最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第四十四話千葉村森林戦

翌朝 05:30

「.......ん」

 

いつもは4時には起きて、そこからトレーニングを開始するが、流石に今日はいつものメニューをこなすと人外判定を食らうのは間違いないので、軽くパルクールと森を縦横無尽に動く忍者走位に止める。

なのでこの時間に起きたが、やはり誰一人として起きていない。皆、まだ夢の国へと旅行中らしい。

 

「さて、行きますか」

 

「ふわぁ、おはよう桑田くん」

 

「あ、ごめん起こした?」

 

ベットから静かに抜けたつもりだったが、どうやら戸塚を起こしてしまったらしい。目を擦りながら、むくりと起き上がった。

 

「ううん。僕、いつもこの時間には起きてるんだ。桑田くんも?」

 

「いや、いつもはもう少し早い。お前は起きて何するんだ?」

 

「朝練に行くか、自主トレだよ。桑田くんは?」

 

「俺も同じだ。あ、そうだ。どうせなら、俺のガチメニューでもやってみるか?」

 

「やりたい!」

 

とまあ、一緒にトレーニングする事になったのだが、戸塚はこの選択を、後にメチャクチャ後悔した。

 

 

「本当なら走り込みとか筋トレとかをするんだが、今日は俺のやってるトレーニングで『忍者走』というのをやろうと思う。

 

「忍者走?」

 

「パルクールの上位互換だな。試しにやってみせよう」

 

そう言うと長嶺は走り出し、手近の岩に飛び乗って、そのまま上の枝を掴んで腕の力で身体を上までグルリと持ち上げた。普通なら出来ない動きを、まるで当然かの様にやり切った姿を見て、戸塚は驚くよりも信じられなくて固まっていた。

 

「フッ!」

 

今度は枝から枝、岩から岩へと素早く飛び移りながら森を立体的に駆ける。その姿は映画やアニメで見る、イメージ通りの忍者であった。

 

「まあ、ざっとこんなもんよ」

 

「桑田くんのトレーニング、出来そうに無いや」

 

「あー、やっぱり。俺も言ってて無理そうだとは思ってた」

 

微妙な空気が2人の間を流れるが、なんやかんやあって結局筋トレと走り込みに落ち着いた。

 

 

 

08:30 食堂

「さて、お前達。今日の予定だ。夜に肝試しとキャンプファイアーをやる予定だ。昼間、小学生達は自由行動なので、その間に準備をしてくれ」

 

どうやらキャンプファイアーのタイミングでフォークダンスをするらしくして、女子と葉山グループの男子は盛り上がっている。

 

「フォークダンスね」

 

「お前、出来るの?」

 

「一応、これでも鉄血の顔役よ。あっちでビスマルクについて行って、何度か社交会に出た事はあったけど」

 

「そう言うのはロイヤルに任せる、か?」

 

「あったり〜」

 

やはりオイゲンは、フォークダンスや社交ダンスというのは苦手らしい。そういう長嶺はというと、そういう役に変装することもあったので、一応基礎は全部できる程度には分かる。面倒だからしたく無いけど。

 

「肝試し用の仮装セットはここにあるみたいだから、手分けしてやってくれたまえ!」

 

「「「「「「はーい」」」」」」

 

食事後、男子班と女子班に別れて準備を始める。女子は仮装関連の準備で男子は力のいるキャンプファイアーの準備となった。

なのだが、どうやら丸太から切る必要があるらしいのだが問題があった。

 

「斧、錆びてね?」

 

「他の斧は無いのか?」

 

「斧はこの一本だとさ」

 

そう。この千葉村にある唯一の斧がサビサビで、全く使い物にならないのだ。

 

「あ!桑田くんのナイフで切れば、楽勝っしょ!」

 

「一応タングステン製の軍用モデルだが、削るのはともかくキャンプファイアー用のサイズとなると無理がある」

 

「しゃーない。平塚先生に頼んで、買ってきてもらおう」

 

しかし、そうなると色々面倒になりそうな予感がする。自分達でどうにかしろとか言ってきそうなので、秘密兵器を投入する事にした。

 

「大丈夫だ。ナイフ以上に、最高のヤツがある。ちょっと待っててくれ」

 

一旦部屋に戻るフリをして、八咫烏から幻月を出してもらう。そしてある程度のタイミングを見計らって、さっきの場所に戻った。

 

「お待たせ」

 

「お前それって」

 

「日本刀だべ!!かっこいいっしょ!!!!桑田くん、オネシャス!触らせてほしいっしょ!」

 

何も知らない戸部はそう言うが、勿論断る。だが葉山が「僕からも頼むよ」とか言ってくる。

幻月は言ってしまえば妖刀。長嶺が使うから真の力を発揮して、マトモ以上に使えている。だがしかし、一般人が使うと必ず不幸を呼ぶ。実際、何も知らない霞桜の隊員が持ち運んだだけでも翌日にその隊員は事故にあって、全治二ヶ月の骨折を負った。しかも両足、両腕である。

 

「どんなに頼んでもダメ。この刀、マジの妖刀なんだ。俺はこの刀に認めてもらってるから使えるが、お前達が使ったら確実に不幸を呼ぶぞ。文献では刀を抜いた奴が、抜いた瞬間に雷に打たれて死んだとかあったし、何も知らない知り合いがちょっと触っただけで、翌日には交通事故で両足と両腕を複雑骨折したし。

