最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第五十話暗殺者Mr.ミネ

22:14 ヒースロー空港

「流石に12時間飛行はキツイわ.......」

 

「そうですね.......。でも、ファーストクラスでしたから快適でしたわ」

 

約12時間掛けてはるばる日本から、霧の都たるロンドンまでやってきた。一応ファーストクラスで来たので快適は快適だが、もう夜である。ここから色々やるとなると、多分寝るのは0時を回るだろう。

 

「さて。じゃあホテルに行くか。あ、一応部屋は相部屋にしてあるぞ」

 

「え////?」

 

「一応ここには仕事で来てるからな。情報漏洩を防ぐ為にも、相部屋にさせて貰った。まあ、襲いはしないから安心しろ」

 

知っての通り、今回は仕事、というより暗殺任務でここまでやって来ている。情報漏洩は暗殺にとって一番やってはいけないミス。そしてターゲットは何しでかすか分からない上に、何をしでかしてもおかしくない奴。となると相部屋にしておくのが何かと都合が良いのだ。

 

「えっと、確かこの辺に.......」

 

駐車場に行くと、スマホと睨めっこしながらほっつき歩く。するとある車の前で、ピタリと足を止めた。

 

「イラストリアス、こっちだ」

 

そう言われて行ってみると、目の前には明らかに他とは異質の車が停まっていた。まるでジェット戦闘機の様な攻撃的で、でも近未来感のある車。車体の色が光沢のある黒で、縁々には金色のラインが入っているのも、より威圧的でいて、でも何処か高貴さを感じさせる。

 

「指揮官様。この車は一体.......」

 

「コイツはブガッティのシロンって車を魔改造して作った、そうだな。言うなれば『マスターシロン』とでも言うべき車だ」

 

ブガッティ『シロン』。世界でも指折りの車である。だがコイツは単なるシロンとは格が違う。エンジンが純正の物から長嶺とレリックの二人が、パーツを一から作り出したエンジンに載せ替えている。さらにトランスミッションなどのエンジン周りを筆頭に、各所に様々な改造と調整を行なっている。

しかもこれ、武装しているのである。通常は隠されているが、一度戦闘になれば凶暴な本性を表す。

武装はボンネット上部に20mmリボルヴァーカノン二門。ヘッドライトとその周辺に12.7mm機銃六門。フロントバンパーには小型ミサイル、後部のエンジンブロック付近に多連装短距離ミサイルランチャーを搭載し、さらに屋根には80mm砲とまた40mmグレネードランチャーをも搭載する。これに加えて妨害用にマキビシにオイルに煙幕発生装置と、色々付いてる。さらにさらに丸鋸を左右と後方に搭載しており、近接戦闘も可能となっている。

装甲は対戦車ミサイルを余裕で耐える位にはあるし、ガラス部分にも防弾板をせり出させて攻撃を防ぐ。動く要塞と言ってもいいだろう。また偽装様にステルス迷彩とホログラム装置を搭載しており、姿を消したり他の車に擬態する事もできる。

 

「戦闘機みたいですね.......」

 

「空力とかを考慮していったら、必然と戦闘機みたいな見た目になるんだよ。お陰でコイツも最高時速620kmを叩き出すモンスターマシンになってるし、アフターバーナーを使えば一時的に750kmまで出せるな。因みに世界最速の列車であるTGVは320kmで、リニアモーターカーだと603kmだ」

 

「あの、本当に車ですか?」

 

「タイヤ四つにエンジンがついて、しっかり走るれっきとした車だ。ただちょーっと速くて、対戦車ミサイルをものともしなくて、ついでに武装もてんこ盛りってだけだ」

 

イラストリアスが考えるのを止めたのは言うまでもない。まあぶっちゃけた話をすると、620kmとか750kmとか出す場面はない。あんまり早すぎると今度は曲がらなくなって、壁に激突&大爆発である。つまりあくまでも『保険』に過ぎない。一応この速度を出したのは、完成後のテスト時だけである。

この後二人はロンドン市内の高級ホテルにチェックインし、そこを取り敢えずの本部とする。

 

「取り敢えずイラストリアスは風呂行ってこい。その間に俺は色々とやることがある」

 

「わかりましたわ。あ、そうですわ。指揮官様?」

 

「なんだ?」

 

「覗かないでくださいね?」

 

「わかった。じゃあ覗くか」

 

