最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第五十七話時は満ちたり

翌日 市民ホール 会議室

「企画の概要がまだちょっと固まってないから、昨日のブレストの続きからやって行こう」

 

「折角だし、もっと派手な事したいよね」

 

「それー!あるある!!大きい事っていうか、一発ドカン的なね」

 

本日も始まってしまった、この拷問タイム。2日目にして、既に比企ヶ谷達の精神はすり減らされている。そしてどうやら、今日も昨日と同じ感じになるらしい。

 

「うん、確かに小さく纏まり過ぎていたのかもしれないな」

 

この時、比企ヶ谷達はこう思った。というか叫びそうになった。「何処が纏まってるんだ!!」と。だって前回、というか昨日の議事録には「論理的にロジカルシンキングしていこうよ」を筆頭に、ふざけたビジネス用語が乱立しているだけで、具体的にどうするとかは一切書かれてない。

というか何なら、今回のイベントに於ける個々の役割は勿論、2校でどう仕事を分担するかとかも分かってない。これで「纏まってた」と言えるなら、是非解説して欲しい。

 

「規模大きくしたところで旨味ねーよ.......」

 

「予算も人出も足りなくなるのがオチね」

 

「ノーノー、そうじゃない」

 

長嶺とオイゲンの呟きが、どうやら玉縄には聞こえてたらしい。曰く

 

「ブレインストーミングはね、相手の意見を否定しないんだ。時間的問題と人員的問題で大きくできない。じゃあ、どう対応していくか。そうやって議論を発展させていくんだよ。すぐに結論を出しちゃいけないんだ」

 

らしい。まあこれは、実際当たっている。ブレインストーミング自体、ゴールに向かうまでの問題点をどのように解決するかを考えていく事なので、玉縄の言っている事自体は間違いではない。

だがしかし、自分で「相手の意見を否定しない」と言いながら、最後にこう言った。「だから、君の意見はダメだよ」と。否定しちゃってるのである。矛盾も甚だしい。

 

「近くの高校を更に入れるっていうのは?」

 

「いいね!地域コミュニティを巻き込む、っていうかさ」

 

プロデューサー野郎がそう提案し周りも賛同しているが、比企ヶ谷と長嶺としては良案とは思えない。現状で既に2校の連携以前に、コミュニケーションすら取れてないのだ。これ以上増やしても、なんかもうカオスな事になって会議は踊りまくるのに、事自体は進むどころか後退する事にすら成りかねない。

ここで比企ヶ谷は、妙案を思いついた。彼らのルールに従うのだ。

 

「これはフラッシュアイディアなんだが、さっきの提案のカウンターとして、2校のより密接な関係を築いて連携を取る事で、最大限のシナジー効果を期待する方がいいと思うんだが、どうだろう?」

 

比企ヶ谷はやった。彼らなら、この意味を分かるはずだ。これで万事解決にn

「なるほど。じゃあ、高校じゃない方がいいね。大学生とか」

 

比企ヶ谷は肩を落とし、長嶺は椅子からずり落ちそうになった。何せ話が噛み合ってない。比企ヶ谷はさっき、簡単に言うと「もっとお互いに仲良くやっていった方が、得なんじゃないですか?」と言ったのだ。なのにそれに関する回答はなく、代わりに「大学生はどう?」と言われたのだ。見ての通りだが、全く解答になってない。

だが比企ヶ谷、これで諦めなかった。

 

「いや待て。それだとイニシアティブが取れない。ステイクホルダーとコンセンサスを得るにしても、ブレないマニフェストをはっきりサジェスチョンできるパートナーシップをだな」

 

「先輩、何言ってるんですか?」

 

「いや、俺も自分で言ってて良くわからん.......」

 

「確かに」

 

なんと玉縄、これを理解したらしい。比企ヶ谷は「マジか」と驚いていたが、長嶺は今度の展開が予想できた。恐らくまた噛み合ってない上に、予想だにもしないぶっ飛んだ発想の答えが返ってくるのだ。

 

「じゃあ小学生はどう?ゲーミエデュケーションって言うのかな。あー言うふうに楽しみながら作業できれば、地域の小学生の力を借りられるんじゃないかな?」

 

(ダメだコイツ、早く何とかしないと.......)

