最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第四十話川崎更生作戦

鎮守府見学より一ヶ月後 放課後 近所のカフェ

「で、一体今日は何の様かしら?」

 

「別に。偶には帰り道にカフェに寄ってお茶して帰っても、バチは当たらんだろってだけだ。それにお前、日本語はペラペラで文字も漢字、平仮名、片仮名全て標準レベルで理解してる癖して、国語はどちらも赤点ギリギリだろ?この機会に、少し教えてやろうと思ってな」

 

この日、オイゲンと長嶺の姿は総武高校近くのカフェにあった。テストを目前に控え、生徒達は勉強に勤しんでいる。それは表向きは長嶺も同じで休み時間は勉強しているフリはしているし、隙間時間に単語帳を見るようなフリもしている。まあ頭自体ハーバードの医学、工学、生物学を飛び級で卒業した上、院にまで進んだ天才。この程度のテスト、遊びに等しい。

だがオイゲンは違った。頭は可もなく不可もなくの中の上くらいなのだが、日本語に難があるのだ。日本語はペラペラだし、報告書の兼ね合いで標準レベルなら漢字も難なく使いこなせる。のだが、国語の文章題の様な物や古典全般は全くと言って良いほど出来ないのである。何せこれらは日本じゃないと習わないし、古典に至っては海外はおろか日常生活で使うことはない。精々ことわざや四字熟語程度であろう。

流石に赤点取って追試では色々まずいので、急遽勉強会をする事にしたのである。

 

「って、あれ比企ヶ谷じゃね?」

 

「あら、ホントね。しかも雪ノ下、ガハマちゃん、戸塚くんもいるわ」

 

「一体何やってんだ?」

 

比企ヶ谷達のいる席へ歩いて行くと、比企ヶ谷が気付いた。だが目を逸らした。勿論そんなのは無視して、比企ヶ谷達の方に向かう。話を聞くと比企ヶ谷以外で勉強会をしていた所、たまたま比企ヶ谷が来たという訳らしい。

 

「あ、お兄ちゃーん!」

 

「小町!ここで何してんの?」

 

「いやー、友達から相談受けてて」

 

出入り口の方を見ればアホ毛を生やしたセーラー服を着た女子と、その横に少しナヨナヨした感じの男子生徒が立っていた。

長峰は即座に脳内に記憶してあるデータと顔を照合して行くと、彼女が比企ヶ谷の家族関連の書類に写っていたのを思い出す。確か妹の比企ヶ谷小町の筈である。

 

 

「いやぁ、どうもー。比企ヶ谷小町です!兄がいつもお世話になっています!」

 

「初めまして。クラスメイトの戸塚彩花です」

 

「おっほぉー、可愛い人ですね。ねぇお兄ちゃん」

 

「ん?あぁ男だけどな」

 

小町は比企ヶ谷に「またまたご冗談を〜」とか言っているが、戸塚は男である。確かにこれだけ可愛ければ女に見えなくもないので、これが普通の反応だろう。

次は由比ヶ浜のターンらしい。

 

「初めまして!ヒッキーの友達の由比ヶ浜結衣です!」

 

「あぁー、どうもー!ん?んー?」

 

なんか今度はいきなり由比ヶ浜を凝視し始めた。この口調やさっきの戸塚への会話を見る限り、彼女は恐らく元気なグイグイ行くタイプなのだろう。こう言う反応はし難い筈である。だがそんな凝視は雪ノ下が話し始めた事で、雪ノ下に視線が移り終わった。

 

「初めまして、雪ノ下雪乃です。比企ヶ谷くんのクラスメイト、ではないし、友達でもないし、誠に遺憾ながら、知り合い?」

 

「何その遺憾の意と疑問系」

 

雪ノ下の対応に、やはり比企ヶ谷がツッコむ。雪ノ下よ、そこは「部活の仲間」とでも言えば良いだろうが。

 

「初めまして、ヒッキーくんのクラスメイトのエミリア・フォン・ヒッパーよ」

 

「すごっい美人ですね!髪の毛もサラサラで綺麗だし、瞳も珍しい色だし、スタイルも.......」

 

「フフ、ありがとう。でもそう言うあなたも、笑顔がとても素敵よ?」

 

