真珠湾奇襲より一ヶ月、横須賀にはアメリカ海軍第七艦隊が戻ってきて、各地の米軍基地にも部隊の再配置や元々いた隊員の帰国が行われていた。そんな中で江ノ島鎮守府には、新たな艦娘が配属される事となったのである。
「あ、あの!!」
「はい、何でしょうか?」
セーラー服を着た中学生位の子が、正門の警備兵に声をかける。
「本日付けで第三水雷戦隊に配属になりました、吹雪で有ります!」只今着任致しました!!」
「照合しますので、少々お待ちください」
照合する為に端末を操作していると、赤いSF90が爆音を響かせながら入ってくる。
「提督!お疲れ様であります!!」
「お疲れさん。今日は比較的暖かいから、お前も楽だな」
「えぇ。あ、例の新人ちゃんが到着しました。吹雪さん、こちらが我が鎮守府の提督ですよ」
「は、初めまして!特型駆逐艦の一番艦、吹雪であります!司令官、よろしくお願いします!!」
長嶺も車から降りて、直立不動の態勢を取って吹雪を真っ直ぐ見る。
「よく来てくれた。俺はここの鎮守府の提督、長嶺雷蔵だ。寮舎まで送るから、乗ってくれ」
「は、はい!失礼します!!」
初めて乗るスーパーカーと隣に提督という雲の上の存在が居る事で、かなり緊張しているが長嶺から話し掛ける。
「デカイ鎮守府だろ?」
「は、はい!飛行場もあって、施設も大きくて綺麗で、とても広いです!!」
「これでも半年くらい前は、ブラック鎮守府だったんだ」
「ブラック鎮守府?」
どうやらブラック鎮守府を知らなかった様で、ハテナを浮かべている。まあ知らない方が得なのだが。
「簡単に言うと、艦娘を消耗品として扱う鎮守府の事だ。一応艦娘達は書類や法律だと、人間ではなく艦船扱いになっている。だから物扱いする事自体は違法ではない。
だが規定として司令官には最低限の衣食住の補償、給料の支払い、艦娘への暴行の禁止、整備や補給を手厚く補償するとかの義務が課せられる。これらを守られていない鎮守府をブラックと呼ぶんだ」
「そうなんですか.......」
「あ、俺は書類上では物扱いしてるが、戦場や日常生活においては艦娘も一人の人間として接している。衣食住も他鎮守府より手厚く保護されてるらしいし、レジャー施設も揃えてる。だから安心していい」
「は、はい!あの、質問よろしいですか?」
「ん?」
「そのブラック鎮守府の提督は、今どうしてるんですか?」
ちょっと聞かれたく無い質問だったが、この程度は想定済み。真実と冗談を交えて答えようとするが、敢えて真実を語る。
「大方、地獄の獄卒達にリンチされてるんじゃない?」
「地獄って、監獄って事ですか?」
「いやいや、文字通りのあの世さ」
あの世という言葉に、少し驚いてる様子である。
「死んだんですか?」
「そうだよ。正確には暗殺だが」
「な、なぜですか?」
「ブラック鎮守府してるだけなら、憲兵なり警務課なりにしょっ引かれて裁判受けて、人生負け組に転落しておしまいなんだろうが、アイツはそれだけじゃ終わらなかった。外患誘致って知ってるか?」
「外患誘致?」
どうやら外患誘致も知らんらしい。というか普通は「外患誘致」なんて、早々出てくる言葉でもないから仕方ないか。
「外国と共謀して日本に対し武力を行使させるか、日本国に対して外国から武力の行使があったときに加担するなど軍事上の利益を与える犯罪なんだが、まあ現職の軍人が日本を裏切ったと考えればいい。でもって実際にロシアやら中国の残党やらが日本に数千人規模で来ていて、その責任をとってもらう為に俺が処断したんだ」
「提督が殺したんですか!?」
「そうだよ。俺はここの鎮守府の提督でもあるんだが、新帝国海軍内の特殊部隊である海上機動歩兵軍団、霞桜っていう部隊の総隊長を兼任してるんだ。この部隊は公には存在していないし、隊員も全員が本来の国籍を消されている。なんなら変わりの籍を持っていない者だっている。そんな訳で、君も秘密にしてくれよ?」
「は、はぁ」
余りにぶっ飛んだ話に、吹雪も生返事しかできなくなる。自分の提督が前代の提督を殺したとか言われたら、驚くかタチの悪い冗談だと思いたいものである。
「任務内容に深海棲艦との戦闘も含まれてるから、戦場では俺達も居ることがある。もし人間が水の上滑りながらライフル乱射してたら、基本味方だと信じていい」
「基本?」
