千葉襲撃より1週間後 江ノ島鎮守府 執務室
「にしてもまあ、結構コテンパンにやられた物だなぁ」
長嶺の手には、今回の深海棲艦のよる襲撃で受けた被害の報告書が握られていた。なにせこれまで、被害という被害を殆ど受けなかった霞桜にも久しぶりに負傷者を出した。艦娘とKAN-SENにも轟沈した者こそ居ないが、大破や中破も大量に出ている。無傷だった者なんて、全体の15%程度だ。45%が小破、20%が中破、30%が大破といったところだろう。実際問題として、他の鎮守府では戦艦や空母といった主力艦級の轟沈者を出しているし、自衛隊と米軍艦にも戦没した艦が出ている。江ノ島鎮守府が異常なだけで、全く無視できない被害が出ているのだ。
話を戻して、長嶺が何の被害報告書を読んでいるかと言うと、今回の戦闘で受けた官民問わずの被害報告である。その量は膨大で百科事典並みの厚さで、それが8個くらいある。被害の詳しい内訳は書かないが、海自はタダでさえ深海棲艦が現れた最初期の戦いで保有艦艇の半数が沈んでいたというのに、今回出撃した艦の半数はダメージを受けて、残りは沈没か沈没寸前という有様。米第七艦隊も旗艦のジェレラル・R・フォード級の『ミッドウェイ』こそ生き残ったが、護衛の艦艇は軒並みやられて全滅こそしてないが瀕死の壊滅状態。他にも沿岸部にて迎撃に当たっていた陸自の部隊、防空に当たった空自にも相当数の死者が出ているし、一般人や警察、消防にも死者が出ている。
特に千葉は知っての通り、実際に深海棲艦が乗り込んできたので房総半島は殆ど壊滅状態。北部は辛うじて避難ができていたりしたが、南部は避難前に来ているので避難もへったくれも無く、逃げ遅れた市民が爆撃や砲撃の巻き添えになって、他地方の死者数を全部足した倍位の死者が出ている。勿論都市機能は崩壊し、完全なる廃墟と化した。総武高校も折角直したのに、殆ど廃墟みたいになってしまっている。
「提督、新たな被害報告が上がりました」
「へいへーい、その辺置いといて」
流石に被害の詳細は鎮守府内なら良しとして、他の基地同士でネット回線を使っての伝達ができない。その為、防衛省を筆頭とした関係各所から郵送されてくる。その為、大淀や他の秘書艦艦娘、KAN-SENが運んでくれている。
「その、被害はどのくらいなのですか?」
「どの位も何も、酷い物よ。海自も第七艦隊も撃沈艦出てるし、他の鎮守府じゃ轟沈艦まで出る始末。警察、消防、陸&空自の現場でも相当数の死傷者が出てる。というか攻撃があった地域の警察と消防は、殆ど機能してないに等しい。
千葉というか房総半島は見事なまでに都市機能が壊滅して、南部はもう瓦礫の山だ。これだけの大攻勢で日本が国家として生き残れたのは、マジで奇跡以外の言い様しかねーよ」
「そうですか.......」
やはり「艦娘が沈んでる」というのは、例えこの江ノ島鎮守府の者では無いにしても堪えるらしい。見るからに顔が暗くなる。
「.......にしてもまあ、奴ら仕事をどんだけ増やしゃ気が済む。アイツらが襲撃してくれやがったお陰で、見たくもねぇ被害報告を見る羽目になるわ、書類仕事が馬鹿みたいに増えるわ、そもそもの元からある仕事は止まるわ、資材がどんどん溶けるかの如く消えていくわ。
あー、クソ。自分で言ってて悲しくなってきたわ」
「提督も大変ですね.......」
「そういや佐世保鎮守府の後任も決めにゃならんし、この後に及んで何か厄介事が持ち込まれねーといいがな。
あー、そうだ。提督共を集めて、今後に関する会議も開かねぇと」
そろそろ休みたいが、やるべき仕事はまだまだ山積み。休めるのはもっと後だろう。そしてこれより数日後、久しぶりに全提督と司令官を集めた会議が江ノ島鎮守府にて開かれた。
「皆さん、このクソ忙しい上に色々あった中で集まって頂き、ありがとうございます」
「あのー、長嶺提督?」
「何でしょう、小清水司令」
「佐世保鎮守府の河本提督がまだ来てない様ですが.......」
