最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第五十五話下克上

翌週 総武高校 2ーF教室

「見事に没落したな」

 

「人って、たった数日であそこまで落ちぶれる物なのね」

 

「人間って怖いなー」

 

修学旅行から帰ってたった数日でクラス、いや、総武高校の二年生全体でパワーバランスは大幅に書きかわった。何せ学校のイケメン王子として持て囃された葉山は、その地位を失い、今は一部の葉山信者の女子しか葉山を見ようとしてない。

由比ヶ浜と雪ノ下は今回の一件が、どういう訳か(・・・・・・)学校中に拡散されてしまい、何も見事に地位を失った。

 

「ねぇ、真也。結衣ちゃん、いえ。由比ヶ浜さんと雪ノ下さんの件って、もしかして真也が?」

 

「他に誰がいるよ。葉山の方はどうやら、海老名と三浦がやったらしいな。だが雪ノ下と由比ヶ浜は、アイツらが手を打つ前にこっちで打ってある」

 

「.......本当に真也が味方でよかったわ」

 

特にオイゲンは長嶺と出会ったのは戦場で、それも敵として出会った。もしあのまま敵として会い続けていたと考えると、寒気が止まらなかった。

 

「あー、桑田。少しいいか?」

 

「どうした比企ヶ谷?」

 

登校時は一緒に来たが、お手洗いに寄っていた比企ヶ谷が声を掛けてきた。ここじゃ喋りにくいらしく、屋上へと誘われたので屋上へ上がる。

 

「なぁ桑田。俺は下克上をするんだよな?」

 

「そうだ」

 

「その割には全部お前とエミリアが動いて、俺は何もしてないような気がするんだが」

 

確かに現状、比企ヶ谷は葉山に対しても相模に対しても奉仕部に対してもリンチの実行犯連中にすら、報復や何かしらの行動を起こしていない。全て長嶺がやってしまっている。

 

「これも作戦の内だ。現状、お前の精神は自分じゃ気付いてないだろうが不安定なんだ。それにこれまでの情勢をひっくり返すには、どうしても俺が徹底的にやった方が効果的な攻撃になる。だから悪いが俺が潰しておいた。

だがここからは、お前が表立って全てを変えてく必要がある。本当は休みの間にしておきたかったんだが、今日の放課後、時間を空けててくれ」

 

「何をする気だ?」

 

「まあそうだな。何事も、まずは形からって所か」

 

そう言ってニヤリと笑う長嶺に、比企ヶ谷は軽く恐怖を覚えたが「悪いことは無いだろう」と無理矢理自分に言い聞かせて納得させた。そう、何も起こらない。多分。

 

 

 

放課後 下足ロッカー

「さて、じゃあ帰るか」

 

「え?帰るって、家にか?」

 

「あぁ、そうだ。鎮守府()に帰る」

 

さっきは時間をあけておけと言いながら、帰ると言い出してきた。何がしたいのか、全く検討がつかない。靴を履き替えて出て行こうとする長嶺を追うが、比企ヶ谷の肩に激痛が走った。見れば誰かの手が、ガッチリ掴んでいる。このタイミングで肩を掴んでくる者は、この学校に於いて1人しかいない。

 

「比企ヶ谷、何処に行こうと言うのだね?」

 

「平塚.......先生.......」

 

「取り敢えず、後からファーストブリッドは食らわせる。さっさと来い!!」

 

そう言って引き摺られそうになるが、引き摺られる事は無かった。長嶺が平塚を止めたのだ。

 

「お前もサボっているな。行くぞ」

 

「いいえ。俺とエミリアはあの部活を辞めました。そもそも入部届なんざ書いてないんで、元より入部してないんですけど。比企ヶ谷だって書いてないし、そもそもアンタの勝手で入れられてるんだ。拒否する権利はある筈だぜ?」

 

「うるさい!!顧問であると入っていると認めれば、それは入部していると言うことだ!!!!!!!」

 

こんな無茶苦茶理論が通っては堪らない。その理論が罷り通るのなら、この世に手続なんて物が存在しないし、そもそも社会というのが成り立たなくなる。そしてそれを指摘しようと、この暴力装置アホ教師が止まるわけが無いので実力行使で黙らせる。

 

「あーはいはい。御託はいいので」

 

長嶺は平塚の空いてる手、正確には人差し指を自分の指と絡めた。そしてそのまま捻る。この技は長嶺の作った『絡め指』という技で、特定のツボに入れる事によって全身の神経、筋組織を活性化させ、全身の関節をキメてしまう技である。普通に一撃で失神するし、心臓の悪い者や老人なら痛みでショック死するくらいには強い技だ。

 

「アガガガガガガガ.......」

 

「はい終わり。さっ、行こうぜ比企ヶ谷」

 

(コイツ容赦ねぇ.......)

