防衛省に呼び出された翌日 大講堂
「諸君、朝早くから集まって貰って済まないな。今回、皆を集めたのは防衛省海軍部より新たな指令が降った。二ヶ月後の9月13日、アメリカ領ハワイ真珠湾の深海悽艦泊地に殴り込む」
講堂内がザワめく。前回も言った通り、これまでの防衛と違い、ガッツリ敵の基地へ攻撃するのである。そりゃこうもなる。
「作戦の概要、と言っても大まかな動きしか決まっていないがな。それを説明する。まず横須賀と呉の鎮守府の艦隊が、道中の敵を掃討する。粗方の航路が確保され次第、艦隊と霞桜で泊地に急襲。これを解放する」
「提督」
霧島が手を挙げて、席を立つ。
「敵の戦力はどの程度でしょうか?」
「タ級5、ル級8、ヲ級6、ヌ級10、リ級18、チ級23、ホ級30、駆逐と輸送艦100以上。これに加えて、泊地悽姫と呼ばれるボスが確認されている」
「ものすごい戦力ですね.......」
講堂にいる者全てが、あまりの戦力差に愕然とする。そりゃ合計200越えの戦力を、これから今いる人員で攻めなければならないのだから当然である。
「さて、ここまで聞くと絶望以外の何者でもないだろう。だが、一つ朗報がある。今回の作戦に当たり、装備と戦力面での増強が行われる事となった。その為、一週間後に装備を受領してもらう。簡単な説明もあるので、何組かに分けて執務室に呼び出すからそのつもりで居て欲しい。他に何か質問はあるか!?」
「無いようだな。では、解散!!」
この日から艦娘達は月月火水木金金の訓練を開始した。駆逐隊や水雷戦隊は遠征にも出しつつ、残っている空母以外の艦種は砲撃訓練や雷撃訓練を始める。空母勢は艦載機の錬成と、基地航空隊との連携訓練も始める。これに合わせて霞桜も艦娘との連携や協力を視野に入れた、新たな訓練を開始していた。一方で提督は他鎮守府との協力関係の構築や、東川への資源融通(と言う名の恐喝)に奔走している。一週間後、トラックで装備が工廠に運び込まれ執務室に移される。
「ワーオ。こりゃ凄い」
「ホント色々ありますね」
秘書艦である大和も長嶺も、大量の装備に内心ドン引きしている。
「これでも一部、戦艦の分しかありませんよ?」
明石がサラッと怖い事を言う。一応執務室は、下手なリビング以上の広さがあるのだが、装備の入った箱で一杯である。
「ホント、分けて持ってきて正解だったな。大淀、放送で戦艦を全員呼び出してくれ」
「はい」
放送より二分後、ある艦娘が執務室に繋がる廊下を猛ダッシュで爆走していた。
「てーーいーーとーーくーーー!!!!」
もう、誰かは言うまでも無い
「金剛が来たな」
「バアアアアニングゥ!ラアアアアブ!!」
ドアを破壊する勢いで開け、長嶺に飛び掛かる。普通なら背骨をやって逝くのだが、コイツは人間を辞めているので問題なく真正面からキャッチする。
「バーニングラブは分かったから落ち着け」
「うぅ、少しくらい抱きしめてくださいデス」
「ダメだこりゃ」
「お姉様〜!」
今度は三人分の足音が重なる。此方も言う必要はないだろう。
「お、金剛sister's揃ったな」
「私の計算によると、金剛姉様は先程、時速約50㎞で走っていました。これはジャマイカの陸上選手、ウサイン・ボルトより速いです」
「ヒェェェ」
「提督、よく受け止めれましたね」
「伊達に特殊部隊の総隊長はやってねーよ」
三者三様の返事をしていると、後ろから長門型の2隻と武蔵も入ってくる。
「お前達、廊下を走るんじゃない」
「あらあら長門、いつもの事じゃない」
「今更だな」
「全員揃ったな。ではこれより、装備を受領してもらう。まずは金剛型からだな。主砲は35.6cm連装砲改二つ、副砲に8cm高角砲、艦載機に零式水上偵察機11型乙、電探に32号対水上電探と21号対空電探、12cm30連装噴進砲だ。艦載機以降は長門型と大和型にも搭載されるぞ。長門は主砲に試製46cm連装砲、陸奥は試製41cm三連装砲を装備してもらう。これに加えて副砲を10cm連装高角砲だな。大和型は主砲に46cm三連装砲改、副砲に15.5cm三連装副砲改を搭載する。他の対空機銃や装備に関しては、今まで通り搭載したままだ」
もう何処から突っ込んでいいやら。艦これユーザーじゃない読者の為に一応説明するが、この装備の内35.6cm連装砲改、試製46cm連装砲、試製41cm三連装砲、10cm連装高角砲、12cm30連装噴進砲は開発ではゲットできないのである。入手方法は特定艦の改造の装備、特定海域の選択やクリア報酬といった限定的な装備なのである。
え?なら何でそんな装備を持ってきたのかって?そんなの、長嶺が本部にある工廠で魔改造してきたからに決まってるでしょ?
