最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

40 / 130
第三十六話二足の草鞋

転校して数週間が経ち、ある程度のカーストも読めてきた。その一方で、1つ分かった事がある。

 

(なんでまぁ、このクラスはマトモなのが居ないんだ)

 

ではまずクラスのトップである葉山グループ。この中のメンバーの内、ヤベェのが約2名いる。葉山と由比ヶ浜の2人である。葉山は一応クラス、というか学校内で1番人気のある奴であり性格も「王子様」と言ったところだろう。正義感が強く、礼儀正しく、文武両道。さらに家も裕福で、親は弁護士をしている。

だがしかし、この正義感が問題だ。正義感が強い割には泥を被らない、つまり「ちっちゃい子供がヒーローに抱く正義」を振り翳してくる。汚れ役を他の奴に押し付けて、綺麗な部分や美味しい所だけを巧みに持っていく。しかもそれを周りどころか、奪った相手からも悟らせない。おまけに自分は悪気がないから自覚してないわけで、余計にタチが悪い。

由比ヶ浜は常に人と合わせて、どんな時でも流される。どんな局面で流される上に、言葉の裏を理解しようとしないしグループに固執しているように見える。オマケにおめでたい奴なので、色々ウザい。

他にも色々いるのだが、現在の長嶺がマトモな奴と考えているのが比企ヶ谷位のものなのである。

 

「あら、昼休みも仕事かしらAdmiral?」

 

「本当なら屋上でゆっくりやりたいが、この雨じゃなぁ」

 

「パソコンが死ぬわね」

 

「そういう事」

 

現在長嶺はパソコンで執務をしている。周りには「バイト代わりにネットビジネスをやっている」と言うことにして誤魔化しており、校則的にも問題ないので昼休みは大体キーボードを叩いてる。因みに執務の傍で、艦娘orKAN-SENお手製の弁当を摘んでいる。この弁当なのだが指揮官・提督LOVE勢(ガチ)の奴らは勿論、余り好意を表に出さない奴らも色々詰め込みまくっている結果、バリエーション豊かな弁当になっている。オイゲン曰く「食の世界地図」である。

 

「は?え、ちょ、なにそれ。ってか結衣最近、付き合い悪くない?」

 

「それは何と言うか、止むに止まれぬというか、私事で恐縮ですというか.......」

 

「それじゃわかんないから、ちゃんと言ってよ!あーしら友達じゃん」

 

「ごめん」

 

なんか後ろの方が騒がしい。どうやら由比ヶ浜に葉山グループの女子リーダーにして、このクラスの女ボスでもある三浦優美子がキレかかっているようだ。

この三浦、まあ考え方はマトモなのだが、いかんせん我が強いというか性格がキツめである。しかも女ボスでもあるわけで、そんなボスが不機嫌となればクラスの雰囲気も悪くなる。というか普通にうるさい。仕事と食事をする上で、この上なく邪魔な雑音である。

 

「止めるの?」

 

「飯が不味くなるし、何より執務の邪魔だ」

 

こういう奴は正面からズバッと言った方が、案外後は楽に収まる。ついでに葉山にも説教して、これから暴走する前にストッパーとして働いて貰えれば一石二鳥である。

 

「おい、その辺で」

 

「うっさい!」

 

「いやいや、うっさいのはどっちだよ。さっきから見てりゃ、テメェは由比ヶ浜の話を聞く気が無い様な態度だ。の割には、言葉では早く言えと言わんばかりに色々言っている。まあ由比ヶ浜がスッパリ言わないのもアレだがな」

 

「ってかさ、アンタに関係ないじゃん!何で話に割って入って来て、文句言われる訳!?」

 

「別にアンタらグループのなかに口出しする気はないが、こうもうるさくするのなら話は別だ。今は昼休み。何も騒ぐなとか喋るなとかと言うつもりは無いが、周りを見てみろ。テメェらの勝手なグループの会話によって発生させたギスギスした空気を、室内にまで撒き散らかして美味く飯を食えるか?こんな空気じゃ、どんな高級料理だって不味くなる。もうちょい平和的にやれよ」

 