無論冗談なのだが、どうやら真に受けてしまったイラストリアス。顔を真っ赤にして、手をわちゃわちゃ動かして照れている。正直、結構かわいい。さすがにこれ以上揶揄うと罪悪感で心が死にそうなので、「冗談に決まってるだろ」と言って切り上げた。

イラストリアスが風呂に入ってる間に、部屋中を散策して盗聴器や隠しカメラの有無を念の為確認する。ここには偽名で泊まっているし、そもそもロンドン随一のホテルである以上、そう言った類の物は無いと考えていい。だが念には念をというヤツである。

 

「まあ、ある訳ないか」

 

次にやるべき事は、スマート家電のチェックである。実はこれが一番最重要の確認で、これを怠ると情報漏洩の可能性が上がる。スマート家電、所謂IoT家電には音声認識機能がある。これを弄ると簡単に盗聴器に早変わりしてしまう。その為、もし盗聴が確認された場合は別の音声が流れる様に細工しておく必要がある。またカメラが付いてる物にも同様に、ダミー映像が流れる様にするのが重要なのだ。

 

「これで良し」

 

「指揮官様、お風呂どうぞ?」

 

「へいへーい。あ、もう先に寝てて良いからな」

 

この日は特に何も無く、翌朝から行動を開始した。

 

 

 

翌朝 スーツ屋

「ここは、スーツ専門店ですか?」

 

「あぁ。だが女性用のドレスも売っている」

 

そう言いながら店へと入る二人。店に入ると中はモダン的で落ち着いた雰囲気の内装で、ビジネスマンが着るフォーマル用から上流階級がパーティーで着る様な物まで様々な種類のスーツとドレス、そして簡単な小物も売っていた。

 

「いい店だろ?だが、今日はここでは買わない。付いてこい」

 

少し店内を歩く長嶺。どうやら誰かを探しているらしい。店内をキョロキョロ見回すと、一人の男で見回すのをやめた。プロレスラーの様な体付きにスーツという、まるでSPの様な出立ちの黒人。どうやら探していたのは、この人らしい。

 

「いつも通り、最高の品揃えだ。だが俺は、更に上が欲しい」

 

「ん?おぉ!Mr.ミネ!!」

 

「暫くだなアンディ」

 

そう言いながらはしゃぎ出し、長嶺と抱き合うアンディという黒人の大男。見るからに嬉しそうである。

 

「早速、ボスの所に通すよ。付いてこい」

 

「あぁ。イラストリアス、こっちだ」

 

アンディに連れてこられたのは、店の地下。沢山の袋に詰められたスーツがある辺り、新しい物かクリーニングか何かが終わった後の物なのだろう。

スーツだらけの道を進み、やがて扉の前で止まった。アンディが扉を開けると、中にはスキンヘッドに眼鏡を掛けた30代位の男がいた。

 

「Oh、Bongiorno Senor Mine」

 

「Chao、アンジェロ」

 

「ロンドンによく戻られました。して、今回はどの様なご用件でしょう?」

 

「彼女にドレスを作って欲しい」

 

アンジェロというフランス人の男は、デスクからメモを取り出すと詳しいリクエストを聞いてきた。

 

「Mr.ミネ、それはフォーマル用ですか?社交用ですか?」

 

「社交用だ」

 

「お召しになるのは昼でしょうか?夜でしょうか?」

 

「昼と夜のを一着ずつで」

 

「デザインは.......あちらのお嬢さんにお聞きした方が宜しいですかな?」

 

「あぁ」

 

少し笑うと、イラストリアスを呼ぶアンジェロ。女性の助手を連れてきて、すぐに採寸に入る。

 

「それでは、えーと。失礼、お名前を聞いていませんでしたね。私は当店のオーナー、アンジェロとお呼びください。お嬢さんのお名前は?」

 

「えっと、り、リアス、です」

 

今回の任務ではイラストリアスには『リアス』という偽名を使ってもらっている。勿論イラストリアスの最後を取った安直な物だが、逆にこういう方がバレにくいのだ。

 

「リアス様ですね。それではリアス様、デザインはどうなさいますか?」

 

「ロンドン風でお願いしますわ」

 

「色は?」

 

「うーん、青色がいいですわ」

 

「承りました。それでは、この様なデザインで如何でしょう?」

 

そう言って見せてきた写真はアズール色のドレスに、蒼薔薇の髪飾り。そして黒のハイヒールでコーデされた立派なドレスであった。見た目としてはイラストリアスの着せ替えである『終わらないお茶会』のドレスそのもの。

