最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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皆様、お久しぶりでございます。ちょうど三ヶ月ぶりです。いや、本当にお待たせしました!そして音沙汰なくてすみませんでした!!!!
ここまで音沙汰なかったのが、5月のゴールデンウィーク明けから教育実習に向けてのあれこれが始まり、スライド作りに追われ、6月からは就活が本格スタートし、就活とスライド作り同時並行。7月は就活で東京行きと教育実習。ここまでは、最強国家の方で書いていた通りです。
ところが夏休み入ってみると、また就活で東京と神戸日帰り弾丸旅行行ってみたり、親戚が亡くなった(私は全く関わりがなく、会ったことすらありません)ことによる近しい親戚の謎のゴタゴタに巻き込まれたりと、色々あって書く時間と気力がありませんでした。本当に申し訳ありせん


第百十六話スペース・タッチダウン

数ヶ月後 ケネディ宇宙センター サターンMk2弾頭内

「うへー、なーにここ。狭い狭い、マジ狭い」

 

長嶺はサターンMk2と名付けられたロケットの弾頭部、急拵えの狭苦しいシートに腰を沈めたまま、膝に食い込む計器パネルを叩いてみせた。

 

「ローレンスくん、あー……そのポンコツ………と、飛ぶのか?」

 

『はい、Mr.プレジデント。あくまでも月面に人類を送るには能力不足なだけで、通常のロケットとしては問題ありません。まあ、燃費が凄まじい程に悪い大飯食らいの癖して、ペイロードは少ない上にデカいと、衛星打ち上げには余りに贅沢な代物ですがね』

 

江ノ島奪還を決めてから数ヶ月。いつもならもっと早く準備は終わるだろうが、今回の任務は江ノ島をなるべく傷付けずに奪還する事。上陸して敵を殲滅するだけならいいのだが、傷付けないというオーダーが加わると途端に難しい。戦闘と壊すなは対極に位置する、言ってしまえばかなり欲張りな作戦なのだ。それ故に、あまりに荒唐無稽過ぎる奇想天外な作戦が取られた。

先遣隊が江ノ島へ海中から接近し、海中にあるサーバー冷却用の取水口から潜入。江ノ島地下にある霞桜本部、そこのセントラルコントロールルームを確保しコントロールを奪う。長嶺は囮として、ロケットで宇宙から江ノ島に突入し、本隊は空路で突入。江ノ島を電撃的に奇襲し、奪還するという作戦だ。

 

『その贅沢品を、人ひとりだけのために飛ばすとはな。まったく、君らしい選択だよ』

 

「いやー、Mr.プレジデント。ハーリング大統領閣下がお見送りとは、こりゃ嬉しいね」

 

『いつものことだ。そしてこれは大統領としてではなく、友人として言いたいんだが……。あー、君、正気か? 大西洋を越えて日本まで、しかもロケットで突っ込むなんて』

 

普通に考えて、荒唐無稽もいい所。ロケットはその打ち上げだけでも、大量の国家予算を必要とする。最近では民間企業が進出している産業でもあるが、それでも途方もない資金が必要なのは間違いない。

 

「確かに飛行機でも船でも辿り着ける。だが、それじゃ役不足。ロケットが落ちてくるなんて、そんな大事件、奴らとて驚くだろうさ。何よりどんな戦略の天才だろうと、ロケットの弾頭が人間だなんて考え付くわけない」

 

『………通常なら弾道計算で自殺行為ですが、あなたが望んだのは“軌道投入”ではなく“弾道飛翔”。つまり……人間弾頭、です。英雄、アドミラル長嶺は稀代の戦略家とは聞いていましたが、中々にどうして』

 

ローレンスの言わんとする事を察し、ハーリングは苦笑いする。希代の戦略家ではあるが、どちらかというと非常識の極みというのが長嶺だ。非常識に狂気と正気を注ぎ込んで、煮詰めて残ったカオスこそが長嶺と言っていい。

 

『Tマイナス60――』

 

「あ?もしかして、そろそろ?」

 

『これからあなたは、史上初の『有人極超音速ロケット投射』の被験者となります。……いや、英雄の再来かな』

 

「軍隊ではなく、今度は宇宙開発か。ユーリ・ガガーリンよろしく、地球は青かったとでも言った方がいいか?」

 

本来、ロケットの打ち上げとは危険が伴う。ベテランの宇宙飛行士でも緊張するものであり、これまでの宇宙開発では大量の死者が出ている。その犠牲の上に今日の宇宙開発事業が成り立っているのだが、長嶺にとっては全く恐怖は湧かない。いつも通りだと言わんばかりだ。

