最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第五十六話The answer

オイゲンのより告白数時間後 江ノ島鎮守府 射撃場

(俺は迷っているのか.......?)

 

ズドォン!

 

(こんな気持ち、初めてだ)

 

ズドォン!

 

「チッ.......」

 

鎮守府に帰還し、ベルファスト、大和、グリムからの報告を受けると、すぐに長嶺は射撃場に走った。オイゲンの告白を普通に受けてしまった訳だが、今になって心にモヤモヤが出来てしまった。この感覚が何なのかは全く説明できないが、不快であるのは間違いない。

取り敢えず精神に疲れが溜まっていると仮定して、射撃で鬱憤を晴らすつもりであった。久し振りに桜吹雪SRを使った狙撃で的を撃ち抜いてみるが、珍しく最後の一発は外れてしまった。

 

「おや、総隊長。こちらにお出ででしたか」

 

「.......マーリンか」

 

「なにか、ありましたか?」

 

部隊最古参の隊員にして、かつては最年長の隊員でもあったマーリン。それ故に色んな隊員達が相談を持ちかけて来たのもあって、表情や仕草、言動で察せられる位には鍛えられている。

だが今まで、この手の悩みを長嶺が持った事は知っている限りではない。精々、何か作戦を練る時に意見を求めてきたりする位であった。それもあって、内心では結構驚いている。

 

「なぁ、マーリン。お前の人生経験の長さを見込んで、少し話を聞いてくれないか?」

 

「構いませんよ。それで、何があったんですか?」

 

「オイゲンから告られた」

 

「へぇー。告られ、え!?!?」

 

流石にこれには耳を疑った。つまり今、長嶺が持っている悩みとは、恋の悩みなのである。

 

(驚いた。総隊長にも、漸く恋愛に関する悩みが出て来たか)

「それで、何て答えたんですか?」

 

「キスされてたから、キスし返して、その場の流れでOKした」

 

「oh.......」

 

思ってたよりもやる事やってるというか、これまでチェリーボーイどころか、まだチェリーの木すら存在しない域だった男が、段階すっ飛ばしていきなりジャンプアップしまくってた事に驚きつつ、悩みが何なのかが分からず謎も深まった。てっきり好きな子でも出来たのかと思ったが告白された側で、しかも答えに悩んでるわけではなく解答済みとなると、一体何が悩みなのかは分からない。

 

「しかし、一体何が問題なのですか?別に脅されたとか、そういう訳ではなく、あくまで総隊長の意思で告白を受けたのでしょう?」

 

「いやまあ、その通りなんだが。俺自身、人を好きになるどころか友達すら碌にいないタイプの人間だ。だから「好き」とかの感情が分からないんだよ。少なくともオイゲンは、多分これまで出会ってきた女の中でもトップクラスの上物だろう。顔、スタイル、性格、思考パターン、行動、仕草。非の打ち所がない。これは他の艦娘にもKAN-SENにも言えるんだがな。

俺もそんな存在に好意を抱かれている事は、別に嫌ではない。だがそれ以上に、俺とは深く関わらないで欲しいとも思うんだ。それに何かふとした時にオイゲンが浮かんでくるし、少しでもオイゲンのこと考えると、何か心がモヤモヤして何とも言えない気分になる。多分これ、付き合わない方がいいヤツだと思う」

 

「あー.......」

 

どうやら、長嶺は長嶺のままだったらしい。後半の心関連のヤツは全て、恋の病の症状に他ならない。

 

「総隊長。それ、恋の病です」

 

「.......え?」

 

「貴方が自分を卑下しようと、過去を鑑みてその判断に至っていようと、貴方の心は既にプリンツ・オイゲンという女性にがっしり掴まれているんですよ」

 

全く理解できてないが、そんなのはお構いなしにマーリンは話を続ける。

 

「私は貴方の過去を知りません。ですが貴方は、私が知る限り最高の人間です。胸張って、堂々としたらいいでしょう」

 

「いやいや。俺は国一つ滅ぼしてて、仲間目の前で殺されても冷静に振る舞える冷酷男で、超がつく戦闘狂だぞ?これの何処が最高なんだ」

 

「貴方は貴方が思ってる以上に、最高の人間なんですよ。ここにいる全ての艦娘、KAN-SENは貴方に惚れている位にね」

 

