最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第五十一話トリプル・オーダー

六時間後 関西国際空港上空

「一応到着しましたぜ?」

 

「ありがとう。何とか間に合ったな」

 

「ここからどうするので?流石に着陸して、普通に降りる訳にもいかんでしょう?」

 

普通に考えて武装した大型輸送機が着陸してくるとか、もう大騒ぎどころじゃない。自衛隊の普通の輸送機が基地があるわけでも無い、普通の飛行場に着陸しただけですぐにネットで拡散されるのに、こんな大型超重武装VTOL輸送機が着陸でもしたらネットの拡散は勿論、ワールドニュースのトップはそれになるレベルであろう。

 

「普通に空挺降下で降りよう。どうせレーダーにはコイツは映ってないし、ステルス迷彩起動のまま適当な立体駐車場にでも降りれれば、後は一般客に紛れ込める」

 

「成る程。そう言うことなら、後部ハッチ開けますぜ?」

 

「頼む」

 

イラストリアスと他の隊員達に別れを告げ、機体から飛び降りる。そのまま関西国際空港に隣接する立体駐車場に着地し、出入り口から一番遠い車の影で手早く私服へと着替える。装備していた装甲戦闘服はステルス迷彩を起動したまま放置し、後から八咫烏に回収してもらう様に頼んであるので問題ない。

 

「さぁて、じゃあ修学旅行を楽しむとするか」

 

五分もすると、車の影から人が現れた。そこに居たのは『長嶺雷蔵』ではなく『桑田真也』である。因みにこの世界線での総武高校の修学旅行は、私服での行動が許可されている。制服でも良いのだが、こちらを選ぶのは早々居ない。なので桑田も、私服で行動する事にしている。服装は上から黒いスポーツサングラス、服は白のパーカーに裾が長めの紺色のアウター、黒のテーパードパンツ、黒のスニーカーといった感じ。アクセサリーとして、指輪のついたチェーンも付けている。そして武装は阿修羅HGを懐に忍ばせ、ナイフと三段特殊警棒、後はスタンガンを忍ばせてある。裾が長いアウターを選んだのも、こういうのを隠す為である。

長嶺雷蔵から桑田真也へのトランスフォームも完了したので、ターミナル内で総武高の一団が来るのを待つだけである。出口の辺りにある椅子に腰掛けて、今の内に執務も片付けておく。特に今回の暗殺で別行動していたカルファンやベアキブルの報告に目を通し、自分が持つ情報との照らし合わせや修正を行う。そんなこんなで時間を潰していると、一団がやってきた。

 

「みんな、ここで一度整列しろ。一旦トイレ休憩を挟む」

 

どうやらトイレ休憩を取ったのち、今後の詳細な説明をするらしい。生徒達は疎にトイレへと向かい出した。他は周りと喋っている。

 

「平塚先生、俺を置いてかないでくださいよ?」

 

「む?なんだ、居たのか」

 

「えぇ。イギリスでの用事も終わったんで、無事合流できました」

 

「そうか。なら列に並べ」

 

てっきり色々あるかと思っていたが、特段何もなくまるで「居ても居なくてもどうでもいい」と言わんばかりの態度で列に並ばされた。だが周りの生徒はそうも行かず川崎と戸塚が話しかけて来た。

 

「桑田くん!?なんでここに?」

 

「アンタ、休みだったんじゃないの?」

 

「あれ、平塚先生から何も聞いてないのか?」

 

言ってない辺り、どうやら本当に平塚にとって桑田真也は居ても居なくてもどうでも良いらしい。まあこれまで、言葉でボコボコにして来たので当然だろう。

 

「俺は緊急でイギリスに行ってたんだ。で、その用事も終わったから帰ってきた」

 

「用事って?」

 

「あ、あー。えーと」

 

流石に「裏切り者の横山冬夜とか言う、海軍の司令官をぶっ殺したついでに、国際的なテロリストの協力者も殺して、そしたら何か追いかけ回されました」とは言える訳がない。適当に「EU内乱に関する諸々の処理」と言ったら納得してくれた。ドイツ設定にしてよかったと、後に語ったとか語ってないとか。

 

「あら。間に合ったのね」

 

「ん?あぁ、おうよ。そりゃ学校生活に於けるビッグイベントだぜ?これを逃すのは勿体ねぇだろ」

 

