最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第五章誇り高き叛逆者達編
第六十五話オクタニトロキュバン


長嶺の過去公表の翌日 江ノ島鎮守府 執務室

「.......なんで?」

 

あの長嶺の壮絶なる過去を語ってから長嶺は、仮眠を取るためにベッドに飛び込んで眠った。仮眠のつもりがガッツリ寝てしまい、目が覚めたのは昼前。なのだが、妙に体が重い。一瞬、久しぶりのトラウマ追体験で体調でも崩したかと思ったが、明らかに物理的に重い。何かが身体に覆いかぶさっている時の重さだ。

どうにか意識を覚醒させて布団を捲ると、何故かKAN-SENの赤城、大鳳、隼鷹、愛宕、鈴谷、ローンというヤベンジャーズが居たのだ。それもガッチリ腕とか足とかに身体を乗せて眠っているので、全然身動きが取れない。

流石にこの状況では、身体の柔らかさとかそういうのを楽しむ余裕なんてない。

 

「あー、クソ。全然動かん」

 

無理矢理引っ剥がすのは全然簡単である。だがそれをやると、流石に怪我する可能性が高いので論外。助けを呼びたいが、携帯も取れない以上、打つ手無しである。

 

「.......しゃーない。誰か来るまで二度寝するか」

 

と思っていたら、ベルファストが部屋に入ってきた。タイミングバッチリである。

 

「お目覚めのようですね、ご主人様」

 

「あー、その声ベルファストか?悪い、大鳳が邪魔で全く見えん」

 

「はい、ベルファストで御座います。それにしても、どうやらしっかり固められておられるようですね」

 

「早いとこ引っ張り出してくれないか?流石に力付くじゃ、コイツらが怪我する」

 

「承りました。それでは、失礼致します」

 

そう言ってベルファストは長嶺を引っ張り出す……のではなく、何故かベッドの上に登り膝枕してきた。

 

「あー、ベルファストさん?なーんで膝枕をしてるんでしょうか?」

 

「ご主人様を甘やかす為に御座います」

 

「俺そんな事オーダーしてないんだが?」

 

「ご主人様がお休みの間、私共で決まった事があります。私共は今後、全力でご主人様に好意を伝える事に致しました。昨日、いえ、本日の深夜、ご主人様が語られた過去を受け、私共も変わる事にしたのです」

 

流石の長嶺も、何言ってるか全く分からなかった。つまり、今後は艦娘とKAN-SENからアタックされまくるという事だろう。四六時中そうされては、こちらも色々キツイ。というか母数が多い上に、こちらは1人。全員を捌く事が出来ないだろう。

 

「あのさ、取り敢えず俺を早急に救出してくれるとありがたいんだけど.......」

 

「拒否致します」

 

多分、ベルファストはこの状況を楽しんでいる。なんか顔が母親みたいになっているし、長嶺の頭を撫で始めている。こうなったら、色々試してみる他ない。

 

「そうか。なら、このままベルファストのおっぱいでも眺めているとしよう」

 

作戦1。奇襲セクハラ発言。いきなりセクハラ発言をされれば、もしかすると恥ずかしさとか諸々で正気に戻るかもしれない。

 

「ご主人様が望まれるのでしたら/////」

 

(あっれー????アンタそういうキャラでしたっけ?どっちかって言うと、そのキャラはシリアスじゃね?だってアイツ、初対面で「夜伽をご所望ですか?」とか言う爆弾ぶっ込んで来たからなぁ)

 

どうやらベルファスト的には満更ではないらしい。顔を赤らめつつも、妖艶な笑みでコチラを誘惑してきている。別にここでおっ始めても構わないのだが、流石にヤベンジャーズいる目の前でやったら鎮守府が全壊する。もしくは性的に喰われる。となるとやはり、回避する他ない。

 

「あーもー、これ使いたくなかったんだけど。飛焔」

 

疲れるので使いたくはないのだが、もうこうなったら神授才を使う。この技は空を飛ぶ技で、アイアンマンのように四肢に推力を集めて飛ぶ。これを使えば無理矢理、ヤベンジャーズを引っ剥がして脱出できるのだ。それも安全に、怪我をさせる事なく。

