文化祭から二週間後 奉仕部部室
「千葉県横断お悩み相談メールだっけ?アレ使われてんの?」
「一応、使われてるらしい」
あのクソッタレな文化祭が終わって、早二週間。つい一週間ほど前から稼働を開始した『千葉県横断お悩み相談メール』は、これまで平塚を通して流れて来ていた奉仕部への依頼を、ネットでも申し込めるようにと雪ノ下の発案で生まれた。
だがこれ、一つ問題がある。何せネットなので世界中のネットに接続できる者なら誰でも送れる物であり、これまではあくまでも学内の依頼だったのが大袈裟ではあるが全世界にまで広がっちゃってるのである。まあ流石に全世界は愚か、日本全国からも依頼が来るほどのヒットを出すわけ無いので考えすぎ感はあるにはあるが。
因みに長嶺が「学内にポスト設置すれば良くね?」と提案はしたが、なんか「今世界はグローバル化が進んでいる以上云々」という雪ノ下の最高にありがたくない御託に参って取り下げた。
「あ、依頼来てるわよ」
そのお悩み相談メールを確認していたオイゲンが、どうやら依頼を発見したらしい。どんな内容かと言うと『体育祭を盛り上げるアイデアを募集しています。それと、最後なので絶対勝ちたいです!』という物であった。
「嫌だったわよねぇ。クラス対抗リレー」
「あの謎のプレッシャーな」
「あたし、あんま足早くなかったからきつかったなぁ」
「そうそう。居るんだよなぁ、クラスメイトが抜かれると舌打ちして、マジギレするサッカー部の長山」
「それ誰!?何で個人名!?!?」
とまあこんな具合に、各々体育祭の嫌なエピソードを語っている。だが長嶺とオイゲンはそんな経験ないので「そうなんだぁ」位で留めている。
因みに主は中学は集団行動ガチの学校で、毎回毎回先生が誰かしらを吊し上げてブチギレられていた。高校はダンスがキツかった。特に高校は色々問題が起きた年があり、先輩が盛大に先生からガチギレされて午後の部の開始が1時間遅れた伝説の体育祭があった。尚、主のリアルはスポーツできない系男子だったので基本的にネタ枠でやるか、体育祭の運営側に入って上手くエスケープしてました。
「あ、後バトン受け取るの嫌がる女子な。なんで態々俺の目の前で「マジあり得ないんだけど〜」とか言うの?ツンデレ?」
「いやー、それはぁ」
「自分でわかっているだろうから敢えて明言は避けるけど、女子が嫌がってる時はかなりの確率で本気よ」
「明言してるじゃねーか。明言の意味調べとけよ。
それと、体育祭と言えばアレな。1人足りなくて、先生と一緒にやる組体操とかな。扇とかやらうにも、人が足らなくてよ」
「それを目にするご両親が哀れだわ。
どうやら比企ヶ谷は、中々に結構ディープな体育祭を送っていたらしい。そんな話をしていると、ドアがノックされた。入ってきたのは、なんと生徒会長の城廻。珍客である。
「えっと、奉仕部ってここでいいのかな?体育祭のことでメールしたんだけど、返事来なかったから直接来ちゃった」
5人してPCの画面を見つめる。よく見ればハンドルネームの欄に「めぐめぐ」と書かれていた。
「あ、確かになんからしいハンドルネームだ」
「そうそう、これだよ!体育祭も文化祭の時みたいに盛り上げていきたいんだよ〜。雪ノ下さんと、えっと」
比企ヶ谷の方を凝視して、なんか困った顔をしている。どうやら文化祭の英雄である比企ヶ谷を知らないor覚えてないらしい。
「比企ヶ谷です、比企ヶ谷」
すかさず由比ヶ浜がそう言うが、まさかの由比ヶ浜を比企ヶ谷と勘違いする。どうやら結構天然の入った、所謂ポンコツらしい。
「えっと、それからそっちの2人は」
「エミリアよ」
「桑田です。そいつと同じくらいには文化祭で悪名持ってますから、ある意味覚えやすいでしょ?」
