最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第五十九話ドッペルゲンガー

バレンタインの一件から3日がたった。平塚と木刀持って襲撃してきた2人は警察に捕まり、長嶺も一応警察に捕まった。平塚は暴行罪と殺人未遂の容疑が。木刀2人は暴行罪と傷害罪の容疑が。長嶺は過剰防衛の容疑がそれぞれ掛かっていた。まあ長嶺は裏から手を回して、無理矢理正当防衛で片付けた。

因みに木刀持った2人は、なんと元葉山グループの大和と大岡であった。恐らく裏で葉山が糸引いてるのだろうが、当の実行犯2人が「自分達で計画して実行した」と証言しているらしい。

 

「で、あるからして。信長の死後、時代は豊臣秀吉の天下統一へと続いていくのである。ではこの……」

 

「一応、平塚の一件やら大騒ぎだった筈なのに、平和な物だねぇ。それよかインフルエンザで休みが多くて、こっちの方で学級閉鎖になりそうとかマジで笑えるわ」

 

てっきり学校が休みになるかと思っていたが、普通にいつも通りの日常が送られている。まあ雪ノ下と由比ヶ浜に関しては、オイゲンにしようとしていた事やら、謎理論から生まれた論理を振り翳していた事まで、あの日言った事とやった事が大体全部広がったついでに、少しばかり誇張されて、なんか凄い事になってる。

例えば「2人はヤク中で、正常な判断ができない」だの「人を人として見ず、何かあれば雪ノ下は親に頼り、由比ヶ浜は寄生先のグループを巻き込んで無理矢理解決する」だの言われてる。前者はともかく、後者は当たらずとも遠からずだろう。

あ、因みにインフルエンザの方は相模&元取り巻きs、葉山を筆頭にクラスの約4分の1が休んでいる。後2、3人休めば学級閉鎖コース確定なので、現在生き残ってるクラス人間は自分がインフルになるか、増えるかしてくれと神に願いまくってる。

 

「ねぇ指揮官。この後、一緒にご飯食べましょう?」

 

「へいへい」

 

「そこ。私語しない!」

 

「さーせん」

 

流石にバレた。一応真面目に受けようと思い、教科書とノートを見ていると、長嶺の電話が鳴った。因みに授業中に電話を鳴らすのは、普通に校則違反である。

 

「誰だ!?」

 

「あ、すみません。俺っすわ」

 

「また桑田か!全く、職員室に後できなさい」

 

教師の言ってるそばで、普通に電話に出る長嶺。先生は本気で怒り出したのか、こちらにズカズカと近づいてくる。だが長嶺が電話に出たのは、掛かってきた携帯が普段使いではなく緊急用の物で、尚且つ相手が副長のグリムだったからである。

 

「どうした?」

 

『長官、舞鶴鎮守府の山本提督が、襲撃されました。現在意識不明の重体です』

 

長嶺は瞬時に悟った。恐らくこの一件が、これまで自分の追いかけていた謎の暗号が指し示していた事、若しくはそれに付随する事だと。ならば、今自分が取るべき行動は決まっている。

 

「おい!!聞いているのか!?!?」

 

「すぐに行く。準備してくれ」

 

『了解しました。私は本部で解析の準備にかかります』

 

電話切って懐に携帯をしまった時、既にその顔は桑田真也の顔ではなく、素顔である長嶺雷蔵としての、それも連合艦隊司令長官としての顔であった。

長嶺は目の前の社会科教師に対して、まるで地獄の底から漏れ出てきたかのような低い声で話す。

 

「先生。悪いが、俺は早退させて貰う」

 

「な、なに!?」

 

「生憎と、どうやらタイムオーバーらしい。大人しく学校で授業受けるなんて、そんな悠長な事はしてられねぇ。じゃあ、これにて」

 

そう言って教室を出ようとするも、社会科教師によって道を塞がれてしまう。

 

「待て待て!理由もなく帰せるか!!点数引くぞ!?!?」

 

「んなもん構うか。引きたきゃ、どうぞご自由に引いてくださいな。別に俺は点数なんて、100点だろうが0点だろうが、心底どうでもいいんでな」

 