「.......本当にそうなのか?」

 

「でなきゃ、指輪の一件であんな反乱は起きませんよ」

 

流石の超絶鈍感朴念仁男である長嶺も、ここまで言われれば嫌でも気付かされた。確かに言われてみれば、おかしな話しだ。指輪やお見合い話が一度広まれば、鎮守府中が大騒ぎになる。普通に考えれば異常でしかない。

 

「だが俺は、どうすれば良いんだ?答えを出さないといけないのか?」

 

「いえあの、貴方は既に答えを出してますよ?」

 

「は?」

 

「あの指輪の反乱の時、貴方はこう言った。「今回の罰としてケッコンカッコカリはお前達に拒否権はない。必ずして貰う」と。これ、彼女達に取っては彼女達と重婚します宣言ですよ。まあ貴方としては、あくまで強化の一環でしかないんでしょうけど」

 

あの反乱の時、長嶺の言った言葉の真意というか、実際の意味に気付けていたのは霞桜の隊員とオイゲン位のもので、残りは重婚してくれる物だと思っている。勿論、永遠の愛を誓い合う方のヤツである。

 

「ホントだ、答え出てるわ」

 

「そうでしょう?こう考えれば楽ですよ。あんな美女達とハーレムを作る、そう考えれば楽でしょ?」

 

「あー.......確かに.......」

 

何だか考えるのも馬鹿らしくなってきて、マーリンにお礼を言って長嶺は自室へと戻った。そして、オイゲンを呼び出した。

 

 

 

数十分後 長嶺自室

「何かしら指揮官?」

 

部屋は暗く、壁の下、棚やラックの溝にある間接照明だけでぼんやり柔らかく照らされているだけであった。まるで高級バーや夜景を楽しむラウンジのような雰囲気である。

この暗さの影響もあって気が付かなかったが、今の長嶺の格好は戦闘服の下に着る作業着でも、寝巻きでも、私服でもなく、珍しく純白の第二種軍装を着用していた。

 

「お前に渡す物がある」

 

「何かしら?」

 

「コイツを、受け取って貰う」

 

そう言って手に乗せて見せてきたのは、藍色の上質な小さな箱。中を開けると銀色に輝く指輪が入っていた。

 

「さっき、お前の情報を確認した。おめでとう、プリンツ・オイゲン。君は江ノ島鎮守府に於ける、最初のケッコン艦だ」

 

「これは、結婚指輪って事かしら?」

 

「あくまでコイツは、俺から君への信頼の証兼単なる強化アイテムだ。結婚云々は別問題にさせて貰う。まあ記録と戸籍上は、俺の配偶者扱いになるがな。

それに偶々お前が一番乗りなだけで、お前を特別扱いする訳でもない。それは理解して欲しい」

 

つまり目の前の男に取って、これはあくまでただの物だと言うのだ。分かってはいたし、こう返ってくるのも予想はしていた。だがそれでも、悲しい気持ちになってしまうのが女の性だ。

だが今日の長嶺は、これで終わらなかったのだ。

 

「だが、この戦いが終わった時に、お前がまだ俺の事が好きだと言うのなら結婚しよう。そんな戸籍を作るアリバイ用のまやかしでは無く、本物の正式な物で」

 

「指揮官。つまりそれって、プロポーズって事かしら?」

 

「あぁ、そうだ。俺は決めた。この鎮守府にいる艦娘、KAN-SEN全員と真の意味で結婚する。だがその一番、所謂正妻のポジションにはお前を置くつもりだ」

 

もうそこに、いつもの超絶鈍感朴念仁男は居なかった。真っ向から思いを受け止め、そして自分の思いを言ってくれる男になっていたのだ。こんな不意打ち奇襲攻撃をされては、もうイチコロである。

 

「.......ねぇ、指揮官♡?」

 

「なんだ?」

 

「今夜は、一緒にいて♡?」

 

その後、この二人がどうなったのか、ナニをしていたのかは、神のみぞ知る。因みにあの後、オイゲンが言うには「とても大きくて、凄かったわ♡」らしい。

 

 

 

選挙より一ヶ月後 市民ホール 会議室

「なぁ、俺達って何やってんだろうな」

 

「知るかよ」

 

「うむ、右に同じだ」

 

「俺、クリスマス予定あったのに最悪っしょ.......」

 

