翌朝 総武高校 2ーF教室
「比企ヶ谷、今日までだ。今日だけ、あの暴力に耐えろ」
「わかった。今日だけ、なんだよな?」
「あぁ。証拠動画を抑え次第、すぐに動く。例の写真もどうにかする」
あの後、鎮守府に泊まってもらい今日は長嶺、オイゲン、比企ヶ谷の三人で登校した。昨日の間に、粗方の作戦は練ってある。まず切り崩すのが楽な相模達を攻めることにした。コイツらは暴力を振るってるだけで、別に隠したりはしていない。なんか階段下で相模の取り巻きが動いてるらしいが、そんなの無視してどうとでも出来る。
「ヒッキーくん、気を強く持つのよ。大丈夫。アンタには私達が付いてるから、ね?」
オイゲンも流石に今回はガチで心配しているらしく、比企ヶ谷を励ましている。その姿を尻目に、長嶺は早速仕掛けに動いた。特別棟の屋上に小型カメラを設置し、証拠とする。さらに学校付近に霞桜の兵士を待機させてあるので、潜入工作用ガジェットのサイレントを使って空撮もしてもらう。
サイレントは静音性にも優れている上、ステルス迷彩を標準搭載しているので高校生のガキ程度に見つけられる筈がない。これを使って多角的に証拠を集めるのだ。そして運命の昼休み。運悪く相模は職員室に呼び出されてしまったが、残りの連中は屋上で比企ヶ谷に暴行していた。それも昨日よりも激しく。
「オメェキモいんだよ!!」
「社会のゴミが!!」
「死ねよマジで。それも社会貢献ってヤツだ」
昨日までの自分なら、もう既に心が折れていただろう。だが今日の比企ヶ谷には、心強い味方がいる。その事実と今日だけ乗り切ればいいという思いを支えに、どうにか耐えた。
一方その頃、長嶺は報復の為に動き出していた。いつもの様に教室でパソコンを開き、スマホに繋げて作戦を始める。
「いつもグリム任せだ。偶には自分でやらんと腕が落ちちまう」
スマホを中継して、各クラスに配備されてるルーターに解析プログラムを流し込む。セキュリティープロトコルを書き換えて、裏口を作り出す。このクラスのネット通信の記録データを全て抜き取り、そこから解析プログラムでどのデータが誰の物かを洗い出す。
十秒程度で解析は完了し、目標となる相模、相模の取り巻き、実行犯の武道系部活の人間の携帯をピックアップ。対象者のスマホにルーター経由で遠隔操作ウイルスを流し込む。
「よし。これで完了」
これでスマホの操作権限を携帯がつながる場所なら、いつでもどこでも奪える様になった。手始めに相模のスマホに入ってる、脅し用の写真を完全に削除。復元やサルベージも出来ないように、記録データごと消した。
そのまま他の奴らのスマホにも侵入して写真、検索履歴、SNSのアカウントデータや投稿した記録を全て調べだす。まず相模の取り巻き二人は、どうやら中学時代に一度、痴漢冤罪を吹っかけた事があるらしい。実行犯三人は特段なかったが、いずれにせよ暴力事件起こした時点で終わりである。
「桑田.......頑張ったぞ.......」
昼休みが終わり、次の授業がそろそろ始まるというタイミングで、比企ヶ谷が帰ってきた。
「よくやった。もう大丈夫だ」
「傷は大丈夫?」
「なんとかな.......」
結構苛烈に暴力を振るわれたのだろう。昨日よりも憔悴しきっている。顔色も悪い。取り敢えず、保健室に担ぎ込んだ。長嶺による簡単に問診もしたが、少なくとも命の危険に直結する物や重症レベルの物は無い。恐らくあったとしても、骨にヒビ位だろう。
「どうしたの!?」
「先生。コイツのために、何も聞かんでやってください。取り敢えず、階段から転げ落ちた事にでも」
「階段から転げ落ちたって、それならこんな傷作らないでしょ!?!?」
「えぇ、そうです。階段から転げ落ちたなら、普通こんな傷じゃない。だがそうして貰わないと困る。表面上、そうして貰えれば結構ですんで、どうか」
