最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第四章やはり最強提督の青春ラブコメはまちがいまくっている。
第三十五話ドイツからの転校生


2032年4月6日 千葉県 総武高校付近

「まさか、高校までの登下校がハイヤー&ヘリコプターとはね」

 

「あら。大富豪の御曹司の学校生活みたいで、中々良いじゃない?それに、こんな美女と登校できるなんて役得よ?」

 

「あんま美女すぎても、目立つんだけどなぁ」

 

現在長嶺とオイゲンは、今日から転入する事になっている総武高校近くの交差点で信号待ちしている。ここだけなら普通ではある。まあ親の送り迎えというのは、羨ましがられはするが特段おかしくない。学年に1人位は、毎回送り迎えの奴も居るだろう。だがしかし普通ならありえない行程を踏んで、登校しているのである。

2人はまず江ノ島鎮守府からヘリに乗って、浦安市のヘリポートまで飛んできたのである。というのも江ノ島から総武高校まで約東京湾をグルリと半周ちょい周る為、流石に時間が掛かる。(Google mapによると、大体1時間半)一応身分を隠すとは言えど、本職は国家を守る軍人。それも唯一深海棲艦と渡り合ある存在の中でも、一番強い部隊の司令官なのだから緊急時に急いで帰らないといけなくなる事もあるだろう。となるとチンタラ地上を行儀良く走ってはいられない。そこで考えだされたのが、このヘリコプター通学である。因みに車は普通の、黒塗りトヨタ クラウンである。

 

「総隊長、まもなく到着致します」

 

「おう」

 

車は総武高校の敷地ではなく、徒歩5分程の人通りの少ない場所で止まる。流石に転校生という目立つ塊が、黒塗りセダンで乗り付ける訳にもいかない。それでは潜入任務で一番重要な、目立たない事とは正反対である。

 

「じゃあ、行ってくる。留守は頼むぞ」

 

「えぇ。総隊ち、いえ。桑田真也さん?」

 

「なんか変な感じだわ、その名前。頼むから、あっちではやめてくれよ?」

 

さてそれでは、ここで2人の架空の戸籍について説明しよう。

 

長嶺→桑田真也(くわた しんや)

年齢 16歳

ドイツの日本大使館に務める防衛省の駐留武官の息子でドイツ暮らしだったが、深海棲艦の襲撃や紛争の頻発化に伴い日本へ帰国した。その為、ドイツ語に堪能である。趣味は読者とゲームで、特技はアメリカで習った本場の軍事知識と格闘や射撃などの戦闘技術、爺ちゃん直伝の抜刀術と剣術という設定。

ドイツとの関係はオイゲンとの関係をイメージしやすくし、戦闘技術の面は何らかの原因で、その強さの一端を見せてしまった場合の保険である。今回は期間が未確定なので、カバーストーリーによる保険は準備済みである。

 

プリンツ・オイゲン→エミリア・フォン・ヒッパー

ドイツ外交官の娘。桑田と同じ理由から、日本との協力関係を強固にするべく派遣された父に付いてきた。桑田とは幼馴染であり、大体いつでも一緒にいる。趣味はお菓子作りとファッションを楽しむことで、特技はギターを弾ける事、という設定。

因みに名前の方は、実際の姉であるアドミラル・ヒッパーの名前の元となった、ドイツ帝国の提督であるフランツ・フォン・ヒッパーから頂戴している。

 

また2人は緊急時に備えて、しっかり武装もしてある。長嶺はズボンの中、正確にはパンツとズボンの間に阿修羅HGを常時ステルス迷彩起動状態で装備しているし、オイゲンは長嶺が制作したグロック26の改造モデルを装備している。内臓型サイレンサーの追加、弾数を10発から20発へ増量、サイトシステムの変更、グリップとトリガーの形状をオイゲンの手に合う形へ変更、弾丸の高速化&高威力化&低反動化と言った具合に、チート仕様である。

 

 

 