生徒会の男4人がこんな風にネガティブになっているのは、生徒会としての初仕事に原因がある。この間の選挙で雪ノ下は大敗し、比企ヶ谷が新生徒会長となった。そして新たに三浦、戸部、戸塚、川崎、材木座、一色が加わった新生徒会が始動したのも、前回書いた通りだ。

あれから一週間位は前生徒会、つまり城廻の代からの引き継ぎやら仕事進める上での研修やらで潰れ、簡単な雑務にも慣れ始めた頃、やりたくない仕事が舞い込んできたのだ。その仕事というのが、近隣高校の海浜総合高校との老人や園児を対象としたクリスマスパーティーをやる事であった。のだが、この会議が超疲れる。とにかく疲れる。なんだかって?言語が違うのだ。では具体的にどう違うのか。これを見て貰えばわかる。

 

「やぁ、僕は玉縄。海浜総合高校の生徒会長だ。よろしく。よかったよ、フレッシュでルーキーな生徒会長同士で。お互いリスペクトできるパートナーシップを築いて、シナジー効果を産んでいかないかなって思ってさ」

 

うん、何言ってるのかさっぱり分からない。取り敢えず分かったのが、海浜総合高校の生徒会長は玉縄という名前である事だけだ。シナジー効果だの、パートナーシップだのと言われても、頭に入ってこない。

 

「何アイツ。キモッ」

 

「珍しいね。今回ばかりは、アンタの意見に賛成だよ」

 

いつもは喧嘩している事の多い三浦と川崎すらも同じ見解に到達する位には、中々に強烈な奴である。で、しかもこのキャラ、コイツだけじゃないのだ。こういう手合いのが、後4人いる。

 

「真也、意味わかる?」

 

「そりゃビジネス用語くらい分かるが、普通は今の歳には無縁の言葉だろうよ。なんか嫌な予感しかしない」

 

「桑田よ、我は彼奴らの言葉がわからないのだが、通訳を頼めるか?」

 

「材木座、良いことを教えてやろう。それが普通だ」

 

こればかりは仕方がない。今現在、正確に意味を把握できているのは長嶺と比企ヶ谷だけ。残りは何となくでしか分かっていない。だがそんな状況下であろうが、向こうはお構いなしに話し合いを始める事になった。

因みに今回、ビジネス用語ばかりで何が何だかわからなくなるので、下に訳を書いておく。

 

「それじゃ、ブレインストーミングからやっていこうか。議題はイベントのコンセプトと内容面でのアイディア出しから」

(訳:それじゃ、集団思考*1からやっていこうか。議題はイベントのコンセプトと内容面でのアイディア出しから)

 

先に言っておくが玉縄の開会宣言以降、ずっと海浜総合高校のターンとなる。まず手を挙げたのは眼鏡をかけ、カーディガンをプロデューサーの様に巻いてる奴であった。便宜上、プロデューサー野郎とさせて貰う。

因みにこのプロデューサー野郎、手の上げ方がなんかウザい。本人としてはスマートにやっているのだろうが、見た目とゆっくりと目を瞑りながら手を挙げてるので、ナルシスト感がすごい。

 

「俺達高校生への需要を考えると、やっぱり若いマインド的な部分でのイノベーションを起こしていくべきだと思う」

(訳:俺達高校生への需要を考えると、やっぱり若い精神的な部分で新機軸を起こしていくべきだと思う)

 

「それなら断然、俺達とコミュニティ側のウィンウィンな関係を前提条件として考えなきゃいけないよね」

 

「戦略的思考でコストパフォーマンスを考える必要があるんじゃないかな?」

 

緑髪ナルシストと金髪ロン毛野郎の2人が賛同し、なんかやっぱり謎の事を言っている。ただ一つだけ言えるのは、こっち側が全く理解できてない事だけだ。

 

「(会長殿、どうするね?)」

 

「(取り敢えず今日は様子見で。帰りにサイゼでも行って、みんなで作戦会議だな)」

 

「みんな、もっと大切な事があるんじゃないかな?」

 

ここで玉縄、ようやく大事な事に気付いてくれたらしい。このこっち側が全く理解できてない状況を、察知してくれたらしいのだ。やはり生徒会長はこうでないt

「ロジカルシンキングで論理的に考えるべきだよ」

(訳:論理的思考で論理的に考えるべきだよ)

 

前言撤回。ダメだこりゃ!!!!!!