先生の脅し文句である「点数引くぞ」も不発に終わり、どうやらネタ切れらしい。だがそれでも止めようとしてくるが、別にどうでも良い。突破すれば良い。まあ流石に今回は世間一般で見れば、こっちが悪いので暴力はなしだ。フェイントをかけてドアではなく、窓からスルリと脱出。そのまま玄関へと走る。

 

「我ながらナイスタイミングだ」

 

玄関へと出た瞬間、呼んでおいた神谷の愛車であるマスターシロンが目の前に丁度到着した。一応到着時間を計算してはいたが、まさかここまでピッタリで来るとは思わなかった。

だが今は、そんな事を考えてる暇はない。すぐに飛び乗り、合流地点のヘリポートを目指す。勿論信号は無視するし、スピード違反もバンバンする。何かパトカーに追いかけられてるが、そんな事気にしない。問題は問題にしなければ問題にならない。つまり、ぶっちぎってしまえば問題にならないのだ。

 

「こっちだ総長!!!!

 

ヘリポートに突入し、迎えにきてもらった戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』に車ごと突っ込む。車の収容を確認した同時に機体は上昇し、すぐにスクラムジェットエンジンに切り替えて、舞鶴鎮守府を目指した。

 

 

 

数分後 舞鶴鎮守府上空

「やっぱ、マッハ6って早いな」

 

「流石レリック!上手いこと作るぜ!」

 

「この機体、傑作。速い強い硬い。全部揃ってる」

 

お忘れかもしれないが、黒鮫は最大でマッハ6を叩き出す超速輸送機である。その為、直線で大体350kmしかない千葉〜舞鶴間は、たったの数分で到着してしまうのだ。

そして今回の任務においては、賊の襲来に備えてバルクの第三大隊、事件の真相究明に向けて鑑識業務を担当して貰うレリックと刑事の経験がある奴やこういう事に強い部下。そして暗殺の線が強い為、ハニートラップの達人として世界中を飛び回った女、暗殺者カルファンを連れてきている。

 

「取り敢えず、東川大臣からは警察もMPも介入させないと連絡が来ている。このまま捜査を始めるぞ」

 

「全く。いつから霞桜は刑事になったんですかい?」

 

「そう言うなって」

 

今回は事が事だけに、全ての捜査を霞桜が独自にやる事になった。単に山本が襲撃されただけなら問題ない。問題なのはその背後が、先程も書いた通り、例の謎の暗号音声を使う奴らだとしたら事件と無関係と考える事はできない。となると警察や憲兵を介入させない方が、何かと楽なのだ。

警察だろうが軍人だろうが守秘義務はある。しかし所詮は人。もし捕まって拷問を受ければ、簡単に吐いてしまう。秘密を隠す上で一番手っ取り早いのは、その秘密を知る人間を最小限に抑える事が一番手っ取り早いのだ。

 

「お、お待ちしておりました!長嶺連合艦隊司令長官殿!!」

 

「朝潮だったな。山本提督の一件だが、俺が全て取り仕切る。よらしく頼む」

 

朝潮はまだ1回しか長嶺とあった事がないが、長嶺が来てくれた事にとても安心した。だがすぐに、その安心感は不信感に変わった。その理由は、まず長嶺の乗ってきた機体。こんな機体、見た事がない。別に航空機に詳しいわけではないが、それでもある程度の航空機は勉強しているので知っている。でも全く見た事がなかった。

極め付けは長嶺の背後に控える謎の兵士達。あんな装備は見た事がないし、何より不審すぎる。

 

「はい!それで、あ、あの、所で後ろの兵士の皆さんは一体.......」

 

「俺の部下だ、安心していい。君達には危害を加えない。だが我々は本来、こうやって見られてしまった者は排除するように命令を受けている。その理由は君のように察しのいい子なら説明する必要もないだろう。

だが今回は敢えて言おう。我々は秘密特殊部隊であり、存在自体が違法だ。それに我々が影にいる事で、国の安寧が守られている。だからどうか、後ろの部隊もあの機体も俺の発言も、全てが終わったら忘れて欲しい」

 

「了解致しました!」

 