小清水は元は河本派閥だったが、既にこちら側の派閥に鞍替えしており、河本の事は何も知らない。それに今や河本派閥は傘下の者が悉く汚職しまくったので、生き残ってるのは海道しかいない。
「まずはその件から話しましょうか。先日、山本提督が負傷したのはご存知ですね?」
「確か深海棲艦の攻撃に巻き込まれた.......でしたよね?」
「山本提督、よくぞご無事で」
「影谷に白鵬、よう覚えておったな。だがあれは、深海棲艦の仕業じゃないよ」
山本が静かにそう言った。事情を全て知る長嶺と被害者である山本を除いて、全員が驚きの声をあげる。
「山本提督は深海棲艦ではなく、シリウス戦闘団と呼ばれる組織に暗殺されかけたのです。今から約2年前、防衛省、海軍、自衛隊の関係者が連続して殺害された事件があったのを覚えていますか?あの事件を皮切りに、『霞桜』は彼らとの戦争を行なっております。
既に実行犯は殺害、いえ。シリウス戦闘団によって既に口封じに殺されたので、襲われる心配はありません。しかしどうやらこの作戦はかなり前から動いていたらしく、私もこの1年、とある場所に潜入していました。尤も尻尾も掴めず、結果的に山本提督への暗殺未遂で飛躍的に分かったんですけどね」
「ふーむ、でも繋がらないなぁ。長嶺提督の口ぶりだと河本提督が来ないのは、今の話に関係あるって事なんだろうけど.......」
「風間提督、これだけの事を仕出かすのって普通に考えて出来ると思います?」
「まあ映画とかなら協力者がいるよねぇ。うん?.......まさか」
風間は気付いてしまった。艦娘を従える提督と司令は、ある意味国家元首以上に重要である。国家元首というのは例え死のうと、代わりがいる。例え王族であっても、その子供が即位して摂政でも付ければ問題ない。大統領、首相もさっさと選挙してしまえば良いだけだ。
だが提督と司令は、成り手がそもそも少ない。艦娘と同程度で重要なポジションであり、鎮守府の外に行くにも護衛か艦娘が必ず付く事が義務付けられている。にも関わらず、山本提督は襲われた。もし仮にそれが鎮守府内部なら、それこそ大要塞で暗殺されたも同然。部外者が出来る芸当ではない。
「お察しの通りです。佐世保鎮守府提督、河本山海海軍大将はシリウス戦闘団と密かに通じていました。事もあろうに、この江ノ島鎮守府にシリウス戦闘団の部隊を差し向けて所属艦娘とKAN-SENを全員連れ去りましたよ。しかも河本一族含む、様々な上流階級に売ろうとしてましたからね。勿論、ソイツら共々、即刻この世から消しましたがね」
「か、河本提督が死んだ.......」
「はいはい、とりあえず死んだ粗大ゴミの話はここまで。死人に、それも国を裏切り俺の可愛い可愛い仲間を傷つけやがったゴミクズを気にしてやるより、仕事の話をしましょうよ」
海道は特に愕然としているが、周りの提督達は結構涼しい顔をしている。というか何なら、白鵬と影谷に至っては「よくそれで連合艦隊司令になろうとしてたね」とか言われてる。
「仕事の話とは言うが、新たな作戦でも決まっておるのですか?」
「えぇ。現在、各基地の活躍によって南方海域の深海棲艦の主要基地は壊滅しています。そこで今後は、インド洋を超えて欧州方面と北方方面への解放作戦を実施しようと思っています。
恐らく先の襲撃の戦力は、各戦区の戦力を抽出して編成しているでしょうが、幾ら何でもあの量が全てそうとは思えません。恐らく北方方面からの基幹部隊が動いていた筈です」
「確かにこれまで、北方方面は敵の量が多く、威力偵察が限界でしたからね」
いつか痴漢冤罪でしょっ引かれかけた川沢の言葉に、周りの司令達も頷いている。
「分担はどうしますか?」
「まあそう焦るな、白鵬。今回は初となる、全基地との合同作戦を展開します。白鵬の新潟基地、影谷の下関基地、風間提督の呉鎮守府は俺の江ノ島鎮守府の艦隊と共に北方方面を攻撃。海道司令を除く、他の基地は欧州方面を奪還するに当たって重要となるスエズ運河の攻略を任せたい。指揮官は、山本提督。お願いします」
「あい分かった」