振り返れば、ある意味一番派手な服装のオイゲンが立っていた。黒いリボンで髪をいつもの髪型にして、服は赤い肩出しのニットに黒いスキニーパンツ。靴にはスニーカーと、服装としては「今時のセクシー系、若しくはギャル系女子高生の私服」と言った感じで普通だろう。

だがこれをオイゲンが着ると、破壊力がエゲツない事になる。三桁台までたわわに実りに実った果実をニットが隠しきれておらず、北半球の上の方と二つの境界線がガッツリ見えるのだ。しかも下のパンツも、ムチムチとした足回りと形のいい程よく大きなお尻に至るまで、全てを強調してしまっている。つまりどう言うことかと言うと、なんか、エロい。

 

「そっちの用事は済んだのかしら?」

 

「万事問題なしだ。アクシデントは結構起こったがな。真夜中に追いかけ回されたり、何か入れ替わり現象まで起きてたし」

 

「私も見てみたかったわ」

 

「やめとけやめとけ。楽しいが良くてトラウマ確定、最悪PTSDだぞ」

 

こんな感じで雑談をしていると、先生が話し始めて色々諸注意やら流れやらが説明される。尚、初っ端は安定の飛行機でのマナーが悪いとか何とかで怒られるヤツからスタートであった。数時間程度の観光の後、京都への移動を始める。

 

 

 

新大阪発京都行きの電車 後ろの座席

「ねぇ真也。今回の修学旅行、中々に面倒になりそうよ?」

 

「何だ。どこぞのアホが襲撃でも仕掛けたか?」

 

「その方がマシよ」

 

そう言うオイゲンの顔は心底嫌そうな、面倒臭さが滲み出てくるような顔で説明を始めた。時は遡る事、先週の金曜日。つまり修学旅行前、最後の登校日での事。奉仕部に葉山がグループの戸部、チェーンメール事件ではゲーセンで西校狩りを敢行していた不良、という事になっている「〜だべ!」とか「〜っしょ!」とか言ってるチャラい奴を引き連れてやってきた。依頼の内容は「戸部が海老名に告白するから、絶対に成功させて欲しい」というものであった。

うん、可笑しい。馬鹿としか言いようがない。これを聞いた瞬間の長嶺は「アイツら、本当に高校生か?あれか、ゲームとリアルの区別ついて無い系の連中か?」と突っ込んだ。

 

「どうやら比企ヶ谷くんは止めたらしいけど、二人が強行したらしいわ。私もあの時はもう帰ってたし、知ったのも行きの飛行機の中でよ.......」

 

「こりゃ荒れるな。にしても、何かキナ臭いな」

 

「これ以上何かある訳?」

 

「無いとは思いたいが.......。いずれにしろ、まずは様子見だな」

 

さてさて。取り敢えず長嶺の考えというか、引っかかる点は置いておいて、この依頼のどこが可笑しいか説明しておこう。平たく言うと「この世に100%成功する告白はないので、どう足掻いても無理」という事である。告白は両思いでもない限り、告白して「YES」の答えが返ってくる確率は五分と五分。依頼の内容が雰囲気作りなんかの手伝い系なら良いのだが、絶対に成功させるのは恋愛の神様でも連れて来ない限り不可能である。

しかもこれはあくまで、相手に嫌悪感を抱いてないのが前提での話である。両思いなら告白すればOKが貰えるのなら、その逆である相手を嫌っていた場合はまあまず不可能であろう。誰でもそうなのだが、特には戸部自体が喋り方とか態度が万人受けする訳ではない。海老名がどう思ってるかで変わるが、何れにしろ土台無理な話なのだ。それなのに受けちゃってるので、もうどうしようもない。出来ることと言えば、少しでも戸部の好感度を上げて告白が成功する可能性を上げる位のものだろう。

 

「その予感って、兵士の勘かしら?」

 

「そんな大それた物でもねーよ」

 

この予感は正しい物であった。この一件で今後の彼らの人生は大きく変わっていくのである。流石の長嶺とて、未来予知の超能力は持ち合わせてないので知る由はないのだが。

何はともあれ、その日は京都のホテルで一泊し、翌朝からは京都の自由散策となった。

 

 

「で、まずはどこ行くんだ?」

 

「まずは、清水寺だったわね」

 

どうやら清水寺からスタートするらしい。因みにこの京都散策は、一応の班で行動する事になっている。班員は長嶺、オイゲンの他、比企ヶ谷、由比ヶ浜、葉山、三浦、戸部、海老名の八人である。

 