こういう時のオイゲンのコミュ力は高い。普通にこういう返しが自然とできるので、結構有能である。因みに小町は照れているのか嬉しかったのか知らないが、なんとも言えない表情をしている。

 

「あー、夢の王国かどっかに旅立ち掛けてるとこ悪いが俺も自己紹介いいか?比企ヶ谷の友達の、桑田真也だ。まあ適当に頼むわ」

 

「.......カッコいい」

 

「え?」

 

「おい桑田。小町に手を出したら、容赦しないからな?」

 

「心配すんな、出さないから」

 

桑田の場合は自己紹介したら、何故か比企ヶ谷から睨まれました。

 

「あの、川崎大志っす。自分の姉が皆さんと同じ総武高の2年なんすけど、知りませんか?川崎沙希っていうんですけど」

 

「あ、川崎さんでしょ!ちょっと怖い系というか」

 

うん、由比ヶ浜。それ、弟の前で言うべきセリフじゃないよ?シスコン系なら、面倒なヤツだぞそれ。

 

「お前友達じゃないの?」

 

「まあ話したことくらいはあるけど。ってか、そう言うこと聞かないでよ。答え辛いし」

 

「でも川崎さんが誰かと話してる所とか、見たことないなぁ」

 

この場にいる誰もが、川崎が学校で誰かと話している姿は見たことがない。かく言う長嶺も性格を調べた結果、比企ヶ谷とは別ベクトルのボッチである事が分かりどういう風に接触しようか悩んでいた所であった。

 

「それでね、大志くんのお姉さんが「最近不良化した」って言うか、最近帰りが遅くて、どうしたら元のお姉さんに戻るかって相談受けてたんだよー」

 

「そうなったのは、いつ頃からかしら?」

 

「最近です。総武高行く位だから中学の頃は真面目だったし、優しかったっす」

 

「つまり、比企ヶ谷くんが同じクラスになってから変わったって事ね」

 

いきなり雪ノ下が比企ヶ谷を罵倒する方向に舵を切ってきた。比企ヶ谷も堪らずツッコむが、それを雪ノ下は「被害妄想が過ぎるんじゃないの?比企ヶ谷菌」とか言っている。

流石にこれは長嶺もオイゲンも余りにガキすぎる発言な上に、今この場で言うべき事じゃないのに言っている事にドン引きである。因みに比企ヶ谷は難しい顔をして、それ以降何も言わなかった。コイツはマジで八幡大菩薩だわ。

 

「でもさ、帰りが遅いって言っても何時位?私も結構遅いし」

 

「それが、5時過ぎとかなんですよ」

 

「寧ろ朝じゃねーか、それ」

 

「単純に考えるならバイトだけど、流石に5時は遅過ぎるわね」

 

オイゲンも流石に5時に帰ってくるのは予想外だったらしい。余談だが、オイゲンみたいな性格なら朝帰りとかしそうな気がするのは私だけだろうか?

 

「流石に朝の5時ってなると、夜遊びか、変なバイトか、はたまた別の理由か。分からんな」

 

「変なバイトって?」

 

本来ならこれで察して欲しかったのだが、普段は空気読むのに肝心な所では読まない由比ヶ浜が聞いてくる。

 

「言っちまえば違法なバイトだ。バイトと仮定した場合、朝帰りという事は勤務している時間帯は深夜。そして深夜というのは、大抵裏の世界は活動時間だ。キャバを始めとする水商売関連、違法な物品の売買等々。バレれば1発退学する様なヤベェバイトだ」

 

因みにパパ活や円光も言いかけたが、流石に飲み込んだ。

そしてそんな事を言っていたら、何故か雪ノ下が首を突っ込む事を決めたらしい。やっぱりコイツは、クール気取りの激情家らしい。

 

 

 

翌日 放課後 部室

「考えたのだけれど、一番良いのは誰かに強制されるより、川崎さんから問題を解決する事だと思うの」

 

「そりゃそうだろうな。で、具体的にどうする?」

 

「アニマルセラピー、って知ってる?」

 

そう言って雪ノ下の語った作戦は、中々に大胆な物であった。比企ヶ谷の飼っている猫を段ボール箱に入れて、校門の前に設置。動物と触れ合わせて、川崎自身の心優しい面を引き出す、と言う物らしい。しかも役割まで決めている辺り、結構ノリノリなご様子。

