各部隊は予定通り、国際連合本部へ侵攻してください。
またNYPDデータリンクについては、どんなに上手く行こうと、あくまで警察の介入を妨害し遅らせる程度。完全にNYPDを排除するだとか、介入を阻止することは不可能です。気休め程度に思っていてください」
「……ゴールドフォックスより野郎共!!恐らくは、俺たち最初で最後のテロ行為だ!!超大作アクション映画のヴィランになったつもりで、殺さない程度に暴れてやれ!!!!これまで日陰に闇にと生きてきた俺達が、初めて衆人環視に触れる最初の大舞台だ!!!!これは必ず、世界中の歴史の教科書に載るぞ!!さぁ、パーティーを楽しもうぜッ!!!!!!!」
この発言には、否が応でも士気が上がる。無線から安定の雄叫びが聞こえると同時に、カーゴハッチが開放。遂にニューヨークに降り立つ時が来た。
「降下!!!!!」
プレジデントファイターがカーゴスペースからバックで落下し、着地と同時に通りを爆走し国連本部を目指す。他の機体からも続々と車両や、隊員達が飛び降りてくる。
「市民がパニックですね。車も行き交ってます」
「こちらからはアクションしなくていい。このまま走り抜けろ」
「ラジャー!」
車列はどんどん増え、それに比例するかの様に加速していく。信号は全て青にし、通行が邪魔されることはない様にしてあるが、それでも大量のトラックが空から降ってきて、そのまま街中を暴走するとか、パニックは必然である。市民は逃げ惑うが、そんなのはお構い無しに国連本部を目指す。
『あー、前方よりパトカー!!』
「そのまま突っ切れ!!」
『知りませんよ!?』
「なーに、奴らも馬鹿じゃない。こんなデケェトラックが、超高速で突っ込んだらどうなるか分かってる!SWATの装甲車でもない限り、ブロックはしてこない!!」
アメリカのパトカーは日本と同じセダン系かSUVなのは、恐らく大体の読者諸氏もイメージできるだろう。あれらは全てパトカーではあるが、基本的には民生品である。中には警察用に設計された物もあるが、それでも基礎部分は普通の乗用車だ。
それがトレーラーを牽引できるパワーを持ちながら、最高時速200km近くの高速で動かせるエンジンを搭載したトラックに対応できるかと言えば、まあまず無理である。例えSUVが身を挺してブロックしようと、それを破砕して突破するだろう。
「見えた!国連本部です!!」
『総長、ライフル持った警備兵が狙ってますぜ?』
「どれどれ?」
照準用のカメラを使い確認すると、完全武装の警備員達がこちらにM4か何かを向けている。普通なら止まるだろうが、生憎とこちらは根っからの戦争屋。ライフル向けたくらいじゃ止まるわけがない。
「……命令の必要はあるか?」
『突撃あるのみ!!』
「イグザクトリー!!やーっておしまい!」
ドライバーの隊員が、野太いホーンを鳴らしながら鉄格子に突撃していく。堪らず警備員がライフルを乱射してくるが、深海棲艦や戦車との戦闘を想定して施された装甲の前では、たかがライフル弾程度、豆鉄砲程のダメージもない。
「おぉい!!全然効いてないぞ!!!」
「防弾かよちくしょう!!!!!」
「突っ込んで来るぞぉ!!!!!」
「退避!!退避ぃぃぃ!!!!!」
警備兵達は突っ込んで来るプレジデントファイターに、たまらず横にスライディングして避ける。黒い鋼鉄製のゲートを突破し、駐車場の車も問答無用で弾き飛ばし、花壇か何かもぐちゃぐちゃに踏み荒らしながらロビーへ一直線に走る。
「はぁい、いっちょ派手に行きましょ!!」
「はいせーの!!」
「「『『『ドッカーン!!!!!』』』」」
勿論、ロビーの前で行儀良く止まるわけがない。勢いそのままにロビーに突っ込んで、自動扉のガラスを突き破り、中をメチャクチャにしながら突破口を開く。
「ガンナー!適当に場を賑やかせ!!ただし、今は殺すなよ?」
「また無茶な注文ですね総隊長。しかし、お任せを!!!!」
「よぉし。突入チーム!行くぞ!!!!」
プレジデントファイターには、様々な兵装が搭載されている。127mm三連装速射砲の様な大口径速射砲から、銃眼まで様々である。しかし今回の国連襲撃、あくまでもメッセージを伝え告発する事にある。余り死人は出せない。なので隊員達には、通常弾使用時は弾幕を張って威圧し賑やかす程度に止めてもらう必要があるのだ。そしてこれは、当てるよりも難しい。
「ヤベェ……いつもの癖で当てそう」
「めっちゃ分かるわ」