これまでの作戦によって取り敢えず南西諸島や南シナ海、南太平洋方面は開放してある。そろそろ更に奥へ踏み込んでもいいだろう。この考えと先の本土への大攻勢を仕掛けた艦隊の進路を洗った結果から、今回の作戦が決まったのだ。
「演習や編成など、その辺りはこれから決めるが、取り敢えず編成に関しては本日より1週間以内に決定の上、私の方に送ってください。ダブり艦などに付いては当該鎮守府同士で協議の上、結果は私にも報せてください。
鎮守府合同の演習などに着いては、また追って連絡しますので、本日はこれにて終了となります。あー、そうだ。山本提督と風間提督。2人は残ってください」
山本と風間を残し、他の提督達は会議室を出ていく。1番最後の川沢が出て行ったのを確認すると、長嶺は部屋に鍵を掛けて外から誰も入れないようにした。
「それで、我々をここに留めてどうしたのだね?」
「何か僕達だけに特別な任務でもあるのかい?」
「まあ、ある意味特別っちゃ特別ですよ。ただこれ、他の提督達に聞かれると要らん誤解や変な事に利用されかねないんでね。
単刀直入に言います。現在この江ノ島鎮守府で、深海棲艦の、それも姫級を鹵獲しています。勿論、生きた状態で」
2人の顔が一瞬にして強張った。確かにそんな情報、同じ提督と言えど下手に流せられない。と言うか自分達ですら、軽く混乱している始末なのだ。そうそう「はいそうですか」では受け入れられない。
「そ、それはどういう事かな?」
「言った通りです。先の同時襲撃より1ヶ月前、遠征に出ていた第六駆逐隊が戦艦棲姫と港湾棲姫に接触。こちらに協力を申し出て来ました」
「協力だと?」
「彼女達曰く、深海棲艦にも過激派と穏健派があり、彼女達はその穏健派らしいのです。深海棲艦は本能的に戦争する様になっているようなのですが、彼女達穏健派はその中で自我と言っていいのか微妙ですが、そういう類の考えが生まれた者達で構成された派閥らしく、この本能も書き換えられるそうで、全ての深海棲艦の本能を書き換えてこの戦争を終わらせたいと考えているそうです」
「.......それを君は信じるのかい?あの我々を敵である、深海棲艦の言葉を」
風間の声には珍しく怒気が孕まれていた。今回、風間の艦隊は3隻の轟沈艦を出している。その横の山本も、声こそ上げてないが顔には怒りが滲み出ている。山本は開戦当初からの猛者。目の前で死んでいった同僚の数は計り知れない。
「信じる信じないはこの際、どうでも良いです。まあ取り敢えず、体裁上は信じてる事にしてますけどね。俺だって別にアイツらにそっち程恨みを持っちゃいないが、敵である以上は信じられない。
だが一方で、これはチャンスでもある。2人の言が本当であれば戦争の終わりに近づく訳だし、例えそうでなくとも姫級が少なくとも現段階では敵対せずに友好的なだけでも使いようによっては切り札だ」
「.......長嶺。一つ、聞かせてくれ。何故それを我々にだけ話した?さっきの、あの会議で話せば良かったのではないか?」
「簡単な話ですよ。あんな場でおいそれと「姫級拿捕っちゃいました!」なんて言えば、それはもう大惨事でしょ。多分収拾つかなくなるんじゃねぇかな?だから敢えて、伝える人間を絞ったんです。お二人であれば、少なくとも「今すぐ殺せ」とか何とか面倒な事には発展しないでしょうから」
口ではこう言っているが、結構な博打である。先述の通り、2人は既に深海棲艦の恐ろしさを痛い程知っている。長嶺程の場数を踏んで、尚且つ別れもたくさん経験していれば、余程のことが無い限りはどんなに怨みを持っていても激情に駆られる一方で冷静に物事を俯瞰し、どの選択が1番最良かを天秤に掛けきるが、2人の場合がどうなるかは未知数だ。
いつもの2人なら問題ないだろうが、今回は深海棲艦という怨みの対象が相手。時に感情は人間から理性や合理性を奪い去り、化け物にさせる。それを殺し切れるか否か。それは出たとか勝負なのだ。
「.......その深海棲艦が我々に敵対したらどうするんだい?」
「殺して、素材剥ぎ取って、我々の使う対深海徹甲弾に加工するだけですよ」
