最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第四十九話釧路基地強襲

多分、今まで一番マトモで唯一平和に終わった体育祭から、早一ヶ月。一年生は早い者なら期末を見据えて勉強を始め、三年生は受験勉強の真っ最中の今日この頃。二年生は学校生活の中で恐らく、殆どの人間が『学生時代の思い出』と言ったら一番に上がるであろう最大のビッグイベントの準備に入っていた。修学旅行である。

総武高校は京都に三泊四日で行くのだが、その班決めやら回る場所調べやら、オススメのお土産やグルメの情報集めで賑わいを見せていた。長嶺とオイゲン も例に漏れず、しっかり楽しみにしていたのだが、一本の電話で現実に引き戻されてしまった。

 

『釧路基地司令の横山が裏切ったぞ』

 

東川からのこの電話が示す所はトドのつまり、久しぶりのお仕事である。この電話を受けるや否や、長嶺は学校を早退。すぐに鎮守府へと帰還した。

 

 

 

江ノ島鎮守府地下 『霞桜』司令本部

「お前達、状況を説明する。二時間前、仙台基地司令の小清水香織大佐の告発により、釧路基地司令の横山冬夜の裏切りが発覚した」

 

この報告に、五人の大隊長達は驚いた。仕事が増えた事でも、横山が裏切った事に対してでもない。横山と同じ河本派閥の小清水の告発という、言うなれば裏切り行為に驚いていた。

 

「総隊長殿。我々の記憶が間違っていなければ、小清水大佐は敵対派閥である河本派閥の人間では?」

 

「その通りだ。彼女曰く、元々こっちの派閥に来たかったらしい。しかし、アイツの親父が河本と繋がりがあるらしくて、あっちの派閥に入るしかなかったそうだ。だから今回の一件を利用して、こっちに鞍替えするらしい」

 

話としては可笑しくは無いが、流石に信用出来かねる。グリムもそれを指摘しようとしたが、その前に長嶺は「まあ、「はいそうですか」ですぐに信用は出来ないし、するつもりもないがな」と付け加えた。

 

「話を戻すぞ。で、横山の裏切った内容なんだが、何ともまあ、凄いぞ。アイツ、薬をばら撒いてやがる。最近、釧路を筆頭に出どころ不明の粗悪品の薬が出回ってるのは知っているか?」

 

元は日本一の極道組織を率いていたベアキブルは知っているらしいが、他はピンと来ていないらしい。確かに報道はされていないし、ベアキブルは裏社会に太いパイプを何本も持っているので手に入った情報なので知らないのは仕方がない。

 

「確か色んな物質をブレンドして、中毒性を馬鹿みたいに上げておきながら、幻惑成分は他より低いっていうヤツ、だったような」

 

「そうそれ。最近警察にも情報が上がってきているんだが、その出所、というより経由地として釧路基地が使われている。ついでに近隣の半グレ連中に、骨董品クラスの粗悪品銃を流してるらしい」

 

「確かに鎮守府の管轄は防衛省である以上、警察は介入しにくい。しかも提督という選ばれし者とも言うべき存在である以上、公安のマークも上からの圧力で基本皆無。物理的に完全なスタンドアローン化できる鎮守府という施設は、こういう裏取引や密輸には持ってこいですね」

 

確かにベアキブルの言う通りなのだが、同じ提督業をしていてこっちは秘密特殊部隊の本拠地を持っている…言うならある意味同種である以上、何とも反応し難い。

 

「そして問題なのは、奴の戦績のカラクリだ。奴は駆逐艦を盾にして、敵の攻撃を防ぎ攻略している。其処の部分を聞くだけなら普通だが、被弾し大破した駆逐艦は解体か何処かに売り払われてる」

 

この一言で全員が凍り付いた。艦娘というのは不思議なもので、たまに同じ艦娘が2人以上生まれる事がある。特に駆逐艦はその傾向が強い。だが一方で何故か、同じ艦娘が同じ海域にいると二人とも艦娘としての能力が発揮できなくなってしまう。水の上に浮くことは出来ても、兵装は一切使えない。というか中には、浮くのすら無理というのもいる。

