この物語はまだアズールレーンとレッドアクシズの島が転移する前。江ノ島艦隊によるミッドウェー海域解放より、およそ3週間後の出来事である。
ミッドウェー解放より3週間後 江ノ島鎮守府 執務室
「はぁーあ。ミッドウェーを解放したんだから、褒美に書類減らねーかな」
「提督よ、その様な事を言っている暇があったら手を動かすべきではないか?」
「ソウダネー、言う通りダネー。だけどよ、かれこれ30分近く手を動かさずに休憩と称してサボりやがってる武蔵さんには言われたくない」
ミッドウェーを解放して、早3週間。解放したことにより仕事量は前よりも増えてしまって、これまでは一人で片付けていた書類(と言っても常人なら2日はかかる量で、それをしかも半日で株や偽装身分の仕事も片手間にしながや片してた訳だが)も秘書艦に頼らざるを得なくなっていた。
そんな訳で本日の秘書艦は大和型の二番艦の武蔵なのだが、先程から「効率のいい仕事には、休憩も大事だ」とか何とか言って堂々とサボりやがってるのである。
「提督よ、効率のいい仕事にはだな」
「休憩も大事だ、だろ?何回目だよ」
「まるで何度も言ってるみたいじゃないか。まだ3回目だぞ?」
「十分多いわ!」
因みに他の艦娘でも似た様な感じである。以下は、その一例である。
「紅茶が飲みたいネー。そうデース!テイトクー、ティータイムの時間にシマショー!!」by金剛
致しません。
「あぁ。姉様は今頃、遠征で海を駆けているのに。それを手伝えないなんて、不幸だわ.......」by山城
山城ー。そろそろ現実見てくれー。もうかれこれ、1時間は外を眺めてるぞー。
「提督!紅茶を淹れてみました!!飲んでみてください!」
あの比叡さん。紅茶って、紫色でしたっけ?
勿論、大和や鳳翔が秘書艦の時はスムーズに進むのだが、余りそう言った事が苦手な奴。例えば天龍とか、川内とか、那珂ちゃんとかは大体手が止まってる。また例外的に扶桑と山城になると、不幸型戦艦の由縁かは知らないが、事故や失敗で仕事が倍増して面倒になったりもする。
コンコン
「失礼します、提督」
「アレ大和?」
「姉貴か。どうしたんだ、今日はオフの筈だろう?」
「大淀さんからお使いを頼まれたんですよ。提督に通達だそうです」
そう言うと大和は、無線の内容が書かれた紙を長嶺に手渡す。そこには「1週間後、各地の提督を集めて会議を開く。尚、この会議は原則全員参加であり、拒否権は無いものとする」という事が長ったらしく書いてあった。
「うわぁ、何故だろう。見るからに面倒な臭いがプンプンする」
「所で武蔵?あなた、ちゃんと仕事してるの?」
「あ、あぁ。勿論だとも!なぁ、提督?」
「あぁ、そうだな。何せ今は「効率のいい仕事の為の休憩時間」で、かれこれ30分は休憩してるんだよな?」
それを聞いた瞬間、みるみる大和の顔が恐ろしい物へと変貌していく。なんか後ろに般若が見え隠れしてるし、一目でヤバいとわかる。
「武蔵、本当なの?」
「いや違う!!ちょうど今からする所だ!!な!提督よ!!」
「なら、ちゃっちゃとやってくれ」
そう言って書類の束を差し出すと引ったくる様に掠め取り、一気に書類の束を片付け始める。長嶺は心の中で「勝った.......計画通り」と言いながら、顔が超悪人面になっていたのは言うまでもない。
一週間後 江ノ島鎮守府 車寄せ
「それじゃあ行ってくる」
「お気を付けて」
提督代理として執務を代行して貰う大和、長門、陸奥、赤城、加賀、グリム、マーリンが見送りに来てくれた。その中を代表して大和が、長嶺に頭を下げる。
「どうぞ」
迎えに来た高級将校専用の海軍公用車、LS500hに乗ってきた護衛の一人がドアを開けて待っていた。長嶺は「おう」と答えると、そのまま座席に座り車は、いつも通り高速に乗って横須賀鎮守府へのルートを走る。
「あ、そうだ。二人とも、よかったらコレ休憩の時にでも食べてよ」
「え?いや、そんな」
「我々には勿体ないです」
長嶺は鞄から缶コーヒーと可愛らしくラッピングされたクッキーの袋を取り出し、助手席に座る護衛に渡す。二人共、階級は曹長であり大将である長嶺とは天と地程の差がある。まさかそんな雲の上の存在の人間から、いきなり缶コーヒーとクッキーを渡してきたのだから無理もない。