だが問題が発生した。

 

「姉ちゃん、猫アレルギーなんっすよ」

 

はい作戦ご破算〜。

 

「川崎は猫アレルギー、っと」

 

「盲点というか、これ作戦なのかしら?」

 

長嶺はメモをとり、オイゲンは1人気に突っ込んだ。

その翌日、今度は戸塚が作戦を考えた。曰く、両親以外の大人に相談してみたら良いんじゃなかろうか、という物らしい。そしてその大人が

 

「川崎」

 

平塚先生である。

 

「なんか用ですか?」

 

「最近、家に帰るのが遅いらしいな。どこで何してるんだ?」

 

「誰から聞いたんですか?」

 

「クライアントの秘密を明かす訳にはいかないな。それより質問に答えたまえ」

 

「別に良いじゃないですか。誰かに迷惑掛けた訳でもないし」

 

平塚は大人の余裕とでも言うべき雰囲気を纏いながら川崎に話しているが、川崎は全く気にせずに正面から反論している。どうやら大人自体がダメなのか、この作戦は逆効果らしい。

 

「この先掛かるかもしれないだろう。君は、高校生だ。ご両親の気持ちを考えた事はないのか?」

 

「ていうか先生、親の気持ちとかなった事ないから分からないでしょ?」

 

「え?」

 

「独身だし」

 

川崎、爆弾を投下しやがりました。平塚は余りのショックに膝から崩れ落ち、そのまま倒れてしまった。

 

「先生、あたしの将来より自分の将来心配した方がいいって。結婚とか」

 

「先生可哀想.......」

 

「完全に殺しにかかってるわね。しかもあの感じ、多分無自覚よ。末恐ろしいわね、あの川崎って娘」

 

「.......ヤケ酒コース、確定したなありゃ」

 

 

更に翌日。今度は由比ヶ浜の超メルヘンチックな作戦が開始されようとしていた。

 

「変わって悪くなっちゃったなら、もっかい変わっちゃえば今度は良くなる筈じゃん」

 

「で、どうしたら変えられるのかしら?」

 

「女の子が変わる理由なんで一つでしょ!恋とか.......」

 

そう言って彼氏役というか、口説き役になったのは葉山である。最初は長嶺にオファーが来たのだが、今はまだ接触したくないので適当な理由で断った。

その後ろでオイゲンの機嫌が悪くなったり、良くなったりしてたのは言うまでもない。

 

「お疲れ。眠そうだね、バイトか何か?あんまり根詰めない方がいいよ」

 

「お気遣いどうも」

 

「あのさ、そんなに強がらなくても良いんじゃないかな?」

 

そう言って「ザ・王子様スマイル」で微笑んだが、川崎の回答は「あ、そういうの要らないんで」だった。

まあ正直、葉山が連れてこられた時点で薄々勘づいていた。あの手のタイプは人間観察の目が一級品である事が多く、恐らく既に葉山の内面を見破っているのだろう。並の女性ならアレで落ちるだろうが、中身を知っていれば落ちる筈がない。

 

「葉山くんでもダメかー」

 

「猫アレルギーによってアニマルセラピーは不発。大人への相談はFrauが轟沈。王子様も同様、か。真也、何かないの?」

 

「とは言ってもなぁ。もうここまで来たら、実力行使しかないだろ」

 

そう言う長嶺に、全員がポカンとしていた。取り敢えず明日の放課後動ける様にしといて貰って、その日は解散となった。

 

 

 

翌朝 教室近くの廊下

「で、具体的にはどうするつもりなの指揮官?」

 

「なーに。ちょっとばかし、チート行為をしてやるだけさ」

 

長嶺の立てた作戦は様々な分野のエキスパートやプロフェッショナルの集団であり、秘密性の高い世界の裏を自由に動き回り戦闘から諜報まで幅広く対応できる霞桜のトップという力を使った荒技であった。

 

「初手はスリだな」

 

手始めに廊下で意図的にすれ違い、カバンの中にあるスマホを盗み取る。勿論相手に気づかれない様に。そして手早くデバイスを遠隔操作で操り、データや記録を盗み見たり、そのデータを追っていけるアプリをインストールする。