多分、呪いの力は本物だから、そういう目に遭っても良いのなら触っていいぞ」

 

流石に2人とも黙った。因みにもう一つの愛刀、閻魔は刀が認めないと抜く事も出来ない。

 

「そんじゃ、やるか。お前ら、適当に投げてくれ」

 

「は?」

 

「お前らが投げた丸太を両断するから、ほら!早く早く」

 

半信半疑で葉山が最初に投げた。すぐに刀を抜いて、縦に両断する。一瞬の事に葉山達はポカーンとしているが、すぐに戸部が「スゲーっしょ!!」と大騒ぎした。

 

「まるでルパンの五右衛門だべ!しかも刀身が蒼白いのもイカすべ!!」

 

「面白いだろ?でもこれ、素材は玉鋼で普通のと同じなんだよなぁ」

 

「不思議だな」

 

その後はすぐに丸太を切り刻んで、手早くキャンプファイアーのヤグラを組んだ。何もする事が無くなったので予定通り、水着に着替えて川で遊ぶ事にする。

因みにこの事は事前連絡で来ていたのだが、比企ヶ谷には来てなかった(というか、小町が言っていない)らしく水着がないらしい。

 

「じゃあ、昨日の服でも着ればよくね?」

 

「その手があったか」

 

長嶺の機転で水着をゲットし、いざ川へ。

 

 

 

十数分後 川

「きゃっ、冷たーい!」

 

「あ、お兄ちゃんだ。こっちこっちー!」

 

見れば既に由比ヶ浜と小町が遊んでいる。因みに葉山と戸部は小学生達に捕まり、下の方へ連行されて行った。

 

「見て見てー!新しい水着だよぉ?」

 

小町がそう言いながら、色々ポージングする。で、その後に比企ヶ谷に感想を求めたのだが、感想がこれ。

 

「そうだな、世界一可愛いよ(棒)」

 

流石の小町も「うわー、適当だなー」と突っ込んだが、どうやら小町の方が一枚上手?だったらしい。由比ヶ浜を巻き込んで、感想を聞きにくる。

知っての通り、由比ヶ浜は何がとは言わないが大きい。なので男には刺激が強く、流石の比企ヶ谷もチラチラ見ている。まあ長嶺は超絶鈍感朴念仁男だし、仮にそうじゃなかったとしても艦娘とKAN-SENという顔、スタイル、性格の全てに於いて完璧な女性が数百人も周りにいる以上、なんとも思わないだろう。

 

「あら、2人も来たのね」

 

茂みの奥から、水着姿のオイゲンが出て来た。三桁クラスの大きな胸、くびれた健康的な腰、大きいが醜くない美しいお尻、ムチムチの太腿と由比ヶ浜以上のボディを持つオイゲンが、今回は黒のビキニに身を包んでいる。因みに黒のビキニのデザインは、着せ替えスキンの色褪せないエガオである。

小学生が見たら恋どころか、性癖がバグりかねない姿を見た結果、比企ヶ谷は川の前で膝を突き顔を洗い出した。なんかガボガボ言っているが、何を言っているのかは分からない。

 

「あら、川に向かって土下座?」

 

「なんだ、比企ヶ谷達も来ていたのか」

 

今度は雪ノ下と平塚も現れた。雪ノ下は白のワンピース型の水着で、平塚は白のビキニにパレオを着けている。

 

「平塚先生、やるじゃないですか。アラサーって言ってグボッ」

 

「私はまだ立派なアラサーだ!」

 

ツッコミのパンチを腹に喰らい、悶絶する比企ヶ谷。その後ろを水着姿の三浦と海老名が通り過ぎる。だが雪ノ下の後ろを通った瞬間、三浦は勝ち誇った顔をしながら「勝った」と言って通り過ぎた。

 

「まあ、お前の姉ちゃんはあーだから、遺伝子的には期待できると思うぜ?」

 

「姉さんが何か関係あるの?」

 

「大丈夫ですよ!女の子の価値はそこで決まらないし、個人差あるし、小町は雪乃さんの味方ですよ!」

 

「はぁ、どーもありがとう?姉さん、遺伝子、価値、個人差.......。はぁ!」

 

どうやらやっと、自分の慎ましやかなまな板πの事を言われている事に気が付いたらしい。

余程恥ずかしいかったのだろう。その慎ましやかなまな板πを手で覆いながら、怒涛の言い訳を並べ出す。

 

「別に本当に全く気にして無いのだけれど、外見的特徴で人の評価が決まるのなら相対的に為されるべきで、一部ではなく全体のバランスが対象に」

 

「雪ノ下。まだ諦める様な時間じゃない」

 

平塚が雪ノ下を慰めた。そうこうしていると連行されて行った葉山と戸部も帰ってきて、川遊びが始まる。と言っても水鉄砲も無いので、水をバシャバシャ掛けるだけだが。

 

「それ!」

 

「もぉ、小町ちゃん!」

 

平和だねぇ。一応ウチの国、戦時下なんだが。にしても、こういう風に無邪気に遊べたら良いんだがなぁ。俺はそういう風になれる、その基幹を作る部分は全て戦場にあった。アイツらとの日々も楽しかったが、一回くらいはこんな風にしたかっt

 

バシャッ!