「う、うん。でも2人とも文化祭で頑張ってたから、よく覚えてるよ。だから今回もよろしくね〜」
そう言って長嶺と比企ヶ谷に顔を近付けてくる城廻。それを見て由比ヶ浜は露骨にやきもちを焼き、オイゲンは機嫌が一気に悪くなる。
「城廻先輩、依頼の詳細を教えてください」
「あ、そうそう。みんなにお願いしたいのは、男子と女子の目玉競技なんだよ」
曰く、毎年地味で殆どの生徒に覚えられてないらしい。長嶺とオイゲンは知る由もないのだが、確かに他の3人も「そう言えば何やった?」みたいな感じで覚えてない。だから一つ派手なのをして、目玉競技を作っておきたいらしい。そんな訳で何故か実行委員会に参加することになった。で、会場に行ってみれば…
「お、うまく人員確保できたみたいだな」
まさかの平塚先生がいた。どうやら面倒なので、駒である奉仕部を手元に置いてこき使いたいという魂胆らしい。まあ名目は「私が若いからお鉢が回って来て、どうせなら面白いのをしたい。私って若いから、これの担当なんだよ」と、なんか余計な主張も混じっているが概ねはそういう名目であった。
で、会議が始まったのはいいのだが…
「部活対抗リレーとか!」
「それだと、部活に入ってない生徒が出られないから不満がな.......」
「オーソドックスに、パン食い競争」
「ご飯派の不満が、クレームに繋がる恐れが.......」
「借り物競争!」
「親御さんの借金で苦しんだ生徒への、配慮を、考えると.......」
みたいな感じで、片っ端から誰かへの配慮とかで軒並み却下されまくってしまった。なのでホワイトボードに出た意見も、全て横線が引かれてしまっている。
「配慮ばかりですね」
「最近はどこもうるさくてな。何かと、規制が多いのだよ」
「と、とにかく色々考えてみよ!」
でまあアイデアを出すのは良いのだが、全てが配慮だのクレームだのと、ホワイトボードが埋まるくらいは出た意見は全滅である。というか、途中から連想ゲームになってる始末。最初は「みんな頑張ってこー!おー!!」みたいなノリノリの城廻も「他に意見ないですかー(棒)」になり、目も死んでいる。
「思ったよりアイデアが貧困だったわ.......」
「出る杭は打たれるなんて言うけど、本当だったみたいね.......」
「うんエミリア。それ意味違うぞ」
因みに『出る杭は打たれる』というのは、才能ある者が他から妬まれたり憎まれたり非難されてる事を指す。今回の場合、出る杭以前に杭が存在していない。
「そもそも、俺達が考えるってのも無理があるな」
「じゃあどうすんだ?この見事なまでの意見が消え去っていき、最早連想ゲームへと移行しつつあるこの現状を」
「適材適材っつうだろ?」
「確かに大事な考え方ではあるわね」
大事な考え方の筈が、比企ヶ谷に掛かれば捻くれた考え方へと進化する。曰く「できる人間は組織に使い潰されるのが世の常だ。その癖、給料が上がらない」らしい。
「わかるッ!わっかるなぁ!!」
「平塚先生。そこは共感してはいけないのでは?」
平塚としては共感なのだろう。机叩をいて、いつもは否定する捻くれ論理に珍しく同意している。
一方で長嶺もその考えには同意であった。提督を始めてから現在に至るまで仕事も、派閥も、ゴタゴタも連合艦隊司令長官すらも押し付けられてられている。まだこれだけなら、平塚と同じような悲壮感漂わせる位で済んだかもしれない。だが提督を始める前の、まだ長嶺が子供だった頃。長嶺は組織に利用され続け、搾取され続け、遂には仲間すらも失い、その原因が怖気付いた上層部にあったという悲しい過去もある。
比企ヶ谷としてはいつもの捻くれ思考からくる、単なる論理の話であったのだろう。普通はそうだし、その論理こそが世の常でもある。だが長嶺にとっては、思い出したくない過去を想起させる物に他ならなかった。