 

「あ、おい!」

 

「.......なに?」

 

「これ、お前のだろ?」

 

後は普通に「落としたよ」と言って、そのまま返す。そうすれば相手は怪しまないし、仮に怪しんでもシラを切り倒し、親切心を盾に色々ゴリ押しで押し通せる。

 

「あんがと」

 

「気をつけろよ〜」

 

そう言って別れて、すぐにオイゲンと合流する。

 

「で、どうするの?」

 

「後は楽ちん。アイツのスマホの中身は丸裸になったんだ。SNSの投稿、投稿した場所、通話記録、メールやチャットのログ、検索記録、保存記録etc。その全てから、今回の行動の理由や原因を炙り出してやる」

 

「あんた、意外とノリノリね」

 

そう。実は現在の長嶺、超ノリノリなのである。では何故、こんなにもノリノリで普段は使わない霞桜の能力も使っているのか。まあ楽しいからと言うのもあるが、一番の理由は彼女は長嶺の欲する人材だからである。あわよくば、このまま良好な関係を構築しておきたい。

 

「俺がこう言うの好きなのは知ってるだろ?そんじゃ、川崎さんのプライベートを覗きましょうかね」

 

常に持ち歩いている高性能ノートPC*1を開き、中身のデータを洗い出す。

 

(電話帳は.......。おっと、店長ってのがあるな)

 

電話番号をコピーして、それを江ノ島のサーバーに送る。江ノ島鎮守府、正確にはその地下にある霞桜の本部秘密基地のサーバールームには様々なデータが納められている。兵器関連の性能や軍備に関する情報は勿論、各国の国家機関の衛生回線や電話回線の使用記録、クレジットカードや仮想通貨の履歴、一般人のデータ等々。

基本ここに問い合わせたら、どんな情報でもすぐに手に入ってしまう。今回はそのデータから、この電話番号の携帯の持ち主を探し出す。

 

(名前は香川恭一郎、48歳。千葉県内に様々な系列店を出している『エンジェルス・カンパニー』の代表取締役。規模がデカいな。まずはエンジェルス・カンパニーとやらの系列店をピックアップして、ここから03:00時までやってる店以外を除外すると.......。あー、ダメだ。市内に8店舗もある)

 

流石にこれだけで絞れるほど、神様も優しくないのだろう。他の条件もつけて、更に絞り込みを掛ける。

 

(そうだなぁ。ならばコイツが川崎に電話を掛けた場所、掛けられた場所をマップに表示すると.......。うーん、それでも5店舗も残るか。もう少し絞りたいな。

ならコイツの一週間の行動記録を、マップに落とし込んでやると.......。おっとコイツ、足繁くこの2店舗に通ってるな。えーと本部事務所が併設されてる『メイドカフェえんじぇる』と、高級ホテルのROYAL OKURAの最上階にあるバー、『Angel Rudder天使の膝端』か)

 

「何かわかった?」

 

「一応目星はついた。かれこれ候補が23個もあったが、取り敢えず電話番号から得た情報で2店舗にまで絞れた。一応、検索履歴なんかも確認するが、恐らくこれ以上は無理だろうな。

ここまで来たら、直接乗り込むしかない」

 

「なら放課後に決行ね」

 

「あぁ。お前は雪ノ下に伝えてくれ。残りの連中には、こっちで伝えておく」

 

「わかったわ」

 

2人は別れて、伝達に向かう。その間に長嶺はグリムに連絡を取り、セーフハウス兼桑田真也が住んでいるマンションにホテルに向かう際の着替えを準備しておいて貰う。

この手の店はドレスコードがあるので、流石に私服ではいけない。制服で行こうものなら、生徒指導部の教師陣に目をつけられもする。かと言って裏口から侵入するのも、奉仕部連中がいる以上は無理である。だったらドレスコードを突破できる服を用意しておき、そのまま正面突破して仕舞えば良い。

ついでに、メイド喫茶に行くのなら専門家である材木座の力も欲しい。そこでF組に行く前に、材木座のいるC組に向かった。

 

 

「あー、材木座は居るかな?」

 

「あ、うん。居るよ。材木座くん、呼ばれてるよ」

 

「む、我に客人とな?誰ぞ誰ぞ」

 

