最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第五十八話2人の馬鹿と犯罪教師

3ヶ月後 総武高校 調理室前

「いよいよだね、ゆきのん」

 

「そうね由比ヶ浜さん。始めましょう、復讐を」

 

あの地獄の合同クリスマスを乗り切って、早3ヶ月。なんだかんだで年末年始を終え、早いもので本日はバレンタインデー。生徒会は新たな催しとして、チョコレート作り講座を開く事になった。一応校内掲示してあるものの、参加者の殆どは生徒会の人間であった。というか正直、調理室を使う口実でしかないので、狙い通りではある。

だがこの催しを、馬鹿2人が利用しようと浅知恵を巡らせていた。その馬鹿は勿論、この学校で2番目の美女(1番はオイゲン)であり去年はずっと学年一位だった雪ノ下、八方美人の脳みそスポンジガールの由比ヶ浜である。どの様な計画かは、また後程、詳しくご紹介しよう。

 

「やっはろー!」

 

「こんにちは」

 

室内にいた全員が固まった。今生徒会にいる在籍している生徒は、ほぼ全員が2人の被害者ないし、間近で行いを見てきた者達。雪ノ下達の方から見れば、ここは一番来たくない場所の筈。にも関わらず、堂々と突入してきたのだ。

 

「一体、何しにきたのかしら?」

 

いち早くフリーズから戻ってきたオイゲンが、理由を聞いた。さっきも言った通り、ここに来ること自体がイレギュラーというか自殺行為に等しい筈。なのに来たあたり、何かあるのだろう。それを知らない事には、色々まずい。

 

「随分なご挨拶ね。ここに来た理由なんて、ひとつに決まっているでしょう?私達だって、歴とした女子なのよ?」

 

「そうそう!私達もみんなと一緒に、チョコを作りに来たんだよ!」

 

全員がまたしても固まった。いつもクールで常に妖艶な笑みを浮かべているオイゲンですら、理解し得ないものを見てしまった様な形容し難い凄い顔をしている。と

いうか実際、全く理解できない。再三言うが、ここにいる人間は2人の悪行、もとい比企ヶ谷への扱いや仕出かしてきた事を全部知っている。普通の思考なら、まず近くに行こうという発想から生まれない。仮に何かの用事で近くに立ち入るとしても、そそくさと用事だけ済ませて引き返すのが普通だろうし、そうしないと可笑しい。なのに、コイツらはそれをしないのだ。普通に恐怖である。

 

「悪いけど、お断りよ。このイベントには生徒会への事前申請が必須なの。校内掲示してあるプリントにも、しっかり注意事項として書いてあるわ」

 

そう言ってオイゲンの見せたプリントには、確かに注意事項の欄に「参加希望者は、2月7日までに生徒会へ参加を申請してください」と書いてある。何処ぞの詐欺まがいの金貸しみたく、小さく見えるか見えないかの大きさで書いてある訳でも、見落としやすい形で書いてある訳でもない。誰もが見ればわかる書き方である。

しかもその下には「尚、飛び入り参加は認めません」とも書いてある。

 

「ここに書いてある通り、飛び入り参加も認めてないわ。悪いけど、帰ってくれるかしら?」

 

「エミリアさん、貴女では話にならないわね。責任者である比企ヶ谷君を呼びなさい。彼と話がしたいのだけれど?」

 

「ヒッキー君は席を外してるわ。それに今回のイベントの発案者はヒッキー君だけど、運営や進行に関しては私に権限があるの。文句があるなら、彼ではなく私に言ってもらえるかしら?」

 

2人もこういう風に断られるのは、全くの想定内。というかシナリオ通りとも言える。なのでもう、手は打ってある。

 

「ヒッパー、雪ノ下と由比ヶ浜の参加は認めてもらうぞ」

 

「.......どういう事かしら、Frau?」

 

2人の背後から現れたのは、なんと奉仕部顧問の平塚であった。正直言って、これはかなりタチが悪い。幾ら生徒会と言えど、やはり教師の方が権限は上だ。ここに長嶺がいれば無理矢理にでも排除できるだろうが、生憎と今日はそもそもの到着が遅れている。昨日、呉艦隊が完遂したインド洋方面の解放作戦についての報告を受けている。じゃあ何もしないのか問われれば、せめて保険くらいは掛けておきたい。