朝潮も聞いてはいけないと、とにかくそれだけは理解した。ならば自分の役目は少しでも、上官の上官である長嶺に協力する事。なのでまずは、現場である執務室へ通す。

 

「ここでやられたか。.......火薬の匂いがしないのを見る限り、抵抗の間も無くやられてるし、なにより相手の獲物は格闘か近接武器の可能性が高いな」

 

「提督は発見した時には首から血を.......」

 

「OK朝潮、それ以上言わなくていい。カルファン!別室で話を聞いといてくれ」

 

「わかったわ」

 

流石にずっとここで朝潮に自分の上司が襲撃された現場を見せ続ける訳にもいかないし、何より余りに忍びない。ここは一度、場所を変えてあげた方が気分も少しは落ち着くだろう。取り敢えず同性のカルファンを付けているので、気休めにはなる筈だ。

その間にこちらは現場を捜査する。

 

「にしても、結構派手に飛び立ってんなぁ」

 

「多分この感じ、鋭利な刃物で太い血管を切られたな」

 

現場が執務室なのは先述の通りだが、やはり部屋の中は血だらけであった。床の絨毯は血が乾いて赤黒く変色したシミができてるし、床や壁、本棚と中の本とか資料ファイルにも血痕がついている。

 

「総長、どう思いますかい?」

 

「まあ普通に考えて、プロか身内だわな。ここは世界の命運を握る艦娘達のホーム、鎮守府だ。警備も超厳重だし、中にも大量の監視カメラがある。ここをバレずに行動するとか、俺でも骨が折れる」

 

「なら、身内?」

 

「どうだか。身内だと仮定して、一体どんな理由だ?山本提督は良くも悪くも、武士みたいな性格だ。少なくとも艦娘に手ェ出してるなんて事はないだろうし、仮に厳しく接しられすぎてストレスが溜まってたと仮定しても段階すっ飛ばして殺しには踏み切らんだろうよ。何よりそんなのがあれば、すぐに他の艦娘が分かるさ」

 

だがまあ、疑うに越した事はないのは確かなので、所属艦娘の寮舎の捜索と女性隊員による身体検査を行う事にした。ついでにグリムとレリックが連携して、鎮守府内と周辺の監視カメラのログを洗ってもらう。

その間に長嶺とカルファンは、現場を2人で見ていた。

 

「んでよ、カルファンはどう思う?」

 

「どう思うって、これは間違いなくプロの犯行よ。それも極上の部類に入る、まるで芸術の様な暗殺ね」

 

「その心は?」

 

「全く痕跡という痕跡がないでしょ?勿論この部屋で殺しがあったのは確かだし、血痕もあるわ。でも犯人に繋がる痕跡は一切ない。綺麗すぎるのが逆に怪しいわね」

 

人は必ず、何かしら跡を残してしまうものだ。足跡然り、指紋然り、唾液や髪の毛然り。歩けば足跡は必ず着くし、何か触れば指紋が残る。喋れば唾液は飛ぶ訳で、髪の毛も落ちることははよくある。

だが稀にそういう跡を一切残さない奴もいる。今回はどうやらその、残さないタイプらしい。勿論そういうタイプは探し難いのは事実だが、逆にプロの犯行と絞り込めてしまうのだ。現場が野外のそれも雨とか嵐の後なら痕跡が流れるので一般人でもできるが、今回の現場は屋内である以上、犯人はプロだと断定して間違いないだろう。

 

「やっぱりそうだよな」

 

「あら、ボスも勘付いてたのね」

 

「火薬の匂いがしなかった辺りで分かった。提督には必ず、護身用に拳銃の装着が義務付けられている。なのにこの部屋からは全く火薬の匂いがしない。となると山本提督は、抵抗する間も無く殺された事になる。第一、こんな場所で殺しをやった時点でプロか身内だろうしな」

 

取り敢えずプロなのはほぼ確定したが、いかんせん情報が少なすぎる。というかもう、全く無い。痕跡が無いんじゃ後を追うのも無理だし、目撃証言もない。

 

「多分もう、現場で出来る事はないな。艦娘と職員の事情聴取はやるが、大部分は返してもいいだろう。最低限の人員を残し、本部へ帰投しろ」

 

「了解よ」

 