 

(論理的思考で論理的に考えるって、それ一周回って非論理的に考える事にならねーか?)

 

どうやら玉縄、この状況を全く理解していないらしい。というか彼の眼中には総武高校は存在せず、脳内は「あー、ビジネス用語を使いまくる俺達かっけぇー」としか考えてないのだろう。その弊害がこれなのだが。

そして、玉縄の暴走はまだ続く。

 

「お客様目線で、カスタマーサイドに立つっていうかさ」

(訳:お客様目線で、お客様の立場に立つっていうかさ)

 

(それじゃ一周回って、こっち側になるわよ.......)

 

「なら、アウトソーシングを視野に入れて」

(訳:なら、業務を外部に任せる事も視野に入れて)

 

「今のメソッドだとスキーム的に厳しいけど、どうする?」

(訳:今の方法だと計画的に厳しいけど、どうする?)

 

「一旦リスケする可能性もあるよね。もっとバッファを取っても良いんじゃないかな?」

(訳:一回スケジュールを組み合わせる可能性もあるよね。もっと余裕を取っても良いんじゃないかな?)

 

「あー、そうだね。全体をよく見たい」

 

玉縄&海浜高校生徒会三人衆が暴走し、もう何が何だか分からない上に収拾も付かない。しかも玉縄に至っては、同じ事を2回繰り返しで言うという海浜生徒会の中でも、一番アホな子であった。

 

「総武高校の方は、どうかな?」

 

「あ、あー、良いんじゃないか?うん、多分」

 

いきなり話を振られたが、直ぐに比企ヶ谷が答えた。その後も耐え難い、謎の言語に晒されて本日の仕事は終わった。本当ならサイゼでも行くつもりだったが、今回は長嶺がイラついたので、少し趣向を変える事にした。

 

「お前達、悪いが俺のやけ食いに付き合って貰うぞ」

 

全員ポカンとしているが、そんなのはお構いなしに何処かに電話を掛け出した。数分後、大通りに出てタクシーに乗り込み、一体どこに連れて行かれるのか分からぬまま、一時間ほど車に揺られたのだった。

 

 

 

一時間後 銀座 料亭『鹿苑亭』

「く、桑田?これ何」

 

「何って、料亭」

 

オイゲン含む、全員がフリーズした。目の前の料亭、明らかに高校生が来るお店じゃない。というか、料亭自体高校生が「帰りにどっか寄るか〜」なんてノリで来る場所ではない。

100歩譲って料亭に来たとしても、ここは明らかに大企業の社長とか政治家とかが来る様な超一流店。多分、1人につき万単位の金が吹き飛ぶだろう。

 

「あ、あーし帰る!金持ってないし!!」

 

「私も!」

 

「待て待て。ここの会計は俺が持つし、というかこの人数で予約しちまってるから、何が何でも来て貰うぞ」

 

そう言って堂々と中に入って行く桑田。その後ろを慌てて皆追いかけて行く。玄関に入ると、着物を着た女性が座礼をして待っていた。

 

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、桑田様」

 

「どうも。久しぶりだね、女将さん」

 

「えぇ。今年の新年会の時以来でしたね」

 

この『鹿苑亭』は軍、自衛隊の高級将校御用達の料亭であり、ちょくちょく長嶺も接待で使わせて貰っているのだ。

 

「あー、そういや、あれ以来来てなかったのか。すまなかったね、あの時はあのアホが迷惑かけて」

 

「いえいえ、良いんですよ」

 

因みに新年会で何があったかというと、東川と山本の2人がここで呑んでいて、酔い潰れて、それを引き取りに来たのである。その後は長嶺も、この総武高校への潜入の準備に追われて全くここに来れてなかったのだ。

 

「ですが、お二人には余り飲み過ぎないよう、お伝えください。飲み過ぎは身体に毒でございますから」

 

「それで聞くなら苦労しない.......」

 

「それは、確かにそうですね。あ、皆様、申し訳ありませんね。すぐにお部屋へご案内いたします、どうぞこちらへ」

 

玄関を抜けると、初めて見る光景であった。建物はロ型になっており、真ん中は丸々池と松や桜、紅葉といった日本固有の木々のある豪華な庭園になっており、池の中には鯉も泳いでいる。

 

