最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第三十二話KAN-SEN確保戦争

ソロモン諸島攻略より数週間後 12:00 食堂

「やっぱ、寒い時の鍋焼きうどんは格別だ」

 

月は11月の下旬。一寸先が海である鎮守府は、やはり体感温度が他よりも数度下回る。そこで長嶺の食事も、最近暖かい物になってきた。今食べてる鍋焼きや、すき焼き御膳、釜揚げうどん等々。寒い日に食べたくなる物が多い。

 

「指揮官、前いいか?」

 

「おう、座れ座れ」

 

鍋焼きうどんを啜っていると、エンタープライズがやってきた。しかし手にはお盆や皿の代わりに、カロリーメイトが握られていた。

 

「指揮官のそれは何だ?」

 

「ん?あぁ、コイツは鍋焼きうどんだ。鍋料理の一種で、うどんと出汁と具材を土鍋に入れて、煮込む日本の伝統料理だ」

 

「ほう。うまそうだな」

 

「なんなら食うか?あったまるぞ」

 

「いや、えっと、それは.......」

 

エンタープライズは顔を赤らめた。無理もない。小鉢にうどんと出汁と海老天や油揚げの様な具材を寄せてくれたが、差し出された箸も小鉢も長嶺が使っていた物。つまり、間接キスになってしまう。

長嶺は超絶鈍感朴念仁男である為、全く気にしてない。しかしエンタープライズは曲がりなりにも女の子であり、やはり気にしてしまう。長嶺の顔はガッツリ美形のイケメンにもワイルド系の物のイケメンにも見えてしまう、結構特殊な顔である。そんな訳で照れまくっている訳である。

 

「えっと、じゃあ頂く//////」

 

うどんを啜るが、出汁の味なんてわかる筈もなかった。緊張と照れから、完全に頭がオーバーヒートしていて舌で感じた味覚の刺激を脳が受け付けなかったのである。

 

「どうだ?美味いか?」

 

「あ、あぁ」

 

「そうかそうか。良かった。で、だ。お前、マジで大丈夫なのか?それ、カロリーメイトか何かだろ?」

 

「そうだ。戦士たる者、常に戦える様に無駄を削ぎ落とす。日本のカロリーメイトというのは、味も良ければ栄養価も高い。戦士にとっては理想の食事だ」

 

長嶺がデカい溜め息を吐いて、エンタープライズの手からカロリーメイトを奪い取る。

 

「な、何をする!!」

 

「何をする、じゃねーよ。お前、因みに聞くが昨日の食ったもの、全部言ってみろ」

 

「朝はエスプレッソにチーズ味のカロリーメイト、昼はカフェオレにフルーツ味のカロリーメイト、夜はココアにブラックにプレーン味のカロリーメイトだ」

 

またまたデカい溜め息を吐いて、「カロリーメイトとコーヒーしか食事のバリエーションがねぇのか、お前は。スネークでももうちょい気にするぞ」とツッコむ。

 

「バランス栄養食を取って何か悪い」

 

「確かに変に菓子を取るよりかは、カロリーメイトを食った方がマシだ。それにカロリーメイトを取っておけば、問題なく生き続けられるだろうよ。

でもな、それじゃあ良くない。栄養学的に大丈夫でも、精神的にはアウトだ。食事とは単に栄養の補給の場では無く、食物の恵みに感謝し、多種多様な味を楽しみ、活力を得る手段だ。お前は戦士の理想の食事とか言っていたが、それはあくまで「戦場の中で食べる食事なら」って話だ。日常生活では、しっかり食う者が最終的に勝ち残る」

 

「後半はともかく、前半の口振りはまるで医者みたいなだな」

 

「俺、一応医師免許持ってるよ。これでもハーバード大学院まで行って、医学博士の資格持ってるし。まあ別の戸籍だから、俺のではないがな」

 