そう言って長嶺は深々と頭を下げた。この行動に、保健室の先生もある程度察してくれたのだろう。だが傷は放置出来ないので、早退して病院に行ってもらう事になった。
長嶺とオイゲンも学校が終わり次第、直ちに合流し診断結果が分かった。結果は全治二週間のケガであり、殆どが打撲。但し右腕にヒビが入っているらしい。
「そういやお前、家族は?」
「.......来るわけない」
「こんな時でも来ないのか。でも小町ちゃんがこうなったと仮定すると?」
「来る」
二人とも心底腐ってると思いつつ、良く今まで比企ヶ谷が持ったなという何とも言えない気持ちになった。だが病院側としてはそれでは困るらしく、今から来てもらう事にどうにかしたらしい。
それから三十分位して、両親揃ってやってきた。だが開口一番が…
「お前、なんて迷惑を掛けてくれたんだ!!!!」
これである。怪我の心配なんざこれっぽっちも無く、ただ怒鳴り散らかす。それどころか「大した怪我じゃないのに、何重傷者らしく包帯なんて巻いてるんだ!」と言いながら、よりにもよって右腕を力一杯掴んだ。
「オイゴラおっさん。その手を離せ」
だが次の瞬間には、長嶺が骨をへし折らない程度の加減をして、父親の腕を掴んだ。へし折らずとも、普通に骨に響く位痛いので、醜く藻搔いている。ここまでくると、もう比企ヶ谷の腕を離してたので、手を放してあげた。
「お、お前誰だ!!」
「桑田真也。コイツの友達だ」
「え?アンタに友達なんていたの!?」
馬鹿にするかの様に母親が聞いている。いつもなら無視するが、今日は違った。
「そうだ!桑田は俺の友達だ!!」
「あっそう。どうでも良いけど、帰るわよ」
「ちょっとちょっと、まだ此方の話が終わっていませんので帰らないでください」
医者が引き止めて、色々検査の結果や暴行を受けた可能性がある事も説明してくれた。だが二人の意見は「そんな事はない」という物。だが実際の本当の理由は、犯罪関連になると面倒臭いからという物で、中々に腐った物であった。
「親父、お袋。俺もう、家から出て行く」
「は?」
「つまり、俺達と縁を切るって事だな?」
医者が二人に説明している最中、比企ヶ谷は長嶺の提案で決断をした。もう家から出て、家族と縁を切ると。小町は別としても、少なくとも両親とはずっと縁を切りたいと常々思っていたらしい。
「そうだ。今から荷物を取りに行くから、それを持って家族の縁は切らせて貰う」
「ふん。食い扶持は自分で見つけろ」
「これで全てのリソースを小町に割けるわね」
そんな事を言いながら、二人は先に帰って行った。
その背を見て、長嶺とオイゲンはただただ呆れ果てていた。普通に考えて、子にいきなり縁を切るとか言われて、それをすんなり了承するだろうか?大人ならまだ分からなくもないが、まだ高校生の子供にそれを言われて認めるって、中々である。
「すまん、桑田」
「良いってことよ。さーて、じゃあ車も手配したし、早いとこお前ん家行って、要る物持ち出そうぜ?」
三人も表に出た。表には既に長嶺の部下が黒いベンツVクラスとハイエース2台を引き連れて来ていた。
「なんでこんなに車が?」
「だって引っ越すんだろ?なら人手も、荷物の運送もいるだろ!」
「そういう事だぜ兄弟!」
そう言うのはバルク指揮下の第三大隊の中隊長、コードネーム「アパッチ」。そう言ってサムズアップすると、他の隊員達もサムズアップと満面の笑みで比企ヶ谷を迎えた。
「さーて、野郎共。今回の任務はコイツの荷物を一切合切強奪する事だ!気合い入れて励めよ?」
「「「「「「ウィーーー!!!!!」」」」」」
車列は比企ヶ谷の家を目指して進み出す。側から見れば極道組織の車列だろうが、同じ世界の住民ではあるので間違いでもないだろう。
一向が比企ヶ谷の家の前に到着すると、長嶺がインターホンを鳴らして小町に家の鍵を開けてもらった。
「どうしたん、ってうわうわ!!」
