最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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先に言っておきます。今回は真面目に本作で一、二を争う胸糞回です。ご注意の上、ご覧ください


第六十一話煉獄の主人

数分後 江ノ島鎮守府 飛行場

「こ、コイツはひでぇ」

 

目の前に広がる江ノ島鎮守府は、文字通りの廃墟であった。あちこちで火の手が上がり、飛行場の滑走路含め、道はボコボコ。至る所に死体が転がり、肉片と血が飛び散っている。百戦錬磨の霞桜の隊員達も絶句していた。

 

「各員、消火急げ」

 

幸か不幸か、地下にある霞桜の司令部は生き残っている。それに飛行隊に関しても、定期哨戒に出ていて各部隊の無事は確認できている。

だが警備の歩哨や職員はほぼ全滅と言っていいだろう。

 

「親父」

 

『雷蔵!?大丈夫か!!いいかよく聞け、今江ノ島鎮守府は』

 

「燃えている、だろ?あぁ、知っている。というか単に燃えただけなら、何兆倍もマシだったよ.......」

 

そこで東川は悟った。長嶺が深い悲しみと怒りを感じている事を。しかもこれは、ちょっとやそっとではなく、マジギレを超えた状態。こういう時の長嶺は、全てを破壊し尽くす破壊の権化へと変わる。

だがそれよりも、今は「単に燃えた方がマシ」という方が気になる。

 

『何があった?』

 

「河本がクーデターを起こした。恐らく国ではなく、俺に対する個人的私怨からの俺に対するクーデターだ。奴は江ノ島鎮守府を襲撃し、職員を恐らくほぼ皆殺しにし、艦娘とKAN-SENを連れて行った。どういう訳かシリウス戦闘団もバックにいるし、髑髏兵も使うしで、正直何が何だか」

 

『なんて事だ.......』

 

ここに来て、霞桜がずっと追いかけていた謎が、最悪の相手と共に出て来やがったのだ。というか東川自身、話が余りに飛躍しすぎていて混乱している。

 

「親父、今までありがとうな」

 

『おまっ!まさか、アレを使うつもりか!?!?』

 

「それ以外、何があるよ。悪いが今回は、あの時と同じくらいキレている。かつて、友と呼んだ3人を殺した上層部のクソ共に報復を誓ったのと同じくらいに。彼女達を救い出して、何が何でも連れ帰ってやる」

 

『馬鹿者!!そんな事をして、みんなが喜ぶのか!?!?お前の友達は!?艦娘!?霞桜は!?KAN-SENは!?喜ばないだろうがッ!!!!考え直せ!!』

 

「それが掟だ。アンタが俺の親父でも、防衛大臣でも、これは覆せない。だから、すまんな」

 

そう言うと、長嶺は半ば強引に電話を切った。そして背後から走ってくる気配を感じたので振り返ると、そこには留守にしていた遠征組の旗艦、鉄血の超巡『ローン』がいた。

 

「指揮官!一体何処の深海棲艦がこんな事をしたんですかぁ?」

 

「詳細は後から話す。今は帰ってきた奴等を、飛行場に誘導して待機していてくれ。正直俺も、まだ全容は掴めてないんだ」

 

取り敢えずその場はそれで終わらせて、まだ帰ってくるであろう遠征組を飛行場で待機せておく。数時間後には火も完全に消し止められたものの、復旧には時間がかかる。

だがそれでも、みんなを一度飛行場へと集めた。

 

 

「全員、よく聞け。この惨事を引き起こしたのは深海棲艦でも、セイレーンでもない。佐世保鎮守府の提督、河本がここに攻め込んできたからだ。ここにいる以外の艦娘とKAN-SENは、全員連れ去るというオマケも付いている」

 

事情を簡単に説明するや否や、遠征で出ていた艦娘の矢矧、暁、響、雷、電、浜風、磯風、浦風。KAN-SENのローン、ワシントン、リットリオ、土佐、シェフィールドが艤装を装備しだす。それに合わせるかの様に霞桜の面々もメットを被り、銃にマガジンを挿してコッキングレバーを引く。

 

「お前達、何をするつもりだ?」

 

「勿論、奪還するんですよぉ?指揮官もそう命じるでしょうから、先に行動してるんです」

 