長嶺は現場での捜査を切り上げ、大部分を本部に返すことを選択。先に部下を返して、自身は山本の担ぎ込まれた病院へと向かった。

 

 

 

数十分後 舞鶴総合病院

「おぉ.......雷蔵.......」

 

病院に到着すると、既に東川が到着していた。その顔は暗く、長嶺も初めて見る顔であった。一目で明らかに悲しんでいるのが分かる。

 

「もう来てたのか。具合はどうなんだ?」

 

「まだ分からん。医者の話じゃ頸動脈と腹部をやられたそうだ.......」

 

「人の急所を抑えてんな」

 

「時に捜査は?犯人は見つかった?」

 

「.......収穫はプロによる犯行って事がわかっただけだ。現場には何も痕跡が無かった。今後は監視カメラの解析による捜査に切り替えて、情報を集めるつもりだ」

 

更に東川の顔は悲壮感漂う物になっており、それだけ山本の事を大切に思っていたのだろう。2人は戦友として、ずっと共に戦ってきたのだ。仕方ない。

暫くして、手術室のランプが消えた。中から医者が出て来る。

 

「無事、一命は取り留めました。しかし予断を許さない状況ではあります。今夜が峠でしょう」

 

「そう.......ですか.......」

 

「先生、どうか山本提督を助けてください。あの人はまだ、海岸には必要なんです」

 

「全力を尽くしましょう」

 

医者にそう言うと、長嶺は出口へと歩き出す。未だに顔を下に向けている東川を、前に向かせてから。

 

「いつまで下を向いてやがるクソ大臣!」

 

「長嶺?」

 

「あの人の強さは、アンタが一番知っているはずだ。それを信じないでどうしますか?

ここは大臣にお任せします。俺は、俺のすべき事をする」

 

そう東川を励ますと、長嶺は外へと歩き出す。それを見た東川もICUに山本が移されたのを見届けると、急ぎ防衛省へと帰還。出来る限りのサポートをするべく、あらゆる伝手と権力を使って情報を集め出した。

一方の長嶺も江ノ島へと帰還し、幹部達との会議を始めた。

 

 

「お前達、取り敢えずの報告を頼む」

 

「ではまず私から。現在、監視カメラのログを洗っていますが何人か、怪しい人物が出てきています。この数人を対象に、より詳しく解析していますが、余り結果は芳しくありません」

 

グリムの報告が上がり、次はレリックからの報告だ。レリックは簡単な鑑識業務と、山本の傷口を確認してもらった。

 

「鑑識からは、何も手がかりはない。でも、犯人の武器は特徴的」

 

「特徴的とは?」

 

「使われたナイフ、普通のじゃない。小型のククリ刀か、ジャンビーヤ」

 

因みにククリ刀とジャンビーヤが何かというと、何方も刀身の真ん中辺りで急カーブしている刀剣類である。ククリ刀はグルカナイフとも呼ばれ、ワンピースのヘルメッポが使ってるヤツである。一方のジャンビーヤはククリ刀によく似た見た目の短剣、ダガーであり主にアラビア等の中東で使われている。

 

「ねぇ、本当にククリ刀なの?」

 

「そう。刺された傷口が、刺した場所からまるで抉り込むみたいになってる。こんな刺し方、普通のナイフ形状じゃ無理」

 

カルファンの顔は非常に不味い、と言うのがよく分かる顔であった。いつもニコニコしてるカルファンが、ここまで露骨に顔に出てる辺り相当ヤバい相手なのだろう。

 

「多分だけど、犯人はドッペルゲンガーって暗殺者よ」

 

「ドッペルゲンガーって、殺した相手に成り代わるのか姉貴?」

 

「ベー君焦らない。でも、正解よ。ドッペルゲンガーの特徴は、相手に成り代わるのよ。文字通りね」

 

カルファンから語られたドッペルゲンガーという暗殺者の話は、中々に凄い物であった。そのドッペルゲンガーの名前の由来ともなった最大の特徴というのが、他人と文字通り入れ替わる事だ。顔、仕草、言動、行動は勿論の事、思考パターンから血液型の様な身体状態まで完璧にコピーしてしまい、コピーされた本人と綺麗そっくり成り代わる事ができてしまうのだと言う。しかもある程度の記憶も観察して覚えている為、例えば家族の様な深い関係の者でも入れ替わった事に気付かないのだとか。