「て、テートク?この装備って、普通じゃ手に入りませんよネ?」
「そうだな」
「なら、なんで持ってるのデスカ?」
「え?そんなの、俺が改造したからに決まってんでしょ?」
「「「「「.......」」」」」
「「「「「えぇぇぇぇぇ⁉︎」」」」」
そりゃ悲鳴も木霊する。普通、艦娘の装備は艦娘もしくは妖精しか改造や整備ができないのである。まあ「装備を磨く」ぐらいなら人間でもできるが、分解やまして改造なんて出来る訳ない。長嶺がやった事は常識的に考えたら、天変地異が起きても有り得ない事なのである。
「あ、性能は普通よりも強いぞ」
「て、提督。なんかもう、凄すぎて何も言えません」
大和もこの答えである。
「まあいいや。お前達、もう戻っていいぞ。後は装備を自分の手足の様に使えるまで、ひたすら演習を重ねてこい」
これ以降も他の艦娘達に装備を渡したが、みんな同じ反応であった。では、その装備を各艦種ごとに紹介しよう。
空母艦娘
・天山一二型甲
・彗星一二型甲
・零式艦戦52型(熟練)
・12cm30連装噴進砲
・32号対水上電探
・21号対空電探
軽空母艦娘
・天山一二型甲
・彗星一二型甲
・紫電改二
・彩雲
・12cm30連装噴進砲
・32号対水上電探
・21号対空電探
重巡艦娘
・20.3cm(3号)連装砲
・61cm四連装(酸素)魚雷後期型
・零式水中聴音機
・32号対水上電探
・21号対空電探
・零式水上偵察機11型乙
軽巡艦娘
・15.2cm連装砲改
・61cm四連装(酸素)魚雷後期型
・試製15cm9連装対潜噴進砲
・三式水中探信儀
・13号対空電探
・22号対水上電探
・九八式水上偵察機(夜偵)
駆逐艦娘
・10cm高角砲+高射装置
・試製61cm六連装(酸素)魚雷
・三式爆雷投射機
・三式水中探信儀
・13号対空電探
・22号対水上電探
これが装備なのだが、寧ろ「これで負けろ」と言う方が甲作戦レベルで難しいガチ装備である。なんかもうホワイト鎮守府を通り越して過保護鎮守府になりそうな勢いだが、訓練中はブラックも良いところになる。
艦娘同士ならいざ知らず、霞桜もしくは長嶺が訓練に参加すると一回の演習で練度が一気に8くらい上がっているのである。お陰で全ての艦娘が改になっており、次の作戦は必ず成功するだろうとされていた。そう、されていたのだ。
というのも、作戦開始を三週間前に控えた日、艦娘達が突如として攻撃的になったのである。元々この鎮守府に居た組ならまだしも、大和と武蔵を始めとする鎮守府を立て直した時に加わった組、言ってしまえば江ノ島鎮守府の所属艦娘全員が攻撃的になったのである。始まりは盛大な花火から始まる。
「よーし、ひと段落ついたな」
何故か背後から殺気を感じ、急遽机の下に隠しているP90を抜き、その場に伏せる。伏せた瞬間、窓ガラスが割れて何かが執務室内に飛び込んで来るのがわかった。しかし何なのかを確認する前に爆発し、長嶺自身も吹っ飛ばされる。
「うお!?」
運良く机が爆風を防いでくれたので、怪我という怪我もしていない。
「まさか深海棲艦が攻めてきたのか?」
そう思い窓の外を見てみると、外から訓練中の軽巡と駆逐艦が砲弾を撃ってきたのがわかった。
「マジかよ!?」
取り敢えず、P90で砲弾を撃ち抜いて迎撃していく。しかし今度は、執務室の扉を2隻の艦がぶち破って突入してくる。
「オラァァァ!!」
「うおっ!?」
間一髪で避けて、銃を向ける。事実、後0.1秒反応が遅かったら一刀両断されてた。
「オイオイ、避けるんじゃねーよ」
「そうですよぉ。避けられたら、上手く皮を剥げないじゃないですかぁ」
「お前ら、一体何のつもりだ?えぇ?天龍、龍田」
なんと執務室にダイナミックエントリーしやがったのは、天龍と龍田だったのである。念の為言っておくが、ここまでされる心当たりはない。
「別にぃ?殺したくなったから殺しに来ただけですよぉ」
「そうだ。俺達艦娘は、お前の命令を聞かない!」
「そうかい。で?誰が指揮を取るんだ?」