 

爽やかな笑顔で微笑みかける高身長イケメン男。女どころか、男でも、素直にカッコいいと思うだろう。隣に白目を剥いて泡を噴きながら倒れてる人間が居なければ、の話ではあるが。

何はともあれ、邪魔者は排除したので校門で待ってるエミリアと合流して鎮守府への帰途につく。鎮守府に帰り、すぐに私服へと着替えて指定された場所へと行くと、そこは鎮守府内にあるショッピングモールで高級ブランド専門の店だった。

 

「おぉ、来たな比企ヶ谷。今日はお前を改造する」

 

「か、改造?」

 

「あぁ。何せ今後、お前は生徒会長を目指してもらう。学校の顔として動くなら、ある程度身なりを良くしてもらわないといけない。有体に言えば、葉山2号のポジションになってもらう」

 

勿論葉山のように誰かを犠牲にして偽物の関係を守れとか、人を使い潰せという訳ではない。葉山が演じてきた、王子様の椅子に座れということだ。

 

「取り敢えず私服から、改める事にした。そしてその為のコーディネーターも呼んである。コーディネーター出てこいや」

 

そう言うと後ろから青いメッシュの入ったピンク髪ツインテールの高身長美女と、赤いツノの生えた金髪の今時のギャルJKっぽい見た目の美女、黒髪ロングの優等生タイプな清楚系美女JK、薄緑色のセミロングに茶色いブレザーの元気のあるギャルっぽい見た目の美女、そして金髪ロングのハリウッドスターの様な派手な格好の美女がいた。

 

「もしかして艦娘とKAN-SENなのか?」

 

「そうだ。1人だけ、普通の人間だがな。右のピンク髪の奴がブレマートン、金髪に赤いツノの生えた奴は熊野、黒髪の方はKAN-SENの鈴谷、でもって薄緑色の奴は艦娘の鈴谷。そして派手な奴が、俺の部下で第四大隊の大隊長であるカルファンだ」

 

見た事もない位の美女で、それもAV女優以上のスタイルの持ち主達に流石に照れている比企ヶ谷。だが今度は、もっとぶっ飛んだ奴らが来た。

 

「俺達を忘れてもらっちゃ!!」

 

「困るぜ親父!!」

 

「俺達もコーディネート、得意。呼ばれないの不服」

 

この特徴的な声と見た目は、間違えようがない。ハルクの様に横にも縦にもデカい筋肉男、黒髪オールバックの威圧感ある男、少しボサボサの髪にガリガリの科学者っぽい見た目の男。この鎮守府に於いて、こんな3人はアイツらしかいない。

 

「あー、来ちゃったのねお前達」

 

「何方様?」

 

「俺の部下。デカいのが第三大隊の大隊長であるバルク、そっちのオールバックが第五大隊の大隊長のベアキブル。そんでもって最後の奴が第二大隊の大隊長、レリックだ」

 

ズカズカと歩くと言うより、進撃と言った方が良いくらい迫力のある歩き方で長嶺の元にやってきた。曰く「俺達にもコーデさせろ!」らしい。だがコイツら、3人とも揃いも揃って服選びのセンス皆無である。

そして何故か、ただ比企ヶ谷の服をコーディネートするだけの筈が何故かコーディネート勝負に発展し、比企ヶ谷は着せ替え人形の如くアレコレ着替えさせられる事になった。

 

「そんじゃまずは、ブレマートンのコーディネートから」

 

「じゃじゃーん!!どうよ、このコーデ!」

 

そう言って試着室から出てきた比企ヶ谷は、完全に別人となっていた。実は服をピックアップしている間、比企ヶ谷には美容師の資格を持つ隊員に髪を切ってもらい、同時進行でカラコンも作って『死んだ魚の目をしたインキャ男子』から『芸能人ばりのイケメン』にジョブチェンジを果たしていた。

ブレマートンのコーディネートは上から黒のインナーに黄色のジャケット、薄緑色のストリート系ロングパンツに黒のスポーツシューズという中々にイカつい格好であった。

 

「おぉ、結構似合ってんな」

 

「これ、意外と好きだ」

 

「でしょでしょ!?これ、動き易いしかっこいいんだよね。ブランドもアルファっていう、アメリカ軍の軍服作ってる会社だから耐久性と機動性は折り紙付き!」

 

前の比企ヶ谷なら合わないだろうが、今の比企ヶ谷には全然似合う。次はバルク、なのだが。

 