「はいゴーゴーゴー」
戸惑う小町を無視して、屈強な隊員達を中に突撃させる。隊員達は一目散に比企ヶ谷の部屋へと向かい、ある物全て片っ端から詰め込む。ラノベ、漫画、ゲーム機、ソフト、勉強道具、机とベッドや布団は置いて行くが、目覚まし時計、服、その他の私物全てをケースに仕舞い込む。
「これ、どういうことですか!?!?」
「ここに比企ヶ谷は置いておけない。小町ちゃん、テメェは昨日アイツになんて言った?アイツはな、まあ他にも色々要因はあったが、テメェの言動のお陰で危うく死ぬ所だったんだぞ!!!!」
「え.......」
理解が追い付いてないらしいが、そんな事はどうでも良い。淡々と事実だけを伝えて行く。
「テメェが由比ヶ浜とか雪ノ下の言葉を信じるのか、俺やテメェの兄貴である比企ヶ谷を信じるのかは知らんが、アイツは修学旅行の一件で深く傷付き、それを見た二人は表面だけで全て判断し捨てた。そしてテメェもそれに便乗し、比企ヶ谷を壊し掛けた。もしあの時、俺が居なかったら今頃、今日明日のニュースになってただろうよ」
「あ、兄は無事なんですか!?」
「無事だから私物を押し込み強盗よろしく回収してんだよ。少なくとも、今のテメェには会わせない。もしアイツのことを思うなら、何も聞かず、何もせず、今はただ見てる事だな」
「全部詰め込んだぜ?」
「よーし、野郎共!撤収するぞ」
ものの十分で全てを詰め込み、引っ越しがほぼ完了した。そのまま車に乗り込み、ヘリポートまで移動する。
「で、ここからどうやって鎮守府に行くんだ?」
「流石に陸路をチンタラ進むのもアレだし。というか今日は休みたい」
「まさか、アレを使うつもり?」
「この車列をアレ以外で持って帰れるかよ」
この車列を陸路以外で運ぶアレとなると、選択肢は一つしかない。
「そんな訳で、じゃじゃーん。戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』です」
黒鮫である。この機体のカーゴスペースには、ミニバン3台位余裕で収容できるキャパシティがある。しかもマッハ6で巡航するので、数分で鎮守府に到着する。
「もしかしてここについてるのって.......」
「それは30mmバルカン砲で、そっちは20mm。深海棲艦をミンチ肉に加工できる他、秒で戦車を屑鉄に加工して、軍艦一隻を沈める威力のミサイルをぶち込まれたってビクともしない」
「.......」
余りにぶっ飛んだ性能に、口をあんぐり開けて固まった。軍人でなくとも、深海棲艦に現用兵器が通用しないのは知っている。もう無茶苦茶である。
だがまあ実際は少し違って、一応現用兵器でも深海棲艦は倒せる。ただ火力を集中して当て続ける必要があり、戦艦や重巡クラスになってくると途端に難しくなる。姫や鬼となると、ほぼ不可能と言っていい。なので黒鮫に搭載している兵装も雑魚の掃討と、緊急時の気休め程度の火力支援が目的である。唯一130mmライフル砲と一部のミサイルは対深海徹甲弾を使用しているので、姫や鬼にも太刀打ちできる。他の武装も対深海徹甲弾を使用すれば問題ないのだが、流石に毎秒数千発もの対深海徹甲弾は用意できないのだ。
数分後 江ノ島鎮守府 飛行場
「もうついたのか!?」
「コイツ、最高時速マッハ6だからな。修学旅行の前、俺がイギリスに行ったって言っただろ?アレも暗殺任務でな。その帰りにコイツを利用して、イギリスのロンドンから関空の上空まで二時間半とちょっとで移動したぞ」
「なんか、生きてる世界が凄い」
もう驚き疲れて、反応するのすら馬鹿らしく思えて来たのだろう。驚くを通り越して、半分呆れてる。
「さぁ、着いたぞ」
後部のハッチが開き目に飛び込んで来たのは、この黒鮫とかいう機体と同じ機体達。目算でも数十機以上はいる。他にも映画なんかで出てくる様な高級外車や、武装のついた大型トレーラーなんかもある。