 

「ご、ご主人様!?!?」

 

「神授才ってのは、基本何でもアリなんだわ!」

 

身体を浮かび上がらせ、上体を起こし、重力の力でヤベンジャーズを落とす。下はベッドなので、怪我をする恐れはない。ヤベンジャーズもいきなり体が浮いて落ちたので、目を覚まして周りをキョロキョロ見ている。

 

「ほーら、テメェら!仕事に戻れ戻れ」

 

手をパンパンと叩いて、全員を外へと追い出す。だがベルファストだけは、今日の当番らしいので部屋に残した。

 

「それではご主人様、本日のご予定を」

 

「完璧に寝ちまったからな。執務で急ぎのは無いから、先に霞桜の仕事を片付ける。その後はまだダウンしてる艦娘&KAN-SENの回診だ」

 

「承りました。お食事は如何なされますか?」

 

「飯は昼に朝も兼用で食べる。俺はシャワー浴びてくるよ」

 

長嶺は堂々とその場で、上半身裸となった。引き締まった筋肉質の美しい、ローマの彫刻のような完璧な身体が露わとなる。本来ならセクハラなんだと言われるかもしれないが、膝枕されたお返しである。

 

「ご、ご主人様/////」

 

「あ、服は後で自分で片すから」

 

そう言い残して、長嶺は風呂場へと姿を消した。完全に長嶺の姿が消えたのを確認すると、ベルファストは即座に服を掠め取るかのように素早く手に取り、自身の顔を埋めた。

 

「すぅぅぅぅぅぅぅぅ.......はぁ」

 

そして、匂いを嗅いだ。安心できる香りで、いつまでも嗅いでいたくなる様な麻薬じみた魅力がある。だが、今自分がしている事はメイド以前に人として不味い事である。少なくともこんな姿を誰かに見られれでもしたら、社会的地位は消え去るだろう。だがやめられない。何ならこれで、軽ーく達している。下着も怪しい。

 

「あんな姿を見せられては、我慢できません..........」

 

ベルファストとて、メイド長という肩書きがあり、普段は真面目とは言えど、やはりそこは乙女なのだ。なんか行動が変態感あるが、そこは気にしてはいけない。

 

「あー、目が覚めたわ」

 

「ごしゅ、人様////。あの、その、お召し物は///////?」

 

「俺とした事が、用意せずに入っちまってな。タンスはこっちにあるんだ」

 

何と長嶺、まさかのタオルを腰に巻いた姿で出てきたのだ。これは本当に服の準備を忘れてしまった事故なのだが、ベルファストのHPはギャンギャン削られている。上半身を見せられて、服の匂いを嗅いで、今の少し濡れた姿を見せられては発情待った無しである。しかしなけなしの理性とロイヤルのメイド長としてのプライドで、どうにか無理矢理自分を抑え込んでいた。

 

「ほい、着替え完了と。まあ今日は多分、ベルファストがついてくる場面は少ないから、適当に頼む」

 

「承知いたしました」

 

いつものファスナー式の作業着に着替え、まずは執務室へと向かう。途中で何人かのKAN-SENから抱きつかれたり、艦娘、というか金剛からバーニングラブを食らって、それを一旦受け止めたりと、いつもより賑やかな道中を経て、会議室へと入った。中には既にグリムが居て、タブレットを弄っている。

 

「すまんなグリム。遅れた」

 

「いえ。お恥ずかしい話ですが、その私も、実は寝坊しまして.......」

 

「なんだ、グリムもか!なら俺達、仲間だ仲間」

 

そう言いながら2人で笑い合う。だがすぐに2人とも、いつもの仕事モードの真剣な顔に戻り、今回の一件の総まとめ及び考察をする事となった。

 

「まずは約1年、何があったか振り返ろう。事の始まりは約1年半前、内調が傍受した無線だったな」

 