「あの、これ本当に着るんですか?」

 

「当然!さぁ、着てみろって!!!!」

 

嫌々ながら着せられた服装は、なんとロッカーボーイみたいなファンキーな物であった。上からダメージベストに、銀の十字架を首から下げ、赤いズボンに髑髏のベルト。さらに背中にはご丁寧にギターまで装備している。

 

「お、おぅ.......」

 

「なんか、アレだね」

「あんまり、いや全然」

「似合ってない」

 

「あの、比企ヶ谷さん?大丈夫、ですか?」

 

「鈴谷さん、お願いです。今すぐ早急に殺してください.......」

 

カルファンは絶句し、ギャル3人は似合ってない判定を下し、比企ヶ谷はKAN-SENの鈴谷に死ぬ事を懇願する位には無茶苦茶であった。だが、地獄はまだ始まったばかりである。

続く熊野のコーディネートは白のパーカーに白のジャンパー、紺色のジーンズに白のスニーカーという、白を基調とした清潔感のある格好であった。だがベアキブルのターンで、また暴走する。

 

「どうよ!」

 

「「「「うわぁ.......」」」」

 

「す、救いようがない位ダサい.......」

 

女子4人はドン引きし、長嶺も唖然とし、カルファンはベアキブルを殴って比企ヶ谷に平謝りであった。ここまでの反応されるとは、一体どんな格好なのかというとサングラスに白スーツ、シャツは柄物という半グレ風チンピラという出立ちで、ご丁寧に指輪やチェーンまで付いている。

流石の比企ヶ谷も、恥ずかしさを通り越して最早肩がプルプル震える程度に笑い始め、すぐにお蔵入りコース確定した。

 

「今の所、マトモなのが女性陣以外にないんですけど」

 

「なぁ、先にレリックさんのを着てもいいか?」

 

「早いとこ苦しんどくか?」

 

「うん」

 

という訳で、レリックのコーデした服を着た。いや、これはもう服ではない。なんと出てきたのは比企ヶ谷.......ではなく、黄色い防護服に黄色いパナマ帽にガスマスクの謎の人間。最早顔どころか性別の判別すらつかなくなった。

 

「シュゴー.......シュゴー.......」

 

これには全員が絶句した。あのベアキブルとバルクすらも。未だかつて、コーディネートで防護服とガスマスクをチョイスしてくるアホは居たであろうか?

 

「.......ボス。ここって、核の爆心地か生物兵器研究所?」

 

「頭痛くなってきた.......」

 

割と真面目に頭が沸騰してどうにかなりそうだったので、そのまま長嶺は早々に離脱して部屋で休む事にした。しかし何をどうしたらロッカーボーイ、半グレ系チンピラ、防護服とガスマスクと黄色いパナマ帽というカオスなラインナップになるのだ。そんな事を考えていると、余計に頭痛は酷くなってしまい、すぐに寝た。

 

 

 

翌日 総武高校 廊下

「あ、あの!桑田先輩、であってますか?」

 

「.......あぁ。俺が桑田だ」

 

移動教室からの帰り道、桑田は1人の女子生徒に声を掛けられた。亜麻色の小柄なゆるふわ系女子で、多分文化祭の実行委員に居た様な気がする。だが記憶には曖昧にしか残ってないと言う事は、実行委員の中でも事務的な面でしか関わりがなく、それどころか事務的な面でも殆ど関わってないのだろう。

 

「あの私、桑田先輩と比企ヶ谷先輩とヒッパー先輩に相談したいことがあるんです。今日の放課後、お時間もらえませんか?」

 

「俺は構わないが、残り2人は保証できないぞ」

 

「それでも構いません。桑田先輩1人でも構いませんから、話だけでも聞いてください。お願いします!」

 

そう言って頭を下げた謎の女子生徒。ここまでする辺り、少なくとも彼女にとっては中々に重要な話なのだろう。放課後に近所のカフェで待ち合わせる事にして、連絡先も交換して、その場は終わった。

放課後、2人を連れて件のカフェへと直行すると、先に謎の女子生徒が待っていた。

 

「あ、桑田先ぱーい!」

 

「おう、2人も連れてきたぞ」

 

取り敢えず4人で席に座り、適当に注文して謎の女子生徒の相談について話してもらった。

 

「私は一年生の、一色いろはって言います。今回来てもらったのは、今度ある生徒会選挙で問題が発生してまして.......」

 

「その問題って、一体なんなのかしら?」

 

「私、立候補してないのに、立候補してるんです」

 

「「「はい?」」」

 