 

「こちら、私がデザインした中でも指折りの品です。中々世に出せなかったのですが、貴女の様な美しい女性に着て欲しいのです」

 

「し、じゃなくてミネ様。どうですか?」

 

「どれどれ?って、まるでお前専用にデザインしましたと言わんばかりのデザインだな。絶対似合うだろこれ」

 

「ありがとうございますMr.ミネ。あ、そうだ。ところで、裏地はどうなさいますか?」

 

「実戦用だ」

 

そう言ってニヤリと笑う長嶺に、アンジェロも「ふふ、どうやらニュースを楽しみにしないといけませんね」と悪い笑みを浮かべて返してきた。この実戦用の裏地が示すところはつまり、防弾防刃仕様の生地である。

 

「それでは出来上がり次第、ホテルにお届けいたしますね。恐らく三日後にはお届けできるかと」

 

「頼む」

 

今度はその足で、近場のカフェに入った。カウンターで二人して紅茶を頼み、イラストリアスはケーキを頼む。すると長嶺の隣にビジネスマン風の男が座り、二人は目線を合わさず会話を始めた。

 

「久しぶりだな総隊長」

 

「あぁ。無理言って悪かったな」

 

「いいさ。どうせ、コイツら潰すために動いてたんだしな。しかも手柄はこっちにくれるんだろ?なら、俺としては万々歳だ。これでそっちにちょっかいかけるアホと並べる」

 

「そうか。なら、こことの戦争も終わりか」

 

「あぁ」

 

ビジネスマン風の男は運ばれてきたコーヒーを飲みながら、こっそりとさり気なくUSBを渡してきた。

 

「感謝する。二週間以内に、いつもの口座に振り込ませてもらうよ」

 

「この情報には色々血も流れたし、苦労もした。だから、どうか」

 

「任せておけ」

 

そこまで言うと、二人の会話はそれっきりであった。やがてビジネスマン風の男がコーヒーを飲み終わったので退店し、長嶺達もイラストリアスが食べ終わったので程なくして退店した。

 

「指揮官様?先ほどのお方は一体.......」

 

「アイツは保安局、わかりやすく言うならMI5の捜査官だ。国際テロ対策を任務とするG Branchの人間で、主にURとその傘下組織に関する捜査と情報収集を担当している」

 

「でも確か、MI6とは仲が悪いのでは?」

 

「そもそもアイツらは管轄が違うし、元来友好国であっても諜報組織同士は現場となると何処も大体仲が悪い。勿論協力することも良くあるが、『それはそれ、これはこれ』の精神で敵になったりもする。

まあイギリス自体は仲が悪いどころか普通に仲良いし、俺はクイーンとも個人的に繋がりあるし、MI6もトップとは友人だ。あくまで仲が悪いのはMI6内の特定派閥の人間に過ぎない以上、別に変なことじゃない。それにアイツは今回の一件で、上のポストに着く。これによりウチと敵対している派閥を潰すだろうから、裏での戦争ももう終わる」

 

因みにこれと同じことがCIAにも言える。尤もCIAの場合は長官が日本嫌いで『日本にいる非公式諜報組織』を目の敵にしているので、イギリスよりも遥かにややこしいのだが。

 

「さて!じゃあ情報を見ましょうかね」

 

そう言って車の中に積んであるパソコンにUSBを接続し、中に入っているデータを表示させる。そこに書かれていたのは横山冬夜の入国してから昨日までの動きと、今後の予定について。それから事前に情報屋から入手していた「何処かのパーティーに出席する」という情報の裏付けと、そのパーティーの詳細なデータ、それに参加証までもが入っていた。さらにパーティーの出席者の詳しいデータもしっかりと入っている辺り、流石プロである。

 

「何かわかりました?」

 

「何かどころじゃない。メチャクチャ分かった。取り敢えず今日はこのまま、もう一つの店に行くぞ」

 

そう言って、また別の場所を目指して車を走らせる。今度はワイン専門店の前で止まり、その中へと入っていく。

 

「あの、ここではなにを?」

 

「簡単さ。ワインの店に来たら、テイスティングだろ?」

 

そう言いながら、如何にも従業員専用の扉を開ける長嶺。そのまま中を進み、壁の前で立ち止まる。そして壁を一定のリズムでコンコンと叩くと、鍵の開く音がなり壁が開いた。

 

