最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第三十八話チェーンメール事件

数週間後 職員室

「さて、君達を呼び出したのは他でも無い。職場見学についてだ」

 

「別に何も可笑しくは無いでしょう?」

 

正面に座る平塚の手には、いつかのアンケートで書いた職場見学の希望調査票が握られていた。

 

「いや可笑しくはないぞ?だが、よりによって海軍か。他にないかね?」

 

「無いです」

「無いわね」

 

「即答か。正直、自衛隊と海軍はガードが厳しいんだ。それを交渉するのが面倒だし、是非他のところにして欲しい」

 

「いやいやいやいや。アンケートには何処でも良いと書いてあったし、ホームルームなんかだと教師陣が交渉するから、取り敢えず好きな所を書けと言っていた筈でしょう?なのに何故、面倒臭いという理由だけで交渉をやめるんですか?」

 

今回の場合、自分の仕事を片付けたいという欲求がある以上、長嶺は何が何でも江ノ島行きを勝ち取りたい。

 

「教師というのも、これで中々大変なんだ。だから」

 

「それを選んだのは他でもない先生でしょう?それにこれも立派な仕事だというのに、それをやろうともせずに放り出すのは単なる職務怠慢でしょうが」

 

どうにかして電話してもらうしかない。電話さえしてくれれば、こちらで手配というか手を回してはあるので、ほぼ二つ返事でOKが出る手筈になっている。だがこの事を伝える訳には行かない。なら遠回りだが、地道に交渉するしかない。

 

「あー、わかったわかった。なら電話位はしてやる」

 

「そうですか。じゃ、我々はこれで」

 

 

「何なのアレ?あれだって立派な職務でしょうに、何故あそこまで上から目線に立てるのかしら?」

 

「ゴネられるのは予想していたが、流石にあそこまでのは予想外だった」

 

2人は職員室から奉仕部に向かう道すがら、平塚の愚痴を言っていた。奉仕部につくと、とても珍しい客人が居た。

 

「やぁ。桑田くんに、エミリアちゃん」

 

「葉山?」

 

「あら。学校の王子様が奉仕部に来るなんて、少し意外だったわ」

 

「そうかい?これでも一応、雪乃ちゃ、雪ノ下さんとは幼馴染なんだ。それに今日は、少し君達の手を借りたくてね」

 

そういう葉山の視線は、ある一点に集中していた。オイゲンの胸である。由比ヶ浜や平塚、まだ未登場だが原作の巨乳キャラとなる川崎沙希、雪ノ下陽乃すらも越えた、その辺のAV女優もグラビアアイドルも霞むほどの爆乳に引き締まったウエスト、そして弛んでいないが柔らかそうなプリッとしたお尻。

おまけに声も綺麗で、顔も美少女。男なら仕方がないのだが、オイゲンとしては目の前のアホにそういう目で見られるのは苦痛でしかない。隣にいる男からのみ、そういう目線は受け付けたくないのが本音である。

 

「で、俺達は結構聞き逃した感じか?」

 

「いえ、これからよ。葉山くん、依頼内容を聞かせてもらうわ」

 

「依頼の前にこれを見て欲しい」

 

葉山はスマホのメールアプリを開き、受信画面から一通のメールを選んで見せてきた。そこに書いてあったのは、以下の通り。

 

 

ねぇきいた〜

 

2ーFのあいつらのことー

戸部と大和と大岡のやつ。

 

戸部は稲毛のヤンキーでいっつも

ゲーセンで西校狩りしてるんだって〜

いい奴ぶってるけど意外と裏では

色々やってるんだね。

 

大和は三股してるらしいよー。

女の子をとっかえひっかえな最低の

屑野郎なんだって〜。

 

あとあと野球部の大岡はラフプレー

で相手高のエース潰し野郎で何回も

病院送りにしてるんだって。ひどい

な。

 

 

「チェーンメールね」

 

「これが出回ってから、なんかクラスの雰囲気が悪くてさ。それに友達のこと悪く書かれてば腹も立つし。あ、でも犯人探しがしたいんだじゃないんだ。丸く収める方法を知りたい。頼めるかな?」