 

『相変わらず危機感とか緊張はないのか………。まあ、その方が君らしい。生還を祈る』

 

長嶺はヘルメットを頭に被り、ロックをかける。流石に今回は宇宙服を着ており、ヘルメットと酸素タンクを接続。発射に備える。

 

『Tマイナス30――』

 

ロケット全体がうなりを上げ、燃焼室に送り込まれる液体燃料の冷却音が金属を震わせる。長嶺は1人、背もたれに沈み込ませながら座り目を瞑る。思えばここまで長かった。家を奪われ逃げ出し、新たに家を作った。無論、大ダメージだったわけではない。どうにかなると思っていたし、実際どうにかできた。むしろ江ノ島から逃亡したからこそ、新たな仲間と世界の闇が知れた。

しかしそれでも、家を奪われた事を許すつもりはない。腑が煮え繰り返る程の怒りと屈辱であり、何よりショックではあった。だがそれももう、終わる。今日、帰るのだ。

 

「………全部隊、聞こえるか。俺達はようやく、あの家に帰る。長くも、そして多くは語るまい。いつも通りだ野郎共。いつものように、俺達の家奪いやがったクズどもに、分からせろ。テメェらが何をしでかしたかを。

帰ろう、俺たちの我が家に。家で会おう」

 

『Tマイナス10――9――』

 

未知の振動が床下から這い上がり、弾頭全体を揺らし、座席の骨組みを通じて身体中を叩く。燃料ポンプの咆哮がヘルメット越しにでも耳をつんざき、金属の殻が軋む。

 

『……3――2――1――イグニッション!』

 

一瞬、肺の中の空気が爆発で押し潰された。間髪入れずに、爆発に等しい轟音と共に重力が肩と胸を押し潰す。まるで巨人に体を押し付けられるように。巨大な推進器が吐き出す炎が、一筋の光となって夜空を裂いた。

 

「っ……ぐぅぅ……!」

 

視界が狭まり、血液が下半身に引きずられる。体重は普段の三倍以上に膨れ上がり、流石の長嶺でも指一本動かすのすら困難だ。

 

『上昇率安定。アドミラル、しっかり息を制御してください!』

 

ヘルメット越しにローレンスの声が割り込む。

 

「……急拵え………でも………もうちょいマシ……………なの………用意してくれ…………!」

 

長嶺のつぶやきはローレンスに届いたかは分からないが、是非とも届いて貰いたい。重力やら加速やらで身体中が古い金属のようにメリメリ音を立てている上で、シートの座り心地の悪さが痛みに拍車を掛けている。

数分後、加速が緩み、浮遊感が身体を包んだ。腹の底がふわりと持ち上がり、重力の頸木が亡くなったことが分かる。

 

『ブースト段切り離し確認。予定通り衛星軌道に乗りました』

 

「ゴールドフォックスより、オールユニット。こちらは現在、衛星軌道にて巡航中。窓がないのが残念だ」

 

 

 

同時刻 江ノ島より5km地点 海中 乾式潜水艇『マンタ』

「もうすぐね」

 

「我ながら完璧。これもっと量産する!」

 

「レリちゃん流石よー」

 

メンバーはカルファン含めた第四大隊から5名、レリック含めた第三大隊から5名の計10名。わざわざこれのために、マンタ型潜水艇という特殊部隊が使う様な小型潜水艇を作り、日本のレーダー探知限界ギリギリから投下。海中を進み、 もうすぐ江ノ島という所まで進出した。

 

「ポイント到達です。水密隔壁閉鎖しますよ」

 

「お願い」

 

コックピットとカーゴを隔てる隔壁が閉じ、カーゴが隔絶される。それと同時に海水が流入し、完全に満たされると天井がスライドして突入部隊8名が海中へと出る。

通常の特殊作戦用の小型潜水艇は、出撃時から既に水で満たされている。このマンタ型では、内部を目標ギリギリまで水で満たさない事で兵士の酸素タンクを温存でき、作戦行動半径と時間の延長に成功している。

 

『スクーター準備。続け』

 

先頭を行くカルファンが全体にハンドサインを送り、水中スクーターを起動。江ノ島を目指す。しっかり霞桜専用に改造してあるので、スピードは市販のものの3倍かつ音も静かだ。

 

『機雷原、注意』

 