「真也?」
「あぁ、どうした?」
「何かあったの?顔、すごく怖かったわよ」
「別に。昔あった事を思い出してただけだ」
その怖気付いた上層部の人間は、すでにもう全員『粛清』済みである。だがそれでも、やはり初めての親友であり、唯一無二の掛け替えのない相棒達を失った悲しみを、その程度で払拭できる筈はなかったのだ。
(今はそれを考えてる時じゃないだろ。思考を、止めるんだ)
「…ジョブローテションだ。アウトソーシングだ」
「なんかよく分かんないけど、凄そう.......」
「よくもまあ、それっぽい単語をスラスラと」
どうやら、こういうのが得意な第三者に外注やらワークシェアリングやらジョブローテションやらアウトソーシングやらと、如何にもそれっぽい単語を付けて丸投げするつもりらしい。
で、呼び出されたのが…
「何で私呼ばれたの?」
「けぷこん、けぷこん。うむ、左に同じ」
(あー、よりによってコイツらか)
葉山グループに所属する鼻血出しまくり要因として定評のある、腐女子の海老名。そして自称・剣豪将軍の材木座義輝こと、Mr.厨二病罹患者である。比企ヶ谷らしいチョイスではあるし、ここまで会議が停滞&脱線してる以上、これくらいインパクトある方が良いとは思う。
が、しかし、これ一歩間違えると一生進まなくなるか、今以上に予測不可能な変な方向へ突き進む可能性もある。結構な賭けなのだ。
「なぁるぅほどぉ!ザ・ユニverse!!!!話題になって、盛り上がる競技を考えろとな!?」
「盛り上がれば良いんだよね?
「ねぇ真也。これ、大丈夫かしら?」
「.......ノーコメントで」
なんかもう既に色々ヤバいが、案外始まってみると暴走こそしたが一応うまく行った。どうにか話題性もエンターテイメントとしても優秀で、見栄え良く生徒の思い出にもなる物にはなった。
そこからは怒涛の勢いで準備が進み、早い事でもう本番と相なった。
約三週間後 体育祭当日
「みんなありがとー。相談したお陰で、凄い楽しくなりそう!」
「いいえ。まだですよ、城廻先輩」
「受けた依頼はまだ半分しか終わってないしな」
「そうね、勝たなきゃ依頼達成じゃないわよね」
「勝ちましょう!」
「とまあ、こんな具合なんで、そのお礼はまだ取っておいてくださいな」
「うん!」
斯くして、体育祭は始まった。この学校では紅白に分けて、戦う事になっている。赤組は奉仕部&城廻&戸塚。白組は葉山グループ&川崎&相模グループと言った感じで分かれている。そして大体、葉山の独壇場で出場する度に真っピンクの歓声が上がる。
だが、この種目では赤組も期待していた。何せ障害物走でレコードタイムを叩き出した長嶺が出場するのだから。
「位置について!よーい、ドン!!!」
まずは各色の第一走者である4人が走り出す。ではここで、簡単にコースを説明しておこう。コースにはまず最初に跳び箱。普通に飛ぶなり、上に登って突破するなりすると、次は謎の台がある。大体奥行きが6メートル位はあり、これは跳び箱のように飛ぶのは不可能である。因みに場所はトラックの180°のカーブの中間地点にある。
カーブを超えると次は網抜けの網が貼られ、それをくぐり抜けると激しめのアップダウンのある平均台へと差し掛かる。これを抜けると、二つめのカーブに入る。こちらには棒がコースに刺さっており、その上を飛びながら進まないといけない。ケンケンパの要領である。
そして最後の直線には障害の代わりに、係の生徒達がボールをぶん投げてくる仕掛けがある。しかもボールの大きさがテニスボール、軟式野球ボール、バスケットボール、バレーボールと大きさに差がついていて避けるのは難しい。
とまあこんな感じの、結構選手を殺しに来てる仕掛けだらけであった。