安定の侍言葉を喋りながら、ドアの方へやって来た。

 

「よっ」

 

「貴様は桑田真也!して、このような時に何用だ?」

 

「お前さんに仕事を依頼したい。この仕事、成功すれば1人の女とその家族を救うだろう。だが失敗すれば1人の女は悲しみに暮れ、最悪その家族も涙を流すやもしれない。

このミッションが成功する鍵は、お前のその豊富な知識だ。協力、してくれるな?」

 

メチャメチャ誇張してる上に、まるで人の生き死に直結している様な物言いであるが、これこそ作戦である。

知っての通り、材木座は重度の厨二病罹患者である。こういう奴は、こういうシチュエーションが大好きである。頼み方は少し変えることによって相手のやる気を何倍にも上げる事も、逆に下げる事もできる。これを最大限利用し、奴のやる気を極限まで出す事に成功した。材木座の答えは勿論

 

「その仕事、確かに承った!」

 

YESである。更に追い討ちというか、やる気の炎に燃料を投下する。

 

「そうか。ならこれを受け取れ。今回の仕事の詳細、及びそれに付随するこれまでの記録やランデブー・ポイントの情報も書かれている。誰にも見られずに一読した後、処分してくれ」

 

この最後の一手間に、材木座は大興奮。ルンルンで席に戻り、またラノベを読み始めた。

尚、長嶺は内心では「詐欺られそうな奴だなアイツ」と思ったとか思わなかったとか。

 

 

 

放課後 メイドカフェえんじぇる

「とまあ調査で来てみた訳だが、完全に馴染んでんな俺ら」

 

「そうだなぁ。この萌え萌えウォーター、という名の水。意外とうまいぞ」

 

そう言いながら桑田は水を飲み、比企ヶ谷と材木座、それから一緒に依頼を受けていた戸塚はメニューを見ている。

女性陣はと言うと、奥でメイド服を着せて貰っている。

 

「お、お待たせしました。ご、ご主人様//」

 

そう言って一番に出て来たのは由比ヶ浜。黒いカチューシャと白いふわふわ系のシャツに、黒い腰に大きなリボンのあるスカートを装備している。

 

「わぁー!由比ヶ浜さん可愛いね!」

 

「フンっ!貴様はただのメイドコスだ!!魂が入っておらん!!!!我は寧ろ…」

 

そう言いながら戸塚を凝視し始める材木座。その内、なんか「フッフッフッ」とか言って笑い始めた。訳がわからん。

 

「もしかして、彩ちゃんのメイド服姿でも妄想してるのかしら?」

 

「なぬっ!?」

「え!?」

「!?」

「かわいい.......」

(あー、コイツ完全にノリノリだわ)

 

今度はオイゲンが出て来たのだが、その姿たるや言葉に出来ない程に可愛かった。元のビジュアルから美女なのだが、メイド服を着た事によって美女のベクトルが可愛らしさに変わり、とてつもない物に変貌していた。

まるでオイゲン専用に作られたかのようなメイド服で、色は鉄血カラーである赤と黒。下は黒のふわふわ系のスカートに赤いラインが入っていて、腕は赤いゆったりとした長袖だが方に黒のリボンが付いている。そして一番の特徴、というかオイゲン専用と思えるのが横乳である。知っての通りオイゲンの普段の服装は、横乳がガッツリ見える服である。このメイド服も横乳が解放されており、しっかり右胸の黒子も見える。

 

「ご主人様?お茶が入ったわよ」

 

「.......お前も何だかんだ言って、結構楽しんでるな」

 

「バレた?メイドは嫌だけど、服は着てみたかったのよ」

 

どうやら相当楽しんでるみたいである。因みにこんな服装なので奉仕部メンバーは勿論、周りの客もオイゲンに釘付けである。まあ当の本人の視界には長嶺しか映っていないが。

 

「?うわぁー!!ゆきのんヤバッ!めっちゃ似合ってる!!超キレイ〜」

 

最後に雪ノ下が出て来た。雪ノ下は全体的に黒いメイド服で、胸元やフリル、袖口が白のメイド服姿で出てきた。

 

「どうも。それより、ここには川崎さんは居ないみたいね。シフト表に名前が無かったわ」

 

