最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第四十六話前途多難な実行委員会

千葉村での事件より約一ヶ月後 総武高校 

「なん.......だと.......」

 

比企ヶ谷、固まる。何故固まっているのかと言うと、自分の名前が黒板の文化祭実行委員の場所に書かれていたのである。勿論、比企ヶ谷が自分から「やりまーす」なんて、立候補した訳がない。

 

「説明が必要かね?もう次の授業だと言うのに、まだ委員を誰がやるのかグダグダやっていたのでな。だから、比企ヶ谷にしておいた。ロングホームルーム中に本気で居眠りする方が悪い」

 

そんでもって、やっぱり平塚が比企ヶ谷の意思に関係なく書いたのである。まあ居眠りしてた比企ヶ谷が悪いのだが、流石にそれだけでこの扱いは酷い。比企ヶ谷も反論しようとするが、平塚は「席につけ、授業が始められん」とぶった斬り、無理矢理有耶無耶にしたのであった。

 

 

「えー、じゃあ女子の委員やりたい人。挙手で」

 

そんでもってその日の放課後、まだ決まっていない女子の実行委員を決めるべくクラス委員のメガネが立候補者を求めていた。無論それで決まるのなら、最初のロングホームルームで決まってるわけで誰一人として手を挙げない。

 

「このまま決まらないのならジャンケンに」

 

「はぁ!?」

 

こういう時の必殺、ジャンケンで決めるも三浦の一言でねじ伏せられてしまう。

 

「ねぇ。実行委員って、大変なの?」

 

「普通にやればそんなに大変じゃないと思うけど、女子の方は結果的に大変になっちゃうかもしれない。正直、由比ヶ浜さんがやってくれると助かるなぁ。人望あるし、適任だと思うんだけど」

 

「いや、別に私はそんなんじゃ」

 

由比ヶ浜が否定していると、横から煽りというか皮肉というか、まあいずれにしろ少しイラつく事を言い出す輩が居た。相模である。

 

「へぇ〜、結衣ちゃんやるんだぁ。そういうの良いよね。仲良い同士でイベントとか、超盛り上がりそー」

 

言葉的には全然普通の、マトモな感じである。皮肉要素も煽り要素もゼロ。だがしかし、その声色は皮肉も煽りも十二分に入っていると感じざるを得ない物である。

しかも相模の周りの人間、所謂「相模グループ」の女子達もクスクス笑っている。因みにこの相模グループ、カースト内ではトップに君臨する葉山グループに次ぐカーストのグループだったりする。

 

「つーかさ、結衣は私と客呼び込む係だから無理っしょ」

 

「そ、そうなんだ。呼び込みも大事だよねー」

 

「そーそー。呼び込みも重要って、私呼び込みやるの!?」

 

どうやら、何も聞いてなかったらしい。そしてここで、お仕事を増やす事で定評のある長嶺ストレスの根源、みんなのクソ王子の葉山が動き出す。

 

「つまり、人望もあってリーダーシップを発揮してくれそうな人に、お願いしたいって事で良いのかな?相模さんちゃんとやってくれそうだし、どうかな?」

 

「えぇ、ウチぃ?絶対無理だってぇ」

 

(何いきなり声がワントーン上がって、ついでに謎のクソキモいクネクネした動きを追加するんだ。気持ち悪ッ!)

 

とまあ、どう見ても本気で嫌ではなく、というか寧ろ葉山に頼られて嬉しい。が、もう一声、何か欲しいが故の所謂「駄々っ子」みたいなヤツのそれである。

 

「そこを何とか、お願いできる?」

 

「まあ他にやる人いないなら、しょうがないと思うけどぉ。でも、ウチかぁ」

 

 

 

翌日 放課後 部室

「でも、ゆきのんが委員会やるなんて意外だね」

 

「そうかしら?.......まあ、そうね。私としては、あなたが実行委員に居たのが意外だったけど」

 