「戦場に絶対は有り得ない。もしかしたら深海棲艦や、まだ見ぬ第三の敵勢力かもしれない。戦場では用心深すぎる位がちょうどいいからな。っと、目標の寮舎だ」
「あ、提督さんっぽい!」
「よっ」
「んー?その子はだーれ?」
夕立が車の所に来て、中に居る吹雪に気が付く。寮舎にも着いたし、自分の仕事もあるので後を頼む事にした。
「前に言ってた新しく着任する奴だ。吹雪、コイツは夕立だ。配属先の二水戦での同僚になるぞ」
「よろしくっぽい」
「よろしくお願いします」
「提督さん、お土産はあるっぽい?」
礼儀正しく頭を下げる吹雪とは違い、お土産を強請ってくる夕立。その姿たるや、犬である。
「ある訳ないでしょ。出張とかならいざ知らず、ちょっと防衛省に顔を出しただけだぞ」
「総隊長、今時間いいか?」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえたので振り返ると、そこには作業服の繋ぎ姿の技術屋レリックが居た。
「ん?おぉ、レリック。どした?」
「新装備について。あまり他の人間には聞かれたくない」
「だそうだ。夕立、睦月でも誘って鎮守府を案内してやれ」
「えぇー。今から遊ぶ予定だったっぽい〜」
「ご、ごめんね?」
夕立が文句を言った事で、吹雪も少し小さくなっている。なんか居た堪れないので、お菓子で夕立を釣って案内をしてもらう。ちょうどサービスエリアで買ったクッキーがあったので、それを交換材料にする。
「わーった、わーった。後で執務室に来たら、クッキーでもやるから」
「やったっぽい!!」
「総隊長、行こ」
「はいよ」
ピョンピョン跳ねる夕立を尻目に、レリックと長嶺は霞桜専用の建物内にあるレリック専用のラボに向かう。ここはレリックの私的な工作室で、色んな兵器がここにある。そう、ピンからキリまである。
具体的には自爆ドローン、EMPグレネード、小型ミサイルの様なハイテク兵器もあるが、何かよくわからん「劇物につき扱い注意」と貼られた緑色の液体であったり、大型の上下左右にドリルの付いた武器であったり、クッションに脚が生えてるキモい物体の様なガラクタや珍兵器まで色々である。
「うおっ、何だこれ」
「それ、触ると溶ける。ついでに振ると爆発する」
「怖っ!サラッと恐ろしい事言うなよ」
ってか、触ると溶けて振ると爆発する液体ってなんだろう?と気にしてはいけない。コイツに物理法則だとか、世の理は通じない。
「そこら中にあるから気をつけて」
「しっかり保管してくれよ。因みに威力は?」
「人体にかかると数十秒で骨まで溶ける。爆発の威力は手が吹っ飛ぶ」
「拷問に使えるか?」
流石長嶺。薬品の効果を聞いただけで、瞬時に拷問に使えるかという方向に思考が向く。かなーり将来が心配であるが。
「使える。激痛も伴うから、拷問には最適」
「ワーオ」
「で、これが新作」
「これは?」
レリックが差し出した物は、腕甲の様な謎の物体であった。なんか発射口があるから、仕込み武器か何かだろうか?
「グラップリングフック。JUST CAUSE4に出てきた機能は全部使える」
「マジで⁉︎」
「使えるのはリフト、リトラクター、ブースターの三機能。リフトはバルーンを作って物を浮かせる機能で、ガスをヘリウムか水素か選べる。バルーンは限界高度を迎えるか、使用者が自爆させない限り絶対に壊れない。浮かせる以外にも、浮かせて操作したり、使用者を追尾させることもできる。リトラクターは装着対象に電磁パルスを浴びせられて、巻き上げの速さはもちろん変えられるし、最大420馬力で巻き上げることもできる。ブースターは燃え尽きたら爆発させる事もできて、様々な角度に向けられる。噴射時間は最大で2分で、加速も任意で変えられる。このワイヤー達は無限大に出せるから、相手を吊るすでも何でもできる」
因みに420馬力は日産GTRと同じ馬力である。つまり約1.7トンの鉄の塊を時速315キロの速さで引っ張れる力なのだから、一体どれだけのパワーかわかるであろう。
「レリック、よくやった!」
「感謝の極み。量産はまだ出来てないけど、二ヶ月も有れば全員分できる」
「了解した」
「だから、コレは総隊長に渡す」
「機会が有れば使ってみよう。所で、お前の後ろにあるのは?」
レリックの後ろにはガンダムみたいな胴体した、よくわからんロボットもどきがある。
「ガンダム見てたら作りたくなったけど」