「可笑しい」

 

そう言いながら、材木座は何かを考え始めた。何か引っ掛かる点があるのかと思ったが、何ともしょうもないことを考えていた。

 

「ツンツンした女の子が密かに働き、「ニャンニャン。お帰りなさいませ、ご主人様!って、何でアンタがここにいんのよ!」となるのは、最早宿命であろうが!!!!」

 

「いや意味わかんねーから」

 

(あっちゃー、完璧に人選ミスった)

 

どうやら材木座の厨二病のレベルを、過小評価していたらしい。まさかここまで酷いとは思わなかった。

二軒目、つまりROYAL OKURAに行く事になったのだが問題があった。

 

「あ、ごめん!今日これからテニスの練習があるんだった!!」

 

「むむ!?我も今日はアニメの再放送が!すまぬ、我もこれにてさらばだ!!」

 

これにより戸塚と材木座は離脱し、残るはいつもの奉仕部メンバーになったのだった。

 

 

 

一時間後 エミリア宅

「さあ、上がって」

 

メイドカフェを出た後、一行はマンションの立ち並ぶ高級住宅街に来ていた。その中でも一番高いマンションの最上階に、便宜上のエミリアの家がある。

間取りは4LDKで、生活感を出す為に定期的に物を入れ替えたりしている。

 

「エミリアちゃんは、ここに1人なの?」

 

「えぇ、そうよ。でも基本的に、真也の家に住んでるわ」

 

「え//////」

 

嘘はついていない。江ノ島鎮守府のトップは長嶺なので、長嶺の家とも言える。そしてそこに住んでいるので、嘘ではない。

 

「一応私達はパーティとかにも出席するし、色々と服は揃ってるわ。好きに選んでね」

 

「それじゃ比企ヶ谷はこっちな」

 

女性陣はオイゲンの自室で着替え、野郎はセーフハウスの機能を持つ部屋、つまり武器庫で着替える。

 

「なんか、物々しい部屋だな」

 

「ここは俺の趣味で使う道具を置かせて貰っているんだ」

 

「趣味?」

 

「俺さ、これでもサバゲーチームのリーダーやってるんだ。それも各国の特殊部隊員から、個人的にチーム戦を挑まれる位には強いチームだ。そんでもって、どうせなら状況や想定にあった武器を使いたいから、色々持ってるんだが部屋に置ききれなくてな。それで少しだけ、この部屋に置かせて貰ってるんだ」

 

勿論嘘である。一応カモフラージュでエアガンやモデルガンという体裁を取っているが、普通にラックにあるのは実銃である。というかこの家自体、至る所に武器を忍ばせてある。

因みに武器に関しては流石にオリジナルのは置けないので、ちょっと前に潰したIRの武器庫から奪った銃器を置いてある。グロック17、デザートイーグル、ベレッタM93R、UZI、MP5、HK416、P90、M249、IMIネゲヴ、イズマッシュ・サイガ12、ベネリ M4 スーペル90と言った物が並んでいる。

 

 

「サイズ大丈夫か?」

 

「問題ねーよ」

 

比企ヶ谷の服は黒のズボンに紫色のシャツ。そして白のジャケットという、中々にイカつい格好である。一方の長嶺は青のジャケットとズボンに、黒のシャツ、それから赤ワイン色のネクタイを装備している。

少しすると赤のパーティードレスを着た由比ヶ浜と黒のパーティードレスを着た雪ノ下、それからオイゲンは一番格好がエロいヴァイン・コーンブルメを着ている。

 

「それじゃ、行くとするか」

 

一行はエレベーターに乗り込み、最上階に入る。エレベーターを降りた場所がバーの中に繋がっているタイプで、ドアが開けば薄暗い室内が間接照明で照らされ、夜景とピアニストによる静かな音楽が流れる大人な世界が広がっていた。

 

「おいおい、マジかこれ」

 

「比企ヶ谷。キョロキョロするな。背筋張って、胸も張れ。常に堂々と、だが紳士的な振る舞いを忘れるな」

 

明らかに場慣れしておらず挙動不審な比企ヶ谷に、簡単な心構えを教える。こういう店は、常に店員も客を見ている。場の空気を著しく壊す客、例えばベロベロに酔っ払ったセクハラ親父とか、明らかに空気感にそぐわ無い服装の人間は排除される。