そうローンが言うが、長嶺はそれをすぐに否定した。

 

「悪いが、今回は俺1人でやる」

 

全員が信じられないという顔で、長嶺を見た。当然だ。今の長嶺は武器がない。単に完全武装の兵士だけなら、恐らくどうにかできるだろう。だがしかし、相手には髑髏兵という無茶苦茶なヤツもいる。それを1人でどうこうするのは、流石の長嶺でも自殺行為に等しい。

 

「お前達には、これまで黙ってきた事なんだが、俺はな、普通の人間じゃない。勿論、艦娘の力を宿している事を言ってるんじゃない。俺は生まれ落ちた時から、既に人外みてぇな能力を持った特殊な人間だ。今回はそれを使う」

 

八咫烏と犬神は何かを察したのか、全力で止め出した。それはやめろと。それをしたらどうなるか、一番わかっているはずだと。考え直せと。概ね、東川の言っていたことと同じ事を言う。

 

「悪いな。だかな、これが俺のケジメなんだわ」

 

そう言いながら、長嶺は懐から真っ黒な所々破れた御札を取り出した。紋様や文字は白や金ではなく、赤黒い溶岩の様な色で描かれている。

それを指で挟みながら、顔の前で呪文の様な事を喋り出した。

 

「我願うは、大和民族の火焔なり。この身は火焔と一体となり、全てを破壊し尽くす破壊者となり、全てを滅さん。八百万の神々とて、我が火焔は止められず。この火焔は天に、地に、海に、山に巡りて、全てを焼き尽くす。我、眼前敵を排するその時まで、火炎と成り、例え果てようと悔いは無し」

 

そう言うと、黒い御札が空高く飛んでいった。風も何も無いし、別に長嶺がぶん投げた訳でも無い。だが飛び上がった御札は海の方にまで移動すると、急に大きな火炎となった。そしてその中から、巨大な炎を纏った巨大な鬼が現れたのである。

ここにいる霞桜の面々と艦娘は、その姿に見覚えがあった。KAN-SEN達がこの世界にやってきて、みんなで協力してオロチを倒した時。あの時に長嶺が覚醒した時に廃墟の都市と共に出て来た4体の内、刀を持った鬼だったのだ。

鬼は長嶺の方を見ると、吸い込まれる様にして長嶺の身体の中に入った。そして長嶺の身体が空中へと浮き上がり、身体中から炎が噴き出す。その炎が身体を包み込み、それが消えると、真っ赤な装甲服に金色のラインが入った装甲服を見に纏った長嶺が浮いていた。さらにその背後には、いつか鎮守府に襲撃してきた長嶺と互角の戦いを繰り広げた男が装備していた空飛ぶ剣があった。それも数本ではなく、見るからに700本近くある。

 

「そんな.......あり得ない.......」

 

その姿を見ていた霞桜の隊員の何人かが、膝から崩れ落ちたり顔を手で覆ったり仕出した。無論、他の隊員は何が何だか分からない。

 

「何か知っているのですか?」

 

「ふ、副長。アレは多分、信じられないんですけど、煉獄の主人です.......」

 

この名前を聞いた何人かは、その名前を口にした隊員の方を向いた。振り向いた隊員達は元々は、アジアや中東で傭兵として活躍していた過去を持つ連中で、どうやらその地方にある話らしい。

 

「なんだその、煉獄の主人っつーのは。総長がそれなのか?」

 

「煉獄の主人。大体韓国と北朝鮮が滅んだ時、それから香港革命の時期に活躍したとされる存在です。その力は話がバラバラすぎてよく分かりませんし、何より戦場によくあるフーファイターかと思っていました。

でも共通している事があります。それは赤の装甲服、背中に空飛ぶ剣、そして炎を操る点です。今のを見る感じ、恐らく総隊長は.......」

 

この隊員の言う事は正しかった。そう。長嶺はかつて、韓国と北朝鮮、そして中国を滅ぼしている。そして中国を滅ぼす際に黒腕の張の反乱軍と協力し、滅ぼす事に成功した。しかし最後の最後で、仲間であった3人と死別したのである。

 

『グリム。機体を準備し、佐世保に派遣しろ。しかし手は出すな。あの基地にいる全員を殲滅した後、合図を送る。そしたらみんなを回収してくれ』

 

「わ、わかりました。総隊長殿、お気を付けて」

 

長嶺は満月の夜の中、大空へと飛び立つ。目指すは佐世保鎮守府、愛しい最高の仲間(かぞく)たち。そして河本山海の首!!