この法則を利用して、かつてはこういう非道な戦法が考案された事もあった。軍内では『捨て艦戦法』と言われており、これまで何人かの提督を消してきたが、流石にこの戦法を用いる程の者はいなかった。

 

「一刻も早く、艦娘達を助け出す必要がある。よって今夜、釧路基地を襲撃する。どうやら横山は海外の傭兵や半グレに武装させて、基地の警備をやらせてるんだと。しかも、噂じゃ艦娘を性奉仕の対象としてるとか。こんな絵に描いたような外道、必ず殺す。野郎共、久しぶりに暴れるぞ!」

 

この一言で全員が笑みを浮かべた。敵に恐怖を与え、何も知らない味方が見ても恐怖してしまうような狂気の笑みを。

 

 

 

数時間後 江ノ島鎮守府 地下格納庫

『総員、出撃準備。総員、出撃準備。各班は黒鮫への搭乗を開始せよ。総員、出撃準備。総員、出撃準備。各班は……』

 

江ノ島鎮守府にある滑走路横にある格納庫。いつもはメビウス隊を筆頭とする航空隊の保有する戦闘機やヘリコプターとかが入っているが、その地下には霞桜専用の巨大ハンガーが広がっている。戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』、汎用ヘリコプター『黒山猫』を筆頭とした兵器群を始め、水上装甲艇『陣風』や機動本部車もこのハンガーに保管されているのだ。

そして今、釧路基地への出撃準備で中は慌ただしい。今回は久しぶりの出撃というのもあって、ド派手に襲撃することが決まった。まずは機動本部車で門をぶち破り、黒鮫を使って空挺降下。後は皆殺しにするという、もう作戦もへったくれもない物をする事になってたりする。

 

「よーし、車こすんなよ!」

 

「車体固定!」

 

「弾薬よし、ミサイルよし、準備よーし!」

 

準備が完了した機体は格納庫から屋外のハンガーへとエレベーターで上がり、そしてそのまま闇夜の大空へと翼を広げていく。世界最強の男が率いる、世界最強の特殊部隊。その矛先を向けられて生き残った者は、これまで一度も居ない。今回もその例に漏れず、敵はボコボコにされるだろう。

しかも今回に限って言えば、最近出撃がご無沙汰で全員鬱憤が溜まっている。その鬱憤晴らしにこの戦闘に参加する者も多いので、多分いつも以上に激しい。慈悲なんて物はカケラが無いどころか、端から持ってないレベルの容赦の無さを持って殲滅される事だろう。因みにマッハ6で飛ばしてるので、数十分後に釧路基地上空に到達した。

 

「機動本部車、展開完了!このまま基地に突っ込ませます!!」

 

「いっちょド派手に突っ込ませろ」

 

この命令を受けたドライバーは目を輝かせ、嬉々としてアクセルを目一杯踏み込む。敢えてライトをハイビームで点灯し、クラクションを鳴らしながら表にある鉄門に特攻を仕掛ける。

 

「突貫!!!!」

 

聞いた事もないような爆音が鳴り響き、鉄門ごと正面玄関を突き破って機動本部車が突き刺さった。トレーラーヘッド自体も後ろのトレーラー重装甲の超ヘビー級の車体を高速でぶん回す馬力がある以上、例え建物といえどただでは済まない。

 

「な、なんだ!?!?」

 

「カチコミか!?」

 

武装した警備員達が出てくるが、エントランスの惨状に唖然としていた。破片が飛び散り、床はグチャグチャ。屋根も崩落して、2階の天井が見える始末。極め付けは正面玄関の前にある階段には、表にある鉄製の門がひしゃげたまま中段くらいに刺さっている。

 

「じ、事故か?」

 

「いや、違うでしょ.......」

 

「と、取り敢えず運転手を引き摺り下ろすぞ」

 

恐る恐る近づく三人の警備員。爆発を警戒しているのか、ジワリジワリと近付きつつトラックに注意を向けている。だが爆発に気を取られていては、このトラックに限り足元を掬われる事となってしまう。

彼等の脳内にはガソリンに引火するか、荷台に爆弾が満載されてるかの二つしかない。だがこの機動本部車は爆弾程度の騒ぎではないのだ。何せ、機関砲に速射砲、ミサイルランチャーに火炎放射器までついているのだから。

 

ドカカカカカカカカカカ!!