「ここにあるのって、全部霞桜の兵器なのか?」
「そうだ。そこのヘリコプターは黒山猫、そっちのトレーラーは機動本部車、そっちの外車とかは自律稼働型武装車だな。どれもこれも、任務で手足となり、時に共に戦う、頼れる最強の相棒達だ」
特撮の地球防衛軍秘密基地の様な見た目に、内心メチャクチャ興奮している。こんな光景、世の男なら誰もが興奮するだろう。
「指揮官、そろそろ食堂に行きましょう?」
「あー、もうこんな時間か。比企ヶ谷、ついてこい」
「食堂もあるのか」
「そりゃ軍の基地だからな」
エレベーターで上に上がり、居住エリアに移動する。居住エリアには前の回でも書いているが、食堂や寮舎の他、風呂やコンビニ、フィットネスクラブ、美容院なんかもある。
「ここが食堂だ」
「な、なぁ。もしかしてここにいる人達って、全員艦娘とかKAN-SENなのか?」
「女性陣は9割方そうだ。一部霞桜の隊員も含まれてるがな」
「あら提督。本日は何になさいますか?」
奥から白の割烹着を着たスタイルのいい、ロングヘアのお姉さんが出てきた。イメージとしては大正か昭和の喫茶店のウェイトレスさん、と言った感じだろう。
「そうだな、何も決めてないわ。なんかオススメはあるか?」
「そうですねぇ。今日は良い肉が入ってますから、焼肉定食とかがオススメですよ」
「じゃあそれにするとしよう。あ、米も肉も大盛りにしてくれよ」
「お味噌汁は赤味噌ですね?」
「わかってるじゃん!」
後ろの霞桜の隊員達も思い思いのご飯を頼んでいる。長嶺と同じ焼肉定食、カツ丼、海鮮丼、生姜焼き定食、唐揚げ定食。見た目の割にオムハヤシという中々にオシャレなものを頼む奴もいた。
「オイゲンさんはどうしますか?」
「そうねぇ。私はカルボナーラパスタに、サラミのミニピッツァのセットにしようかしら」
「あら?そちらの方は」
「そうだったな、あー、みんな!飯時に済まんが、ちょっとこっちに注目!!」
長嶺が手をパンパンと叩くと、全員が食事や談笑をやめてこちらを向いた。
「今日から暫くの間、客人を迎える!!!!比企ヶ谷八幡だ!!コイツは俺の学校での友人であり、俺がスカウトしたいと思ってる優秀な人材である!!!!まあまだ答えを決めてないからどうなるかは分からんが、もしかすると肩を並べて同じ戦場をかける同志となりうる奴だ!!!!仲良くやってくれ!!!!!!以上だ。すまんな、戻って良いぞ」
そう言い終えるとまた、少し騒がしい食堂に戻った。このメリハリは、軍隊そのもの。改めてここが、軍事施設であることを思い出した。
「それじゃあ比企ヶ谷さん、何になさいますか?」
「あ、えっ、えっと」
「金なら心配すんな。全部経費で落ちるから、職員は全員無料だ。お前もここにいる期間は職員扱いだから、無料で好きなだけ食えるぞ」
「な、なら春巻き定食で」
「はい!春巻き定食ですね」
程なくして、春巻き定食が出てきた。てっきり経費落ちだから、経費削減で安っぽいのかと思っていたが、普通どころか本格店ばりの仕上がりである。
「なんか、メチャクチャうまそうだ」
「実際メチャクチャうまい。軍隊ってのは古来より、どうしても自由がない。ストレスも溜まる。長期戦になれば飯も良い物が食えず、敵がいつ来るか分かんないから睡眠も取れず、集団生活だからソッチ関連も溜まる。つまり三大欲求が簡単に制限されてしまう訳だ。
そこで一番手っ取り早く満たせる食を、とにかく充実させたんだ。実際、各国の軍隊はどんな国でも飯には力を入れてる。栄養価はもちろん、味もな。特に海軍は「海軍カレー」でイメージできる様に、飯への力の入れ用は凄い。その中でも日本は別格だ」
「でも、ここの食事は他の鎮守府や自衛隊の基地と比べても、豪華かつ美味いわよ。他の基地じゃ精々パンかご飯かとか、水とお茶とコーヒーから選べるとか、その程度しか選択できないわ。ここみたいにメニューを好きに選べるなんて、普通は出来ない。
