期末テスト終了の3日後の朝 教室前廊下
「おいおい、何だあの人だかり」
「さあ?」
長嶺とオイゲンはいつもの様に登校すると、教室近くの廊下に人だかりが出来ていた。壁の辺りに紙が見えるので、恐らく何かの掲示物なのだろう。
「あ!もしかして、期末の順位じゃない?」
「.......あー、そういや中間の時もテスト終わった2、3日後にトップ50を貼り出してたな」
「何してるの?見に行くわよ!」
「あ、ちょ!おい!」
オイゲンは順位表に向かって小走りで見に行くが、長嶺にとっては別に順位なんて何でもない。1位なのは目に見えている。というか総武高校には別に勉学の為になんて来てないので、赤点取って追試コースじゃなければそれで良いのである。
(これ、私載ってるのかしら?)
50位から順に見ていくと、38位に自分の名前があった。前回の中間では慣れてなかったのもあって150人中113位だったので。今回は超大躍進といえる。
そのまま視線を一位にずらしていくとトップ3が分かった。3位は葉山で*1900点満点中、884点。2位は雪ノ下で891点、1位は長嶺で900点である。
「あ、真也!あなたトップよ!!」
「そうか。そう言うお前さんは、一体何位だ?」
「さ、38位」
「前回に比べりゃ大躍進じゃん。おめでと」
そう言って、神谷はオイゲンの頭を撫でた。この行為は周りにいた他の生徒にも見られており「流石にそれは殴られるんじゃね?」とか「羨ましい」とか「リア充爆ぜろ!」とか思われていたらしいのだが、当のオイゲン、いやエミリアはと言うと
「バカ///////」
何に対してのバカかはこの際置いておいて、この「バカ」の破壊力はえげつなかった。いつもは小悪魔的な笑顔を浮かべながら男を煽るタイプなのに、今見せている表情はそれとはかけ離れた物。顔を赤らめて、照れている純情な美少女である。
そのギャップと単純な顔と声の可愛さたるや、筆舌にし難い。尚言うまでもないのだが、その場にいた男子はオイゲンにイチコロであった。
「あ.......」
「この調子で順位をもっと上げるぞ」
頭から手が離れた瞬間、名残惜しそうな顔をしていたがそんな事気付く訳ない。というかバカ発言も、顔を赤らめている事も気付いてない。超絶鈍感朴念仁男なのだから仕方ない。
だがそんな2人を、柱の影から恨めしそうに見つめる男がいた。
(何でアイツがエミリアちゃんと居るんだ!!)
みんなの王子様こと、葉山くんである。コイツはオイゲンに恋しており、その恋心は最近になって段々と長嶺への憎悪にスライドし始めていた。
その事が後に、様々な厄介事に引き起こすのを今はまだ長嶺も、厄介事を引き起こす葉山も知る由はない。
ブーーー、ブーーー、ブーーー
長嶺はポケットに入れていたスマホのバイブが鳴っているのに気付き、スマホを開く。相手はグリムであり、その名前を見た瞬間「あー、出たくねー」と思わず思ってしまった。勿論、出ないといけないので嫌々ながら出る。
「はぁ。もしもーし。今回はどんな厄介事?」
『電話口では少し話せません。とにかく、鎮守府に至急ご帰還を』
「.......お前がそこまで言うのなら、ただ事では無さそうだな。すぐに帰還する」
グリムは戦闘こそ苦手だが、後方支援や指揮に関しては才能がある。なので戦闘民族もビックリな戦闘力を誇る霞桜であっても、副長をしているのだ。
そんな彼がこういう風に言ってくるというのは、それ即ち対応策を仰ぐ必要がある位のデカい厄介事という事である。
「エミリア、悪いが俺は早退する」
「何かあったのね?」
「あぁ。詳細は直接と言って来た辺り、余程の厄介事だろうよ。先公どもには適当に言っておいてくれ」
「わかったわ」
すぐに長嶺は荷物を纏めて、学校からこっそり出て行く。そのまま迎えの車に飛び乗って、ヘリポートに直行。ヘリに乗り換えて、鎮守府に帰還した。
30分後 江ノ島鎮守府
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「ダイドー、報告を」
「はい。一時間程前に影谷大佐がお見えになったのですが」
ダイドーはそれ以上を何故か語らない。影谷は下関基地の司令であり、最寄りである呉の提督をしている風間を飛ばして来ているあたり、何かあったと思われる。
「お前に会って、どうしたんだ?」
「その、泣いてしまいまして.......」