 

 

数時間後 佐世保鎮守府上空

「敵は歩兵一個師団、戦車も装甲車もいる。防衛火器もあるな。だが、あの地獄に比べればザルもいい所。さぁ、宴の時間だ」

 

長嶺の顔は鬼の面で表情は読めないが、その下では悪魔の様な笑みを浮かべていた。長嶺自身、最後にして久しぶりの大暴れなのだ。楽しみで仕方ない。

それに何故だろう。いつも嫌な、消し去りたい位憎いはずの満月が、今日だけは昔の様に綺麗に感じる。長嶺は月を一瞥すると、そのまま両手を上へと掲げた。

 

「焔槌!!!!」

 

空中に巨大な炎の円柱が10本形成され、それを振り下ろす。振り下ろされた円柱は地面に突き刺さると、周囲に炎を撒き散らしながら爆発し、下にいた戦車と歩兵を一瞬の内に炭化させた。

建物の中から兵隊共が出て来たので、その前に降り立ってやる。兵隊共はその姿を見て、文字通り恐怖した。

 

「煉獄の主人」

「国堕とし」

BIG CATASTROPHE(大災厄)

「移動灼熱地獄」

「破壊神」

「炎鬼」

 

兵士達は口々に、かつての長嶺の二つ名を言い出す。それを聞いた時、何故か長嶺は笑みが溢れた。

 

「そうだとも。我こそが煉獄の主人!!アマテラス・シン!!!!」

 

かつて、長嶺の名乗った名前。コードネームであり、この状態に於ける本名とでも言うべき名前だ。この名を口にしたのも、何年ぶりだろうか。

 

「狼狽えるな!!!!煉獄の主人だろうと、戦え!!!!かつての祖国を、我らの理想を取り戻すのだ!!!!!!構え」

 

そう叫んだ兵士の首は、ボトリと地面へと転がった。首の飛んだ兵士の後ろの壁には、赤く輝くビームの刀身を備えた剣が刺さっている。

 

「テメェら雑兵以下の雑魚が、この俺を倒せるとでも?」

 

恐怖に顔が歪む兵士達。だがそんなのはお構い無し、腕を伸ばす。

 

「ソードビット」

 

次の瞬間、背後に控える他の剣達が一斉に兵士達へと突撃する。身体中を引き裂かれ、貫かれ、壁に血肉を飛び散らし、ズタズタになったパーツごとになった死体が崩れ落ちる。

 

バタバタバタバタ!!!!

 

ローターの爆音と物凄い風を感じ振り向けば、戦闘ヘリのWZ10がこちらを狙っていた。

また腕を伸ばせば、今度は背中の剣が緑色に変色しビーム砲の様に変形する。

 

「ビームビット」

 

そのビーム砲から、赤いビームが連続して発射されてヘリを穴だらけにして撃墜した。

 

「UAVまで出すのか?大盤振る舞いなのは嬉しいが、芸がない」

 

今度は大型のUAVまで飛来したらしい。ビームでも倒せなくは無いが、こういう場合は別の手段がある。

手を野球ボールを握る様に3本の指を立てて、UAVの方へと振り下ろす。

 

「焔龍!!」

 

その瞬間、空中に真っ赤な炎で形成された龍が現れて、口からUAVを飲み込み体内で爆発させた。更にその龍は鎮守府に隣接されている飛行場へと飛んでいき、そこにある全てを破壊し尽くす。輸送機も戦闘機もヘリコプターも全て、口から炎を吹いたり、身体を地面に叩きつけて轢き潰したりしている。

因みにこの龍の見た目はファンタジーのドラゴンではなく、応龍の様なアジア系のドラゴンである。

 

「う、動くな!!」

 

「あ?ははっ、その程度止まると思ってんのか?」

 

「な、舐めるなよ!俺は中東で何人も人をッ!!」

 