ならば如何に目立たず、堂々としてられるかがポイントだ。それを欠いては、色々不味い。

 

「あ、川崎いた」

 

カウンターに座ってみれば、目の前に探していた川崎がいた。まさかこうもあっさり見つかるとは思わず、結構拍子抜けである。

 

「申し訳ございません。何方様でしたでしょうか」

 

「同じクラスなのに顔を覚えられていないとは、流石比企ヶ谷くんね」

 

「雪ノ下に由比ヶ浜。それに転校生2人.......。じゃあ彼も総武高の人?」

 

どうやら同じクラスの同種であっても、比企ヶ谷の顔は覚えられていないらしい。コイツは常に光学迷彩でも起動しているのだろうか?

 

「で、何しに来たわけ?まさかデートって訳でもないんでしょ」

 

「まさかね。桑田くんなら分かるけど、横のコレを見て言うのなら冗談にしたって趣味が悪いわ」

 

またしてもボロクソに言われる比企ヶ谷。普通ならキレても可笑しくは無いのだが、それであっても「無闇に俺を巻き込むのやめてくんない?」で済ませている。正直、長嶺なら頭掴んで机に叩き付ける位はするだろう。

 

「.......お前の帰りが遅いって、弟が心配してたぞ」

 

「どうも最近周りが小煩いと思ったら、アンタ達のせいか。大志が何を言ったのか知らないけど、気にしないでいいから。もう関わんないで」

 

「シンデレラの魔法が解けるのは午前0時だけれど、あなたの魔法はここで解けてしまうわね」

 

いきなり意味深な発言をした雪ノ下に一瞬長嶺もコイツまで厨二か、と思ったがすぐに理解した。

 

「魔法が解けたなら、後はハッピーエンドが待ってるだけじゃないの?」

 

「それはどうかしら。人魚姫さん?あなたに待ち構えているのは、バッドエンドだと思うけれど」

 

「(真也、これどういう事?)」

 

「(脅しだ。本来なら深夜にバイトできないという、川崎にとっての弱点を使って力任せにゴリ押しで解決しようとしてる。まあ失敗するだろうから、適当に見てな)」

 

その間にも雪ノ下は「辞める気はないの?」とか聞いてるが、それで解決できるなら苦労はしない。

 

「あ、あのさ川崎さん。私もほら、お金ない時にバイトするけど歳誤魔化したりとかしてまで働かないし」

 

「別に。お金が必要なだけ。アンタらさ、偉そうな物言いだけど、私の代わりにお金用意できる?無理だよね。うちの親も無理なんだから」

 

「その辺りで辞めなさい。それ以上吠えるなら」

 

「ねぇ」

 

この辺りで長嶺は察した。この川崎という女、想像以上に人の本質を見抜いている事を。この後に続くのは今の口論相手である雪ノ下が、最も言われたくない弱点である事を。

 

「アンタの父親さ、県議会議員なんでしょ?そんな余裕のある奴に、私の苦労わかる筈ないじゃん」

 

この言葉が出た瞬間、雪ノ下の顔色が悪くなり見るからに動揺している。それを察したのか知らないが由比ヶ浜が「ゆきのんの家の事は今関係ない!」というトンチンカンなキレ方をした。その理論で行くなら、こちらが川崎家の事に首を突っ込む事も無理がある。

 

「お前達、ちょっと落ち着け。特に由比ヶ浜。お前、自分の言ってる事わかるか?」

 

「くわたんも川崎さんの方を持つの!?」

 

「いやいや肩を持つ持たないじゃなくて。お前の言った事、雪なんの家の事は今関係ない、だっけ?正にその通りだ。間違っちゃいない。だがな、それ言っちまったら俺達も川崎と大志の事、引いては川崎家の事情に首を突っ込む道理も消えるぜ?