 

「悪いけど、これは規則よ。例え教師であっても、守ってもらわないと困るわ」

 

「なら教師特権だ。2人を参加させろ。さもなくば、私の権限でこのイベントを無理矢理にでも中止させる」

 

やっぱり教師特権という、免罪符を使ってきた。だがこちらも、規則だとは伝えてある。つまり今、平塚は規則を捻じ曲げて無理矢理参加したのだ。今後、何かあってシラを切られても証言ができる。実はちゃっかり録音してるので、仮に更にシラを切っても潰せる。

 

「.......わかったわ。でも飛び入り参加である以上、2人の席はないわよ」

 

「私達も、贅沢を言える立場ではない事くらい分かっているわ」

 

できれば、ここに来てはいけない事も含めて理解して欲しい。だがまあ、それは期待しない方が良いだろう。というか、それ以前に受け入れてくれる奴がいるかが問題である。これまでの事を全部知っているのだ。何か仕出かす可能性が高い事も、容易に察せられる。

当の2人は「チョコ作り頑張ろう!」とか何とか息巻いているが、他の者からしてみれば冗談じゃない。言ってしまえばこれは、一種のババ抜きだろう。

 

「よろしくお願いするわ」

 

「よろしく優美子!川崎さん!」

 

まず毒牙に掛かったのは、三浦&川崎のペア。今出来上がってるペアの中では、一番の攻撃力を持つグループに突撃した辺り命知らずというか馬鹿というか、いやもう、ある意味その勇気は賞賛に値するだろう。

 

「「.......」」

 

「にしてもさぁ、2人とも生徒会入るだなんてビックリしたよ〜。何で教えてくれなかったの?」

 

「別にどうでも良いでしょ」

 

「そうだし。正直、由比ヶ浜には関係ないじゃん?」

 

「そうかしら?でも三浦さんの場合、葉山グループから乗り換えた様に見えるのだけれど?それに川崎さんは校則違反をしていたのに生徒会に入るだなんて、それで生徒の代表が務まるのかしら?」

 

由比ヶ浜はまあ良しとして、問題は雪ノ下だ。煽り性能に全ステータス振りましたと言わんばかりの、的確に地雷という地雷を踏み抜いて連鎖爆発させていくかの如く、華麗かつ丁寧に全部の地雷を踏んでいきやがった。

 

「何、アンタ私達に喧嘩売ってんの?」

 

「雪ノ下さんさー、何しに来たわけ?喧嘩したいわけ?」

 

一触即発で済んでいるだけ、まだマシと言えるだろう。普通に考えて、人によってはブチギレて雪ノ下を罵ってたとしても何ら不思議はない。

 

「ま、まあまあ!雪のん抑えて。私達は喧嘩じゃなくて、チョコ作りに来たんでしょ?」

 

由比ヶ浜の取りなしで、取り敢えずその場は収まった。しかし、この後由比ヶ浜は火に油を注いでいく事になる。

 

「にしても優美子、こうして話すのも久しぶりだよね.......。ほら、クラスじゃあんまり話してくれないからさ。

隼人くんのグループが解散してから、女子も話さなくなったよね。でもさ、私たち女子はなんていうかさ.......。男子とは、その、ちがうっていうか.......、女子だけの仲っていうのがあるわけで.......,。私たちはその.......何も問題なかったじゃん。だって元々、グループのあった頃から私達だけで遊びに行ったりもしてたしさ」

 

 

由比ヶ浜は疎遠になってしまった三浦に対して、どうにか会話の糸口となる突破口を探している。だが当の三浦はどんどん顔色が赤くなっていて、明らかに怒っているのが誰の目でも明らかだった。

まして由比ヶ浜は八方美人とまで言える、空気の読解力に長けた奴の筈だが、まるでその事に気付いていない。恐らく三浦へのアプローチに必死で、顔色を窺う余裕すらないのだろう。そんなのお構いなしに、話を続ける。

 

「だからさ、前みたく仲良くしよ。ほら!葉山くんみたいに「みんな仲良く」みたいn」

「チッ。

あんさぁ、いい加減にしてくんない?何、さっきから由比ヶ浜の言ってる事、全部自分勝手な言い訳じゃん!!大体さ、なんなん!?いきなり来て、無理矢理参加して、静かに作るんじゃなくて、私達の神経逆撫でするって喧嘩したいわけ!?!?」