どうやらこっちに来て、何かしらのメディア媒体でハーバードの名を知っていたらしく、固まっている。まあ普通に考えて、今でも高校生位の奴が世界一頭いい学校の、それも絶対その中で一番の頭脳がいる医学を修めてる事に驚愕している様だった。

 

「さて。で、ユニオンの英雄様は最強の戦士で医者の言か、自らの信念か、どちらを信じるのかな?」

 

「きょ、今日は普通に食事を取る事にする」

 

「よろしい」

 

その後、食器を片付けて執務室へと戻る。午後からの業務を始めるべく、気持ちを仕事モードに切り替えて執務室のドアをくぐる。

 

「あ、提督。おかえりなさい」

 

「あれ、今日の秘書艦は確かネルソンとロドニーじゃ。あ、そっか。午後からお前達に変わるのか」

 

「提督、まさか忘れてたんですか?」

 

午後からの秘書艦になる扶桑型姉妹(艦娘の方)が執務室に入っていたが、その事を完全に忘れていた長嶺は山城から冷たい視線を浴びせられる。

 

「山城、提督はご多忙なのよ?この位忘れてしまっても、仕方がない事だわ」

 

「姉様がそう言うのでしたら」

 

(やっぱ扶桑の言う事なら、一発で聞くんだな)

 

なんか謎に感心しつつ、午後の業務を始める。午前中は主に遠征や委託に行った艦隊からの報告書の確認だとか資源の確認なんかだったが、午後からは打って変わって経理関連の執務になる。

それ故に数字と睨めっこし続けるハメになり、ちょこちょこ糖分を摂取して効率よく片付ける。そんな中、一本の電話が鳴る。

 

「はい、江ノ島鎮守府です」

 

『防衛大臣の東川だ。長嶺提督は居るか?』

 

「居られますよ。少々お待ちください」

 

受話器を当てたまま、扶桑が目で長嶺に合図を送る。それを察して、電話の回線を切り替える。

 

「はい、お電話代わりました。長嶺です」

 

『おぉ、元気そうだな。まずは、先のソロモン諸島攻略の任、本当にご苦労だった』

 

「えぇ。それが私の仕事ですから」

 

ここで長嶺は違和感に気付いた。別に何処も可笑しくないのだが、まるで何かを探られている様な感覚を覚える。大体こう言う事をしてくる時は、大体面倒事やその火種が持ち込まれる。

つまり、また何かしらの問題発生である。

 

『あー、所でだな。ちょっとばかし、河本に不味いものを握られたぞ』

 

「は?」

 

『今朝方の事だ。奴が私のパソコンにメールしてきた。添付されてたファイルを開くと、そこには例のKAN-SENと思われる娘の写真が貼られていた。

文章にも「長嶺長官は、何かしらの秘密を隠しておられる。これは一長官の権利を逸脱しており」っと、まあ端的に言うと「長嶺長官を吊し上げるので、会議を開かせろ」と言ってきた』

 

河本。その名を聞いた瞬間の長嶺の顔は、もう何と形容したら良いか分からないほど、すんごいゲンナリとした顔であった。知っての通り、河本と長嶺は仲がクソ悪い。というか一方的に逆恨みされて、喧嘩売られまくられてるだけだが。

長嶺も基本的には無視を貫き通すが、相手は世界有数のコンツェルンを束ねる人間やら政治家から警察の上層部にまで血縁に持つ男。いかんせん、妨害が一々面倒な上に陰湿な物なのである。そんな男が今回の騒ぎの台風の目とか、今すぐに逃げ出したいほどに騒ぎを回避したいのである。

 

「で、いつやれと?」

 

『明後日、だそうだ。恐らくそこでやる事になるから、頼むぞ』

 

「今すぐに鎮守府爆破して、適当な所に逃げたいですよ。まったく、念のために聞きますが、最悪バレても問題ないし、バレても現有戦力は保持で良いんですね?」

 

『問題ない。どうせ遅かれ早かれ国民に公表するつもりだったし、戦力についてはお前の様な最優秀の指揮官に一番質が高いのを数多く配備するのは当然のことだ』

 