ここはそこの指揮官が、株やら不動産投資やらで稼ぎに稼ぎまくった結果、自分の資産をこういう所に回して最高の環境を作ってるのよ。他にも施設ならレジャー施設並みのプール、フィットネスジム、カラオケボックス、大浴場、図書館。他にも服屋、雑貨屋、美容院、薬局なんかの色んなテナントが入ったショッピングモールモドキ。基本ここで何でも揃うわ」
思ってたよりも充実した環境に、今度はここが軍事施設である事を忘れてしまいそうになる。少し食堂内を歩くと、席が空いていた。前には多分艦娘かKAN-SENと思われる美女達が座っていた。
「おう、お前ら。相席大丈夫か?」
「構いませんよ」
「私もだ」
「妾も」
座っていたのは艦娘の大和と武蔵、それからKAN-SENの信濃であった。大和型三姉妹、揃い踏みである。
「比企ヶ谷。この三人、誰だと思う?」
「分かるか」
「コイツらはな、あの大和型戦艦の艦娘とKAN-SENだ」
表情が変わった。流石に軍事に疎いとは言えど、戦艦大和は知ってるらしい。やはり戦艦の代名詞的存在であるし、お盆の終戦間際の特集で数年に一回位で取り上げられている。というか何なら、宇宙戦艦ヤマトみたいに何かしらの作品に出てくる事だってあるのだから、最もポピュラーな戦艦と言える。
「大和って、あの大和なのか?でも、大和型は二隻しか居ないだろ?」
「汝が知らぬのも無理はない.......。妾はすぐに沈んだ故」
「元々、大和型戦艦は四隻建造される予定だったのだ。だが費用が当時の国家予算数%にも及ぶ上に、戦局の悪化も重なって三番艦の信濃は空母として建造された。だが、建造後に潜水艦によって沈んでしまったのだ。戦歴もなく、そもそも余り知られてないからな」
武蔵が信濃の説明を捕捉したおかげで、比企ヶ谷も理解できたらしい。なんだかんだ話し込んでいると、食事も終わったので比企ヶ谷を当面の自室となる部屋へと案内する。
「部屋は地下なのか」
「まあ曲がりなりにも、俺達は公には存在してないからな。地表に堂々と居を構える訳にもな。だが、居住性は快適だ。心配しなくていい」
エレベーターから降りると、赤い絨毯に黒を基調とした近未来的な壁とも相まって、まるで高級ホテルかの様な錯覚に陥る。そのまま部屋の一室に通されて中に入ったのだが、豪勢の一言であった。
部屋のイメージとしては『モダンな和』といった感じで玄関を潜るといきなり大きなテーブルとソファがある。隅の方にはミニキッチンがあり、部屋の奥には恐らく買えば100万近くはするであろうデスクトップ型の最新パソコンが備え付けられたデスクがあり、テーブルの後ろには一段上がって大きなベッドがある。そのベッドの右横には広々とした風呂とシャワーもあり、ホテル以外の何物でもなかった。
「俺達は任務の性質上、いつ死んだって可笑しくはない。今日は偶々、運良く生き残ったにすぎない。故に隊員達には最高の衣食住を提供している。念の為言っておくが、これは一般の下っ端隊員と同じ部屋だからな?」
「なら幹部になるとどうなる?」
「幹部ともなると、もうマンションの一室みたいな部屋になるな」
これだけの部屋を使っていいのかと、逆に不安になってくる。少なくとも自分の住んでいた家よりも、遥かに立派である。だがここで、とても現実的な問題が頭をよぎってしまった。食事は食堂があるし、ミニキッチンもあるから良しとして、掃除や洗濯をどうするのかという疑問が浮かぶ。掃除はまあ良いとして、問題は洗濯。洗濯機の類が無いのだ。
「因みに洗濯と掃除については、ドローンが勝手にやってくれる。そこの壁に備え付けられてる端末がこの部屋の全てを管理してるんだが、メニューからドローンを呼び出す事ができる。試しにやってみよう」