「コースの仕掛けは最高。コース、自分のコンディション共に上々。仕掛けへの対策も考案済み。勝てるな」
「それはどうかな?」
他の走者が走って行く中、白組のアンカーである葉山が話しかけて来た。因みに赤のアンカーは長嶺である。
「勝負は始まってみなきゃ分からない。それに僕はサッカー部の練習で、コーンとかを置いてドリブルしながら避けたりとか、試合でもゴールに向かってドリブルしてたら四方八方から相手の選手が邪魔してくる。その中で鍛えられた動体視力とかバランス感覚には自信があるんだ。この学校で、ぼくの右に出るものはいない」
葉山らしからぬ発言のような気もするが、その原因は相手が長嶺だからである。長嶺というより正確には桑田なのだが、常に葉山の思い人たるオイゲンことエミリアは桑田と行動を共にしている。それの嫉妬から、葉山は長嶺が嫌いなのだ。
「そうか。だがな葉山、お前では俺を超えられないぞ」
「どういう意味だい?」
「それは、始まってみたら分かる」
障害物走は順調に進んでいき、いよいよアンカー前の選手が走り出した。長嶺と葉山を含めたアンカーの4人がコースへと出て来る。葉山という学校の王子様が出てきた事で真っピンクの歓声が女子から上がり、男子からは嫉妬心どころか通称『HA☆YA☆TOコール』と呼ばれるコールが行われてレースが始まって以来、最高の盛り上がりを見せていた。
『さあ今、白組のアンカー、葉山くんを筆頭に続々とタスキがアンカーの選手へと渡っていきます!!赤組、少し遅れていますが、まだ挽回は出来ますよ!
おっと、ここで赤組の選手が転けたぁぁ!!!』
見れば長嶺にバトンの代わりになってるタスキを渡す筈の戸塚が、盛大に大転けしている。赤組白組問わず、この障害物走での赤組の勝利は無理だと確信した。
だが、長嶺だけは諦めていない。既にトップを行く葉山は二個目の障害を越えたが、長嶺からすればまだ挽回できる程度の差である。
「ごめんね桑田くん.......」
「後は任せろ」
土埃まみれのタスキを走りながら胴体に巻き、長嶺は走り出す。眼前に迫るは、最初の関門である跳び箱。他はバカ正直に跳んだが、長嶺は一旦垂直にジャンプして、右手を跳び箱に付けてそれを軸に身体を捻って突破する。
「次は謎の台。これは、こうだ!」
頭をイン側、足をアウト側に置いて下半身と首を上に上げて、背中のみを台の上に接地させて、そのまま背中を滑らせて突破。
この技を使う事により他は着地して走りながら曲がるのに対して、長嶺は滑り終えて着地の時に足を次の向かう方向に向けて着地出来るので、素早く次の動きである走りへと移行しできるのだ。しかもここで3番手だった白組のヤツを抜いた。
因みにイメージは龍が如く3で桐生がミレニアムタワーの下で警察から逃げるムービーの時に、パトカーのボンネットでやった回転である。
「網抜けは匍匐で素早く!」
他は自衛隊の匍匐方法でいう、第四匍匐で進んでいた。分からないという読者は、匍匐前進と言われて頭に浮かぶのを想像してもらいたい。だが長嶺は第三匍匐という、上体を起こして素早く動くやり方で3番手にいた赤組のヤツを抜いて2番へと躍り出る。
『おっと!ここで桑田くん、一気に追い上げる!!!!転倒のアクシデントを乗り越え、今葉山くんの背中を追い掛けています!!!!』
この大逆転の様相に、赤組から歓声が上がる。葉山辺りならパフォーマンスの一つでもするのかもしれないが、コイツの場合はそんな事せずにただ前にいる葉山を観察していた。この非日常で必ず起こる、ボロを見逃さない為に。