 

ハイ出ました。葉山お得意の、角を立てずに自分への被害を最小限にしつつも行動を起こした事を事実かする、ある意味一番姑息な手。このチェーンメールにも書けばいいのに。葉山は日和見主義のクソ野郎って。

 

「つまり、事態の収集を図ればいいのね」

 

「うん。まあ、そういうことだね」

 

「では犯人を探すしか無いわね」

 

「うん。よろし、え?あれ、なんでそうなるの?」

 

雪ノ下の理由としては昔自分もやられたそうで、未だそれを根に持っている事から来る復讐に近いものである。しかし長嶺的にも理由はどうあれ、犯人見つけて吊し上げた方が楽だから雪ノ下に感謝である。さすが天才。

因みに復讐がてら根絶やしにしたらしい。

 

「なあ雪ノ下、探すとは言うがアテはあるのか?」

 

「そんなの、地道にやるしか無いわよ」

 

前言撤回。コイツは馬鹿だ。筋金入りの、頭が良い馬鹿だ。ガチで天才をバカと読むタイプのバカだ。

 

「アホか。ネット関連でしかもSNSとかではなく、メールだと言うのに地道もへったくれもねーよ。態々クラス中駆けずり回って、一人一人頭下げて「チェーンメールの捜査で、あなたの携帯の送信記録を見せてください」って言う訳にもいかんだろう。変な奴にしか思われないし、第一俺が犯人なら既に履歴を消してる。

仮に消してなくても捜査されてるのが分かったら、誰だってあの手この手で記録を抹消するぞ」

 

「じゃあどうすればいいのよ!」

 

「そうだな。手っ取り早いのは、痕跡を追うのが良い。流石に海外の胡散臭いプロキシサーバーとか痕跡が残らないサーバーを幾つか経由してまで、こんなメトロとか便所の落書きレベルの悪戯はしない。恐らく、対策は捨てメアド位だろうよ。

この程度なら余裕で辿ることが出来るし、その後でちょっと面白い悪戯をする事もできる」

 

「面白い悪戯って?」

 

由比ヶ浜が首傾げる。他の奴らも同様に首を傾げており、誰もピンと来てない様だ。

 

「例えばウイルスを送り込んでアプリのデータの消去とか改竄をしたり、遠隔で適当な物を犯人名義で購入させたり、変な違法サイトにアクセスさせたり、ソイツが男なら風俗関連の物だとか女なら尻軽痴女的な物をSNSのアカウントで書き込んだりとか、あとはいっその事ソイツにチェーンメールを送りつけたりとか。とにかく主導権をソイツから簒奪し、そのままこっちの好きな様に動かせる」

 

「桑田くん、それは犯罪よ」

 

「そんなの百も承知。だがな、犯罪なんて立証できなければ犯罪じゃない。バレなきゃ、犯罪じゃないんだよ。それに今のはあくまで実例だ。なにも、本当にやるわけじゃない。ただ単に「こんな手段も取れるぜ」ってだけだ。

それに今回は、もっと平和に行こうや。どうやら頼れる八幡くんが何か名案があるみたいだし」

 

どうやらこのタイミングで自分に話が振られてくるとは思っていなかったらしく、比企ヶ谷は恨めしそうな目で長嶺を見てくる。だが他の奴らは完全に比企ヶ谷に注目してるので、何も言わない訳にもいかない。

 

「案はないぞ、案は。.......まあ普通に考えて、一番の原因は職場見学のグループ決めだろうな。葉山グループのメンバーは男4人に女が3人。一方職場見学のグループは、3人グループと1グループだけ2人だ。男子班はどうしても、1人余ってしまう。

となると、余らない様に周りを蹴落とすよな」

 

「じゃあその3人の内の誰かが犯人、と見てまず間違いなわね」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ、俺はアイツらの中に犯人がいるなんて思いたくない。3人を悪く言うメールなんだぜ?アイツらは違うんじゃないのかな?」、

 

安定のみんな仲良くという思考回路を持つ葉山が、なんか現実を見えてないのな見ようとしないのかは知らないが、結構アホな事を言ってくる。これにはオイゲンが噛み付いた。

 