どうやら雪ノ下と由比ヶ浜も、何だかんだで実行委員に入ったらしい。言うまでもないが、長嶺とオイゲンは入ってない。そんな時間ないし、長嶺としては「ここに来てまで書類仕事なんざしたくないし、それ以前に時間無いんだよ!」という理由である。オイゲンは安定の面倒だからというもの。

 

「だよねぇ!超意外」

 

「おい。俺は半分強制なんだよ」

 

「そう」

 

なんか知らんが、空気が超重い。別に雪ノ下と由比ヶ浜はどうなろうと知ったこっちゃないが、比企ヶ谷の方は潰れられては困る。

 

「委員会って毎日だよね。あたしも多分、これからクラスの方を手伝ったりしなきゃだろうし」

 

「あぁ。俺も暫く部活来れないから」

 

「ちょうど良かった。私も今日、その話をしようと思っていたから。取り敢えず、文化祭が終わるまでは部活は中止しようと思うの」

 

「まあ妥当だな」

 

因みにさっきから何故オイゲンと長嶺は黙っているのかと言うと、正直言って奉仕部とかどうでも良いからである。元々長嶺としては乗り気ではなく、今も尚「できる事なら鎮守府に直帰して、そのまま執務をしておきたい」というスタンスは変わっていない。一方のオイゲンも当初は「なんか面白そうだし、1秒でも多く指揮官と一緒に居たい」という思いから入部したものの、蓋を開けてみればストレスが溜まるだけの部活。だが指揮官とは一緒に居れるから、仕方なく来ているというだけなのだ。

そして奉仕部をどうするかと話し合っていた時、引き戸が開いた。

 

「しっつれいしまーす」

 

相模&相模の取り巻き、つまり相模グループの女子達がやってきたのだ。

 

「平塚先生から聞いたけど、奉仕部って雪ノ下さんの部活なんだぁ」

 

「何か御用かしら?」

 

「ウチ、実行委員長をやる事になったんだけどさ、こう、自信がないって言うかさ?だから、助けて欲しいんだ」

 

この言葉に長嶺は驚いた。この相模という女、結構なヘタレと承認欲求を満たす事しか考えてない奴の二刀流なのである。簡単に言うと、面倒なタイプである。

相模は自分の存在意義というか自分の価値をトップに立ち、周りからチヤホヤされる事でしか見出せない。かと言って自身に何か特技、才能、信念や信条、何かを貫き通す強固な意志がある訳でもなく、それどころか趣味すら持ち合わせない。しかも元来のヘタレと豆腐メンタルで、常に楽な道しか選ばない。言ってしまえば「他人を下手に利用してくる女版葉山」と言う感じだろう。まあ葉山の場合、他人を利用しても匙加減が上手いのでバレにくいが、コイツの場合は安易な考えからしか行動しないので小物感がすごいが。

 

「(なぁ比企ヶ谷?委員長って、マジで言ってる?)」

 

「(らしい。なんかノリで立候補したとか何とか、さっき聞いたぞ)」

 

「(何故だろう、嫌な予感しかしない)」

 

長嶺の心配を他所に、話はどんどん進んでいく。

 

「自身の成長という、あなたの掲げた目的とは外れるように思えるけど?」

 

「そうなんだけどぉ。やっぱりみんなに迷惑かけるのが一番不味いっていうかぁ、やっぱり失敗したくないじゃない?それに、誰かと協力して成し遂げる事も成長の一つだと思うの!」

 

とは言っているが、長嶺はその真意を既に読み取っていた。相模がして欲しいのは、仕事の手伝いでもまして成長手伝いでもない。全ての仕事を押し付けて、自分は美味しい部分、美しい部分だけを掻っ攫い自分の手柄であるかのように振る舞う。そしてそれをエサに、周りからチヤホヤされて承認欲求を満たす。そして何か問題が発生した時の保険、つまりスケープゴートとして動いて欲しいというのが本音なのだと。