幾らクラスのトップカーストでコミュ力があろうとも、軍事や政治における面倒なドロドロとした戦争を見てきた長嶺の前では意味をなさない。終始圧倒し続けて、三浦はただ顔を赤くして震えてるだけだった。

 

「ま、まあまあ、もうその辺にして。優美子もさ?」

 

「葉山。一応三浦はお前の友達というか、いつもいるグループのメンバーで、お前はそのグループのリーダーだ。部外者の俺が横槍入れて止める前に、自分で先に止めろよ。それからテメェらのグループの影響力を見つめ直した上で、自分たちの立ち振る舞いも客観的に見た方が良いぞ。良い方にも悪い方にも、お前らは等しく多大に作用するからな」

 

まるで大人と話している様な言い方や立ち振る舞いに、葉山グループは勿論、他のクラスメイトもポカーンとしていた。昼休みが終わり、五限が始まろうとしたタイミングで由比ヶ浜から「助けてくれてありがと」と耳打ちされて、言った本人は顔を赤くするしオイゲンが不機嫌になるしだったが、言われた長嶺は安定の無関心であった。

 

 

 

放課後 奉仕部前

「ん?」

 

「おい比企ヶ谷、あれ何やってんだ?」

 

「俺が知るか」

 

偶々一緒に部室へと歩いていた比企ヶ谷と長嶺が見たのは、部室の前で立ち尽くす雪ノ下、由比ヶ浜、オイゲンの3人だった。

 

「あ、ちょっと真也!こっちこっち」

 

「ちょちょちょ、なになに?」

 

オイゲンに引っ張られて、部室の扉の前まで連れていかれる。曰く部室に不審人物が居るらしい。

 

「フハハ、まさかこんな所で出逢うとは.......。待ちわびたぞ、比企ヶ谷八幡!!」

 

中に入ると銀髪眼鏡の巨漢に、ロングコートと穴あきグローブを装備した「ザ・厨二」という見た目の奴がいた。

 

(あー、こりゃ確かに不審人物だわ)

 

「あなたの知り合いなの?」

 

「知らない。こんな奴は知ってても知らない」

 

雪ノ下の問いに全力否定する比企ヶ谷。だが目の前の男はそれを無視して、また何か色々言い始める。

 

「まさかこの相棒の顔を忘れたとはな。見下げ果てたぞ、八幡!!」

 

さっきは何か魔法陣から悪魔でも召喚してそうなポージングだったが、今度は刀か剣を構える様なポージングで話している。もう確実に厨二病罹患者である。

 

「相棒って言ってるけど?」

 

「そうだ相棒!貴様も覚えているだろう?あの地獄の様な時間を。共に駆け抜けた日々を!!」

 

「あなた、元傭兵?」

 

「断じて違うし、相棒でも無い。体育でペア組まされたかもな」

 

「あの様な悪しき風習、好きな者と組めだと?フハハハハ。我はいつ死するかも分からぬ身、好ましく思わぬ者など作らぬ」

 

なんか今度は哀愁を込めて、何かバックに荒れ果てた荒野でも流れてそうな口調で語っている。と言うかもう、内容が完全に心に深い傷を抱えた歴戦の兵士が言ってそうなことばかりである。

 

「はぁ。何の用だ、材木座」

 

「やっぱりヒッキーの知り合いじゃん」

 

流石に面倒臭くなったのか、比企ヶ谷が知り合いであることを認めた。まあでも本人曰く、友達でも何でもなく体育の余り者でペア組まされただけらしい。

 

「誰?」

 

「我こそは剣豪将軍、材木座義輝だぁ!!」

 

「剣豪将軍って、足利義輝と引っ掛けてるのかよ。ある意味レアだな」

 

どうやら厨二病罹患者、もとい材木座義輝くんの元ネタとなってる設定は、足利義輝らしい。謎のオリジナル設定より、遥かにマシだ。

 

「時に八幡!!ここが奉仕部とやらで、間違いないな!?」

 

「そうよ」

 

比企ヶ谷の代わりに、雪ノ下が答えた。だがすぐに視線を外し、比企ヶ谷に向かってのみ話を続ける。

 