 

「冷てっ!?」

 

「なーに、難しそうな顔してるの?ほら、真也も来なさい!」

 

「うわっちょ!」

 

そう言ってオイゲンに川へと引っ張られて、一緒に水掛け遊びに参加した。オイゲンからすれば、別にどうという事は無い行動だったのだろう。だが長嶺にとっては、とても嬉しい物だった。

 

 

 

02:00 更衣室

「確か、肝試しのお化けって言ったよな?」

 

「なにこの安っぽいコスプレ」

 

取り敢えず川遊びも終わって、昼ご飯も食べ終わった。いよいよ夜に向けて、お化け用の仮装セットの試着に来たのだが、明らかにドンキとかに売ってる安っぽいコスプレセットなのだ。

セーラームーンっぽい魔法少女、巫女服とフリフリのスカートが融合したヤツ、グレイとかいう宇宙人、果ては恐竜やら超大型巨人まで。ラインナップはこの上なくひどい。

 

「たかーまがーはらーにー」

 

早速着替えた海老名が、お祓い棒と魔法のステッキ的なのが融合した棒を振りながら、謎の言葉を言っている。

 

「無駄に本格的だな」

 

「私、陰陽師物もイケる口だから!」

 

今度は戸塚が出て来た。因みに格好は魔法使い。

 

「魔法使いって、お化けかな?」

 

「分かりにくいガチ物を持ってくるより、魔法使いみたいな方が分かりやすいだろ。ただ」

 

「ただ?」

 

「服のデザイン的に、どう見てもファンタジー系の魔法使いだからなぁ。ちょっと入らないかも」

 

同じ魔法使いでも、確実に悪と分かる格好なら良かった。オーバーロードのアインズ様みたいなのとかなら。だが戸塚の着ているコスチュームは、シンプルな子供向け魔法使いの格好で迫力には欠ける。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「じゃーん!」

 

今度は小町が来たのだが、これはなんと言えば良いのだろう。茶色のネコ何だろうが、怖い云々じゃなくてパーティーでふざけて着るネコの格好である。しかも着ぐるみタイプじゃなくて、手にデカい肉球とか付けるタイプなので怖さゼロな上にリアリティもゼロと来た。

 

「なにそれ、化け猫?」

 

「多分?まあよく分かんないけど、可愛いからいいかなーって!」

 

どうやら着てる本人もわからないらしい。すると雪ノ下がどこからとも無く現れて、耳や尻尾を触って謎の鑑定が始まった。表情から察するに50〜60点位の、何とも微妙な点数だったのだろう。

因みに雪ノ下の格好は和服で、多分色合い的に雪女辺りをイメージしてるのだと思う。由比ヶ浜は安っぽい材質のサキュバス。

 

「これ、グナイゼナウから借りてくれば良かったかしら?」

 

「あー、確かサキュバス系のコス自作したって言ってたな。そうだ、今度ウチでもやってみるか?」

 

「仮装パーティーってよりも、コスプレ大会になりそうな気がするわ」

 

長嶺とオイゲンは今回、裏方での仕事となっているので着替えてはいない。だが今回の場合、寧ろそれがアタリだったと思う。正直、あんな格好はしたくない。

 

「それで件の問題、どうするのかしら?」

 

「やっぱり瑠美ちゃんが、自分から話すしかないんじゃないかな?」

 

瑠美ちゃん、もとい例のボッチ小学生が川遊びの時に比企ヶ谷へ愚痴っていたらしく、比企ヶ谷は恐らく何かをこの肝試しで仕掛ける予定なのだろう。

このタイミングでなったのは比企ヶ谷に取っても好都合だろうし、ここは敢えて何もせずに静観を決め込む。まあ葉山にちょっとばかし呆れていて、危うくツッコミそうになるが。

 

「多分それじゃ、瑠美ちゃんがみんなに責められちゃうよ」

 

「じゃあ1人ずつ話し合えば」

 

「同じだよ。その場では良い顔しても、裏でまた始まる。女の子って隼人くんが思っているより、ずっと怖いよ?」

 

良い感じに葉山の意見は、同じグループである筈の由比ヶ浜と海老名によって捩じ伏せられている。

 

「なぁ、俺に考えがあるんだが」

 

「ロクな考えでは無さそうね」

 

「まあ聞け。折角の肝試しだ、これを利用するに限る」

 

ようやく比企ヶ谷のターンらしい。そして雪ノ下。ロクな考えじゃないと聞く前に決めつけるのなら、お前はそれ以上の良案を持っているのか?