総武高校 職員室

「君達かね、ドイツからの転校生って言うのは。私は君達の担任となる、平塚静だ。よろしく頼む」

 

「よろしくお願いします、Frau平塚」

 

「よろしくお願いするわ」

 

地味にしっかりとドイツ語を加えて、ドイツに住んでいた感を演出する。オイゲンにとっては仕事と言いつつも暇潰しになる楽しそうな場所、位にしか認識していない。しかし長嶺にとっては、ここは普段立つ戦場や任務の最前線の現場と何ら変わりない。

この学校では長嶺は目立たず、目立つとしても良い意味で目立たないといけない。また経歴が捏造の嘘の塊でしか無い以上、言葉選びや過去を語ったりする上では矛盾の生まれないようにしなくてはいけない。そんな訳で既に脳内では、これから起こるであろう会話の膨大なパターンをシュミレートしている。勿論さっきの会話も、事前にシュミレートした物である。

 

「それじゃ、君達のクラスへと行こうか。クセの強い奴も複数いるが、それを除けばとても楽しいクラスだ。あまり気負わず、ドイツに居た時と同じように振る舞いたまえ」

 

「大丈夫よfrau。私達、友達作るのは得意だから。ね?」

 

「それはお前だけだろうが。俺がどっちかって言うと、同年代より年上とかの方が得意なの知ってるだろ」

 

こんな感じで、普通の素の会話も忘れない。こう言う素の部分を作る事によって、会話の中に生まれるであろう演技臭さの違和感を打ち消すのである。

 

「さあ、ここだ。先に私が入るから、少し待っててくれ。合図したら入ってきて欲しい」

 

「はい」

 

「わかったわ」

 

そう言って、平塚が先に教室に入る。その間、廊下は朝のホームルーム中というのもあって、誰もおらず静まり返っている。

 

「中々良さそうな先生ね。ああいう人なら、色々力になってくれそうだわ」

 

「だと良いがな。なんかあの教師、短略というか後先考えて無いというか、あんまり手本にしない方がいい気がするぞ。案外、その辺の生徒に体罰とか振るってるかも」

 

「会って数分でそこまでボロクソに言えるなんて、逆に凄いわ」

 

俺ガイルをアニメでも小説でも見た事がある人なら分かると思うが、長嶺の人物分析は正しい。この後、この物語にも登場する比企ヶ谷を結構殴ったり、無理矢理な手法で色々な仕事を押し付けている。この毒牙が2人にも襲いかかるのかは分からないが、長嶺なら問題ないだろう。

 

「君達、入ってきたまえ」

 

「レディファーストだ。お先どうぞ」

 

「あら、ありがとう」

 

先にオイゲンを入れて、その後ろから長嶺が入る。まずはオイゲンの容姿に男女共に(特に男子)が歓喜した。絹のような透き通った銀髪のツーサイドアップに、一房だけ赤色のメッシュの入った綺麗なサラサラとした髪。琥珀色の瞳に、銀髪と同じく透き通る様に白く一目で柔らかい事がわかる肌。そして何より「ボン、キュッ、ボン」をそのまんま体現した、そこらの二次元キャラよりも遥かに発育の良いスタイル。特に男子は恐らく3桁は行ってるであろう、最早「爆」の域にまで突入している胸と、プリッとした形の良いお尻に目を奪われていた。

そしてそれに続く長嶺。流石に長嶺は素顔を安定のオクトカムで隠している為、いつもの「ワイルドにも美形に見える絶世の美男子」では無い。しかしカルファンが悪ノリしてガチでデザインした結果、ワイルド系のイケメンに仕上がった。髪は別に珍しく無い、普通の黒い髪。だが顔は赤い瞳に、少し野生的な芸能人なら100%売れるイケメン。そして180cmはある長身に、一見すると普通の一般人の様な体格だがよく見ると引き締まった鍛えられた身体。こっちは女子を一目で虜にした。

 

「ベルリン自由大学附属ギムナジウムから転校してきた、エミリア・フォン・ヒッパーよ。ファーストネームでもあだ名でも、好きに呼んでね」

 