 

「このドッペルゲンガーは他人に成り代わるけど、暗殺の仕方だけは絶対に変わらないの。彼の獲物は、ジャンビーヤよ」

 

「とすると不味いですね。そのドッペルゲンガーとやらが犯人と仮定して、それを見つけ出すのは至難の技でしょう。しかもドッペルゲンガーに関しても、今回の襲撃事件に関しても一切情報が無い以上、罠を貼ることも出来ない。総隊長、どうなさいますか?」

 

マーリンの言う通り、とにかく状況は非常に不味い。よくある『一か八かの賭け』なんて事も、今回の様に情報が無いんじゃ賭けのベットを何処にすれば良いのか分からない。言うなればギャンブラーと掛け金はあっても、カジノが無いのだ。これでは賭けのやりようがない。

ならば今出来るのは、自分の中で恐らく繋がってるだろうという物に縋る事だろう。その恐らく繋がっている物というのが、総武高校に潜入してる理由となった『総武高校、暗殺計画、まもなく開始、戦闘員は帝国海軍の』という中国語が話されていた謎の音声記録である。

 

「こうなったら例の音声を元に考える。暗殺計画が山本提督の物だと仮定して、狙われてるか関係している可能性が高いのは総武高校と帝国海軍だ。流石に総武高の生徒と教職員全員に隊員を張り付かせるのは無理だから、せめて各基地に一個分隊を護衛にあたらせろ。こっちで話は通す。

最後に各員に仕事を割り振る。グリム、レリックは引き続き監視カメラのログを洗った捜査を頼む。また総武高の生徒と教職員の監視も監視カメラとかでやってくれ。マーリン、バルク、ベアキブルは派遣部隊の編成と、不足の事態に備えてローテション組んで待機してくれ。カルファンはドッペルゲンガー含む暗殺者の詳細をピックアップを頼む」

 

「親父。よろしいですか?」

 

「どうした?」

 

「例の坊主、比企ヶ谷にも監視をつけませんか?」

 

ベアキブルの提案に全員が驚いた。だがベアキブルがこういう場で冗談を言う事はないのを知っているからこそ、どういう理由かを聞いた。

 

「例のそのドッペルゲンガーが犯人なら、比企ヶ谷に入れ替わってる可能性もあるんじゃねぇかなと。もしそうだとしたら、かなりヤバいんじゃないですか?」

 

「確かにな。一応、2人監視をつけろ。本人には護衛だと言っておく」

 

「頼んます」

 

会議は終わり、幹部である大隊長達は自分の任務へと移る。長嶺も執務室へと行き、緊急でオンライン会議を招集する旨を各基地に伝えた。

丁度そのタイミングで、比企ヶ谷とオイゲンが入ってきた。

 

「あら?珍しいわね、あなたがしっかり軍服を着るなんて」

 

「あぁ。で、どうしたんだ?」

 

「どうしたも何も、指揮官いきなり帰ったじゃない。その理由を聞きに来たのよ」

 

そういえば理由をまだ説明してなかったのを、オイゲンから言われて初めて思い出した。都合のいいことに比企ヶ谷も居るので、山本が襲撃されて生死の境を彷徨っていること。恐らく今後、帝国海軍か総武高校が危険に巻き込まれるか暗殺者が潜んでいること。現在霞桜はこの事件の捜査に当たっていることを説明した。

 

「なぁ、それ俺が聞いてよかったのか?」

 

「ぶっちゃけ本来は聞いちゃいけない部類だが、ここからはお前にも関係がある。我々は現在、お前を監視対象としている。事件解決までは一時的に、こちらの監視下に入ってもらう。勿論普通に生活して貰って構わないし、何よりお前を疑っているわけではない。あくまで護衛として、お前を監視下に置くだけだ」

 

「そうか。わかった。事件、解決するといいな」

 

「あぁ。ありがとう。そろそろ会議の時間だ、悪いが出ていってくれ」

 