「おや、こんにちはMr.ミネ。お久しぶりです。そちらの可愛らしいお嬢様は、初めましての方ですね。私の事はソムリエとお呼びください」

 

「は、はい」

 

そう言って声を掛けるソムリエだが、明らかにおかしい。出立ちはしっかりとしたソムリエで、首にはタストヴァンが掛かっているし、首元にはソムリエの証たるソムリエバッジも輝いている。だがその後ろに飾られているのは年代物のワインではなく、銃である。

 

「テイスティングしたいんだが、良いか?」

 

「勿論でございます。貴方が大口径をよく好むのは存じておりますが、今回はオーストリアより新しい、オススメの物が入っていますよ。グロックの41と19です」

 

そう言いながらソムリエはディスプレイされてる銃の中から、二つの拳銃を差し出してきた。

 

「特殊形状のグリップに、容易な装填が可能なマグウェル。銃口もカスタマイズ致しますので。他にご用命は?」

 

「俺が欲しいのは、スマートで正確なヤツだ」

 

「スマートで、正確.......。では…」

 

そう言って持ってきたのはL115A3スナイパーライフルである。スマートで正確な上に、高い威力を誇る銃だ。

 

「L115A3です。全長1,158mm。.338ラプア・マグナム弾使用ですので、どんな相手でも貫通せしめるでしょう。スコープは最大20倍の特注品です。他には?」

 

「ゴツくて正確なヤツを」

 

「ゴツくて.......正確 .......。では、AR15は如何でしょう?銃身は11.5インチ。ボルトキャリアはアイアンボンドで強化されています。スコープはトリジコンの1×6です。この他には?」

 

「オススメはあるか?」

 

この質問にソムリは「待ってました」と言わんばかりの笑みを浮かべ、別の銃を出した。

 

「私のオススメは、フランキ・スパス12。装填しやすい様、装填口を拡張し銃口も精度を上げてあります。そして布張りのグリップで、濡れた手で触っても滑らない。他に御座いますか?」

 

「彼女にも武器を」

 

「分かりました。どの様な場所での戦闘を想定しておいでですか?」

 

「室内での閉所戦闘。潜入地は敵地のど真ん中だが、基本は潜入だ」

 

「ふむ。わかりました」

 

少し考えると、ソムリエはイラストリアスを呼んで近くに来てもらう。幾つか候補となる武器を出して、机に並べる。

 

「お名前をお聞きしても?」

 

「リアスと言います」

 

「それではリアス様、ここにある銃が携帯のしやすい銃になります」

 

並ぶ銃はどれも小型で、反動も小さそうな物ばかりである。だが持ち運びやすそうだし、何よりイラストリアスとしてもその位の方が楽なのだ。

 

「まずはS&W M360。有効射程はカスタマイズにより30mに伸びていますが、短い上に威力もプレートを着られていると豆鉄砲でしょう。リボルバーですので装弾数は少ない物の、高い信頼性が売りです。

次はSIG P224 SAS。重量が嵩みますが、高い安全性と衣服に引っかかりにくい材質が使われているのが特徴です。

最後はベレッタPX4ストーム サブコンパクトです。装弾数は13発と高い継戦能力があり、古き良きブローニング方式で高い信頼性と安全性も確立した銃となっております」

 

「えーと.......」

 

「これは失礼を。まずは、一度撃ってみるとよろしいでしょう。こちらへ」

 

そう言ってソムリエについて行くと、奥には射撃場が広がっていた。流石に江ノ島にある霞桜の隊員達が使う射撃場には劣るが、アメリカの銃ショップに併設されてる射撃場よりも立派な物である。

 

「武器とは自らの身を預ける、言うなれば相棒。選ぶのではなく、見つける物なのです。さぁ、まずはM360から撃ってみてください」

 

「は、はい!」

 

そう言って構えるが、肩に力が入っていて銃口も震えている。さらに腰に力が入ってない以上、撃った反動で精度は更に落ちるだろう。ソムリエもそれを見て初心者だとわかり、取り敢えずどうしようかと考えていた。

 

「リアス、貸してみろ」

 

「え?」

 

「まず銃はこう構えて、銃口を固定。呼吸を整えながら、目標を狙う。そして腰に力を入れて、撃つ!」

 

トリガー引いて飛び出した.38スペシャル弾は、正確に的のど真ん中を撃ち抜いた。

 

「さぁ、やってみろ」

 