長嶺はこの状況であっても、冷静さを失わなかった。この程度は長嶺の価値観では、ピンチにも入らなかった。
「そんなの知るか。俺達は俺達独自でやっていく」
「そうか。なら、俺はお払い箱だな」
「誰がそんな事言ったんですかぁ?貴方はここで、私達艦娘のサンドバックになって貰うんですよぉ」
「ほう。なら、俺を捕まえてから言うんだな!!」
スモークグレネードを使い目を眩ませ、窓ガラスタックルで割って外に逃げ出す。
「ケホケホ、あ!ちょ、待て!!」
この日、メビウス隊は呉鎮守府へ訓練に。霞桜は北海道の秘密演習場で、新兵器のテストと訓練で全員不在であった。八咫烏と犬神も真珠湾への偵察に出ており、鎮守府には艦娘と提督しか居なかったのである。
「さて、取り敢えず霞桜への本部には来れたな」
カードキーで秘密の倉庫を開ける。中には全身を覆う、ゴム皮膜製の服が置いてあった。このスーツは尋問時に身体的欠損を作らせない為の特殊スーツであり、これを着れば核爆発の爆心地にいても死ぬ事はない程の強度を持っている。
しかもこれには、ホログラムやAR技術を応用した偽装機能もあり、例えば首がもげてる様に相手に認識させられる事も出来るのである。しかも質感や臭いまで再現される為、まあまず見破る事はできない完璧な偽装ができるトンデモスーツなのである。
「これ着れば、どうにかなるだろ」
そんな訳で適当に抵抗し、捕まっておく。
「なぁ、大和?俺は今から何処に連れて行かれるんだ?」
「黙ってください」
「やなこった。で?どこに行くんだ?」
「黙れと言っているんです!」
力一杯ぶん殴られ、後方に飛ばされる。その衝撃は凄まじく、失神してしまう。
「気絶しましたか。仕方ありません、このまま引き摺りましょう」
そのまま引き摺られて、空き部屋を改造した拷問部屋に入れられる。そこからは地獄の所業である。艦娘達が、思い思いの武器で攻撃してくるのである。弓矢、クロスボウ、ガスガン、パンチマシン、虫責め、水責め、爪を剥がすetc。しかもこれらは、うまい具合死ななよう手加減されているのである。例えばヤジリは丸みおびて、打撃製を向上させていたり等である。数時間後には飽きたのか、暫しの休息が訪れる。
「にしてもまぁ、手酷くやられたな」
身体的ダメージはゼロだが、ナノマシン経由でスーツがない場合のダメージ箇所を割り出す。その結果は以下の通りである。
・肋骨三本、大腿骨複雑骨折
・左肩の脱臼
・左睾丸破裂
・右眼失明
・右薬指、左中指と親指切断
・内出血、打撲多数
以上である。
縛られてて、どうにもならないのでナノマシン経由による通信でグリムと連絡を取る。取り敢えず、今後の作戦を練る必要が有るからだ
「(グリム、聞こえるか?)」
『総隊長殿、どうしました?』
「(艦娘が反乱を起こした)」
『何ですって!?』
まさかの事態に、普段冷静なグリムも声が裏返って驚いている。
「(そんな訳で現在拷問を受けている。尤も、例のスーツを着てるからダメージは無いが)」
『そうですか。詳しい経緯は?』
「(いきなり取り憑かれたみたいに豹変して、あれよあれよと言う間に捕まっちまった。最初は執務室に砲弾撃ち込まれて、天龍型が突撃してきたからな)」
『そりゃまた面倒ですね』
「(ホント、どうしようかね)」
2人で知恵を出し合い、一応の作戦は決まった。現状何が起きているか不明のまま動くのはリスクが大きすぎる為、長嶺が情報を探る。その間に霞桜は鎮守府へ帰還し、こちらも並行して探る。メビウス隊はそのまま呉鎮守府に待機とし、八咫烏と犬神は霞桜に合流するという事になった。
連絡が終わった直後、ある艦娘が中に入ってくる。
「て、提督?大丈夫.......じゃないですよね?」
「明石.......か?お前も、痛めつけに来たのか?」
「ち、違います!治療をしに来たんです」
「治療?」
明石の手には救急箱や医療器具の入った鞄が握られていた。しかし、その後ろにある物を長嶺は見逃さなかった。
「さっきのを見てましたけど、明らかに重症ですよね」