『水中カッター、前へ。切断しろ』

 

『了解』

 

途中、後から葉山が設置したであろう機雷原の網を破壊し、江ノ島の岩壁下まで到達。鉄格子が嵌められた取水口を通り抜け、地下水路を辿り江ノ島の心臓部たる地下秘密基地を目指す。

 

「ブハッ!ついた」

 

「はぁー。スキューバって疲れるのよね。楽しいけど」

 

「姐さん、アレをスキューバ言いますか?水路通るのとか、かなり恐怖でしたよ?」

 

「閉所恐怖症じゃなくても怖いっす」

 

「スキューバよスキューバ。楽しいスキューバダイビングよ!」

 

因みにカルファン、知っての通り元は凄腕の女アサシンであり、ハニートラップの達人。お陰で上流階級の世界にも順応できる様、ピアノにバイオリン、ダンスや乗馬などなど、色んなことができる。しかも一部はプロ級で、スキューバダイビングはそのプロ級の一つだ。

 

「なんか、五大隊は勝手に盛り上がってますねー」

 

「だなー。大隊長、我々は?」

 

「………そこに点検用のハッチがある。あそこから中に入れる」

 

「メンテナンス通路ですか?」

 

「そこにつながる。装備もそこに置けばバレない」

 

水路から上がり、点検用ハッチに向かう。メンテナンス通路内、それと点検用ハッチ周辺には監視カメラはあるが、そのカメラの映像はこの地下秘密基地にしか集約されない。上の鎮守府では今回の目的地でもある、セントラルコントロールルームから手動で回路を接続し、通信環境を構築しない限り見られる事はない。

更にこの点検用ハッチを開ける際には全てIDカードとパスワードを入力する必要があり、開閉は全て記録されるが、それを確認できるのもセントラルコントロールルームのみ。一応、色々慎重に行うが気付かれない筈だ。何せ数週間前の事前偵察では問題なかったのだから。

 

「これがメンテナンス通路ですか?」

 

「なんか、ゾンビでも出てきそうですね………」

 

「こら!怖いこと言わないの!!」

 

メンテナンス通路は人1人が通れるスペースがあるが狭く、通路の光源は赤い光のみ。赤い光も相まって、その怪しさは凄まじい。

 

「こっち。付いてきて」

 

このメンテナンス通路は、霞桜の隊員達でも入ることは早々ない。この通路を使うのは、当然、保守点検の為である。その為、第三大隊の一部隊員を除けば、存在しか知らない謎の通路という認識なのだ。

 

「ホント、よく分かるわよねレリちゃん」

 

「当然。この島を作ったのは俺。隅から隅まで知ってる。これは、総隊長にも負けない」

 

「話半分に聞いてたけど、本当なのね………」

 

「本当に本当」

 

知っての通り、江ノ島鎮守府はかつてブラック鎮守府として名を馳せた拠点だった。しかし島である事に目を付け、長嶺とレリックが鎮守府兼霞桜の本拠点として改造したのだ。当時は霞桜もグリム、マーリン、レリック、ベアキブルが指揮する各中隊しか存在しない、そんな頃の話だ。練度こそ最強でも、装備はまだ今程充実していなかった頃の話であり、ベアキブルとカルファンも加入する前の話である。

 

「…………開ける」

 

先頭を歩くレリックが立ち止まり、重厚な扉を開く。その奥には、見慣れた赤と黒を基調とした霞桜の本部の光景が広がっていた。

 

「帰って来た…………帰って来た!!」

 

「長かったなぁ…………」

 

「俺、涙出そう…………」

 

「はいはい、感情に浸らない。まだ仕事の途中でしょ?」

 

「まだ、帰って来てない。まだ、家は取り返してない」

 

いつも無感情、棒読みのレリックから珍しく、怒りに満ちた声が出る。その言葉に隊員達は気を引き締め直す。確かに帰って来てはいるが、ここはまだ葉山の手にある。我が家は奪われたままなのだ。

一行はセントラルコントロールルームに入り、レリックと第三大隊の面々はコンソールを立ち上げシステムを確認。同時に本部の掌握に移る。カルファン達はその護衛だ。

 

「大隊長、火器管制問題なし」

 

「監視システム、オールグリーン」

 

「通信システム、クリア。行けます」

 

「こちらレリック。セントラルコントロールルーム確保」

 

レリックがマーリン指揮の本隊、宇宙空間を飛行中の長嶺に無線を入れる。

 

