第二十五話お魚大パニック
秘書艦。それは普通の秘書と同じように、仕事の手伝いや仕事中の身の回りの雑用などをこなす係になった艦娘、もしくはKAN-SENの事を指す。今回はそんな秘書艦になった綾波とニーミを見てみよう。
「緊張するです.......」
「えぇ、そうね.......」
二人の執務室への足取りは、とても重い。それもその筈。何せこの二人、一応長嶺との関わりはあるっちゃある。しかしその全てが戦場での出会いであり普通の時の優しく気のいい時は全く知らず、戦場での冷酷で化け物クラスの恐怖でしかない強さを誇る時の戦闘狂の一面しか知らないのである。
(失敗したらきっと、拳が飛んでくるのです。失敗できないのです.......)
(もし何か不手際があれば、縄で縛られて、その横ギリギリを狙ってマシンガンを乱射されるかも。うぅ、行きたくない.......)
そんな訳で二人の中での長嶺は「鬼畜野郎で恐怖の権化」という認識である。まあ敵やクズに相対すれば言う通りであるが、仲間に対しては基本甘すぎるくらいに優しいのだから、完全なる風評被害である。
さて。嫌だ嫌だと言いつつも行かなければ何されるか分かったもんじゃないので、普段の10倍は重い足で執務室の前に立つ。重厚な木製の扉は、二人の目には魔王城の最奥にある魔法の待ち構える部屋の扉にしか見えない。意を決して、二人は扉を開けた。中は赤い絨毯と見るからに高そうな高級感あるテーブルとソファがあり、その奥には四つのモニターが置かれている執務机があった。
「失礼するです」
「失礼します」
「おう。って、今日の秘書艦はお前ら2人か」
モニターとモニターの間から長嶺がひょっこり顔を出す。前に見た戦闘狂の全てを恐怖で縛り付けてしまうような目でも、演説をした時のカリスマ性溢れる目でもない、優しそうな目をしている事に二人とも内心ではかなり困惑していた。しかし何かされるかもしれないと言う恐怖を前に、気合いで無理矢理平静を普通の顔をして挨拶する。
「本日の秘書艦になった綾波です。よろしくです」
「同じくニーミです。よろしくお願いします」
まあ所詮は少女の浅知恵な訳で、一瞬で緊張しているのを見抜く。長嶺は少し笑うと、二人の前に立った。
「よろしく頼むよ、二人とも。多分二人とも俺の戦闘モードの時しか見てねーから、ここまで来るの怖かったんじゃねーか?例えばヘマしたらぶっ飛ばされるとか、マシンガンを掠めながら連射されるとか、そういう想像したりとかしてただろ?」
(バレてるのです!!)
(というか何故、そうもピンポイントに当ててくるんですか!?エスパーか何かですか、この人!!)
「心配すんな。俺は基本、味方には結構甘いぞ。別にヘマした所で、正直お前ら程度のヘマは俺にとっちゃヘマに入らない。というか人の生死とかでも掛からないなら、別に何とも思わねーし。まあ気楽にやってくれ」
そう言ってサムズアップと爽やかな笑顔で二人の緊張を解きほぐす。因みに長嶺がこれまでされたヘマとしては、とある二人の大隊長さんが潜入任務でインスタントラーメンをアレンジして作ろうとしたら、何故かソマンガスを発生させて陸自の化学防護隊が出動する騒ぎを起こしたり、とある三人の艦娘が防衛省のメインサーバーにハッキング仕掛けて情報を盗み出したり等々、ヘマの次元を超えた物をされまくった結果「ヘマ」のハードルがバカ高くなっちゃっているのである。
「あの、一つ質問よろしいですか?」
「お、なんだ?」
「何故、制服を着用していないのでしょう?」
ニーミが指摘した通り、今の長嶺の格好は帝国海軍のどの軍服でもない。ファスナー式の黒一色の作業着のような服である。
「あぁ、これね。一応これでも戦闘要員だがら、いつでも出撃できるようにコイツを着ている。戦闘時はこの上に装甲の着いた軍服、俺達は「強化外骨格」って呼んでるんだが、それを上に来て戦闘行動を行う。
まあ流石に客人が来た時なんかはしっかり軍服を着るが、基本俺はこういう感じの服装で過ごすからよろしく」