「まあアレだ。俺みたいなガキのお守り役を引き受けて貰ってる、せめてものボーナス、とでも思ってくれ。それに上の人からの物は貰っといた方が、後々の心象に影響するぞ〜?」
ワザとらしく言ってみると、二人とも「じゃあ」「お言葉に甘えて」と缶コーヒーとクッキーを手に取っていた。尤も片方は運転中なので、助手席の奴が二人分貰ってコーヒーだけ渡していたが。
「あ、そうそう。缶コーヒーは見ての通り普通のBOSS(と言いつつ、1缶300円はするpremium boss limited black)何だけど、クッキーはウチの艦娘の手作り品、つまりは艦娘か提督にでもならないと早々食えないヤツだぜ?」
「え、マジっすか?」
「マジマジ。しかも作ったのはスイーツ作らせたら、多分艦娘の中でもトップ3には入る腕前の伊良湖って言うのが作ってる。これはウチの鎮守府でしか味わえない、激レアなヤツだ」
「なあ、これから送迎の時は長嶺提督のに立候補しようぜ?」
「だな!」
余りの高待遇に、二人して長嶺の虜になっている。まあ本人にそのつもりはなく、下心や裏のない純粋な親切心でやっているので気付いてないのだが。
「あの、所で長嶺提督。何故、我々にもこの様な特別ボーナスを用意してくださったので?」
運転手の曹長が、そう質問した。助手席の曹長も頷いている。
「だって、ただでさえ「何かヘマしたら、クビが社会的にも物理的に飛ぶかもしれん」って緊張するのに、緊張煽っちゃ逆効果でしょ?ムスッとしてるヤツよりかは、俺みたいなヤツの方が幾分か気も楽だろうし。あ、嫌ならムスッとするけど」
「いえ!!出来たらそのままで!」
運転手の曹長が必死に止める。助手席の曹長も「頼みますからそのままで!!」と止めに入り、長嶺は大笑いして「わかったわかった。冗談だから」と言っていた。そうこうしている間に、横須賀鎮守府へと到着し会議室へと入った。
横須賀鎮守府 大会議室前のラウンジ
「やあ長嶺くん。太平洋で大暴れしたみたいだね」
「いえ、風間提督。大暴れしたのはあくまで、私の可愛い艦娘達ですよ。私はただ、適当に戦略だけ立てただけですから(大嘘)」
まあ大半の読者が知っていると思うが、初めて見てくれている読者もいるかもしれないので解説しておこう。MI攻略、つまりミッドウェー攻略の時、長嶺は自らの艤装を纏って先頭切って戦ったのである。勿論この事は機密事項となっており、東川と江ノ島鎮守府所属の艦娘達、それから霞桜の隊員達しか知らない。
「それでもだよ。もしかしたら、君に白羽の矢が立つかもね」
「はい?」
「あれ、もしかして知らないの?今回の招集って、東川長官の後釜決めらしいよ」
「えぇ!?聞いてないですよ!!」
衝撃的なカミングアウトに、思わず大声で突っ込む。
「僕自身もウワサ程度にしか知らないんだけど、どうやら政府内で次の内閣の人事で「東川長官を防衛大臣に」というのが持ち上がってるらしいんだ。
でも知って通り、憲法六十六条の「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」っていうのに引っかかる。そこで長官職を退任し、無理矢理防衛大臣にするらしい」
「いやまあ確かに法令上は、民間人もなれますけど中々に力技というか、ゴリ押しすぎる気が」
「まあそこはどうにかするんじゃないかな。だって今、一応有事だし」
「いや確かにそうですけど」
ここで長嶺に、とある不安がよぎった。それは後任の長官が誰か、という事である。普通に考えて河本派閥からは、まあまず選ばれる事はない。では誰なのだろうか。多分候補として上がるのは、東川の右腕でもあり友人でもある山本である。その次が風間であろう。
しかし一つだけ、東川には法則性というか、癖というか、とにかくパターンがある。それは「大体面倒な事は全部、長嶺に丸投げして押し付ける」という物である。つまりは、面倒な長官職を押し付けられる可能性があるのである。
(マズイ。非常にマズイ。ただでさえ仕事量が増えているというのに、これ以上面倒事は増やしたくない!)