「な、泣いた?」
「はい.......」
ダイドー曰く、着いて早々に泣きながら「長官に合わせてください」と言ったらしい。
取り敢えずで艦娘からは大和と榛名。KAN-SENからは愛宕、ブレマートン、リノ、ベルファスト、翔鶴、ザラ、ポーラ辺りが順番に話を聞きに行ったらしいが泣き止む事はなく、今は応接室に通して放置してる状態だと言う。
「失礼します。ご主人様がお見えになりました」
「あー、ダメですか。あ、総隊長!」
部屋に入るとマーリンの姿があった。曰く「同じ男ならどうだ?」となったらしく、試しにグリムとマーリンが話してみたらしい。だが、ダメだった。
「なんか聞き出せた?」
「ダメでした。後はお願いします」
「OK。でだ、影谷大佐?一体何を泣いているのかな?」
お目当ての長嶺が来た事で泣き止み始め、どうにか話をしてくれた。
「サラトガと.......アイオワを.......助け.......てく.......ださい」
「サラトガとアイオワ?それって、お前さん配下の艦娘だよな。何を助けりゃいい?」
「2人とも.......怖い男の人に拐われたんです.......」
それを聞いてマーリンと長嶺は互いに顔を見合わせた。すぐにダイドーにベアキブルを呼んでくるように頼んで、詳しい話を聞いてみる。
「昨日、地域の祭りの帰りにコンビニ寄ったら、2人とも顔に傷のある怖い男の人に拐われたんです.......」
話を纏めるとこう言う事だった。昨日、地域の祭りがあってゲストとして2人を従えて出席した。その帰りにコンビニ寄ってもらい影谷が車から降りて買い物をしていると、顔に傷のある男に2人が車から引き摺り下ろされて、バンに乗せられて走り去ってしまったらしい。
すぐに警察に話したそうだが、子供の悪戯と思われてマトモに取り合ってもらえなかったそうで、ならば自分でと鎮守府の艦娘を動員して探すも見つからず、途方に暮れて白鵬に相談した所「長嶺長官なら、どうにかしてくれるかもよ」と言われてやって来たという。
「親父、お呼びで?」
「来たな。早速だが影谷。コイツに件の男の容姿を出来るだけ詳しく、言ってくれないか?」
いきなり現れた怖い顔の人に、影谷はまた泣きそうになる。だが目の前の男、自分の上官であり多分いい人の長嶺が呼んだのだから悪い人ではないだろうと思って恐る恐る容姿を話した。
「えっと、顔の鼻のあたりと頬に傷があって、白髪混じりの黒髪で、筋肉が付いてました」
「坊主、それは間違いないな?」
「はい.......」
「また厄介な奴に目をつけられたな」
ベアキブルは溜め息を吐きながら、ソファに体を沈めた。すぐに長嶺に向き直り、説明を始めた。
「鼻と頬に傷のある筋骨隆々な初老の男。コイツは十中八九、
「そんな輩が居れば、既に我々が葬っていそうなんだが?」
「コイツの主要な活動圏は中国や東南アジアで、日本には基本的に来る事はありません。また依頼が無いと動かないプロですので、自分から動く事はまず無いので名は知られていないんです」
「そのタイプか。てことは、誰かが依頼したって事になるな。
国防、いや。対深海棲艦の要である艦娘、それも戦艦と空母を連れ去るとは俺達も舐められた物だなぁ」
そう言うと長嶺は何かを決めたのか、応接室を出て行く。去り際に影谷に向かって「後は任せろ」とだけ言うと、鎮守府の地下にある本部へと向かった。
「お帰りなさい、総隊長殿」
「あぁ。早速だがグリム、例の件の監視カメラ映像を追ってくれないか?」
そう言うとグリムはニヤリとしながらキーボードを叩き、目の前の画面に地図を表示させた。
「そう来ると思いまして、既に追い終えています。どうやら拉致後は高速に乗って九州に入り、福岡の糸島まで向かっていますね。そこからどうやら船に乗り換えて、朝鮮半島に渡った様です」
「朝鮮半島か。それはまた、隠れるのには最適な場所だな」
現在の朝鮮半島は無政府状態であり、完全なる世紀末状態である。未だに謎が多くハッキリした事がわかってないのだが、北朝鮮と韓国が同時に攻め込まれたとも、反乱が起きて要人が暗殺されたとも、示し合わせて両国の政府の要人が自殺したとも言われている。