「わかりました。適当にやって、どうにか切り抜けますよ」

 

言伝も取ったので、受話器を置いて電話を切る。一回デカい溜め息を吐いて、秘書艦の2人に指示を出す。

 

「扶桑、山城。明後日、緊急の会議を開く事になった。各基地への、この旨の伝達を頼む。それから一時間後、会議室にウェールズ、エンタープライズ、赤城、ロシア、ビスマルク、ヴェネト、リシュリュー、艦娘の大和を呼んでくれ」

 

「「はい!!」」

 

指示を出すと、会議の前に霞桜の大隊長との会議を行う。明後日の警備計画の作成や緊急時の対応の確認、要注意人物の共有などである。霞桜との会議を50分程度で終わらせ、今度は艦娘とKAN-SENとの会議を行う。

 

 

 

一時間後 会議室

「皆、よく集まってくれた。早速、今回の話に入らせて貰う。一時間前、東川防衛大臣より「明後日に江ノ島で会議を行う」との連絡があった。

ただの会議なら問題なかったんだが、どうやら今回の議題は中々に面倒な物らしい」

 

そう言うと一呼吸置いて、背後にあるプロジェクターの電源を入れる。部屋の電気とカーテンもプロジェクターの電源が入ると自動で動き、鮮明な映像が映し出される。

映ったのは、今回の会議に参加する者達の名簿であった。

 

「まず現在の帝国海軍は世界を護る正義のヒーロー集団でもないし、正直言って一枚岩じゃない。それどころか、内部での政治抗争が起きる始末だ。

で、今回の会議の発案者はウチの派閥というか、まあ派閥って程でも無いんだがな。その属する派閥と敵対してる、なんかまあ、面倒臭い派閥のリーダーが仕掛けてきた」

 

「提督、そのリーダーというのはもしかして.......」

 

「流石に大和は知ってるわな。そう。その発案者ってのが、今の俺のポストである「第三十三代目連合艦隊司令長官」の座を争った男、佐世保鎮守府の提督である河本山海って奴だ。

まあ争ったというよりは、勝手に突っかかってきて勝手に自爆したという方が正しいか」

 

河本山海の名を聞いた時の艦娘達の顔は、長嶺程ではないが「関わりたくないなぁ」という顔をしていた。

 

「あ、因みにコレがその河本な」

 

そう言うと長嶺がPCを操作して、名簿の中から河本のデータをクリックして拡大させる。顔写真と階級や年齢などの簡単な情報が映し出された。

因みに河本の見た目はと言うと、髪はスキンヘッドで、顔はパーツが厳つく、まるでヤクザの親分。胴体は太っており貫禄たっぷりという、なんか如何にも汚職してる権力者とか、NTR系で寝取ってる大きなイチモツを持ったおっさんみたいな見た目である。

 

「でだ。本来なら俺が適当にあしらうなり、俺の十八番である武力を背景に脅すなりすれば良いんだが、いかんせん今回の一件に関しちゃ慎重に動かざるを得ない。その原因が、コイツだ」

 

今度は東川からの電話の後、メールで送って貰った問題の写真である。その写真には、恐らくビスマルクとティルピッツと思われる女性が艦娘の物とは明らかに異なる艤装を展開した上で、深海棲艦に砲撃を加える写真と恐らくハインリヒと思われる女性の艤装(アイゼンくん)が自律稼働して戦ってる様子の物であった。

 

「他の奴だったら「新種の艦娘ですぅ」とでも言って誤魔化せたんだが、流石にこれはなぁ。あ、別に責めてないからな、ビスマルク?」

 

「これは私達、鉄血の失態よ。どんな罰でも受けるわ」

 

「いえ、艦隊旗艦であった私の責任です。私に罰をお与えください」

 

元凶の写真の被写体となってしまったビスマルクと、そのビスマルク、ティルピッツ、ハインリヒの3隻を指揮下にしていた赤城が謝罪する。

しかし長嶺はそれを笑いながら止めた。

 