肉食獣が獲物の草食獣に見せる執着心が如き目で睨まれ続けた葉山は、気付いてはないようだったが本能的に焦りか何かを感じたのだろう。次の平均台で、ちょいちょいバランスを崩し始めた。一方の長嶺は走ってる時と殆ど変わらない速度で突破し、続く棒の障害で完全に追い付いた。何せ葉山は一つ一つ丁寧に飛び越えるの対して、長嶺は一気に二、三本抜いて飛び越えて行くのだから差はみるみる縮まるのは必定である。
『ここで両者、並んだー!!!!これだと最後のボールをどうするのかで、勝敗が分かれてきます!!最初に入ったのは葉山くん!桑田くんも負けていない!!!!』
葉山は四方八方から連続して飛んでくる玉を避けるのか、腕や足で落とすのかを考え始めて段々速度が落ちてしまう。
「遅い!」
一方の長嶺はボールを引っ掴み…
「こんな事しちゃいけねぇとは、ルールブックにはねぇんだわ!!!!」
それを投げる係の生徒から飛んでくるボールにぶん投げて迎撃。強引に突破する。他の生徒も教師陣も、まさかの戦法に唖然呆然であった。そして一気に葉山の前に躍り出て、そしてそのままゴールイン。見事、勝ち星を上げた。
『一位は桑田くん!二位は葉山くんです!!』
まあ正直、葉山如きに負ける訳ない。何せ長嶺の身に付けた身体能力や技術は全て、戦場という極地で鍛え上げられた物。言わば己が命を代価に手に入れたと言っても過言ではない。そんなスキルを、たかだか数年間の時間の、それも毎日に精々数時間程度で身に付けた、長峰目線からは付け焼き刃としか言えないスキルで勝てる筈がない。
「桑田くん、本当にごめんね。転けちゃって.......」
「気にすんな。勝ってるし、別に無理はしてない。予定よりちょっと本気を出した程度だから、責任も負い目も感じなくていい」
「うん!ありがと!!」
午後1:35 入場門
「ホントにこれでいいのか?」
「はっぽん!その昔、千葉では里見氏と北条氏との合戦があってだな。その歴史を考慮した、素晴らしい競技だ!」
「いや、当時この辺海だろ。ってかさ、ネーミングセンスもまあ高校っぽくていいと思うし、騎馬に足軽の格好させるのもいいさ。うん。だがな、なんで乗る方は甲冑じゃなくて鎧なの。それも最近の萌えキャラ風のヤツ」
そう。この騎馬戦、騎馬は足軽なのだが、上に乗る選手は全員何故か甲冑ではなく萌えキャラ風の二次元な感じの西洋風鎧なのだ。これでは侍や武者ではなく、女騎士である。
「「ふっ、知れたことよ。我(私)の趣味だ(よ)」」
いつの間にか現れた海老名も、材木座と一緒にメガネをクイっとしてレンズを光らせている。
「あら。でも、案外可愛くて私は気に入ってるけど?」
「なんか、エミリアさんが着ると.......」
「一気に女騎士になるね.......」
そう。エミリアも出るし、しかも上に乗るのでしっかり鎧を纏っている。だがオイゲンはドイツ系の女性で、しかも見た目も声も共に二次元に居るキャラをそのまま現実世界に引っ張ってきた様な感じなので、恐らくこの種目する選手の中で一番似合っていた。
(まあオイゲンの名前の元になったオイゲン・フォン・ザヴォイエンは、17世紀のヨーロッパで大暴れした騎士だからなぁ。その名を継いだ軍艦の、言うなれば化身であるオイゲンが似合わない筈がないわな)
「じゃあ、真也。しっかり勝ってくるから、最後の種目でも勝ちなさいよ?」
「お前、それ誰に言ってる?あれこそ、俺の能力が最大限活かせる種目だろ」
最後の種目が何なのかはさておき、目玉競技の一つである騎馬戦が始まる。この騎馬戦は大将の頭に巻いた鉢巻を奪えば勝ちで、大将にはさっきの鎧の着用が義務付けられている。因みに大将は赤が雪ノ下、由比ヶ浜、城廻、オイゲン 。白は三浦、相模、海老名、川崎である。
また大将には配下に三騎の騎馬を持ち、この騎馬に相手を攻撃させるも自身の盾にするも良しという戦略性でも楽しめる物になっている。
開始の合図である法螺貝の音が鳴り響き、試合が始まる。
「さぁ、行くわよ?