2人共外に出て貰って、長嶺は椅子の膝掛けにあるコントロールパネルの蓋を開ける。その内の1つをタップすると、目の前に巨大なモニターが降りて来た。更にタップすると電源が入り、顔認証でIDとパスワードが自動入力されてオンライン会議上に入る事が出来た。

暫くすると全員が入ったので、今回の事件の概要とその他諸々の連絡事項、そして護衛をつけることを報告した。河本派閥からの反発はあったが、安全の為と無理矢理押し通したので問題ない。

次の日からは長嶺の様々なツテを使って情報集めに入る。

 

「もしもし張のおっちゃん?」

 

『おぉ!煉獄か!!』

 

まず電話をかけたのは中華民国陸軍総司令長官の張趙雲である。この男は表の男だが、知っての通りかつて中華民族解放戦線の幹部であり香港革命を起こしている。その頃の情報網は裏にも深く伸びているので、表の人間でありながら色々分かるのだ。

 

「おうよ。悪いが色々立て込んでてな、要件だけ言わせてくれ。ドッペルゲンガーと呼ばれる暗殺者について、何か知らないか?」

 

『ドッペルゲンガー!?おまっ、えぇ!?何処でその名前を知ったんだ!?!?』

 

「悪いが言えない。だがある理由につき、ソイツを追い掛けている。情報が欲しいんだ」

 

『.......他ならぬ、かつての同志の頼みだ。分かった、すぐに調べよう。だが時間をくれ』

 

「頼む」

 

そう言って電話を切った。次はロシアの情報屋であるイワンコフ、中東の反政府組織の首領ムージャ、ドイツの情報屋シュトラッサー、イギリスの裏世界に強い諜報員であり、横山の粛清の際に情報を流してくれたアンダーソン、フランスの情報通ルイージ、南米全域にシマを持つカラーギャングのトップ、ボス・ラーチ、アメリカマフィアのボスをしてるトニー等々、あらゆる国の裏社会に通じる組織ないし個人に片っ端から電話をかけて情報を1週間かけて、とにかく集めに集めた。その結果として分かったのが以下の通り

 

・ドッペルゲンガーが化けられる範囲は限りがなく、場合によっては子供にまで化ける。勿論特定の場合かつ様々な条件が揃わないと無理だが、一応できる。

・血液検査や指紋認証といった生体認証でも見破るのは不可能。だが記憶までは完璧には引き継げないので、本人や近親者しか知らない物を用いれば見破る事はできる。実際過去に一度、その手段を使われてバレた事がある。

・どういう訳か成り代わった者の死体はこれまで一度もあがった事がない。上がるのはいつも、ターゲットの死体だけ。かといって成り代わった人物が生きてる訳ではなく、殺されているのは確か。

・本名はもちろん、性別や出生は謎。獲物もジャンビーヤとされているが、実際の所は不明。

・最後の仕事は去年のアメリカ下院議院議長の暗殺。それ以来の足取りは不明。

・仕事の頼み方に関しても不明。

 

一応情報は集まったが、それにしたって情報が少なすぎる。やはり秘密主義なのか、基本的に『不明』が目立つ。カルファンが集めた情報も基本的にはこれと変わらず、正直打つ手立てはない。

 

「これ、どうしよ。取り敢えずの方向こそ見えてきた気がするが、これじゃ一寸先が闇っつーか、方向感覚すらも失いかねんっつーか。どうしたもんかね」

 

「お悩みの様ですね、提督」

 

そう言って入って来たのは、初めて長嶺の持った艦娘である大和であった。大和の手にはお盆があり、その上には湯気の上がる温かいお茶がある。

 

「お悩みも何も、これどうしろってんだよ。情報はゼロ、そもそも透明人間ばりに痕跡すら残さない。実質、痕跡残さないのが唯一の痕跡だ。これじゃ特定の仕様がない」

 

「差し出がましいですが、提督。一度全てリセットするのはどうですか?」

 

「り、リセット?」

 

「はい。私も悩んだ時は、一度考えをリセットするんですよ。そしたら不思議と、どうすれば良いのか分かるんです」

 

大和の言葉はまるで、目の前に一筋の光が刺したかの様に一気に頭の思考が回転を始めた。そう。言うなれば道が変わったのだ。

 