端末のメニューから掃除ドローンを選択して、掃除ドローンを呼び出す。すると天井が開いて、中から大型のドローンが降りてきた。枕三枚分位はあるだろう。
「デカいな」
「中に小型ドローンを入れてるからな。見てろ」
大型ドローンの腹の部分が開き、三台の小さいルンバみたいなのが出てきた。ミニルンバ達は部屋を掃除し始め、その間に大型ドローンはベッドメイクを行い、それが終わると風呂掃除用のミニルンバを二台投下し、鏡まで磨いてくれた。
「スゲーだろ?これも霞桜の技術班が作り出したんだ。洗濯については外にカート型のドローンがあるから、それにぶち込めば後は洗濯機まで運んで、洗って乾燥機を掛けて、アイロンも掛けた上で帰ってくる。スーツとか制服とかのクリーニングも、選択すればやっといてくれるぞ」
「何でここまで至れり尽せりなんだ?」
「さっきも言った様に、俺達はいつ死ぬかわからない。隊員達には少しでも自分の時間を過ごして欲しいし、何より訓練とか出撃の後にしたかないだろ?」
軍隊ではそう言った面も一つの訓練や規律として綺麗にやる様に指示が出るが、ここにいる隊員達は規律だとかの次元は既に通り越している。それ故に、ここまでの自動化を進めたのだ。
「まあ取り敢えずで、お前の部屋はここだ。好きに使え」
「わかった。色々、ありがとな」
「良いってことよ」
その後は特に何もなく、無事に翌朝を迎えた。だが翌朝、学校に行くと…
翌日 総武高校 2ーF教室
「驚いたわ。噂の矛先がこうも変わるなんて.......」
教室に入ると昨日や一昨日、いやそれ以上にヒソヒソ話が増えていた。それどころか暴行した三人と痴漢冤罪の二人に関しては、机に色々描かれている。
「一体、何をどうしたの?」
「簡単だ。例の映像、まず隠しカメラの方はこの学校の生徒を装ったダミーアカウントでTwitterとインスタに投稿。ドローンはドローン愛好家のアカウントで流した。何方にもワザと顔に軽くモザイクを掛けて、敢えてすぐに特定させない様にしてな。
後は色んなアカウントでリツイートしまくって、掲示板に今回の犯人を見つけるスレッドを立てて特定させる。更に過去に立てたスレッドとして、痴漢冤罪やってた取り巻き二人の情報も断片的だが決定的な物を忍ばせて、それを見つけてもらう。こうしてやれば、一夜にしてこうなる訳だ。ついでに匿名でメディアや、そういうネタが好きなインフルエンサーにも今回の件を流した。こうすれば奴等はもう終わりだ」
「え、エゲツないわね.......」
徹底的な報復に、流石のオイゲンもちょっと引き気味である。もうこうなっては、もう一生ネットのオモチャとなるだろう。そして今後の人生、マトモには生きていけない。
だが、これだけでは終わらない。長嶺は更なる爆薬を仕掛けてあるのだ。それが発動したのは、その日の昼休みでのこと。
「にしてもさぁ、なんで相模さんのグループなのに、相模さんは知らなかった訳?」
「私だって、二人がそんな事するなんて思ってなかったんだよ!こんな事にする子達って知ってたなら、最初から友達になんて.......」
相模グループの一個下のカーストに属する女子グループのリーダーが聞くが、完璧な悲劇のヒロインを演じて乗り切ろうとしている。そうは問屋が卸さない。ここで長嶺が動いた。
「悲劇のヒロインぶってる所悪いが、お前さんの言も信用はできないぞ?」
クラス中のみんなが「どういう事だ」と聞いてきた。だが相模はわかってないし、葉山は軽く気が付き始めてるのか、表情が少し険しくなってる。
「さーて、まず本題に入る前に質問だ。相模はこの学校に来て、ある大役を務めました。その大役とは何でしょう?」
するとさっき相模に質問してきた女子が「もしかして、文化祭の実行委員長?」と答えた。
「正解だ。だがここで、少し考えて欲しい。アイツは実行委員を取りまとめる実行委員長。にも関わらず、殆どここに居なかったか?