 

「え.......いや.......私達はチョコを作りに」

 

「なら大人しくチョコだけ作って、こっちに話しかけてくんなし!!!!」

 

完全に三浦がキレた。調理室に響く怒鳴り声に、全ての視線が三浦の方へと向けられる。だが三浦はそんなのお構いなしに、これまで抱えてきた事全部をぶち撒ける。

 

「ていうかそもそも、アンタらここに来る前にやる事あんでしょ!?!?ヒキオに謝罪した訳?してないじゃん!!バカなん!?!?」

 

「待って!なんで比企ヶ谷君に謝る事になるの!?むしろ私達は、比企ヶ谷君に謝ってもらう立場なのよ!?!?」

 

雪ノ下の叫びに、三浦の怒りは消えた。というか理解ができない発言で、思考が停止したのだろう。

 

「ちょっと待ちな。え、何でアイツがアンタらに謝る必要がある訳?」

 

これまで1人傍観していた川崎が入り、雪ノ下にあくまでも冷静に質問した。その質問に返ってきた答えは、想像絶するトチ狂った回答であった。

 

「何でも何も、私達はあのクズヶ谷君のお陰で、全てを失ったのよ?由比ヶ浜さんはグループや友人を。私は生徒会長という栄誉、私が住んでいたマンション、それに自由もね。全て修学旅行で、比企ヶ谷君が嘘の告白をしたのが始まりよ」

 

再び、全員がフリーズした。そんなのお構いなしに、雪ノ下は続ける。

 

「でも、正直、謝罪はあくまで通過点。比企ヶ谷くんの謝罪を通して、あの一連の私達奉仕部を襲った試練は終わり、私達は本物の関係となるのよ」

 

どうやら雪ノ下は狂ってしまったらしい。何をどう発想したら、この思考に行き着くのか、本当に分からない。恐ろしいのは、これをさも当然かの如く一切の疑いを持たず並び立てられてる点だ。しかも救いようがない事に、由比ヶ浜もこの意見に大賛成らしく「だね、ゆきのん!!」なんて無邪気に言ってる。

 

「アンタらがどう思ってるかは、こっちはどうでも良いんだけど。流石にそんな考えを持ってる奴とは、一緒にできる気がしないね」

 

「珍しく今回も同意見だし。2人とも、別の所に行きな!」

 

そう川崎と三浦が言ったものの、まあゴネるゴネる。だが有無を言わず無理矢理引っ剥がして、隣の一色&城廻の班にババは受け継がれた。

 

「そういう事なので、厄介になります」

 

「よ、よろしくね〜」

 

「あ、アハハ.......。よ、よろしくね2人とも」

 

「そ、そうですねー。よろしくです.......」

 

まあ敢えて言わなくても良いだろうが、一色と城廻としては別班にポイしたい。どうせまた、何か良からぬことを仕出かして空気ぶち壊すのが目に見えてる。そんな爆弾を持って、チョコなんて作りたくない。

 

「そう言えば、いろはちゃんとは生徒会選挙の時以来だね」

 

「そ、そうですねー」

 

「そういえば、そうだったわね」

 

一色にとって、雪ノ下と出会ったのはそこであり、由比ヶ浜と本格的に関わったのも実は選挙の時が初めてだった。だが、知っての通り2人は一色の立場を全く考慮せずに、単に依頼の「会長になりたくない」だけを汲み取って、雪ノ下が会長になろうとしていた。

それもあって一色からすれば、雪ノ下は自分の立場を危うく崩壊させ掛けた奴であり、由比ヶ浜はその共犯という認識である。その為、2人とは関わり合いになりたくはなかった。だが、2人がそれを察する筈も無かった。

 

「所で一色さん。あなた、比企ヶ谷君とは関わりが当然あるわよね?だって副会長だもの」

 

「え、そりゃまあ.......」

 