 

「どう利用するの?」

 

「人間関係に悩みを抱えるのなら、それ自体を壊してしまえば悩む事は無くなる。みんながぼっちになれば、争いも揉め事も起きない」

 

比企ヶ谷の作戦はこうだ。肝試し中に幽霊では無く現実的な恐怖を与えて、人間関係を壊そうというのだ。具体的には誰かが脅すなり何なりして、2人だけ差し出せば許してやる的な流れに持っていって、仲間割れを引き起こそうという物らしい。

この作戦自体、最悪の場合は失う物も大きいが幸いな事に最適な人員がいる。

 

「その役目、誰がやるんだ?」

 

「俺としては葉山、戸部、三浦がいいと思ってる。なにか問題が起きてもトップカーストで成績も葉山以外もそこそこだし、人間性で問題を起こした事はないから、多分問題にはなりにくい。最悪の場合は捉え方の違いとかで誤魔化せる。

そして何より、コミュ力に関してはお前達が一番高いからな」

 

「わかった。みんなやろう!」

 

こういう時、みんなの先頭に立つ葉山は乗せやすい。自分はコミュ力無いとか言っている比企ヶ谷だが、コイツは自覚がないだけで人を操る事だって出来るくらいにはコミュ力がある。益々欲しくなる人材だ。

 

 

 

夜 森の前

「そろそろかしらね?」

 

「あぁ。お、噂をすれば何とやらだ」

 

茂みの中に隠れるオイゲンと長嶺。この2人は今回の作戦で、何かあった際の予備兵力として近くで待機している。LINEの画面には小町から「今行きました!」というメッセージが表示されており、作戦が始まったらしい。

 

「それじゃ、アレ頼む」

 

「はいはい」

 

オイゲンは懐中電灯の光を点けて、向こうの茂みで待機している葉山達に合図を送る。向こうからも「了解」の合図として懐中電灯が点いたので、作戦はいよいよ始まろうとしていた。

 

 

「あ、お兄さん達だ!」

 

「超普通の格好してる。ダッサー」

 

「この肝試し、全然怖くないし」

 

「高校生なのに頭悪ーい!」

 

出会って早々、ボロクソに言ってくる小学生達。仮にそういう作戦がなくとも、普通にキレて可笑しくない言動である。そしてそれは初手で仕掛ける戸部と三浦も同じだった様で、軽く本気の入った脅しが始まる。

 

「あぁん?なにタメ口聞いてんだよぉ?」

 

「ちょっとアンタら、調子乗ってんじゃないの?別にあーしら、アンタらの友達じゃないんだけど。つーかさー、超バカにしてる奴いるよねぇ?アレ言ったの誰?」

 

「ノリノリね」

 

「いやまあ、普通にキレるだろアレ」

 

思ってたよりもノリノリで脅してる2人に、長嶺とオイゲンは内心では少し笑っていた。だが事情を知らない小学生達は怖がっており、明らかに顔が青褪めてるし泣きそうにもなってる。

 

「ご、ごめんなさい.......」

 

「誰が言ったか聞いてんの!」

 

「ナメてんのか、オイ!」

 

近くの木に蹴り入れる女子高生とガチの顔で迫ってくるチャラ男。軽くトラウマコース確定である。

 

「やっちゃえやっちゃえ!ここで礼儀を教えとくのも、あーしらの仕事っていうの?」

 

「葉山さーん!コイツらやっちゃって良いっすかぁ!?」

 

ここで長嶺とオイゲンが吹き出した。勿論バレては作戦が瓦解するので、声を押し殺してゲラゲラ笑う。

 

「あのバカ王子が兄貴分、フフッ」

 

「似合わねぇwww。って、ん?」

 

戸部と三浦の待機していた茂みの奥から葉山が出てくるのだが、明らかに足音が多い。

 

「どうかしたの?」

 

「葉山の後方、約40。武装した奴がいる」

 

「嘘でしょ?」

 

「マジだ。恐らく、例の死体に関係してる」

 

最近は見る事の少なかった、戦場で敵を観察する際に見せる全てを見通さんばかりの鋭い眼光に本当である事を理解した。なら、今からやる事は分かっている。

 

「なら私は、援護に徹するわね」

 

「あぁ。だが今はまだ動くな。奴等はまだ攻撃準備すら、って銃口を向けてやがる。ヤバい!」

 

すぐに茂みから飛び出すと、何故か小学生達も2、3回のフラッシュの後に走り出した。この際、この方が好都合。すぐに葉山達の真横に移動し、タクティカルライトを謎の戦闘員目掛けて灯す。

 

「グッ!?」

 

やはり武器、というかAK74を構えた男が立っていた。すぐに鉤縄で武器を奪い、男に向ける。

 

「何者だ!!」

 

「え、ちょ桑田?」

 

「桑田くん、何してんべ?」

 

次の瞬間、男が大きめのマチェットを構えて突撃してくる。牽制射撃で周囲に弾をばら撒くが、全く臆する事はない。

 

「チッ!」

 

「シャァァァァ!!!」

 

走る勢いそのままに、飛び上がって上からマチェットを突き立てようとする。だがナイフ戦の様な接近戦に於いて、空中に飛ぶというのは最大の悪手だ。すぐに一歩引いて、そのままこめかみ辺りにハイキックを食らわせる。

 

「せい!」

 

吹っ飛ばされる男。しかし直ぐに立ち上がり、またナイフを持って切り掛かってくる。

 

「今ので堕ちないのかよ!?」

 

ライフルを盾にマチェットを防ぐが、力が異常に強い。人間のソレとは比べ物にならない物で、明らかに人間の限界を超えた力である。

だがその仕掛けは直ぐにわかった。顔色が土気色で、半開きの口からは涎が常に垂れているし、目の焦点も合っていない。恐らく、何かしらの薬物を投与しているのだろう。それも、限界量を超えて大量に。

 

「シャァァァァ!!」

 