「これが清水寺か。初めてみた」

 

「現実の迫力って凄いな」

 

比企ヶ谷と長嶺が清水寺に見惚れていると、由比ヶ浜によって無理矢理胎内巡りとか言うのに連行された。曰く2人っきりにする作戦らしい。意外と中は暗いし、もしかすると吊り橋効果も期待できる。

 

「ほんじゃぁ、二人ずつ行こっか!優美子と隼人くん最初ね。私達がその次で、戸部っちとひなで、エミちゃん達は最後ね!」

 

「あんま時間ないし、そんなに間隔開けない方がいいかもな」

 

「そうだねぇ」

 

「言うて、これそんなに長くなさそうだし気にしなくて良いっしょ!」

 

「でもさ、早く出れる事に越した事はないから」

 

側から見れば、なるべく早く終わらせて次の場所に行きたい様にしか聞こえないだろう。だが比企ヶ谷と長嶺には、これはまるで、二人っきりになるのを避けてる様に見えた。まあ比企ヶ谷は少し引っかかる程度だが、長嶺はこの一言で一気に疑念が浮かんできた。

 

「真也?」

 

「葉山の奴、なんか企んでるぞ」

 

「え?」

 

「アイツの言動、まるで海老名と戸部を二人っきりにしない様にしてるみたいだ」

 

「でも、依頼してきた時に奉仕部を勧めたのは彼よ?何で進めた張本人が、その邪魔をするのよ」

 

オイゲンの言う通りである。今回の一件、奉仕部を進めたのは葉山。付き添いにも来ていたという。なのにこの行動は、それとは正反対の行動といえる。矛盾しているのだが、これまでの葉山の関わってきた様々な事案での行動から察するに、大体こういう時は何かを企んでいた。今回も何かを狙っていても、不思議ではないだろう。

 

「取り敢えず、俺達も行くか」

 

「そうね」

 

一番最後に胎内へと潜り、回す為の石を目指す。中は結構暗いのだが、一本道なので迷わないし、何より微かに戸部の「マジ暗すぎでしょー!」とか何とか言ってるのが聞こえる。

 

「これを回して、お願い事をするのね」

 

「そんじゃ、回しますかね!」

 

二人で石を回すと、ゴリゴリという石臼の様な重苦しい音共に石が回った。長嶺はこの任務が無事成功する様にと願い、オイゲンは長嶺と結ばれる様にと願ったという。

出たら地主神社に移動し、参拝と御神籤をみんなで引いた。

 

「お、ラッキー。大吉だぜ」

 

「私もよ!たしか、これを結ぶのよね?」

 

「いや。それは悪いのが出た時に結ぶらしいぞ。いいのは、例えば財布とかに入れて持ち歩くといいんだと」

 

これは結構意見が分かれる所だろう。結んだ方がご利益があると考える人もいるが、主は持ち歩く派である。正月にお守りと一緒に古い御神籤は焼いてもらうのが、我が家流である。

 

「一応、戸部も頑張ってるんだな」

 

「ホントね。見た目の割に、意外と紳士じゃない」

 

どうやら戸部も戸部なりに、海老名にアタックとまでは言えないものの雰囲気はいい物を作っている。会話も弾んでいて二人とも笑顔である辺り、海老名自身も満更ではないようだ。

今度は場所を移動して、東映太秦映画村のお化け屋敷にやってきた。今回は二班に分けて葉山、三浦、戸部、海老名のチームと、長嶺、オイゲン、比企ヶ谷、由比ヶ浜のチームに別れた。

 

「い、今何か動いたわよ!!」

 

「影だろ」

 

「私、こういうの苦手.......」

 

どうやら由比ヶ浜も幽霊系はダメらしい。つまり女性陣は全滅である。では男性陣はというと、まず長嶺は怖くない。比企ヶ谷は「人間の方が怖い」と言っている。ではお化け屋敷が怖くないかというと、そうではなく「つまり人が脅かしてくるお化け屋敷が一番怖い」と、お化け屋敷はダメだった。

 

「く、クワタンは怖くないの?」

 

「幽霊とか、ゴキブリより害ないぞ。それに死体も何もしてこないから安全だし。あ、これ経験則な」

 

この思考は桑田真也ではなく、長嶺雷蔵としての物である。長嶺曰く「どんな奴も死体にしちまえば、単なる肉とクソの塊に過ぎない。つまり放置して腐らせたりとか、殺した奴が病気に罹ってない限りでもしない限り安全無害」らしい。

