江ノ島鎮守府着任の数ヶ月前 東京 丸ノ内
この日長嶺の姿は、丸ノ内のとあるオフィスビルにあった。ここは霞桜の秘密基地であり、エレベーターで特定の動作をしないと入れなくなっている。因みに地下にありオーナーは長嶺、正確には長嶺の持つ別の戸籍の人間である為バレる事はない。
「お疲れ様です、総隊長殿」
「よぉ、グリム。状況は?」
「はい、三週間前、連合艦隊司令長官の東川元帥より、ある男の抹殺依頼が来ました」
呼び出された時点である程度の予想は付いていたが、やはり暗殺任務であった。久し振りの任務であってか、心なしか少し嬉しそうである。
「抹殺、ようは暗殺してこいって事か。ターゲットは?」
「それが、大量にいます」
「どう言う事だ?映画みたく、機関銃持って敵の基地に殴り込めってか?」
「簡単に言うとそうです」
暗殺とは程遠い回答に、長嶺も戸惑う。普通暗殺なら殺し方を事故や自然死、自殺に見せかけるとか、毒を盛るとか、狙撃するとか、拉致ってバラして失踪の形を取るとかするのが普通だからである。
「マジで?俺、冗談で言ったんだけど」
「冗談で済めばよかったですけど、これを見てください」
そう言ってグリムは目の前の机を指差す。あったのは大量の紙、正確にはリストの山である。
「なあ、まさか」
「はい。予想は多分当たってます。この山すべてが、今回のターゲットです」
「明らかに2000人位いるよな?」
なんか途轍も無くめんどくさそうな臭いをプンプンさせるリストの山に、さっきまでの表情とは打って変わってゲンナリとした物になる。
「取り敢えず、ターゲットについて話します。当初は江ノ島鎮守府の提督、安倍川餅 部論部論流界(あべかわもち べろんべろんりゅうかい)海軍大将のみでした。罪状はロシアの外患誘致未遂、国家反逆未遂、殺人、殺人教唆、薬物取締法違反etcと、見事なまでの犯罪オンパレードです。下調べの為に兵を送った所、一つ面倒な事がわかりました」
「面倒な事?」
そう言うと今度はタブレット端末を差し出してくる。タブレットに映っていたのは、白人系の工作員と思われる男性の一団を写した監視カメラか何かの画像であった。
「どうやら既にKGBとスペツナズの部隊が現地入りしており、これに加えて中国の残党まで加えた混成集団が上陸したみたいで」
「水際では阻止できなかったのか?」
「2000人と言いましたが、これでも半分以下です。本当なら六千人近くが入る予定だったらしいですが、海自が極秘裏に沈めてくれました。生存者も処刑の上で、細かく裁断して海に撒いてあります」
「海自もよーやるわ」
因みに最近の海自は特務部隊を組織しており、水際で各国の工作員を文字通り解体して海に流している。
「えぇ。そんな訳で安倍川餅の罪状は最終的にロシア、中国残党の外患誘致、国家反逆未遂、殺人、殺人教唆、薬物取締法違反、銃刀法違反、銃器密造、それから艦娘への暴行と傷害です」
「見事なまでのクズっぷりだな」
「艦娘に関しては、強姦ストッパーがあって良かったですね」
強姦ストッパー、正式名称は性的暴行防止装置と呼ばれる物である。これは提督が艦娘に対して、合意なしで行為に及んだ場合に発動する物である。行為に及ぼうとした瞬間、提督体内のナノマシンにより全身を身動き取れなくする程度に痺れさせる。因みに合意の上、若しくはケッコンしていれば何もおきない。
「だな。ていうか、よく暴行の証拠を押さえたな。普通なら入渠した瞬間に、キレイさっぱり傷は消えるのに」
「どうやら執務室で木刀使って殴ったのを見て、念の為に艦娘の部屋に忍び込んだ所、服には通常の戦闘じゃつかない場所に血痕がついていたそうです。それも鎮守府の艦娘全員に」
「それなら殺した所で、誰も悲しむ事はないな」
「えぇ。それでは、作戦会議と行きましょうか」
会議室、とは名ばかりの豪華な部屋に五人の男が集まる。総隊長である長嶺、副隊長兼参謀のグリム、第一中隊中隊長マーリン、第二中隊中隊長レリック、第三中隊中隊長バルクである。
「全員、揃っているな?」