「こちらでございます」

 

そう言われて通された部屋は、掛け軸や花の飾られた豪華な部屋であった。女将は「暫しお待ちを」と言うと、料理を運ぶべく板場へと下がった。すぐに全員が長嶺に群がり、質問攻めが始まった。

 

「絶対高いだろここ!!」

「やべーっしょ!まじ超やべーっしょ!」

「こんな所、払える訳ないし!!」

「というかそもそも、幾らすんだいここ!!」

「先輩バカですか!?!?」

「お、お主ぃ!何でこんな所を知っておるのだ!?」

「そもそも僕達が居て良いの!?!?」

「というかあなた、いつからここの常連なのかしら?」

 

「落ち着けお前らッ!!」

 

無理矢理引き剥がし、取り敢えず解放してもらう。

 

「心配せんでも、ここは俺が持つし、そもそもこの店自体、俺の親父の行きつけ!!だから俺も面識があるんだよ」

 

「代金はどうする訳?というか、それって親の金でしょ。こんな使い方していいの?」

 

「法的には小遣いを貰えば、その金は貰った奴の物になる。勿論、法の庇護も受けられる訳で権利云々も保証される。ってかそれ以前に、俺自前で金稼いでるからな?稼いだ金をギャンブルに突っ込もうが、女に貢ごうが、慈善事業に寄付しようが、法に触れてない限り文句言われる筋合いは無いぞ」

 

オイゲンを除く全員が忘れていた。目の前の男は、普通に株式や仮想通貨で荒稼ぎしているのだ。まあ歴とした特別国家公務員の、それも海軍のトップで霞桜のトップでもある以上、そっちでも超貰ってるのだが。

 

「ふ、ふむ!つまり其方は、自らの給金を我らに使うと?」

 

「まさか。あくまで今回は、俺のやけ食いに付き合って貰うってだけだ。ついでに、イベントというか海浜高校への対策を考えようって発想だ」

 

「なんか、桑田くんって規格外なんだね。色々と.......」

 

「彩ちゃん、この程度で驚いてたら心臓もたないわ」

 

戸塚が遠い目をしてそう語ったが、オイゲンはそれ以上の事を見ているので、先輩としてアドバイスしていた。一応今は桑田真也である以上、長嶺雷蔵程の暴走はしていない。今回の行動も、目立ちはするが寧ろ少し目立った方が逆に正体を分からなくする場合もある。向こうもまさか「目立った行動してる奴が潜入中の捜査官である」とは思わない。この心理を逆手に取った作戦でもある。

この日はワイワイ楽しく懐石料理を食べ、海浜高校への対策を練った。その結果出た結論としては、取り敢えずの様子見となった。海浜高校との会合はまだ始まったばかりで、ああいう言動があるとは言えど、所詮まだ初日。具体案決まるか出てからでも良いだろ、という事になった。だがしかし、高級料亭という普段来ない場所の雰囲気に絆されたんだか知らないが、テンションが可笑しくなっていたのだ。この質問から、全てが変な方向になる。

 

「ところで桑田。お前、アイツら見て何か気付いたのか?」

 

「お前が俺に聞いてくるとは珍しい」

 

「人間観察は俺の特技だし、それなりに自信は持ってる。でもお前の目はそれ以上だろ?」

 

「なぬ?お主、そんなにも凄いのか?」

 

唯一、依頼が依頼なだけに長嶺のスペックの高さを実際に見れてない材木座が聞いてきた。何せコイツの依頼はラノベの原稿を読むことだったので、長嶺のスペックを生かす場面が一切無かったのだ。因みに違う意味で一番地獄だった依頼でもある。

 

「少なくとも、たかが一般人の目には負けないさ。こちとら戦場仕込みの、自分の命を対価に得たスキルだからな。

そんじゃま、取り敢えず結論から行こうか。アイツらは多分、これを失敗したらこっちに責任転嫁してくるぞ」

 

この一言に全員が驚いた顔でこっちを見てくる。少なくともさっきの話し合いでは、そんなことを思わせられる場面は一切無かった。

 

「え、どういう事だし!」

 

「まずアイツらが覚えたてのビジネス用語をひけらかして満足したい、単なる馬鹿モンキーなのは知っての通りだ。これはつまり、奴らの根っこの精神はガキってことだ。幾ら『ビジネス用語』ってスマートな大人の飾りで着飾ったっても、根本は学校に1人はいるウザいマセガキだ。