「良いのでは無いか風間。長嶺の仕事ぶりと信頼さは折り紙付きだろう?」
「.......確かに長嶺くんなら、任せられますね」
どうやら2人とも、取り敢えずは納得してくれたらしい。だがここで、もう一押ししておきたい。
「ありがとうございます。あぁ、そうだ。どうせここに来たんです、裏切り者の末路。見てみませんか?」
「裏切り者の末路だと?」
「河本提督ですよ。アイツはまだ生きてます」
この一言に2人は驚いた。てっきりもう殺されていたと思っていたのだが、生きているというのだ。本来なら喜ぶべきなのかもしれないが、そこ知れぬ嫌な予感もした。だが、何だかんだで見る事になり2人を地下の本部へと連れて行く。
「地下にこんな空間があったのか.......」
「ここが我々『霞桜』の本部ですからね。河本はこの先の特別監獄にて、拘束されています」
暫く歩くと鋼鉄の頑丈そうな扉があった。長嶺がキーカードを通して、その厳重に封印された扉を開ける。重苦しい音共に扉が開くと、中には無数の穴が空いた壁があった。
「これは.......銃口かな?」
「えぇ。もし奴が逃げれば、ここで蜂の巣にされます。その後に火炎放射器で炙って、液体窒素を撒いて、最後に毒ガスを散布します」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!え、もう一度言ってくれるか?」
「なので対象が逃げるとするでしょ?そしたらまず、ここのフロアで銃撃されて、その後に火炎放射器で焼かれて、液体窒素でカチンコチンに冷凍されて、仕上げに毒ガスを撒くんですよ。
二重三重に死の罠を仕掛けておけば、例え逃げ出して行く先々や元々の収監中に何かしらの対策を立てていたとしても、これ全てに耐える事は出来ませんからね」
2人は開いた口が塞がらなさった。仮にここに収監されてるのが白石の様な脱獄のプロでも、ルパン三世や怪盗キッドの様な凄腕の大怪盗でも、ここは突破できないだろう。
因みに銃は全て12.7mm弾を使うM2で、火炎放射器は数千℃で燃える炎を吐き出し、毒ガスはサリン等の神経ガスを混合した物をばら撒く。
「まあでも、この仕掛けは最終防衛ラインです。第三防衛ラインは、この区画になります」
「.......特に変な所は無いようだが?」
「この出っ張り位かな?」
「そうです。その出っ張りが仕掛けです。それ全て、マイクロ波発生装置なんですよ。つまりこの廊下一帯が全て、巨大な電子レンジになるんですね」
電子レンジに人を突っ込むと眼球に数秒で激痛が走り、脳へのダメージも予想されている。かつて事故で腕を5秒ほど作動中のレンジに突っ込んだ女性は、数年間に渡り焼けるような痛みを発する後遺症を負っている。一説では卵のように爆発するとまで言われているので、多分ここで死ぬだろう。
「他にも第二防衛ラインでは数百万ボルトの電流発するトラップが仕掛けてありますし、第一防衛ラインでは古典的ですが虎鋏なんかを仕掛けてありますよ」
「.......風間くん。この男、恐ろしいな」
「えぇ。なんかもう、一周回って尊敬できますよ」
ガチガチの脱獄防止トラップ、いやもう一種の処刑トラップを抜けると、ありふれた鉄格子のある部屋に出た。薄暗くて酷い臭いで、思わず2人とも鼻を覆った。というか吐きそうである。
「刺激が強かったかなぁ。でもこれが、私の生きた世界ですよ。さぁ、よくご覧ください。私利私欲の限りを尽くし、私の大切な者を穢してくれやがった男の末路です」
暗闇に慣れてきた2人の目に飛び込んできたのは、もう人間とは言えない姿となった肉の塊であった。
「あ、アイツが河本なのか!?!?!?」
「ウッ、オエェェェェェ!!!」
風間は耐え切れず、戻してしまった。無理もない。今の河本の姿は脚は太腿、腕は二の腕までしかなく、目は片目が抉られて、歯も全部折られていて鼻も裂けているあり様。とても人とは思えない。