『ゴールドフォックス了解。無重力楽しんでるから、ゆっくりでいいぞー』

 

『本隊了解。グリム、出番ですよ』

 

『レリック、例の物をセットしてください』

 

いつもならグリムが別動隊を指揮するのだろうが、今回グリムにそんな暇はない。江ノ島のコントロールを奪う、ツインタワーシステムを作動させるには本来ならグリム自身が直接乗り込む必要がある。しかし今回は上陸後に本隊を指揮する必要がある以上、先遣隊で突入するのは見送られた。

代わりにハードに強いレリックが潜入し、システムのハードそのものに遠隔ハッキング用のリレーを設置。遠隔にてグリムがハッキングするのだが、自分で作っておいて突破するのは容易ではないようで、かなり時間が掛かるらしい。

 

「さて……久しぶりに本気を出しますか…………」

 

グリムはコンソールの前に座ると、手をポキポキ鳴らす。キーボードを2台だし、モニターは6枚。これを同時に動かす。更に足元にはフットペダルがあり、自律可動型の攻撃AIや防御AIなんかのオンオフを操作できる。

まず初めに立ちはだかるのは、桜吹雪プログラムと名付けた防御システム。いくつものフェイクデータが、風に舞って散りゆく桜のように襲いかかる面倒臭いシステム。しかも中に真実が紛れ込んでいる一方、ハズレを引くとマルウェアにより恐らく遠隔操作リレーがダメージを受ける代物。普通ならここで、大半のハッカーは排除されるだろう。

 

「全体のバックドアはなくとも、せめてシステムごとにバックドアは仕掛けておけばよかった…………」

 

しかしグリムは開発者。どういう流れで、いつトラップが流れてくるか、何処に答えがあるかは、大体わかる。後はそこに合わせて、スクリプトを嵌め込むだけでいい。曰く、音ゲーの様な物だそうだ。

 

「す、スゲー…………」

 

「さすが副長!!」

 

「天才ハッカーだ!!!!」

 

コンピューターのことが分かるグリムの部下達からすれば、目の前で行われてるのは神の御技や奇跡に等しいものであり、いっそ跪いて崇めたい程のものだ。

ところが大半の人間からすれば、忙しなく眼球を動かして手と指に残像が出来るほどに超高速でキーボードを叩き、時折ミシンかピアノのペダルを踏む様にリズミカルに足をバタつかせてる様にしか見えない。取り敢えず「なんかすごい」程度には分かるが、何がどうなってるのかはモニターを見ようと分からない。

 

「…………姉さん、何が行われてるか分かる?」

 

「流石に分からないわ……………」

 

江ノ島艦隊のエンジニアで、尚且つシステム面も多少扱うビスマルクですら、ティルピッツの質問にこう答えるのだ。大半の人間に分からなくて当然である。

 

「次は確か、無限()

 

今流行りの無限城ではなく、無限錠である。これをイメージで例えるなら鍵を見つけた上で、無限に等しい鍵穴から当たりを見つけるというもの。しかも外れを引くと自爆用の電磁パルスで回線が物理的に焼き切れる上、正解の鍵穴は常に変わり続ける。

 

「我ながら、中々に性格の悪い。だが、この程度破れずしてどうしますか」

 

選択肢を全潰しして、尚且つ正解の鍵穴が変わる場所を制限していく方法で鍵穴まで到達する。これも開発者故の裏技に近い方法ではあるが、それでも普通は数時間を要する作業だ。それをグリムは数分で終わらせる。

これ以降も次々にプロテクトを解除、或いは無理矢理破壊して突き進み、本来なら超一流ハッカー集団ですら初見突破不可能、トライアンドエラーを繰り返しても年単位の時間がかかるグリム謹製セキュリティシステムを、僅か30分ほどで突破して見せた。

 

『こちらグリム。ツインタワーシステムは我が手に戻りました」

 

「………確認した。ツインタワーシステム、作動」

 

レリックがコンソールを操作すると、モニターが全て赤く染まり『Emergency Protocol ACTIVE — Twin Tower System RELEASE』と表示される。

 

「ツインタワーシステム作動確認!」

 

「江ノ島鎮守府の全コントロールに割り込み…………確認!最優先権限が正常に付与されています!」

 

「指揮管制戦闘システム、パッシブディフェンスからアクティブディフェンスに変更。待機させます」

 