こういう手合いのクズは、何人も見てきている。政治という世界では一定数、そういう輩が居るものだ。そんな奴を見続けて来た長嶺からしてみれば、こんなのは見え見えの嘘に他ならない。例え美麗な語句で飾り付けようと、清潔な考えで覆おうとも、その中の醜悪な悪臭を放つ精神までは隠せないのだ。

 

「要約すると、あなたの補佐をすれば良いという事になるのかしら?」

 

「うん!そうそう!!」

 

「そう、なら構わないわ。私も副委員長な訳だし、私がその依頼、引き受けたわ」

 

雪ノ下がこの真意に気付くとは思っていなかったが、流石に何かしら隠してるのは察していると考えていたが、どうやら違ったらしい。曰く「私自身、実行委員な訳だし、その範囲から外れない範囲で手伝える」という考えなのだが、何とも嫌な予感がしてならない。

そしてこの答えは、翌日の会議で明らかとなった。

 

 

 

翌日 放課後 会議室

「それでは、定例ミーティングを始めます。じゃあ宣伝広報、お願いします」

 

「掲示予定ポスターの制作も、大体半分程度終わっています」

 

滑り出しは順調。というかどんなアホでも、こんな場所で躓く事はないだろう。だが、暗雲が立ち込み始めた。それは相模が「いい感じですねー」みたいな感じで、宣伝広報を褒めていた時だった。

 

「いいえ、少し遅い」

「え?」

 

「掲示箇所の交渉、ホームページへのアップは既に済んでいますか?」

 

「まだです.......」

 

「急いでください。社会人はともかく、受験志望の子やその保護者はホームページを結構こまめにチェックしてますから」

 

「は、はい」

 

長嶺の危惧していた事は、正にこれなのだったのだ。現在の役職は相模が委員長で、雪ノ下が副委員長。こういう場において、副は常にトップの一歩後ろにいる必要がある。ましてトップを差し置いて指示出しするといった行為は、言語道断。まあケースバイケースでもあるのだが、基本全体指揮を取るのがトップ、つまり委員長で、その補佐や細かい面を見るのが副の役目なのだ。

少なくともトップがその場にいるのに、トップの承認なく表立って全体の指示を出すのはトップの顔を潰す上にトップの存在意味が無くなってしまう行為である。

とまあ、こんな事は誰でも知っている事だろう。なら何故、この事が起こると予測したのか。それは雪ノ下がワンマンアーミーだからである。ぶっちゃっけ、雪ノ下と相模だと雪ノ下の方が優秀だ。だが雪ノ下は常に自分で全て片付けようとして、人に頼る事もしない。そして人の痛みを知らない。つまり「私が出来ることは、他人も出来る」という考えが無意識下に存在しているのだ。こういう輩は自分より無能な奴の下に付くと、自分の方が正しいという考えからアレコレ勝手にやってしまう。しかもプライドが妙に高いとなると、その行動はより顕著に現れる。

簡単に言おう。雪ノ下が副に向いてないのだ。

 

「相模さん、次」

 

「は、はい。次、有志統制さん。お願いします」

 

「はい。有志参加団体は、現在10団体」

 

「増えたねぇ。地域賞のお陰かな?じゃあ次h」

「それは校内のみですか?地域の方々への打診は?例年『地域との繋がり』という姿勢を掲げている以上、参加団体減少は避けないと。それからステージの割り振り、開演のスタッフ打ち合わせ等、タイムテーブルを一覧にして提出してください」

 

「わ、わかりました」

 

完全にダメだ。雪ノ下の暴走は止まらない。明らかに副の範疇を越えて、いや。この場合は依頼の範疇を越えている、と言った方が良いだろう。お陰で既に実行委員の空気は「雪ノ下さんすごーい」とか「ていうか、雪ノ下さんが委員長すれば良いのに」と言った空気に成りつつあった。