今度はイラストリアスが撃った。だがまだ、弾は当たらない。一応一発が的のフチに当たってはいるが、流石に及第点とは言えない。

 

「いいかリアス。撃つ前に深呼吸して、心を落ち着かせろ。震えを抑えて、リラックスするんだ。それから撃て」

 

「は、はい!」

 

今度は取り敢えず的にはしっかり当たっているので、意外とスジは良い。だが、どうやらリボルバー向きではない。

 

「ミネ様、どうやらリアス様は.......」

 

「まあ薄々思ってたがな。リアス、どうやらお前にその銃は向いてないみたいだ」

 

「どうしてですか?」

 

「お前は撃ったとき、反動をしっかり吸収している。だがリボルバーは反動を逃しながら撃つ。お前の撃ち方だと、連続して撃った時、腕が痺れてマトモに撃てなくなるぞ。そのやり方がデフォで癖づいてる以上、オートマチックの方が良い」

 

まあ小口径なので、流石にそこまでの事は起きないが命の取り合いでは一瞬のスキが命取りになりかねない。ここはオートマチックして貰いたいのが本音である。

そしてアドバイス通りオートマチックにしてみると撃ちやすかったらしく、ベレッタPX4ストーム サブコンパクトを選んだ。

 

 

 

翌々日 17:00 高級ホテル

「イラストリアス、最後の確認だ。これから出るパーティーは貴族の家で行われる。このパーティーに横山が出てくるのは確認済みだ。君の仕事はアイツを上手いこと誘惑なり何なりで誘導し、場所を俺に教える事だ。ヘリをチャーターしているから、窓のある部屋にさえ通れば後は狙撃でどうとでも出来る」

 

「あの、もし失敗してしまったら?」

 

「その時はその時でまた別のプランを幾つも考えてるから、兎に角お前はアイツを誘導することだけ考えてればいい」

 

「わかりました!頑張ります」

 

既に昨日の内にパーティー会場の邸宅には、隠しカメラと非常時の備えを配置してある。シロンも会場近くに忍ばせてあるし、もしもに備えて霞桜も一個分隊をロンドン内に潜ませている。何が起きても、ある程度は対応可能だ。

 

「そろそろ迎えの車が来るから、後は頼むぞ」

 

「はい。あの、指揮官様。もし、もしも上手くいったら、その.......」

 

「あ、車が来たな。任務開始だ」

 

イラストリアスが何かを言い掛けていたが、結局何も言えずに二人は別れた。イラストリアスは迎えの車に乗って邸宅を目指し、長嶺はヘリポートを目指す。

 

 

「また会ったな」

 

「苦労を掛けるな」

 

ヘリポートには、二日目にカフェで密会したMI5のエージェントがいた。彼はヘリの免許を持っており、MI5に入る前は軍のヘリパイロットとして欧州戦争時に第一線で活躍していたのである。

 

「さぁ、乗ってくれ。すぐに出す」

 

「おう」

 

二人を乗せたMD エクスプローラーは、目標のいる邸宅を目指して飛ぶ。一方その頃、イラストリアスは無事にパーティーへ参加した。

 

「指揮官様。パーティーに無事、入れましたわ」

 

『よーし。そのまま目標を探せ』

 

それから約二時間、長嶺はヘリに揺られながら狙撃の時を待った。時折イラストリアスからの簡単な報告に耳を傾けつつ、エージェントと適当に雑談とかをして暇を潰していた。

 

「…そしたら俺の上司が半裸でオフィスに入って来て、それを奥さんが追いかけてよ」

 

「何そのカオス。見たかったわw」

 

「だろw?まあその上司は奥さんに逃げられて、ついでにクビになったがな!」

 

「オチまで完璧だな」

 

エージェントの前の前の上司が引き起こした浮気事件の顛末に腹を抱えて笑っていると、突如無線が鳴った。いよいよ狙撃かと思いきや、相手は別ルートでロンドンに潜入しているカルファンからの連絡だった。

 

『ボス!例の協力者なんだけど、コイツ、ヤバい情報をゲロしやがったわよ!!』

 

「なんだヤバい情報って?」

 

『パーティーに参加しているのは全員プロの殺し屋とか傭兵にすげ変わってるらしくて、協力者である貴族は横山を殺すつもりだそくよ!!そして当の横山も貴族を殺すつもりだって言ってたわ!!』

 

「は?いや、待て待て。貴族は別に協力者じゃないだろ?」

 