「力は強い。が、その程度で殺せるものか!!!!」

 

刀で斬撃を受け流す様に、タイミングを見計らって銃を斜めに傾ける。刺すために渾身の力で押していたのが、いきなり別方向へ力が進む様にされたのだ。バランスを崩し、一瞬力が弱まる。

弱まった瞬間に背後へと回り込み、至近距離から太腿に弾丸を撃ち込む。

 

「例えラリっていても、痛みは危険信号だ。流石にこれで動けなく」

 

なんと倒れたまま、横薙ぎの斬撃を足元に加えてきた。流石の長嶺も予想外で、結構な距離を取ってしまう。

 

「これでも動くってマジか.......」

 

「おーい、みんな大丈夫ー!?」

「みなさーん、大丈夫ですかー!?」

 

「お前ら!!大声出すなー!!!!!!」

 

一応叫んでみたが、やはり遅かった。太腿に弾丸をぶち込まれてる筈なのに、普通に2人へ向かって突撃する。だがさっきまでより動きは多少鈍い。お陰で狙いやすくはなったので、これで無理矢理無力化する事ができる

 

ズドンズドンズドンズドン

 

4発の銃声が森林に響く。長嶺の放った弾丸は正確に、男の両膝の関節と両腕の第二関節を撃ち抜いていた。流石に関節をやられては動けず、そのまま地面に倒れる。

 

「桑田、まさかお前、殺したのか.......?」

 

葉山が恐る恐る聞いてくるが、まだ安心は出来ないので銃口を男に向けたまま答える。

 

「いや、関節を撃ち抜いて無力化した。致命傷にならない様に撃ったから、死んじゃいない」

 

「.......だが今のは過剰防衛だ。警察に自首すべきだ!!」

 

何故か知らないが、ここぞとばかりに責めてくる葉山。まあどんなに吠えた所で、今のは普通に正当防衛として処理される。というか殺したとしても、長嶺の場合は罪には問はれない。

 

「それはコイツが普通の状態なら、確実に今のは過剰だろうよ。お前は分からなかったかもしれないが、あの男は太腿に5.45mm弾をぶち込んでも動いた。

しかも確実にあれはヤク中の目だ。正常な判断ができない、武装したゾンビみたいな男。流石にそこまで揃っていれば、今のも正当防衛だ。というかお前、弁護士や検察官じゃないのにそういうことを無闇矢鱈に言うな」

 

そこまで言うと葉山は黙ったが、代わりに男が急にガタガタ痙攣し出した。しかも血とゲロまで吐いており、明らかに普通じゃない。

 

「アガガガガガガガ.......」

 

「止まった?」

 

「ガガガッ、ガッ!」

 

一度止まり、また強く痙攣する。しかし2回目の痙攣以降、もう2度と動かなかった。

 

「ま、まさか桑田くん殺しちゃったんだべ?」

 

「どう見ても、銃に撃たれたのが原因の死に方じゃない。俺は以前、ヨーロッパに住んでいたんだ。EU内乱で何度も射殺された死体や射殺された瞬間も見たが、今のはそのどれとも違う。今のはどっちかって言うと、毒か何かを盛られた時の死に方だ」

 

「おーい、お前ら何があった!?」

 

そうこうしていると、別働していた比企ヶ谷、由比ヶ浜、雪ノ下もやって来る。なんか全員揃ったのだが、一方で周囲を囲まれてしまっていた。

 

「チッ、囲まれたな。オイ.......エミリア、お前にこれ預ける」

 

そう言いながら、長嶺は自分の持っていたAK74を投げ渡す。

 

「な、なんで私なのよ!」

 

「この中で俺の次、というか俺を除いてマトモに射撃経験のあるのはお前だけだろ?俺は周囲の奴らを無力化しながら惹きつけるから、その間にみんなを安全な場所に連れて行け」

 

「安全な場所って、一体どこよ。というか私、こんなのよりもいつもの方が良いんだけど?」

 

いつもの。つまり、艤装である。しかしこんな場所で艤装を使えば、一般人の比企ヶ谷達諸共あの世送りする事になってしまう。まあ証拠隠滅は出来るかもしれないが、流石にオーバースペックだしデメリットの方が高い。

 

「アホか。あんなもん使えば、みんな仲良くあの世行きだ。取り敢えずこの先に渓谷があるから、そこまで行け」

 

そう言いながらオイゲンにLINEでこっそりメッセージを送り、その周囲一帯に霞桜の隊員を配置する事を知らせた。

 

「真也、死なないでね」

 

「お前、この俺がこの程度の連中に殺されるとでも思っているのか?傷一つ付けることも叶わず、戦闘不能になるのがオチだ。さあ、行け!!」

 

長嶺の叫びに、オイゲンは従った。他の連中を先導し、言われた場所へと直走る。

 

「行ったな。さーて、遊ぼうぜ?テロリスト共!!!!」

 

さっきまでは他の生徒の目があったので、あくまでも『桑田真也』として戦う必要があった。だがもう、その目はいない。つまり今からは『長嶺雷蔵』として、対処が可能となる。本来なら最初の牽制射撃で正確に脳天をぶち抜くことも出来たし、何なら気づいた瞬間に向こうが攻撃体制に入る前に倒す事も出来ていた。だが出来なかった。

いくら他の人の目があったとは言え、殺さなかったのは少しばかりイラつく物だ。だったら今から、鬱憤を晴らせばいい。

 

「さぁ、今日は拳銃縛りだ」

 

太腿に装備していた阿修羅HGをホルスターから抜き取り、安全装置を解除。トリガーに指を掛けて、戦闘体制にはいる。

 

「シャァァァァ!!!!」

 

「遅い!」

 

ズドォン!