「あの男にはまず金玉を潰してから、チンコを擦り潰す拷問を加えました。その後は歯を全部あって、足と指の爪を剥がした後、関節を一つ一つ丁寧に外して、腕や足の骨を砕きました。更に肉もすり潰してミンチにし、奴に食わせましたよ。それから麻薬を注入したりとかして、軽く中毒で幻覚も見てます。
今やあの男に、河本山海という自我は残ってないでしょう。殆んど死んだも同然で、幻覚を見てはパニックなり、幻肢痛に苛まれ、ランダムで痛みが増えて行く。地獄ですよ」
「な、なぜこんな事を?殺せば良いんじゃないのかい?」
「殺す?そんなの、優しすぎますよ。奴は俺の家族たる艦娘とKAN-SENを連れ去り、ここの職員を殺し、薬漬けにして、更にはオイゲンを穢した。そんな事をした奴を殺す?そんなの甘い。奴には1秒でも長く、1ミリでも多く苦しんで貰わないと」
風間はその言葉に生まれて初めて感じるタイプの恐怖を感じ、山本はかつて、東川に言われていた事を思い出した。
『ウチの息子は、かなりの化け物だ』
『化け物だと?どういう事だ』
『アイツには、そうだな。なんて言えば良いんだ?ブレーキが無いんだよ。アイツがこうだと決めたらアクセル全開で突き進む。頑固な一辺倒ではなく、常に周囲を見ているからヤバくなれば回避するが、本気で怒った時はヤバい物を排除して突き進む。しかもそこに理性が働かず、人を人として見ないんだ。つまり拷問、殺人、何でもやる』
『化け物だな。それは確かに』
あの時は正直、そこまでイメージはできなかった。だがこれを見て、漸く具体的なイメージが見えた。そして理解した。この男、本気でヤバいと。
「き、君はこれを見て、何も感じないのかい?」
「まあ特には。正直俺って、ガキの頃から色々やってましてね。万単位で人を殺してますから、今や人殺しに何も感じないし、こういう拷問もクズがそうなってるのなら「いいぞもっとやれー」位にしか思いません。
強いて言えば、死ぬその直前まで苦しみ続けて死ね、位しか頭には思い浮かびませんね」
「何だか、凄いね.......」
「敵には容赦ありませんから。例えそれが元仲間だろうが、部下だろうが、上司だろうが」
この念押しで、多分深海棲艦が裏切ったとしても処理してくれるだろうと確信した。その代償が、長嶺のヤバさにドン引かれるという物なのだが。
2人が帰還した後、今度は『霞桜』と艦娘、KAN-SENの代表者による会議開かれた。今後の方針を決める為である。参加者は以下の通り。
・長嶺雷蔵
・グリム
・マーリン
・レリック
・バルク
・カルファン
・ベアキブル
・大和(艦娘代表)
・エンタープライズ(ユニオン代表)
・プリンス・オブ・ウェールズ(ロイヤル代表)
・赤城(KAN-SEN)(重桜代表)
・プリンツ・オイゲン(鉄血代表代理。本来はビスマルク)
・ハルピン(東煌代表)
・ヴィットリオ・ヴェネト(サディア代表)
・ソビエツカヤ・ロシア(北方連合代表)
・リシュシュー(アイリス代表)
・ジャン・バール(ヴィシア代表)
見てわかる通り、かなりの大人数である。
「よーし、全員揃ったな。今回、お前達を招集したのは他でも無い。今後の流れの伝達と、色々と対策を練る為だ。
まずは戦略関連の話だが、近々、北方海域とスエズ運河への攻略作戦が行われる事になった。この内、我々江ノ島艦隊は新潟、下関、呉と合同で北方海域の攻略を担当する。これを受け、合同演習等も行う予定だ。北方海域は我々にとっては、未だ手付かずの敵の領域。激戦が予想される。ロシアを筆頭とした、北方連合には恐らく色々世話になるから宜しく頼む」
「任せるがいい、同志指揮官。我々は貴様らと革命の障害を取り除くために、全力で動くぞ」
「そう言ってくれて助かるよ。これで一つ目の議題は終わった訳だが、次からが本番だ。1ヶ月前、知っての通りここは敵の襲撃を受けた。建物の修復も終わり、特段問題はないが、今度は日本本土が攻撃に晒されて各地はボロボロ。自衛隊も手酷くやられた。今後、またこんな事が起きるかもしれない。