『どうやら件の貴族はURと繋がってて、その関係で横山に何度も便宜を図ってたらしいの。でもある時、横山がそれを裏切った。そして報復の準備に動いていたら、こっちの襲撃が重なって期せずして報復のチャンスが巡ったらしいわ!』

 

一瞬脳裏には「勝手に仲間内でやってくれるなら、もう任せちまえば良いじゃん」という考えがよぎったが、その考えは一瞬で消えた。参加者全員が殺し屋か傭兵になっているとしたら、今あの場にいるイラストリアスの身が危ない。

恐らく全員をすげ替えているのは、証拠隠滅の面も含まれている可能性が高い。となると目撃者となるイラストリアスも排除対象に入るし、仮に迷い込んだだけならあのプロポーションが気に入られて捕まって色々されるだけで済むかもしれない。だが今回は武装している以上、プロなら容赦なく殺す可能性が高い。しかもイラストリアスは歴としたKAN-SENという人型兵器。普通の弾じゃ殺せないが、正体がバレるのは色んな意味で非常に不味い。

 

「取り敢えずそっちは撤収しろ。俺はアイツを回収する」

 

『了解!!』

 

「何かあったか?」

 

「パーティーの参加者、ターゲットを除いた全員が殺し屋と傭兵にすげ変わってるとさ。こうなるのは想定外なんて物じゃないが、遊覧飛行は終わりだ。俺は行く。ここまで助かった」

 

「気を付けてな」

 

「あぁ」

 

長嶺はそう言い残すと、ヘリから飛び降りた。自由落下中、屋根にいる監視のSPを狙撃して射殺。屋根に着地後は電気関連の機器を目指し、C4を仕掛けておく。

 

「これでよし」

 

仕掛け終わるといよいよ内部へと入るのだが、一応バラクラバを装備して中へと入る。

 

(廊下から堂々と行くのはリスキー。監視カメラに赤外線センサー、それに警備もある以上避けないとな。とすると、パーティー会場に行くには.......)

 

脳内に叩き込んだ邸宅内の見取り図と、配置してある武器や装備を思い出し戦略を立てる。

 

(よし。このまま屋根裏を伝って、パーティー会場に潜入。タイミングを見計らってシャンデリアでも落としてやるか)

 

シャンデリアを固定しているワイヤーに火薬を仕掛けて、トラップとする。その作業の合間にイラストリアスを加害範囲の外に出して、一旦待機させる。

 

『お集まりの諸君!盃を掲げよ!!!!』

 

いつの間にか壇上に上がっていた貴族がそう言うと、参加者たちは一斉に獲物を抜いて真ん中の横山に向ける。当の横山本人はいきなりの事に反応しきれず、間抜けな顔のままフリーズしている。

 

「さぁ、パーティーを始めようか」

 

次の瞬間、シャンデリアが落下し下の殺し屋と傭兵は下敷きとなり、一変してパニック状態に陥る。さらに仕掛けておいたC4を起爆して、電気をシャットダウン。これにより視界は封じられた。

 

「な、何なんだよ!!」

 

運良くシャンデリアの合間にいた横山は、飛び散ったガラスに切り裂かれて軽傷を負う程度で済んだ。だが、死ぬ運命なのは変わりない。

 

「さぁ、何だろうね?取り敢えず、お前は地獄行きだとさ。深海へと捨てた艦娘達に、精々可愛がってもらうがよかろう」

 

「あ、アンタは!!」

 

どうやら横山は暗闇の中で話しかけて来た相手が、秘密部隊Xの長にして自分の上司である長嶺だと気づいてしまったらしい。

 

「サヨナラだ、クソ野郎」

 

銃撃ではなく、腹に深くナイフを刺して殺した。実は腹を刺すのは、中々簡単に逝けないので辛いのだ。

刺した瞬間、どうやら自家発電に切り替わったのか明かりが戻った。そしてターゲットが死にかけていて、その前に見覚えのない奴がいたのだ。

 

「ん?何者だ貴様.......」

「あんな奴いたか?」

「いや.......知らん」

 

『皆の者!アイツも殺してしまえ!!!!』

 

この館の主である肥えに肥えまくった豚親父が喚き散らすが、コイツ自身もクズである事には変わりない。何せ薬物や武器の出所の大元は恐らくコイツ、ないし協力関係だったのは間違いない。なら取るべき手段はただ一つ。

 