一色の話はこうだ。一色はサッカー部のマネージャーで、サッカー部には現在絶賛大没落中の元・総武高校の王子様こと葉山の所属している。一色はその立場を利用し、よく葉山と話していたらしい。それを妬んだクラスの女子が結託し、一色の知らぬところで生徒会長に立候補させられてたらしい。

因みに本人は「会長なんて面倒臭そうなので嫌だ」だそうで、やりたくはないらしい。

 

「一色、そういうのは教師に頼むべきだろ。担任とか」

 

「それが、担任も乗り気で.......」

 

比企ヶ谷の考えは既に実行した後だった様だ。担任が乗り気となると、流石にこれを切り崩すのは不可能と言える。何せ一色の担任が受け持つ教科は三年の数学で、こっちのクラスには一切関わりがない。故に数回職員室の近くで姿を見たことがある位で、挨拶程度しかしたことが無いのだ。

 

「他の教師は?」

 

「平塚先生に相談したんですけど、そしたら奉仕部?とか言う部活に連れて行かれて、なんか雪ノ下先輩が会長になる方向で固まりつつあるんです......」

 

その一言に比企ヶ谷は顔を引き攣らせ、長嶺とオイゲンは頭を抱えた。取り敢えず比企ヶ谷を念の為、一時オイゲンを付かせた上で中座してもらい、一色の相談には桑田1人で応じる事になる。

 

「あの、先輩どうしたんですか?」

 

「この間の修学旅行と、文化祭で色々あってな。ちょっと今は、奉仕部とか平塚先生はNGワードなんだ。すぐに戻るだろうが、一応話を進めてようか。

因みに聞くが、雪ノ下が会長になるのは嫌か?」

 

「はい。私が可愛くて葉山先輩と親しく話してるのが気に食わない女子の策略ですし、これ多分、落ちたら裏で色々言われるんでしょうから、選挙で負けるという形で会長になれないのはちょっと.......」

 

となると信任不信任、つまり一色1人で選挙して負けるという形もお望みではないだろうし、というか一番望まない結末だろう。だがこの一件は、利用しない手はない。

 

「なぁ一色。会長が嫌なら、他の役職ならどうだ?」

 

「他の役職ですか?」

 

「生徒会と一口に行っても会長、副、会計、書記とか色々あるだろ?そっちはどうなんだ?」

 

「まあ、そっちなら多少は.......」

 

どうやら嫌なのは会長になる事であって、他の役職ならまだなってもいいらしい。

 

「それじゃあ、お前さんには副会長でもやってもらおうかな」

 

「えっ、どうしてですか?」

 

「簡単だ。響きが似てるだろ?担任が立候補を実際に生徒会へ申請する時に、間違えて副会長にしてしまった事にするのさ。こうすりゃ、悪いのは担任になる。向こうさんは手出しできない。

ついでにお前が担任に謝られた時に「ミスは誰にだってありますよ。来年、会長になるだけです」とでも言っときゃ、教師からの株も運が良けりゃ生徒からの株も上がるだろ。もし来年のこの時期に会長どうのの話が出たら「一年間やってて、私に向いてないと分かった」とでも言えばいい」

 

腹黒く計算高い一色には嬉しい提案であった。確かに長嶺の手を使えば、生徒会長にならずに名声も手に入る。そして生徒会でうまくやれば、更なる名声も手に入る。自分にも最大限の利益があり、更に嵌めようとした相手へのカウンター攻撃にもなる一手に、一色は既に乗り気であった。

 

「私、やってみます!」

 

「そうか。なら後は、担任にこっちから話をしておくさ」

 

翌日、一色の担任に出向いて、今回の一件の全てを話した。最初は信じてもらえなかったが、グリムがハッキングでゲットしたグループラインのトーク画面を証拠として提示すると、流石に信じた。だがしかし、コイツも中々にヤバかった。

 

「だけど、別にいいんじゃないか?」

 

「は?」

 

「人を動かすのはいい経験になる」

 

確かに人を動かす経験は、将来役に立つ場面もある。だが、人を動かすというのはそう簡単な事ではない。相手が素直に聞けばいいが相手が素直に聞かない相手なら、あの手この手と考えてやる必要もあり面倒臭いのだ。

 

「先生、無茶言わんでください。教師というのは、その肩書きがある以上、生徒は基本無条件で指示に従う。だが生徒会長の場合は会長自体に権力が無い以上、色々考えながら指示を出す必要がある。しかも一色は一年で、二年の生徒会の人間からすれば下級生から指示される事になるんですよ?社会人ならその辺の折り合いも付くでしょうが、ここは高校だ。まだ高校生にその辺を期待したって無理でしょ?