深海棲艦の攻撃か、はたまた裏切り者による襲撃か。どんな理由であれ、この江ノ島鎮守府自体が占領されたり破壊される可能性がある事が今回の一連の事件で分かった。ここの長たる俺には、お前達の衣食住を保証する義務がある訳で、この義務を果たす為のアイデアを募集したい」
いきなりのアイデア募集に、全員反応が出来ない。というかサラリと言われたので、アイデア募集である事に気付いていないのだ。
「ちょっとボス?アイデア募集って言うけど、確か『霞桜』は拠点があるんじゃなかったの?何かあれば、一旦そこに逃げて体勢を立て直したら良いんじゃない?」
「確かにカルファンの言う通りだ。俺の経営するダミーカンパニーとか隊員達の偽造身分を使って、日本どころか世界中に隠れ家やセーフハウスを保有している。数人しか入れない物から、大隊規模で使える物もある。
だがこれはあくまで、作戦の前線基地や緊急時の避難場所程度あって、もしここを放棄するような事態になった時、本部機能を丸々移転できる様な代物じゃないんだよ」
これに加えて、長嶺自身の人脈をフル活用すれば更に隠れ場所を確保する事が出来る。だがそれでも、例えば『霞桜』が保有する兵器群を収容したりする事は出来ない。自律稼働型武装車とか稼働本部車みたいな兵器なら出来るだろうが、戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』を筆頭としたデカ物兵器は流石に隠せないだろう。まあ頑張れば少しは隠せるかもしれないが、全機隠すとかはまず無理である。
「指揮官。その隠れ家とやらは、私達が使えるのか?」
「いや。流石に艦娘、KAN-SENの使用は元から想定していない。単純に寝泊まりするなら出来るが、例えばそこで艤装の整備するとか入渠させるとかは無理だな。
まあ、ハルピンの趣味である筋トレは出来るだろうがな」
「私の趣味ができても、それじゃ意味がないなぁ」
ハルピンの言う通り、筋トレが出来ても意味がない。確かに『霞桜』のセーフハウスである以上、普通ではない。壁にはRPG7の直撃にも耐える装甲板が入ってるし、ガラスも防弾仕様で、室内には武器、弾薬も隠してあるし、銃の整備位なら出来る。勿論キッチンや風呂、トイレも、どんな秘境の拠点でも完備してある。
だがこの拠点はあくまでも、『霞桜』という人間が使う事が大前提。艦娘、KAN-SENの使用は不可能である。入渠設備なんて物はなく、部屋にあるのは普通の何の変哲もない何処の家庭にもある風呂である。
「一番手早いのは、ここの要塞化でしょうか?」
「と、赤城が言ってる訳だが、レリックどうなの?」
「出来なくはない。やる価値もある。だけど、速射砲とか足りない」
「あ、その辺は大丈夫。オート・メラーラとかの兵器製造会社の社長とか幹部と知り合いだから、こっちに製造機械を流してもらえる」
長嶺の人脈の前に不可能はない。その気になればISSに乗り込んだり、世界遺産を引っ張ってこれるし、弾丸から核弾頭、大昔のオンボロ骨董品兵器から最新鋭の試作兵器まで、何でも調達できる。その能力はマッコイ爺さん並みである。
「分かった。なら問題ない」
「全く。本来なら驚くべきなんだろうが.......」
「指揮官ならやりかねないの一言で片付くのが恐ろしいですね.......」
何だかんだ付き合いの長い『霞桜』の面々と、大和は涼しい顔である。だがまだKAN-SENの皆は慣れきれてないのか、ちょっと驚いている。それ故にジャン・バールとリシュシューの言葉に、全員が頷いている。勘違いしないでほしいが、これが普通の反応である。大和や『霞桜』の頭可笑しいだけだ。
「あの、提督。凄く荒唐無稽なのは承知ですけど、良いですか?」
「なんだなんだ大和。なんか良いアイデアがあるのか?」
「正直、夢物語だとは思うんですけど.......」
「心配すんな。こういう時は常識とか、予算とか、そんな小さい事は気にするな。まずはその辺度外視で、めちゃくちゃスケールをデカくしろ。後からそれを、実現可能レベルまでダウングレードしていくだけだ」