「うるさいぞ。発情期ですかコノヤロー」

 

『な、なに!?』

 

「お前もウチに毒を撒いたんだ。ここで死にかけの蛙みたいにビクンビクンしてるクズと、テメェは同罪だ。なら、コイツと同じ運命を辿るべきじゃないか?それが道理ってもんだろ」

 

そう言いながらゆっくり静かに、ごく自然に忍ばせた拳銃のグリップを握る。触れて握った次の瞬間には、銃を抜き、トリガーを引いて奴の眉間に弾丸を叩き込んだ。

 

「さーて、アイツは殺した訳だがアンタらはどうする?争いたないなら、幾らでも相手してやる。だが、ここから先の戦闘は全て戦争だと心得ろ。死にたい奴、死ぬ覚悟ができてる奴だけ掛かってくるがいい」

 

本当ならこれで退いてもらうつもりだったし、殆どは何もしないつもりだったようだ。だが一部の脳みそが筋肉で構成されてるようなアホは、何故かこれを発破と捉えて向かってくる。しかもそれに乗せられて、ほぼ全員が襲いかかって来た。

 

「えーい、面倒だ!!!!」

 

予め潜入工作用ガジェットである『サイレント』を使用し、フラッシュグレネードとスモークグレネードを配置してある。それを作動させて、一帯の視界を奪う。

 

「こっちだ」

 

「(し、指揮官様!?)」

 

「(奴らは視界を奪われた上に、あちこちに人間がいるおかげで浮き足だってる。いまのうちに逃げる)」

 

無事にイラストリアスと合流し、シロン目指して走る。イラストリアスはヒールを履いているが、脱がせてあるので問題ない。

 

「次の角を右!」

 

「はい!」

 

途中で武器を装備しつつ、出口をを目指すが途中で武装した警備員に見つかってしまった。

 

「Fire!!」

 

ドカカカカカ!

 

「リアス!そっちに隠れろ!!!!」

 

間一髪、撃たれる前に反応した長峰がイラストリアスを遮蔽物に隠したが、代わりに長嶺が左肩と右腕に弾を食らってしまう。

 

「ッ!」

 

「Move!!」

 

「痛ぇじゃねーかコノヤロー!!!!」

 

AR15を乱射し警備員を殲滅。そのまま玄関前の車寄せに移動させておいたシロンに飛び乗り、大急ぎで合流ポイントまで走らせる。

 

「し、指揮官様!怪我を!!」

 

「あー、心配すんな。弾は抜けてる」

 

「でも!」

 

「高速修復剤を打てば治る。というか、久しぶりに食らったわ」

 

本人は笑っているが、イラストリアスは生きた心地がしない。愛する人が傷つくとか、見ていて悲しい。それ以前に多分、このケガは自分という足枷が居たことによるもの。多分長嶺1人だったなら負わなかったであろう傷に、イラストリアスは心が締め付けられる思いだった。

 

「あー、どうやら追っ手が来たな」

 

後ろを見ると、たくさんの車がこちらに向かって来ている。しかも撃ってきたのか、チカチカとオレンジの光が見えるし風を切る音も聞こえる。

 

「流石にこのまま金魚の糞よろしくついて来られても、この後が色々と厄介だ。迎え撃つぞ」

 

「えっと迎え撃つって、まさか.......」

 

「戦闘モード、起動」

 

最初の紹介で書き忘れていたが、マスターシロン含む霞桜の車両には全てAIと音声認識機能が標準搭載されている。この音声認識機能により、マスターシロンはトランスフォーマー ダークサイドムーンのバンブルビーとかサイドスワイプの様に変形し、武装が至る所から出てくる。

 

「そんじゃ、しっかり捕まってろ。後、舌噛まないように」

 

一気にサイドブレーキを引いて、車を180°反転させる。さらにシフトをバックに叩き込み、前方に搭載している武装を後方の車両群へと向けた。

 

「撃ちまくれ」

 

この言葉を聞き取るや否や、持てる火力のほぼ全てが車両群へと投射されていく。80mm砲で遠距離射撃を行いつつ、40mmグレネードランチャーの弾種をスモークにして煙幕を展開。そして20mmと12.7mmの機関砲で弾幕を展開し、行き足を止めにかかる。

 

「こんなもんだな」

 

暫く撃つと、また180°回転させて武装も仕舞う。そのまま何事もなかったかの様に走り出すつもりだったが、合流から入ってきた車に横付けされてしまった。

 