「総長、俺達全員が集まったって事は、そんなに面倒な事ですかい?」
「バルク、いきなり質問攻め、良くない」
開始早々せっかちなバルクが質問してくるが、親友のレリックに止められる。
「へーへー、わかったってレリック」
「バルク、まずは落ち着け。任務は逃げねーからね
「すいやせん」
長嶺も突っ込んでおく。因みに内心では、このまま逃げて欲しくはある。
「さて、今回のミッションだが、今までの中で一番面倒くさいぞ」
「総隊長、このりすとの枚数は冗談でしょう?」
「これが冗談なら、どんなに良かったことか。悲しい事に現実だよ」
マーリンがリストの束を見せられて、悪い冗談かと思う。というか他の2人も冗談だと思った。
「にしたって、コリャないぜ」
「そうぼやくな。まあ見ての通り、今回の作戦は日本中で同時に行う。作戦はこうだ。まず、各中隊を北海道、神奈川、高知に派遣。三週間間後の3月14日に同時に攻撃し、リストの全員を抹殺する。そして攻撃終了を合図に、首謀者である安倍川餅の首を頂く。知っての通り人数は多いが、個人の強さはそんなにない。我ら霞桜の足元にも及ばないだろう。
だが、慢心して足元を掬われるなよ。それから今回は人数が多い為、機動本部車の使用も許可する。存分に敵を討ち滅ぼしてこい!!」
「「「「了解」」」」
これより三週間後、作戦は開始された。まずは各地の部隊の動きを見てみよう。
北海道(第一中隊)
「皆さん、準備はいいですね?行きますよ」
「中隊総員、装面!!」
副隊長の指示で兵士全員が面を装着する。因みにこの面は殺害対象と非殺害対象の見分け、望遠、暗視、熱源探知、X線による透視、通信、毒ガスから身を守る為のガスマスク機能がついた優れものであり、結構カッコいいデザインである。
「人里離れたら山中なのだから、遠慮なく撃ちなさい」
マーリンの指示でテロリストの潜伏する倉庫に自立稼働型武装車40台が、装備している機関銃やグレネードランチャーを発射する。合計100門近い高火力火器の一斉射に唯の倉庫が耐えられる筈もなく、穴だらけになって風通しが良くなる。ついでに周囲にテロリストの内臓やら肉片やら、身体の一部が消し飛んだり吹き飛んだりして、どっかの呪いの家みたくなる。
後は隊員達が突っ込んで確実に敵を殲滅していく。どんな感じかというと
「この野郎!!なにしやが」
パパン
「おい!しっかりしろ!!死ぬんじゃな」
ズドン
「お前達は一体、なにも」
ドゴーン
こんな風に、敵が言葉を言い終える前に撃たれるから吹っ飛ぶかして死んでいく。では神奈川の第二中隊を見てみよう。
「攻撃」
「ハッ!」
レリックの指示で、今度は機動本部車が港湾施設のコンテナに偽装した拠点に突っ込む。戦車砲に耐え得る装甲を持っている為、鉄製のコンテナでも難なく突破する。
「な、なんだぁ!?!?」
「トラックが突っ込んで来たぞ!!」
「何故バレた!?」
次の瞬間、銃眼から軽機関銃の弾幕、トレーラー部分の機関砲、火炎放射器などで血祭りに上げていく。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!?!?」
「熱い熱い熱い!!水水!!!!」
「突入!!」
「ヒーーハーーーーー!!!!」
「死に晒せクズども!!」
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
兵士も突撃して、中をどんどん掃討していく。いきなりの奇襲と見た事もない兵器の登場によって完全に混乱したテロリストに、一騎当億とも言える霞桜の隊員達の相手は務まらず呆気なく全滅させられる。しかし、ここで一つ問題が起きた。
「レリック隊長!敵二名がボートで逃げました!!!」
「直ぐに追え。水上バイクを用意しろ」
「ハッ!」
敵はアースレース、つまりはシーシェパードの三胴船みたいなのに乗って逃亡している。だが、このボートの最高速度は45ノット。対して霞桜の水上バイクは80ノット出せるから、相手にすらならない。因みに歩兵50ノットで海を疾走できる。
「
「