「.......やっぱりお前は、俺の最高の艦娘だわ。マジでありがとう、大和」

 

「私は何もしてませんよ」

 

「いいや!お前は今、俺に一筋の希望をくれた。よしっ!!!!」

 

熱いお茶を一気に飲み干し、パソコンと向き合いながら情報と格闘する。そして耳にはイヤホンをつけて、あの音声を流す。もし音声ログを元に、これまでの情報や状況をフィードバックしていくとすると、きっと何処かに何かがある筈だ。そしてその何かこそが、答えかその近道になる筈だ。そう信じて、長嶺はとにかく格闘した。

 

(あの音声テープで分かったキーワードは『総武高校』、『帝国海軍』、『暗殺計画』の3つ。そして襲撃した奴は恐らく、ドッペルゲンガーという凄腕の暗殺者だ。暗殺計画は取り敢えず置いておいて、2つのキーワードとドッペルゲンガーについて考えろ。俺は関係者か被害者になる者が含まれていると考えた。そして全員を監視対象とし、総武高校組はカメラで。海軍には部隊を派遣した。

いや待て。ドッペルゲンガーは他人に成り代わる。完璧に模倣する。だが無論、遠隔で殺人なんてできない。山本提督は腹部と頸動脈をナイフ、それもジャンビーヤという珍しい物で攻撃されている。これを遠隔でするとなると、ロボットが必要だ。だがそんなロボットを使えば、普通にバレる。となると本人が直接やった事になる。怪しいのはあの時間、いや。それよりもっと前、当日のアリバイが無かった者だ!!)

 

そう、長嶺含め霞桜の全員が忘れていたのだ。警察であればあり得ないミスだが、彼らの主任務はあくまで戦闘と情報収集。警察業務である犯罪捜査は、汚職とかそっち方面の操作しかした事がない。それに加えドッペルゲンガーという巨大な存在によってできた影に隠れてしまい、最も初歩的なアリバイ捜査を失念していたのだ。

 

「俺とした事が、バカだな」

 

ここまでくれば話はとても早い。監視カメラのログであの日、総武高校を休んでいた者を調べ出す。後はその足取りを分析していくだけで、ある程度何をしていたかは予想がつく。

するとある1人が、何やらおかしな行動をしているのが分かった。その人間は暗殺が起きた日に、インフルエンザで休んでいた筈だ。病院や薬局に行くでもなく、スーパーにも行かずに向かった先は新幹線の駅。そのまま新幹線と電車を乗り継ぎ、向かった先はなんと暗殺現場の舞鶴であった。その人物の名は…

 

「まさか、相模がドッペルゲンガーなのか.......」

 

そう。この間あった文化祭において、長嶺にフルボッコにされた全く仕事できない系委員長、相模南である。彼女は冒頭にもある通り、インフルエンザにやられて休んでいる。なら、ここにいるのは可笑しい。もしかしたらサボって舞鶴への可能性もあるが、それにしたって色々可笑しい。

 

「家宅捜索するか」

 

グリムを呼び出し、家宅捜索する為の策を練った。警察なら裁判所から許可が降りれば、相手が幾ら断ろうと問答無用で家に押し入る事ができる。だが霞桜は公には存在しない秘密部隊。しかも管轄が警察とは違い、一応は防衛省とか新・大日本帝国海軍となる。というかそれ以前に、裏の部隊が表の組織に助力を求めるなんて出来るわけがない。

そんな訳で、何か策を練らないと家宅捜索が出来ないのだ。その結果生まれた方法というのが、相模の家周辺一帯にガス漏れが発生した為、一時的に対象地域の住民を避難させるという物。その為に色々準備して、翌々日に作戦を決行した。

 

 

 

翌々日 相模自宅周辺

「よーし、いい感じに一帯から人が消えたな。これより、内部に侵入する」

 

長嶺と数人の人間を連れて、玄関から堂々と家に入る。霞桜にはどんな鍵穴にも対応できる特殊な鍵が配備されており、南京錠だろうが最近の穴ぼこの鍵だろうが、鍵穴があって正常に回るなら、普通に突破できてしまうのだ。

 