 

「それに俺、気配で分かるし。例えばそこの白い奴。あと三秒で襲ってくるぞ」

 

「「え?」」

 

そう言った三秒後、本当に白い奴、正確には死装束を着た幽霊が脅かしてきた。脅かされたのと、それを言い当てた両方で比企ヶ谷と由比ヶ浜は驚き、オイゲンは単に脅かされた事に驚いた。

お化け屋敷を出ると、一旦トイレ休憩がてらに皆トイレ行ったりお土産を見たりで方々に消えていった。残ったのは長嶺と三浦のみ。

 

「あんさぁ桑田。あんま海老名にちょっかい出すの、やめてくんない?迷惑なんだけど」

 

「出してるのは由比ヶ浜だっての。俺は特に何もしてねぇというか、知らないから変に手を出せない。

それに迷惑というが、そうして欲しいって奴がいるだけだ。第一、お前には迷惑はかかってない筈だが?」

 

「はぁ?これから迷惑かかんの。海老名、黙ってれば男ウケいいから紹介してくれって奴、結構いんの。でも紹介しようとすると、超やんわり拒否ってさ。照れたんだと思って、あーしも結構しつこく進めた訳。したらアイツ、笑いながら「あ、じゃあもういいや」って。あーしの事、超他人みたいな感じで言ったの。海老名はあんまり自分の事を話さないし、あーしも聞かない。けどそういうの、嫌いなんだと思う。

あーしさ、今結構楽しいんだ。だから余計な事、しないでくれる?」

 

そう言って向けてきた目には、何か決意の様な物が宿っていた。その目はこれまで何回か見てきた、組織の人間を守る覚悟をしたボスの目。コイツはどうやら、葉山グループを守りたいらしい。

 

「そうか。だが俺は何も知らない以上、何も出来ないのが現状だ。これまでも、これからも、俺は今回の事には関知しない。まあ俺とかエミリアに被害や迷惑が及ぶのなら、問答無用でどうにかするがな。それに俺は葉山グループがどうなろうと、別に知ったこっちゃない。潰れてできるメリットもデメリットも、存在しているからと言ってメリットがある訳でもない。

それに、お前には葉山が居るんだろ?俺よりも先に、アイツに話を通す事だな。アイツなら安定の「みんな仲良く」の理念で、どうにかするんじゃね?」

 

「それもそっか。あーしには隼人がいるし、アンタみたいな不気味な奴に頼らなくてもいっか!」

 

「不気味で悪かったな」

 

まさか不気味と言われるとは思わなかったが、異分子である長嶺に対して不気味と言う辺り度胸はあるらしい。少しすると、みんな戻ってきてまた班が出来上がった。

 

「ヒキタニくん。相談、忘れてないよね」

 

「あ?おぉ」

 

そんな中、長嶺は海老名が比企ヶ谷にこう言っているのを見てしまった。相談とは何なのかは皆目検討もつかないが、恐らく今後の鍵にはなる筈なので聞き耳を立ててみる。

 

「どうどう!?メンズ達の仲は睦まじい?」

 

「仲は良いんじゃないか?夜とかトランプしてるし」

 

「それじゃ私が見れないし、美味しくないし!もっとさ、私がいる所で男子達が固まってるのを見るのが一番良いんだけどなぁ!!」

 

「まあ、俺たちも嵐山行くし、その時に.......」

 

「よろしくね」

 

最初から終盤まで、いつもの平常運転だと思ってた。BL好きの海老名が、リアルでBLを見たいが故のクソしょうもない頼みでもしたのかと。だが最後の「よろしくね」の表情で、全てを察した。さっきまでの会話は言うなればフェイクであり、その奥に何か重大な物を込めて話していると。だとすると、この一件は同一線上戸部からの依頼と海老名の依頼が存在している。しかもそれを知っているのは、恐らく比企ヶ谷のみ。となると、この告白は何かある。この後、一団は嵐山へと移動してお土産購入に勤しむ事になった。だが長嶺は比企ヶ谷を追跡する為、エミリアとは別行動する事を選択し、何も起こらないまま夕方となった。

 

 

(何も起きねー)

 

特に何もなく、延々と時間は過ぎていく。そろそろ尾行もやめようかとした時、比企ヶ谷は河原の方に降って行った。そこに居たのは、どういう訳か葉山である。

 

「やけに非協力的だな」

 

「そうかな?」

 