真偽はわからないが、少なくとも両国の政府要人がほぼ同時刻に亡くなり軍や警察のトップが軒並み死に絶えた。そんな訳で現在の朝鮮半島は軍閥や小集団で細かく分かれた戦国時代の様な世界になってしまっている。こんな状況に他国は介入する事を諦めてしまい、あっちこっちで紛争が勃発しており無法地帯化してしまっており、今では犯罪者やテロリストの天国である。
「どうしますか?」
「中華民国に古い友人がいる。ソイツに頼んで、情報を貰うさ。あ、そうそう。この一件は、基本俺が1人で暴れさせて貰うからそのつもりで」
「最近暴れませんもんね。わかりましたよ。でも、無理はしないでくださいよ?」
「わかってる」
そう言うと長嶺は執務室に戻り、中華民国の古い友人に電話を掛ける。
『どちら様?』
「久しぶりだな、張さん」
『その声!お前まさか、煉獄か!?!?お前は、死んだんじゃ.......』
張はその声に聞き覚えがあった。数年前、香港革命を起こした時に一緒に戦った戦友。最後は人民解放軍を足止めし目線を引き付けて置くための囮として、要塞の攻略に行ったきり連絡が無かった戦友からの突然の電話に驚いた。
「一度死んださ。だがまあ、今は五体満足に生きている」
『そうか、よかった。本当によかった!それで、一体どうして電話をいきなり寄越したんだ?』
「俺は今、連合艦隊司令長官をしている。長嶺雷蔵が今の俺の名だ。その仕事の関連で、ちょっと問題が発生してな。
『相変わらず、訳の分からん人生を歩んでんだな。そうか、
奴の根城は確か、朝鮮半島の昔のチュンチョン市にあるって噂だ。あの辺りは、一応ウチの諜報部員が出入りしている。すぐに探らせよう』
「感謝する」
長嶺は今からそっちに行く事を伝え、羽田空港に走る。そのまま中華民国の首都、香港に向かう便の座席を確保して香港へ飛んだ。
数時間後 香港国際空港
「
「
迎えに来たという、黒いスーツを着た男が車に案内する。車に乗るとそのまま、中華民国軍の総司令部に連れて行かれた。
「コチラデス」
総司令部に着くと、今度は少し日本語の怪しい女性が案内してくれた。エレベーターに乗り最上階へと上がり、廊下を進む。突き当たりにあった扉には『総司令官執務室』と中国語で書かれていた。
「
「
案内を終えると、女性は部屋から出て行き張と長嶺だけになる。
「久しぶりだな、我が戦友」
「あぁ、張のおっちゃん」
2人は久しぶりの再会に喜び合った。6、7年ぶりの再会であり、張は老けて長嶺は前より大きくなっていた。まるで親戚のおじさんと子供である。
「アイツらも元気か?冥府、烈風、極雷。久しぶりに会いたいよ」
「いや、アイツらは死んだ。皆、俺を庇って」
「.......一体、あの時なにがあったんだ?」
「要塞に向かった後、俺達は要塞の守備兵を殲滅した。その後きた応援部隊も、しっかり殲滅して役目を果たしていた。
だがタイムオーバーで、運悪く例の『死神』と遭遇。何とか逃げるも、試作戦車に出会っちまった。最初に極雷が能力を暴走させて自爆し、俺達3人はどうにかボートまで撤退。途中、更に『死神』に襲われて皆深手を負ったが、どうにか脱出には成功した。
だが特に傷の酷かった烈風は海に身を投げ、サメに襲われた時は冥府が身代わりとなった」
勘のいい読者諸氏ならわかるだろう。この脱出劇こそ、第一話にて長嶺が夢で見ていた物である。一体何故、長嶺達が中国にいたのか、死神とは何の事なのか。それはまだ、敢えて語らないでおこう。
「そんな事が.......。悪かったな、思い出させて」
「いいさ。お前にはアイツらの最期を知る権利がある」
「そう言って貰えると助かるよ。じゃあ、仕事の話をしようか」
今までの悲しみに満ちた声からは打って変わって、かつて共に戦っていた頃と同じ重厚感のある落ち着いた声に変わる。
「俺が帝国海軍の長官やってるのは言ってた通り何だが、ウチの部下の指揮官が自分の艦娘2人を例の
「煉獄。お前は
「プロの奴隷商みたいな奴って聞いているが?」
「その通りだ。なら奴隷の行き着く先は知っているか?」
「そりゃまあ、奴隷制の残ってる発展途上国か治安の悪い国か?」
意外かもしれないが、奴隷制自体は今も残っている国は実際にある。勿論先進国なんかは1900年代には基本ほぼ廃止されているが、中東や発展途上国には今も男尊女卑なんかの考えもあるので、残ってはいるのだという。
「勿論そっちに流すのもあるが、
「あー、そっちのパターンか」
「あれ?驚かないのか?」