「やはりそうか!!平塚教諭に助言頂いた通りなら八幡!お主は我の願いを叶える義務があるのだな?幾百の時を超えて尚、主従の関係にあるとは。これも八幡大菩薩の導きか」

 

「別に奉仕部は貴方のお願いを叶えるわけではないわ。ただお手伝いをするだけよ」

 

またも比企ヶ谷の代わりに、雪ノ下が答えた。そしてやっぱりすぐに視線を外し、比企ヶ谷に向かってのみ話を続ける。

 

「ふ、ふむ!では八幡よ、我に手を貸せぃ!!フフッ、思えば我とお主は対等の関係。かつての様に、また天下を握らんとしようではないか!!」

 

「主従の関係はどこに行ったんだよ」

「幾百の時って、お前今何歳だよ」

 

「ゴラムゴラム!我とお主の間で、その様な瑣末な事はどうでも良い。特別に許して.......」

 

ここで材木座は気付いてしまった。女性陣が完全にドン引きしている事に。それに気付いて、体中から汗が滝の様に流れ出している。そして比企ヶ谷の方を見て、助けを訴えてきた。

 

「いや何でこっちを見るんだよ」

 

「比企ヶ谷くん、ちょっと!」

 

雪ノ下が比企ヶ谷の袖を引っ張り、ついでに他の3人も加えて円陣を作る。

 

「(で、何なの。あの剣豪将軍って)」

 

「(アレは厨二病だ)」

 

「「「(((厨二病?)))」」」

 

どうやら女性陣は、厨二病を知らないようだ。

 

「(お前ら小さい頃にプリキュアとか、アイドルとかに憧れてた時期があっただろ?男子なら仮面ライダーとかウルトラマンみたいな正義のヒーローとか。で、そういうごっこ遊びもやったはずだ。ピュアなんちゃらーとか、仮面ライダーなんとかーみたいな。

簡単に言うとそれを未だにやってる様な物だ。自分を特別な存在とか、選ばれた凄い奴と思い込んでいる。その結果、あんな感じの言動な訳だ。因みにアイツの場合、室町幕府の十三代将軍である足利義輝と重ねてる)」

 

「(気持ち悪ーい)」

 

「(でもな由比ヶ浜。アレはまだマシだ。歴史とか神話を元ネタにしてる分、知識があれば少しは理解できる場合がある。だが中には、なんか謎の神話を自分で作っちゃってる場合もある。例えば「俺は創造の女神、クレアパトラの祝福を受けし者」みたいなヤツな。もうこうなってくると、本気で何を言ってんのか理解できない)」

 

この説明に完全にドン引きしている様だ。とりあえず、奴がヤバいのは理解できた様だ。因みに比企ヶ谷の顔が後半引き攣り始めていたので、恐らく昔厨二病罹患者だったのだろう。多分コスプレして鏡の前でポージングしたり、謎の書類や魔界日記的な物を付けていたと思われる。

 

「だいたい理解したわ。それで貴方の依頼は、その心の病を治す事で良いのかしら?」

 

雪ノ下が正面切って材木座に話し始めた。どうやら雪ノ下は一般人との価値観とはズレている特性の結果、あまり引いては無かったらしい。その後ろでは由比ヶ浜が止めているし、材木座に至っては悪魔が聖職者を見た様な反応をしている。

 

「わ、我は汝との契約の元、我の願いを叶えんが為、この場に馳せ参じんたぁ!」

 

「話しているのは私なのだけど?人が話してる時は、その人の方を向きなさい」

 

「マッハハ!これはしたーり」

「その喋り方もやめて」

 

雪ノ下のペースに嵌められた様で、真っ向から全て否定されている。なんかもう材木座が哀れすぎて、オイゲンに至っては憐れみの目で見ている始末。

 

「とにかく、その病気を治す、って言う事でいいのね?」

 

「あ、いや別に病気じゃ無いですけど」

 

材木座の方も雪ノ下の罵倒と周囲の女性陣からの憐れみの目に負けたのか、厨二キャラが消え去って気の弱い感じの普通の口調になっている。

そんな姿を尻目に、ふと足元を見ると謎の文章が書かれた紙があった。考えてみたら部屋に入った時、窓全開であった為、結構な数のプリントが空中を舞っていた。その舞っていたプリントの一枚なのだろう。流石に放置するのもアレなので、拾い集めて1箇所に固める。