一色は気付いてないが、城廻は気付いた。さっきの言動と今の質問から察するに、恐らく2人は一色に比企ヶ谷との橋渡しをさせる気だと。

まず応じるとは思えないが、仮に応じたと仮定してみよう。応じたとしても、2人に謝罪する事はないだろうし、それ以前に周りが止めるだろう。となると一色の橋渡しは無意味なものになるどころか、最悪今いる人間や間接的に今回の出来事を知った2人の悪行を全部を知っている者から裏切り者の烙印を押され、孤立する可能性すら出てくる。流石にここまで一瞬で弾け出さなくても、少なくとも普通に考えれば一色の立場が危うくなる位は分かるだろうし、というかそういう事を頼むという発想すらないだろう。やはりこの2人、全く成長していない。

 

「なら一色さん、比企ヶ谷君に謝罪させるのを手伝って頂戴」

 

「え、いやです。というかそもそも、なんで私が協力しないといけないんですか?バカなんですか?私にメリットなくないです?」

 

間髪入れずに返された答えに一瞬2人は驚いたが、雪ノ下がすぐに反論する。

 

「あなたは生徒会選挙で、奉仕部に相談した筈よ?こちらから具体的かつ最良の解決案を提示したにも関わらず、それを無視して桑田君達に流れた。その裏切りを許す代償として、私達に協力する。メリットはないけど、これまでの借りをゼロにする良い機会だと思うのだけれど」

 

「.......バカですか。別に私は相談しただけで、先輩の出した案に賛成した覚えはないです。勝手に話進めて、私の話を全く聞かないで、1人突っ走った結果じゃないですか。それを私にどうこう言うのは、流石に暴論だと思います」

 

「でもでも!いろはちゃんなら、分かってくれるでしょ?私達にはヒッキーが必要なの」

 

「いや、それこそ知らないですよ。私、奉仕部の部員じゃないですもん。私は奉仕部に会長がいるとか、別に関係ないですし、奉仕部に入れる義務もありませんから。

っていうか良い加減、黙ってくれませんか?正直、聞くに耐えないんですけど」

 

良い加減、一色も溜まってきたらしい。普通なら先輩である城廻が止めそうではあるが、それをしない辺りやはり城廻も内心では一色に賛成なのであろう。

 

「えーとさ、2人とも本当に何しに来たのかな?チョコ作りじゃなくて、私達に喧嘩売ってるよね?取り敢えずさ、チョコ作りの邪魔だから別の班に行くか、もう帰ってくれるかな?」

 

にこやかに今までで一番ストレートかつ、強力な毒をぶち撒けた城廻。いつもはポワポワしてるタイプで、あまりこういう風にズバズバ言う事はない。だがここまで言った辺り、やっぱり苛ついていたらしい。

だがチョコ作りは諦められないらしく、2人はオイゲンの所に行ってチョコを作る事にした。

 

「よろしくね〜」

 

「厄介になるわ」

 

「.......よく来れるわね」

 

恋は人を惑わすと昔から言うが、この2人は恐らくその中でもトップクラスに惑わされているだろう。というか惑うを超えて、普通に精神に異常をきたしてると言って良い。

 

「にしても、アンタ達、本当に何しに来たの?チョコ作りが目的じゃないわよね?」

 

「いいえ。チョコ作りよ。比企ヶ谷君に謝ってもらって、私達はチョコを渡して私達の愛を伝えるの」

 

ぶっ飛んだ事を言っているが、つまりこう言う事らしい。まずこれまでのゴタゴタ、というか奉仕部の活動で起きたあらゆる諸問題の原因は比企ヶ谷にある。よって、比企ヶ谷はこれを私達に謝罪すべき。そして私達はチョコを渡し、愛の告白を持って3人で楽しく末永く暮らすらしい。

これを聞いたオイゲンは、あまりに現実と乖離した発想にただただ戦慄していた。明らかに支離滅裂であり、普通の精神ならこんな考えに至る事もないだろう。オイゲン自身、KAN-SENという生まれながらにして兵器として戦場を生きる場として定められた身。これまで中々にぶっ飛んだ奴も見た事があるが、この2人はぶっちぎりでそれ以上の物だろう。

 

「所で、何故左手の薬指に指輪をしているのかしら?」

 

オイゲンの左手には、ケッコンカッコカリの指輪を長嶺&マーリンを筆頭とした霞桜の技術者集団が魔改造した『真・ケッコンカッコカリの指輪(仮)』と名付けられている指輪が輝いている。