だが一方で、長嶺は一つだけ更に勘づいた事があった。

 

(雪ノ下の奴、ありゃ亡霊(・・)に取り憑かれてるな)

 

何も悪魔とかに取り憑かれた訳ではない。雪ノ下は先駆者の誰かの影を追う事に取り憑かれ、冷静さを完全に欠いているのだ。

その後も会議は雪ノ下主導で行われ、相模は完全空気となった。

 

 

「雪ノ下」

 

「何かしら、桑田くん?」

 

「お前、どういうつもりだ。どう考えても、依頼とはかけ離れてる振る舞いだぞ」

 

流石に色々面倒事に発展して被害を被るのは嫌なので、一応釘くらいは刺しておく事にした。それで止まれば良し、止まらねば自分は逃げて他にゴタゴタ押し付けるのみ。

 

「やるからには、完璧でないといけないわ。それが私のポリシーよ」

 

「いやいや。テメェのポリシーとか聞いてねぇよ。俺の話、理解してるか?ポリシー?信条?うなもん犬に食わせろ。

テメェがすべきは自分のポリシーに従うのではなく、相模をサポートして成長を補助する事。テメェのやってることは前にテメェの言っていた言葉を借りるのなら「魚の取り方を教えるのではなく、魚を与えてる」って事だ。依頼をもう少し、見つめ直すんだな」

 

「.......あなたには関係ないでしょ」

 

「あぁ、そうさ。俺には関係ない。だがテメェがしくじった時、泥被るのは俺も同じなんだわ。別にしくじって迷惑がテメェにのみ掛かるのなら、どうぞお好きにしてもらって構わない。が、奉仕部の名の下に依頼を受けた以上、話は別だ。多少なりとも責任問題は俺達にも発生するんだよ。テメェが1人で受けようが、それは変わらない。よう覚えとけ」

 

雪ノ下は高校生にしては、既に達観した思考を持っている。だが長嶺はその遥か高み。雪ノ下の実家である雪ノ下建設や県議会議員といった上流階級の、そのまた更に上の世界を渡り歩いた。更には世界の純然たる常闇の世界も、戦場という非日常の地獄をも渡り歩いたのだ。所詮「ちょっとだけ上流の階級にいる、ちょっと頭のいい高校生」程度の浅知恵でどうにか出来ない。

ここまで言われたら、黙るしかなかった。

 

「あ、そうだ。最後に一つ、アドバイスだ。亡霊に取り憑かれるな」

 

そう言い残すと長嶺は、外へと歩いて行った。

 

 

 

翌日 放課後 教室

「なんだこれ」

 

トイレから教室に帰ると、黒板にクラスの出し物である『星の王子さま』のキャスティングが書かれていた。

王子様役は勿論、みんなのクソ王子様である葉山。で、問題なのは相方となる宇宙飛行士。なんと比企ヶ谷である。

 

「説明が必要かね?」

 

「あー、やっぱりお前か。監督&脚本」

 

「無理じゃないかしら?」

 

「え!?でもハヤ&ハチは薄い本ならマストバイだよ!ていうか、マストゲイだよ!!」

 

まあこんな事を言っているので、既に監督と脚本が誰かはお察し頂けてるだろう。海老名さんである。

 

「やさぐれた感じの飛行士を、王子様が純粋無垢な心で巧みに攻める!!それがこの作品の魅力じゃないッ!」

 

「(リシュリュー辺りが聞いたら、絶対怒るわね)」

「(主砲で吹き飛ばしにかかりそうだよな)」

 

念の為言っておくが、あらすじとしてはサハラ砂漠に不時着した飛行機の操縦士が、砂漠でそれが星の王子さまと出会う。 王子さまは操縦士に自分が生まれた星のことや、色々な星を旅したときの話をする。 二人は8日間一緒に過ごし、絆を深めていくという話である。決してBL展開の本ではない。

 

「あら、でも八幡くんはアレでしょ?実行委員だから、稽古の時間とか取れないんじゃないかしら?」

 