「なったけど?」
「飽きたからやめた」
「いや、やめるんかーい」
「でも勿体ないから、こんな風に改造した」
ボタンを押すと、指からガトリングガンが出てくる。そして弾丸の代わりに飴玉が発射される。これじゃガンダムじゃなくて、サイコミュ高機動試験用ザクとかジオングである。
※尚、主はガンダムは殆ど知らない。
「ストレス解消にはちょうどいい。でも何か作ってから、アリが連なって部屋に来る」
「だろうな。飴玉ぶち撒けて放置してたら、そりゃあアリは入ってくるわな」
「あ.......」
レリック、というか他の隊員も戦闘や戦術、もしくはレリックやグリムの様に特殊スキルを持っている者は、それにだけは破格の性能だが残りが壊滅的に酷いのである。生活力、料理力は特に致命的であり、一度隊員の一人が一人暮らしを始めた結果、ものの1時間でダークマター8つと3トンのゴミを産み出した記録を保持している程。因みに隊内で一番料理が下手なのはバルク&レリックである。
「後でアリの駆除剤でも作って、適当に撒いとけ」
「了解」
外に出た所で電話が鳴る。画面を見れば、今日の秘書官である長門であった。
「うぃー、どしたー?」
『提督、第五艦隊が棲地を発見した』
「第五艦隊は戻ったのか?」
『まだだ。被害は翔鶴、霧島が中破。残りは全員小破だそうだ』
「規模は?」
『泊地棲鬼がボスで、残りはいつもの艦艇だ』
脳内に必要な戦力と海域の地形などを思い描き、何が居るかと、どう言う戦法を取るかを瞬時にシュミレートする。
「とすると第一部隊に金剛、比叡を中心に夕張、鈴谷、熊野、島風をつけて、第二部隊に一航戦と二航戦と護衛に第六駆逐隊。切り込み役の第三部隊に第三水雷戦隊にしておくか。こちらもバルク指揮の第三中隊と俺が出る」
『了解した』
一方その頃、吹雪、夕立、睦月の三人は空母の地上演習場に忍び込んで、赤城と加賀の訓練を覗いていた。所がサイレンの音と長門の放送でビックリして、吹雪が木に頭をぶつけた事でバレたりと、何か忙しい事になっていた。
「バルクら今日は何の武器を持っていくんだ?」
「あ、総長。へい、今回はストッピングパワーに優れてんのが良いでしょうから、FN BRG-15を引っ張り出しやした」
「こりゃまたマニアックなの持ってきたねぇ」
FN BRG15。ベルギーのFN社で試作された重機関銃であり、ベルト給弾方式で15.5mm弾を使用する。M2の後継を狙い「20mm口径弾を使用する機関砲よりも安価・軽量な火力を地上部隊に提供する」というコンセプトの元で制作されたが、M2の弾薬と互換性がない為廃棄しないといけない上、そもそものM2が現役バリバリで使える為に必要性が薄れた。コレに加えてFN社の財政的問題も合わさって、1990年代初頭に計画は破棄された。
「中隊長、総隊長!水上バイク、水上装甲船の準備完了しました!!」
「だそうだ」
「よーし、お前達!二人一組で互いに装備の点検をしろ!終わったら待機。出撃の号令が掛かるまで、他の隊員と雑談でもしていろ!!」
「「「「「「うっす!!」」」」」」
隊員達から、まるで大工や工場の若衆の様な威勢の良い声が上がる。
「て、提督さん!?何でここにいるんですか!?!?」
「総長、この嬢ちゃんは誰ですかい?」
「この間言ってたルーキーだ」
「ほー。嬢ちゃん、俺は霞桜第三中隊の中隊長をやってるバルクだ。よろしくな」
「よ、よろしくお願いします!」
バルクの風貌は某アベンジャーズのハルク並みの筋肉であり、文字通り筋肉モリモリマッチョマンである。おまけに顔がいかつく、サングラスとスーツを着ればヤクザも逃げ出す程恐ろしい。そんな訳で吹雪は、捨て犬の如く震えている。因みにコードネームのバルクは、ハルクが元ネタ。
「提督、第三水雷戦隊準備完了です」
「よし、なら先発として出撃。戦場で会おう」
「はい!」
第三水雷戦隊の神通、川内、那珂、睦月、夕立、吹雪はドッグに降りていく。その背中を見送り、また雑談しようかと思ったが。
「あぁ!!!」
「何ですかい、その「やべぇ」みたいな「あぁ」は?」
双眼鏡を取り出す長嶺。その視線の先は、海である。
「何で双眼鏡取り出してんですかい?」
ボチャーン
「ボチャーン?」
外を見ると吹雪が海の上を転げ回ったり、潜水したり、また開いてあわあわしながから顔面から海に突っ込んだりと、艦娘とは思えない動きをしていた。