「あなた、結構バカね。そんなの自分の疑いの目が向かない様にする為のカモフラージュに決まってるじゃない。あなた以外に1人だけ悪口が言われてなかったら、普通ならその子が犯人と考えるのが自然よ。

それならバレない様に自分も悪く書くか、意図的に1人だけ書かないでその子を変わり身にするとかするわよ」

 

「とりあえず、その3人の事を教えて貰えるかしら?」

 

「戸部は見た目悪そうに見えるけど、一番ノリの良いムードメーカーだな。イベント事にも積極的に動いてくれる、良い奴だよ」

 

雪ノ下の質問に葉山がそう答えたのだが、その人物像のメモがこちら。

 

「騒ぐだけしか能の無いお調子者、ということね」

 

めっちゃ毒である。これには流石に全員戸惑った。毒舌なのは知っていたが、ここまで酷いとは思わなかったのだ。

 

「?どうしたの、続けて」

 

「大和は冷静で人の話をよく聞いてくれる。ゆっくりマイペースで、人を安心させてくれるって言うのかな?良い奴だよ」

 

「反応が鈍い上に優柔不断、と」

 

「お、大岡は人懐っこくて、いつも誰かの味方をしてくれる気のいい性格だ。良いやt7」

「人の顔を伺う風見鶏、ね」

 

葉山の言った事を、綺麗に全てマイナス方向に捉えている。ここまで来たら一種の才能だが、やっぱり全員戸惑うを超えて少し引いている。

 

「う〜ん、どの人が犯人でも可笑しくないわね。葉山くんの話だと、あまり参考にならないわね。あなた達は彼らの事をどう思う?」

 

「え!?どうって言われても.......」

 

「俺はソイツらの事をよく知らんからな」

 

「右に同じ」

 

「というか、名前すら初耳よ」

 

由比ヶ浜は葉山グループとは言え、絡みがあるのは基本的に三浦達。男子との関わりは基本ない。長嶺とオイゲンはまだ転校したばかりな上に、大抵昼休みも2人で過ごす。

 

「まあ、調べるくらいはしてきてやるよ」

 

「おお。初めて比企ヶ谷が自分から仕事をやる宣言したぞ」

 

「別にクラスでどう思われようと気にしないし、それに人の粗探しは俺の108の特技の一つだ」

 

「余り期待せずに待っておくわ」

 

「ありがとう、ヒキタニくん」

 

あれ、おかしいな。ヒキタニくんなんて奴は、この部活には存在しないんだがなぁ。座敷童かな?

 

「(所で指揮官。アナタ、案外犯人の目星付いてるんじゃないの?)」

 

「(証拠ないから勘だがな。まあ多分、大和って奴だろ)」

 

「(その心は?)」

 

「(書いてある内容だ。戸部は西校狩りで大岡はラフプレーを装った暴力と、バレれば一発停学案件だ。それどころか普通に退学すらあり得てくる。だが大和って奴のは三股。クラスから総スカン食らうだろうが、別に退学だの停学だのって話にはならないだろ?

この手の場合、我が身可愛さに自分だけ軽犯罪やインパクトの弱いスキャンダルにするか、逆にデカすぎて現実味のない物をでっち上げてしまう。その典型例だ。さっきも言った様に証拠がない以上は、どうしようもないがな)」

 

この時点で長嶺はすでに、犯人を見抜いていた。別にこれを今すぐどうこうしようという気はないが、こう言うスキャンダルは脅しネタとしては最適である。

何かあった時のネタとして、記憶に留めておくことにはした。

 

 

 

翌日 2年F組

「取り敢えず、みんなは何もしなくて良いからね!」

 

翌朝クラスに由比ヶ浜が来るや否や、比企ヶ谷、長嶺、オイゲンの3人にそう宣言すると意気揚々と三浦ともう1人の葉山グループの女子である海老名の元へと向かっていった。

 

「お手並み拝見、って所だな」

 

 

「お待たせー。いやはやー、ってかさ戸部っちとか大岡くんとか大和くんとかぁ、最近微妙だよねー」

 

(うわぁ、どストレートにいったな)

(せめてもう少しオブラートに包みなさいよ.......)