「えぇ。あの中国語の無線、最初は何が何だか分かりませんでしたね。今でも覚えてますよ。いきなり総隊長殿が「高校に入学しまーす!」と、声高に宣言した時の衝撃は」

 

「俺もクソ親父にそう言われた時は、マジで返品してやりたかったよ。翌年の4月からオイゲンと学校に入ったが、まあ何も分からなくて、ヒントも何も無かった。結局、収穫らしい収穫といえば新たな仲間候補を大量に発見できた事位だったしな。それどころか葉山とか奉仕部とか平塚とかで面倒事は起きるし.......」

 

「なんか、毎回目が死んでましたもんね」

 

グリム含め、霞桜の面々で長嶺と多く話す機会があれば総武高校での色々は知っている。そして皆一様に、長嶺に同情してくれていたのだ。特に第五大隊の隊員なんかは、酒を差し入れてくれたり、ヤケ酒の宴会を開いてくれていたりしてくれた。

 

「結局、事態が大きく動いたのは山本提督襲撃だったな」

 

「そうでしたね。暗殺者ドッペルゲンガーの存在、総武高校の生徒である相模南との入れ替わり、ドッペルゲンガー謎の死、総武高校襲撃と鎮守府襲撃、河本の裏切り、そして総隊長殿、いえ。煉獄の主人による粛清。

山本提督の暗殺未遂から、ここまで怒涛でしたね。ところで山本提督のご容態は?」

 

「回復に向かっているそうだ。時期に目を覚ます、っと。クソ親父からだ」

 

東川からのLINEを確認すると、山本が無事に目を覚ましたと一報が送られていた。

 

「目、覚ましたとよ」

 

「良かったです」

 

「今度、謝罪とお見舞いに行ってくるかな。

さて。じゃあ話を戻して、最終的な報告を頼む」

 

グリムから今回の被害の纏めと、グリムが考えた事を言って貰う。考えは長嶺も概ね同じだったので、問題はないだろう。だが例のCIA工作員やハーリングなんかの情報も今後入ってくるので、恐らく考察は変わってくるだろうが。

 

「早いとこ入渠施設とかを復帰させんとな」

 

「急ピッチで入渠施設と出撃ドックは再建させてますが、確実に2、3週間は掛かりますよ」

 

「それまでは、近隣鎮守府に頼むか。アイツら的には休みが増えてラッキーだろうがな」

 

軽く適当に雑談していると、食事の時間となった。本来なら食堂に行きたいところだが、こちらも見事に全壊しているので外のテントに仮設されている食堂に向かう。

 

「あ、提督!」

 

「おう間宮。適当に手早く食えるのを見繕ってくれ」

 

「はい!」

 

間宮に頼んで出てきたのは鮭、かしわ、豚の角煮のおにぎり、カップヌードルBIGであった。これなら手早く食べられる。

 

「あの提督。食堂は、いつ頃再建できますか?」

 

「結構色々やられてるからなぁ。まだ何とも言えん。取り敢えず今はドックと入渠施設を最優先で再建させてるから、その後に作るだろうな。宿舎は霞桜の拠点があるが、やはり食堂は早めに再建してやりたい。いつまでも野晒しで青空レストランやる訳にもいかんし、何より飯の良し悪しは士気に直結する。なるべく早く再建させると約束しよう」

 

手早くカップヌードルを作り、ササッと胃に流し込む。この後はハーリングとのテレビ会談である。

 

 

「おーい、これ繋がってる?」

 

『ん?あれ、全く映らないぞ。おーい、あ、映った映った。やあ、雷蔵くん。この間の女王と遊びに行った時以来だね』

 

「そうだな。さーて、ハーリングのおっちゃん。なんで俺がいきなり会談を申し込んだか、それは分かるかい?」

 

『.......あぁ。今から話す事は、私が君を信頼しているから話す。それを念頭に置いて、聞いて欲しい』

 

「心配すんな、俺だってアンタを脅すつもりはねーよ。まあ、利用はするがな」

 