「
「
「
AKか何かで妨害してくるが、そんなのはお構い無しに追いかける。
「射程に入った。撃つぜ‼︎」
水上バイクに搭載された20mm機銃が発射される。後ろで射撃していたロシア兵とエンジンにクリーンヒットし、ロシア兵は海に落ちる。エンジンからは黒煙が上がり、火まで出始める始末である。
「ウギャッ!?!?」
「
操縦している隊長が何かを言おうとした瞬間、燃料に火が回ったのだろう。船は爆発し、隊長諸共バラバラになる。
「こちらスティンガー7。敵2名の内、1人は落水、もう1人はボートの爆発に巻き込まれた。どちらも死亡と判断し、本隊に合流する」
『了解した。そろそろ撤収だ、なるべく急げ』
「スティンガー7了解」
神奈川での殲滅は終了。では最後に高知の第三中隊を見てみよう。
「マーリン親父とレリックもドンパチを始める頃だな。お前達、行くぞ」
「「「「「「「応!!!!」」」」」
第三中隊が攻めるのは、山奥にある平家の大きな廃屋である。此方も人里離れている為、少々銃撃戦をしてもバレはしない。
「血祭りに上げたれや‼︎」
バルクのM2が火を吹き、周りの兵も各々の銃を射撃する。突然の奇襲&圧倒的弾幕に敵は成す術なく倒れていく。所詮は寄せ集め集団であり、頼みのスペツナズも少人数しかいない為、効果的な反撃どころか撃ち返すこともできない。
というか特殊部隊でも撃ち返そうと体を乗り出した瞬間、弾丸の容赦ない雨により穴だらけになる。しかもバルクのM2に当たれば、一撃アウトである。結局、北海道、神奈川、高知の何処の県でも効果的な反撃はなく、唯弾幕を浴びて死ぬだけであった。では視点を長嶺にして、江ノ島鎮守府への潜入の模様を見てもらおう。
『総隊長殿、敵拠点の制圧、及びテロリスト集団の殲滅完了しました。全員死亡確認済みです』
「了解した。では、コチラも暗殺任務を開始する」
ゴムボートの上で待機していた長嶺は、グリムからの報告を合図に行動を開始する。
「主様、僕はどうすればいいの?」
「犬神はこのまま、大手を振って鎮守府内に入れ。野良犬を装えば、怪しまれない。入った後は内部の偵察だ」
「わかった」
「我はどうする?」
「八咫烏は外の偵察を頼みたい。マーキングが終わり次第、俺と合流しろ」
「心得た」
まずは犬神と八咫烏を使って偵察をしてもらう。どちらもどんなに距離が離れていても、テレパシー的な物による能力で話せるので偵察には打って付けであり、この手の任務では事前に偵察してもらう事が多い。
「よし、行け!!」
「ワォォォォォォン!!」
「カァ!!」
犬神と八咫烏がそれぞれの仕事を開始する。長嶺はゴムボートのエンジンをかけて、江ノ島鎮守府の埠頭に向かう。てっきり哨戒ボートや何かしらの監視装置でもあるかと思ったが何もなく、無事すんなりと埠頭に到着する。
まあ考えてみれば3つある拠点全部がほぼ同時に襲撃され、テロリストは一掃されているのだから当然である。
(主様、中に入れたよ。ライフル付き監視カメラがいっぱいあるよ)
(我が主、コチラも偵察したが厳戒態勢の様だ。装備がM4とMINIMIの警備兵だ。恐らく、どっかの傭兵だろう)
(二人ともよくやった。俺も埠頭に上陸している。八咫烏は合流、犬神は誘導を頼む)
(はーい)
(了解した)
八咫烏と合流し、犬神の誘導で安倍川餅の自室に向かう。まずは警備システムの制御室を目指す。
「(犬神、制御室は?)」
「(このまま真っ直ぐ進んで、赤い扉の所にあるよ)」
「(よし!)」
八咫烏を上空警戒に出して、犬神の誘導で警備室に入る。
「フワァ、眠ぃ。徹夜コースは特にキツイぜ」
(だったら寝てろ)
パシュッ
空気が抜けたような静かな音がなり、コンソールの前にいた警備兵は眠りにつく。今回は潜入任務なので愛銃の土蜘蛛HGの他に、ドイツH&K社製のMARK 23を麻酔弾仕様に改造した銃を装備している。これを使えば殺さず眠ってもらえるし、潜入はバレにくくなっている。
「はーい、おやすみー。さてと」