長嶺の前に出た勇気ある男は、自分の腹に激痛が走った。見れば長嶺の腕から剣が飛び出ていて、それが腹に刺さっているではないか。それを見た瞬間、一気に血の気が引いて力が抜けた。

 

「悪いが俺はそれ以上殺したんだわ。国を滅ぼしてるからな」

 

その言葉が耳に入った瞬間、刺されたのは全く別物の痛みが刺された場所の周囲に走る。

この剣は突き刺した相手に、自動的に「焔菫」を発動させるのだ。この焔菫は、簡単に言うと炎で出来たバイオレットカンディルを体内に流し込む技で、体内に入ったカンディルは中から対象を貪り食う。男は激痛に悶え苦しみ、腹から出せる内臓全部出して、ついでに腹から胸までが食い荒らされた状態で絶命した。

 

「行け行け行け行け!!」

 

「うわぁぁぁ!!!!」

 

「大災厄なんて怖くねぇ!!!!」

 

勇敢な5人の兵士が95式自動歩槍と03式自動歩槍を持って突撃してくる。無論、このアーマーはその程度でダメージは受けない。だがそれでも、大人しく貰うのは癪なので、またビットを使う。

 

「シールドビット」

 

3本のビットが素早く前に出て、三角形の黄緑色のシールドを展開する。そのシールドに弾は阻まれて、全弾防がれてしまう。

 

「焔槍」

 

手に炎で出来た槍状の物体を形成し、それを1人に向かって投げ付ける。明らかに人の出せる速度じゃない、それこそ音速の速さで突き刺さった槍は、刺さった瞬間に相手を炎で包み込む。

 

「あぁ!!!!あああ!!!あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!」

 

炎に包まれて、廊下のあちこちをのたうち回る。長嶺の操る炎は全て、そんじょそこらの炎とは物が違う。水を掛けようが酸素を遮断しようが燃えるし、炎自体が相手に纏わりつくナパームみたいな性質を持つ。しかも変幻自在に形を変えて相手を追尾したり、僅かな隙間に入り込む事も可能。

例えばドアの隙間や毛穴のように細い物まで、隙間があれば中に入り込んで炎で侵食していく事もできる。そんな炎が纏わりつけば、その苦しみは普通に焼かれるのが天国に思えるほどに増える。

 

「焔道」

 

さらに凡ゆる能力が向上する「焔道」を使用し、相手の懐に潜り込む。この技を使用すれば、髑髏兵と同等の速度で動く事ができるのだ。

そんなことをされれば、ごく普通の人間と変わらない兵士では対応なんてできない。

 

「速い!」

 

一番後ろで偉そうに命令している奴の前に移動し、そいつの腹に腕に装備した銃で散弾を撃ち込む。因みにこの銃は普通の弾丸ではなく、能力で形成した物を使うので散弾だろうが炸裂弾だろうが何でも撃てる。それも連射して。

 

「おっと心配するな。お前達も同じ場所に送ってやるから」

 

背後に回り込んだ事でガラ空きの背中を晒すことになってしまった、哀れな突撃して勇敢なる兵士達。そんな相手だから許してあげよう、なんて慈悲が与えられる訳もなく炸裂弾をぶちこむ。

こんな調子で1階を相当していると、隠し扉を見つけた。そこに突入すると、あり得ない物を見つけてしまった。

 

「深海棲艦!?!?だが、こんなタイプは見た事がないぞ」

 

深海棲艦がいたのだ。それも30体。人型タイプなのだが、これまで戦ってきたどのタイプとも違う。腕が肥大化していたり、腹と胸が醜いくらい迄に飛び出していたり、まちまちなのだが、深海棲艦としても異質であった。

幸いこちらには気付いてないようなので、取り敢えず攻撃される前に焼き払う。

 

「拡散火炎弾!」

 

手を開いた状態で前に出すと、無数の火球が形成される。一定の大きさになると飛んでいき、着弾と同時に拡散。周囲に更に爆発する火球をばら撒く。

すんなり殲滅も完了し、更に奥へと進む。すると今度もまた扉があり、中に入ると長崎県知事他、権力者連中が豪華な部屋でワイン片手に拘束された艦娘とKAN-SEN達を鑑賞していた。

 

「あの銀髪にツノの生えたやつ、あの乳はいいな」

 