ハーリングの口から語られたのは、この世界の闇とでも言うべき事であった。まずハーリングは別にドッペルゲンガーとか、URとか、シリウス戦闘団とかの、霞桜が抱える事情云々に関しては知らなかったらしい。ハーリングが総武高校にCIAのエージェントを発見したのは、相模を確保する事にあった。現在CIAはハーリング派閥と、CIA長官ウォットシャー・ブラスデンの派閥に別れて内部抗争をしている。抗争の末、ハーリング派閥はブラスデン派閥がアメリカを裏切っている疑いがある事に気付き、そこからの調査で相模が何かしらの情報を持っている事が分かった。それを知るために、相模を拘束する事にしたのである。

だが蓋を開けてみればテロリストによって相模は死に、派遣したエージェントはバックアップ班と突入班の1人を残して全滅し、かと思えば河本が反乱軍率いて突っ込んでくるしで、てんやわんやの事態になったのだ。

 

「おっちゃん、これは俺の勝手な想像だが、もしかしたら俺、その裏切りのヒントを持っているかもしれねぇ」

 

『何ッ!?』

 

「今、俺達はシリウス戦闘団と呼ばれる連中を追っている。例の河本の反乱の背後には、この組織がいることが分かった。だがこの組織、俺が提督になった直後に活動が確認されてから今に至るまで実態が全く掴めてない。漸く河本の一件で少し情報が集まって、組織の全体像の影が見え始めたような段階だ。

ここまでの隠蔽というか、秘密行動が出来る組織なんて少ない。確実に国家が関わっている。しかも大国だ。となると考えられるのは中華民国、ロシア、イギリス、そしてアメリカ。この内、イギリスは基本的に友好的だし中華民国は俺と敵対する事の恐ろしさを知っているから有り得ない。残るロシアとアメリカだと、ロシアは国内ガタガタでそれどころじゃない。とするとアメリカなんだが、おっちゃんがいるから無いだろうと考えていたが、CIAが一人歩きしてるとなると話は別だ。実際CIAと俺達は、何度も鉄火を交えてる。有り得なくはない」

 

『ブラスデンの背後にシリウス戦闘団がいるのか?』

 

「いや。恐らくシリウス戦闘団の上位組織、それが背後にいる。どうやらシリウス戦闘団自体が『戦闘団』とあるように、戦闘を重きに置いている。そういう類のは恐らく別部署、ないし上位組織だろうよ」

 

ハーリングは考える素振りを少し見せると、すぐに長嶺へと向き直った。

 

『長嶺雷蔵くん。私、アメリカ合衆国第五十代大統領ビンセント・ハーリングは、その名において長嶺雷蔵くんとの同盟を結びたい』

 

「同盟ときたか。それは俺とアメリカが同盟関係になる、って事で間違いないな?」

 

『あぁ。これは私の勝手な独断だし何より非公式なものだが、どうやら君と私の目指す場所は同じらしい。共に手を組もう』

 

「いいぜ、そういうのは好きだ。大好きだ!」

 

なんとコイツ、アメリカと単独で同盟関係を築きやがったのである。アメリカ以前に、どこかの国と同盟関係になる個人なんて聞いた事ない。しかも相手は世界の警察アメリカ。有り得ないが、コイツなら有り得てしまうのだ。

 

『ありがとう雷蔵くん。では、そろそろ会議があるので失礼するよ』

 

「オーライ。またいつか、遊びに来るといい」

 

『いつか行かせて貰うよ』

 

そう言うと、ハーリングは通信を切った。長嶺は軽く伸びをして会議室の外に出ると、艦娘の吹雪が血相を変えてこちらに走ってきた。

 

「て、提督!!」

 

「うおぉ!ど、どうした吹雪?」

 

「大変ですッ!!哨戒に出ていた第六駆逐隊が、港湾棲姫と戦艦棲姫を捕縛したと連絡が!!」

 

「吹雪、それは確かなのか?『遭遇』や『発見』ではなく『捕縛』、つまり捕まえたって認識で相違ないか?」

 

「私も信じられないんですけど、大淀さんも一度、暁ちゃんに確認してます。でも返答は『捕縛』だったそうで」

 