長嶺はコンソールの前に行くと、USBを刺してキーボードを操作する。USBの中には霞桜の本部のコンピューターと秘密裏に接続し、中のデータや繋がっている装着を自由自在に操れるウイルスが入っている。これを侵入させれば、まず監視カメラをはじめとする警備装置は起動しない。
「これでよし」
最後に警備兵に刺さってる麻酔弾を抜いて部屋を後にし、そのまま対象の部屋に向かう。道中別の警備兵に遭遇したが、気づかれる前にまた麻酔弾で夢の国に招待してある。部屋には鍵が掛かっていたが、万能キーで開けて難なく侵入する。
因みに万能キーとは、どんな鍵だろうと形状変更合金によって鍵穴に合う形に変形し、何の傷も付ける事なく開ける事の出来る特殊な鍵である。
「コイツが安倍川餅か。てか、臭くね?」
部屋に入ると太ったおっさんが寝ていた。しかしまあ、安倍川餅の見た目がヤバいので、一応パーツ全てを書いていこう。
髪
・油ぎって、なんかリンスを流し忘れてるみたいになってる
・フケ塗れで、一部黒いのが混じってる
・なんか臭い
・目ヤニだらけ
顔
・脂ギッシュ
・ニキビとニキビ跡で月みたいに穴ぼこ。ついでにシミだらけ
口
・ヨダレ垂らしまくり
・歯が黄ばんで、汚い
・口臭がシュールストレミングを更に腐らせた物に、生ゴミと納豆をぶち込み、ニンニク物と焼肉を食べて、歯磨きせずに寝た翌朝みたいな臭い。要は化学兵器レベルで臭い
体
・垢塗れ。多分、体を数年来洗ってない
・全体がとにかく臭い。「風呂にくさや汁(くさやを作る際に、素材をぶち込む液体)と下痢したウンコを混ぜた物でも使いました?」ってレベルの臭い
・推定体重150キロ。
足
・汚い&臭い
纏めると「トンデモなく臭い汚物の粗大ゴミ」である。
「主よ、これは人間か?」
「生物学上は人間だ。だが、常識的に見ると唯の汚物ゴミだ」
「早く殺してよ。臭いから」
「殺した所で何も変わんないが、速いところ殺して退散しよう」
八咫烏からは人間扱いされず犬神にははよ殺せと言われる人間と言えば、どれだけヤバいか分かるだろう。
「ん.......。お前ぇ、誰?」
「起きちゃったし」
「犬と烏を連れた、狐面の男...........お、お前まさか、極東の死が」
ストトトトトトト
朧影SMGを使って撃ち殺す。同時に長嶺から常人が気絶しそうになる程の殺気が流れ出ており、2匹もちょっと引いている。しかしここで、アクシデントが起こる。なんと偶々通りかかった長門が惨状を見てしまったのである。
(な、なんだこれは!?!?)
「誰だ?そこにいるのは?」
声を押し殺し、いないフリをする長門。しかし長嶺には気配でバレている。
「まあ、誰でもいいか。俺の目的は安倍川餅 部論部論流界を殺す事だけだ。相手から何もしてこない限り、他の奴らに危害を加える事はない。目的は済んだし、俺は退散する。言っておくが警察や憲兵に知らせても無駄だ。俺の組織は裏から手を回せるからな」
「ひ、一言だけ言わせてくれ」
「ん?」
長門は勇気を振り絞って、未来の提督に話しかける。
「この鎮守府を救ってくれて、感謝する」
「それは上の人間に言ってやりな。ここが少しでも改善されるのを、墓場から祈っておこう。さらばだ」
窓から飛び降り、埠頭まで駆け抜ける。ボートに乗り込み、死体を死体袋に入れて退散する。相模湾で長嶺所有のクルーザーに乗っているグリムと合流し、本人確認の後に死体を裁断。ペースト状にして海に流す。服はボイラーにぶち込んで焼却し、公の記録では失踪した事にする。因みにダミーの監視カメラ映像も用意済みである。これはグリムの手で該当監視カメラにハッキングで差し込んでおり、警察はこれを追って行く事になる。
「ねぇ、主様?」
「どうした?」
「やっぱり、極東の死神って言われるのは嫌?」
「忌々しい記憶なんだ。それにアレは俺一人の功績ではないからな」
「そっか」
極東の死神。これについては、敢えて語らないでおこう。何はともあれ、作戦は完了し少しの休暇を取る事となった。まさか後に霞桜を引き連れて、安倍川餅の後任で江ノ島鎮守府へ着任するとは、この時誰も知る由はなかった。