「そうだろ。寧ろ邪魔されてた気がするけどな」

 

「そういうつもりは無かったんだけどなぁ。俺は今が気に入ってるんだよ。戸部もひなも、みんなでいる時間が結構好きなんだ」

 

いやいや、どの口が言っているんだと危うくツッコミそうになるが、それは抑えておく。邪魔云々はこの際置いておくとして、みんなでいる時間が好きなら、何故常に独善的な行動しか取らないのだ。理解に苦しむ。

 

「それで終わるなら、元々その程度の物なんじゃねーの?」

 

「そうかもしれない。けど、失った物は戻らない」

 

(そうかもじゃねーよ。そうでしかねーよ。というか名言風に言っても、用は自分の思い通りにしたいって宣言してるだけだっちゅうに)

 

「そんな上っ面の関係で楽しくやろうって方が可笑しい」

 

どうやら比企ヶ谷とは思考パターンは結構似てるらしい。長嶺の言いたい事、全部言ってくれている。

 

「そうかな。俺はこれが上っ面だなんて思ってない。今の俺にとっては、この環境が全てだよ」

 

「いや!上っ面だろ。じゃあ戸部はどうなる?」

 

「何度か諦める様には言ったんだ。今のひなが心を開く様には思えないから、それでも先の事は分からない。だから戸部には結論を急いでほしく無かったんだ」

 

「勝手な言い分だな。それはお前の都合でしかない」

 

「なら!君はどうなんだ?君ならどうする?」

 

なんか段々と話の雲行きが怪しくなってきた。一旦これまでの葉山の言ってる事を整理すると、グループを今のままで保ちたいから海老名への告白をして欲しくないという事である。

だが口振り的に一つ、可笑しな点がある。まるで海老名は告白しても必ず「NO」と返ってくると、それが決定事項だと分かっている様なのだ。この事をさっきの海老名の発言に関する事に代入すると、長嶺の中で全てが繋がった。とすると奉仕部は相反する二つの依頼、つまり「告白を絶対に成功したい」という依頼と「告白させないで欲しい」という、無茶苦茶な依頼を受けていたという事になる。

 

(いやいやいやいや!そんなわけないだろ!!流石に、そんな事はない。いくら葉山とて、これじゃ奉仕部を捨て駒にしている様な物だろ。比企ヶ谷だけならまだしも、この状況下では最悪の場合、同じグループである由比ヶ浜、そして家族ぐるみで付き合いのある雪ノ下へも甚大な被害が出る。少なくともこの二人は、葉山の言う「みんな」の枠に入っている。それを犠牲にはしないだろ)

 

「つまり、お前は何も変えたくないって事だな?」

 

「あぁ、そうだ。君にだけは、頼りたくなかったのにな.......」

 

色々考えてる間に、葉山と比企ヶ谷の話は終わった。そして葉山は最後に頼りたくなかったと、随分と自分勝手な事を言っている。自分から頼んでおいて、頼みたくなかったとか、流石にどんな聖人君子でもブチギレるだろう。

比企ヶ谷もどこかに行ったので長嶺も去り、河原には葉山だけとなった。少しすると、また意外な人物が現れた。オイゲンである。

 

「こんな所に私を呼び出すなんて、一体何のようかしら。王子様?」

 

「突然ごめんね、呼び出しちゃって」

 

「別に構わないわよ」

 

「単刀直入に言うよ。エミリアちゃん、僕は君の事が好きです。初めて会った、君が転校してきた時に一眼見た時から。僕と、付き合ってください!」

 

何と葉山はオイゲンに、愛の告白をしやがったのである。これには流石に予想外だったのか、オイゲンも固まっている。だがしかし、この告白への答えは…

 

「無理よ」

 

NOに決まっている。

 

「え?」

 

「だって私、好きな人がいるもの」

 

「桑田くんかい?」

 

間違い、ではない。正確には桑田真也ではなく、長嶺雷蔵なので正解でもない。

 

「そうよ」

 

「僕じゃダメなのか?僕は家も金持ちで、父親は凄腕の弁護士で、母親は医者だ。僕だって成績は学年3位だし、スポーツだってできる!格闘だって、君を守る位は出来る!なのに何故、アイツなんだ!!」

 

オイゲンから帰ってきたのはため息である。確かに葉山は高校生としては、超優良物件である。容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能。だが長嶺は、その遥か上を行く。勝てるわけが無い。

 