「は、はぁ」
明らかに違う価値観に戸惑いつつも、本日の業務が始まる。二人が協力して仕事を片付ける間に、長嶺は両手で別々の動作を行なって執務を片付ける。右手でキーボードを叩きながら左手では書類に判子を押したり、電話対応しながら両手で別々のキーボードを叩いて書類を二倍速で処理したりと、常識人ではない仕事処理の仕方で仕事を片付けていく。
そうこうしている間に、昼時となり昼食を考え始める。
「お前達、何か予定はあるのか?」
「特にないですね」
「同じく、です」
「よし。なら、食堂に行くか」
そんな訳で江ノ島鎮守府の誇る、激ヤバ食堂に行く。何が激ヤバかって?24時間365日休む事なくコック妖精達が常駐し、常に温かくて美味しい料理が提供されるのである。しかも全ての食材が最高ランクの物が取り寄せられており、世界中の主要な料理は何でも作れてしまう。和食、洋食は勿論のこと中華、フランス、イタリア、ドイツ、スペイン、メキシコを始めとした国ごとの料理から、ファストフードやサンドウィッチ等の軽食、更には艦娘達からの要望で和菓子や洋菓子などのスイーツ系も取り揃えている。それを何と艦娘、KAN-SEN、霞桜の隊員であれば無料で食べられてしまう。
「お前達は決めたか?」
「綾波はオムハヤシにするです」
「私は、えっと.......」
「悩んでるニーミに朗報だ。ここはドイツ、そっちの世界の鉄血料理もあるぞ?」
「本当ですか!?」
「本当だ。おーい、間宮ー。ドイツ料理のメニューってあったか?」
そう言って厨房に長嶺が叫ぶと、中から白い割烹着に赤いリボンをつけた女性が出てくる。艦これユーザーの読者なら分かったであろうか?補給艦『間宮』である
「あら提督、本日はドイツ料理ですか?」
「俺じゃなくて、こっちこっち」
「あぁ、そういうことですか。こちらがメニューになりますよ」
そう言って間宮はニーミにメニューを渡す。ニーミはメニューに食い入る様に見ると、決まったのか顔を上げて食事を頼む。
「えっとじゃあ、シュニッツェルのセットを」
「はい。提督は如何なさいますか?」
「俺はそうだなぁ。Wカツ丼、ざるうどん大盛り、天ぷらセット二人前、あと唐揚げとエノチキ1型も付けてくれ」
「はーい」
フードファイターかよと言わんばかりの量に、二人も軽く引いている。何を隠そう、長嶺は結構な大食いで一人で寿司100貫を食い切ったこともある。
「さーて、食べよう食べよう」
余りに多いのでKAN-SENと一緒に来た饅頭に運ぶのを手伝ってもらい、食事を始める。そう言えば二つ程、どんな料理か想像出来ない物があるだろうから、ここで説明させてもらう。まずWカツ丼。見た目こそ普通のカツ丼だが、なんとカツの上にもう一セットのカツがのかっているいるのである。同じ要領で天丼や鰻丼にもWが存在する。
もう一つがエノチキ1型。こちらは読者の皆も食べた事があるであろう、コンビニチキンの事である。艦娘は規則上、鎮守府の外へは基本出られない。しかし長嶺がコンビニチキン、特にファミチキが大好きであり独学で味を極めて作っちゃったのである。それがエノチキであり、「どうせなら他のも作るか」となってLチキ、ななチキ、とり竜田の三種類が追加されて、ファミチキを1型、以降を2型、3型、4型と名前が着くようになったのである。
(指揮官の唐揚げ、美味そうなのです)
「お、どうした綾波?唐揚げが食いたいか?」
「あ、えっと、その。はい、です」
「いいぜ、一個やる。ニーミもいるか?」
「いいんですか?」
「構わねーよ」
そう言って普通にヒョイっと、2人の皿に唐揚げを一個ずつ入れる。もうまるで、娘にツマミを分ける親父そのものである。ただ一つ違うのが、この二人の思考が結構乙女である事である。
(こここ、これは!!食べたら間接キスになるのです////////)
(これって食べっちゃったら間接キスになっちゃう////////。指揮官、結構カッコいいから悪い気は、って何を言っているんですかニーミ!!)