 

不用心に近づいた三人は、右前に搭載された30mm機関砲によってズタズタに引き裂かれた。

この銃声で漸く他の警備員も異常性に気付いたのか、基地全土に警報が鳴り響く。だが、もう遅い。

 

「降下ポイントです!!」

 

「さーて、久しぶりに暴れるぞ!!」

 

「この感じ、久しぶりだな。我が主!」

「この間はご主人様と一緒じゃなかったもんね」

 

基地上空には長嶺を筆頭とする霞桜の隊員達を満載した黒鮫が多数ホバリングしており、制圧射撃を加えつつ隊員達を下ろしていく。その中には長嶺は勿論、各大隊長も降り立っている。

 

「うっしゃぁ!!久しぶりコイツが火を噴くぜ!!!!」

 

バルクが構えるのは専用武器の三連装七銃身バルカン砲であるハウンド。毎秒数百発の弾丸を吐き出すバルカン砲×3なので、その制圧力は計り知れない。

 

「な、なんだアイツは!?」

「この弾幕じゃ反撃なんて!」

「どうすんだ!!」

 

「奴等は釘付けにした!レリック!!」

 

「任せろ」

 

その背後から飛び出すのは、マニュピレータを装備したレリック。今回はフルオートに機関部を改造したダネル NTW20、Mk19 自動擲弾銃、チェーンソーを二つずつ装備している。手持ちにはコンバットPDWを装備しており、遠近共にこなせてしまうバランスの良いものになっている。まあ手持ちを除いて、威力が対人にはオーバーキルなのだが。

 

「死ね」

 

真上からの攻撃になす術なく吹き飛ばされていく警備員。一方、反対側ではカルファンとベアキブルの姉弟コンビが暴れていた。

 

「べーくん、合わせなさいよ?」

 

「へいへい。そういう姉貴こそ、遅れるなよ?」

 

「ふふ、私に言ってるのかしら?」

 

「他に誰がいるよ!」

 

カルファンが敵を吊り上げて、それに気を取られた奴をベアキブルを刺し殺す。はたまたベアキブルが狙われれば、ワイヤーを操って銃弾を弾き、逆にカルファン狙われればベアキブルがその前に殺す。この二人のコンビネーションは、文字通り阿吽の呼吸そのもの。お互いをお互いがカバーし、連携で敵を倒していく。

 

 

「みんな、頑張っているね。なら私も、年長者として戦わないと示しがつかないかな」

 

「たしかにそろそろ、存在感を示しときたいですね」

 

一方のマーリンは他の霞桜の隊員達に最適なタイミングで、最適な相手を撃ち抜く。奇想天外のレリックと大火力のバルク、そして汎用性と連携のカルファンとベアキブル。この二組に対してマーリンは余り表には出ないが、逆に視野がどうしても狭くなる四人に変わって隊員達を援護するのだ。勿論四人が自由奔放に戦っている訳ではない。しっかり部下達の援護するが、マーリンはスナイパーという特性上、戦場全体を見渡す位置に陣取るので必然的に現場指揮をとるのだ。

 

「スゥ、はぁ。目標」

 

「距離は2,000、目標は敵の重機関銃手。正面玄関より三つ目の窓、3階」

 

「センターに入った。ファイア」

 

ズドォン!!

 

「命中」

 

マーリンと副官でスポッターのビーゲンのコンビが、敵の機関銃手を排除。これにより隊員達は建物内に突撃を敢行し、また一つ戦況を有利に動かす布石を打った。

 

「さてさて、じゃあ私達も始めますよ!」

 

「地上部隊の援護はお任せ!ってな」

 

更にその後方には指揮管制とハッキング技術で援護するグリム率いる本部大隊がいて、要所要所で援護してくれている。例えばトラップをハッキングして敵に作動する様にしたり、スプリンクラーとかを操作して撹乱したり、時には敵の遠隔操作式の兵器を奪ったりと背後から様々な働きをしてくれる。