 

断末魔を上げる余裕も無く、脳天を25mm弾が撃ち抜く。この一発が号砲だったかの様に、四方八方からAKやPKMの弾丸が長嶺を狙って降り注ぐ。

 

「弾幕張ったくらいで倒せるものか!!」

 

だがコイツには通用しない。弾幕を張った位で殺せているのなら、コイツは既に100回以上死んでいる。

 

「この戦い方、まさか霞桜総隊長!?」

 

「そんな、あり得るのか!?」

 

敵側もどうやら全部が全部、あのヤク中狂戦士という訳ではないらしい。一部の恐らく軍隊でいう士官クラスの戦闘員らは、今目の前にいる高校生が世界最強の特殊部隊である霞桜の中でも、ズバ抜けて異次元クラスの戦闘力を持つ長嶺だと気付き始めた。

だが気付こうが気付かまいが、長嶺は有象無象の区別なく敵と認識した者は一切合切全て殺す。気付いたところで、もう遅い。

 

「よくわかったな。ご褒美だ」

 

ズドォンズドォン

 

「次は誰だ?」

 

その後も周りにいた20人近くを掃討し、すぐにこの謎の戦闘員集団の本拠地を探し出す。

 

(我が主。敵のアジト、見つけたぞ。今から誘導する)

 

(さっすが八咫烏。ナビゲート頼むぜ!)

 

八咫烏の誘導通りに進むと、3棟のプレハブ小屋があった。どうやら本部、薬物の栽培と保管、宿舎の役割をそれぞれ持っているらしい。

 

「やっぱ、さっきの狂戦士は薬物でタガを無理矢理外していたか。まったく、エゲツない真似するなぁ」

 

適当に散策していると、何か背後から襲おうとする奴もいたがノールックで頭に鉛玉ぶち込んだだけなので割愛する。

本部のプレハブに入り、色々データをコピーしたりすると所属がわかった。薄々勘づいていたが、やはりURの連中だった。どうやらここで薬物を栽培して売り捌いたり、マネーロンダリングしてアフリカの本拠地に流したりしていたらしい。ここはその支部で、武装部隊の駐屯地だったのだという。まあ、さっきの戦闘で大半が殺されるか桑田真也用に拘束したが。

 

『こちらベアキブル!親父、ちょっと不味いことになりました!』

 

「どうした?」

 

『警察が介入し出しました!!しかも連中、SATまで動かしてやがる!』

 

SAT。警察の持つ対テロ特殊部隊で、霞桜にとっては厄介な相手となる。何せ一応の管轄が防衛省の霞桜と、警察管轄のSATではかち合うと面倒事に発展しやすいのだ。

 

「何としても妨害しろ!その間にこっちでどうにかする!!」

 

『了解!ですが、オイゲン嬢への護衛が減っちまいますよ?』

 

「だったら俺がすぐに合流するまでだ!」

 

次の行動は決まった。だが、ここからは時間との勝負。もしも戦闘している所を警察に見られでもしたら、色々面倒なことになる。最悪、逮捕案件になる。

なにより、オイゲンが危ない。確かに訓練は受けさせたし、何度か射撃とCQCのレクチャーもしている。だがオイゲンの射撃は、お世辞にも上手くはない。CQCの方はキックボクシングをやってたとかで、まあ少しはできるが。というか援護なしで戦場を知らない一般人10名近くを引っ張るのは、流石に酷だろう。

そう思い、取り敢えず本部にあった適当な武器を少し持って走り出す。

 

 

同時刻 オイゲンside

「みんな、もうすぐよ!」

 

長嶺と別れた後、どうにかみんなを先導して安全地帯の小さな渓谷まで逃げ延びた。ここは恐らく、既に霞桜の隊員が潜んでいる筈と思いながら。だがその期待は、すぐに裏切られることになる。

 

「どこへ行こうと言うのだね?君達に何の罪もないが、君たちはここで終わりなのだよ」

 

「だ、誰!?」

 

声からして初老の男なのは分かったが、姿も見えないし気配も分からない。

 

「誰、と聞かれて答える者はいないよお嬢さん。だが今宵は、特別にお答えしよう」

 

茂みの奥から真っ黒な迷彩服を着た、少し強面の老紳士が現れた。その手にはクロスボウとクリス ヴェクターが握られており、戦闘慣れしたプロであるのがわかる。

 

「私はゼク。殺し屋のゼクという。短い間になるだろうが、見知りおいてくれたまえ少年達よ」

 

「ぜ、ゼクさん!どうか僕達を見逃してくれませんか!?」

 

「ちょっと!」

 

なんとここで、葉山が蛮勇を示した。お得意の「みんな仲良く」精神なのだろうが、こんな武器を持った明らかにヤバい奴相手にまで言える辺り、もう尊敬の域にすら到達しているだろう。

 