 

「小説の原稿か?」

 

「あ、これ小説なのね」

 

比企ヶ谷が言うには小説、正確にはラノベという種類の小説の原稿らしい。

 

「如何にも。それはライトノベルの原稿だ。とある新人賞に応募しようと思っているが、友達が居ないので感想が聞けぬ。読んでくれ!」

 

「はぁ。何か今、何か悲しい事をサラリと言われた気がするわ」

 

「投稿サイトとかあるから、そこに晒せば良いんじゃねーの?」

 

比企ヶ谷の提案に即「それは無理だ!」と、超自信満々に答える材木座。てっきり出し方が分からないとか、文字数制限に引っ掛かったとかと思いきや、全然違った。

 

「彼奴らは容赦がないからな。酷評されたら多分死ぬぞ、我」

 

「心よえー。でもなぁ」

 

「多分、いやというか絶対そこの雪ノ下の方が容赦無いと思うんだが。そういったサイト見てないから、その辺はちょっと分からんけど」

 

まあなんかんやで押し切られ、結局全員が読む事になった。取り敢えず帰りの車やヘリの中で読んだのだが、

 

「いや、なんだこれ」

 

もうなんか色々ヤバかった。正直長嶺は本を余り読むタイプではない。というか活字は日々の執務で嫌というほど見ているので、わざわざ小説や本を読みたくない。なのでラノベというのを初めて読んだが、なんか無茶苦茶だった。謎の厨二臭い技名は出てくるわ、漢字が不良の「四六死苦」的な当て字だったりして読みにくいわ、終いにはなんか完結せずに続く的な終わり方だったし。オマケに長い。多分マトモに読んでいたら、普通に徹夜レベルの時間が掛かるだろう。もう読む気失せてるので、適当に流し読みして終わらせた。執務あるし。尚、オイゲンは漢字が難しすぎて即諦めた。

 

 

 

翌日 放課後 奉仕部部室

「さて!では感想を聞かせて貰うとするか!!」

 

「ごめんなさい、私にはこういうのはよく分からないのだけれど」

 

「構わぬ。凡俗の意見も聞きたかったのでな。好きに言ってくれたまへ!」

 

「そう」

 

まずトップバッターは雪ノ下。一泊置いて、感想を言い始めた。もらった原稿にはビッシリ付箋があるし、どうやら最後まで真面目に読んだ様だ。

 

「つまらなかった。読むのが苦痛ですらあったわ。想像を絶するつまらなさ」

 

「ギャフゥ!!」

 

はい、マトモにダメージ入りました。のっけから殺しに掛かる辺り、流石の雪ノ下も不機嫌らしい。

 

「さ、参考までに、どの辺がつまらなかったのかご教授願えるかなぁ?」

 

「まず文法が無茶苦茶ね。何故いつも倒置法なの?てにをはって知ってる?小学校で習わなかった?」

 

「それは平易な文体で、読者に親しみを.......」

「それは最低限、マトモな日本語を書ける様になってからではないの?それにルビだけど、誤用が多過ぎるわ。能力に「ちから」なんて読み方は無いのだけれど。

聞くけど、この「幻紅刃閃(ブラッディナイトメアスラッシャー)」の「ナイトメア」は何処から来たのかしら?」

「ギャフゥ!違うのだ、最近のバトルではルビの振り方に特徴を」

「ここでヒロインが服を脱いだのは何故?必要性が感じられないのだけれど?皆無よね?白けるわ」

「そういう要素がないと.......」

 

もうこんな感じで、何か意見すれば捩じ伏せられて別の問題点を提示してくるという、材木座にとっては地獄の様な時間だった。今度は由比ヶ浜に聞くが、どうやら殆ど読んでないか、全く読んで無かったらしい。その結果、感想は「難しい漢字いっぱい知ってるね」だった。

ここで更にダメージを受け、今度はオイゲンに感想を求めた。

 