こういう奴等は大抵、自分主導で何でもやりたがる。今日の会議だってそうだ。勝手にビジネス用語で盛り上がり、こちらに主導権は一切渡さない。だが申し訳程度で、こちらに確認とったり話は振っただろ?アレで有無を言わさず「何もないです」と言わせ、また勝手にやる。アイツらの思考じゃ「意見を出さないから、こっちで出してあげてる」って発想だろうな」

 

「なんでそこまで断言できるんですか.......」

 

「長年の勘だ」

 

一色の呆れたような問いにこう答えたが、やはり「馬鹿なんですか?」と言ってきた。確かに現状、長嶺が勝手に相手をボロクソにコキ下ろしてるにすぎない。こう言われても仕方が無いだろう。

だが長嶺は、政治の世界で無駄に揚げ足取りの上手いオヤジ相手に戦争してるのだ。それにクズから聖人まで、いろんな種類の人間を見てきている。人の本質なんて、すぐ見抜ける。

 

「まあ信じろとは言わねーよ。だから一つ、予言してやる。恐らく明日明後日で、内容は決まらずとも実務の役割分担を決める筈だ。その時にこっちには面倒なヤツと余りを渡して、向こうは楽なヤツや美味しい所だけを持っていく筈だ」

 

「仮にそうだとして、具体的にどうするんだべ?」

 

「簡単だ。好きにさせりゃ良い。奴らが勝手にやらかして、盛大にずっこけて、それを俺達は大笑いで見てりゃ良いさ。

恐らく今回の一件は、両方の高校で高い内申点をゲットできる企画のはずだ。向こうとしては何が何でも成功させるのは前提で、点数稼ぎで俺達を巻き込んだ。奴等としては「呼ぶ申請だけしておこう」って発想だったんだろうな。自分達の高校の教師はこういう発案を喜んで引き受けるだろうが、こういうのは相手校の教師がうんと言わなきゃ成立しない。相手校、つまり総武高は断ると踏んでた筈だ。所がOKが出て、向こうとしてはこっちは邪魔でしか無い。

だがこうなった以上、利用できるだけ利用する気のはずだ。ならこっちだって、利用してやれば良い」

 

「利用するって、一体どう利用するんですか?」

 

「そうだなぁ、例えば議事録とかの記録関連に今回のヤツをちょーっと誇張して書いて、それを海浜高校に送り付けるとか、上手いこと会議を誘導して遊んだりとか、後はアレだ、こっちの思い通りにする流れに変えて奴らを空気にしたりとか」

 

長嶺の口からスラスラ出てくる妄想としか言えない、現実味のない意見に大半が「コイツ何言ってんだ」という顔である。だがオイゲンと比企ヶ谷は普通にそういうのを出来てしまう事を知っているので、オイゲンは楽しそうなので興味津々で、比企ヶ谷としては面倒臭そうという感想だった。

そしてもう1人、この意見に賛同する奴がいた。

 

「ふっふっふっ、なんなのだそれは。実に楽しそうではないか!」

 

材木座である。材木座は厨二病による思考回路によってもたらされた「楽しそう」という感情で判断しているが、他からしてみれば何が楽しいのか分からない。

一方の長嶺は勿論楽しそうもあるが、しっかりこちらにメリットがある点でもこの事を進めていたのだ。

 

「そうだとも。結構楽しいぞ、こういうのも。やるやらないは多数決でも取りゃ良いが、これだけは言っておくぞ。このままだと会議は堂々巡りで、多分全てが崩壊する。クリスマスパーティー開催できない、なんてオチもあるだろう。そうなりゃ俺達は、揃って内申点マイナスだ。海浜のビジネスモンキー共に滅茶苦茶にされて崩壊するのなら、こっちが好きなように動かした方が楽しくね?」

 

この長嶺の演説で、生徒会の意思は固まった。恐らく場の空気というのもあったし、というかそれを煽って利用したのだが、この長嶺の意見はプランBとして採用されたのである。

そして海浜高校と総武高校の合同クリスマスパーティーは、予想もしない方向へと突き進んでいくのであった。

 

 

 

*1
ブレインストーミングの意味合いとしては会議に近いが、今回は別名でもある『集団思考』を使用している

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