 

もうこの時点で由比ヶ浜に期待はしなくなった。ノッケからこれでは、まあまず無理があるだろう。

 

「結衣って、そう言う事いう娘だっけ?」

「え?」

 

「あんさー、そういうのってあんま良くなくなぁい?友達のことそういう風に言うの、やっぱ不味いっしょ」

 

まさかの前回なんやかんやあって正直敵と認識していた三浦が、常識的な考えの下で由比ヶ浜を注意した。当の由比ヶ浜はワタワタしながらそれを誤魔化し、何故かそれを聞いて海老名は何故か大興奮しながら「キマシタわぁぁぁ!!!!」と叫んで、鼻血を吹き出している。

因みに長嶺とオイゲンの中で三浦の株は上昇した。

 

「なんだアレ」

 

「俺が知るか」

「というか葉山グループって、マトモなのがいないのね」

 

「そんじゃ、俺がやるわ」

 

今度は比企ヶ谷が動き出す。どうやら比企ヶ谷の作戦は、観察らしい。確かに比企ヶ谷の観察眼なら、長嶺の見抜いた事を一発で見抜くだろう。それを期待しつつ、長嶺も高みの見物を始めた。

観察を始めてすぐ、最初は職場見学の件で盛り上がっていた葉山グループ。だが葉山が離れると、各々事をし始めた。

 

「やぁ。なにか分かったかな?」

 

「そんな物、とうの昔から分かっている。流石に犯人はある程度しか分からないが、お前好みのやり方で解決する方法はあるぞ。誰も悲しまない、誰も傷つかない最高のやり方が」

 

「教えてくれないかな?」

 

「まあだが、それは比企ヶ谷に聞くと良い。アイツも俺と同じ結論に到達してるからな」

 

そう言いながら比企ヶ谷を見ると、どうやら完全に見抜いたらしい。その日の昼休み、奉仕部メンバーと葉山を部室に入れてプチ推理ショーが始まった。

 

「分かったのは、あのグループが葉山のグループって事だ」

 

「そんなの今更じゃん!」

「えっと、どういう意味?」

 

「言い方が悪かった。つまり葉山の為の物、って意味だ。葉山、お前はお前が居ない時の3人を、見た事があるか?」

 

どうやら比企ヶ谷は長嶺の予想通り、答えには到達したらしい。この続きを見てみよう。

 

「いや、ないけど.......」

 

「アイツら、3人きりの時は全然仲良くない。わかりやすく言えばアイツらにとって葉山は友達で、他は友達の友達でしかないんだ」

 

「それがなんだと言うの?それはあくまで、犯行動機の補強にしかならないわ。それじゃ意味がないでしょ?」

 

「葉山。お前は確か、犯人探しとかするつもりは無いんだよな?それなら別に真実も知りたいわけじゃない。だったらアイツらを一緒の班にして、それをトリガーにして仲良くなる様にすればいい。お前の人望なら、アイツらを外した所で引くて数多ですぐに班も決まるだろ?」

 

比企ヶ谷の提案に葉山は少し考えると、どうやら納得したらしい。「ありがとう、ヒキタニくん」と言って部屋を出て行った。

これで依頼解決かと思いきや、まさかの奴がまだ納得していなかった。

 

「あなた、甘いわね。こんなの現状からの逃げで、何の解決にもならないじゃないッ!!」

 

何でか知らんが、雪ノ下がキレた。多分、自分の中での理想的な解決像じゃなかったのだろう。それに腹を立て、珍しく怒りを露わにしている。

怒鳴ってすぐに、しまったと思ったのか冷静さを取り戻したが、隣では由比ヶ浜が心配そうに雪ノ下と比企ヶ谷を交互に見ている。

 

「雪ノ下、これで依頼解決だ。現状からの逃げじゃないから安心しろ。これ以上あのメールが出回る事はねーよ」

 

「.......どうしてそう言い切れるの?」

 