「ごめんなさい。私、漢字が難しすぎて読めなかったわ」

 

「ギャッフゥ!」

 

正確には「読まなかった」の間違いだが、ここは敢えて言うまい。でもって長嶺にも来たのだが

 

「いやもう、当て字やら何やらが多くて読むの諦めたわ。第一、内容からして厨二臭すぎて読んでると、魂吸い取られてる気分になれたわ。ある意味兵器だ、兵器」

 

「ウギャッフゥ!!」

 

ある意味、雪ノ下よりも酷い感想だった。最後の望みである比企ヶ谷に救いの目を向け、比企ヶ谷はそれに答えた。優しく材木座の肩に手を置いて、こう言った。

 

「で、アレって何のパクリ?」

 

「ドボォッフ!!」

 

完全に心のライフゲージが0になり、あまりのショックに部室の床を転がり始めた。余りの酷さに、全員がドン引きした。一頻り転がると材木座はゾンビの様な足取りで部室を出て行き、去り際に「また読んでくれるか?」と言った。正直ここまで言われても、まだ書くのかとも思ったがラノベへの想いは本物らしい。

 

「わかった、また読むよ」

 

比企ヶ谷がそう答えると、すぐに元気を取り戻しコートを翻し親指を立てて厨二モードに切り替わる。

 

「さらばだ!!また新作が書けたら持ってくる!!!!」

 

どうやら自信というかモチベーションが戻ったというか、なんか最初のウザイ厨二に戻った。ウザイのはウザいが、こっちの方が彼に合ってる気もする。

そんな事を思っていたのも束の間。長嶺がカバンに入れていた携帯が鳴った。

 

「誰のかしら?」

 

「クワタンの携帯みたいだよ」

 

長嶺以外の4人はただ電話が鳴ってるとしか思ってないが、長嶺にとっては高校生の桑田真也から軍人の長嶺雷蔵へと戻す音であった。

すぐにカバンから携帯を取り出し、副隊長であるグリムからの電話に出る。

 

「俺だ」

 

『総隊長殿、申し訳ありませんが緊急事態です』

 

「だろうな。で、何が起きた?」

 

『鹿児島基地の川沢少将が、痴漢で逮捕されました』

 

予想の斜め上を行く発言に、流石の長嶺も驚いた。だがしかし、これは非常に不味い。これをネタに艦娘や海軍をよく思わない連中が突っかかってくる可能性もあるし、国民からの信頼も落ちてしまう。対応をミスればアウトだ。

 

「取り敢えず詳しくは道中で聞く!用意してくれ」

 

『既に準備は完了しています。ハイヤーは既に高校の車寄せに停めてありますので』

 

「了解だ。すぐに行く」

 

電話を切って、すぐに荷物を纏める。オイゲンも何かあった事を察してくれて、何も言わずとも直ぐに荷物をまとめ出した。

 

「何かあったのか?」

 

「あぁ。ちょっとした面倒事が起きた。俺たちはもう帰るわ」

 

そう言うと部室を飛び出し、下のハイヤーまで走る。そのまま飛び乗って、ヘリポートへと走った。その間に関係各所との連絡や、緘口令の指示出しを手早く行う。

ヘリポートからヘリコプターに乗り江ノ島へと帰還。そのまま待機させていた戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』で、鹿児島まで飛んだ。

 

 

 

鹿児島県警本部 面会室

「あぁ、お久しぶりですね長官.......」

 

「お久しぶりですね、ではありません。アンタ、なんて事をしでかしてくれたんだ!!!!」

 

目の前の川沢は酷くやつれていて、生気のない屍の様な目をしている。

 

「聞いてください!私は、私は痴漢なんてやって無いんです!!」

 

「なに?」

 

「私は誓ってやってません。私は半強制的とは言え、軍人になりました。国民を護るべき人間が、護るべき国民に手を出すなんて事、恥ずかしくて出来ません!!」

 

川沢は涙ながらに語った。そして長嶺もこの態度を見て、本当の事を語っていると気付いた。もしこれが演技だったなら、ハリウッドで大物俳優として大成功できる演技力だろう。

 