「死んでないのが不思議だ。普通なら、痛みで飛んでるだろうよ。事実、意識を保ってるが今にも堕ちそうだ」
「そうですか。とにかく、治療しますね」
「あぁ」
後ろに隠したものはまだ使わない。どうやら希望から絶望に落とすか、絶望から更なる絶望に落とすかするみたいである。
「..............提督、すみません。これは手の施しようがありません」
「やっぱりな」
「わかっていたんですか?」
「自分の体は自分が一番わかっている」
「あの、何か出来る事はありませんか?」
なんかもう話すのが面倒になってきたので、見抜いてる事を伝えてやる。
「そうだなぁ。本性を表せよ」
「え?」
「お前、後ろにカンナ隠してんだろ?」
「あらー、バレちゃいましたか」
そう言うと明石はカンナを笑いながら出した。多分、それで皮膚を削るつもりだろう。
「片目潰れてボロボロとは言え、特殊部隊員の能力舐めんな」
「プッ。捕まってるのに、特殊部隊員の能力舐めんなですか?笑わせないでくださいよ」
「うるせー黙れ。やるなら、とっとと始めてくれ」
「ならお望み通りに!!
「グギャァァァァァァ!!!!」
言っておくが、これは演技である。実際は剃っている様な感覚を無理矢理皮膜で作り出し、それに合わせた臭いと血飛沫、皮膚をARで写しているだけの為、長嶺へのダメージはゼロである。
これ以降、約一週間に渡って拷問が続いた。では最終的なダメージについて、箇条書きだが紹介しておこう。
・頭蓋骨陥没
・脳挫傷
・右耳切断
・右肺破裂
・永久歯8本欠損
・右脚、左腕皮剥
・手足含めた指全本、第一関節から順に切断(つまり46回切断)
・右腕切断
・男性器切断
・左腕、尾骶骨、肋骨5本粉砕骨折
・出血、内出血、打撲、火傷多数
念の為言っておくが、長嶺自身にダメージは無い。あくまでも、特殊スーツが無かったらの話である。
そして運命の日、拷問開始から8日後。この日、江ノ島鎮守府全域には、霞桜の隊員がステルス迷彩を使って至る所に隠れていた。犬神と八咫烏も鎮守府内に潜入しており、長嶺の側にいる。
艦娘がおかしくなった原因は、例のシリウス戦闘団が関係している事がわかっている。鎮守府敷地内に特殊な電波が出ており、これが艦娘に作用して凶暴化、ではなく操り人形化してしまうのである。つまり一連の艦娘の動きは、シリウス戦闘団が艦娘を操ってさせていたのである。この状態から元に戻すには唯一つ。「殺害、もしくは気絶させる」これ以外無いのである。
本来ならテーザー銃を使う所だが、長嶺も操られていたとは言えど攻撃され続けていたので、正直イライラが溜まりに溜まっている。そんな訳で「ゴム弾、刃を落とし鉄の塊とかした刃物による殴打で気絶させよ」という命令を出したのである。傷は入渠ドックにぶち込めば、外見上は少なくとも綺麗に消えるので気にする必要はない。つまり
「瑞鶴、そろそろゴミ屑の替え時だと思わないかしら?」
「今回ばかりは賛成するわ。でも、もうちょっと痛めつけてからにした方がいいわよ」
「それもそうね」
この日、加賀と瑞鶴は提督を的に弓道の練習(と言いつつ、延々と矢を射掛けるだけ)をする為にやってきたのである。
「起きなさい」
加賀がバケツの水を長嶺にぶっ掛ける。最近は痛みで声も出なくなった、という演技をしている為、いつも通り答えない。ただ呻き声を上げる。
「生きてるみたいね。瑞鶴、始めます」
「はーい」
二人が弓を引き絞り、矢を撃ち出す。しかしその瞬間、二挺の土蜘蛛が空中に浮き、矢を撃ち落としたのである。
「「!?」」
「お前達に俺はどう映る?大方、見た目も相まって肉の塊か、ゴミ屑って所だろうな。だがな、よく覚えておけ。戦場ではゴミ屑や弱者は、その皮を被った圧倒的強者である可能性もあるって事をな!!」
特殊スーツを脱ぎ捨て、飛び上がる。二人は動ける訳ないダメージを負っていたのに急に動き出した事への驚愕と、長嶺の発する殺気と怒気に呑まれて身動きが取れなくなる。「蛙が蛇に睨まれた」と言わんばかりに、指一つ動かせない。
「良い夢見ろよな?」
ズドォン!