「?どうしたんだい?」
「あ、いえ。もしその話が本当だとしたら、一体誰がなるのかなぁと。多分風間提督か、山本提督あたりでしょうけど」
「ハハ、僕は長官って器じゃいよ。それに僕は結構フリーダムな人種で、自他共に認める自由人だよ?これ以上仕事も増やしたくないし、面倒事もしたくない。もし仮に僕に回ってきたら、山本提督か君に押し付けるからね」
もう一周回って清々しいまである笑顔に、最早長嶺は「頼むからやめてください」と言うのが精一杯であった。その他、いろいろ雑談している間に会議の時間となり会議室に入る。今回は前回の鎮守府クラスの提督だけだったが、今回は提督が全員揃っての会議であり見た事もない奴が何人もいた。では参加メンバーを簡単に解説しよう。
横山 冬夜(よこやま とうや)
年齢 25歳
階級 海軍少将
所属 釧路基地司令
海道 光喜(かいどう みつよし)
年齢 45歳
階級 海軍中将
所属 大湊警備府司令
小清水 香織(こしみず かおり)
年齢 23歳
階級 海軍大佐
所属 仙台基地司令
東川 宗一郎(あずまがわ そういちろう)
年齢 52歳
階級 海軍元帥
役職 横須賀鎮守府司令
長嶺 雷蔵(ながみね らいぞう)
年齢 17歳
階級 海軍大将
役職 江ノ島鎮守府司令
風間 傑(かざま すぐる)
年齢 28歳
階級 海軍大将
役職 呉鎮守府司令官
川沢 煇(かわざわ ひかる)
年齢 34歳
階級 海軍少将
所属 鹿児島基地司令
影谷 悠真(かげたに ゆうま)
年齢 12歳
階級 海軍大佐
所属 下関基地司令
河本 山海(かわもと さんかい)
年齢 48歳
階級 海軍大将
山本 権蔵(やまもと ごんぞう)
年齢 56歳
階級 海軍大将
役職 舞鶴鎮守府司令官
白鵬 一也(はくほう かずや)
年齢 11歳
階級 海軍大佐
所属 新潟基地司令
この他、書記やら記録やらで士官や下士官も参加しているが、物語的には重要ではないので割愛させて頂く。
「では、会議を始めようか。まず本題に入る前に、一応新顔二人の紹介をしておこうと思う。川沢大佐、長嶺大将」
東川の指示に従い、二人が席を立つ。
「では川沢大佐から、自己紹介をお願いしたい」
「はい。皆様、お初にお目に掛かります。この度、鹿児島基地司令の任を命ぜられました、川沢煇と申します。国家の為、微力ではありますが全力を尽くしていく所存で御座います。よろしくお願いします」
黒髪に眼鏡を掛けた、長身の男。川沢が営業マンの様な自己紹介を行う。それもそのはずで、前職は営業成績トップの世界的一流企業のサラリーマンをやっていたのである。前任であった酒虫豚子が持病で急死(実際は霞桜によって粛清された)した為、妖精が見える事が発覚した川沢が半強制的に提督にさせられたのである。
「では次、長嶺大将。まあ新顔といっても大将クラスの人間とは顔合わせ済みだし、MI攻略時の指揮官でもあったから知ってる者も多いだろうがな」
「江ノ島鎮守府にて司令をやっております、長嶺雷蔵です。色々と兼業しておりますので、皆さんにもご迷惑をお掛けすると思いますがよろしくお願いします」
「東川閣下。発言、宜しいでしょうか?」
茶髪ロングでモデルの様に綺麗な女性、小清水香織が手を挙げる。東川が「いいぞ」と言うと、席を立ち長嶺の方を向く。
「長嶺大将殿にお聞きします。先程、色々と兼業していると仰いましたが、一体何をされているのですか?」
「それは.......」
そう言いながら長嶺は東川の方をチラリと見る。東川は少し溜め息をつきながら、軽く頷いた。
「確か小清水大佐、でしたね。小清水大佐は秘匿部隊X、というのを聞いた事がお有りですか?」
秘匿部隊Xというのは、霞桜の事である。霞桜はその任務の特性上から、一般人は勿論、政府や軍内でも知る者は極少数である。だが都市伝説程度で囁かれはしており、秘匿部隊Xやら特務機関Xと言った様な名称で語られはしているのである。