「どうしてだね?」

 

「僕達は偶々、ボランティアに来ていただけなんです!小学生の自然教室のボランティアに!それ以外は何もしてませんし、僕達があそこにいたのもプログラムにあった肝試しをするためであって」

 

「それはそれは。貴重な情報だ。まさか君の様な、バカがいてくれて大助かりだ。まさか他にも人間が、それも大量にいるとは思わなかったよ。

ふむ、その者達も我々の姿を見た可能性があるのなら殺さないといけないな。いや、本当に君のおかげで助かった。褒美に、殺す時は苦しまない様に楽に逝かせてあげよう」

 

葉山の行動は裏目に出た。というかいつものクソ精神によって、こうも状況が悪くなったというのにそれに気付いてないのは才能なのだろうか。だがそのお陰で、オイゲンは十分気持ちを鎮められた。

バレない様に静かに、でも即座にライフルを構えて、撃つ。

 

ズドドド

 

「おっと!危ないねぇ」

 

「チッ、外したわね」

 

「そんなに死にたいのなら、すぐに、いや。君はボスの手土産に、連れて行くとしよう。スタイルも顔もいいしな。だが他の者は、全員殺すとしよう」

 

そんな事を言われては、一般の高校生である比企ヶ谷達は震え上がる。怖いのはオイゲンも一緒なのだが、オイゲンにはまだ希望があった。脳裏によぎる、自分が知る中で一番強くてカッコいい男。そして恋焦がれる相手。きっと、彼がどうにかしてくれると思っていた。

そして、それは叶った。

 

「邪魔だ!どきやがれクソジジイ!!」

 

背後にあった木の枝を使って遠心力の力を借り、強烈な蹴りを老紳士の背中に叩き込む。どうやらチョッキか何かを着ているらしいが、それでも蹴りの衝撃は加わる。少しよろけた程度だが、それで十分だ。

 

「背後がガラ空きなんだよッ!!」

 

そのまま本部から奪ってきたスタンガンを押し当てようとするが、受け流されて逆に後ろへと吹っ飛ばされてしまう。

 

「ふふふ、どうやら骨太な奴もいた様だねぇ」

 

「真也!!」

 

「悪い、遅くなった。取り敢えずは無事って所だな。なら、そのままコイツらを守れ。俺が奴を無力化する」

 

そう言った瞬間、茂みの中から小さめの影が飛び出してきた。ガルム、もとい犬神が幻月を加えて持ってきたのだ。

 

「ナイスだガルム。それじゃ、本気でいこうか!!」

 

いつもは二刀流で、それが一番しっくりくる戦い方である。だが例え一刀流であっても、普通に強いのが長嶺だ。鞘をも攻撃手段とする、人を殺す為だけに作った我流剣術。それを知らない老紳士は、余裕の笑みでクロスボウを連続で放った。

 

「死ね!!」

 

「甘い」

 

刀を抜くと、放たれた三本の矢を正確に払い落とす。どうやら三連続までしか撃てないらしく、ヴェクターで牽制しようとするが、武器変更の隙をついて間合いまで飛び込む。

 

「オラァ!!」

 

刀の柄を鳩尾に力一杯叩き込んで気絶させるが、気を失う直前に三浦に向かってヴェクターのトリガーを引いた。幸い弾は全部空を切ったが、バランスを崩した三浦は転落してしまう。

 

「1人は殺したぞ.......」

 

「優美子!!」

 

みんなが崖へと集まるが、暗くて何も見えない。オイゲンがライトで照らすと、怪我なく生きてる三浦の姿があった。どうやら下の枯葉がクッションになったらしい。

 

「優美子ー!!自分で上がれそうか!?!?」

 

「多分無理ー!!」

 

葉山がダメ元で聞くが、まあ普通に考えて無理だろう。

 

「どうしよう.......」

 

海老名の呟きに、誰もが押し黙る。だがそんな中で、長嶺は黙々と何かを準備する。

 

「桑田?」

 

「ロープよし。安全確保よし。降下、開始」

 

そう言うとロープを渓谷の下へと投げ、そのままラペリングの要領で下に素早く降りる。オイゲン以外が、その洗練された素早い動きに驚いている。

 

「い、今の何?」

 

「ラペリングだ。よく映画とかで、ヘリから兵士が降りる時にやるヤツ。あれだよ。さて、じゃあしっかり背中に掴まれよ?」

 

「え?」

 

三浦を背中に縛りつけ、今度はフリークライミングで上を目指す。ものの一分で登り、三浦を救出した。余りに現実離れした動きに、もうみんなついて行けてない。

 

「.......はっ」

 

さっきの老紳士が目を覚まし、自分に注目が来てないのを悟ると立ち上がってロープを奪い、渓谷の下へと逃げた。流石に三浦を縛りつけた状態では対応できず、泣く泣く見逃したかに思えた。だが…

 

「エミリア、銃貸せ」

 

「え?いいけど」

 

AKを奪い取ると、長嶺はロープを使わずに下へと飛び降りた。流石にこれはオイゲンもビックリして、渓谷の淵へと駆け寄る。だが長嶺の姿は既に渓谷の下にあり、AKを老紳士へと向けていた。