『○%$¥〆〒☆♪€=#!?』

 

「あー、なんて言ってるんだ?」

 

「さ、さぁ?」

 

何か窓をバシバシ叩きながら、何かを訴えているが全く聞こえない。まあでも、多分「止まれ!」的なことを言っているとは思う。それで止まるわけもなく、向こうもそれに気づいたのだろう。AKS74Uを乱射し始めた。

 

「だ、大丈夫なんですか!?」

 

「戦車砲も一応防ぐからな。まあでも、ウザいしピンポンカンコンうるさいし、止めるかな」

 

今度は車の下に搭載してある丸鋸を起動させて、タイヤに穴を開けるのではなく、もっと直接的な方法で撃退する。

 

「イラストリアス、横を見るんじゃないよ?」

 

「どうしてでしょう?」

 

「見たら、多分一生もののトラウマになる」

 

そう言ってる時にはもう、丸鋸は横につけてる奴らの窓の辺りにまで上がっていた。後は丸鋸を車内に突っ込ませて、乗ってる人間をズタズタに引き裂くだけである。

 

「あの、先程から叫び声が聞こえるんですけど.......」

 

「あー、うん。気のせい気のせい。きっと疲れてんだよ」

 

気のせいなわけが無い。因みに、丸鋸が突入した時の敵側の車の中はこんな感じであった。

 

「なんだその丸鋸は!?」

 

「近づいてギャァァァァァ!!!!!

 

「おいやめろ、やめろやめてくれ!!!!」

 

ギュィィィィィィン!!!!

 

運転中に丸鋸が真横から車内に入ってきて、同乗者がズタズタになった挙句、自分もズタズタになるとかトラウマ物である。まあどっちも死んでしまうので、トラウマもへったくれも無いのだが。

 

「このままヘリポートに突っ込むぞ」

 

「まさかこの車、飛ぶんですか!?!?」

 

「今度作ってもいいが、生憎コイツは飛ばない。このまま黒鮫の腹の中に突入だ!」

 

ヘリポートの前にあるバーを突き破り、そのまま着陸している戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』のカーゴスペースに飛び込む。飛び込んだのを確認すると、黒鮫はハッチを閉めながら離陸を開始した。

 

「ミッションコンプリートだ。偶にはこんなのも良いだろ?」

 

「もう一生、やりたく無いですわ.......。指揮官様は毎回こんなことを?」

 

「流石にドンパチは普通しねーよ。今回は、あくまで偶然に偶然が重なってこうなった。普段はもっとスマートにやるさ。狙撃、毒、感電、事故etc。ただ、いつもの装備じゃなくて買ったのはカッコつけすぎたかな?」

 

この日、イラストリアスは理解した。多分、この人を完全に理解するのは不可能に近いし、少なくとも陸の戦いで横に並ぶのは無理だと。そして決意した。陸がダメなら、せめてホームグラウンドである海では横に立とうと。戦いがない時なら、陸でも横に並ぼうと。

そして長嶺は思い出した。

 

「あれ?確か今日って、修学旅行じゃね?」

 

スマホをチェックすると、今のロンドンは0時。日本との時差は八時間で、計算すると朝の8時。修学旅行の行程は9時42分の成田空港発、関西国際空港行きの飛行機に乗る事になっている。まあまず、成田に戻るのは無理だろう。だが、関西国際空港なら合流できる。

え?ロンドンから関空までは、約17時間はかかるって?確かに普通の旅客機なら、その位掛かるだろう。だが今、我らが長嶺が乗っている機体は長嶺とレリックが開発した戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』。この機体は最高時速マッハ6を誇る。普通の旅客機は音速に到達しない位の速度、まあ大体マッハ0.7〜0.8位で巡航する。かたやこっちはマッハ6。二時間半位あれば間に合うのだ。成田と関空の飛行時間は一時間半程度かかるし、まだ出発まで時間はある。これなら可能性はゼロではない。

 

「パイロット。関空まで飛ばしてくれ」

 

『お安い御用ですぜ。それじゃ、関空までノンストップで飛びますよ。しっかり捕まっといてください!』

 

エンジンモードが通常のジェットエンジンから、スクラムジェットへと切り替わる。瞬時にマッハ6まで加速し、関西国際空港を目指す。結果として修学旅行には間に合ったのだが、この修学旅行が今後に繋がる重要なターニングポイントになることは誰も知る由はなかった。

 

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