「その隣の金髪のもいいですぞ。クールビューティー、と言うのかな?アレを屈服させるのは楽しいだろう」

 

『お集まりの皆さん。これより、オークションを開催致します。今宵は多数の艦娘達がおります。まず1人目はこちら!』

 

そう言って連行されてきたのは、KAN-SENの空母『イラストリアス』であった。

 

「神はシルバー。瞳は青。特筆すべきはこの、巨大な乳!揉んでよし、吸ってよし、挟んでよし!!触り心地の方は…」

 

そう言って仮面をつけた司会者が、ドレスの上から手を捻じ込み胸を弄る。

 

「指がどこまでも沈み込むスライム乳です!!さぁまずは、500万か」

 

次の瞬間、司会者の立つ演壇の下から炎の柱が飛び出して、司会者を貫き天井までぶち上げた。会場の権力と財力しか取り柄のない、この世にいらぬクズどもが騒ぐ。

 

「よくもまあ、俺の家族たる艦娘とKAN-SEN達をオークションで競り落とそうとしてくれたなぁ?それに500万だぁ?安すぎんだろ」

 

「き、貴様は何者だ!!!!」

 

「指揮官様!!」

 

イラストリアスが舞台の上から叫ぶ。声はくぐもっていてクリアではないが、その声の主が自分の指揮官で密かに恋している指揮官だとわかった。というかこんな局面に、たった1人で敵地に乗り込む馬鹿は世界中探しても長嶺雷蔵を差し置いて他にない。

 

「そういう事だ。さてさて。取り敢えず俺が殺すべきは連れ去ったクズどもと思っていたんだが、どうやらテメェらも殺しておく必要があるらしい」

 

だが権力者達は、一様にこう叫んだ。「我々を殺してタダで済むと思うな!」と。隠蔽の手段は後から色々あるというか、そもそもこの鎮守府の攻撃自体は深海棲艦にその罪を被ってもらうので問題にならない。運悪くの事故死か、失踪かで片付ける予定だ。

だが彼らの叫びは、どうやら囮のつもりだったらしい。背後からナイフを持ったボーイが突っ込んでくる。が、腹を腕の仕込み剣で切り裂く。

 

「ガッ!」

 

無論、そのまま焔菫の餌食だ。同じ様に身体の中をモリモリ食われて、ズタズタになる。その姿を見て、皆後退り、中には腰を抜かして小便を漏らす者までいた。

 

「なんだ、どうした?あー、そうかそうか。コイツが死んだのか悲しいのか。ははっ、クズかと思ったが人の心はあるのか。心配するな、しっかり送ってあげるからな」

 

長嶺は徐に、両手を上げて構えた。そのまま振り下ろすのかと思いきや、まるでオーケストラの指揮者の様に手を振り始めた。それに合わせるかの様に、床や天井から炎がぬるりと出てきて、部屋の中を自在に動き回る。

 

「美しい.......」

 

イラストリアスはその炎が荒れ狂う様と、その中心で音楽を奏でる様に見惚れていた。イラストリアスばかりではない。他の後ろで檻に入れられた艦娘とKAN-SEN達も、何故かは分からない。だが美しいと、そう感じてしまうのだ。

勿論、その炎によって参加者連中は追いかけ回されてるので美しいもへったくれもない。というか先述の通り、炎が意思を持っているかの様に纏わりつくので、一度裾が触れでもすれば最後。そのまま身体中に纏わりつかれ、炎の海へと飲み込まれていく。

数分か、それとも数十分か。或いはもっとか。永遠にも感じられた炎のコンサートとでもいうべき時間は、犠牲者達が全員炎に飲み込まれた時、遂に終わった。炎達は左右で壁を形成し、華道をつくる。

 

「イラストリアス。他のみんなは?」

 

「みんな、後ろで檻に入れらています」

 

「わかった。ならすぐに、その檻を破る」

 

長嶺はまた腕を前に差し出す。

 

「オールビット、ソード」

 

背後に控えるビットは、赤い剣となって後ろへと飛び込む。鍵ごとを扉を切り裂き、中の艦娘とKAN-SEN達を全て救い出した。

 

「行こう」

 