こんな感じで脳内は大パニック状態である。で、その元凶たる長嶺はというと。
「ズルルルル。やっぱ、うどんはザルが一番だなぁ」
普通にうどんを啜って、天麩羅を頬張ってました。流石、超弩級鈍感朴念仁男。
昼ごはんも終え、午後からの執務に戻る。しかし二時間ほどして、副長のグリムが執務室にやってきたのである。
「失礼いたします、総隊長殿」
「ん?おぉ、グリムか。どうした、何か問題発生か?」
「いやまあ、えっと、問題っと言えば問題の様な、そうでもないような.......」
えらく曖昧な受け答えに、長嶺も「いやどっちだよ」とツッコむ。するとグリムは項垂れながら、タブレットを長嶺の前に置いて動画を再生した。そこには現在、任務で北方海域に向かっているバルクとベアキブルが映し出されていた。
『おーい、グリム!!多分最上級のマグロ、ゲットだぜ!!!!それもこんなにたくさん!!』
『頭、オレ達だって負けちゃいないぜ!!鯛、イカ、タコ、鰤もゲットだ!!!』
『『という訳で、お土産楽しみにしてろよ!!』』
ここで映像は止まっていた。取り敢えず映像には見える限りでも、4匹のマグロが映っており、他の四つに至っては把握できないほどの量があった。
「なあグリム?」
「はい」
「アイツらのミッションは確か、北方海域への偵察だったよな?それが何で漁に変わったんだ?アイツらは漁師にジョブチェンジしたのか?」
「どうします?」
長嶺は少し考えると、溜息を吐きながら命令を下す。
「釣っちまった以上、食べねぇのも道理に合わんだろう。ニーミ、食堂に行って調理機材を飛行場に運べ。綾波、放送で指示した奴を飛行場に呼び出せ。グリム、飛行場に先行して魚を下ろすスペースと調理スペースの確保、及び隊員を連れて調理準備にかかれ」
「わかりました」
「わかったのです!」
「了解しました」
とまあ、こんな感じで緊急任務「大量の魚を捌け」が発動された。でもって戦力が艦娘勢は間宮、大和、鳳翔の「艦娘で料理といったらコイツらだろ」という艦娘と偶々、長嶺が捕まえた第六駆逐隊と鈴谷&熊野。
KAN-SEN勢は「KAN-SENで和食料理と言ったら、コイツらだろ」という赤城、大鳳、翔鶴。それから赤城に引っ付いて来た加賀と翔鶴に引っ付いて来た瑞鶴、秘書艦であるニーミと綾波、それから仲良し組のラフィー、ジャベリン、ユニコーン。それからロイヤルメイド隊とユニコーンの保護者役でイラストリアスも来ている。
霞桜勢は長嶺を筆頭にカルファンとグリムの大隊長クラスに加えて、ある程度は料理の出来る者、総勢50名を引き連れている。ついでに格納庫でトランプして遊んでた飛行隊の連中も加わっている。
十数分後 江ノ島鎮守府航空基地 格納庫
「何とかアイツらの帰還より速く準備できたな」
「えぇ。でも総隊長殿、調理はキッチンでやるべきなのでは?」
「鯛とかタコ位のなら、キッチンでもいいさ。だが今回はマグロがいるから、あんな大物はキッチン内では捌けない」
「ではダイニングスペースを使えば良いのでは?」
「臭いが残るし、運び込むのが不可能だろ。マグロって一番小さいので30kg、世界記録のなら確か680kgはあったぞ」
全然マグロの事を知らなかったグリムは「マジですか」という顔をしている。因みに日本で水揚げされた中での最高記録は483kgだったらしい。
程なくして二人と魚を乗せた戦域殲滅VTOL輸送機「黒鮫」が飛来し、格納庫の前に着陸する。いざカーゴスペースの中に入ってみると、あり得ない光景が広がっていた。
「おいおい、マジか.......」
「これじゃあ、ホントに鮫ですよ。それも超獰猛な」
長嶺とグリムが驚くのも無理はない。カーゴスペースには巨大マグロが10匹、鯛と鰤が多分100匹以上、イカとタコに至っては150匹以上はいる。
「ねえ、あなた達。ホントに漁師に転向したら?というか、何でこんなに釣って来たのよ」
「いやよ姉貴。偵察も終わった事だし「少し遊覧飛行でもしようか」ってなったらよ、魚達が超たくさん泳いでた訳よ。で、やっぱさ、魚見たら獲りたくなるじゃん?それもデカイのなら尚更。後は成り行きで釣り大会になったんだけどよ、そしたら釣れる釣れる。もう入れ食い状態!