 

「これは真也に貰ったのよ。去年の選挙の後にね」

 

次の瞬間、雪ノ下はオイゲンの腕を引っ掴み大声で手を上げて叫んだ。

 

「平塚先生!!ヒッパーさんが校則違反をしています!!!!」

 

「そうそう!!学校に指輪付けてくるなんて、ぼっしゅーだよ。ぼっしゅー!」

 

「そうだな!!しかも生徒の模範たるべき、生徒会の人間が校則違反とは、他に示しがつかんからな。没収の上、廃棄させてもらう」

 

「え!?ちょ、なんでよ!!」

 

雪ノ下、由比ヶ浜は自分達が地獄の苦しみを味わっている間に幸せを掴んでいたことへの嫉妬で。平塚は単に男日照りで、結婚なんざ夢の又の夢のそのまた夢のお話しである事での嫉妬でオイゲンの指輪を奪おうとする。

念の為言っておくが、今日は土曜日。学校はお休みであり、そもそもこの学校の校則はちょっと特殊で、高価な物でなければアクセサリーも可なのだ。しかもこの指輪、確かに価値はある意味でトンデモなく高いが、外見上は単なる指輪にしか見えない。である以上、この校則により合法ではある筈なのだ。まあそんな事、この場にいる全員が忘れているが。

 

「アンタら醜いよ!!やめな!!!!」

 

「本当にやめろし!!」

 

「今日は休日なんですよ!?いいじゃないですか!!」

 

「というか完全に、先輩達の嫉妬ですよねそれ!?!?」

 

参加している生徒会のメンバー達が口々にそう言うが、平塚の「うるさい!!お前達も処罰するぞ!?!?!?」の一言でねじ伏せられてしまう。

 

「いやっほー!ようやく始末が.......え、何この状況」

 

そんな時であった。教室の扉が開き、中にアイツが入ってきた。オイゲンの夫(?)にして、オイゲンの上官。そしてオイゲンが最も愛する、世界最強の兵士。長嶺雷蔵が入ってきてしまったのだ。

 

「あら、いい所に来たわね。桑田君、今ここで土下座しなさい。そしたらヒッパーさんを許してあげる。異論は認めないわ」

 

「いやいやいやいや!来て早々、なんで土下座する事になる。アホか?ってかお前ら、よく来れたな」

 

「いいから早くしてよクワタン!!エミリアちゃんどうなってもいいの?」

 

「具体的にどうすんだよ」

 

「そ、それは.......」

 

由比ヶ浜の脅しに1ミリも臆せず、逆に質問を返して反論できなくする。何せ人質取られたとか、もう何度も経験してるし、その経験の中では全て武装した人間が立っていた。今回は武器なんてない。やろうと思えば、すぐに雪ノ下と由比ヶ浜の2人、いや。平塚もいれた3人を無力化して奪還できる。だがしないのは、もう少し状況を見極めたいからである。別に武器ないなら、今すぐどうこうはない。ならゆっくりと考えさせてもらう。と思っていたのだが…

 

「兄貴譲りの.......衝撃の!ファーストブリットォォォォッ!!」

 

なんか平塚が殴りかかってきた。正直、ファーストブリットはよく分からんが、単なる右ストレートである。しかも凡人の極々普通の、何も考えずに単にパンチしてるだけ。別に力の入れ具合だとか、着弾点だとかの計算も一切しないパンチ。恐らく格闘訓練を始めたばかりのルーキーでも何とかできる位のパンチを、まして世界最強の兵士である長嶺が対処できない訳なかった。

 

「あーはいはい。右ストレートですね」

 

拳を受け止めた上、そのまま拳を握り完全に右手を固定した。これで平塚は動けない。

 

「げ、撃滅のセカンドブリッ」

 

「あーそういうのいい、から!!」

 

そのまま横にあった机の方にぶん投げた。平塚は机に身体を叩きつけられて、そのまま机の上を転がっていき、反対側に落ちた。

 

「あのねぇ平塚先生。そんなよく分からん必殺技名叫んでもね、技が追いついて無いんだから単なるパンチにしかならんのよ。そんな必殺技叫んで、凡人の攻撃力あがるならみんなそうするわ」

 