「わかった。じゃあ経緯を話してくれ。生憎と、俺は痴漢した事以外は何も聞いてないんだ」

 

「はい.......」

 

川沢の語った経緯はこうだった。今日は自衛隊との会議があって鎮守府を開けており、会議が終わって鎮守府に戻っている最中に乗っていたハイヤーがパンクしたらしい。部下がすぐに帰りのハイヤーを手配しようとしたらしいが、偶々近くに駅があったので電車に乗って鎮守府の最寄り駅まで行き、駅からハイヤーで鎮守府に帰る事を選択したそうだ。

ただ時間が帰宅ラッシュだった事もあり、電車は満員。すし詰め状態の電車に乗り、久しぶりにサラリーマン時代を思い出していると突然ギャル2人組から「この人痴漢です!!」と手を掴まれた上で大声で言われてしまい、周りの男性乗客から取り押さえられて警察へと引き渡されたらしい。

 

「そうか。では念の為もう一度聞こう。川沢煇海軍少将。貴様は先の発言、「痴漢はしていない」という事。嘘偽りではないと、全ての国民、そして海軍の象徴たる旭日旗と菊花紋に誓えるか?」

 

「はい!」

 

「OK。誓った以上、後から嘘でしたは無しだ。俺は最後までアンタを信じ抜く。それじゃまず、その痴漢だと言ってきた奴はコイツで間違いないですか?」

 

そう言うと長嶺は手元のタブレットを操作して、監視カメラ映像から入手したギャルの2人組を映し出す。

 

「はい。こっちの金髪の方がが痴漢だと言った娘で、もう1人の茶髪の方が証言役をやったお友達みたいです」

 

「わかりました。貴方を何が何でも救い出しますから、暫くの間抵抗を続けてください。決して自分から罪を認めてはいけませんよ?孤独な戦いですが、貴方の指揮する艦娘の為にも乗り切ってください」

 

「わかりました。ありがとう.......ございます.......」

 

川沢は涙をボロボロ流しながら、長嶺へと頭を下げた。そうと決まれば、やる事は1つだ。まずはグリムへと連絡を取る。

 

「グリム。今回の一件だが、冤罪の可能性が大きい。監視カメラ映像で、今から送るギャル2人の足取りを追ってくれ」

 

『了解しました』

 

そのままの足取りで受け付けで待っていたカルファンと合流し、別の指示を出す。

 

「カルファン。署内に潜入し、今回の事件に関連する記録を抑えてくれ。調べたい事がある」

 

「OK、ボス。任せてちょうだい」

 

カルファンは元暗殺者というのもあって、潜入に関しては長嶺も舌を巻く程に上手い。警察署だろうが諜報機関の庁舎だろうが、どんな場所にも忍び込める。

その間に長嶺は、レリックの新作のテストを行う。ウォッチドッグス2のクアッドコプターに、ウォッチドッグスレギオンのスパイダーボットを融合させた潜入工作用ガジェット、通称「サイレント」。4枚のプロペラで空を飛び、翼を外せば壁をも登る強力な脚部を持つ多脚ロボッとなる。ロボットの胴体にロボットアームが仕込まれており、盗聴器や隠しカメラを仕掛けられる。さらに翼の方にも胴体に空白があり、予備のカメラや盗聴器の運送、あるいは爆弾に変更すれば自爆も爆撃もできる、万能な神兵器である。

 

『総隊長殿、調べ終わりました。住所を送りますので、そこで色々仕掛けてください』

 

「はいよ」

 

そんな訳でその疑惑の金髪ギャルが住む家にやって来た。マンションのようで、家は8階らしい。飛行モードでサイレントを送り込み、各部屋に監視カメラと盗聴器を仕掛ける。同じことを茶髪ギャルにもする為に家へと行ったのだが、その途中でグリムから驚きの報告が入った。

 

『あー、総隊長殿?茶髪ギャルの娘なんですがね、今ラブホ街に居ます』

 

「援交でもしてんだろ」

 

『いや。多分そうなんですけど、相手がですね、鹿児島県警本部長です』

 

「え、なにそれ。絶対クロやん」

 