江ノ島のシステムが次々に書き変わる。ツインタワーシステムが作動した今、江ノ島鎮守府の全てはここからコントロールできる。電気のオンオフから、飛行場の管制、防衛兵器の操作まで、ネットに接続されている物ならありとあらゆる物がコントロール可能となった。

 

「泥棒め……天誅」

 

「うーわ、大隊長キレてーら」

 

「そうなの?」

 

「えぇ。カルファンさん、手を見てください。あの握り拳はその証拠ですよ」

 

見ればレリックの拳は、プルプルと震えている。いつもは温厚以前に感情をまず表に出さないレリックだが、その本質はバルクと気が合うだけあって激情家の一面もある。病的なまでに表に出ないだけで、無音で感情を変化させるタイプだ。

 

『あー、ボス?私よ。レリちゃん、江ノ島盗られたのが今になってキテるみたい。だから私が報告するわ。ツインタワーシステムで、全部奪ったわよ』

 

「了解した。降下に入る」

 

長嶺は操作パネルを触り、軌道を離れさせる。これまでサターンMk.2は高度160kmの低軌道を巡航していたが、まずは逆噴射で低軌道を離脱。降下に入る。このまま地球の引力に引っ張られて、そのまま地球に落下するのだ。

 

「グリム、後どのくらいで到達する?」

 

『およそ30分!予定通りですよ!!』

 

「カルファン!火器管制は!?」

 

『それなら——-』

『火器管制確保済み。いつでもスタンダードを撃てる』

 

「オーライレリック。待機しろ」

 

通常の落下なら、地表到達までは1時間から45分程度かかる。しかしこのサターンMk.2は月面着陸を念頭に開発され、ブースターが更に搭載されている。本来月を目指して使うはずのブースターを、地球への降下速度を増速させるための加速装置として使えば、突入時刻を早めることは可能だ。

しかも今回は空中で長嶺は脱出し、宇宙船だけが江ノ島に突っ込んでいく。搭乗員の安全は、ここから大気圏再突入時にのみ保証されれば後は燃え尽きようが、物凄い加速で地面に突き進もうが知った事ではない。

 

『アドミラル長嶺!これよりサターンMk.2をこちらで誘導。江ノ島方面に向けます!!』

 

「ローレンス。このロケットは、江ノ島に突撃させる勢いで動かしてくれ。俺の心配は無用、江ノ島の心配も無用だ」

 

『はぁ!?アンタ、死にますよ!!!!』

 

『大丈夫だローレンス君。言う通りにしたまえ』

 

本来、大統領であるハーリングから直接言われれば、1人のエンジニアにすぎないローレンスは従うしかない。だがエンジニアとして、自分が手塩にかけて開発したロケットで死人は出したくないのか、ハーリングと何より搭乗者の長嶺に反論する。

 

『サターンMk.2がこの速度で突入すれば、確実に江ノ島は木っ端微塵です!!しかも島と陸の間隔が短い以上、小規模ながらも津波が発生しますよ!?なにより、アドミラル長嶺!貴方が死んでしまう!!!!脱出は不可能だ!!!!!』

 

『ローレンス君、大丈夫だ。彼なら、大丈夫だとも。なぁ?』

 

「問題はない。すでにこのロケットは、俺の部下が完璧捉えているし、江ノ島の火器管制システムを乗っ取っている。このロケットは迎撃されるし、俺は俺で堂々と飛び出すさ。なーに、見ていれば分かる」

 

『ローレンス君、どうかお願いだ。絶対に、ロケットで人は死なない。江ノ島も破壊されないし、アドミラル長嶺も無事生還する。だから頼む』

 

かたや世界最強の英雄、かたやアメリカの英雄。この2人に説得されては、ローレンスも承諾するほかなかった。

数十分後、サターンMk.2は大気圏に突入していく。機内にいながらも、外郭が軋む音が聞こえる。「本当にこれ、俺脱出前に燃え尽きない?」と心配になるほどの揺れと、怒号のような轟きへが聞こえてくる。見なくとも、摩擦熱で外装を赤く染め、まるで燃え落ちる隕石そのものだろうと分かる。

 

「……あぢぃ!!なんでエアコンついてねーんだよ!!!!焼け死ぬ前に俺が暑さで溶けるわMr.ローレンス!!!!!