「聞いた事はありますが、今の質問とは関係ないのでは?」
「それが大有りなんですよ。その秘匿部隊Xというのは実在しており、私はその部隊の総隊長をしているのです」
会議室中が一気に騒がしくなる。この都市伝説というのは何か色々と脚色されており、「本物の鬼や悪魔がいる」だの「不死身人間がいる」だの「スーパーマンの様に空を飛べる」だのと言われている。まあ大半が完璧に間違いとは言えないのだが。
というかこれ、全部長嶺の事である。長嶺は敵から色々な異名で恐れられており、その中に「鬼」や「悪魔」が単語についていたりするし、艦娘と同等の能力を得ていることから体内に高速修復剤を注入すれば腕や足が吹っ飛んでいようと回復できる。最後のは隊員全員に言える事で、小型ジェットパックやリコ・ロドリゲスのグラップリングフックを装備しているので空は飛べる。
「あ、因みに名称は違いますよ。正式には海上機動歩兵軍団「霞桜」と言います。もしかすると、いつか共闘する時があるかもしれませんから、その時は宜しくお願いしますね」
「さて諸君、そろそろ本題に入っても良いかね?今回の議題は、すでに知っている者もいるだろうが、今度の内閣編成時に私を防衛大臣にする事が政府内で決定された。理由は言うまでもなく、深海棲艦への対応の為だ。だが知っての通り我が国にはシビリアンコントロールに関する法律で、現職の軍人と自衛官は国務大臣になれない。そこで私は長官職を辞す事になる。今回は私の後任、第三十三代目連合艦隊司令長官を決めたいと思う」
また会議室内はざわつく。先程の会話にもあった様に噂として広まってはいたが、実際に言われると色々考えてしまう。連合艦隊司令長官となれば自動的に軍内では最高階級に当たる元帥に自動的になるし、緊急時には海軍は勿論のこと、自衛隊、警察、消防、各自治体を指揮下に組み込めてしまう最上級の権力が手に入る。そんな「権力の権化」を手に入れたいと、まあ大半の人間が考える物である。
「東川閣下。その後任を選定する条件であったり、資格はあるのですか?」
バーコード頭で側頭部のみ髪の残っている出っ歯の男、海道光吉が質問をする。
「一応個人的に頼みたい人間はいるが、君達の中で「是非やりたい」という者がいるのであれば適性をテストして、その者に任せるつもりだ。自薦、他薦、どちらでも構わないぞ」
「であるなら、私は最適な人物を見知っております。佐世保鎮守府司令の河本山海大将殿です。河本大将殿は人格人望共に申し分なく、著者である「最新国防論」はベストセラーになり、その事がきっかけでテレビ番組への出演や雑誌の取材を何度も受けております。
更には親類の方々に国会議員、世界的企業の社長を務め上げた方々がおり、現役の警察官僚と県知事もおられる事からメディアや芸能界、政財界にまで顔が利き今後の海軍の発展に十分に寄与できる人材だと思われます」
この海道というのは河本派閥のナンバー2であり、この事も全て出世欲の塊である河本の差し金である。
「ハッハッハッ、海道くん。俺はそんな器じゃないよ、買い被りすぎだ。だがそうですな。こうも言われては引き下がれませんし、立候補させて頂きましょう」
河本派閥である小清水、それから横山の二人が拍手で後押しする。まだ小さい影山と白峰は状況を余り理解出来ておらず雰囲気で拍手し、残る山本、風間、長嶺は内心で「自分で言わせたくせに、ようやるわ」みたいな事を思いながらも、一応拍手してやる。しかし此処で、東川が一手を用いる。
「そうか。では河本、それから長嶺。2人には適性テストをさせてもらう」
「え?いやいや長官、私は立候補しておりませんが?」
「さっき言った個人的に頼みたい奴というのがあっただろう。アレ、お前の事だ」