第一、アイツが乗り気じゃないのにそれを無理矢理やらせようとするのは、パワハラになりますよ?」

 

「君は俺を脅すのか?」

 

「えぇ、そうです。別に俺は教師陣に幾ら恨まれようが、全然問題ないんで。あ、それからこれ全部録音してますんで、なんかありゃ校長にでも教育委員会にでも何処にでも持って行きますよ?」

 

この一言で黙らせた。結果として一色は会長から副会長に変更され、代わりに会長には比企ヶ谷が立候補した。必要な推薦人に関しては、これまでエミリアと桑田として培った人脈を駆使して、無事に集め切っている。

だが問題なのは、対立候補。候補がなんと雪ノ下なのだ。どういうわけか、出張って来やがったのである。

 

 

 

数週間後 選挙当日 体育館舞台袖

「どうだ比企ヶ谷、緊張してきた?」

 

「.......帰っていいか?」

 

「ダメに決まってんだろ?これまでの序章は、俺が主人公だった。だがここからの本編は、お前が物語の主役だ。さぁ、王の息の根を止めてやろう」

 

この学校の生徒会選挙では、生徒会長のみを争う。他の役員に関しては選挙後にスカウトか会長や生徒会に直接申し出て、許可が出れば役員になる事が出来るという珍しい形式をとっている。

そして今回の選挙では数年に一度発生する、対立候補がいる状態での選挙となる。しかも雪ノ下と比企ヶ谷が勝負するという、十年に一度レベルの大勝負となるのもあって、結構注目度は高い。

 

「どきなさい、愚者ヶ谷くん」

 

奥から現れたのは雪ノ下。今も尚、比企ヶ谷を下に見ているらしい。その後ろに続くのは由比ヶ浜だ。こっちも比企ヶ谷を睨んでくる。

 

「大丈夫か?」

 

「あぁ。でもなんか、あの2人を前にすると少し震える.......」

 

「安心しろ。今のお前には、俺が、いや。俺達(・・)がついてる。深海棲艦を滅ぼす艦娘と、それと同等の力を持つKAN-SEN、最強の戦闘集団、更には俺の一声で世界中の表裏問わず、ありとあらやる権力者達や様々な力を持った奴らが守ってやる。

一方奴等は、精々地方議員のしがない議員兼中小企業の社長位な物だ。格が違うんだよ」

 

この一言で今自分に、どれだけ心強い最強の味方が付いているのかを思い出したのだろう。少し深呼吸し目を開くと、そこには今までの自信なさげな目の代わりに、揺らぎない闘志と意志の宿った目になっていた。

 

「桑田、頼む」

 

「オーライ。だがまあ、まずは奴らの演説でも聞いてやろうぜ」

 

まず最初は応援演説からである。両者の応援演説の後、応援演説と同じ順番で立候補者が演説する事になっている。なので今回で言うと由比ヶ浜が最初に演説して、次が長嶺。立候補者の方は雪ノ下、比企ヶ谷の順番なのだ。

 

『それでは、雪ノ下雪乃さんの応援演説からお願いします』

 

『雪ノ下雪乃さんの応援演説をする由比ヶ浜結衣です。ゆきの、じゃなくて雪ノ下さんを生徒会長に推薦する理由は、雪ノ下さん程優れてる人は居ないと思うからです。現に学業は学年主席ですし部活動でも部長を務めるほどの人間です。私も同じ部活に居ますが、いつも誰かの為に活動しています。

そんな人が生徒会長になれば学校は今よりいい学校になると思います。ですから雪ノ下さんに清き一票をお願いします』

 

由比ヶ浜の演説が終わり、舞台袖に戻ってきた。やりきった顔をしているが、うん、やりきれてない。流石に具体例がなさすぎるし、よくこれで行こうと思ったなと思う程、余りに適当すぎる。

 

『次に比企ヶ谷八幡くんの応援演説をお願いします』

 

「そんじゃ、一発かましますかね!」

 

この位の演説、長嶺にしてみれば海軍内の権力闘争や頭のおかしい議員供との会合に比べれば遥かにイージーミッションだ。それに江ノ島鎮守府のトップとして、攻略作戦時の訓示をいう場面も多くある。普通なら萎縮する物だが、彼なら萎縮せずに堂々と立ち回れる。

 

『えぇ、比企ヶ谷八幡くんの応援演説を担当する桑田真也だ。さて、流石にずっと似たような演説を聞いてても楽しくないでしょう?ここで一つ、皆さんにクイズだ。問題、人を纏める指導者に絶対的に必要な要素は何でしょう?』