後方に控える、手持ちの三体の手持ち騎馬に自分が考えた陣形の指示を出す。自身の正面に一体、左右の少し後ろに2体配置して、そのまま自分の周りを回転させるという陣形であった。
(成る程。自身のスキルである、破られぬ盾を再現したか。だが自身のスキルは自由自在に扱えるが、騎馬は一つの独立したユニット。それで再現できるかどうか.......)
「今よ、突っ込んで!」
白組の一体が突っ込んでくる。だが中に入った瞬間、オイゲンも向かってくる騎馬に突撃した。まさか突っ込まれるとは思わなかったのか、白組の騎馬は右に避けようとするが進む方向にオイゲンの手持ち騎馬が居て撤退できない。その隙を見逃さず、鉢巻を取る。
「大将首じゃないけど、まずは1人。
その陣形を維持したまま前進を始める。進軍速度こそ遅いが、回転する円の中に入れば最後。逃げるに逃げれずオイゲンを倒す他ないのだが、そのオイゲンも戦場で鍛えた勘がある以上、高々女子高生程度に鉢巻を取られる程弱くはない。
「うへぇ。エミリアって強いな」
「アイツも俺と同じように、あの戦争を生き抜いた女だ。確かに戦闘能力は(銃を使う場合は)高くないが、少なくとも勘は冴えている。戦場を知らぬJK如きに遅れはとらん」
あくまでもこれは、桑田真也がエミリア・フォン・ヒッパーに対して下した感想である。では長嶺雷蔵として、鉄血のプリンツ・オイゲンに対してみるとまた別の指揮官としての感想を抱いていた。
(戦場で使うスキルは、あくまでも砲弾を防ぐシールド。それを今回は敵を囲い込む檻として、そして障害物として活用した。その柔軟な発想と、この状況への適合力。流石は鉄血のエースだ)
戦場に於いて重要となってくるのが、広く戦場を見渡す観察眼と古い物を壊して新しい物に適合する柔軟性、そしてこれらから得た知識を適応したり、応用したりする能力である。
オイゲンは今回、敵も味方も観察した上で戦略を構築し、自らのスキルの固定された先入観に囚われない柔軟性を持って観察し、観察して得た情報とスキルとは正反対の活用方法を編み出す応用力を見せた。この行動は賞賛に値するものであった。
『勝者、白組!!!!』
これで次の男子の種目、棒倒しで勝てば勝敗は逆転勝利となる白組。だが白組男子の表情は硬く暗い上にやる気もない。何故なら相手の葉山が女子の羨望も、人気も、空気も、全てを掻っ攫ってしまっているのだから。
これでは勝てる物も勝てない。『病も気から』ということわざがある様に、時に精神は肉体をも凌駕する。逆も然り。精神がやられていては、出来ることもできなくなってしまうのだ。
「材木座。お前に一つ、お前にしか出来ない事を頼みたい」
「うむ。申してみよ」
「今の状況、これでは勝てない。お前なら、お前の持つ力なら、この空気を変えられ、その行為がひいては戦いの潮目すら変える。材木座よ、頼む。みんなのやる気を出してくれ!」
「あいや、わかった!この剣豪将軍、材木座義輝に任せよッ!!!!」
こういう時の材木座は乗せやすい。同じ様なスタンスで「お前にだけにしか〜」とか「お前の持つ力なら〜」とか言っときゃ、大抵のことはさるのだから、これ程楽な奴もいないだろう。
「聞け者共ー!!我らが敵は、葉山隼人ただ1人!!!!あのいけすかないクソイケメンに、優勝まで掻っ攫われていいのか!!我は嫌だぁぁ!!!!すごく嫌だ!!!!もうこれ以上、惨めな思いはしたくなぁい!!!!話しかけられた時に、ほおを引き攣らせて笑いたくない!!近くを通りかかられた時、急に止まって道を譲られたくない!!!!皆はどうだ!?!?」
「「「「「お、おー?」」」」」