「「「「あ.......」」」」

 

長嶺、比企ヶ谷、葉山、海老名が同時に声を上げる。因みに比企ヶ谷と葉山は、心なしか少し嬉しそうだった。

 

「一度全体的に考え直した方が良いんじゃないか?王子様役とか!」

 

(それが目的かコイツ)

(ここぞとばかりに利用したな)

(ふふふ、面白そうな事になりそうね)

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」

 

海老名はチョークをひったくると、キャスティングを変えた。星の王子さまは葉山から戸塚に。そして宇宙飛行士は比企ヶ谷から、葉山になった。

 

「俺は結局出なきゃいけないんだな.......」

 

(葉山よ、今回ばかりは同情するぞ)

 

「頑張ってね、応援してるわよ王・子・様?」

 

オイゲンのこの一言で葉山のやる気は一気に上がった。そして張り切って準備に入り始め、戸塚と早速会議を始め出す。オイゲンの効果スゲー。

そして長嶺は、教室の隅に視線をやっていた。

 

「アハハ!超ウケる」

 

(そんなとこに居ていいのかねぇ、委員長さん)

 

相模が取り巻き達とワイワイ騒いでいたのだ。本来なら「実行委員いけよー」とか言うべきなのかもしれないが、それは雪ノ下の役目。長嶺の役目ではない。

そんな訳で長嶺はさっさと1人で、会議室へと歩いて行った。

 

 

「で、何この人だかり」

 

「芸能人でも来たのかしら?」

 

実行委員会の置かれてる会議室に何故か、人だかりが出来ていたのだ。別に人が多くて中々進まない訳でもないし、何か不測の事態が起きたと言う感じでもない。というか実行委員ではない生徒もチラホラ居る。

 

「あははっ。めぐり、ダメだよ。アレは遊びだし。ねぇ、良いでしょ雪乃ちゃーん?可愛い妹のために、してあげられることはしてあげたいんだよぉ〜」

 

「思い出した。アイツ、雪ノ下の姉だわ」

 

「.......なんで知ってるのかしら?」

 

なんか一気にオイゲンのトーンが下がった。何故かって?そりゃあ好きな男から、他の女の話題が出たのだ。それもまあまあ美人なので、こうもなる。

 

「入る前に全校生徒と教職員の親族は、既にリスト化して頭に叩き込んであるからな。だが一応、検索をかけるか」

 

そう言うと長嶺はポケットからスマホを取り出し、適当なアプリを開いてるフリをしてカメラで目の前の女性の顔をスキャンする。スキャンしたデータはすぐに江ノ島に送信され、サーバー内に保存されているデータと照合していく。そして該当データを、スマホ上にバレないように表示させた。因みにこの間、わずか0.5秒。

 

「雪ノ下陽乃。千葉大学理系学部に通う20歳で、犯罪歴や反社会勢力との接近は無しか」

 

「そこまでわかるのね」

 

「あらゆるデータをコピーしたからな。警察、役所、銀行、その他諸々etc。ウチのデータなら、すぐに対象を丸裸に出来る」

 

因みにこれはこの学校以外の人間でも同様である。ただしサーバーに入っていない場合、そのまま当該データのある外部サーバーをハッキングするので表示に時間が掛かる。

 

「あら?どうやら、姉妹仲は悪いみたいよ」

 

「ホントだ。雪ノ下があからさまに嫌悪感丸出しの顔をしてる」

 

「ごめんなさーい!クラスの方顔出してたら、遅れちゃいましたー!」

 

このタイミングでクラスの方に顔を出していた、という最もらしい理由で遅れてきた相模が入ってきた。勿論遅れた理由は顔を出したのはそうだが、あくまで取り巻き達と駄弁ってただけ。嘘でもないが、本当でもない。

 

「陽さん、この人が委員長ですよ」

 

「うぇぇ、相模、南です」

 