全員を飛行場にまで連れて行き、そのまま鎮守府に帰還させるつもりだった。だが、大和の一言で仕事が追加となる。

 

「提督!オイゲンさんが河本に連れて行かれてから、ずっと戻って来てないんです!!」

 

大和とエンタープライズ曰く、連れ去られた後にオイゲンは河本が連れて行ったという。他の艦娘とKAN-SENはそのまんま、さっきあった檻に監禁されて、よく分からない薬も打たれたと。

 

「その薬、どこにある?」

 

「それなら、確か.......。提督、付いてきてくれ!」

 

長門がそう言うので、後ろについて行ってさっきの檻のある場所に入った。中は薄暗いが、それだけで特に何もない。だがその奥に、敷居で仕切られた場所があった。

 

「ここだ。ここから薬を持ってきていた」

 

「ちょっと待ってろ」

 

中に入ると、案の定色んな薬が並んでいた。それも合法非合法問わず、貴重なのから麻薬まで本当に色々。その残骸から使われたであろう薬品を割り出したのだが、その薬品達がヤバいの一言に尽きる代物であった。

 

「げっ!!!!」

 

長嶺が素でこんな声を出すあたり、どの位ヤバいか分かるだろう。

取り敢えず打たれた薬品なのだが、まず覚醒剤が致死率の5倍。それを筆頭にヒロポン20倍、性ホルモン剤30倍、コカイン15倍、エクスタシー24倍、ラッシュ60倍と、我々普通の人間が打てば一撃であの世逝き確定の量を打たれている。

因みにヒロポン、ラッシュ、性ホルモン剤は性的興奮や性欲の向上、つまり媚薬の作用をもたらし、エクスタシーは幻覚作用があって、コカインは単純に中枢神経を刺激して興奮させる。これに効果を出すのを遅らせる物を打ち込んでおり、恐らく早くて後1時間程度、遅くとも夜明けには効果が出る。

だが効果が出た瞬間、まず間違いなく壊れるだろう。艦娘にしろKAN-SENにしろ、身体は丈夫なので死ぬ事はない。だが精神の部分は、人間と余り大差がない。なのにこんな限界量なんてお構いなしにヤクを打たれた以上、効果が出て、それが終わった時の精神の影響は計り知れない。まず間違いなく、全員廃人確定だ。オーバードーズで逝っている方がマシかもしれないレベルの地獄が、この先待っている事になる。

 

「.......諦めるな俺。考えろ。どうすりゃ彼女達は救われる?」

 

数分の熟考の末、長嶺は答えが出た。まずグリムに連絡を取り、ありったけの強力な即効性麻酔を持ってこさせる。さらに鎮守府に他の病院やあらゆる所から、利尿剤と人工透析機を準備する様に命じた。

麻酔で一旦意識を奪い、その間に透析と利尿剤で体内の水分と血液を総入れ替えする。こうすれば少なくとも、安全圏にまで濃度は下がる筈。仮に離脱症状が出ても、耐えられる範囲の物になる筈だ。

 

「お前達、急ぐぞ。このまま飛行場に向かう」

 

長嶺が先導し、飛行場まで彼女達を送り届ける。そして飛行場で彼女達は待機してもらい、長嶺は河本の執務室へと向かった。

 

 

「や、奴はなんなんだ!!アイツは何なんだよ!!!!」

 

「お困りですかな?河本提督」

 

喚く河本の前に、茶色のソフト帽とコートを着こなす紳士が現れた。トバルカインである。

 

「お、おぉトーラス!助けてくれ、あの男が攻め込んで来た!!」

 

「何故です?あなたは三軍の捨て駒とは言え、私の可愛い部下達を無駄死にさせた。これは裏切りですなぁ。何故その裏切り者を、態々助けないといけないのですかな?」

 

「な、何を言って」

 

「それに、あなたは確か艦娘とKAN-SENを全員連れてきて売っ払おうとしていましたな。そんなの美しくないではないですか。それにね、私は元々あなたの様な人間が大嫌いなのですよ。

自分の部下である艦娘を我々に売り渡し、連れ去る必要のない艦娘とKAN-SEN達を連れ去って売り払い、相手の女を穢す。全く持って美しくない。エレガントのカケラも感じない。自分の欲望に忠実すぎたツケを払う時が、どうやら来てしまったようですな」