 

これまで長嶺自身、色んな人間と関わってきた。だがコイツ多分、その中でもダントツでバカだ。筋金入りのバカだ。

 

「こっちでアポとか交渉はするから、その後の対応、頼めるかな?」

 

「.......はい」

 

比企ヶ谷は、考える事を放棄した。因みに他の生徒会のメンバーは全員、魂が抜けていたらしい。

 

 

「比企ヶ谷くん、これもお願いしていいかな?後、これとこれと、あ、これも」

 

「え。あ、ちょっ」

 

「分かんないことあったら、何でも言って。ちゃんと分かるように教えるから」

 

会議の後、早速仕事の割り振り(彼ら流では「タスク・アローメント」らしい)を話し合ったのだが、何と玉縄、大量の書類を押しつけやがったのである。比企ヶ谷も反論しようとするが、早々に切り上げてビジネス厨二病三人衆の元へ早々に戻りやがった。

 

「議事録まとめまでこっちかよ.......」

 

「ヒキオさぁ、どうにかならないわけ?会計と小学生の対応、買い出しやデータ作成までこっち持ちなのに、議事録まとめはキツいっしょ」

 

「とは言うが、アレ断れるか?断る余地与えずに話切り上げて。無理だろ!」

 

確かにあの状況では、比企ヶ谷の様なコミュニケーション能力に余り特化していない者にとっては無理がある。だが、比企ヶ谷としても黙って終わるつもりはないらしい。

 

「取り敢えず、こっちで提案位はしてみる」

 

「ねぇ、そうは言うけど、アイツらに話通じる訳?」

 

「.......」

 

川崎としては、恐らく謎言語羅列で押し負けると思っているのだろう。まあ川崎以外もそうだ。この場にいる全員が、同じ様に思っている。だがやらなければ始まらない。それを言おうとした時に、以外や以外、戸部がそれを代弁したのだ。

 

「流石に何も言わない訳にもいかないっしょ。こっちから言っちゃえば、後々楽になるかも的な?」

 

「楽にって、具体的には?」

 

「あー、それは、えっと.......」

 

だが、ここまで踏み込まれると流石に無理らしい。ならせめて代弁してくれた事への密かな礼として、助け舟を出そう。

 

「今の現状は、我々としては面倒な事この上ない。奴らはこちらに意味のわからん言葉の羅列を並べて、コミュニケーションを取っているつもり(・・・)なだけで、こっちとの連携は全く取れてない。

となると現状下での最適解は、やはり対話に一塁の望みを託す事だ。まあこれで事態が好転すりゃ苦労しないがな。だがここで提案しておくだけで、後々の状況では切り札になり得る。例えばしくじった時に、こっちは「向こうには提案したが、却下されて出来ませんでした」というお題目が手に入るしな」

 

「そうそれ!俺っちの言いたかった事、全部言ってくれたべ!流っ石、真也くんっしょ!」

 

いや絶対思ってなかっただろとでもツッコミたいが、ここは戸部の面子のためにも黙ってあげた方が良いだろう。だが何はともあれ、するべき事は決まった。

 

「ちょっといいか?」

 

「なんだい?」

 

「あの、流石に中身決めないと仕事できないんだけど」

 

「じゃあ、みんなで一緒に考えよう」

 

思った通り、クソ面倒な答えが返ってきた。みんなで一緒に考えようで決まらないから、こうして提案に来ているのだ。漠然と話し合っても、恐らくこのチームでは一生決まらない。それを比企ヶ谷も示したし、何なら代替案として『やる事絞ってから検討する』というのも出した。だが返ってきた答えは…

 

「でもそれって、視野を狭める事になるんじゃないかな?みんなで解決できる方法を、模索するべきだと思うんだよ」

 

何故こうも「みんな」に拘るのかは知らないが、そればかりに拘って本質が見えてない。今日の会議で小学生を巻き込むのは決定した訳だが、今のままでは小学生は単なる置き物になってしまう。

もし開催日ギリギリで決まりでもしたら、小学生への負担も凄いだろうし、それ以前に余り遅くまで残せない。こっちは高校生だから夜でも平気だが、小学生を夜に歩かせるのは流石に防犯上もそうだし、親からのクレームの可能性も出てくる。

 

「時間もないぞ」

 

「そうだね。それもどうするか、みんなで考えないと」

 

この辺りで比企ヶ谷は、もう諦めてしまった。いや、誰でも諦めるだろう。ここまで話が通じないとなると、もうどうしようもない。

 

「.......わかった。でも、その会議はもうやった方がいい」

 

「OK。なら早速、会議に入ろう」

 

そんな訳で本日二回目の、謎言語飛び交う会議という名の地獄が始まった。で、出た案がこちら。

 