河本派閥と長嶺が唖然とする。河本派閥は「なぜ、こんなガキが」という理由から。長嶺は自分が立てた最悪の予想が、まさかの大当たりしやがった事に対してである。
「東川閣下、理由をお聞きしちゃっても?」
金髪のチャラそうなホスト風の見た目をした男、横山が質問する。
「何、とても簡単な事だ。長嶺は霞桜の総隊長として、長い事指揮官をやっていた。腕っ節もバトル漫画やアニメの主人公を、そのまんま引っ張ってきた様な桁違いの強さだ。
そして長年培われてきた戦闘センスと戦場を観察できる鋭い洞察力に加えて、緊急時であっても艦娘と共に最前線に立ちながら現場を指揮できる能力。それに加えてコイツにしか出来ない、特別な能力もある。これらを総合的、かつ客観的に分析すれば、悪いが私含めた此処にいる人間の中で一番向いていると思う」
「しかし!」
「良い冬夜、抑えよ」
まだ何か言おうとする横山を、河本が抑える。
「そこまで言うのでしたら、その適性を見せて頂きましょう。それでどの様にして、テストするのですか?」
「最初は私が立候補者と模擬演習をするつもりだったが、気が変わった。二人で手持ちの艦隊で演習を行い、勝った方を長官とする。詳しいルールは書類を渡すので、それを参照して貰いたい。期日は三日後とする」
結構エゲツない爆弾を残して、会議は終了した。一応ルールの書かれた紙も貰ったので、ルールを書いておこうと思う。
・編成は六隻。ただし大和型は使えないものとする。
・勝利条件は敵の完全殲滅か、降伏宣言を受けた場合のみ。
・指揮官は自分のテント内でのみ、指揮を可能とする。
・部下を他の場所に忍ばせて、戦況を報告してもらったり、他の演習に不参加の艦娘に偵察機を飛ばさせて報告させるのも禁止とする。
・相手指揮官への妨害は禁止とする。
要約するとこう言った事が書かれていた。正直長嶺としては、地獄の片道切符である。まあまず河本に権力を渡そう物なら、確実に暴走するのが目に見えてる。他の提督にも押し付けられない上に、戦ったら最高練度&最高装備の江ノ島艦隊が確実に勝つので、実質決まっちまったも同然である。そんな訳でラウンジで、項垂れてる長嶺の完成である。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!やりたくねえぇぇぇぇぇ!!!!」
(ってかマジで何なの!あのクソ親父は、俺を過労死で階級特進させたい訳!?鎮守府の執務に霞桜の執務で手一杯だってのに、ここに連合艦隊司令長官の仕事とかマジで死ぬぞ!!失踪しようかな、マジで)
「あ、あの大将殿」
「相席、よろしいでしょうか」
視線を上に向けると、2人の少年が立っていた。茶髪と銀髪の少年である。
「確か茶髪のが影谷で、銀髪のが白峰とか言ったか。何の用だ?」
「えっと大将殿の項垂れてるのが見えましたので」
「若輩者で貴方よりは遥かに年下のガキですが、少し心配になりまして参りました」
どうやら二人は長嶺で来てくれたらしい。因みに二人の性格は影谷は明るく元気で少年らしい性格で、白峰は「天才」の異名を持つクールで大人びた性格をしている。
「心配ありがとう。なあ、どっちかさ連合艦隊司令長官にならない?」
「我々の様な若輩の身には、余りに勿体無い役職かと」
「僕も今のままで十分楽しいので、これ以上忙しくなりたくないです」
案の定断られる。正直予想はしていたが、やはり答える物である。盛大なため息をついて「だよなぁ」と、元気なく言った。
「あー、どうにかして河本派閥以外の人間に押し付けられん物かなぁ」
「あの大将殿。1つ、ご質問よろしいでしょうか?」
「どうぞー」
「何故そうも面倒そうにしているのですか?この国に於いては総理大臣と同レベルの権力が手に入り、確実に歴史に名を刻める栄誉も手に入るというのに」
「んなもん簡単だ。「厄介事をこれ以上したくない」これに尽きる」