 

最悪なことにこのロケット、エアコンがなかった。本来なら宇宙服を着ているため必要がないのだが、長嶺はもう宇宙服を脱いでいる。暑くてたまらない。

一応、恐らく冷却液が必死に循環してマシンそのものの温度を下げようとしているのだろうが、いかんせんそれは機械の方。余波で多少機内の温度も下がるのだろうが、文字通り焼け石に水である。

 

『耐熱パネル正常!降下角度も安定しています!』

 

「機内はサウナじゃボケェ!!!!!」

 

『アドミラル長嶺、死にませんから大丈夫です!』

 

「さっきの止める時の言葉はどこ行ったテメェ!!!!!!!』

 

ワーキャー騒ぎつつも、ロケットは無事に大気圏を離脱。成層圏に差し掛かる。すると、ロケットに搭載されたセンサーがレーダー波を探知し警報を鳴らす。

 

「おっ、ロックオンされた」

 

『総長。ロックオンした。死ぬ』

 

「お?レリックが謀反か、コイツはいい」

 

『スタンダード、発射』

 

江ノ島のイージスアショアのVLSから、SM6が飛び出す。既に成層圏まで到達し、尚且つ降下軌道に移行している以上、対弾道ミサイル用のSM3である必要はない。

 

「よーし、そんじゃローレンス!頼むぜ!!」

 

『どうなっても知りませんからね!?緊急プロトコル、オールアンロック、ハッチ解放、弾頭解放!』

 

サターンMk2の弾頭に搭載された全ての外装パーツが外れ、四方八方に散らばる。その瞬間、長嶺の座席はイジェクトシートの要領で弾き出される。

 

「っしゃぁ!!!!!脱出成功!!」

 

数秒もしない内にシートのロケットモーターが停止し、そのまま落下を開始する。本来ならパラシュートが開くが、今回はそれをキャンセルしてある。

 

「犬神!八咫烏!!ちゃんと着いてきてるよな!?」

 

「うげぇ、酔いそうだよ主様ー」

 

「我は潰れるところだったぞ…………」

 

胸ポケットから手のひらサイズの八咫烏と犬神が這い出してくる。それと同時に、弾頭にSM6が命中し爆散。その爆風で更に落下スピードが早まり、江ノ島に座席ごと落ちていく。

 

「ほんじゃ、そろそろ外しますか」

 

「…………………あれ?」

 

「我が主?」

 

長嶺はベルトをガチャガチャと何度も操作するが、ビクともしない。しかもよく見れば、ベルトとソケットに何かしらの金属片が突き刺さっている。恐らくこれは……

 

「うん。ベルト壊れてら」

 

「先行きが不安だぞ…………」

 

「主様ぁ……………」

 

「俺のせいじゃねーよ!」

 

普通ならこれは映画の主人公が陥ってもなんら不思議ないピンチなのだが、長嶺からしてみればなんのピンチでもない。ナイフでベルトを引き裂き、そのままシートを「テメェ何壊れてるんじゃ」という怒りも込めて蹴り飛ばし、太平洋目掛けて蹴り飛ばす。

 

「よーし、これで問題ないな」

 

「我が主!!アレを見よ!!!!」

 

「お?おぉ!」

 

眼下の海面付近に、キラキラと光を妙に強く反射する無数の影がある。狙い通りのタイミングで、黒鮫弍型の編隊も到達したらしい。

 

「犬神。八咫烏」

 

「うむ、わかっておる」

 

「先に行ってるね、主様!」

 

八咫烏と犬神が長嶺から離れる。それを確認すると、長嶺は懐からいつものを取り出す。赤黒いお札と5枚の式神。それを空中に飛ばす。

 

「さぁ、震えろ葉山。テメェが誰から何を取り上げたのか、理解らせてやる」

 

江ノ島の頭上に『鴉天狗』が艦首を向ける形で飛び出し、太平洋上に鬼が現れる。いずれも直ぐに炎に包まれ、それは全て長嶺の元に集まる。

 

「あぁ—————いい気分だ」

 

まず先に服が炎に焼かれ、代わりにアーマーが身を包む。背後には700本ものビット達。続いて足回り、それから腰と腕に、鴉天狗の艤装が装備されていく。戦艦、それも超戦艦に相応しい巨大な艤装達だ。

最後に顔に鬼を彷彿とさせる面が現れ、今日はそれを右側頭部に付ける。

 

「空中超戦艦『鴉焔天狗』………見参ッ!!!!!!」

 

それと同時に、長嶺が俺を見ろと言わんばかりに空中に無数の花火を打ち上げ、火の玉や火の龍が暴れ狂う。これ以上ないド派手な登場だ。

 

「さぁ、葉山。俺の家を使った賃貸料を貰うぜ?」

 

 

 

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