因みに最近の編成で本部大隊は戦闘から、後方支援へと任務内容が変更された。これにより本部大隊は各機のパイロットと兵装を操作するガンナー、それからグリム直属のハッカー集団、工兵や整備兵、事務会計の仕事を行なっていたりする。

 

 

「さぁ、弱兵共。掛かってこい」

 

一方の長嶺は一人、基地内に侵入して中の警備兵を殺して回っていた。長嶺の戦闘は兵士(ソルジャー)ではなく、戦士(ウォーファイター)と言っていいだろう。他の大隊長とは違い、全て一人で完結してしまう。

だが周りを見てないかと言えば、そういう訳ではない。寧ろ最前線の先頭に立っていても、後方から戦局全体を見ている筈のグリムと同等レベルで把握している。敵味方問わず本来なら見えてない筈の別働隊の動きすらも察知し、それに合わせた対処行動を取る。しかもそれは必ずグリムやマーリンの考える作戦に合った物を繰り出してくるので、もうエスパーや超能力なんかの次元ではない。化け物である。

 

「ファック!!」

 

「ぶっ殺せ!!!!」

 

AK74を二人の警備員が撃ってくるが、どうやら純正品やライセンス生産品などの真っ当な物ではなく、何処かで違法に作られたのだろう。工作精度が悪いのか、避けずとも弾が明後日の方向に飛んでいく。

まあそんな銃を鉄火場に持ってくるそっちが悪いので、問答無用で阿修羅HGで体の一部を消し飛ばす。

 

「うーん、思ってたより銃の性能が悪いなアイツら」

 

「なんか拍子抜けだねー」

 

そんな事を犬神と言い合いながら廊下をゆったり歩き、恐らく横山のいるであろう執務室を目指す。やがては廊下は突き当たりに行き当たったのだが、両サイドに警備員が待ち構えているのがわかった。ハンドサイン指示でも出しているのか、壁からはみ出している銃口が小刻みに動いている。

 

「犬神」

 

「わかったよ。タイミング、任せるね」

 

一呼吸置いて、長嶺は右に隠れている警備員に向かって銃弾を叩き込む。25mmの超大口径弾は身を隠している壁を余裕で貫き、その奥にある警備員の身体すらも貫いてしまう。

でかい音が鳴った上に自分の仲間がいきなり倒された事で、もう片方に隠れている警備員達はすぐにAK74を乱射してくる。

 

「犬神!!」

 

「ガウッ!!!!」

 

しかしそれが合図だったかのように犬神が飛び出し、敵めがけて突進。突き当たりでドリフトのように急ターンして、そのまま壁に隠れていた警備員に襲いかかる。

 

「ッ!?」

 

ドカカカカカ!!

 

どうにか直ぐに反応して銃を乱射するが、大型犬程度の大きさに高い機動性を持つ犬神に、取り回しの悪い超至近距離で、しかも大慌てで乱射したライフル弾が当たるどころか掠るわけも無い。

 

「ギャッ!?」

 

「アガッ!?!?」

 

「ゴブッ!」

 

殆ど抵抗できず爪で掻っ切られたり、牙で肉を抉られたり、両方で削り取られたりした。お陰で壁と床には血と肉片が飛び散り、そこには倒れたりもたれ掛かる様にした死体が4体転がっていた。因みに反対側に5体。

 

「全く、殺しても殺しても出てくるんだから。ゴキブリかよ」

 

「しかも弱いんだよねぇ」

 

「あー、なんか飽きてきた。早いとこ執務室抑えよ」

 

念の為言っておくが、この会話は血まみれの死体が転がる場所での会話である。いつもの事ながら、やっぱり頭のネジがダース単位で吹っ飛んでいる。

 

「って、これ執務室じゃん」

 

そうこうしていると、なんかいつの間にか執務室の前にまで辿り着いた。扉には案の定鍵がかかっているので、武器を阿修羅から鎌鼬SGに変更して扉を蹴破って中に突入する。

 

「オラァ!!横山冬夜出てこんかい!!!!」

 

中に入ると、そこはもぬけの殻であった。横山はおろか、他の人間も居ない。

 