港湾棲姫と戦艦棲姫と言えば、深海棲艦のボス級。霞桜が保有する対深海徹甲弾を持ってしても、大多数で装甲を削りまくる相手のキャパオーバーを狙う攻撃か、長嶺の様に正確な急所攻撃するかでない倒せない存在である。

更にどちらも艦娘と相対した場合でも、そのスペックは最上位クラスの存在。少なくとも駆逐艦4隻からなる第六駆逐隊では荷が重すぎる。というかまず、相手が本気なら1分持たずに轟沈である。この2つを倒すには戦艦や空母の様な、こちらの主力級をぶつけなくてはならない。

 

「とにかく状況が分からない。だが事態は一刻を争うかもしれん。現時刻をもって、江ノ島鎮守府全域にコードレッドを発令する。吹雪、お前は多くのみんなにこの事を伝えてくれ」

 

「はい!」

 

吹雪は人が多くいる広場に向かって走り出す。それを見送ってから長嶺は無線でグリムを呼び出し、事の次第を伝達。すぐに黒鮫を出せるように指示を出す。

 

「大淀!全域放送を準備しろ!!」

 

「準備できてます!」

 

やはり流石、艦娘の大淀である。既に長嶺が次に打つ手を予測し、その準備を整えていてくれたのだ。

長嶺はマイクを受け取り、マイクのスイッチを入れる。

 

『総員に継ぐ。現在近海の哨戒に出ていた第六駆逐隊より、戦艦棲姫と港湾棲姫を捕縛したとの報告が入った。これを受け鎮守府全域に、コードレッドを発令する。

霞桜は黒鮫の出撃準備を整え、各大隊長直下の精鋭は出撃準備。艦娘の大和、長門、陸奥、赤城、加賀、雲竜、天城、翔鶴、瑞鶴、矢矧、大井、北上、秋月、涼月、島風、吹雪、浜風、磯風、浦風。KAN-SENの武蔵、ニュージャージー、ヴァンガード、ロドニー、ネルソン、ビスマルク、グローセ、ヴェネト、ジャンバール、リシュリュー、ロシア、赤城、加賀、翔鶴、瑞鶴、信濃、大鳳、エンタープライズ、イラストリアス、インプラカブル、グラーフ、吾妻、オイゲン、ハインリヒ、エーギル、ローンは出撃準備の上、飛行場にて待機せよ。他の艦娘、KAN-SEN、霞桜は全艦出撃し、近海の防備を固めろ。敵が攻めてくる可能性がある。但し本部大隊は受け入れ準備のため、これを外す。以降、残留組の指揮権はグリムに移譲する。総員、何が起きてもおかしくない。気を引き締めろ!!』

 

艦娘とKAN-SENの編成を見て貰えば分かると思うが、超ガチガチ編成である。戦艦と空母はいずれも高い練度を誇る艦か、或いはエース級の実戦経験豊富な者が選ばれている。オイゲンとハインリヒはスキルによる支援が可能なので、完璧な布陣と言えるだろう。

 

 

「総隊長。派遣部隊総員、出撃準備完了しました」

 

「よし。俺達の任務は帰還中の第六駆逐隊に合流し、深海棲艦を確保することにある。駆逐艦に捕縛されてる時点で、恐らく奴らは何か狙いがある。最悪、お前達には死んで貰うかもしれない。

だが!この鎮守府でも指折りの練度と、実戦経験を積んだお前達なら必ずや帰還できるはずだ。では出撃!!」

 

全員が黒鮫に乗り込み、最後に長嶺が乗り込む。本来ハッチは閉めるが、今回は即応性を考えて解放したまま飛行する。

 

『全員、シートベルトを締めろ!!』

 

「大丈夫。機長、このまま行って!」

 

『うっしゃぁ!飛ばしますよ!!!!!』

 

マーリンの返事を合図に機長はエンジン角度を水平飛行に変更し、同時にスクラムジェットエンジンに切り替えて最大推力を叩き出す。中に乗っている者も強烈な加速Gで、身体がシートに抑えつけれる感覚がする。だがそんな中であっても、長嶺はただ踏ん張るだけでそれを耐える。