 

いきなりのクイズに全員が戸惑うが、それも考慮して30秒位の時間を与えて考えてもらう。

 

『答えは出たか?では代表して、葉山。答えろ』

 

敢えてここで葉山を選ぶのも、細やかな復讐だ。アイツは今、没落して周りに人間がいない。だがここで上手く立ち回れば、復帰の可能性があるかもしれない事に多分気づく。そして大コケするまでが一セットだ。

 

「それは勿論、みんな仲良くの精神だ!」

 

『違います。みんな仲良くなんて、そんなのは不可能だ。人にだって相性の良し悪しがある。それを無理矢理くっ付けたって、厄介事にしか発展しない。では大事なのは何か。それは相手の痛みを知れる、或いは共有できる優しさだ。

比企ヶ谷は別に頭が特別良いわけでもない。何かパッとした特技や才能がある訳でもない。友達が多い訳でもない。強い訳でもない。だが奴は、誰かが困っていたら絶対に見捨てずに助けてくれる、そんな信頼の置ける優しい奴なんだ。知っての通り、アイツには色んな噂がある。だがそれは全て、誰かの為にやった結果があーなってるだけだ。アイツは絶対に誰かを1人になんてさせない。困ってる奴がいりゃ、テメェの立場とか全部投げ捨てて助けてくれる。もしアイツが会長になれば、少しは楽しい学校になる筈だ。

アイツの噂だとか、変な先入観に騙されるな!!転校してからの約半年、常にアイツと行動してきた俺が保障しよう、アイツには会長となる器があると!!自分の心に従い、もしアイツが、比企ヶ谷が信頼に足る者だと思うのなら票を投じて欲しい。以上だ』

 

長嶺の演説は兎に角凄かった。演壇の前でただ喋るのではなく、ステージ上を動き、身振り手振りで、言葉で体育館の空気を奪い去った。これには生徒どころか、教師までもが見入っていたのだ。自然と盛大な拍手が巻き起こり、長嶺は胸に手を当てて優雅に礼をして、堂々と舞台袖に帰って行った。

 

「俺より目立ってんじゃねーか」

 

「ハハハ、許せ」

 

長嶺と入れ替われる様に、今度は雪ノ下が演台に上がる。勿論こちらを睨み付けながら。

 

『今回生徒会長に立候補した雪ノ下雪乃です。私が生徒会長になった暁には学業の底上げを一つ掲げます。ここは千葉県でも有数の進学校と言うのは皆さんは知ってると思います。皆さんはもっと上の大学や企業に就職したくはないですか?そのためには学業をもっと向上させてもっと上を一緒に目指したいと思います。それが私の生徒会長になった時のやりたい事です。

もう一つ生徒会長としてやりたい事があります。それはこの学校のあらゆる不正を撲滅する事です。私には夢があります。それはこの世界を嘘や欺瞞のないモノにしたいことです。これまで私の周りには、そういった類の輩ばかりが蠢いていました。けれどこれからは、そうでないと信じたい。私は生徒会長での経験を通して、今度は世界を変えていきたい。そう願っています。その意思を見せる為、この選挙の場を借りて不正を正したいと思います。この生徒会選挙の裏でおきた不正について』

 

この一言に会場がざわついた。そして舞台袖にいた由比ヶ浜は比企ヶ谷らに「ヒッキーとクワタンが裏切ったんだから悪いんだよ?」とか言ってきて、比企ヶ谷の顔色はますます悪くなる。止まったはずの震えも再発したようだが、これはすぐに止まった。長嶺が既に手を打ってあったのだ。

この不正の内容というのが、簡単に言うと「比企ヶ谷は演説を不当に集めた」という物らしい。自分で集めずに、桑田とエミリアが無理矢理集めたのだと言っている。まあ間違いではない。

 

「比企ヶ谷、落ち着け。奴は俺達をひっくり返したつもりでいるが、逆転してない。これを見ろ」

 

「生徒手帳?」

 

そう言って比企ヶ谷に見せたのは、総武高校の生徒手帳。手帳の中にある校則の一覧にある、選挙関連の校則についてであった。

 

「?.......あ」

 

「わかっただろ?これを使え」

 

「確かにこれなら、行けるな」

 

「選挙管理担当の教師にも確認済みだ」

 

長嶺の戦略を比企ヶ谷に渡していると、どうやら雪ノ下の演説が終わったらしい。誇らしげに、こちらにあらん限りの嫌な笑みを浮かべながら帰ってきやがりました。

だがその顔は、すぐに消えることとなる。

 