「単純だ。あのメールが出回った元の原因は「葉山と一緒の班になりたいが、周りの奴らのうち1人を蹴落とさないと入らないから」という理由だった。

だが目的の葉山がいなくなったら、これ以上第二第三のメールを送る必要も、今のメールを拡散させる必要もない。寧ろ送ればバレる可能性が上がって、デメリットでしかない。つまり送るだけ無駄って訳だ」

 

雪ノ下はこの答えに一応は納得いったが、やはり気に入らなかったのだろう。「あなたのやり方、いつか後悔するわよ」と捨て台詞を残して何処かに去って行った。由比ヶ浜もそれを追いかけていく。

一方で長嶺は、比企ヶ谷の観察眼が予想以上だったことに驚いていた。当初は葉山グループの関係性位には気づくと考えていた。しかし蓋を開けてみれば、今回の事件の本質を理解した上で葉山に取って一番最良な物で解決させた。この観察眼と手腕は磨けば武器となる。正直、余計に部隊に欲しくなった。

そして翌日、予想だにしない出来事が起きてしまった。

 

 

「僕を君達の班に入れてくれないかな?」

 

なんと朝の休み時間中に葉山がやってきて、職場見学の班に入れて欲しいと頼んできたのだ。知っての通り長嶺とオイゲンの班は鎮守府を選んでいるし、職場見学の期間中に普通に鎮守府で執務や任務がしたいが為に選んだ場所。その為班員は、長嶺とオイゲンだけにしてある。

しかしここで葉山が入ってくると、その計画は一気に水泡となる。葉山は二人の本当の素性なんて知るわけが無いし、というか知ってたら排除しなくてはならない。ウザイ奴とは言えど罪なき国民。それを殺すとなると、処理や火消しに相当な労力を費やす羽目となる。そうなれば色々他の任務にも支障が出てしまう。

 

「いやだが、俺達の行く場所は海軍だぞ?お前さん、確か外資系企業が希望だったんじゃ.......」

 

「確かにそうだけど、外資系は結構国際情勢に左右されるだろ?最近は深海棲艦の攻撃も鎮静化してるらしいけど、でもやっぱりまだ危機は脱却できた訳じゃない。

それならこの辺りで、国際情勢に於ける鍵となる海軍を見ても損は無いはずだよ」

 

こう言われては流石にNOとは言えない。外資系企業は海外との繋がり深く、確かに葉山の言う通り国際情勢に左右される。実際開戦当時に起きた「強制鎖国」とでも言うべき状況の影響を、外資系企業モロに食らっている。

だが葉山には別の目的もあった。

 

(この辺りでエミリアちゃんに近付いて、ゆくゆくはこの娘と付き合いたいな)

 

そう。葉山は何とエミリア、つまりオイゲンに恋しちゃってるのである。因みに惚れた理由は一目惚れ兼、オイゲンが最初あった時に「よろしくね、王子様」と言ったのから。曰く「これまで王子様とは言われてたけど、彼女から呼ばれたのは一番心地よいものだった」らしい。

だがオイゲンは知っての通り長嶺に恋焦がれている。それも夜這いを仕掛けて既成事実を作ろうとしたり、態々この学校生活を一緒にできる任務の為に霞桜の隊員、特にマーリンから射撃をコーチングしてもらう程に打てる手はとにかく打ちまくる位には恋焦がれている。

この恋が実るかどうかはさておき、さらに問題は増えてしまった。

 

「え!?葉山くんここに行くの!?」

「私もここにしよーっと」

「え!ズルい!!私も!!」

「私も私も!!」

 

とまあこんな具合に、クラスのほぼ全員が海軍を希望しやがったのである。勿論長嶺はプロ中のプロであり、この程度で顔色は変えない。だが内心では「NOOOOOOOOO!!!!!!!!」と叫んでいる。

最悪葉山だけなら、特殊なウイルスを仕込んで職場見学中はダウンさせる事もできた。だがここまで人が増えては流石に使うと「江ノ島鎮守府に見学行こうとしてた連中が何か体調崩してたのに、何故か桑田とエミリアだけが生き残った」みたいな事になり、変に勘繰る輩も出て来て面倒な事になるだろう。

 

「ハハ。マジでどうしよう.......」

 