 

「このまま第六駆逐隊の元へ迎え!!」

 

『了解!!到達まで凡そ2分!!!!』

 

このまま順調に行くかと思っていたが、そうは行かないらしい。機体のレーダーが、接近する深海棲艦艦載機を捉えたのだ。

 

『総隊長、どうします?』

 

「このままローリングヘリボーンで俺達を降ろした後、この機体は上空援護に当たれ。接近する敵あらば、全部ぶっ潰せ」

 

『そういう命令、だーい好きですよ総隊長。ならこのまま高度下げます!』

 

機体を海面スレスレにまで下げると、ランプが赤から青に切り替わる。これが意味する所はつまり『降下準備完了』である。

 

「お前達、行くぞ!!」

 

長嶺を先頭に全員が海面に飛び降り着水し、すぐに集結する。全員を降ろし終えると黒鮫は高度を上げて、集結した隊員達の上空でホバリング。機体に装備された機関砲を向けて、敵の警戒に移る。

 

「我が主!4時の方向、敵機だ!!例の第六駆逐隊の娘共が追われている!!!!」

 

「聞いたな野郎共!!空母、戦闘機を出せ!!!!水雷戦隊は空母を守れ!!他は俺についてこい!!!」

 

空母艦娘とKAN-SENが、自身の艦載機を出撃させて敵編隊に向かわせる。烈風改二戊型(一航戦/熟練)、震電改、シーファングT3、FR-1 Fireball、Me-155A艦上戦闘機。どれも高性能な機体である。

対する深海棲艦の艦載機は『深海猫艦戦』と呼称されている機体で、機動性と速度が旧型の黒い艦載機よりも高く、武装の威力こそ変わらないが発射レートが上がった物が装備されている。だがそうであっても、常日頃から長嶺相手に演習してる江ノ島艦隊の艦載機が負ける訳ない。

 

『制空権、確保ですわ』

 

「そのまま護衛にあたらせろ。こっちは間も無く第六駆逐隊と合流する」

 

KAN-SENの赤城から、制空権確保との報告が上がる。圧倒的練度差に物量による数の暴力も加えてるので、この結果は必然だろう。

 

「司令官!!」

 

「暁!!よくここま.......で.......」

 

「ドウモ、コンニチハ」

 

「争ウ気ナイ。我々ヲ信ジロ」

 

暁と合流したのだが、長嶺の目の前には何とも言えない光景が広がっていた。なんと響と雷が、普通に戦艦棲姫の艤装の肩に乗っていたのだ。というか普通に港湾棲姫と戦艦棲姫が、艦娘と陣形を組んでいる。

 

「あの、止めたのですけど.......」

 

「乗っちゃったかぁ」

 

「あ、司令官!あのねあのね、この艤装、すごく力持ちなのよ!」

 

「あぁ。中々、乗り心地も悪くない」

 

結構2人とも馴染んでる。だが今は乗り心地とか力持ちとか、そういう類の話をしているべきではない。だが今、目の前にいるのは敵のボス級。本来、こういう風に馴れ合う存在ではない。

だがまあ、普通に第六駆逐隊と行動を共にしてた辺り、少なくとも現状は敵対行動を取ってない。仮に敵対的なら第六駆逐隊との接敵と同時に殺しているだろう。

 

「総隊長、どうされますか?」

 

「流石にここで一思いに殺るよりかは、せめて話位は聞いてみよう。もしかしたら、深海棲艦の正体や戦争の終わらせ方が分かるかもしれない」

 

なんか腑に落ちないが、取り敢えずの暫定処置として鎮守府に案内する事にした。勿論外で話すし、緊急時にすぐに吹き飛ばせるように周りには完全武装の艦娘、KAN-SEN、霞桜の隊員が取り囲んでいる。

 

「さーて。まずは互いに自己紹介するとしよう。江ノ島鎮守府司令にして、連合艦隊司令長官。そして海上機動歩兵軍団『霞桜』総隊長、長嶺雷蔵だ。俺はアンタらを何て呼べば良い?」