 

トバルカインはこの男の下にいた。だかそれはあくまで上からの命令であり、個人的には気に入らなかったらしい。トバルカインは最後に「それでは精々、長嶺雷蔵、いえ。煉獄の主人、アマテラス・シンとのワルツを楽しむとよろしいでしょう。では、これにて失敬」と片手を胸に置いて優雅に礼をすると、トランプの渦に包まれて消え去った。

途方に暮れる河本だったが、そんな事もしてられなかった。扉がいきなり吹き飛ばされ、中に奴が入ってきたのである。

 

「おいおい河本の豚野郎。テメェを殺すつもりだったんだがよぉ、あんなの見せられちゃ殺すのすら生温い。だからテメェを生かす事にしてやる。喜ぶがいい」

 

「き、貴様!!!!この俺に楯突くなど、100年早い!!!!そもそも貴様は初めて会った時に俺の愛の一刀を受け流し、剰え先輩である俺を差し置いて連合艦隊司令にまでなった!!この罪は、万死に値する!!!!!!!お前の愛刀で殺してくれるわ!!!!!!!!」

 

そう言って河本は閻魔を手に取り、抜こうとする。だが全く抜けない。まるで鞘と刀身が一体化しているのではないかと、この持ち手は飾りなのではないかと思う程に、全くビクともしない。それもその筈。閻魔は真の強者と閻魔自身が認めた者のみ、抜くことの許される刀。こんなデブでクズな外道如きに力を貸してやるほど、閻魔は安くない。

 

「ならこっちだ!!」

 

そう言って、今度は幻月を抜く。だがこれも、超のつく妖刀。幻月が認めてない者が持ち歩いただけでも不幸に見舞われ、抜こうものなら不幸が降り注ぐ。この呪いは後に現実の物となるのだが、そんな事河本は知る由もない。

 

「キィエエエエエエエエ!!!!!!」

 

「はいはいすごいすごい」

 

上段からの斬撃を最低限の動きで回避しつつ、顔を掴む。そのまま手の平で炎を発生させて、特定の光信号として発光させた。これにより光過敏性発作、分かりやすく言うとポリゴンショックの同じ症状を引き起こせるのだ。

 

「気絶してろ」

 

ボロ雑巾をぶん投げる様に河本を投げ捨て、長嶺はオイゲンを探す。もうこの基地に飛行場を除いて気配があるのは、この提督執務室周辺しかない。必ずここに、オイゲンはいる。

 

「しき.......かん.......?」

 

「オイゲン!!」

 

オイゲンは隣の河本の自室に、革手錠でベッド拘束された状態でいた。しかも制服はビリビリに下着ごと破り捨てられ、股の下にあるシーツにはシミが大量に付いていた。

何故か分からないが、仮面越しに話してはいけないと感じ仮面を外した。鬼の面が真ん中で左右に分かれ、180°回転しながら、横に移動し長嶺の顔が現れる。

 

「ごめん.......なさい.......」

 

「いい!良いんだ、謝るべきは俺だ。辛い思いをさせた、本当にすまない。他のみんなは一足先に逃した。後はお前だけだ」

 

革手錠を腕の仕込み剣で切断し、オイゲンを解放する。見た感じ注射痕はないが、一応打たれたか聞いてみる。やはり打たれてはなかったらしいが、何れにしろ精神には相当ストレスがかかってる筈だ。艦娘とKAN-SENの中では、一番被害が大きい。

 

「やっぱり.......来てくれたのね.......」

 

「約束したからな。よく頑張った。帰ろう。ボロボロだが、俺達の家へ」

 

制服の中で唯一生き残ったブレザーのジャケットを肩から羽織らせて片腕で抱き上げ、武器も全て装備する刀を除き八咫烏の元へと飛ばし、河本の頭を掴んで飛行場を目指す。飛行場には既に回収の戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』が到着していて、艦娘とKAN-SENに麻酔を施して意識を失った者から順次、機体に乗せて飛び立っている。

 

「総隊長殿!ご無事ですか!!」

 

「あぁ。カルファン!彼女を頼む」

 

「分かったわボス。行きましょ?」

 

オイゲンをカルファンに預けて、グリムやマーリンと言った男連中に振り返る。

 