「あのねぇ、そもそも家が金持ちなのは、あなたのご両親が凄いんでしょ?あなたの力じゃないわ。それに成績なら真也は一位だし、スポーツだって基本何でも出来るわよ。

後、私を守れるだったかしら?なら聞くけど、銃を持った相手に私が捕まったとして、それを命を懸けて助けられるのかしら?心意気とか、覚悟とかではなく、仮にそうなったとして行動に起こせる?」

 

「え.......?」

 

サラリと吐かれた「命を懸ける」という言葉に、葉山は反応できない。これは葉山が悪い訳ではない。普通に生きていれば、事故とか事件に巻き込まれでもしない限り命懸けの事態に陥ることはない。即応できなくても、こればっかりは仕方ないだろう。

 

「な、何を言っているんだい?そんな事、起こるはず無いじゃないか」

 

「あら、忘れたのかしら?私達は何方も、あの戦禍の中を渡り歩いたのよ?人の命なんてね、すごく簡単に消えてしまう世界。真也はね、例え血と硝煙の支配する地獄の中でも、敵に囲まれた絶体絶命の敵陣のど真ん中でも、必ず助け出してくれる。王子様に真也がどう映っているのかは知らないし、興味もないけど、私が生涯を添い遂げるのなら、真也を置いて他にないわ」

 

これは『エミリア・フォン・ヒッパー』として、というより『プリンツ・オイゲン』としての答えだろう。長嶺はこれまで、仲間の為なら例えどんな地獄の戦場であろうと、本物の地獄や天国だろうと、助けを求める仲間を決して見捨てずに必ず助け出す。それは初めは敵として相対しているからこその物でもあり、オイゲンが長嶺を好きになった理由でもある。

 

「君の気持ちは分かった。でも俺、諦めないからな」

 

「は?」

 

「君が桑田を好きなら、それ以上の存在になってやる。君が俺を好きというまで、自分を磨き続ける。だから、その時が来たらもう一度告白するからな!」

 

そう言って去っていく葉山。頭が可笑しいなんて物じゃない。あそこまでまでの拒絶を受けてなお、あの返しをできるとなると、多分葉山の聴覚と思考回路は機能していないのだろう。

 

 

 

一時間後 嵐山の竹林

「ねぇ真也」

 

近くのベンチに腰掛けて、コロッケと地味に好きなソルティライチを飲んでいるとオイゲンが話しかけてきた。丁度コロッケを咥えたタイミングだったので、なんか間抜けな声になるが気にしてはいけない。

 

「さっき、王子様に呼び出されたわ」

 

「葉山の野郎が?何でまた」

 

「告白よ」

 

「ふーん。誰の?」

 

「王子様の私に対する告白」

 

飲んでいたソルティライチを盛大に噴き出した。ついでに気管に大量に入ってしまい、ゲホゲホ咳き込む。

 

「マジか!?!?」

 

「マジよ。でね、その告白、受けようかなって思ってるの」

 

「そうか。まあお前の決めた事なら問題ないが、この任務が終わり次第、縁は切れよ?」

 

試しにどんな反応をするか、OKと答えると言ってみたオイゲン。だが返ってきた答えは、やはり望んだ物ではない。予想通りではあったが。

 

「嘘に決まってるでしょ」

 

「なんだ、嘘かよ」

 

「告白されたのは本当よ。でも、断った。私、他に好きな人がいるから」

 

「ほう。誉高き鉄血のエース様にも、想い人がいるのか」

 

いつもの事ながら、ここまで来ると一周回って面白くすら思えてくる超絶鈍感朴念仁男っぷりである。というかよく、ここまでされても誰一人として好意に気づかないのは、ある意味コイツも思考回路はイカれてるだろう。いや、元から恋愛観以外も結構ぶっ飛んでいたので今更か。

そんな事をしていると、奉仕部の連中と葉山グループがやってきた。いよいよ、戸部の一世一代の大勝負の刻が来た。尚、戸部はガッチガチに固まっている。

 

「戸部」

 

「うぇ!?ヒキタニくん、やべーわ。今の俺、超来てるわ」

 

「なぁ、お前振られたらどうするんだ?」

 

「いやいや!言う前からそれって酷くない?」

 

いや、全然酷くない。どんな事でも、最悪の場合も想定するのが基本だ。例えば親に何かねだる時、正面切って頼むだけだろうか?それで買ってくれたら万々歳だが、断られた時の対応も考えるのが普通だろう。比企ヶ谷も「早く答えろ」と言って、どうやら戸部も冷やかしで言ったわけではないと感じたのだろう。「そりゃ諦めらんないっしょ!」と答えた。