で、調子乗った結果」
「こうなったと。ボス、どうするの?二人とも切り刻む?」
サラッと恐ろしい事を言うカルファンを他所に、長嶺はカーゴの中のマグロを見てフリーズしていた。
「ボス?ボース?ねえ?」
「お前ら、マジで良くやったよ。うん、マジですごく良くやった。特別ボーナス支給する」
「ボス、正気なの?」
予想外の反応にカルファンとグリムは勿論、仕出かしたグリムとベアキブルも「え?」という顔をしている。
「これさ、タダのマグロじゃない。最高級のマグロでクロマグロ、一般的に言うと「本マグロ」と呼ばれる種類に当たる。しかも目算で一番小さいので250kgクラスだ。これ、売ったら普通に1匹で150万は下らないぞ。他の魚も全てが上物中の上物、高級料亭や高級寿司屋で余程の客にしか出さないであろう物だ。良くやった」
「親父、そんなに凄いんですかい?」
「お前、すしざんまいとかの新年にやってるマグロ解体ショーとか、初セリのニュース見たことあるか?アレに出てるマグロと同じ種類だ」
この発言に全員が固まっていた。漁業関係者や魚に詳しくなくても分かる例えになった事で、自分達がどれだけの大物を釣って来たのかを理解したのである。
「とにかく速いとこ捌いてしまおう。くれぐれも慎重にな。超絶丁寧に扱いつつ、迅速に運び出せ!!」
隊員達が慌ただしく動き出し、フォークリフトや人力でマグロを外に運び出す。余りの巨大さに全員が圧倒されていた。
「魚を捌ける物は、鰤とか鯛とかその辺のを頼む。瑞鶴、加賀、ベルファストは俺を手伝ってくれ。残りは皿の用意とツマ作り、それからマグロの中落ちを取る作業して貰う!!」
残りの人員も動き出し、本格的に調理が始まる。と行きたいのだが、霞桜のある隊員が「どうせならマグロ解体ショーしてくださいよ」というリクエスが来た為、急遽長嶺によるマグロ解体ショーが開催される事になった。
「いざ!」
まずは頭を切り落とし、次に3枚おろし見たく肛門の辺りから刃を入れて身を開く。内臓を除去して、そのまま各部位毎に分解し、あっという間に魚を各部位毎に捌いてしまった。しかも本来なら鉈やらノコギリやら超巨大な包丁を使う所、出刃包丁一本で捌いてしまったのだから驚きである。
「いっちょ上がり。どうせなら、試食がてら食うか!」
「なら醤油を用意しないと」
「フフ、大和さん。もう用意済みですよ」
大和が醤油を取ろうと立ち上がった瞬間、間宮が刺身醤油のボトルと紙皿に爪楊枝までが入った袋を掲げる。
「用意いいな」
「流石、食堂の女王、間宮ちゃん!」
「良いセンスだ!」
周りにいた隊員達も間宮にヒューヒュー言ってた。その間長嶺は手早く大トロの部位を少し大きめにカットして、全員に2枚ずつ行き渡るように盛り付ける。
「そーら、出来たぞ!食ってみな!!」
渡された者から口に頬張っていく。そして頬張った者は余りの美味さに叫ぶか、語彙力が死んでいた。
「うんめぇ!!!!」
「オヒョォォォォ!!!」
「こんなん初めて食ったぞ!!」
艦娘やKAN-SEN達も似た様な物で、
「流石本マグロの大トロ。脂の乗り方から違いますね」
「寿司や海鮮丼も合うでしょうけど、やっぱり刺身の方が良いかも知れませんね」
「美味しい、です」
こんな感じに喜んでいた。だがしかし、一部のKAN-SENは固まっていた。ロイヤルメイド隊、ジャベリン、ニーミ、ユニコーン、イラストリアスである。
「あれ?どうした、マグロは嫌いか?所謂ツナやぞ、これ」
「い、いえ。そうではなくてですね」
「ご主人様。余り、いえ、生魚を食すのは失礼ながら愚かなる自殺行為かと」
いつもニコニコしてるイラストリアスは顔を完全に強張らせ、ベルファストは凄い目付きで長嶺を睨んで来ていた。まあ海外で生魚を食うこと自体ないので、当然の反応ではある。最初は長嶺も分からなかったが、すぐにそれに気が付き心の中で笑っていた。
「多分、お前らアレだろ?細菌とかウイルスに感染して、食中毒が起きると思ってる口だろ?確かに放置してたヤツは危険だが、コイツは漁れたて新鮮な魚だ。しかも殺菌効果の高い醤油を付けるから、マグロはおろか、今回の魚全て生で食っても問題ない。
日本ってのは結構生で食う物多いから、慣れといて損はないぞ。それに美味いから、騙されたと思って行ってみろ!」
「わかりました」
「シリアス!!」
「誇らしきご主人様が「大丈夫」と仰っているのなら、きっと大丈夫です。それに他の皆様も食べてらっしゃいます。私は、食べます!!!」