・オーケストラ

・バンド

・ジャズコンサート

・聖歌隊

・ダンス

・演劇

・ゴスペル

・ミュージカル

・朗読劇

・クリスマスケーキ

・プレゼント交換

・クイズ大会

・ジェスチャーゲーム

 

取り敢えずプレゼント交換とか、クイズ大会、ジェスチャーゲームは良案だろう。というかこれ、それぞれ戸塚、戸部、材木座が出した。

だがそれ以外は、見事なまでに準備か練習、或いは両方にあり得ないくらいの時間がかかる。一応、複合案でミュージカル映画なんかも出たが、いずれにしろ時間がないのだ。こんな馬鹿みたいに時間を食う企画は、絶対に選択してはいけない企画だろう。

しかも、これに加えて阿呆な事を言い出したのだ。この手の場合、これだけ出たら多数決を取るのがセオリーだし、というかそうしないと間に合わなくなる。今でも多分間に合わない可能性が高いのに、悪戯に時間を浪費するのは悪手どころの騒ぎではい。にも関わらず、この中から決めずに持ち帰る事になったのだ。

 

 

「で、どうする訳?」

 

「どうするもこうするも、ありゃダメだわ」

 

あの会議の後、長嶺とオイゲンは長嶺が近くに呼んでおいたマスターシロンに乗り込み、鎮守府へと高速を走っていた。恋人となってから初めての2人きりだと言うのに、仕事の話とは味気ない気がするが、それは気にしてはいけない。

 

「何か対策はない訳?」

 

「ああいう手合は、これまで何人も見てきた。一番手っ取り早いのは距離を置く事だが、まあまずこれは無理だから除外。となるともう、主導権を奪うか、傀儡にでもしないと面倒な訳よ」

 

「出来るんでしょ?」

 

「まあ、出来なくは無いが、今はまだ水面下で動くしか無い。というか今動いても、こっちが悪者扱いされる可能性がある。今はまだ、動かぬが吉だ」

 

そう言う長嶺の顔は、何か良からぬ事を企んでる時の悪魔の笑みであった。

 

 

 

クリスマスイベント一週間前 市民会館 

「さぁ、戦争を始めよう」

 

約二週間、長嶺達は耐えてきた。あのクソみたいな謎言語飛び交う、会議の形をした何かをずっと耐え忍んできた。だなもうそんな長い地獄の時間は終わりだ。ここからは、こっちのターンなのだから。

因みに本日までに、何が決まったのかや状況を書いておこう。決まったことはイベントは二部構成にする事で、準備の状況は何も決まってないのに呼ぶだけ呼ばれた小学生達に作ってもらったツリー含む会場の飾り付けが完成しているだけ。念の為に言っておくが、これは約二週間の成果であり、今日は本番一週間前である。え、イベントの内容?無い様です。というか、決まってません。案だけ出して、安定の「みんなで考えていこう」、「ブレストをしよう」で全く進んで無い。

 

「真也、なんだか楽しそうね?」

 

「そりゃな。今日から革命というか、まあ、とんでもなく楽しい事が起きるんだ。今の俺は翌日に遠足を控えた小学生並みに、ウキウキるんるんだ」

 

今の長嶺の顔は、とてもにこやかで穏やかな笑顔を浮かべている。少なくとも『戦争』や『革命』と言う行いに合った顔では無い。程なくして、会議が始まった。

 

「それじゃあ今日も、昨日のブレストの続きからやっていこう」

 

玉縄がそう言った瞬間、比企ヶ谷が立ち上がった。それに続いて、他の生徒会メンバーも立ち上がる。

 

「悪いが、俺達はお前達とやっていくつもりはない」

 

「.......どういうことかな?」

 

比企ヶ谷の言葉に、ビジネス厨二病共はポカンとしている。いきなりの発言に、理解が追いついてないのだ。だが辛うじて、玉縄が動いた。

 

「アンタさ、現実見なよ。本番一週間前だって言うのに、何をやるのかも決まってない。付き合いきれる訳ないでしょ?」

 

「そーだべ。流石にヤバいっしょ」

 

「それにぃ、小学生の子達を呼びつけておいて何も決まってないとか、マジありえないんですけど」

 

「っていうかさ、アンタら日本語喋ったら?ブレストとか言われても、意味わかんないし」

 

「お主ら、流石に我らとて付き合いきれぬわ。ほとほと呆れる」

 

「僕達、君達とは一緒にやれないかな」

 

「あなた達、多分自分のことかっこいいって思ってるんでしょうけど、ダサいわよ?」

 