『この度、生徒会長に立候補した比企ヶ谷八幡です。まず初めに、雪ノ下さんが演説で言っていた疑惑について、晴らさせてください。

確かに私はこの選挙で、自分で推薦人は殆ど集めていません。八割方が応援演説に立った桑田くんと、その友達のヒッパーさんが集めてくれました』

 

ここで予想通り、生徒達はザワついた。雪ノ下の言った通りだと。自分から墓穴を掘ったと考えている雪ノ下は、こちらを見ながらほくそ笑んでいる。

 

『ですが!これは、別に違法な物ではありません。今、手元に生徒手帳を持っている生徒さんは12ページの生徒会規約第四章の第17条を見てください。条文には、こう書かれています。『生徒会選挙に自ら立候補するものは推薦人を既定の30人を集めないと立候補できないものとする』何処にも「推薦人を自分で集めなければならない」とは、書いてありませんよね?つまり私のやり方は、違法ではないんです。

こじ付けといえばそれまでですが、規則に書いてない以上は違法じゃない。これが社会のルールです』

 

「それよか、雪ノ下の方がよっぽどヤバいぜ!?」

 

ここで舞台袖から長嶺が乱入してきた。これには比企ヶ谷も驚いているし、他の生徒達も驚いている。教師は長嶺を止めようと近付いてくるが、それよりも長嶺の行動の方が早かった。何かを比企ヶ谷に投げ渡したのだ。

 

「うぉっとっと。なんだこれ?」

 

「比企ヶ谷!テメェ、忘れてんのか?お前が俺に頼んだ証拠だよ!!」

 

投げ渡されたのはICレコーダーで、表面に「流せ!」とだけ書かれたメモ用紙が貼ってある。勿論そんな事は頼んじゃいないし、第一何の証拠かも分からない以上、何が何だか分からないが取り敢えず流してみた。

流れてきたのは、雪ノ下と声も聞いたことのない女生徒との会話であった。

 

『あなた、この書類にサインしなさい?』

 

『えっと.......』

 

『何かしら、逆らうの?あなたのお父様、確か私の父の会社で働いてたわよね?お父様のクビを切ってもらってもいいのよ?』

 

『書くからやめてください.......』

 

ICレコーダーから流れる会話に、体育館は凍り付いた。さっき嘘や欺瞞のないとか、清い一票だの言ってた奴が、清らかさのカケラもない方法で推薦人を集めていたのだから。

 

『.......あー、絶対これ進める空気じゃないですよね。どうしたらいいんでしょうか?』

 

『中止!!生徒会選挙は中止します!!!!』

 

比企ヶ谷の問いに即教頭が応じて、生徒会選挙は中止という前代未聞の事態になった。まあこの後、しっかりやり直されるのだが。

舞台袖で雪ノ下は放心状態になり、由比ヶ浜はそれを慰めていた。比企ヶ谷と長嶺が揃って帰ってくると、目の前に立ちはだかって文句を言ってきた。

 

「ヒッキー!クワタン!何でこんなひどい事するの!?!?ゆきのんが可哀想じゃん!!!!!!」

 

「身から出た錆だろ」

 

「.......由比ヶ浜、悪いが桑田の言う通りだ」

 

そう言い残すと、2人は舞台袖を出て行った。直ちに雪ノ下は生徒指導室へと連行され、停学とまでは行かないまでも、両親を呼ばれ教師と両親のダブルパンチでコッテリ絞られたらしい。

この後やり直された生徒会選挙では比企ヶ谷が無事会長に当選し、役員も決まった。副会長には三浦と一色、会計には川崎と戸塚、書紀には材木座と戸部が入り、庶務として長嶺とエミリアも参加した。旧葉山グループの2人は、今回の一件を待ってましたと言わんばかりに「罪滅ぼしをさせてほしい」と、半分押しかける形で入った。

 

 

 

一週間後 総武高校 屋上

「はぁー、終わったー!!」

 

新生徒会としての始動も終えた今日。長嶺は1人、屋上に登り夕日を眺めながら緑茶を啜っていた。因みに長嶺はコーヒーよりも緑茶の方が好きなのだ。

 

「あら、ここに居たのね」

 

「いやいや、お前が呼び出したんだろ」

 

「そうだったかしら?」

 

ここに来たのは、何も1人になりたくて来たわけではない。オイゲンに呼び出されたから、ここに来たのだ。

オイゲンは長嶺の横に立ち、柵に身を傾けて夕日を眺める。その姿は絵画のように美しい。

 

「.......で、こんな人気のない場所に呼びつけた理由は?」

 