これが長嶺流のアイデア募集法である。先ずは面倒な事を度外視して、やりたい事を取り敢えず並び立て、それをダウングレードして現実に即した物に落とし込む。こうすれば案外、面白い物が出来上がるのだ。
「.......わかりました。私が考えたのは、第二の江ノ島を作る事です」
「第二の江ノ島を作る?どういう事かしら?」
「赤城さんが言う様にここを要塞化するのも良いとは思うんですけど、もしここが落ちた時の事も考えるべきではないでしょうか」
「確かに予備を持つのは戦術の基本だ。艦も艦長が負傷しても、副長が代わりを務めるからな。良いかもしれない」
ウェールズも賛成らしい。KAN-SEN達からもチラホラと意見が肯定意見が出ているが、エンタープライズとヴェネトがそれを現実に戻した。
「大和、一つ良いか?」
「何でしょう、エンタープライズさん」
「大和の意見は素晴らしいと思う。だが、何処にそれを作るんだ?」
「確かにそうですね。霞桜の皆さんに、私達KAN-SENと艦娘を合わせれば1000人以上の大所帯です。それを収容できるだけの規模の基地を作るのは至難の業でしょう。因みに指揮官。これは正規の物はではなく、秘密裏に作るのですか?」
「そうなるな。今回の防衛力強化は対深海棲艦の他、シリウス戦闘団や今後現れるかもしれない裏切り者を意識している。赤城の様な単なる防衛設備の拡張だけなら普通にやるが、流石に第二の拠点制作は極秘裏にやる必要がある」
「であれば、余計に難しいですね.......」
エンタープライズとヴェネトの言う通りで、大和もそこを気にしていたのだ。これだけの規模の基地を秘密裏に作るのは、かなり難しい。
「レリック。ぶっちゃけ、場所さえあれば作れるのか?」
「作れる。けど、場所による」
「作れはするのか。なんか良い場所ねーかな?」
そう言いながら、長嶺は外を見た。遠くに東京のビルが微かに見える。それを見た時、長嶺の頭にはとある場所がフラッシュバックした。
「.......あぁ!!!!あるじゃん!!!!!!」
「あるって、親父?」
「総長どうされました?」
「まさか、あるんですかい!?」
「ちょっとお前ら待ってろ!!」
長嶺は部屋を飛び出し、自分の執務室へと走る。執務室に着くや否やパソコンの前に滑り込み、素早く電源を入れて、とあるデータを『霞桜』の記録から呼び出す。
「確かアレは、1年前の.......南方海域。太平洋方面......あった!」
長嶺が呼び出したのは、戦場となったとある島の事後記録。そこにあったのは『公式記録 抹消 備考:現在は深海棲艦が散布した瘴気が蔓延している為、健康被害等の簡単から半径25海里は官民問わず立ち入り禁止区域』という文章。これこそが長嶺の求めていた答えだ。
すぐにUSBにコピーして、また会議室へと戻る。
「あったぞ。建物云々の強度は別として、少なくとも誰にもバレずに拠点化できて、尚且つ俺達全員が収容できるであろう場所!!」
「ど、何処ですかそれ!!」
「焦るなよグリム。コイツを見ろ!!」
「これですか!!!!」
「お前達も覚えてるだろ?まあハルピンとかヴェネトみたいな、後からこっちに来た組は知らないだろうが、他の者なら分かるはずだ。
プロジェクターに投影されたのは、かつて『霞桜』、アズールレーン、レッドアクシズが戦った戦場。あの廃墟ビルで形成された島である。
「現在この島は、表向きには深海棲艦が生成した瘴気が原因で官民問わず、半径25海里以内は立ち入り禁止な上に、公式記録ではこの島は無かったことになっている。更に衛星にも国がジャミングを掛けて、自動的にここの映像がKAN-SEN達が来る前の映像に書き換えられているから問題ない。
しかもこれだけのビル群なら、余裕で俺達を収容できる上に兵器群の収容も、整備拠点の設置だって出来るはずだ」
「確かにこれなら!」
「よく見つけたわね」
まずはこのビルの強度とかを見なくてはならないので分からないが、取り敢えずの候補地は決まった。この保険が後に、江ノ島鎮守府最大の危機を乗り越える鍵になるとは、まだ誰も思わなかった。