それに雪ノ下。お前最初、川崎を脅してたろ?だがそれこそ俺達には関係ないだろ?例えば川崎が明らかな裏稼業、例えばヤクの密売なんかを仕事にしてるならこの限りじゃないだろう。だが今回はまあ、違法っちゃ違法なんだろうが、別にそんな俺達が首を突っ込む程の事でもない。お前は白黒はっきりしたい性格なのは分かるが、世の中正しさのみで生きていけたら楽だろうよ」

 

特に最後のは、長嶺が一番よく知っている。より良いものにする為に殺人を犯し、正常に戻していく。それこそが彼の生業であり、使命なのだから。

 

「あら、まるで違法でも良いと言ってるみたいね」

 

「そうだとも。生憎と、この世界は正しさだけで渡り歩ける程、単純じゃないのさ。時には何かを護るために、法や人の道に外れる事もやる。それこそが、この世の真理だ。

さて、話を戻そう。川崎、お前がバイトやってる理由を当ててやろう。お前、自分の学費の為にやってるんだろ?家族に迷惑掛けず、大学へ進学する為に」

 

川崎は何も言わないが、目が泳いでいる。図星なのだろう。

 

「大志くんは今年中三で、高校受験を控えている。塾にも行っているんだったな。中三の場合、塾代は大体年間13万程度。だがこれが大学受験となると、志望校で別れるとは言えど年間、公立は60万、私立は4、50万は掛かるとされる。

こんな額は流石に親も、いきなりポンとは出せんだろ。それにお前さんみたいなタイプは、そういうのを一人で抱え込むタイプだろうしな。さてさて、そんなあなたに面白い制度があるんだが知ってるか?」

 

「知ってたら、こんな事してるわけ無いじゃん」

 

「愚問だったな。スカラシップという制度が、塾によるが存在する。一定の成績であれば金額の一部、或いは全額が免除される制度だ。恐らく、お前さんの成績なら突破できる筈だ。

脅す訳じゃないが雪ノ下も言ってた通り、魔法はいつか解けちまう。それにこの事が学校にバレれば、まあ色々面倒だろうよ。俺にここ以上の賃金でありながら、深夜バイトにならない時間帯のバイトの伝手がある。そこで働いてみる気はないか?」

 

この提案、裏がある。今ここでバイトを紹介すれば、彼女にとっては大きな借りとなる。これを利用して近付き、タイミングを見計らってこちら側に引き摺り込む作戦である。

 

「.......アンタにメリットがないじゃん」

 

「あるさ。君みたいな美人に借りが作れる。借りはいつかきっちり返してもらうし、こういう貸しは作っておいて損はない」

 

長嶺こそ不適な笑みを浮かべちゃいるが美人と言われた川崎は顔を真っ赤にし、比企ヶ谷は呆れ顔、雪ノ下と由比ヶ浜は驚き顔で、オイゲンは般若というカオスな状況となった。

 

「その話、詳しく聞かせてよ////」

 

「いいぜ。だがまあ、明日とかにしようや。今日はそろそろ、お暇させて貰おう」

 

そう言いながらタッチ決済で、全員分の代金を支払い店から出て行く。その姿は同じ高校生ではなく、まるで沈着冷静なスパイ映画の主人公がミッションを終えた時の堂々とした歩みの様に見えたと、川崎とオイゲン以外の奉仕部メンバーが語ったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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超ハッカーのグリムがソフトウェアを。銃器から飛行機まで何でも作れる最強の技術屋、レリックがハードウェアを担当して制作した物。この作品を見続けている読者諸氏ならお分かりの通り、高性能なんて言葉で収まる性能ではない。モニターを三つ搭載し、処理能力は数百万クラスのデスクトップPCと同等である。なのに大きさや重さは標準的なノートPCというチート性能。




いつも本作品を見てくださり、本当にありがとうございます。
実はですね現在私が二つの作品を同時に書いてる事から、二週間に一本投稿なのはご承知の通りなのですが、恐らく4月からは投稿ペースが更に落ちる可能性があります。
というのも今年は個人的にリアルが多分超忙しくなるので、これまでの執筆時間が取れない可能性があるのです。それでもなるべく二週間に一本を目標に書いていきますし、書ける時に書いてストックも作る予定ですが、もしかしたら急に事前告知なくペースがガクリと落ちる可能性もありますのでご了承ください。
本作品含め、どちらの作品も失踪するつもりは毛頭ありません。ですのでペースが落ちてしまっても、気長に待っていただけたら幸いです。今後とも楽しんで頂けるよう、変わらず書き続けるので次回もお楽しみに!
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