「当てるなって、こんなストレスかかるのな」
霞桜の隊員達は、全員が特殊部隊級の実力を持った猛者達。映画なら主人公や主人公チームに名を連ねられる程の実力者達である。こういう連中は戦闘時、条件反射で相手を殺せる様に訓練されている。0.01秒でも早く相手の先手を取る事に命をかける世界なのだ。当然である。
なので逆に当てるなというのは、一周回って難しいのだ。何せ反射で殺せる所を、それを抑えるのだからかなり難しい。だがそれでも、やれと言われたらやる。
「総隊長殿!各大隊、配置完了しました!!」
「よろしい。各大隊!もう一度確認するぞ。本部大隊は通信センター。通信回線を確保しろ。第一大隊は屋上。脱出用のヘリを破壊し、ヘリボーン警戒とカウンタースナイプ。第二大隊は地下を確保し、逃走経路を遮断しろ。第三大隊は施設防衛。このまま地上に展開し、防衛に当たれ。第四大隊は各要人の確保及び、総会ホールへの誘導。第五大隊は警備指令室を確保しろ。第六大隊は総会ホール確保。第七大隊は予備として待機しつつ、第三大隊をサポートだ。
さぁて野郎共!!歴史の教科書に名を残しにいくぞ!!!!!」
無線越しに、いつも通りの威勢のいい声が響く。これに加えて、艦娘、KAN-SENの選抜チームも付いている。どう転んでも、襲撃は一先ず成功する筈だ。
「武器を捨て、両手を頭の後ろに組め!!!!!」
「え!!もうSWAT来たの!?」
「違う違う。奴らはDSS、ここ独自の警備隊の緊急対応チームだ」
SWAT隊員の様な重武装に身を包み、M4カービンやMP5をこちらに向けながら近寄ってくる。その横には、一般の制服警備員もグロック17やSIG P226といった9mm口径の拳銃を構えながら近付いてくる。
「総隊長、どうします?」
「警備隊の諸君、任務ご苦労」
長嶺は1人、堂々と彼らの前に歩み寄る。予想外の動きに少し動揺が走っているが、それでも長嶺への包囲網は緩めない。
「我々に争う気はない。どうか銃を降ろし、そのまま倒してくれないか?」
「戯言を言うなッ!!!!!」
「争う気がないなら両手を上げて降伏しろッ!!!!!」
当然の反応である。何処の世界に武装した重装甲トラックでロビーをメチャクチャにし、尚且つ重武装の兵士を引き連れた上で「争う気がない」発言をするヤベェ奴を信じる警備員がいようか。
「総隊長……その、俺達悪役そのものっすよ?」
「知ってるー。まあ、退くわけないわな。言ってみただけ」
そう言いながら長嶺は、文字通りの目にも止まらぬ速さで阿修羅HGを抜き、近くにいる重武装警備員4名を撃つ。非殺傷弾とはいえ、そのパワーはアーマーの上からだろうと肋骨を折る。
「デスヨネー」
「んじゃ、とっとと掃除しますか」
背後にいた隊員達20名も、アサルトショットガンのヘビィシュートやアサルトライフルのグリフィスを撃つ。こちらも非殺傷弾だが、当たれば死ぬ程痛い訳で、その場でのたうち回り、或いは泡吹いて気絶している。
「拘束するぞ」
「おう」
そのまま隊員達が手早く手錠や拘束具で手早く拘束し、第三大隊に引き継ぐ。それを終えると、長嶺達は総会ホール目指して歩き出した。
同じ頃、各部隊も行動を開始していた。最も早かったのは第五大隊である。警備指令室を抑えれば、DSSを無力化ないし組織的抵抗を難しくできる。
「うおらぁ!!!!!!」
特殊部隊の突入というのは、本来ならC4で爆破するとか、ドアブリーチ用の機材を使うとか、そう言うのがベターだろう。だが第五大隊は、元ヤクザがメインの部隊。まさかのベアキブルが蹴りでドアを破壊し、中に銃ではなく日本刀やバット、鉄パイプで武装した連中がなだれ込む
「霞桜のカチコミじゃぁ!!!!!!」
「全員往生せぇやぁぁぁ!!!!!!」
「今日は気分いいから気絶でえぇわぁ!!!!!!」
日本語で叫び散らかすヤクザ共に警備員達は、椅子から転げ落ちながらも銃を抜こうとする。だがコイツらにそれは通用しない。ドア蹴破られた瞬間に銃を抜く位しないと、到底間に合わない。
「うぉらぁ!!!!!!」
「せいやぁ!!!!!!」
「うっしゃぁぁ!!!!!」
握ろうとした手をぶん殴り、そのまま1発殴って気絶させる。他にも銃のグリップで殴りつけたり、スタンガンで気絶させるというのもある。ただまあ、一般隊員ならまだ良かった。コイツらに当たったら地獄である。
「セイッ!!!!ヤァっ!!!!!!!」
まずは第五大隊の