「俺は長官業もやってるが、その傍で日本に害を成すクズを殺す仕事もしている。そういうタイプは見慣れてるし、というか何ならアフリカのURと戦争中だし。
多分その欧米の顧客って、金持ち連中とか貴族とか裏の権力者とかだろ?女は子供含め性奴隷で、男はコロッセオみたく殺し合いさせたりとかの血を流させる要因って所か」
さも「これが常識だろ?」と言わんばかりにズバズバ言う辺り、本当に世界の闇を10代後半にして見まくってるのだろう。昔から闇に生きていたとは言えど、やはり若い子供が深い『深淵の闇』とも形容できるドロドロとした暗い世界に居るのを突きつけられるのは何とも言えない。
「その通りだ。だが問題なのは、この
「引退?」
「かれこれ5年前の仕事を最後に、引退して隠居していた筈なんだ。しかもコイツは奴隷の商い、というよりは人攫いのプロだ。攫う手段、攫った者の輸送、攫った者の扱い方、事後処理に至るまで。その仕事は芸術とまで言われるほどに、とても鮮やかだと言う。
そんな奴のそれも引退した奴を動かしたとなると、余程の金を積まないと無理だ。実際、現役時代は相場の10倍の値段は積まないといけなかったって話だ」
長嶺は相場こそ知らないものの、少なくともその額はバカにならない事だけはわかった。となるとこんな事を頼める人間は大企業、国家機関、裏社会と言った大きな組織において、それなりの立ち位置にある大物と言う事である。
「それから電話で言っておいたヤツ。お前が来る少し前に情報が上がってな、それによると今夜辺りに何処かへと移動するらしい。どうする?」
「勿論乗り込んで、とっ捕まえて、拷問して、ゲロらせる」
「その容赦の無さっぷりも未だ健在、か。なら、久しぶりに私も暴れるとしよう」
そう言うと張は奥から腕、足、胴回りに甲冑を纏い、黒いコートを羽織って、手にはメリケンサック、腕にはナイフ、腰には拳銃、背中には青龍刀を装備した。
「
「まだまだ若いのに負けるつもりもないし、腕も落ちては無いぞ?」
「そうかい。なら俺も」
長嶺は持ってきていたキャリーケースを開き、いつもの戦闘服を着用する。全身に装甲を纏い、背中には持ち手が下に来る様に刀を装備し、左右の太腿には阿修羅HG、両腕にはグラップリングフック、腰にはジェットパック、そして顔には金色の狐をモチーフにした装甲面。
「それが今の装備か」
「あぁ。新・大日本帝国海軍、海上機動歩兵軍団『霞桜』総隊長。長嶺雷蔵、爆誕だ」
2人は飛行場までヘリコプターで向かい、そこからビジネスジェット機に乗り換えてチャンチョン市を目指す。
数時間後 チャンチョン市上空
『総司令!目標ポイントです!!』
「行くか!」
「おう」
2人は飛び降りてチャンチョン市の近くに着地する。着地したらパラシュートを片付けて、ローブを纏って市内に入る。
一応行政の書類上などでは「無人の廃都市」とされているが、実際は異なる。元はドラマ冬のソナタのロケ地として使われたり、タッカルビ発祥の地として、観光客で賑わう都市だった。だが今は綺麗な街並みは弾痕や焦げ跡が残り、落書きやら血で汚れた壁や塀。それだけならいいのだが
「なぁ、アレって首吊り死体?」
「この辺じゃコレが普通だ」
「なんか聖職者が見たら、発狂して死体が増えそうだな」
「心配すんな。ここは既に地獄の一丁目よ。聖職者にとっては、地獄は禁忌の地だ。来ることはない」
こんな冗談を言い合っているが、目の前の木には2、3人ばかし仏が首に縄を掛けられた状態で揺れている。それだけじゃない。通りを見れば包丁が刺さったままの死体、目玉が飛び出た死体、多分野犬か何かの動物に齧られたのだろう骨が見えてる死体等々。死体の見本市と化していた。
「よくこんだけ死体が散乱してても、伝染病が蔓延しないな」
「蔓延してるぞ。この辺りは長期間居れば、耐性がなけりゃ通りの死体に仲間入りだ」
「何ともまあ」
平然と歩いているが、常人なら吐きまくるだろうしトラウマ確定である。この2人は頭のネジが何本もすっ飛んでるので、この程度はなんとも思わない。
「この先は所謂、売春街だ」
「買いはしないが、嬢のランクは?」
「待ってな。5分おきには声をかけられる」
売春街を抜けるのに30分位掛かったが、声をかけられた人数は8人。1人目がBBA(7,80代)、2人目と4人目が40代のおばはん、3人目、5人目、8人目が20代の女、4人目が小学生位の女の子、7人目が男だった。