平っていうのもアレな気がするが、少なくとも実行委員長ともなってくると基本は実行委員会にいるべきだろ?仮に副と交代にするにしても、殆どここに居るとなるとそれも考えられない。
ここまで勿体ぶったが、簡潔に言おう。そこの相模は、実行委員長の職をサボってたんだよ!」
ここで真実をぶちまけた。いきなりの『奇襲』とすら言えるタイミングでのカミングアウトにクラスメイト達は驚き、葉山と相模は別の意味で驚いた。そして相模は一気に顔色を悪くする。
「アイツはな、実行委員長を決める席でこう言った。成長したいと。だがその成長とやら、副委員長の雪ノ下に全てを委任というなの丸投げで、自分はさも青春を謳歌しているかの様に振る舞った。
その結果何が起きたかというと、実行委員長の仕事を回す副委員長の雪ノ下が実行委員会の人心を掌握、つまり相模は立場を失った。
でもって本番になると、コイツは土壇場で地域賞とかの集計結果を持って蒸発。
「良い加減にしないか!!!!君は、相模さんの名誉を傷つけるのが楽しいのか!?!?泣いてるだろ!!!!!!!!」
もう前半の「青春を謳歌〜」の辺りから泣き始めた相模は、もう既に大号泣である。だが事が事だけに庇っているのは葉山だけであった。だがこうなるのも、既に予想済み。その為の爆薬なのだ。
「それは俺じゃなくて、アイツの友達に言ってやれよ」
そう言いながら長嶺はスマホを取り出して、Twitterのある投稿を見せた。
「確か、はるかとゆっこ、とか言ったか?その二人の裏垢で、ぜーんぶ暴露されてるんだよ。今、グループラインに送ったから気になる奴は見てみろよ」
クラスメイト達は一斉にスマホを見始める。そこには確かに、文化祭実行委員での事が細やかに書かれていた。それどころか、今回の暴力事件の主犯が相模である事も。
「とまあ、こんな感じだ。流石に主犯の方は証拠は無いから何とも言えんが、少なくとも実行委員での事は俺とか雪ノ下とか、他にも真面目に参加してた奴に聞けば同じ様な話が聞けるはずだ」
「二人に.......裏切られたの.......わたし.......?」
相模は膝から崩れ落ち、狂った様に笑い出した。相模は自己顕示欲の塊であり、常にお山の大将でないと生きていけないタイプの奴である。大将である為には、部下や仲間がいる。その仲間である友達に裏切られた以上、暫くはショックで立ち直れないだろう。
そして勿論、この投稿も長嶺の作戦の一部、というか謀略である。昨日の比企ヶ谷が暴力を振るわれていた時に仕込んだ遠隔操作ウイルスを覚えてるだろうか?それを使い、裏垢として使ってるサブアカウントにアクセスして投稿をでっち上げておいたのである。
「それからもう一つ、訂正しておく事がある。お前らの言うヒキタニくんは、比企ヶ谷だ。比企ヶ谷八幡。お前達がどんな風にアイツを見てるかは知らないが、少なくともアイツはお前らの思う様な事しない筈だぞ。もう少し、自分達でも考えてから噂を広める事だな」
そう締め括った時、相模は生徒指導室に呼び出された。このタイミングの生徒指導室への召喚となると、考えられるのはこの一件だろう。相模はトボトボ生徒指導室へと歩いていった。
程なくしてチャイムもなり、次の授業準備に入るべくみんな散らばる。その中で唯一、葉山は長嶺を睨み付けていた。それに気付いた長嶺は逆に、一瞬だが狂気に満ちた笑みを浮かべてやった。