影谷は面食らった顔で、長嶺を見る。普通なら歓喜しそうな出世を、厄介事で切り捨てたのだから当然である。
「俺、さっきも言った通り霞桜の隊長もやってるし、そのお陰で仕事量が普通よりも多い上に、最近はMI攻略の褒賞がわりに仕事を増やしやがってくれたお陰で余計に忙しいわけよ。
そこに連合艦隊司令長官とかいう、外交やら政治やらに関する厄介事やら仕事を何乗に倍増しやがってくれる片道切符とか、俺からして見りゃ地獄へまっしぐらの直通便だ。こうもなるさ」
「あの。でも僕は、河本大将殿より長嶺大将殿が長官になった方が良いと思います。僕、あのおじさん余り好きじゃないんです。でも大将殿は何だか優しそうだから、そんな人が長官になってくれたら嬉しいなって」
「あー、その辺は心配しなくて良いぞ。多分、というかほぼ確実に勝つから。俺はあのおっさんと違って、文字通りの最前線を今も戦っている現役バリバリの現場指揮官でもある。後ろでふんぞり返って、偉そうに顎で命令する様な奴に負けはしねーよ」
普通ならナルシストで自分の能力を鼻にかける唯の痛い奴であろう。しかし長嶺の場合は、本当に実現させてしまいそうな凄みを感じさせていた。では一気に時間をすっ飛ばして、演習の方に行ってみよう。因みに編成は以下の通り
江ノ島艦隊
・戦艦
金剛、霧島
・空母
赤城、加賀
・軽巡
阿賀野、矢矧
佐世保艦隊
・重巡
鳥海、摩耶
・軽空母
龍鳳
・駆逐艦
秋月
・潜水艦
伊58、伊168
「では、これより演習を開始する。始めぇ!!!!」
東川の号令で海戦が始まる。まず初めに動き出したのは、河本の佐世保艦隊である。
「お前達、オーダーはオンリーワン!ひたすらに突っ込め!!!!」
まさかの命令はこれだけであった。一方、江ノ島艦隊はというと。
『多分、彼方さんはひたすらに突っ込んでくる。だからこっちは、あくまで防衛戦に持ち込んでやればいい。赤城と加賀は制空を取る事だ。それだけにまずは注力しろ』
「わかりました」
「了解しました」
『金剛と霧島は前衛に出て、敵の注意を引き続けろ。阿賀野もこれに付け。ただし阿賀野は、あくまで2人の護衛だ。潜水艦を炙り出してやれ!』
「了解ネー」
「わかりました、提督」
「はーい!」
『矢矧も同様に一航戦の援護に回れ。ただし、こっちは多少の遊撃もしてもらって構わない。本職は潜水艦の炙り出しだが、まあちょっと敵にチョッカイかける程度はやってくれて構わない』
「任せて」
『さあさあ皆さん、あのクソおっさんに吠え面かかせてやろう。状況開始だ!』
しっかり各艦に指示を出していた。因みに河本が突撃戦法しかしなかったのは、曰く「江ノ島のガキ程度には、突撃戦法すらも勿体無い。本来なら戦法を立てる必要もないほど、脆弱な艦隊である」だそうで。
じゃあなんでMI攻略に引っ張り出されたり、連合艦隊司令長官候補になってるんですかね?
「航空隊、発艦始め!」
まずは敢えて佐世保艦隊に先手を取らせる。龍鳳の艦載機を上げさせて、そのままこちらに差し向けて貰う。だがしかし、既に一航戦の二人から零式艦戦52型(熟練)が発艦し待ち構えていた。しかも江ノ島艦隊には、どの艦娘にも21号対空電探が付いている上に対空噴進砲なんかもついており、対空能力は強い部類に入る。
そんな事はつゆ知らず、哀れにも龍鳳の航空隊はキルゾーンへと誘い込まれていく。次の瞬間、一斉に零戦が襲いかかり撃墜スコアを増やしていく。何機かはすり抜けたが、対空火器の前に全滅した。
『よし、金剛に霧島。砲撃開始だ!』
「撃ちます!Fire!!!!」
「主砲、撃てぇ!!!」
前衛に出ていた鳥海に35.6cm砲弾が降り注ぐ。16発の内、5発が命中し中破判定が出る。更に砲撃を続けて、注意を引くことに成功する。その間に一航戦の二人が、今度は攻撃隊を発艦させて死角から攻撃をする様に仕向ける。
「魚雷、発射するデ」
「爆雷投射よ!!」