因みに総じてきつい臭いにガリガリだし髪ボサボサだし、極め付けは一目で重病と分かる性病を患っている模様。尚、顔は誰一人として可愛くなかった。スタイルは3人目と8人目は良い方ではある。
「ご感想は?」
「何か、色んな意味で悲しくなるわ」
「男が来たのは私も予想外だったな。ある意味レアだレア」
「そんなレアはいらねーよ」
そんな事を言っていると、不意に張が止まった。どうやらここが、目的地らしい。
「正面の家。アレが
「ほう。なら、
「その通りだ。やるぞ」
2人は武器を構えて、
「イィィヤァァァ!!!!!!」
青龍刀に切り捨てられる。この奇声を聞いて、ゾロゾロと周りの家から護衛達が出てきた。
「ざっと30ってところか。正面は任せた」
「後ろ任せた」
互い背中合わせで最低限の言葉を交わすと、各々の定めた目標に肉薄し斬り捨てる。物の1分で殲滅し、部屋の隅でガタガタ震えている
「黒腕の張が何でここに!?!?」
「旧友の頼みで、貴様を捕まえにきた。さぁ、知ってる事を洗いざらい教えてもらうぞ」
「い、いやだ!行きたくない!!生きたい!!」
「そうかそうか。じゃあ、行こうか」
「いやGOじゃなくて、LIVEの方だって!!」
そんな事を言いつつも、
そのまま中華民国に連行し色々と身体に聞いてみた所、依頼者がアメリカ海軍のムッキンゼイ大佐という男であった事。既にアジアを離れ、ムッキンゼイが指揮する基地に連れて行かれている事がわかった。
「もう行くのか?」
「あぁ。ここに来たのは、あくまでも仕事の一環だからな。落とし前を付けに行ってくる」
「そうか。また今度、遊びにでも来なよ」
「時間があればな」
別れを惜しみつつも、長嶺は鎮守府へと帰還した。そしてその足で、アメリカの国防長官であるフライゼンハワーに電話を掛ける。
『フライゼンハワーだ。アドミラル長嶺、何かあったのか?』
「フライゼンハワー長官、単刀直入に言うぜ?ウチの部下の艦娘を攫う事件が、そっちのムッキンゼイ大佐主導で行われた。これは、一体どういう了見だ?」
『.......マジで言ってる?』
「マジだ、大マジだ。というかこんな下らない冗談を、態々公式の回線使ってやるわけが無いだろ」
フライゼンハワーは電話口で頭を抱えた。何せこのムッキンゼイ、上層部にゴマをする事しか考えていない奴な上に、人命を軽視した作戦で深海棲艦を撃退していたりする。
一応深海棲艦を撃退した指揮官なので勲章が胸に輝きはしているが、優秀な部下が捨て身で挙げた戦果であってムッキンゼイの戦果ではない。だが本人は、さも自分が有能であると言わんばかりに勲章を見せびらかしている。その結果、完全なる人事上のお荷物と化している男なのだ。
『そのムッキンゼイなんだが、本当にやったんだよな?艦娘の誘拐』
「した」
『アドミラル長嶺、いや。霞桜の
「その言葉、二言はないな?」
『無いとも。ムッキンゼイが居るのは、太平洋孤島の軍事基地。チャップランドという場所だ。軍事施設以外存在しないから、暴れて貰って構わない。
というかその基地、人事上のお荷物&ゴミが行き着く先。懲罰部隊に近いからな。寧ろこっちとしては、経費削減代わりになって大助かりだ』
このチャップランド基地はアメリカ国家安全保障局、NSAが深海棲艦が攻め込んでくる際の侵攻ルートを分析した際に驚異度の一番高い海域に設立された、言わば出城である。
しかし出城の体裁を取っているが、実際の所は問題行動の多い軍人を放り込む為の流刑地兼ゴミ処理場である。アメリカの世論は深海棲艦への対抗のために、軍人や関係者が『勇者』という風になっちゃっている。お陰で深海棲艦が現れる前では確実にクビになる事も、少々は大目に見られる様になった。だが余りに不良軍人が増えてしまった為、他の軍人に影響を及ぼさせない為にチャップランドへと隔離されるのである。
しかも一応の名目である『深海棲艦侵攻時の出城』という目的すら達成される事はない。侵攻が確認されれば、すぐに補給線や通信ラインを遮断される。文字通り「死守」させるのである。
「それで?ムッキンゼイ以下、チャップランドの人員をそっちとしては殲滅して欲しいって所か?」
『ぶっちゃけるとな。こっちとしては経費削減にもなるし、軍の面汚し共を一掃できる。そっちは犯人にお灸を据える事ができて、事情を知り得た者には見せしめとなる。WIN-WINじゃないか?』