「いやいや。多分写真的に、衛星画像だから対策の仕様がないだろ。別に誰の失態って訳でも無いし、強いて言うなら事前に予測出来なかった俺の責任だ。お前達、鉄血陣営や当時の旗艦であった赤城が責任を感じる必要はない」

 

「しかし同志指揮官。何の策も無く行くというのは、無謀だと思うぞ?恐らく、そのカワモトというのは何かしらの策や、目的がある筈だ」

 

「あー、それな。策の方は知らんが、まあ目的はアレだな。自分に戦力を置きたいんだろ。それか、案外アレかもな」

 

結構含みのある言い方に、今度はヴェネトが質問する。

 

「指揮官さま、何やら含みのある言い方ですね。戦力の拡充以外に、何か別の目的があると?」

 

「いや、多分違う、というか違うと思いたいんだが、KAN-SENってのは艦娘同様、皆何故か一様に美女揃いだ。ホント、女優とかアイドルが霞むレベルで。だがしかしKAN-SENには戸籍というか、個人を法的、公的に証明する物がないだろ?

前に俺達が粛清した案件の中に、同じく戸籍がない艦娘を海外組織に性奴隷の目的で売っ払おうとした奴がいたんだ。艦娘の場合は「強姦ストッパー」っていう装置がデフォで体内に付いてて、合意無しでそういう行為をしようとすると、提督体内のナノマシンにより全身を身動き取れなくする程度に痺れさせる機能があるのに、それを除去する装置を作ってまで売ろうとしてた。

戸籍ない、強姦ストッパーない、超絶美女のKAN-SENなら、普通に考えて間違いなく売るなり、手元に置いて使うなりするだろ?」

 

この一言で、全員が察した。更に追い討ちを掛けるが如く、その売り払おうとしたクズが河本派閥だと言われて、余計に不味い事を悟った。

 

「指揮官。貴方の力を持ってすれば、手を打てるのではないか?」

 

「そうです。指揮官のお力なら、例えばですが武力行使なども可能なのでは?」

 

ウェールズとリシュリューがそう聞いてきた。思ってたよりも、長嶺の事を理解してきている2人である。

 

「いやぁ、この際だからぶっちゃけるが、正直俺も殺せるなら殺しときたいよ。だって一々邪魔やら妨害やらして来るし、その行為も卑屈でウゼェのばっかだし。だが、アイツの一族には警察の幹部やら大御所の政治家やら世界的大企業の総帥とか、権力者が多いのよ。オマケに派閥の人員は、こっちよりも多いし。

俺も色々な戸籍を持ってるから権力の部分じゃ一族とも五分五分だし、派閥に関してはこっちのが権力者が多い。だけどスタミナ勝負の持久戦にでも持ってかれたら、こっちは権力なら実質1人だし、派閥の人は少ないから体力切れで負ける。殺したら殺したで後が厄介だし、権力抗争でも相性が結構悪い」

 

しかし長嶺は「だがな」と言って話を続けた。

 

「今回に関しちゃ、正直権力は必要がない。目的を達成する上で払うリスクを、目的達成で得られる物よりもデカくしてやれば良い。要は「ハイリスク・ローリターン」であると奴らに知らせれば、いやこの場合ならハッタリでも良いから信じさせれば良い。つまり、ここで勝負だ」

 

そう言うと、自分の頭を指でつついた。それが指し示す意味は「頭脳戦」である。

 

「てことは、策があるんだな指揮官。教えてくれ」

 

エンタープライズがそう聞いた。しかし長嶺は少し言いにくいのか、間を開けてから言い始めた。

 

「あぁ。KAN-SENを「気性が荒く、とても危険な存在である」と語る。だがまあ、この策は最終手段だ。この策を使うと、KAN-SEN全体の評価を著しく下げるからな。一応は「どんな事が起こるかわからないから、どんな状況にも対応できる俺の手元に置く方が安全」ってスタンスで行く」

 