メンバー1人1人が決別の言葉の代わりに、不満を全部ぶちまけていく。最後に長嶺が締めと言わんばかりに、文句を言った。

 

「テメェらが何しようが、どう失敗しようが知ったこっちゃねぇ。だが俺達巻き込むなら、話は別だ。テメェらと心中は御免被る」

 

「とまあ、こう言う具合なんだ。俺としても同じ意見だ。だから俺達は俺達でやらせてもらう。二部構成で行くのも決まっているし、そっちには一部を。俺達は二部をもらって、それぞれやる。それで行かせてもらう」

 

そこまで言うと、全員が会議室から出て行き、表に読んでおいたタクシーに乗り込んで総武高校に戻った。

 

 

「それじゃ、引き続き仕事するか」

 

この計画は結構前に出来上がっており、既に大半の準備が完了している。因みに今回、こちらがやるイベント内容は小学生によるクリスマスソング(演奏は長嶺、オイゲンが担当)、ケーキの製作と保育園児による配膳と言った感じである。

小学生には早い段階で打診しており、歌自体も歌った事のあるヤツにしてあるので簡単に出来る。保育園は川崎の妹が通ってる保育園に頼んであるし、ケーキに関してもプロ(・・)を手配してある。

 

「にしても、向こうは開催できるのかしら?」

 

「エミリアちゃん、それマジで言ってる?」

 

「アレで出来るのなら、天才であろうよ」

 

普通に考えて、アレで形に出来たら中々に天才である。だが恐らく、それは無理だろう。何せ彼方さんは、謎の言語を交えた会話によって優越感を得るだけであり、話自体は延々と停滞し続けている。しかもそれに気付いてないので、それに気づかない限りはずっと進まないだろう。

 

「あんさぁ、桑田。一つ聞いて良い?」

 

「なんだ?」

 

「アンタが呼ぶっていう、見習いのパティシエって、どんな人な訳?」

 

恐らく薄々勘付いていると思うが、この見習いのパティシエは本物のパティシエではない。長嶺の部下、KAN-SENの1人なのだ。だが幸い今日は非番にしてあるので、連絡すれば繋がる筈ではある。

 

「もしもし、俺だ。.......あぁ。今から行けるか?.......そうだ」

 

許可を取り、通話をテレビ電話に切り替えてみんなに見せる。画面の向こうには銀髪だが、だんだんと黒くなっていく特殊なグラデーションのロングヘアーの美女が写っていた。

 

「彼女の名前はダンケルク。フランス人だ」

 

『こんにちは。ダンケルクよ、よろしくね』

 

パティシエの見習いの正体は鎮守府随一の甘党で、洋菓子を作らせれば右に出る者がいない、ヴィシア聖座の巡洋戦艦『ダンケルク』である。今回は彼女に、ケーキ作りを依頼している。勿論ここまでの事をするのも、あのビジネス厨二病共への細やかな復讐みたいな物がしたいからだ。

 

「真也の言ってたパティシエって、アンタのことだったのね」

 

『そうよ。驚いたかしら?』

 

「いいえ。寧ろ、完璧な人選だと思うわ」

 

いきなりの同僚登場に驚きはしたが、人選としては完璧と言える。何せオイゲン本人も何度か一緒にお菓子作りをした事があるし、鎮守府内で見れる遠征や任務から帰還した駆逐艦なんかに手作りお菓子を振る舞ってる姿は、江ノ島鎮守府の日常の一コマである以上、その腕前は知っている。

そしてここまでガチの編成をしている辺り、長嶺の本気というか、少なからずイライラはしていたというのが分かった。

 

「ダンケルク、紹介しよう。コイツらが今回協力してイベントを運営する、俺の仲間達だ。一応、海浜高校って所との合同だが、そこはスルーしていい」

 

『この間オイゲ、じゃなくてエミリアが言っていた所ね。あなたが私を呼ぶ辺りで、大体分かっているわ』

 

「そりゃな。まあ、本番は頼む」

 

『えぇ。それじゃあ、そろそろクッキーが焼き上がるから失礼するわね』

 