 

夕方 江ノ島鎮守府 執務室

「…とまあ、こんな感じな訳よ」

 

「確かに、見事に目論みと外れてる」

 

本日の秘書官である艦娘の雲龍と、今日の一件について話していた。元々雲竜は表情を表に出さないタイプだが、声色的に同情してくれてるらしい。

 

「でも意外。提督は常に作戦通りに事を動かせるのかと思っていました」

 

「まさか。いつも作戦通りに行ってない。行ったことがあるとすれば、完璧な奇襲作戦の時とかそこらだ。戦場は生き物。常に予想外の事が起こるから、色々プランを考える。それを状況に合わせて出したり、時に足したり引いたりしてお前達に伝えている。

まあこう言ったら信用が無くなるかもしれんが、常に任務や作戦中は極細の糸の上で綱渡りしてる博打と変わらん」

 

「そうだとしても、しっかり成功させてるんだから十分すごいと思うわ」

 

「ハハハ。俺はまだまだだ」

 

そんな訳ないとツッコみたくなるのを引っ込めて、雲龍は自分の仕事に戻る。すると内線が鳴り、長嶺宛だったので電話を回す。

 

『提督。総武高校の平塚、と言う方からお電話が入っています。繋ぎますか?』

 

「あー、繋いじゃって」

 

出ると大淀からの連絡であった。平塚からの電話が来たということは十中八九、職場見学の件でまず間違いないだろう。取り敢えず、平塚の出方次第で決める。

 

「お電話変わりました。江ノ島鎮守府提督、長嶺です」

 

『どうも初めまして。私は総武高校にて教師をしております、平塚と申します。本日お電話差し上げたのは、そちらに授業の一環で見学させて貰いたいと思っていまして』

 

思ったよりちゃんとしていて、ちょっと感心である。まさか平塚も、電話の向こうにいるのが自分の教え子とは思わないだろう。

 

「授業の一環ですか。というと社会科見学、いえ。高校なら職場見学かインターンシップって所でしょうか?」

 

『はい。職場見学先の希望を取った所、帝国海軍を希望する生徒が多く、ご多忙な上、子供達を受け入れてもらえる余裕が無いのは百も承知です。ですがどうか、お願いできませんでしょうか?』

 

「良いでしょう。ですが、此方としても条件があります。後程ファックスでお送りしますが、色々と確約して貰いたい事があります。

第一に、敷地内でよ撮影は原則として禁止させて頂きたい。もし見学後の授業で写真が必要な場合は、そちらが此方に依頼するという形で希望する写真を撮影させて頂きます。理由は勿論、国防上、国家機密や外部に漏れると厄介な物が写り込んでしまう可能性がある為です。

第二に、見学に来るの生徒は信用のおける生徒のみにしてください。素行が良い生徒でないと、もし仮に何かあった際に面倒です。

第三に、参加する生徒には誓約書を書かせてください。これは保護者の方にもお願いします。どの施設だとしても軍事施設には変わりない。特に鎮守府や基地に関しては、見学中に襲撃や攻撃に晒されても可笑しくはありません。比喩や冗談ではなく、我が国は戦時です。そんな中、最前線の軍事施設に見学に来る。勿論ないとは思いますが戦場に絶対は無い以上、これらの事と他にも記載されている事には確約を貰わないと見学は許可できません」

 

『.......校長や生徒と協議させてください』

 

「良いでしょう。しかし、なるべく早く回答を頂きたい」

 

そんな訳で1回目の交渉は終わった。だが平塚も流石にクラスのほぼ全員が行きたがってる(桑田が行こうとしてるからエミリアも行こうとして、エミリアが行こうとしてるから葉山も行こうとして、葉山が行こうとしてるからクラスのほぼ全員が行こうとしてるだけ。つまり元凶は長嶺)という事もあって、交渉は粘り強く行われた。正直面倒だったが根負けして、結果的に許可された。

まあ国防に理解を得る為とか、これを機に比企ヶ谷の才能を推し量れるかもしれないというメリットもあるにはあるので、デメリットだらけでも無いのがせめてもの救いである。

 

 

 

 

 

 

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