このスタンスは、実際の所事実である。勿論、KAN-SENが裏切るとか暴走するとかの話ではない。そもそも、彼女達がこの世界にいる事自体がイレギュラー中のイレギュラーである。もしかしたら、今この瞬間にも元の世界へと帰ってしてしまうかもしれない。

そういう意味では、ある程度の緊急事態に対応できる長嶺の手元に置いた方が合理的である。

 

「まあ政治はやりたくないが、その辺の喧嘩は俺に任せて欲しい。俺は一度「仲間(かぞく)」として受け入れたのなら、俺の持てる全力を持って護り抜く。そこだけは信じてもらって良い」

 

いつにも増して真剣な顔に、全員がドキッとしていた。そりゃあイケメンから「守ってやる」宣言されて、メロメロにならない女性は殆どいない。あ、勿論、メロメロになってる事を長嶺が気づくわけがない。何故なら彼は超絶鈍感朴念仁男だから!!

この後は会議中のKAN-SEN、艦娘達の掌握を頼んだり、ベルファスト、艦娘の間宮、鳳翔を呼んで当日の給仕だとか案内とか、飯の用意について頼んでおいた。

 

 

 

明後日 10:00 会議室

「みなさん。お忙しい中、よく集まってくれました。本日集まって貰ったのは、河本提督より緊急の議題があるそうです」

 

「長嶺長官。単刀直入に申し上げます。あなたは、祖国を裏切るおつもりか?」

 

この言葉を出した瞬間、一気にザワつく。風間と山本は「いつもの河本の妄言か何かだな」と考えて、落ち着いている。

 

「ほう。その根拠は?」

 

「この写真をご覧頂きたい」

 

プロジェクターに、一昨日の会議でも映された例のビスマルク、ティルピッツ、ハインリヒの写真が映し出される。

 

「これは我が河本コンツェルン傘下企業の衛星がたまたま偶然撮影した、先のソロモン諸島攻略時の写真です。皆さんもご承知の通り、ソロモンを解放したのは長嶺長官の率いる艦隊。ですが、この写真に写っているのは艦娘とは些か毛色が異なる。これは、一体どういう事なんでしょうな?」

 

「本来なら、もう少し時間を置いてから段階的に公表したかったんだがな。

河本提督の言う通り、彼女達は艦娘ではない。艦娘とは似て異なる存在で「KAN-SEN」と呼ばれる存在です。で、そのKAN-SENは別世界からの来訪者達です」

 

一気にザワつく。流石にさっきまで微動だにしてなかった風間と山本も、「え!?」という顔をしていた。そして河本は、ここぞとばかりに噛み付いた。

 

「ふざけるな!!!!貴様は霞桜の力で他国より人を拉致し、それを艦娘に仕立て上げた!!!そうだろ!?!?!?!?」

 

「はぁ。プロジェクターをしっかり見てください。この島に、皆さんは見覚えありますか?」

 

そう言うと長嶺は、プロジェクターにアズールレーンとレッドアクシズの島を映し出す。唯の島ではなく明らかに人工構造物を有する島であり、見た事くらいなら有りそうな島である。しかし、誰一人として見覚えはない。

 

「見覚えないでしょう?コイツはそのKAN-SENと一緒にこの地にやって来た、本拠地となっていた島です。私は4月から半年間、この2つの島に潜入しKAN-SEN達と接触。情報収集や交渉の末、こちらに戦力として引き込んだ。

そしてそのKAN-SEN達の初陣が、先のソロモン諸島攻略戦だったんですよ」

 

「長嶺長官、質問を一つよろしいですかな?」

 

「構いません」

 

頭から湯気を出して顔を真っ赤にしている河本に代わり、同じ派閥でNo.2的なポジションの海道が立ち上がる。

 

「戦力として引き込んだと今仰いましたが、具体的にはどの程度を?」

 

「約600隻を此方に引き込んでいます。因みに来訪しているKAN-SEN全ての数と同じです」

 