「隠し部屋でもあるのか?」

 

大体こういう時は、どこかに隠し部屋があることが多い。部屋にあるいろんな物を片っ端から動かしたり押したりしていると、ベタな物で本棚が動いた。

 

「お?おぉ!」

 

ガラガラと音を立てながら本棚が動き出すと、下着姿のままベッドに括り付けられた二人の女性の姿があった。

 

「こ、殺さないで!!」

 

「Help me!!!!」

 

その二人の女性に見覚えがあった。この二人はいつか影谷からの依頼で救い出した艦娘、アイオワとサラトガと瓜二つだったのだ。確かに記録では在籍はしていたが、一年ほど前に轟沈ししている事になっている。

 

「君達はアイオワとサラトガ、で間違い無いな?」

 

「は、はい。そうです.......」

 

「そうよ.......」

 

取り敢えず記録との照合は後からするとして、今すべきなのはこの二人を解放して保護する事である。

背中に装備している幻月と閻魔を抜き、構える。殺されると思ったのか二人は悲鳴を上げるが、そんなのお構いなしに振り下ろす。刃は正確に拘束具を切断し、二人を解放。そのまま刀を鞘へと戻す。

 

「俺は味方だ。外に味方がいるから、取り敢えずお前達を保護させる。俺はここの司令である横山に用があるんだが、何かしらないか?」

 

「Admiralはそこのハッチから地下通路に逃げました」

 

そう言ってサラトガはベッドの横にあるハッチを指差した。ライトで照らすと15m程の深さまで梯子が続いており、どうやらそこから何処かに地下通路が伸びているらしい。

 

「犬神。このまま二人を守り、隊員が来るまで待機しろ。二人を預けたら追いかけて来い」

 

「わかった!」

 

長嶺はそのままハッチの中に飛び込み、そのまま地下通路を辿っていく。長さは結構あって、5分くらいかけて進むと出口であるガレージに出た。どうやら基地からは完全に離れた場所らしい。

 

「遅かったか」

 

『こちらグリム。総隊長殿、敵は殲滅しました。所属艦娘についても全員を保護しており、アイオワさんとサラトガさんの例もありますので念の為施設内の捜索を開始しています』

 

「了解した。こっちは横山を追ったが、どうやら一足遅かったらしい。ここを漁ったのち、そっちに合流する。恐らく車で逃げただろうから、今のうちに周囲の監視カメラ映像の解析準備に入ってくれ」

 

『了解しました』

 

 

 

翌日 江ノ島鎮守府 執務室

「グリム、報告を」

 

「はい。周辺の監視カメラ映像と、総隊長殿の発見したタイヤ痕による車種の特定で絞り込んで行ったところ、横山冬夜はイギリスに渡った事が発覚しました」

 

正直言って、ちょっと面倒な事になった。こうなるともう、正面からの襲撃は不可能と言っていいだろう。勿論イギリス含め、世界各国に霞桜の協力者はいるし、更にその数倍の数は長嶺が個人的に確保している協力者や友人もいる。揉み消すのは簡単なのだが、それは『借り』となりいつかは返す必要がある。金なら良いが、何か面倒事への片道切符の可能性もある。となると、取れる手は一つ。

 

「仕方ない。こうなったら俺が出向くか」

 

どんな状況でも乗り越えられる上、様々な友人や協力者が世界中至る所にいる長嶺が出張るしかない。

 

「では、すぐに手配を」

 

「頼む。それから、そうだな。今回は色仕掛けを使おうと思うんだが、イラストリアスを使おうと思っている。二人分、チケットを取っておいてくれ」

 

「了解しました」

 

グリムが退室すると同時に、大淀に頼んで放送でイラストリアスを呼び出してもらう。10分ほどすると、イラストリアスが入ってきた。

 

「お呼びですか指揮官様?」

 

「よく来たな。早速本題なんだが、お前、イギリスに行ってみないか?」

 

「はい?」

 

いきなりの提案に、キョトンとしている。だがイラストリアスとしては、自分の祖国であるロイヤルの異世界バージョンである。行きたいのは行きたいらしいが、それよりも先に疑問といきなり言われた事への戸惑いが出てしまう。