「ならば勝つしかあるまいッ!!目覚めるときは今なのだ、立てよ県民!!」
「「「「「おー?」」」」」
イマイチである。あまり上がらなかった。流石にここまで下がっていると、材木座の様な勢いだけではダメだったらしい。ならば、こちらはチートの長嶺を投入するのみ。
「材木座、バトンタッチ」
「真也よ、我は、我はぁ」
「お前は良くやった。少なくとも、お前の言でヘイトは此方に向いた。後はこれを煽るだけだ。任せておけ」
そういうと長嶺は前へと歩き出し、赤組の選手達が座ってくっちゃべってる場所の前に立つ。敢えて何も言わず、ただ立つ。仁王立ちである。何も、何もしない。ただ仁王立ちして、真っ直ぐに選手達を見つめる。
その異様な空気に気が付いたのか、2分もすれば全員が黙り辺りは静寂に包まれる。
「.......勝利だ。我々は、勝利を収めなければならない。自分の為に。仲間の為に。
材木座はさっき言っていた。勝ちたいと。惨めな思いをしたくないと。お前達は敗者だ。葉山隼人という、勝ち組の下に這いつくばるだけの敗者であり弱者だ。
お前達は何の為にここにいる?負ける為か?いや違う。お前達は敗者であっても、今この時に立ち上がれば勇者だ。さぁ立て!咆哮を挙げろ!拳を空高く掲げ、勝利の栄光を掴むは我ら赤組ぞ!!!!さぁ、王を倒して見返してやろうぜ?下剋上だ!!!!!!!」
やはり現役の指揮官だけあって、仲間を鼓舞してやる気にさせる術を完璧に持っている長嶺。若干厨二臭いが、こういう場の捉え様によっては一番燃える展開だからこそ使えるアプローチである。
何はともあれ、赤組のやる気は一気に上がった。
「始めー!」
「まずは防御だ!!防御を固めろ!!!!」
『まずは白組の先制攻撃だ!!!』
初手は防御から固める。このまま相手が馬鹿の一つ覚えで突撃してくれたら楽なのだが、流石にそんなことはしてくれない。だが葉山には戦略の知識が中途半端にしかないので、教科書通りの戦法で来てくれる辺り分かりやすい。この先制攻撃も大方、こちらの小手調べなのだろう。
「桑田くん!防御を固めたよ!!」
「これより作戦行動に移る!練習でも話した通り、戦場は生き物!常に自らの予測とはかけ離れた進化を続け、戦況もそれに合わせて刻々と変化する。臨機応変こそ、この作戦の決め手。まずは5〜9、それから13、32は前進!前衛の白に食い付けつつ、右側に誘き出せ!!」
長嶺は練習の際では名前で個別に指示を出していたが、本番では敢えて名前ではなく番号で呼ぶ事にした。この時点で葉山含む白組は誰が何番で、今指示を受けたうちの誰がここに来るかが分からなくなっていた。
「次は14と22、右翼から迫るのを撃退!抑えろ!!」
「わかった!」
「了解ッス!」
「35は1、7、29を連れて突撃。撹乱陽動攻撃!相手は任せる」
「仰せのままに!」
敵総大将である葉山は最初こそ、長嶺の数字や如何にも戦略家っぽい言い回しに混乱していたが、よく観察すれば単に適当な奴に適当な味方を当ててるだけだと分かった。
「みんな!アイツはそれらしい単語を並べて、大きな作戦があるように見せかけてるだけだ!!戸部、大岡、大和!」
葉山グループにして、白組の中でも最強戦力である戸部、大岡、大和に手空きと防御に回っている者も数人出して、こちらに突撃を敢行してくる。
だがそれこそ、長嶺の作戦なのだ。
「総員、ファランクス準備。合図あるまでは行くなよ?タイミングが大事だからな」
手空きの赤組の生徒達は、長嶺の指示を待つ。
(まだだ。まだまだ.......。もっと、もっとこっちへ.......)