「ふーん。文化祭実行委員がクラスに顔を出して遅刻、へぇー」

 

「いや、あ、その」

 

よく『美人が怒ると怖い』というが、この陽さんとやらもその法則に漏れないらしい。既に結構怖い。さすがの相模でも、口をモゴモゴしてどうにか切り抜けようとしていた。

 

「う〜ん、やっぱり委員長はそうでなきゃねぇ。文化祭を最大限楽しめてこそ、委員長に必要な素質だよねぇ」

 

だが態度とは裏腹に、なぜか好印象。そして誉めたことで、相模は心理的な余裕、つまり隙が出来た。このタイミングを逃さず、陽さんは自分の要求を捩じ込んだ。

 

「それでさ、お願いなんだけど。私もさぁ、有志団体で出たいんだよねぇ。雪乃ちゃんには渋られちゃって.......」

 

「良いですよ、有志団体足りないし」

 

「わぁー!ありがとー!!」

 

一見、合理的な判断なように見える。確かに現状、校内は良いとして校外の有志団体はゼロ。流石にこれでは広報上、ちょっと影があるのだろう。学校側としても喉から手が出るほど欲しい。

だが長嶺は、一瞬雪ノ下の方向を見て表情が変わったのを見逃さなかった。位置的に相模の背中なので表情どころか顔すら殆ど見えないが、それでも髪の間とかから口元くらいは見える。その顔はほんの一瞬、歪んだ笑みを浮かべていた。まるで「負かすチャンス」とでも言わんばかりの。

 

「地域との繋がりも、これでクリアでしょ?」

 

その一言に、雪ノ下が答えることは無かった。

 

 

「あれ、比企ヶ谷くんだ。ひゃっはろ〜。ちょっと意外だなぁ、比企ヶ谷くんはこういう事しない子だと思ってたよ」

 

「はぁ。俺もそう思ってたんですけどね。でも意外さで言うなら、お宅の妹さんもそうなんじゃないですか?」

 

「そう?私はやると思ってたよ。だって部活には居づらくなってるだろうし、姉の私が昔実行委員長やってたんだもん。あの子がやる理由には十分よ。

それよりも、そこのイケメンくんはだーれ?」

 

そう言って同タイミングで入ってきていた長嶺も捕まった。こういう時オイゲンが止めそうだが、そのオイゲンは教室に忘れ物を取りに戻っていて今居ない。

 

「どうも。この春にドイツから転校してきた、桑田真也と言います。妹さんとは、部活の仲間です」

 

「へぇ、君も奉仕部なんだねぇ。私は雪ノ下陽乃。ねぇ、連絡先交換しない?なんか君といると、楽しそうだし」

 

そう言いながらカバンからスマホを取り出してくるが、答えはNOである。「お断りします」と言って、断った。

 

「あらあら、どうして?」

 

「私はあなたのような人とは、お付き合いしたくない」

 

「.......どういう意味かな?」

 

「あなたは心に鎧を纏っている。そして顔にも、笑顔という鋼鉄製の鉄仮面を嵌めている。普通の人間なら、それを見て「とても優しい、思いやりのある女性」と認識して裏に勘づかないでしょう。比企ヶ谷位の観察眼があれば、裏の存在を1発で見抜くでしょうが。

ですが私の目は、その奥をも見通す。あなたが貼り付けている擬態する性格の裏にある、真なる性格。その性格をも、さっきの短い会話の一部始終を見ただけで分かりましたよ。この場であなたの性格どうこうを言うつもりも、擬態するのを悪と言うつもりもありませんが、今日ここにきた目的位は当てておきましょう。まあ、それは俺ではなく相模がやってくれますがね」

 

そういう風に長嶺が言った瞬間、相模が前に出て話を始めた。この状況下の実行委員会に取っては、一番最悪の悪手を。

 