「ねぇ、指揮官。私と初めて出会ったの、何処か覚えてる?」

 

「?そりゃお前、アズールレーン基地の近海だろ。ホーネット含むアズールレーン基地に向かっていた艦隊を捕捉したお前達が、その襲撃に来た時に出会った筈だ」

 

今となっては懐かしい、約一年前の出来事だ。あの頃、長嶺は突如として出現したアズールレーンの基地のある島に潜入し、偵察活動を行なっていた。そしてアズールレーンと接触し、一応アズールレーン側の味方としてレッドアクシズにも潜入し、赤城が主導していたオロチ計画を突き止め、なんだかんだでオロチを沈め、いつの間にかKAN-SENを従える指揮官となっていたのだ。

 

「あれから、色々あったわよね」

 

「あぁ。テメェに銃や砲を向けられたし、一緒に戦ったこともあったな。まさか、今こうして一緒に潜入任務やってるとは思わなかったがな」

 

「私もよ」

 

一時の間、場は静寂に包まれる。数分か数十分か、それは分からないが。静寂を破ったのはオイゲン。

 

「ねぇ指揮官。私ね、指揮官が好き」

 

「俺も好きだぞ」

 

即返された上に、俺も好き発言だったのでオーバーヒートしそうになるが、さすがにもう「友愛とかの方」と脳が理解しているのか、すぐに冷静に戻った。

 

「どうせあなたの好きは、友愛とかの方でしょ?私のは.......あ、あなたの事が男性として、好き//////」

 

「あーそう。男性として、ッ!?」

 

流石にここまでどストレートに言われれば、如何に超絶鈍感朴念仁男である長嶺とて、好きの意味を理解してしまう。そしてこれは、数多の戦場を駆け抜けた長嶺に取っては初めてなことであり、珍しく動揺している。

 

「あ、え、えっと、それは恋人とかの方の好き?」

 

静かに顔を真っ赤にしながら、コクリと頷くオイゲン。どうやら本当に、自分の事が好きなのだということを再認識した。

 

「.......俺としても、こんな告白されたの初めてだから、どうすりゃ良いのかは分からん。だから、俺の率直な気持ちを言わせてもらう。やめておけ、絶対に」

 

「え.......?」

 

「俺はな、お前、いや。霞桜や艦娘も含む、俺の仲間達が思う以上に、超が付く化け物だ。それこそ、国一つ滅ぼしてしまう。いや違う、既に滅ぼした事がある。そんな危険な奴、絶対に好きにならん方がいい」

 

「.......いや。いやよ!絶対に嫌!!そんな理由で私を拒絶しないでよ!!!!あなたの気持ちは!?あなたの気持ちを聞かせてよって!!!!!!」

 

珍しくオイゲンが感情を露わにしたした事に、長嶺も驚くが、それ以上に困った事がある。気持ちを聞かせろと言われても、無いのだ。そっち方面の気持ちが。だから今、思ってることを口に出す。

 

「お前さんは可愛いと思うし、一緒にいて楽しいとも思う。だがまあ、多分これは恋愛感情じゃないとも思う。何とも言えんな」

 

この答えへのオイゲンの返しは、今までで一番効果的かつ直接的な物であった。

 

チュッ♡

 

「なぁ//////////!?えっ、ちょっ、おまって、えぇ//////!?!?!?!?」

 

そう、キスである。これには長嶺に効果抜群だったらしく、今までにないガチの動揺を見せている。そこにはいつも見せる完全無欠の戦場の王者としての顔はなく、年相応どころか、それより下の年齢層レベルの照れまくり脳がオーバーヒートした顔になっていた。

 

「指揮官をその気にさせるから、覚悟してなさい。さっ、帰りましょ?」

 

「.......待てよ」

 

「何かし——」

 

チュッ!

 

オイゲンを呼び止めて振り向いた瞬間、今度は逆に長嶺側からキスをした。それも単なるキスではなく、舌を口内にねじ込むディープキスをしたのだ。

 

「お前、俺の性格は知っているだろ?あんな奇襲攻撃されて、黙ってる奴じゃない。それにさっきの答え、緊急変更だ。たった今、多分俺はお前を好きになった。だから、俺の物となれ。鉄血巡洋艦『プリンツ・オイゲン』!」

 

「は、はい♡.......」

 

逆に蹂躙されたオイゲンは、完全に顔を真っ赤かにして珍しく照れている。だがその顔はどこか嬉しそうでもあった。

というか、コイツは本当にあの超絶鈍感朴念仁男の長嶺雷蔵なのだろうか。

 

 

 

 

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