「ウソーン」
「うん、やっぱりか」
「コノヤロ、総隊長!11文字以内で説明しろい!?」
「吹雪は、艦娘だが、戦力外!」
「えぇー!?!?」
予想外というか、艦娘としての存在意義が半分近く無くなってしまってる回答に驚く。
「一つ、まともに海を進めない。一つ、砲撃の命中性能皆無。一つ、極度の超方向音痴」
「それ艦娘として終わってんじゃないですか‼︎どうすんのよ⁉︎」
「祈る!!」
「神頼み!?」
超非現実的な事を言う長嶺にバルクは突っ込むが、よくよく考えれば既に犬神という妖怪に八咫烏という神を目の前の男が使役していた事に気付く。
「というか、普通それだけの欠陥が有れば解体でしょうに」
「どうやら、VR空間では極めて良好な結果を出しているそうだ。加えて戦闘に関する知識だけはズバ抜けて高く、それを戦闘でも十二分に生かせるとの見解だ」
「そうですかい」
「まあ祈って練習させて、慣れさせる他ねーな」
「ですな」
こんな馬鹿話をしていると大和達も到着し、ドッグへ入って出撃していく。そんな背中を見送り正面から艦娘が消えた頃、霞桜もいよいよ出撃の時が来た。
「バルク、俺達もそろそろ行くか」
「ヘイ‼︎野郎共、出陣じゃぁ!!」
「「「「「「うっす!!」」」」」」」
床が下がり、そのまま艦娘達の出撃ドッグの真上にある専用スペースまで下降する。床が下降してきたのに合わせて、天井にぶら下がっている装甲船と水上バイクが、目の前に広がる水の上に降ろされる。分隊ごとに整列し、自分達の装甲船、もしくは水上バイクに乗り込む。
「海上機動歩兵軍団総隊長、ゴールドフォックス。出る!」
「海上機動歩兵軍団第三中隊、中隊長バルク。出撃するぜ!!」
そう言うと、面を装着し銃の弾倉を入れてスライドを引く。他の隊員もグレネードをセットしたり、シェルを入れたりと戦闘準備を整える。
「ゲートオープン!」
サイレンの音に合わせ、重苦しい扉が開かれる。外から見ると巨大な砲身が20本セリ出て来る様に見えており、この砲身が加速装置となって装甲船と水上バイクを海に飛ばす。
「出撃!!」
長嶺の号令で次々と装甲船と水上バイクが射出される。バルクは指揮船タイプの装甲船に乗り込み、長嶺より早く射出される。長嶺は第三中隊が全員射出されたのを確認して、射出ゲートまで進み射出される。それに合わせて八咫烏と犬神も上の崖から飛び降り、元の巨大な烏と犬の姿になって長嶺と合流し、犬神は長嶺を背中に乗せる。
「行くぞ!!」
「はーい」
「了解!」
数時間後、第三水雷戦隊は敵と接敵し攻撃を開始する。最初はハ級1、イ級2だけだったが、すぐにハ級、イ級、ロ級の合計13隻の奇襲を受ける。幸い金剛率いる艦隊が支援に来た為、事なきを得た。
しかし棲地に入った瞬間、吹雪が深海棲艦10隻に狙われる。
「吹雪ちゃーん!!」
「避けるっぽーい!!!」
「嘘.......」
食われる瞬間、無数の大口径弾丸が深海棲艦を弾き飛ばす。
「おいおい、俺達の相手もしてくれよな?えぇ?深海魚共!」
バルク率いる第三中隊がギリギリで間に合い、バルクによるBRG15の支援攻撃が行われたのである。周りの深海棲艦に関しても
「吹雪ィ!!伏せろぉ!!!!」
両手に朧影を携えて、空から長嶺が降って来る。着水と同時に自身を回転させながら、連射力に物を言わせて一掃する。
「ギリギリだったな。吹雪、生きてるか?」
「は、はい!」
「よし。後は俺達と第一艦隊に任せて、お前達は一度退いて体勢を立て直せ」
「はい!」
長嶺の突入と同じタイミングで始まった第一艦隊の航空攻撃に合わせ、バルクが水上バイク部隊に突撃命令を出す。
「水上バイク部隊突撃!敵の陣形をグチャグチャに破壊してこい‼︎装甲船部隊は混乱した深海棲艦の横っ腹に力一杯殴りつけろ!!」
「「「「「うっす!!」」」」」
雑魚を任せてる間に長嶺は泊地棲鬼の元に行く。それを察したのか、赤城が艦載機を上げる。魚雷で障壁を破ろうとするが後一歩で破れない。これを長嶺が察して、雷神で障壁を破壊。陸用爆弾搭載の天山がトドメを刺し、泊地棲鬼を破壊。見事、海域を開放する。
「海域は開放された。繰り返す、海域開放!」
歓喜に包まれる鎮守府と海域。その中で吹雪は凛と佇む赤城に、羨望の眼差しを送っていた。
「アレが一航戦。カッコいい.......」