「皆さーん!ちょっと良いですか?少し考えたんですけど、実行委員は文化祭を楽しんでこそかなーって。自分達が楽しまないと、人を楽しめさせられないっていうか。予定も順調にクリアしてるし、クラスの方も大事だと思うので、少し仕事のペースを落とすって言うのはどうですか?」

 

「相模さん、それは考え違いだわ。バッファを持たせる為に前倒しで」

 

「雪ノ下さーん。お姉さんと何があったのかは知らないけど、先人の知恵に学ぶって言うかさ?私情を挟まないで、みんなの事を考えようよ!」

 

どうやら相模も、昨日の実行委員会で雪ノ下が無双してたのが頭に来てたらしい。一番言われたくない事を、平然と言ってのけたのだ。

 

「.......ご満足ですか?雪ノ下さん」

 

陽乃の顔はいつものように笑顔だが、その笑みは引き攣っている。そしてその裏では目の前の男に、そこ知れない恐怖を感じていた。まるでトラップだらけのジャングルに放り込まれて身動きが取れないような、目の前に肉食獣が居て隠れているような、そんな背筋に来る恐怖が陽乃を包んでいた。

 

「あなた、何者なの?」

 

「さぁね。俺は俺で、それ以上でもそれ以下でもない。ただあなた以上に擬態がうまく、全てを見透かせる観察眼を持った極々普通の高校生に過ぎない。

あなたがどうしようと勝手だが、俺に迷惑が掛かるのなら話は別だ。あなたのした事の尻拭いは、こっちの担当になるんだ。そんな馬鹿な話があって溜まるか」

 

「.......あなた、やっぱり面白い。比企ヶ谷くん以上に」

 

「そりゃどーも」

 

斯くして、雪ノ下陽乃とのファーストコンタクトは何とも言えない物で終わった。

そして翌日からの実行委員会は、本当に地獄そのものであった。全く来ないのだ、実行委員達が殆ど。そりゃそうだ。実行委員として会議室で書類やパソコンと睨めっこする位なら、クラスや部活の出し物を手伝った方が遥かに楽しい。それをわかっていながらも、彼らはずっと耐えてきた。だがその鎖が実行委員長の相模によって解かれたとなれば、そりゃみんなクラスへと逃げる。

結果として残ってるのは全体の5分の1位だろう。しかも大半が生徒会という有り様で、それでもどうにか回っているのは長嶺、オイゲン、比企ヶ谷、雪ノ下の頑張りが大きい。特に長嶺とオイゲンは仕事として書類やパソコンを使っているのでお手のもの。様々なツールを使って合理的に進められていた。

 

「遅れてごめんなさーい!」

 

「相模さん、ここに決済印を。不備についてはこちらで修正してあるから」

 

「.......そう、ありがとう。ていうか、ウチのハンコ渡しておくから押しちゃっていいよ。ほら、委任っていうヤツ?はい」

 

そう言って相模は決済印を雪ノ下に渡した。流石にこの行動には、実行委員達も唖然である。普通に考えて普通の一般企業でこんな事をすれば、就業規則違反とかで処罰の対象となり得るだろう。決済印というか、決済というのはそれだけ重要なのである。

まあ中にはそういう印鑑を部下に渡す者もいるが、それでも書類には必ず目を通す。「ハンコは押しちゃって良いけど、一応こっちでも見るからね?」となるのが普通なのだ。だがそれすらせず、ただハンコを押すだけと化しているのに、それすらも押し付ける。この辺りでようやく実行委員達も、相模がヤバい事に気付いた。

 

「では今後はこちらで決済します」

 

「楽しい事やってると、1日がはやーい!お疲れ様でしたぁ!」

 

「「お疲れ様でしたぁ!」」

 

そう言ってさっさと帰って行く相模とその取り巻き。来た時間、たったの1分。ここまで来たら職務怠慢以前の問題だろう。

そしてこれまでの無理が祟って、雪ノ下と比企ヶ谷が揃って潰れてしまった。

 

 

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