海道はニヤリと笑うと、下卑た笑みで「いけませんなぁ」と言って長嶺に攻撃を仕掛けてきた。

 

「長官とは言えど、1人の提督に600隻の艦船は流石に戦力のバランスが可笑しいでしょう?そのKAN-SENとやらは、各提督と平等に分けるべきでは?」

 

「そうだ!幾らなんでも桁が可笑しいでしょう!?」

「それに、平等に分配した方が合理的です」

 

同じ陣営の横山と小清水も同調する。しかしそんなのは想定の範囲内。勿論、考えていた反論を持って反撃する。

 

「確かにその考えは間違っていない。私も同じ様に考える。しかし、です。彼女達が異世界の来訪者である事をお忘れですか?」

 

「(あぁ、成る程)」

「(長嶺くんも策士だねぇ)」

 

河本派閥の人間や中立のショタ提督sと川沢は誰一人としてピンと来てないが、山本に次いで風間だけはその反撃の手立てを見抜いていた。

 

「今回の異世界からの来訪は、今の所は人為的ではなく偶発的なイレギュラーだと考えています。つまりずっと残り続ける保証もないし、それどころか、どんな事が起きるかの予測も建てられないのです」

 

「どういう意味、ですかな?」

 

「海道提督。戦力を得る上で、数は少ないが100%裏切らない兵士と、数は多いが裏切るかもしれない、或いは行動の予測が立てれない兵士が居たら、貴方なら何方を選びますか?」

 

「は?そ、それは勿論前者ですが」

 

この瞬間、長嶺の勝ち筋は不動の物となった。顔にこそ出してないが、心の内では「してやったり!」とニヤリと笑いながらドヤ顔していた。

 

「そりゃそうでしょう。だって、戦闘する前に余計なリスクは排したいですもんね。KAN-SENだってそうです。彼女達は異世界の来訪者で、しかも来訪した方法や理由も分からない。つまり今この瞬間に、自分達の居た世界に戻ったって何の不思議も無いのです。

何もない時なら良いでしょうが、もしも帰るタイミングが戦局の大事な局面であったり、失敗の許されない作戦中だったら如何でしょうか?」

 

気付いて無かった提督達も気付き、そして河本派閥は顔色が一気に変わった。更に長嶺は追い討ちを掛ける。

 

「ただ帰るだけなら良い。もしかしたらKAN-SENが何らかの要因で、裏切ったり力が暴走するかもしれない。今の所はそういった事は無いですから、まあ流石に多分大丈夫でしょうけど絶対の保証もない。もし仮にそう言った自体に陥った時、あなた方はそれを封じ込めるなり撃退するなり出来ますか?」

 

更なる追い討ちに、完全に負けを悟った河本派閥。しかし河本だけは、まだ諦めて無かった。

 

「長官のお考えは御もっともです。しかし、その可能性を排する事を思案しないのですか?」

 

「というと?」

 

「長官の場合は大和型を筆頭に、海軍の中でも精鋭の艦娘を保有していますし、あの特殊部隊Xとして恐れられる霞桜もあなたの指揮下だ。武力を用いた制圧であれば、恐らく可能でしょう。

しかし、少しでも安全性を確保する為に多角的に検証すれば良いのでは?医学、科学、その他諸々。我が鎮守府であれば、その全てが可能です」

 

確かに河本の力、というかコネを使えば出来る。河本コンツェルンの中には医療関係の企業もあるし、というか病院も持ってるし、研究所や大学なんかも持ってるから如何とでも出来る。

しかし、今回ばかりは相手が悪かった。

 

「えぇ。それら全て、我が鎮守府で賄えますから御心配なく」

 

「へ?」

 

「多角的に検証するという河本提督の考えは、合理的かつ現実的です。しかし、あなたはその検証を誰にやらせるおつもりでしょう?恐らく、ご親戚の持つ河本コンツェルンやその他の人脈から選ぶつもりだったのでは?」

 

「そ、それは」

 