「だ、黙れ桑田!!抹殺のォォォッ!ラストブリット!!」

 

そう言ってまた性懲りもなく殴りかかる平塚。今度はさっきのダメージの影響か、ただでさえ遅い攻撃が更に遅くなって襲い掛かってきた。流石にもう面倒なので、そのまま拳を避けて腕を掴み、背中の方へと捻じ曲げて固める。

 

「イデデデデデッ!!!!!」

 

「弱っ」

 

取り敢えず固めたので、どう拘束してやろうかと考えていた時、ドアが勢いよく開いて、今度は何かヤベェ奴らが入ってきた。革ジャンに黒いフルスモークのヘルメットを装備した、それぞれ2本の木刀で武装した2人の人間が突撃かまして来たのである。

 

「いやもう、今度は何なんだよ。お前ら映画から飛び出してきたのかよ」

 

武装して現れた謎の2人組に、生徒会メンバーは壁際までゆっくりと後退している。だがどうやら、2人組の目標はオイゲンでも生徒会の誰かでも無く、長嶺らしい。一直線に襲いかかってきた。

 

「おっと」

 

平塚の頭をぶん殴って一時的に脳震盪で動けなくさせておき、木刀が当たる前に後退。取り敢えず近くにあったフライパンを両手に持って、カンフー映画の様に構える。

 

(幾ら素人でも、木刀とフライパンじゃリーチが全然違う。だがまあ、相手が剣道が齧ってなければ、攻めまくれば対応できない。だが経験者ないし、勘があれば面倒だな)

 

様子見でまずは2回ほど攻撃を敢えて受けてみたが、全く手応えがない。というか剣の動きが余りに遅い。恐らく、片手で剣の重さを支えきれてないのだ。となればコイツらは身の丈に合わない装備を持ってやってきた、単なる素人。そうなれば話は早い。

 

「行くぞ」

 

1人目の懐に飛び込み、左で剣を受け流す。そのまま右手のフライパンを腹に向かって叩き込みまくって、ある程度怯ませて、そのまま左手のフライパンを額の部分に向かってフルスイング。その衝撃で後ろにあったコンロの角に頭ぶつけて、戦闘不能になった。

 

「おら行け!!」

 

2人目はフライパンをソイツに向かって、両方とも投げて注意をずらさせる。そのまま懐に飛び込んで、ヘルメットを掴み机に向かって釘打ちの如く何度も何度も叩きつける。ついでに口の部分に蛇口をつけて、バルブ全開で水を大量に流入させて、咳き込んだ瞬間に後頭部目掛けて踵落としで意識を刈り取った。

 

「あ、平塚忘れてた」

 

そう言った時には遅かった。平塚は近くの机の下から、包丁を取り出して何故かオイゲンの方に向かって突進していたのだ。

 

「私より先に幸せになる奴なんて死ねぇぇぇぇ!!!!!!!」

 

「ッ!?!?」

 

オイゲンはいきなりの事かつ、周りに由比ヶ浜と雪ノ下も居たのもあって全く動けず、ほぼ棒立ちの状態であった。刺されて死ぬ事も負傷する事もないが、流石にこの場合は死ぬか負傷しないと不味い。人間でない事が露見するのは、流石にヤバい。だが、そんな事は杞憂であった。

 

ガキンッ!!

 

「な、なに!?!?」

 

「教育者として、生徒刺すってのはどうなんだ?あ?ってか、なに俺のエミリアに手ェ出してんだ?」

 

さっき倒した革ジャンヘルメットの持っていた木刀を2本拝借し、2人の間に入って、木刀で包丁を受け止めていたのだ。

 

「貴様、またも邪魔するか!!!!」

 

そう叫ぶ平塚に、長嶺は何も言わずに平塚の腹を蹴り上げて後ろに吹っ飛ばす。後ろの食器棚にぶつかってフラフラしているが、それでも立ち上がって包丁を構え続けた。

 

「これでノビないのか。まあ良い。そうでなくては、俺も楽しめない」

 

そう言うと長嶺は、木刀を上へと投げた。さっきまでは普通に構えていたが、上に投げた木刀をキャッチした時には、最も得意とする逆手持ちの二刀流にして、長嶺雷蔵として戦う時と同じ様に構える。

 

「うわぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

間の抜けたような悲鳴とも取れる叫びを上げながら、一直線に突っ込んでくる。だがその程度で倒せる訳がない。

 

「動きが単調で芸がない。そんなんじゃ…」

 

まず包丁を蹴りでへし折って、太腿、腕、胸、顎、首、頭を順に木刀でぶん殴る。急所やダメージを受けたら動けなくなるくらい痛い部分を全部攻撃されては、流石に動けない。平塚は潰れたカエルのような呻き声を上げると、力無く地面に倒れた。

 

「今.......アンタ.......何、したの?」

 

「敵を倒しただけだが?」

 

恐る恐る聞いてくる川崎に堂々と長嶺は答えた。オイゲンを除く全員が、目の前で起きた惨事に固まる。

 

「ひ、人殺し!!」

 

そう叫ぶ由比ヶ浜。そうは言うが平塚は死んでないし、別に長嶺に取っては殺しは日常。ぶっちゃけ「何を今更」としか思わない。

 

「殺しちゃいねーよ。痛みで動けねぇだけだ。それに、別に俺はコイツが死のうが構いはしない。人殺し?上等。殺人鬼?それがどうした。俺は好きな女を守る為に武力を用いた。しかも相手は包丁で武装してるんだ、別に木刀位で武装したって道理には反さない。それを外野どころか、敵側の立場であるお前が文句言うな。さもなくば、コイツと同じ運命辿らすぞ?」

 

「そ、それは.......」

 

言葉に詰まる由比ヶ浜。次の言葉を言う前に、ドアが勢いよく開いて教師陣と比企ヶ谷が入ってくる。

 

「お前ら大丈夫か!?」

 

「ヒキオ!アンタ、一体何してたわけ!?!?」

 

「何って、来たら何か謎のヘルメットと桑田が争ってたらから、先生を連れてきたんだが.......」

 

そう冷静に説明する比企ヶ谷だが、その隣の教師は大慌てであった。この後、救急車は来るわパトカーは来るわ長嶺は捕まるわで、大騒ぎであった。まあ長嶺は即日開放されて、そのまま鎮守府に帰っているが。

 

 

 

その日の夜 江ノ島鎮守府 長嶺自室

「……というわけよ」

 

「あー、1つ言っていいか?アイツら、馬鹿だろ」

 

オイゲンから事のあらましを聞いた長嶺は、そうとしか思えなかった。何せ言ってる事というか展開する論理が、明らかに頭おかしい上に支離滅裂で、何が何やら。取り敢えず比企ヶ谷に謝らせたいのと、長嶺自身に矛先が向いている事は理解した。

 

「指揮官も大変ね」

 

「全くだ。まあ今回は桑田真也っていう偶像にヘイトが向いてるから、全てが終われば奴らは謎の存在しない男を追い続ける事になるだけだから、こっちの気は楽だがな」

 

「所で指揮官」

 

「なんだ?」

 

オイゲンは徐ろに指揮官の膝の上へと座る。それも普通に座るのではなく、態々身体を横に向けて座った。

 

「私、今日は怖かったわ。危うく、平塚に殺される所だったんだもの」

 

「あー、うん。そうね.......」

 

銃で撃たれるどころか、大砲をぶちかまされても生き残るKAN-SENが何を言うかとツッコミたくなるが、今のオイゲンはその答えが欲しいわけではないだろう。なら、一体どんな話が飛び出してくるのか。そんなの分かりきってる。

 

「あの時の恐怖がまだ残ってるわ。だから指揮官、慰めて?」

 

「.......昨日も5回はシたんですけど」

 

「そうだったかしら?」

 

因みにこの2人、告白というか婚約以降、ほぼ毎日の様にナイトプロレスをやってる。最早理由なんて、単なる言い訳にすぎない。というか理由がなくてもヤる。そして毎回、最初はオイゲンが攻めるか攻めようとするが、すぐに長嶺が持ち前の体力とか諸々で苛烈に攻めるのがお約束。

 

「そうだっつの。まあでも、いいか。風呂行くぞ」

 

2人の姿は脱衣所へと消えていく。この後、どんな事態になったかはご想像にお任せする。因みに7回戦までいったとか何とか。

そしてこの事を葉山が知ったら、一体どんな反応するのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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