上で大騒ぎしてるのを、これ幸いと近付いたゴーヤであったがあっさりと護衛の阿賀野に発見され、魚雷を発射する瞬間に爆雷と対潜噴進砲の嵐で一発轟沈判定が出る。しかもイムヤもほぼ同時に。
「ゲームセット、だな」
そう長嶺に呟いた瞬間、一航戦の攻撃隊が佐世保艦隊に襲い掛かる。金剛と霧島に注意が向いていて、完全にノーマークだった場所からの苛烈な攻撃に対応出来ずに右往左往している。
そんな隙を見逃す訳もなく、次々に魚雷と爆弾を投下していく。もうこうなっては対空番長だ何だと呼ばれていようが、対空が得意であっても意味をなさない。全艦纏めて轟沈判定を受けて、江ノ島艦隊の完全勝利となった。
(まさか、彼方さんがこんなにも弱いとは.......。もうちょい頑張れよ)
「それまで!!勝者、江ノ島鎮守府司令、長嶺雷蔵!!よって第三十三代連合艦隊司令長官は長嶺雷蔵とする!!!!」
「サヨナラ平穏、コンニチハ激務と厄介事」
この時の長嶺の顔が血涙流しそうな勢いで、物凄い悲壮感漂う顔になっていたのは言うまでもない。さあこれで物語も終わり、とはならなかった。
『長官!!幾らなんでもこれは、余りに不公平すぎます!!こちらは戦艦がいない上、移動時間もあったのですよ!?』
「ならどうしろと言うんだ」
河本の反論に、東川がそう答える。正直河本派閥以外の提督達は、子供提督も含めて「何言ってんだコイツ」という目で見ていた。
『なら河本提督、こういうのはどうです?私VS佐世保艦隊、というのは』
『君、それは幾らなんでも舐めすぎだよ!それでは勝負にならないではないかな、HAHAHAHA!!!!』
『うるせーな』
『何か言ったかね?』
『御託並べてねぇで、かかって来い』
初めてマトモに浴びせられる、百戦錬磨の兵士の気に小さく「ヒッ」と悲鳴をあげる。他の提督達も同様に、恐怖で顔が引き攣っている。影谷に至っては、半泣き状態である。
『で、飲むのか飲まないのか。どっちだ?』
『.......飲もう』
『長官、宜しいですね?勿論兵装は通常の物を使用しますから』
「もう好きにしてくれ」
東川も面倒くさくなってきて、匙を投げる。という訳で演習二回戦、開幕である。
(自分で言っといてアレだが、面倒な事になってきたな。こうなりゃ最速で終わらすか)
「演習、始め〜」
もう東川の声にも覇気はなく、なんか面倒くさそうな声で号令をかける。因みに長嶺の装備は刀2本、竜宮AR、大蛇GLである。
『前進し、敵を迎撃せよ』
河本がそう命令を下して艦娘達が動きだした直後、先に長嶺が仕掛けた。
「動きが遅いんだよ、ウスノロ共!!」
ズドドドズドドドズドドド
速攻で摩耶と鳥海にペイント弾を頭と胴体に浴びせ、塗料を仕込んで切れなく細工してある刀で龍鳳と秋月に切り捨て判定をあげる。開始5分でいきなり4隻が一瞬にして轟沈、正確には戦死判定に出た事に河本含めた全員が唖然とする。
「次は潜水艦だが、おっ発見発見」
ポポポポポン
大蛇GLの対潜グレネードがゴーヤとイムヤに降り注ぐ。勿論轟沈判定が出て、なんとスタートより5分18秒という速さで、佐世保艦隊を殲滅した。
「All target kill」
「それまでー!」
2度も勝利を攫われては、ぐうの音も出せず今度は何も言わずに悔しそうな顔をしながら椅子に縮こまっていた。一ヶ月後、正式に連合艦隊司令長官に着任し本部が江ノ島鎮守府に移転した。横須賀の所属艦娘は防衛省直轄の艦隊として動く事になり、提督は変わらず東川である。
一方、新しい連合艦隊司令長官となった長嶺はそのアイドルよりもイケメンな顔と、その強靭な体で一躍ヒーローとなり自衛隊と海軍の株が大幅に上がった。人気者になった結果、テレビやら雑誌の取材やらで引っ張りだこになり仕事量は増えに増え、数ヶ月後には新たな頭痛の種となるアズールレーンとレッドアクシズの島が現れたのは、また別の話である。