 

「我々ニ固有ノ名前ハ無イ。名前ガ無クトモ、本能デ個人ヲ判別デキル」

 

戦艦棲姫から衝撃のカミングアウトである。だが個人名が無いんじゃ、こちるがコミュニケーションが取れない。流石に港湾棲姫、戦艦棲姫と呼ぶ訳にもいかないというか、長ったらしくて呼び辛い。

 

「それじゃあ、あー、もう安直だが取り敢えず戦艦棲姫は黒子、港湾棲姫は白子と呼ぶとしよう」

 

「良イダロウ。聞カレル前ニ、先ニ答エヨウ。我々ハ君達ニ協力シテ貰イタイノダ」

 

「協力だと?共に世界を乗っ取ろうってか?」

 

「ソウデハナイ。寧ロ逆ダ。我々ハ深海棲艦ヲ、解放シタイノダ」

 

2人の話を纏めるとこうだ。どうやら深海棲艦にも過激派と穏健派の様に派閥があるらしく、2人はその穏健派に所属する者らしい。基本的に深海棲艦には本能的に人を滅ぼす様に出来てるらしく、本来であれば2人も人を滅ぼす為に艤装を使う。というか、実際に使っていたらしい。だがある時に自我というか、何故自分達が戦争をしているのかを考え始め、自分の本能を抑える事に成功したのだという。

そこから同志を集め始め、小さいながらも派閥もできたそうだ。そして他の深海棲艦もこの派閥に引き込もうと色々調べ回った結果、深海棲艦の本能は書き換える事が出来る可能性がある事を知り、深海棲艦を本能から解放する為にここに来たのだと言う。

 

「にわかには信じられない。それでその、本能を変えれば攻撃は止むのか?」

 

「恐ラクハ」

 

「さっきの深海棲艦、あれは何なんだ?」

 

「我々ヲ追ッテキタノダロウ。我々ハ深海棲艦ノ拠点カラ逃ゲテ来タ、言ワバ脱走兵ナノダ」

 

という事はつまり、この2人は文字通りの火薬庫である。それも2つの意味で。1つは深海棲艦にとって、江ノ島鎮守府は脱走兵が逃げ込んだ先。故に大規模攻撃を仕掛けてくる可能性がある事。2つ目はここに2人がいる事を知られれば、最悪の場合、内部で色々ゴタつくという意味である。

現状、この2人は人類が初めて手に入れた深海棲艦のモルモット。国内外問わず軍事組織や研究機関からしてみれば、喉から手が出る程欲しい存在だろう。日本が実権を握りすぎている以上、強硬手段に出てこられる可能性もあり得る。そればかりか海軍内に裏切り者がいれば、ここに攻め込んでくるかもしれない。

 

「そう言えば、何でお前達はウチに来たんだ?」

 

「コノ世界デ我々ノ話ヲ聞イテクレルノハ、貴様シカイナイと判断シタカラダ。コレマデ貴様ラノ艦隊ハ、何度モ我ラト戦イ、常ニ煮湯ヲ飲マサレテキタ。故ニ、信頼デキル」

 

「敵に信用されるとは何とも皮肉だな。だがそれで戦争が終わるかもしれないってなら、俺としては協力したい。

だが、今のお前達は俺達に取っては疫病神も同然。何がどうなるかも分かった物じゃないし、そもそも俺の一存でどうこうできる訳じゃない。だから今ここで答えを出せない。だけど悪い様にはしないから、安心して欲しい。それからこっちは完全に信頼してる訳じゃないから、身柄位は拘束させてもらうぞ。拷問とかは無しだから心配すんな」

 

「感謝スル」

 

この日、港湾棲姫と戦艦棲姫は秘密裏に江ノ島鎮守府で拘束された。この2人の存在が単なる希望で終わるのか、或いは最悪を撒き散らす疫病神で終わるか、はたまたパンドラの箱なのか。それはまだ誰にもわからない。

だが少なくとも、この一件が江ノ島鎮守府にとっての大きな分岐点である事は間違いないのだ。

 

 

 

 

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