もうこんなタイミングで会ってるとか、ホコリの臭いがプンプンする。そうと決まれば、すぐにそのラブホ街に走る。普通にサラリーマンが泊まったりするので、それに偽装して適当な部屋を借りてトイレの換気扇からサイレントを部屋に送り込む。

 

『あん♡あん♡』

 

「あー、いたいた。ヤってますねー」

 

なんか茶髪ギャルが際どい水着?下着?を着て、太ったおっさんのブツを捩じ込まれている。ねじ込んでるおっさんの顔と喘いでる女の顔から見て、本部長サマと疑惑のギャルで間違いない。

 

『にしても、お前も悪女よのう!だが、金の成る木を持ってきて、偉いぞ!』

 

『あん♡なら、しっかり金踏んだくあん♡らないと♡』

 

『科学捜査はしておらん事に、気付いてないんじゃから、アイツもバカだ』

 

嬉しい事にやりまくってる最中に、勝手に自白してくれた。同タイミングでカルファンから資料が送られて来て、やはり科学捜査はされていない事が分かった。長嶺の狙っているのは、この科学捜査の件であった。痴漢をした場合、容疑者の手には被害者の衣服の繊維片が、被害者の異服には容疑者の皮脂や指紋が付着している。読者諸氏も、もし痴漢冤罪に巻き込まれたら鑑識を呼ぶように頼もう。

 

『そうそう。ついでだから、行き掛けの駄賃に本部長室にも忍び込んでみたのよ。そしたら例のギャルの娘2人との、ハメ撮り画像と動画をゲットできたわ。他にも警察本部長とグルで示談金目的の冤罪を起こしてるみたい』

 

「だろうな。俺さ、今ラブホに居るんだわ。ちょうどこの部屋の近くで、その本部長サマとギャルがヤりまくってる最中だ」

 

『相変わらず行動が早いわね。他にも色々、真っ黒なデータを入手したから送るわ』

 

送られてきた内容によると、まあこの本部長真っ黒だった。援交、賄賂、犯罪の隠蔽&捏造と不祥事という不祥事を殆ど総ナメにしている。これは色々、お灸を据えてやる必要がありそうである。

 

 

 

翌朝 07:30 金髪ギャル宅

「あの、えっと何方様でしょう?」

 

「防衛省の者です。娘さん、いらっしゃいます?」

 

「ぼ、防衛省?」

 

あの後、一度東川に連絡し協力を取り付けた。そして防衛省の方から、警務課の担当者を派遣してもらったのである。

 

「昨日ですね、娘さんがある事件において虚偽の証言をした容疑がありましてね。逮捕させて貰います」

 

そのまま部屋へと押し入り、金髪ギャルの部屋へと入る。まだ夢の中なので、叩き起こしそのまま手錠を掛けて車へと押し込み、近隣の陸上自衛隊の駐屯地へと連行した。

時を同じくしてラブホから朝帰りしているギャル茶髪の娘に関しても、逮捕及び連行した。では本部長の方はどうなるかと言うと、長嶺直々に霞桜を投入して確保する事にした。30台近いバンやセダンに隊員達を乗せ、さらにブラックホーク3機も使って空からも陸からも隊員達が押し寄せる事になる。しかし何処から漏れたのか、既に門は機動隊やら銃器対策部隊によって封鎖されていた。

 

『こちらは鹿児島県警である。決起軍に告ぐ。直ちに武装を解除し、投稿せよ』

 

「えぇ.......。俺たち、いつの間にかクーデター軍になってるんだが」

「ウソーン」

「クーデターって、ゲームの中の話だけかと思ったわ」

 

「頭痛くなって来た.......」

 

いつもなら実力行使に出てる所だが、流石に今回は公衆の面前のしかも何の罪を犯していない、同じ国民を護る警察官である。流石に実力行使で突破する訳にはいかない。

 

「めんどくさー。取り敢えず、交渉してくるわ」

 

「お気を付けて」

 

面倒な事この上ないが、堂々と向こうの指揮官に話を付けるしかない。

 

「止まれ!!!」

 

銃器対策部隊の保有するMP5が長嶺に向かって向けられるが、その程度で怖気付く訳がない。だが動けば撃たれるので、その場で両手を上げて抵抗の意思を無いことを伝える。

 