項垂れる河本。河本は「コネを使うな」と言われるのかと考えたが、長嶺は全然違う場所からの指摘だった。

 

「あぁ、別に人脈を使うのが悪いとは言いません。人脈とは財産であり、力でも有りますから。私が言いたいのは「KAN-SEN情報が何かしらの切っ掛けで外に漏れたらどうするの?」という話です。

現在我が国は他国より、逆恨みに近い形で反感を買いまくっています。艦娘ですら各国から文句を言われるのに、KAN-SENまでも保有してますなんてバレたら地獄ですよ。

一方で多角的に検証して、危険や不確定要素を限りなく0に近づけるのも必要。それなら、1人で全てを賄えば良い話です」

 

「長官、お言葉ですがそんな人居ないでしょう」

 

河本は溜め息混じりに呆れながら言う。普通に考えて居ないのだが、目の前の男は違う。

 

「目の前にいるでしょう。私は別の戸籍ですが、これでもハーバード大学院にまで行って医学博士、工学博士、生物学博士の資格を持ってますし、霞桜の隊員の中には兵器製作とITのスペシャリストも居ます。全てを此処で完結できるのなら、これ以上の防諜対策は無いでしょう?」

 

ぶっ飛んだ話に流石に全員が盛大にツッコミを入れた。「んな完璧超人がおるかい」と。しかし長嶺が卒業証書を見せると、マジだった事が分かり全員が凄い顔をしていた。

 

 

「いやぁ、まさか長嶺くんにそんな凄い経歴があったとはね」

 

「なぜだろう。君なら有り得そうだから怖い」

 

現在執務室では、風間と山本が長嶺と談笑していた。あの後会議はセイレーンに関する説明やKAN-SENに関する報告会へと移行し、途中で食事を挟んで次の作戦目標の策定なんかも行われた。

 

「失礼致します。お茶をお持ちしました」

 

「おぉ、ベル。ありがとな」

 

「いえ、これがメイドの職務ですので」

 

入ってきた長い銀髪の美女に、2人とも目を奪われていた。だがしかし、すぐに「もしかしてKAN-SENってヤツなのか?」と勘づいた。

 

「長嶺、もしかしてこの娘は」

 

「お、さすが山本提督。そうですよ。彼女は、例のKAN-SENです。因みに食事の時に配膳してくれた、あのメイド達もKAN-SENですよ」

 

「ロイヤルメイド隊にて、メイド長をさせて頂いております。エディンバラ級の二番艦、ベルファストです。どうぞ、お見知り置きくださいませ」

 

しっかりカーテシーを決めて、優雅な礼を見せるベルファスト。2人とも完全に目を奪われていた。

 

「エディンバラ級のベルファストって事は、ロイヤル・ネイビーのベルファストかい?」

 

「えぇ」

 

風間の質問にそう答えた。その後は簡単にKAN-SENや、KAN-SENのいた世界について、より詳しい説明をした。時間も良い感じに立ち、そろそろお開きかと言う所で風間から面白い話が飛び込んできた。

 

「所でお2人はレースに興味ありませんか?」

 

「レース?レースって、あのレースか?」

 

「えぇ。F1とかストックカーレースみたいな、カーレースです」

 

「何でまたそんな話を?」

 

長嶺の質問に対し、風間は2冊の資料を取り出して2人に渡した。表紙には「呉市・町興しレース」と描かれており、中を適当に見てみると企画書である事がわかった。

 

「近々、町興しの一環で市内を封鎖してのレースを行うんですよ。そして私としては海軍のイメージアップに、艦娘を使いたいと考えています。是非、お2人にも参加して貰いたいのです」

 

「まさか、私もレースに参加しろと?」

 

「嫌ならレースには参加せずに、ゲスト枠で参加してほしいですね」

 

「え、メッチャ楽しそう」

 

なんとも面白そうな催しに長嶺がNOと答える筈はなく、ほぼ二つ返事で参加を決定した。そんな訳で次回は、波乱のレース編をお送りしよう。

 

 

 

 

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