そして長嶺は静かに手を挙げて、勢いよく振り下ろした。次の瞬間、待機していた生徒達が一斉に白組へと襲い掛かる。
だがこの位は白組も察していた。普通に個別に各個撃破に移り、みるみる陣形が崩れていく。
「比企ヶ谷、動け!」
「へいへい」
比企ヶ谷はこれまで様々な依頼を解決してきたし、比企ヶ谷単体として考えても戦力としては申し分ないユニットである。だがそれを敢えて捨て駒に使い、葉山と他を引きつけて貰う。
暫くすると葉山が手勢を率いて、比企ヶ谷を取り囲んだ。それも絶好のタイミングと位置で。その瞬間、材木座に指示を出す。
「材木座、行くぞ!配下も連れてこい!!」
「心得た!!者共続けぇ!!!!」
勿論、葉山は長嶺をマークしていた。だがそれよりも先に比企ヶ谷が動き、捕まえたタイミングで長嶺が動いた事で反応が遅れる。だがそこは葉山。すぐに指示を出すが、周りは全く聞いていない。他は自分と取っ組み合ってる赤組を抑えるのに精一杯だし、仮に指示を聞けても長嶺には近づけない。何故ならこの攻撃を狙っていた長嶺は、既に壁を作ってあったのだ。白組と赤組を個別で戦わせて、それによってできた乱戦状態を壁にしたのである。
人は一つに集中すると、周りが見えなくなる物である。まして体育大会最後の種目の、それもこれで勝ち負けが決まる天下分け目の試合という非日常&燃えてくる展開に、皆どうしても酔ってしまう。となると視野はさらに狭まり、冷静さが消えてしまう。こうなっては最初は指示を聞くかもしれないが、相手と戦ってる時は指示を聞いてられる程の余裕はない。それを利用して戦わせる場所を調整して白組の移動を阻害する壁を作り、比企ヶ谷を自分たちの通る道から最も離れた場所まで葉山で捕まえさせ、重量級の材木座と保険の数名を連れて突撃を敢行したのだ。
しかもこの進撃路は、わざと直線ではなく曲がりくねった物にしてある。直線だと中途半端に知識や経験がある葉山に看破される可能性もあったが、一直線だが曲がりくねらせた物にする事で一気に解りにくくできた。
「材木座!アレやるぞ!!」
「おう!!!!」
材木座は長嶺の前まで走り、棒へと肉薄。手勢数名はそのまま棒の防衛組に突撃するが、材木座はその前で180°まわってしゃがむ。
「ナイスタイミング!!上げてくれ!!!!」
材木座の手を踏み台にして、空高く打ち上げて貰う。棒の1.5倍程度の高さまで上がり、そのまま棒のテッペンに取り付く。
「このまま行くぞ!」
そのまま全体重を掛けて棒を倒しにかかり、遂に棒を倒し切った。
『なんと勝者は白組です!!』
この放送の瞬間、白組から大歓声が上がる。
この種目が決め手となり、白組は優勝。城廻は大喜びで、奉仕部が始まって以来、初の平和に普通に終わった依頼でもあった。まあ材木座と海老名が暴走してた感は否めないが、そこはノーカンである。