そう言ってダンケルクは通話を切った。長嶺とオイゲンを除き、男女問わずダンケルクの美貌に見惚れていて、通話を終えても少し余韻に浸るほどであった。

何はともあれ最終調整も終わって、無事にクリスマスイベントを終える事が出来た。ダンケルク監修のケーキは大好評だったし、歌も楽しんでくれていた。

で、問題の海浜高校はと言うと、もう凄かった。どうやら最終的にバンドをやる事に決まったらしいが、有志団体を募るもクリスマス時期というのもあって、バンドとして既に動くのが決まっていたりプライベートだったりで全く集まらず、ならばと自分達でやる事にしたらしいが、楽器の手配やら練習やらを数日でやる羽目になり、全くの準備不足でイベントに挑んだ。しかも謎なのが、参加者の中にバンドの経験者どころか、全員が自分が使う楽器の弾き方すら分からないという有様で「よくバンドやろうと思ったな」とツッコミたくなる出来だった。

 

「なんか、勝手に自爆したな」

 

「そりゃまあ、ねぇ?」

 

あの超優しい戸塚ですら、すんごい微妙な表情で第一部を見ていたのだから、どれだけ酷かったか分かるだろう。因みに勿論だが、長嶺とオイゲンの演奏は大好評だった。今回はオイゲンはピアノ、長嶺はギターで行ったのだが、何方もプロ級でお客は愚か市民会館の職員までもが見入っていた。尚、海浜高校は怨嗟の篭った目でガン見していた。

 

 

 

その日の夜 市民会館前

「よーし野郎共!!飯に行くぞ!!!!」

 

この地獄を乗り切ったご褒美に、また『鹿苑亭』を予約した。今からそこに移動するのだが、ここで長嶺はある事に気がついた。

 

「エミリア、先に行っててくれ」

 

「どうしたの?」

 

「後方、約10m。後をつけてくる奴が1人。ちょっとそれに対処してから、そっちに合流するわ」

 

「.......わかったわ」

 

一度オイゲン達と別れる事を装って一団から離れて、全くの別方向へと歩く。どうやら狙いは長嶺らしく、こちらに着いてきた。となれば、やる事は決まっている。そのまま誰も居ない路地裏へと誘き出し、周りに誰も居ない事を確認して後ろを振り返る。

 

「そろそろ、出て来たらどうだ?」

 

「あちゃ〜、バレてたか」

 

てっきり何処ぞの諜報員か、長嶺が総武高校にいる理由となった謎の組織ないし人物かと思ったが、出て来たのは雪ノ下雪乃の姉である雪ノ下陽乃であった。

 

「そりゃバレるだろ。そもそも尾行なんて、複数人でやるのがセオリーだ。1人でやりゃ、すぐに分かる。で、一体何の用ですか?

小学生のガキじゃあるまいし、俺をただ悪ふざけや遊びでここまで尾行した訳じゃないだろ?」

 

「あなたの事、色々調べさせて貰ったわ。でも何も分からなかった。だけどベルリンにいる知り合いがね、ベルリン自由大学附属ギムナジウムの卒業生でさ。君の事を聞いてみたら、何とびっくり。君の同姓同名かつ漢字まで同じ生徒が、知り合いの一個下にいて、在学中の交通事故で他界してたんだよね」

 

「.......何が言いたい?」

 

「君の事を色々調べていくと、何だか可笑しいのよね。記録と記録が、まるで無理矢理切った張ったでパッチワークみたく繋げたみたいな、よく分からないけど、違和感があるんだよねぇ。それに、情報が少なすぎる。まるで透明人間だよ。

でさ、君って一体何者なの?」

 

顔には出してないが、長嶺としては超胃が痛くて顔が歪みそうになる。まずベルリンの件は、嘘だ。俺の顔の反応が見たくて言ったブラフ。桑田真也という男は実在しているが、その男は10年前に老衰で他界している。

しかしヒント無しで確たる証拠はないとは言えど、真実に近いラインまで来れた事は素直に賞賛すべきだろう。だが一方で、邪魔でもある。ごく稀に、こういう輩はいるのだ。偶然であったり、好奇心や探究心でいらぬ所まで知ってしまって、殺さないといけなくなる奴。彼女もその存在に片足を突っ込んでいる状態だ。

 

「答える義務はない」

 

「それに君さ、雪乃ちゃんの地位を壊したでしょ?別に壊すのは構わないし、あの一件は雪乃ちゃんが悪いから文句言うつもりも無いけど、もしも、私が君の責任かのように言ったらどうなるんだろうね?」

 

「言われたくなかったら、本当の事を教えろ。さもなくば本当に言っちゃうよ?って所ですか」

 

「話が早くて助かるよ。で、どうするの?私としては勿論、私に教えてくれる方をオススメするよ」

 

今、陽乃は自分に主導権があると思っている。普通に考えて逃げ場がない以上、要求を飲むのが一番だ。仮に大事にしてしまえば女である陽乃に有利になる場合もあるし、何より親が県議会議員なのだ。普通なら喧嘩を売らずに「はい分かりました」と従うべきだろう。

だが、相手が悪かった。

 

「全く、アンタの勘の良さには敬意を表するよ。だがな、アンタは喧嘩を売る相手を間違えたな」

 

そう言うとズボンの下、太腿の部分に隠してある阿修羅HGを引き抜いて陽乃へと向ける。

 

「何それ。モデルガン?そんなので脅すとか、君、厨二病なの?」

 

「トラブルシュート、B352。各員、所定の行動に移れ」

 

ズドォン!