「全員殲滅したが、証拠は大量にある筈だ。レリック、その確保を頼む」

 

「わかった」

 

「バルク、ベアキブルは無いとは思うが敵の来襲に備えて周囲を見張れ」

 

「お任せを」

「了解」

 

そして最後にグリムへと振り向き、愛刀の閻魔を彼に渡した。

 

「総隊長殿?」

 

「グリム、後の事は任せるぞ」

 

「は?え、了解しました?」

 

あまりに唐突な発言に、グリムも何とも言えない反応であった。了解の返事だって、疑問形になってしまう。だが長嶺はそんなグリムを置いて、1人満月の月が輝く海原が見える滑走路の端へと歩き出した。

 

「.......指揮官?」

 

オイゲンも、グリムも、周りにいた全員が作業を辞めて長嶺を見つめていた。何故か、目を離しては行けないと感じたのだ。

 

「潮時.......だな」

 

長嶺は装備していた装甲服を外した。外した装備は炎となり、跡形もなく消える。残ったのは下に着ていた強化外骨格だが、それも上半身部分を脱ぎ、下に着ているファスナー式の服だけとなった。

 

「おうお前達。俺も、今からそっちに行くぜ.......」

 

長嶺は左手に持っていた幻月を抜き、一息に喉に突き立てた。

 

パァン!!

 

そしてそれを押し込もうとした時、乾いた破裂音が一帯に響いた。誰もが分かった。拳銃の音だ。

 

「死なせはせんぞ。雷蔵!!」

 

「親父.......。止めるな、これが掟だ」

 

銃を撃ったのは、無理矢理ついてきていた防衛大臣にして長嶺の義理の父親。東川宗一郎である。

 

「お前はこの国に必要だ!!そして1人の父として、子に死なれたくはない!!!!」

 

「悪いな。例えそうだとしても、それが、それこそが、この身に生まれ落ちての業を背負った者の定めなんだわ。許してくれとは言わんが、殺させてくれ。もう、アイツらの元に逝かせてくれよ」

 

尚も食い下がる長嶺に、東川も言葉が詰まる。だが、意外すぎる人物の一声で長嶺も止まらざるを得なくなった。

 

「お止めなさい!!!!」

 

よく響く声でありながら、慈愛と気品に溢れた声。その声の主は、今上天皇その人であった。

 

「陛下。お久しぶりですね」

 

「雷蔵君、本来であれば私は君に物を願える立場ではありません。私の命令で君は友も、栄誉も、名誉も、全てを失いました。私は君に恨まれて当然のことをした。だがそれでも、この願いだけはどうか聞き届けて欲しい。どうか死なないで。この国に君の力は必要ですし、何より、今周りにいる君の家族は、君が思う以上に君を必要としているのです。もう一度言いましょう。どうか、どうか死なないで。そして生きて、生きて、生き抜いてください。

それを叶えるのならば、君に課していた枷を外しましょう。この時を持って、君は君を縛る古の掟から外れます。好きにその力、存分にお使いください」

 

「.......陛下の御意とあらば謹んで従います」

 

空気はとても重苦しいが、取り敢えず長嶺が自殺する危機だけは免れたらしい。グリムは静かにカルファンの元に近寄り、同じ機体で長嶺を帰還させると話した。東川にもアイコンタクトでそれを伝える。

結局カルファンも流石に2人きりの方がいいだろうと考え、オイゲンと長嶺の2人だけで鎮守府へと帰した。

 

 

「.......」

 

「.......」

 

どちらも喋らず、空気はとても重い。だが長嶺は徐に立ち上がり、ハッチのコントロールパネルを操作してカーゴドアを開けた。

 

「指揮官!!!!」

 

「心配すんな、飛び降り自殺する気はない。ただ.......。ただ今夜だけは、月が見たいんだ」

 

いつもは見たくもない、大嫌いな満月。だが今日だけは、この夜だけは、何故か見たいと思ってしまう。さっきもそうだったが、今はより見たいという気持ちが強い。長嶺とオイゲンは月を眺めながら、江ノ島鎮守府へと帰還。こうして江ノ島鎮守府の長い、長い1日はこうして幕を下ろした。

 

 

 

 

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