「同じくベルリン自由大学附属ギムナジウムから転校してきた、桑田真也だ。見ての通り、エミリアとは違って純正の日本人だ。まあ、よろしく頼む」

 

「それじゃあ2人の席は、そこの一番後ろの席を使ってくれ。黒板が見えにくいとか、何かあれば後から申し出て欲しい」

 

二人は順調なスタートを切る事に成功し、指差された席に向かって歩く。流石に堂々とは喋れないので、近くの生徒には軽く挨拶して席に座る。

 

「さて。それでは今日のロングホームルームの内容だが、知っての通り近々進路学習の一環として、職場見学に行ってもらう。そこで皆に見てみたい職場の見学先を書いてもらいたい。それじゃ、今からプリントを回すぞ」

 

そう言って回されてきたプリントには、見学先とそれを選んだ理由を書く欄があった。勿論書く先は「新・大日本帝国海軍江ノ島鎮守府」一択である。色々調べたところ、この職場見学は3日間同じ職場を見学する物らしく、流れも一度学校に登校したら後は先方の都合が良い時間帯で見学を終わらせて、直帰できるシステムらしい。

とどのつまり、これを利用すれば見学中に執務ができる(・・・・・・・・・・)のである。後からレポートも提出しないといけないが、別にこれはどうとでも誤魔化しが効く。それに交渉の電話や何かしらの報告で連絡を取るにしても、長嶺が全部1人で出来てしまう。完璧な作戦である。あ、勿論建前上は別の理由を付けてある。

 

 

「そろそろ時間だな。号令」

 

「気をつけー、れーい」

 

「「「「ありがとーございましたー」」」」

 

アンケート書いたり、先生からの説明を聞いているとあっという間に終わってしまった。休み時間に突入するや否や、一気に2人の周りは学生に取り囲まれる。そして

 

「趣味は?」

「好きな食べ物は?」

「得意な教科は?」

「特技は?」

「好きなアーティストは?」

「好きなゲームは?」

「彼氏いる?」

「彼女いる?」

「3サイズは?」

 

質問攻めである。取り敢えず、最後の質問した不届き者男子。体育館裏に来やがれ。by長嶺

 

「あー、取り敢えずさ。落ち着いてくんね?俺達は聖徳太子じゃねぇから、流石にこうもいきなりかつ同時に大量の質問されても何が何だか分かんねーよ」

 

「彼の言う通りだ。みんな少し落ち着いて」

 

金髪のいかにも「優男」という整った顔の男が、ヒートアップしすぎてるクラスメイト達を落ち着かせる。彼の一声で全員が忽ちに静かになった所を見るに、このクラスでの中心人物なのだろう。

 

「よろしくね、桑田くんにエミリアさん」

 

「えぇ。よろしくね、王子様」

 

「よろしく」

 

そう言って握手するが、考えてみたらコイツの名前を長嶺は知らない。まあ自己紹介すらしていないので、このクラスで名前を知ってるのは担任の平塚のみである。

 

「あー、絶対順番逆だと思うんだが、アンタの名前はなんて言うんだ?」

 

「あ、まだ名乗ってなかったね。俺は葉山隼人。サッカー部だ」

 

「サッカーか。ポジションはミッドフィルダーかな?」

 

「よく分かったね」

 

伊達に特殊部隊の総隊長はやっていない。1発で葉山のポジションや、ついでにある程度の性格すらも見抜いた。詳しくはまた今度、書くとしよう。

さてさて。そうこうしている間に、次の授業の時間である。教科は数学であり、進学校だけあって授業は高校生の割には難しい。だがしかし、コイツの場合は違う。ハーバード大学と大学院を飛び級を繰り返して首席で卒業した天才である為、高校生の数学はマスターしている。では何をするのかというと、執務である。