「パワァー!!!!!」
もう1人は、なかやまきんに君の声真似が上手いジャグ。ただふざけた事をしている割に、ハンマーで相手をぺったんこにする。流石に今回は殴っただけだが、それでもかなり痛い。
「オラオラオラオラオラオラァ!!!!!!!!」
そして最後に、何処ぞのスタープラチナ並みに殴りまくっているのが大隊長ベアキブル。ステゴロ最強の喧嘩師の前では、DSSだろうが敵わない。
「警備室制圧じゃぁ!!!!」
「オヤジ!!武器庫も制圧完了!!!!」
「いいぞ!!このままここを確保しとけ!!俺は親父に合流する!!!!」
同じ頃、第一大隊が屋上に降下した。ジェットパックを使い、素早く着地していく。屋上にはテロ対策にスナイパーが居たりするのだが、そこは問題ない。
「………スナイパーが1つの獲物に集中するのは、とても素晴らしい素質です。そうでなくては、標的を相手にした時、我慢を続けられる。
しかし、スナイパーとはハンターでもある。ハンターは常に獲物に狙われていると、そう心得なくてはならないのです」
マーリンが狙撃手を優先して排除する。そしてそのまま、周りにいる観測手や警備員を排除。拘束していく。
「いいですか皆さん。今からスナイパーが潜むであろうポイントを、HUDにマークしていきます。そこは特に警戒してください。もしスナイパーが上がってきたら、直ちに共有を」
「親っさん。C4を設置しますよ。ヘリコプターは、完全破壊で構わないんですね?」
「えぇ。お願いします」
「ラジャー」
程なくして、屋上に爆炎が立ち上る。これで空への脱出路は遮断され、他の脱出路も次々に封印されつつある。既にビル周辺には大量の警官達が取り囲んでいるが、突入してくる気配はない。
「うへぇ……オヤジさん見てくださいよ。CRCにSWATチーム、この感じだとアメリカのデルタ、SEALs、レンジャー辺りも来ますぜ」
「それはそれは。では、警戒を強めなさい。ただし、命令あるまで殺しは厳禁です。いいですね?」
「わかってますよ」
マーリンはビルの中へと入り、総会ホールを目指す。これより十数分後、総会ホール前には各大隊長達までもが揃った状態で待機していた。ここから世界は、良くも悪くも全てが変わる。その始まり、終わりの始まりに立ち会おうとしているのだ。
「行くぞ!!!!!!」
長嶺が短くも力強い声を上げるとともに、バルクがタックルで扉を破壊。そのまま中に雪崩れ込む。抵抗しようと銃を構える警備員は、即座に大隊長達が無力化。第六大隊の面々が、そのまま拘束し1箇所に固める。
「総会ホールに詰めている、各国代表の諸君。このホールは誠に残念ながら、我々が占領させて頂く。君達はアンラッキーなことに、人質役に選ばれた訳だ。神にお祈りでもするがいい」
もう長嶺ノリッノリである。元々悪寄りというか、やる事なす事だいたい過激な奴なので、こういう悪役というのは物凄く似合う。違和感もない。お陰で各国代表の外交官や政治家、専門家や学者といった一般人達も震え上がっていた。
「……テロリストよ。ここは国連の総会ホール。争いを嫌う、理性こそが相応しい場だ。その様な行為で我々は屈しないぞ」
「…………確か、ディエゴ・モントーヤ議長だったか?」
「その通り。私がディエゴ・モントーヤである」
壇上に立つ初老のラテン系の男が堂々と、そして冷ややかな視線を長嶺達に送る。テロを心底憎んでいる様で、椅子に座る連中からもささやかな抵抗と言わんばかりに睨まれている。
「分かっている、分かっているよ議長。参加者、否、人質の諸君。我々の目的は、何も大量殺戮でも金でもない。増して映画である様な連邦刑務所の囚人の解放や、何処ぞへの核攻撃でもない。我々はただ、目立つ為、そして世界に警告する為に忘却の彼方からやって来たのだ。
諸君は人質であると同時に、我が告発の見届け人にして証人なのだ。だからどうか、そのままでお聞き願おう。あぁ、トイレだとか、持病どうこうはお近くのテロリストに声を掛けてくれ。都度対応しよう」
長嶺はメットの下で、おどけた様に笑っている。だが人質にとっては、ただただ恐怖でしかない。いっそ人質だからと、乱暴に扱われた方がまだマシというものだ。人間、理解できぬものには恐れを抱くものだ。
「なら、演壇で話すといい。その方がいいだろう?」
「流石議長。では、お言葉に甘えて。おーいグリーム!準備しろー」
「直ちに」
告発の準備は着々と進む。あともう少しで、世界は変わるのだ。