ゴム弾が加賀の頭に直撃し、脳震盪を起こさせ意識を奪う。
「な、何で動けるのよ!?」
「あの怪我は全て偽物、ARとホログラムによる立体映像だ。さて、お前には右目を潰されたな?」
「い、いや!来ないで!!」
一気に駆け出し、瑞鶴の頭を鷲掴みにする。そのまま壁にぶつけて、壁をブチ破り外の廊下に瑞鶴がめり込む。普通なら死んでいるが、艦娘は体のつくりが頑丈なので死ぬ事は無い。まあ、死ぬ程痛い事には変わらないが。
「さぁ、パーティーの始まりだ。先ずは誰から喰らおうか?」
取り敢えず近くの軽巡寮に歩き出す。壁をブチ破った音で犬神と八咫烏もやってくる。
「主様ー!!」
「我が主、無事か?」
「ピンピンしてるよ」
『総隊長殿、脱出しましたか?』
タイミングよくグリムから無線が入った。多分もうバレてるので、すぐに指示を出す。
「あぁ。お前達も気を見て駆逐寮に突入しろ。巡洋艦、戦艦、空母はコッチでやる」
『了解』
「犬神、お前は先行して扉を破壊。付近の艦娘を気絶させろ。八咫烏、お前は武器ラックとして俺に着け」
「はーい」
「了解」
「よし、行動開始だ!」
一行は巡洋艦寮に向かう。犬神が扉を破壊し、意識をそっちに向けてる間に長嶺が鎌鼬で一掃する。
「オラオラオラオラ!!拷問してた時の威勢は何処行った!?!?」
天龍と龍田も圧倒的弾幕の前になす術無く、ゴム弾を大量に浴びる。しかし川内だけ生き残る。
「提督、そんなに死にたいの?」
「殺せるもんなら殺してみろ」
「ふーん。ま、いいや。じゃあさ、殺して上げる!!」
一気に川内が駆け出す。しかし、
「甘い!」
スモークで目を眩まし、その間に武器を幻月と閻魔に切り替える。
「せい!」
刀を振って煙を晴らし、川内の前に姿を表す。川内もいきなりのことで、対応が遅れる。しかしまだ攻撃は、敢えてしない。
「お前は近接戦が得意だろ?どうせなら、そっちでケリをつけてやる」
「私に接近戦を挑むの?人間如きがついて来れる訳ないじ」
「はあ!!」
セリフを言ってる間に一気に詰め寄り、刀を振り上げて失神させる。アニメや漫画では反則だが、これは生憎と現実。反則ではない。
ドサッ
「さて次は、戦艦だな」
ここで好都合な事に、大淀が警報を鳴らす。これにより空母と戦艦、それに駆逐艦が慌ただしく動く。この瞬間を逃さず、グリムが命令を出す。
「突撃!」
「「「「「「ウォォォォォォォ!!!!」」」」」」
男達が咆哮を上げて、一気に突撃する。腰撃ちで弾幕を貼り、恐怖心を煽る。駆逐艦は咆哮による威圧と突然現れた霞桜に混乱して、反撃する間もなく全員が倒れる。
「確保急げ!」
「「「「「「了!!」」」」」」
一方、戦艦寮では空母、軽空母と戦艦が勢揃いで防衛線を築いていた。棚やクローゼットを引っ張って来て、ひっくり返して盾にする。そんでもって、その後ろで艤装を展開して見事なまでな攻撃準備を整え長嶺を待ち構えていた。
「にしてもまぁ、見事なまでに完全武装だな。どう料理してくれようか?」
「主様、どうするの?」
「取り敢えず、普通に突ってくるわ。八咫烏、朧影と土蜘蛛」