いくら学生として潜入しているとは言えど、流石に仕事量が減ることはない。そこで長嶺はレリックとグリムと共に、執務用の超小型PCを作ったのである。このPCはコンタクトレンズに仕込んであり、AR装置で画面とキーボードを映し出す。使用者にしか画面やキーボードは見えない為、中身を見られて身元がバレる心配もない。そんな訳で授業を受けてるフリをしながら、次々に仕事を片付けていった。

 

 

 

放課後 職員室

「君達、部活動に興味はないかね?」

 

「興味ないわね」

 

「同じく」

 

帰りのホームルームで職員室に来る様に言われたので来てみれば、どうやら部活の勧誘だったらしい。しかしオイゲンは帰ったら訓練とかもあるし、長嶺だって執務がある。部活で青春する暇なんて、まず無い。

 

「言っておくが、君達に拒否権はない。異論、反論、抗議、質問、口答えは一切認められない」

 

「それ、横暴じゃないですかね?こっちにはこっちの都合があるし、大体部活動ってのは生徒、つまり俺達の方にやるやらないの選択肢はある筈だ。勿論、入部したらやりたくなくなったとしても、やる義務はあるだろうが、今回に関してはこちらの意見は一切聞かずにアンタの一存勝手で決めている。

それなのに、拒否権は無いし、異論、反論、抗議、質問、口答えは一切認められない。可笑しいんじゃねぇの?」

 

「ほう。私に楯突く気かね?では、その身体に教えてやろう」

 

そう言うと平塚は、いきなり長嶺に殴りかかって来た。しかし現役の特殊部隊員が、たかだか少年バトル漫画に影響されて独学で適当に編み出した付け焼き刃のお粗末な格闘を繰り出す女性の攻撃を受けるはずもなく、パンチを片手で掴んで受け止める。

 

「ぬるいな。俺達は鉄火が風雨の如く降るような、地獄の戦争を見て来たんだ。今更、暴行如きで脅せるほどヤワな精神はしてねぇ。それより俺に手を出したってことは、テメェもボコされる覚悟あるんだろうな?」

 

生まれて初めて向けられた殺気に、流石の平塚も固まった。しかし状況を静観していたオイゲンが、助け舟を出す。

 

「でも真也?部活って、楽しそうじゃない。運動部は嫌だけど、多分frauの教科からすると文化部でしょ?それなら私、やってみたいわ」

 

「エミリアがそう言うのなら、俺も付き合おう」

 

「そ、そうか。では部室に案内しよう」

 

そう言われたので、平塚の後をついていく。正直、このクソ教師の言いなりになると言うのは、何か癪だがオイゲンがこう言っては、断れば後が面倒な事になりかねない。不本意ではあるが、後の事を考えるのなら仕方ない犠牲であろう。

 

「ここだ」

 

部室棟ではなく、その近くの空き教室に通された。中には長い黒髪の女生徒と、顔はまあ整っているが目の腐った男が座っていた。どうやら、仲間となる部員の生徒らしい。

 

「平塚先生、ノックをしてくださいと言っていますよね?」

 

「あぁ、すまんすまん」

 

「はぁ。それで、そこの外国人女生徒と男子生徒は?」

 

「お前も話位は聞いてないか?ウチのクラスに、新しく転校生が来ると」

 

「そういえば、周りのクラスメイトが噂していましたね。成る程、そこの2人が転校生ですか」

 

今気付いたが、どうやら目の前の女生徒は雪ノ下家の娘。雪ノ下雪乃であった。現状、仮にこの学校の誰かを暗殺するとするなら、一番可能性の高いのは彼女である。

事前の調査によると、成績優秀な上に運動神経抜群。容姿も大人びた美少女で、楽器の演奏もできる才女。しかも親は金持ちと、完璧な非の打ち所がないアニメキャラの具現化と言える存在である。しかし性格が極度の負けず嫌いな上これが原因でトラブルメーカーにもなったり、無意識的に他人を見下しており、それが原因で反感を買うこともある。尚、本人は才能に嫉妬していると考えており気づいていない。 さらには毒舌家で物事をズバズバ言いまくったりする、まあ一言で言うと「面倒臭い奴」である。