 

聞いた事もない大きな音が鳴り響き、銃口からは煙が上がっている。それに周囲に花火の時なんかに嗅ぐ、火薬が燃焼した時の独特な香りが漂っている。

 

「へ、へぇ。最近のモデルガンって凄いんだね。お姉さん、びっくりしちゃったよ」

 

そんな事を言っていると、右頬に何か滴っているのに気付いた。そこを指でなぞると、べったりと血がついている。これが意味する事はつまり…

 

「コイツはモデルガンでも、最高に出来たオモチャでもない。急所に撃てば、いや。コイツの場合は急所ではない四肢に撃っても、余裕で四肢を吹き飛ばす本物だ」

 

その言葉を聞いた瞬間、踵を返して陽乃は逃げ出した。暴力の権化たる銃を見せられて、しかも実際に大量の血が頬から流れているのだ。逃げないと不味いなんて事、誰でも分かる。

だが走って5mも経たないうちに、何か見えない壁に当たって弾かれてしまう。次の瞬間には、まるで空間が剥がれ落ちるかのように、その先の景色が消えた。代わりに1人のライフルを持った黒い装甲服を纏った人間が立っていた。

 

「き、君本当に何者なの!?!?」

 

「俺が誰だろうと、何だろうと、お前には関係ない。それより問題は、お前が知り過ぎている事だ。映画みたく、お前を殺す選択肢もある。好奇心は猫をも殺すってヤツだ」

 

「やめて!お願いします、誰にも言いませんからぁ!!全部忘れますからぁ!!」

 

大泣きでそう懇願する陽乃。だが大抵、こう言った奴の半数はバラすのが関の山だ。まだ脅しておかないといけない。

 

「俺達はこの国が持った暗部、ヤクザとかギャングよりも更に深い裏社会に潜む。俺達の目と耳は日本はおろか、世界中ありとあらゆる場所にある。お前がこの事をバラせば、バラした奴諸共、この世から抹殺する。

勿論、血縁者にも言うなよ?アンタの親は県議会議員だった筈だが、俺達は県議会議員よりも遥かに権力を持つ存在を何人も消している。死にたくなけりゃ記憶から消すか、この世から先にフェードアウトするんだな」

 

もう後半の辺りから、泣きながら「すみません」と連呼するだけの機械になってしまっているので、おそらく殆ど記憶に入ってないだろう。となると、別の手段で一応脅しをかけて置いたほうが良い。

 

「まあ、今日のところは見逃してやる。勘違いするなよ?情報を漏らしたり、漏らす危険があると判断すれば即座に殺す。それだけは忘れるな」

 

「は、はいぃぃぃぃ!!」

 

そう言ってさっきの黒い装甲服の人間にタックルする勢いで、大通りへと走り去っていった。

 

「アレでいいんですかい?」

 

そう黒い装甲服の男、もとい第五大隊の隊員、コードネーム「ドラゴ」がそう聞いて来た。

 

「後もう一回、直接的な脅しをかけて終わりだ。ドラゴ、アイツを適当に死なない程度で襲うなり何なりしてこい。やり方は任せる」

 

「それはまた、エゲツないですな。分かりました、御命令通りに」

 

この数時間後、雪ノ下陽乃は自宅付近でバイクに乗った謎の男に、ハンマーか何かで頭を殴られた。命に別状はないが、頭蓋骨にヒビが入る怪我を負った。入院して数日が経つと、差出人不明の花が病室に届いた。同封されていたのは手紙と、1発の7.62x51mm NATO弾だった。手紙には、赤黒い文字で「我々は常にお前のそばに居て、常に牙を磨いている。お忘れなきよう」と書いてあり、警察はストーカー事件として捜査を続けるらしい。

だが陽乃は誰が犯人なのか、全てを理解した。陽乃は恐怖し、もう長嶺に関わるのはやめようと心に誓ったという。

 

 

 

 

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