「取り敢えず適当に部屋を探り、それっぽい部屋を探すぞ」

 

「「「了解!」」」

 

靴にビニールを巻いて、そのまま家へと上がる。リビング、和室、床下収納、階段下の収納、脱衣所&風呂、トイレと1階は空振り。2階にあがってみると2つの部屋があった。片方には態々「みなみ」と可愛い文字で書かれた札が下がっている。

 

「ここだな」

 

扉を開けて部屋に入ったが、少なくともパッと見は普通の女子高校生の部屋。化粧道具に鏡、机、ライト、カーペット、クッション、PC、タンス、ベッド等々、ごく普通のありふれた部屋である。

だが部屋の隅をよく見てみると、謎のテープの跡があった。そしてカーペットを剥がすと、床に切り傷が入っている。

 

「なんですかね、これ」

 

「テープに床に傷。繋がらないっすね」

 

「いや待て!」

 

長嶺は下の風呂場へと走り、排水溝を外した。そして中をライト照らす。排水溝の奥に、何か赤っぽい物が見えた。それを慎重に長いピンセットで拾い上げる。

 

「やっぱりか」

 

「総隊長、何を見つけたんですか?」

 

「肉片だ。俺はドッペルゲンガーの情報で、一つ気になった事があった。暗殺した奴の死体は上がるが、成り代わった者の死体は上がった事がない。流石に人を何人も跡形もなく消すなんて、早々できる芸当じゃない。

一応薬品とか溶鉱炉で溶かすとか、動物に食わせるとかあるにはあるが、田舎とかならいざ知らず。こんな住宅街のど真ん中で出来る事じゃない。だがもし、流せたらどうだ?」

 

隊員達の顔から、血の気がサーッと引いていくのが分かる。気付いてしまったのだ、人を流して消してしまうやり方を。

 

「まず毒殺、絞殺、心臓麻痺、取り敢えず血の出ないやり方で相手を殺し、後はバラバラに解体して細かく刻み、トイレとか風呂の排水溝へと流す。こうすりゃ人は見つからないって寸法だ。まあ鑑定しない事には分からんがな」

 

この後、さらに排水溝から見つかった肉片を回収し、パソコンのデータも全部コピーして江ノ島へと帰還。パソコンのデータはグリムへと渡し、解析してもらう。その間に長嶺は白衣に身を包み、自らDNA鑑定を行っていた。

最近忘れられがちだが、一応長嶺は既にハーバード大学院の医学博士の資格をゲットしている。外科手術からこういう鑑定作業まで何でもこなせるのだ。

 

 

「やはり、か」

 

鑑定の結果、相模のDNAと97.56%合致した。まず間違いなく、相模の物だろう。しかも見つかった肉片は、正確には肝臓の断片であることも分かった。普通に考えて、肝臓の肉片が排水溝にあるなんてあり得ない。まだ脚とか腕の肉片なら、偶々怪我をしたという可能性もある。だが内臓ともなれば、それはもう言い逃れは出来ない。

 

「そ、総隊長殿!!」

 

「どうした?」

 

研究室にグリムが血相変えて飛び込んできた。察するに、パソコンのデータから何かとんでもない情報が出て来たのだろう。

 

「例の相模南、いえ。ドッペルゲンガーですが、奴は恐らくシリウス戦闘団と繋がりがありますよ」

 

「なんだと!?!?」

 

「メールの記録にシリウス戦闘団に関する記述がありまして、ドッペルゲンガーはシリウス戦闘団かその関係組織に雇われたと思われます。またシリウス戦闘団かは分かりませんが、基地の場所も書かれています。どうないますか?」

 

「.......決まっているだろ?その基地全てに奇襲を仕掛けた後、ドッペルゲンガーを確保する!!決行は明日だ。部隊を集めろ!!!!」

 

「ハッ!!」

 

こうして、この事件に終止符を打つ時がようやく来た。事件発生から今日まで学校は休んでいたが、明日はドッペルゲンガーを確保する為に行く事になるだろう。

だが、長嶺達は知らなかった。明日は霞桜にしても、江ノ島鎮守府にしても、長い長い1日となることを。そして伝説が再び蘇り、災厄を齎す事を。

 

 

 

 

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