 

「先生のクラスということなら、比企ヶ谷くんは知ってるはずよね?あ、ごめんなさい。あなたがクラスの事を知る訳ないわよね」

 

「雪ノ下、俺は知らないんじゃない。興味がないから、知ろうとしないだけだ。だが、今回に関しては流石に知ってるがな」

 

そう言って口を開いた目の腐った生徒、比企ヶ谷八幡が雪ノ下に言い返している。この生徒もまあ中々にクセの強い奴だが、実は長嶺が一番友達になりたかった人物でもある。

今回の潜入任務に際して、この総武高校の関係者は生徒や教師は勿論の事、その家族に至るまで生年月日、趣味や嗜好、性格等を詳しく洗ってある。そのレポートを見た時に、一番話してみたかったのがこの比企ヶ谷八幡なのである。

 

「そうか、アンタは比企ヶ谷って言うんだな」

 

「あら、あなたもしかしてこの腐った目の生徒に興味があるのかしら?なら、やめた方が良いわよ」

 

「いや何、ちょっと気になってただけだ」

 

「あー、取り敢えず雪ノ下。コイツらは入部希望者だから、後は頼んだぞ」

 

そう言うと平塚は立ち去った。残った4人だが、何とも言えない微妙すぎる空気になっていて誰も何も喋らなかった。

 

「あー、でここは何部なんだ?何も説明されてないのに、なんか入部しろってなったんだが」

 

「当ててみたら?」

 

「昨日の俺と同じじゃねーか」

 

雪ノ下の絶対答えの当てられそうにない質問に内心苛つきつつも、オイゲンはノリノリで色々答えていた。

 

「読書部」

「違う」

「文芸部」

「違う」

「図書部」

「違う」

 

尚、見事に全部外してた。まあ知っての通り奉仕部なのだが、それを特定する物が無い以上、当てるのは本当に奇跡に近いだろう。

 

「はぁ。で、結局何なんだ。本読んでる事以外、特に何もやってないし、何か特別な機材や環境って訳でもない。これで当てろとか、ちょっと無理があるだろ」

 

「持つ者が持たざる者に慈悲の心を持ってこれを与える。人はそれを「ボランティア」と呼ぶの。困っている人に救いの手を差し伸べる、これがこの部の活動よ。ようこそ奉仕部へ。歓迎するわ。私はこの部の部長、雪ノ下雪乃。そこの腐った目の犯罪者予備軍は、ヒキガエル八幡くん」

 

「おい待て。犯罪者予備軍じゃないし、そもそも名前すら違うだろ。ヒキガエルじゃなくて、比企ヶ谷だ」

 

 

どうやら賑やかと言うか、まあ少なくとも暇はしなさそうな部活ではあるようだ。さっきからオイゲンの機嫌は見るからに良いし、案外こういう部にいた方が何かと情報収集には良いかもしれない。

そんな事を長嶺が考えていると、部室のドアが開いてピンク髪の女子が入ってきた。

 

「失礼しま〜す。平塚先生に言われて来たんですけど。な、何でヒッキーがここにいんの!?それにクワタンにエミちゃんも!?」

 

「いやぁ、俺ここの部員だし」

 

「く、クワタン?え、それって俺の事?」

 

「あら、結衣ちゃんじゃない。私達もついさっき、ここの部員になったのよ」

 

オイゲンこそ普通に対応しているが、長嶺と比企ヶ谷は自分にいつのまにか付けられていた謎のあだ名に困惑していた。因みにどちらも、由比ヶ浜とはマトモに会話した事がない。

 

「2年F組、由比ヶ浜結衣さんよね?とにかく座って」

 

「わ、私の事知ってるんだ」

 

「全校生徒覚えてんじゃねーの?」

 

「いいえ、あなたの事なんて知らなかったもの」

 

「そーですか」

 

もう会話する度に、比企ヶ谷がディスられてる。ここまでされて、よくキレないものだと長嶺は感心していた。因みに多分長嶺なら、この辺で一回くらいキレる。

 