「心得た」
武装を連射力に優れる朧影SMGと、威力に優れる土蜘蛛HGを新たに装備する。
「よし。じゃあ、二人は霞桜と合流。明石を抑えてこい」
「はーい」
「了解した」
「さてと、じゃあ殲滅開始だ」
「!皆さん、あの男が来ました」
「よし。戦艦は砲撃準備!空母は艦載機を上げろ!!」
赤城の報告に、長門が指示を出す。
「長門よ、流石にオーバーキル過ぎないか?たかが人間にこの戦力は、些か過剰すぎるぞ」
「念には念をだ。それに、仲間達がやられたのだ。仇討ちには、一つ消し炭になってもらわないと気が済まん」
長門は指揮官として有能ではあるが、まだまだ未熟であった。一番大事な相手の脅威度を推し量れておらず、固定観念でのみ判断してしまったのである。
「それもそうか」
「皆さん、艦載機が捉えました。!?」
「どうした赤城?」
「そんな、あり得ない。何で?」
「どうしたんだ!」
長門が狼狽える赤城を落ち着ける意味も込めて、一喝して質問する。赤城は長門に怒鳴られた事とは別の恐怖に震えながら、何とか質問に答えた。
「艦載機が、全機、堕とされました」
「「「「「「は?」」」」」」
念の為言っておくが、艦載機は戦闘機120、爆撃機90、攻撃機80のガチ編成である。しかし長嶺にとっては、唯の動く射的の的に過ぎない。朧影の弾幕で一つ残らずスクラップにしたのである。
え?ゴム弾じゃ無理だろって?艤装を展開されては、ゴム弾を幾らぶち込んでも意味がない。艤装展開時は並の銃弾や戦車砲では歯が立たないのだから、当然である。では何故迎撃できたか。答えは簡単、弾を実弾、正確には対深海棲艦用特殊弾に変えたのである。この弾丸であれば例え艤装を展開していようと、艤装を破壊して装着者や本体に直接攻撃できるのである。しかし流石に治療不可能なダメージになる為、あくまで艤装をのみ破壊して、後は刀や土蜘蛛で気絶させるが。
「オイオイ、廊下でラジコン飛行機で遊ぶなよ。やるなら外でやれ、外で」
「貴様、何故動ける!?お前はボロボロにして、肉の塊にした筈だぞ!?!?」
「あー、アレね。天龍達が最初に攻め込んだ時、嫌な予感がしたから外的ダメージを無力化するスーツを装備していたんだ。案の定、お前達は俺を監禁して拷問してくれたな?まあ、フェイクの映像垂れ流して偽装してたんだが」
「黙ってください。今となってはどうでも良い。皆さん、撃ちますよ‼︎」
戦艦勢が一斉砲撃してくる。しかしその程度では、長嶺は倒せるわけがない。
「甘い」
朧影の弾丸を正確に信管に当て、無理矢理起爆させるという離れ技で全弾撃ち落とす。
「流石に死んだな」
「誰が死んだって?」
煙の中から、さっきと変わらない姿で長嶺が出てくる。
「何で生きてるデース!」
「砲弾を到達前に落としゃ、そりゃ生き残るよな?」
「ヒェェェ、非常識です!!」
「さてさて、次はコッチの番だよな?」
その瞬間、長嶺が消える。正確には余りの速さに知覚できず、消えたかのように目が錯覚しているのだが艦娘達に知る由はない。
「何処に行った!?」
「後ろだ武蔵」
ドゴッ!!!!