「あのさー!なんか色々まるで俺たちが反乱起こしたクーデター軍みたいに言ってくれちゃってるけど、その根拠はなんなのー!?俺達はあくまで、アンタらのボスである鹿児島県警本部長の身柄を確保しに来ただけなんですけどー!!」

 

『ふざけるな反乱軍め!!連合艦隊司令ともあろうお方が、何故日本に弓引くんだ!?!?』

 

「ってかさー!!仮に反乱するなら戦車とか戦闘ヘリとか装甲車持ってくるし、こんな風に前に出ないで遠距離からライフルやマシンガンで蜂の巣にして強引に突破するけどー!?というか何なら、人間の兵隊じゃなくて艦娘使って反乱起こすわ!!それ以前に、なんで態々こんな九州の端っこで反乱を起こさないといけない訳ー!?普通ここじゃなくて、東京の首都とか関東方面で起こすと思わないー!?」

 

長嶺の言う通りである。反乱起こす気なら問答無用で射殺するし、人間よりも遥かに強い艦娘を動員する。それに起こすなら、本拠地のある関東で起こす。言われてみれば可笑しな点に警察の方も「たしかに」という意見が広がった。

 

『では何故、本部長を確保するのだ!?』

 

「取り敢えずさー!!近付いていいー!?」

 

『許可する』

 

さっきから向こうは拡声器、こっちは大声でという中々に喋り辛い状態だったので、お互いに普通の距離で話す事になった。そんでもって、全てを話すと流石の警察も道を開けてくれた。

 

「それじゃ野郎共!本部長に突撃だ!!」

 

血の気の多い霞桜の隊員達なので、この号令にノリノリで従う。エレベーターと階段を使い、本部長室の壁と扉をぶち抜いて突撃する。

 

「うわっ!?なんじゃなんじゃ!?!?」

 

「やあクソ野郎。俺の可愛い可愛い部下を不当に拘留したあげく、護るべき国民から金品を騙し取る悪行への落とし前をつけに来ましたよ?」

 

「ま、待て!それは何かの間違い」

 

やっぱり保身というか言い訳に走ったので、無言でタブレットを使い昨日のやってる最中の動画や、過去のハメ撮り画像&映像、それから証拠となる資料を見せた。尚、動画については4K&大音量である。

 

「今すぐ止めろ!!というか消せ!!!!」

 

「おやおや?隠蔽ですかな本部長。これを見た国民の皆様は、一体どう思うんでしょうねぇ?」

 

「今この場にいるのは、貴様らだけ!国民は知らぬわ!!!!」

 

そういう風に言う本部長に対して、長嶺は急に笑い始めた。ここで最大の爆弾を投下する。

 

「実はですね本部長。この状況、これぜーんぶYouTubeで生配信中でーす!!!!」

 

超満面の笑みでそう言うと、完全に本部長の顔から血の気がサッと引いた。なんと長嶺は全部ネットに晒していたのである。真っ青超えて真っ白になる本部長尻目に、長嶺は「イェーイ、国民の皆さん。鹿児島県警本部長の末路見てるー?」と煽る。ついでに汚職に関わってた奴の個人情報も全部フルネームで言ってあげたし、この情報や画像に関しては各報道機関と各webサイト及びSNSに大量に拡散済みである。

 

「あらら、人生完全に詰んだね本部長。それじゃ、後はこの人達に任せようか」

 

そう言って部屋に通したのは、監察部のお偉いさんや公安警察の人、更には警察庁長官などの上司達である。

 

「後はお願いしますね」

 

「さて、じゃあ行こうか。警察の恥め」

 

そのまま本部長はドナドナされました。この後、川沢を解放して鹿児島基地へと送り、ついでにメディアからのインタビューについて答えたりした。因みにこの配信は伝説となり、ついでに汚職に関わってた奴らはネットのおもちゃとなり、冤罪吹っかけたギャルは様々な罪に問われて実刑判決を食らったし(流石に現職の提督をターゲットにしたのが不味かった)、多額の賠償金も支払う羽目となり、家族は離散したらしい。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。