なんかラスボス前のめちゃくちゃ感動出来るシーンみたいな事になっているが、これはあくまでも大トロを食べようとしているだけである。なんでこんなにも大袈裟に出来るのだ。てな訳で、口に大トロを運んだシリアス。口に入れた瞬間、
「んんんん////」
完全に蕩けきった顔になる。そりゃあ初めての刺身が本マグロの大トロという凄い贅沢をした以上、こんな顔にもなるだろう。
「美味いだろ?」
「美味しいです!!誇らしきご主人様!!!」
「さてさて。シリアスが食べた訳なんだが、お前達は?」
少しずつ他のKAN-SEN達も食べ出し、大体シリアスと似た反応を示す。それが促進剤になり、やがて全員が食べて顔を蕩けさせていた。お陰で長嶺の心に「何故だろう、何かイケナイ事をしている気分になってしまう」という心情があった事は、また別の話である。
「お前ら試食は済んだな。分かってるだろうが、この事は内緒だぞ?それじゃ、今度こそ調理開始だ!!」
思ったより皆が優秀だった事で、予想より遥かに速いスピードで完成した。しかしまあ問題が無かったわけではなく、ちょっとは問題が発生していた。何が起きていたかというと
「指揮官様ぁ♡大鳳の捌いたイカを食べてみてくださいまし♡」
「いやそれ、皆に出すヤツ。ってかさっき、お前が捌いたの試食した」
「指揮官様ぁ♡赤城の捌いた鯛の方が、お口に合いますわよ」
「いや赤城。お前それ、かれこれ10回は持って来たよな?」
こんな感じで重桜ヤベー奴の二人に目をつけられ、魚が貢がれまくっていた。でもってこれに影響されたのか知らんが、こんな事も起きていた。
「提督、私のも味を見てくれませんか?」
「大和が試食してくれとは珍しいな」
「松皮作りを試しにやってみました」
「松皮作りとは、また難しいのを選んだな」
松皮作りとは鯛の様に、皮に旨みのある魚に使われる調理法である。皮付きの魚に熱湯を掛けて、冷水で冷やして刺身にする調理法である。一見簡単だと思うが、冷ますタイミングがズレるとダメになってしまう極めて難しい料理である。
「うおっ!普通に成功してやがる」
「料理の腕は、一流料亭の板前さんにも負けませんよ」
「だろうな。こんな完璧なの、初めて食ったぞ」
得意そうに笑っている大和だが、その視線の先は長嶺ではなかった。赤城と大鳳に対して、釘を刺すためにこの料理を出していたのである。で、この場を更に掻き乱すべくコイツまでもが動き出す。
「指揮官。私の鰤も食べてみてください」
「翔鶴もか。刺身で失敗する事なんざ無いだろうが、どれ」
「美味しいですか?」
「んぐっ。切り方も中々に上手だ。しっかり細胞の形を残して、中の成分を漏らしていない」
「ありがとうございます」
そう言ってニッコリ笑う翔鶴。こちらも目線の先は長嶺ではなく、例の3人に向けられていた。つまり今の状況は大和、赤城、大鳳、翔鶴の四人がバチバチと火花を散らしているのである。
(姉様、目が笑っておりませんよ)
(お姉ちゃん何やってるの)
(これは、一嵐来そうですね)
マグロ解体の手伝いをしていた三人はそんな事を考えていたが、今回の嵐の目であり元凶の長嶺はというと。
「提督!中落ち?を取るの出来たわよ!」
「おお、頑張ったな」
「みんなで頑張ったのです」
「もっと雷を頼っても良いのよ!」
「ハラショー」
第六駆逐隊の中落ちを取る作業の報告を聞いてみたり、
「お兄ちゃん、出来たよ?」
「あ、そっちもか。.......うん、取れてるな」
「えっと.......その.......」
「指揮官様。ユニコーンちゃん、とっても頑張っていましたわ」
「ん?あ、あぁ。そういう事か」
ユニコーンの頭を撫でて褒めてみたりとか、赤城達の事なんて気にする素振りすらなく他の子達と話したり指示を出したりしていた。
「(親父、気づけよ!!)」
「(あそこまで鈍感となると、何かの病気じゃないかしら?)」
「(総長は恋愛に関しちゃ、レベル1の超絶初心者だからなぁ。ラノベ主人公もビックリな鈍感すぎる恋愛感性だ)」
ベアキブル、カルファン、バルクの三人は流石の鈍感っぷりに、無駄とわかりつつもツッコんでいた。
まあ何はともあれ無事に全て抜かりなく魚を捌ききり、その日の夕食は刺身のバイキングとなった。艦娘の方の赤城と加賀が大食いを始めたり、ソマンガスを発生させた前科を持つバルクとレリックが謎料理テロを起こしそうになって隊員総出で止めに入ったりもした、らしい。