「気にする事ないわ。あなたの存在から目を逸らしてしまう、私の心の弱さが悪いのよ」

 

「お前それ、慰めてるつもりなの?」

 

「慰めてなんかいないわ。ただの皮肉よ」

 

ここぞとばかりに、さらにディスる雪ノ下。それを見ていた由比ヶ浜の感想が

 

「なんか、楽しそうな部活だね!!」

 

これである。流石の長嶺とオイゲンも、ちょっとズッコケそうになった。

 

「それにヒッキー、よく喋るよね。なんて言うかその、ヒッキーもクラスにいる時と違うし、なんつーかいつもはキョどり方キモいし」

 

このビッチめ

 

「はぁ!?ビッチって何だし!!私はまだ処、うっはぁー!!!何でもない!!!」

 

なんか1人で怒ったり照れたりと、忙しい奴である。というか、高校生で処女切ってる奴っているのだろうか?(主はスクールカーストで言うと、トップでも長嶺階層でも最下層でも普通に仲良かったし、主のクラス自体、あんまりスクールカーストが存在してなかったのでわかりません)

 

「別に恥ずかしい事ないでしょ?この年でバーz」

「うっはぁー!!ちょっと何言ってんの!?高二でまだとか恥ずかしいよ!!雪ノ下さん、女子力足んないじゃないの!?」

 

「くだらない価値観ね」

 

「あら、私はもう卒業して」

 

「「!?」」

 

「ちょっとエミちゃん!?!?待って、言わないで!!!!せめて男の子が居ない時に!!」

 

「あら?してないって言おうとしたのに、結衣ちゃんは何を勘違いしてるのかしら?」

 

雪ノ下と比企ヶ谷もまさかの爆弾発言が来るかと思っていたが、まだしていなかったので内心安心していた。長嶺はと言うと、多分こういうオチになると知っていたので、特に何も思わなかった。

曰く仮に卒業していたとしても、別にそれで妊娠とかさえしてなければ構わないらしい。流石は超絶鈍感朴念仁男である。

 

「にしても「女子力」って単語が、もうビッチ臭いよな」

 

「また言った!人をビッチ呼ばわりとか、ありえないッ!!ヒッキーマジでキモい!!」

 

「ビッチ呼ばわりと、俺のキモさは関係ないだろ。それとヒッキー言うな、ビッチ」

 

「こっのっ!!ほんとウザいっ!!キモい!!ていうか、マジあり得ない!!」

 

ビッチ呼ばわりは比企ヶ谷が全面的に悪いが、ヒッキー呼ばわりへのカウンターと考えればまあ、妥当っちゃ妥当であろう。因みに長嶺の第一印象は「援交してるソープ嬢」であった。こっちの方が、ヒッキーより酷かったよ。

暫くして、なんやかんやで落ち着いたのか依頼内容について話した。どうやら手作りクッキーをあげたい人が居るらしくて、そのクッキー作りを手伝って欲しいらしい。

 

 

 

調理室

「ほんとよかったよー。こんなお願いを叶えてくれる、神みたいな部活があってさ」

 

「いいえ、奉仕部は手助けするだけ。飢えた人に魚を与えるのではなく、魚の獲り方を教えて自立を促すの」

 

なんか飢えた人の場合、獲り方教えてる最中か教えた後に死にそうな気もするが、それはあえて言わないでおこう。因みにクッキー作りを教えるのは雪ノ下とオイゲンで、長嶺と比企ヶ谷は味見役となった。

そして出来上がったのは、ダークマターだった。

 

「何故あれだけミスを重ねられるのかしら.......」

 

「あそこまでいけば、もう才能の域よ.......」

 

「ホムセンで売ってる木炭みたいになってんぞ。最早毒見だ」

 

雪ノ下、オイゲン、比企ヶ谷の3人からボロクソに言われていた。しかしここで、長嶺が助け舟を出した。

 