「.......なんか、乗せられてる気もしなくは無いがいいだろう。チャップランド基地は新型深海棲艦によって、殲滅される事になるな」
いいように利用されてる気もするが、長嶺的にはアイオワとサラトガを奪還してムッキンゼイをぶっ殺せればそれでいい。というか寧ろ、暴れられるのならそれに越した事はない。
翌朝 チャップランド基地 上空
「我が主、目的地のチャップランド基地だ」
「意外と小さい島なんだね。哨戒艇や輸送船が停泊できる港湾設備、まあまあ大きな航空基地、対空機関砲や大型の速射砲、ミサイルなんかは大量にあるみたいだね」
「まあ一応は出城って名目だし、それなりには装備があるんだろ。関係ないけど」
例え戦車が何百両いようと、空母が何十隻いようと長嶺にとっては有象無象の輩に過ぎない。その全てを殲滅してしまえる力を持っているのだ。
「さて、じゃあ暴れようか」
八咫烏から飛び降りて、そのまま真っ逆さまにチャップランド基地を目指す。着地直前に弾種をスモークにした大蛇GLを使って、煙幕を展開してから着地する。
不良兵士達はいきなり発生した煙を見て、武器を持って煙の周りを固めた。煙が晴れるとそこには、黒いSFじみたボディアーマーを装備した人間が立っていた。しかも武器を構えて。
「チャップランド基地の諸君。君たちに恨みはないが、死んでもらうぞ」
そう言った次の瞬間、長嶺は手近な兵士2人の首を斬り落とした。一瞬の出来事に兵士達は、ただただ呆然としている。
「どうした?来いよ」
「ファッッッッック!!!!!!!!!」
1人のデカい兵士がM249軽機関銃を連射し始める。それに釣られて、他の兵士達も自分の持つ銃のトリガーを引いた。
(単調な弾幕射撃。並の人間なら、蜂の巣となって肉塊に加工せしめるだろう。だが)
「その程度で俺を殺せるものか!!!!」
弾丸の雨を避けて、敢えて肉薄攻撃を仕掛ける。弾幕を張られたら、普通は遮蔽物に走るのがセオリーというか、そうしないと死んでしまう。接近なんて自殺行為である。
だが逆にそれは、つけ込む隙となる。遮蔽物に逃げ込もうとすれば位置的に相手に背中を見せる事になるし、何より相手も逃げると考える。しかし、接近してきたらどうだろう?相手は絶対にあり得ないと考えていた戦法を取られて、動揺してしまうのは間違いない。一瞬でも冷静さを欠けば最後、長嶺からは逃げられない。
「何故近づいていてくる!?」
「キチガイだ!!!」
「ビースト!ビーストだ!!!!」
「その程度か!!!!」
幻月と閻魔によって、周りにいた一個分隊程度の米兵達は一瞬で殺された。だが仲間の1人が、他の兵士が殺されている間に電話へと走った。
「こ、こちら第二格納庫!!正体不明の敵が侵入中!!!!国籍、所属不明!!!!一切検討も付かない!!増援をkゴブッ」
「はーい、花火の用意ありがとねー。だけどお前、もう用済み。死んでろ」
背後から心臓を一突きで刺し、電話中だったが絶命した。
だがこの兵士の報告は指令室に繋がっており、すぐに基地全体が緊急事態を報せる警報音が響く。兵士達は寝床から飛び降りて配置に付き、各所にお粗末な防御陣地を構築し出した。
「主様ー、機関砲や速射砲は全部潰したよ。次はどうする?」
「お前達は、あー適当に暴れてこい。兵舎とか燃料タンクや弾薬庫に火をつけるのもいいな。でもムッキンゼイは残せよ?」
「わかった!」
指示通り犬神は兵舎のある区画に向かい、八咫烏は燃料タンクなどのある資源保管区画に飛んだ。一方の長嶺は他の格納庫諸共爆破した後、指令室も兼ねている管制塔に向かった。
「急げ!会議室前に兵員を集結させ、そこで..............」
「よお?」
指揮官役をしていた少尉が周りにいた兵士達に命令を飛ばした時、既に部屋の外には鎌鼬SGと月華LMGを構えた長嶺が居た。
思いがけない敵との遭遇に浮き足立っていた兵士達だったが、何人かはライフルを向けてきた。
「いや遅」
だが構えて狙うまでの僅かな間に、長嶺は両手に持った銃のトリガーを引いた。
鎌鼬SGは「SG」とある様に、ショットガンである。しかし装填方式がポンプアクションやセミオートではなく、フルオート射撃可能なAA12に近い物である。また月華LMGも四つの銃身を持ち、5.56mmと7.62mmの二種類の弾丸が同時に発射される化け物機関銃。こんな装備の奴が狭い廊下に立っていれば、もう逃げ道なんて存在しない。ものの数秒で10人近い米兵が血祭りに上げられた。