どの様に一瞬で移動したのかと言うと、まず少し下の岩へと飛び移り、ついで対岸にある少し下岩へと飛び移る。飛び移った岩から今度は、対岸にある少し下の排水用パイプに飛び移り、そのままパイプを引き剥がして対岸の岩に着地。そしてそこから飛び降りつつ、空中で前転して衝撃を軽減し地面に着地した。文面では疾走感ないが、実際はこれを素早くやっている。

擬音で表すなら、「バッ!バッ!バッ、ベリベリ!バッ、グルン、ドスッ!」とでも言おうか。因みにイメージとしては龍が如くの老鬼(ラオグウェイ)が見せた、アクロバティックな着地である。

 

「はいはーい、逃げても無駄ね!」

 

ズドドドズドドド

 

安定の関節撃ちで無力化し、またフリークライミングで登る。そして事件は終わりかと思いきや、まだ刺客は残っていた。スナイパーがいたのである。

 

ズドォォン   パシュン

「スナイパーまで居るのかよ!?みんな岩陰に!早く!!!!」

 

すぐに岩陰に避難したが、完全に退路を断つ形で撃ってきている。だがこちらにも、しっかりスナイパーライフルはあるのだ。本部から持ってきた武器には、スナイパーライフルのM24E1 MSRがある。だが今は、丁度オイゲンの近くに転がっている。

 

「エミリア!そのライフルをこっちに!!」

 

「こ、これ!?」

 

「そうそれ!こっちに蹴飛ばせ!!」

 

ライフルを足で思い切り蹴ってもらい、こっちに渡してもらう。まだ銃声と着弾音が鳴っているが、お陰で場所は割り出せている。だが念の為、保険は掛けておきたい。

 

「比企ヶ谷!葉山!!そこのライフルで、牽制しろ!!」

 

「僕を人殺しにする気かい!?!?」

 

「アホ!!この距離でそんな粗悪品AKの弾丸が届くか!!!!とにかく、このまま射殺されたく無けりゃ指示に従え!!」

 

嫌々ながらも葉山は銃を握りしめ、比企ヶ谷はすぐに構えて指示を待っていた。

 

「いいか。俺の合図で、とにかくあの辺りに弾をありったけ撃ち込め。当たりはしないが、ストレスが掛かり精度が落ちる筈だ」

 

「桑田、お前は?」

 

「俺はフィナーレを決めるさ。コイツでな」

 

背中のM24E1 MSRを軽く小突きながら、長嶺は笑った。その笑みは桑田真也ではなく、長嶺雷蔵としての笑みである。

 

「よし、殺れ!!」

 

ドカカカカカ!!ドカカカカカ!!

 

牽制射撃に堪らず、スナイパーも狙撃をやめた。だがその間に、長嶺は狙いを付ける。これだけ離れていたら、例え殺してもバレる事はない。なので、しっかりスコープごと目を撃ち抜く。

 

「ターゲットダウン!」

 

「お、終わった?」

 

「多分これで一先ず安心だ。その内警察も来るだろうし、このままここで待機だな」

 

その後、SAT含む警察が到着し保護とURの確保をお願いした。銃の使用については色々言われたが、上から正当防衛になる様に圧力掛けて事なきを得ている。

実際、警察が確保したのはオーバードーズで死んだ死体と腕や足が撃ち抜かれたテロリストしかいない。残りの殺した死体は、既に回収してるので証拠はない。となると殺人罪には問えないので、なんやかんやでお咎めなしとなった。因みに平塚先生は、サボってた上にテロリストに襲われてる時は1人ラーメンを啜りに行ってたらしいので減俸処分になったと言う。

 

 

 

翌日 千葉駅

「なぁ、桑田。一つ、聞いていいか?」

 

「なんだ葉山。えらく改まって」

 

帰りのマイクロバスの中で、葉山が話しかけて来た。バスに乗っている総武高の面々は皆、2人の方に耳を傾けている。

 

「君は何故、あそこまで戦い慣れているんだい?」

 

「そりゃお前、こちとらEU内乱を生き残ったんだぜ?死体とかは見飽きる程見たし、何度か生き残る為にトリガーを引いた事もある。

お前達が友達や家族と楽しくやってた頃、俺は戦場の血の混じった泥水を啜り、死肉を貪り、闇が支配する血の海を泳いで来たんだ。生き残る為、生き抜く為、俺は戦場を歩き続けた。だからさ、あそこまでやれるのは」

 

嘘ではない。長嶺は常に世界の闇、魔女の釜の底のような醜い世界で生きてきた。殺し殺され、また殺す。そんな我々の非日常が日常の、トンデモ世界を生き抜いて来た。だから別に、どうということは無い。

 

「思い出させてしまってわ」

「言うな。テメェのくだらん同情や偽善ごっこに付き合ってやれる程、俺は優しく無い。俺は人を殺しても後悔はしない。奴らは武器を持ち、戦場に立った。武器を持つというとことは、殺される事も覚悟しないといけない。

それだけは古今東西、どんな戦争であっても等しく存在する唯一無二の絶対ルール。俺は例え殺されても殺した奴は恨まないし、殺しても何も思わない。ソイツは所詮、そこまでだったというだけだ」

 

一般人には理解のできない、戦場に生きる者のみ知る絶対の掟。オイゲンを除く他の皆は一様に恐怖を覚えたという。

 

 

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