 

「と言ってもまあ、単なる観光旅行じゃない。昨日、俺達が出動したのは聞いているだろう?釧路基地の司令を殺すつもりだったんだが、逃げられちまってな。イギリスまで飛んだらしい。そこで俺がイギリスまで追い掛けるんだが、色々情報を集めた。

その結果、奴は今度、あっちの貴族が主催するパーティーで協力者と接触する事がわかった。ここで殺すんだが、流石にパーティーとなると女性が欲しい。男だけじゃ目立つし、もしもの時はソイツに相手をさせて時間を稼ぐ事もできる。となるとカルファン辺りを連れて行きたいが、アイツには協力者の方を殺して貰うのでアウト。そうなってくると、顔バレしてないKAN-SENを連れて行くしかない。イギリスでの作法に長けるロイヤルのKAN-SENとなると、真っ先に上がるのはロイヤルメイド隊だが、こういう場合は『メイド』ではなく『貴族』としての振る舞いが必要だ。で、相手の好みとかも精査したところ、お前に行き当たった訳だ」

 

取り敢えず話は理解できた。簡単に言えば、長嶺の助手として殺人の手助けをしろという事である。流石に上官である指揮官の命令と言えど、流石に「はいそうですか」とはならない。

流石に「はいそうですか」とはならない。

 

「あの、断ったらどうするんですか?」

 

「他の奴を当たるさ。これは言うなら、殺人の手助け。片棒を担ぐって事だ。他の奴に当たるが、全員に振られたら振られたで別の手を考える。断ったからと言ってどうこうするつもりもないし、寧ろ断られるのは前提で話している。だがもし、手伝ってくれるのなら俺は大助かりだ」

 

正直な所、手助けはしたい。この鎮守府にいる艦娘もKAN-SENも皆、長嶺には好意を抱いている。それも恋愛感情を。普段は常にニコニコしていて優しく、何か困っていたり悩んでいれば、いつの間にか隣にいて、ある時は道を示してくれたり、ある時は手伝ってくれたり、はたまた何もせずじっと此方の話を聞いてくれる。

だが一度戦場に立てば、常に最前線で仲間や味方を鼓舞し圧倒的な力を持って捩じ伏せる。そして「必要とあらば、例え誰であろうと見捨てるし、殺す必要があれば躊躇なしで殺す」と明言していながら、この鎮守府にいる人間の誰かが傷付けば誰よりも怒り、そして何処かに取り残されていたら百万の敵の中だろうが、業火の中だろうが、何も言わず一番に飛び込んで救い出してくれる。そんな彼が、イラストリアスも例に漏れず好きであった。だがやはり『殺し』というのが、どうしても決断を鈍らせてしまう。

 

「.......やはり無理だったか。時間をとらせて悪かった。他を当た」

「手伝いますわ。他ならぬ、指揮官様の頼みですもの」

 

イラストリアスは決断した。他の娘に『指揮官との異国デート』という特権を渡してなるものかという他の者へのライバル心というのもあるが、それ以上に愛する男の願いを叶えてあげたいというのがあった。それに長嶺は誰かの為にその手を血に染めていて、既に自分達の為に血に染めている。なのに自分だけが綺麗なままなのが許せない、というのもあった。まあ要するに、長嶺の人徳の賜物である。

 

「ありがとう。なら、早速準備してくれ」

 

「わかりました。準備ができたら何方に?」

 

「表に車回すから、そこで合流しよう」

 

イラストリアスは自室に戻り、すぐに準備を始めた。着替えとアメニティをスーツケースに詰め込み、念の為、勝負下着や誘惑できそうな服も詰め込んでいる。一方の長嶺も同じような感じで、それにプラス仕事用のPCとかを詰めている。

 

 

「お待たせしました、指揮官様」

 

「来たな。よし、じゃあ行くか」

 

霞桜の隊員の運転で、羽田空港へと向かう。少し早かったので、ラウンジで少し休憩してからイギリス行きの飛行機に乗り、目的地であるイギリスを目指す。KAN-SENを連れた暗殺がどうなるかは、まだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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