「不良兵士って言うから、もうちょい強いのを期待してたんだけど。これじゃ興醒めだまったく」
そう愚痴りながらも右手に朧影SMG、左手に阿修羅HGを持って逃げ惑う兵士達を片っ端から掃除でもするかの様に殲滅していく。
窓の外を見れば兵舎が氷漬けになってたり、血塗れになってたり、中から弾け飛んでいる。反対方向にある大型燃料タンクを始めとする資源保管庫がある区画は、大爆発を起こしてから小規模の爆発を何度も起こし続け周りは火の海。でもってお約束なのだが、あちこちに兵士達の死体が転がっている。
「ん?ここが指令室か」
適当に階段を降ると、指令室があった。今度は薫風RLと大蛇に持ち替えて、指令室のドアを開ける。
「な!?」
「ハロー。&バイバイ」
ドアが開いたと思ったらロケットランチャーとグレネードランチャーを両手に持っているという、ランボーやコマンドーよりもエゲツない装備に度肝を抜かれて硬直してしまうオペレーター達。後はお察しの通り、中のコンピューターやら色んな謎の機械も一緒に吹き飛ばす。
「それじゃあ次は、基地司令の部屋にでも行こうか」
そのまま奥まで進むと、突き当たりに重厚な扉があった。感覚を研ぎ澄まして中の気配を感じ取れば、4人が中にいる事がわかった。2人が部屋の右側いて、残る2人がドアの真正面にいる。恐らくドアの真正面にいる奴は、何かしらの武器を構えているのだろう。部屋の右側にいるのは、睨んでいた通り艦娘と思われる。
「こういう時の平泉は楽でいい」
長嶺は左腕に装備してある平泉TSを体全体が覆える様に最大化させて、ドアを突き破って突入した。
「撃て!!」
ズダダダダダダダダダダダダダ!!!!
やはり2人の男がMG14zを連射してきた。平泉は12.7mmの対深海棲艦徹甲弾を防げるシールドなので、歩兵火器程度でどうこうできるほどヤワじゃない。
暫くすると弾切れなのか、銃声が止んだ。
「フハハハ!!誰かは知らぬが、私と2人の蜜月は邪魔させん!!!!」
「ムッキンゼイ司令の仰る通りです」
「その程度で俺を倒せると思っているとか、中々におめでたい連中だな」
銃撃で生まれた煙の中から長嶺が、平泉についたライトを灯しながら飛び出す。100万カンデラというスタングレネードと同等の光に目を眩ませて、身動きが取れなくなる2人。その隙をついて2人に盾を押し付けて、電撃を食らわして気絶させる事に成功した。
「アイオワとサラトガ、で間違いないな?」
「あ、あなたは?」
「新・大日本帝国海軍、連合艦隊司令長官の長嶺雷蔵だ」
そう言いながら、面を外して素顔を見せる。その顔を見て安心したのか、2人とも気を失った。取り敢えず2人を担いで、男2人を犬神に運ばせて外に出る。
外に出ると既に、迎えの戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』が到着していた。
「長官!!」
「おう影谷。アイオワとサラトガ、無事保護できたぞ。救助が着て安心したのか気を失ってはいるが、特段まだ何もされては無かったらしい」
「ありがとう.......ございます.......」
泣きながらそう言うと、アイオワとサラトガの顔を見に来た。ただ眠ってるだけなので、安心はしたらしい。というか見に来たタイミングで目を覚まし、地面に2人を下ろした。
「にしてもまぁ、またド派手に暴れて」
「なんだ、お前達も暴れたかったか?」
「そりゃそうですよ!バルクの兄貴も、この俺も、何方も暴れん坊ですぜ?暴れたかったに決まってんでしょ!!」
影谷の護衛でついて来ていたバルクとベアキブルがそう言って戯けていた。そんな事をしていると、例の男2人が目を覚ました。
「お前がムッキンゼイ、で間違いないな。片方は、副司令ってところか」
「貴様!私がアメリカ軍大佐と知っての狼藉か!?!?」
「私たちに手を出せば、合衆国が黙ってないぞ!!!!」
拘束されているので、身動きは取れない。だがそれでも減らず口を叩いており、流石の長嶺も機嫌が悪い。なので目の前のサンドバッグで憂さ晴らしする事にした。
2人の顔面に蹴りをぶち込んだりして。
「ピーピー、ピーピーうるせぇな。お前らこそ、仮にも他国の上位階級者に対してなんだ、その口の聞き方は?それに合衆国が黙ってない、だっけ。これは国防長官も同意の上で、行われている物だ。既に見限られてるんだよ、お前達は」