とんでも無く鈍い音が響く。一瞬の出来事に艦娘達はポカンとしており、今目の前で起こった事を理解できない。いや、頭は理解しても、本能が理解する事を拒んでいると言った方が適切だろう。
「何を驚いているんだ?たかが仲間一人失っただけだぞ?一斉砲撃しろ。弾幕を張ってみろ。航空機で突っ込んで見ろ。どうした、楽しい楽しいパーティーはまだ始まったばかりだぞ?さぁ、かかって来い。さあ、さあ!さあ!!」
この瞬間、その場の艦娘達は理解させられた。「コイツには、どう足掻いても勝てない」と。長嶺は武蔵を刀でぶん殴ったのと同時に、怒気と殺気を出して威嚇しているのである。抵抗する事なく、残りの艦娘達はゴム弾で気絶させられた。
これより一時間後、鎮守府の外の海岸に集められた艦娘達は一人ずつ高速修復剤をかけられて復活させられた。一応、霞桜の隊員が謎の電波を遮断及び発信源を破壊したが、念には念を入れてである。駆逐艦の一人一人丁寧に掛けて、起き上がった瞬間に4から5名の隊員が銃を向ける。
「あ、アレ?私、何をしていたっぽい?」
「動くな!」
最初に目を覚ましてのは夕立だった。まだ寝ぼけていたが、隊員たちの怒鳴り声に一気に目を覚ます。
「え?何で銃を向けて」
「命令に従え!頭の後ろで手を組んで足を開き、そのまま腹這いになれ!!」
「ああああああ!!私、提督さんにヒドイ事したっぽい!嫌だ!!死にたくない!死にたくないっぽい!!殺されて当然だけど、殺されたくないっぽい!!!!」
まあギャン泣きである。そりゃまあ、あんだけボコボコにしていたのだから当然である。
「総隊長、多分大丈夫ですね」
「そうだな。お前ら、銃下ろしていいぞ」
「へ?提督さん、何で生きてるっぽい?腕も生えてるし、脚も変な方向に曲がってないっぽい?」
長嶺が出てきた事に驚いて、さっきまで流していた大粒の涙も止まる。
「アレは全部立体映像のフェイクだ。実際は特殊スーツで全てのダメージを無力化してたから、俺の身体自体はピンピンしてる」
「よがっだっぽいぃぃぃ!!!!」
「え!?ちょ!止まグハッ!!」
抱きつかれて、そのまま後ろに吹っ飛ぶ。
「ごめんなさいっぽいぃぃぃ!!」
「はいはい、怒ってない。怒ってないから。取り敢えず、離すか力を弱めて。マジで締め殺されそうなんだけど.......」
結果、それ以外の艦娘も同じような感じであった。そして全員を復活させた直後、トランプが長嶺をかすめる。
「!?」
「まさか、艦娘を正常に戻すとはねぇ。中々おもしろい」
「よぉ、トーラス・トバルカイン。よくもまぁ、ノコノコとやって来れたな?」
「おっと、今回は争いに来たんじゃない。謝罪に来たんだ」
そう言いながら、両手を挙げて抵抗の意思がない事を示す。手にも何も仕掛けはない様なので、本当に戦闘目的ではない様だ。
「謝罪だと?」
「この一件、全て私の元部下のやらかした事だ。名はドーファン。ネクロマンサーで、生物を操れる。しかし、この間裏切り逃亡。その際にここを落として、艦娘達を自分の奴隷か何かに使おうとしていたそうだ。取り敢えず、ソイツは粛清しておいた。これが証拠と証明書だ」
大きめのケースとファイルを長嶺に向かって投げる。
「ワーオ」
ケースを開けると中には男の首、つまりドーファンの首が入っていたのである。ファイルにはドーファンだと証明する写真やデータが収まっていた。
「これで手打ちにしてもらいたい。飲んでもらえるなら、我々は向こう半年は君達に対して攻め込む事はない」
「いいだろう。今回は幸い死傷者はいないし、基地はボロボロになったが無事だった。唯、修理代と戦闘時の資金は請求させてもらう」
「いいだろう。近いうちに、ここへ届けてやる。では、さらばだ‼︎」
またもやトランプが覆い、姿を晦ます。
「艦娘共、本日を休暇とし明日から訓練に励め。作戦決行日に変わりはない、死ぬ気で頑張れ。それから今回の一件は死傷者は無く、基地が壊れただけだ。君達も私に色々やってくれたが、我々も君達に手荒な事をしている。よって君達は何も責任を感じなくていい。わかったな?」
艦娘達は皆暗い顔している。運が悪い事に、鮮明に暴行時の事を覚えているのだから当然である。しかし霞桜と長嶺は早々に退散して、その場を去ってしまう。艦娘達は謝罪する間もなく、唯背中を見送る他なかった。