 

「俺さ、こういうテキトーな人間じゃん?けど、今回結構マジっつーかさ」

 

「そうか。なら最後の最後まで頑張れよ」

 

「おぉ!やっぱヒキタニくん良いやつじゃん」

 

「ちげーよ!バカ」

 

そう言って比企ヶ谷は帰ってきた。まあ今回ばかりは、ヒキタニ呼びも悪い気はしないだろう。なんだかんだ言って、やっぱり比企ヶ谷は優しい奴だ。

 

「あなた、意外と紳士ね」

 

「そんなんじゃねーよ。それに、アイツはこのままだと確実に振られる」

 

オイゲンのコメントにも否定してくるが、由比ヶ浜と雪ノ下も今の行動には好印象だったらしい。そして、振られるという意見にも同意見なようだ。因みにこれは、オイゲンと長嶺も含めてである。

 

「一応、丸く収める方法はある」

 

だがそう言った時の比企ヶ谷は、何処か変な形で覚悟を決めたような顔であった。多分今回も捻くれた方法で解決するのは分かっていたのか、雪ノ下は「あなたに任せるわ」と言い、由比ヶ浜もそれに同意した。

 

「どんな手を取るかは知らねーが、好きなようにやって来い」

 

長嶺がそう励ました時、向こう側から誰か歩いてきた。海老名である。どうやら本当に戸部の大勝負の刻が来たらしい。

 

「あの」

 

「うん」

 

由比ヶ浜も雪ノ下も葉山も、そして葉山についてきた大岡と大和も手に汗握って固唾を飲みつつ見守っている。心無しか戸部と同じ位、緊張しているようにも見える。

 

「俺さ、その。その!」

 

さぁ、いよいよ告白の時!というタイミングで比企ヶ谷は、スタスタと二人の方へと向かって行った。何かをするのだろう。比企ヶ谷がする事に、誰も勘付いていない。長嶺を除いて。

長嶺の脳裏には、さっきよぎった最悪の想定が電撃的に蘇る。もし仮にあれが本当に想定通りの物と仮定した場合、この状況下で何もかも丸く、つまり葉山のいう「現状維持でありたい」という願いが叶うのなら、そして戸部と海老名の依頼すらもクリアするとなると、出された解は一つである。だが無情にも、結論が出た時にはもう遅かった。

 

「俺、俺、俺さ!」

「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」

 

その結論とは嘘の告白。この告白により、海老名はこう答える。「今は誰とも付き合う気がない。誰に告白されても付き合う気はない」と。となれば戸部の意思だって、もう答えがわかっているのなら意味をなさない。少なくともこの場ではしないだろうし、第一人の告白を横取りするという中々にクズな行動をしている重い空気の中で告白するという奴は、この地球上、何処を探してもいないだろう。

これにより戸部と海老名の依頼は解決されたし、告白が存在しなければ葉山の危惧する「グループの崩壊」という未来に必要となる、告白による気不味さも存在しなくなる。つまり自動的に解決されるので、ある意味解としては完璧な物と言って良いだろう。

 

「ねぇ、まさか真也の言ってたのって.......

 

「あぁ。どうやら俺が想定していた物でも、一番最悪なのが当たっちまった.......」

 

取り敢えず戸部としては、玉砕前に答えがわかったので良かったのか、嫌悪な空気になる事なく「俺、負けねーから!」という、同じ人を好きになったが故のライバル心を良い意味で燃やし出した。

そして葉山も戸部のフォローに周り、場は綺麗に収まった。

 

「すまない。君はそんなやり方しか出来ないと、分かっていたのに.......。すまない」

 

そして去り際にこう言い放った葉山。明らかに比企ヶ谷を憐れんだ物で、さも自分は正しいと言わんばかりのものであった。

 

「エミリア、すまねぇ。少し、先外すわ。後、先帰ってろ」

 

「え?ッ!?」

 

そこに居たのは、もう桑田真也ではなかった。勿論格好や顔は桑田真也なのだが、纏っているオーラは長嶺雷蔵の、それも仲間を傷つけられた時に見せるキレた時のそれであった。

長嶺は反対にある公衆トイレまで歩くと、拳を壁に叩きつけた。鈍器をぶつけた様な鈍く大きな音が響き、周囲の鳥がバサバサと飛び立つ。

 

「葉山隼人。俺に初めて出来た普通の友達を、よもや捨て駒として使うとは.......。必ず、殺してやる!!!!