事実を突きつけられたのがショックだったのか、苦虫を潰した様な顔になった。だがその顔は、すぐに絶望に染まる事になる。
「影谷。お前、コイツらの始末をつけるか?」
「え?」
「護身用のコルト ディフェンダーを使うといい。一応ナニされる前だったとは言えど、コイツらのやった事もと やろうとしていた事は普通にアウトだ。お前が始末つけたところで、別に構いはしない」
「それは命令ですか?」
「いいや。ただどうせ殺すから、それなら復讐代わりに殺してもいいよ、ってだけ。別に断っても何かの評価を下げるわけでも無いし、ペナルティーを課すこともしない。
あくまでもお前の自由意志の元、影谷悠真として決断しろ」
少し考えると、一言「できません」とだけ答えた。まあこう言う回答になるとは思っていたので、長嶺も「そうか」と答えた。
だが別に影谷が断っても、殺される未来は変わらない。にも関わらず、ムッキンゼイと副司令は安堵の表情を浮かべていた。
「じゃあ、俺が遠慮なく殺すわ」
「「へ?」」
まずは副司令の口に鎌鼬の銃口を突っ込み、トリガーを引く。目の前で何の躊躇なく殺された副司令を見て、ムッキンゼイは走って逃げようと立ち上がった。
「ゴブッ!」
だが立ち上がった瞬間、長嶺の手が喉を貫通してムッキンゼイを絶命させた。
「俺の可愛い可愛い艦娘達を連れ去った挙句、大切な部下を泣かせたんだ。その罪、死を以って償え」
そのままムッキンゼイは力無く地面に倒れた。影谷はいつも優しくて、密かに憧れを抱いていた長嶺にショックを.......受けるかと思いきや、鮮やかな手際に寧ろ「カッコいい.......」と思ってしまっていた。
「さーて野郎共!アイオワとサラトガも助け出したし、ムッツリゼイも殺したんだ。こんなクソみたいな場所からは、早いとこおさらばして帰還するぞ!!」
「この基地はどうします?」
「そんなの、基地ごと吹き飛ばして消すに決まってんだろ?」
実は既に爆弾を仕掛けており、後は起爆するだけなのである。その証拠に長嶺の手には、起爆用のリモコンが握られている。
黒鮫に全員が乗り込むと、江ノ島に進路を取り始めた。ハッチは敢えて開けっ放しである。
「おい影谷!今回の事件の幕は、お前が引け。これは命令だ」
「幕を引け?どうればいいんですか?」
「このスイッチを押せば、あの基地は完全に消え去る。文字通り、事件の終焉の幕のスイッチだ」
「わかりました。押します!」
影谷はリモコンを受け取ると、すぐにスイッチを押した。小型核爆弾並みの威力を持つレリックを使った新型爆弾が起爆し、チャップランド基地は島ごと消え去りカバーストーリーの「深海棲艦の襲撃で消滅した」というニュースが世界を駆け巡った。こうして事件の幕は、影谷の手によって下ろされたのであった。
今回登場した新キャラの紹介
張 趙雲(ちゃん ちょううん)
年齢 54歳
階級 陸軍大将
役職 新・中華民国陸軍総司令長官
元は人民解放軍大佐だったが、中華民族解放戦線、通称CNLFと呼ばれる組織の一員でもあった。このCNLFが香港革命を引き起こした組織であり、張は革命時にCNLFの軍事指揮官として志が同じ軍人を集めて決起。その後の緒戦に於ける活躍から『黒腕の張』の異名を持つ。
張と長嶺はかつての戦友であり、長嶺は香港革命に於いて記録には残っていないが並々ならぬ貢献をしており、新・中華民国上層部もCNLF古参組出身の奴らは、結構長嶺の過去を知っている。
ドーベック・S・フライゼンハワー
年齢 62歳
役職 アメリカ国防長官
国防長官になる前はアメリカ海軍第7艦隊の司令で、初期の深海棲艦との海戦にも参戦している。軍神として東川と山本が崇めらているように、フライゼンハワーも英雄として尊敬されている。
アメリカの国防長官であるが、超がつく日本オタク。政治も親日的であり、今の深海棲艦を日本が独占する事を容認させる為に助力した。表向きは「日本にしか艦娘が無ければ、深海棲艦の攻撃目標は日本に向くからこっちは安心」というスタンスだが、その真意は日本には軍神の2人もいるし長嶺という最強戦力がいる事を知っていたので、世界の命運をコイツらに託して好き勝手やって貰った方が良いだろうという考えから。
そんな訳で張や東川程ではないが、長嶺の過去も知ってはいる。