「おいおい、お前達。一応食い物だろ?取り敢えず食ってみようぜ。見た目は確かにアレだが、案外味はいけるかもしれねーぞ」

 

そう言って食べてみた。

 

「どうかしら?」

 

「桑田くん、死なないでね?」

 

「うーん!歯にガキンとくる硬さと、外はボソボソ、中はドロドロのクッキーとは程遠い食感。さらに焦げ付いた表面からは焦げ特有な苦い味わいと、中の半生生地から出てくるバニラエッセンスの香りが混ざって、口内がカオスだ。うん、結論を言ってやろう。これは食い物にあらず。毒である」

 

一番酷かったよ。流石の由比ヶ浜も、涙目になっていた。だが取り敢えず、もう一度上手く作れるようにトライする事になった。

 

「さて、どうすれば上手くいくかしら」

 

「由比ヶ浜が料理しない事」

「賛成!」

 

「それで解決しちゃうんだ!?」

 

雪ノ下が新しい道具を用意していると、比企ヶ谷が画期的な案を出した。勿論長嶺も賛成である。その辺のスーパーで買ったクッキー詰めて、それを「手作り」と言った方が良いまである。

 

「やっぱり私、料理ダメなのかな。才能っていうか、そういうのが無いのかも」

 

「解決方法は努力あるのみよ。由比ヶ浜さん、あなたさっき「才能がない」って言ったわね?その認識を改めなさい。最低限の努力をしない人間には、才能ある人を羨む権利は無いわ。できない人間は、成功者の後ろにある努力を想像できないから成功できないのよ」

 

「それにまだ1回しか作ってないし、今のである程度問題点はわかったわ。今度は私達が、しっかりサポートするから」

 

「う、うん!!」

 

なんか良い雰囲気になっているし、雪ノ下から名言も出ている。しかし長嶺は、気付いてしまった。由比ヶ浜から、よく知る人物と同じ臭いがするのである。あ、体臭の話ではない。長嶺の部下、レリックとバルクと同じ臭いである。

この作品を見続けた読者なら、この時点で「あっ.......」と察してくれるだろう。だが一応、今回は新シリーズの第一話なので簡単に説明しておく。長嶺の部下にレリックとバルクという優秀な兵士がいるのだが、この2人は超がつく料理音痴なのである。かつて料理したらソマンガスを生成した、ガチで料理で人を殺せる人種である。流石にここまで酷くはないだろうが由比ヶ浜は、恐らくまた失敗する。

 

 

「全然ちがーう」

 

「どう教えれば伝わるのかしら.......」

 

「天災よ。天の災害と書いて、天災.......」

 

長嶺の予想通り失敗した上、雪ノ下とオイゲンが力尽きた。しかしここで、クッキー(雪ノ下&オイゲン作)を摘んでいた比企ヶ谷が、思いも寄らない意見を出してきた。

 

「てかさ、何でお前ら美味いクッキー作ろうとしてんの?」

 

「何を言ってるの?」

 

「10分後、ここに来てください。俺が本物の手作りクッキーを作ってあげますよ」

 

そう言って女子3人を外に出した。因みに長嶺は手伝いとして、残っている。

 

「なあ、もしかしてこれって」

 

「あぁ。由比ヶ浜のクッキーをそのまんま、手も一切加えずに出すだけだ」

 

思いもよらなかったやり方に、長嶺は素直に驚いたしその発想は実に面白いと感じた。

 

「やっぱりお前、面白いな。お前みたいなヤツ、というかその思考パターン好きだぜ」

 

「野郎に好きって言われても、嬉しくとも何とも思わねーよ」

 

「ハハハ、ちげーねぇ」

 

この瞬間、2人の間に友情が生まれた。10分後、作戦通りに由比ヶ浜のクッキーを出して「気持ちが篭ってれば、それで良いんじゃね?」というのを伝えた結果、雪ノ下からは少し納得いってなかったが由比ヶ浜は納得したようだった。

そして翌週、なんか由比ヶ浜が奉仕部に入部した。

 

 

 

 

 

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