 

イライラも少しは収まったので、ホテルへと歩き出す。すると竹林で、比企ヶ谷と由比ヶ浜を見つけた。由比ヶ浜は比企ヶ谷に「人の気持ち、もっと考えてよ!」と言って怒っている。他にも「こういうの、やだ」とかも言っていた。これに対しても、更に怒りが湧いてきた。由比ヶ浜と雪ノ下は、あの時「比企ヶ谷に任せる」と言った。にも関わらず、結果が気に入らなければ拒絶する。虫が良いにも程がある。

そして多分、比企ヶ谷に取っては妹の小町を除けば、同年代としては信用にたる人物であったであろう由比ヶ浜。その彼女に拒絶され、完全に絶望していた。

 

「おい比企ヶ谷。ちょっと付き合え」

 

「.......何だよ」

 

「良いから来い。聞きたい事がある」

 

ゴネる比企ヶ谷を無理矢理引っ張って、自販機のある休憩コーナー辺りに座らせた。取り敢えずアクエリアスを二人分買って、片方を比企ヶ谷に投げ渡す。

 

「で、何のようだ?」

 

「比企ヶ谷、正直に答えてくれ。お前、今回の戸部の一件、三つの依頼を受けていたんじゃないか?」

 

その一言に、比企ヶ谷は柄にもなく驚愕していた。驚きの余り、声も出ないらしい。ただ驚いた目でじっと、こちらを見ている、

 

「今回の戸部の一件、これはあくまで俺の勝手な憶測だが、お前は断ろうとしたんじゃないか?確か由比ヶ浜からは、戸部の告白を絶対に成功させる依頼と言っている。告白に限った話じゃないが、この世に『絶対』ってのは存在しない。事答えのない人間関係に於いては特に。

大方由比ヶ浜が「グループにカップルが出来るのは素敵」とか何とか言って、雪ノ下辺りが折れた。で、お前に拒否権ないから参加せざるを得ず、仕方なしで依頼を受けた。そして多分同タイミングで、海老名からも依頼があった筈だ。多分、お前が辛うじて気付くか気付かないかのギリギリを攻めた言い回しで。この事は由比ヶ浜も雪ノ下も知らず、というかお前自身も半信半疑にも届かない、精々疑念程度だった筈だ。

半信半疑に変わったのは、多分映画村での会話の中でだろう。美味しいの期待してるっていうヤツ。そして葉山が竹林で言っていた辺りを見ると、こっちは多分、グループに影響が残らないように告白を阻止しろ的な事を言われたんじゃないか?」

 

「お前、何で知ってるんだよ.......」

 

今言った長嶺の仮説は、全て寸分違わず当たっていた。まるで全て近くで見ていたかのような、ドンピシャな答えだったのだ。勿論この話が出た時、長嶺は日本どころか海外のイギリスに居た。見ていたわけがない。勿論、隠しカメラで盗撮とか盗聴していた訳でもない。全て長嶺の観察眼と推理力で導き出した答えである。

 

「簡単だ。偶々、葉山の野郎の動きが怪しかったからな。なんか戸部の邪魔をバレないように、妨害工作程度でチョコチョコやっているように写って、それ以来ある程度マークしていた。ついでに多分、巻き込まれる可能性の高いお前もマークしていた結果だ。

まあそれでも、流石に考えすぎだと思ってた。この結論が当たっていると感じたのは、お前が例の告白をした時。アレが俺の出した一つの結論を、正解にした答え合わせだったんだよ」

 

「お前、普通の高校生じゃないよな?何者なんだ.......」

 

この一言に長嶺は敬意を込めた、不適な笑みを持って答えた。この男の類稀なる、観察眼と優しさに敬意を表するために。

 

「俺が誰であろうと、それはどうでも良い事だ。だが心配するな。俺はお前達に災厄を振り撒く悪魔でもないし、時が来ればお前にはしっかり教えてやる。だがまあ、そうだな。お前の言う通り、少なくとも世間一般の高校生としては絶対に言えない色んなことを背負っている」

 

比企ヶ谷は救われた様な気がした。これまで孤高のぼっちだと思っていたが、近くに理解者がいてくれて良かったと。そして理解者がいるのはこんなにも楽なのかとも思ったという。

 

 

 

 

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