数週間後 江ノ島鎮守府 執務室
「よく来たな、お前達。歓迎しよう」
この日、執務室には彼らが来た。総武高校の生徒会メンバーである比企ヶ谷、三浦、戸部、川崎、戸塚、材木座、一色の7人である。あの深海棲艦による日本同時侵攻後、懸命に口説き続けこの間、全員からOKが出たのだ。因みに各家の家族にも、あれこれ説明して了承してもらっている。
「よろしく頼む、長嶺」
「まあ、適当によろしくだし」
「よろしく」
「よろしくっしょ!」
「よろしくね!」
「うむ!我らを頼むぞ」
「先輩、よろしくお願いします!」
全員、元気がいい。早速7人をこれからの自分達の憩いの空間となる、自室へ連れて行く。場所や間取りは比企ヶ谷と同じなので、今回は割愛しよう。
簡単に部屋紹介が終わった後、今度は小会議室にて今後のカリキュラムや規則を教えていく。
「さて、じゃあ改めて。長嶺雷蔵、海軍元帥だ。君達の最上位の上司であり、まあ組織のトップだ。だが敬語はいらん。いつもの様に話せ。
では今後のカリキュラムだが、半年でお前達を立派な戦士へと鍛え上げる。結構スパルタだが頑張れ。これが日程だ!」
そう言って長嶺がホワイトボードにカリキュラム表を叩きつけて、磁石で止める。そこには案外少なめに予定が描かれていた。予定表はこんな感じ。
05:00 起床
05:30〜06:45 体力錬成トレーニング
07:00 朝食
08:00〜12:00 訓練
12:00 昼食
13:00〜19:00 訓練
19:00 夕食
20:00〜21:00 体力錬成トレーニング
21:00〜05:00 自由
まあ見て分かる通り、結構ハードである。
「05:00に起床後、簡単な体力錬成トレーニングを行う。メニューは個別で変えていくが、まあわかりやすく言えばジョギングや筋トレ等の有酸素運動だ。07:00に朝食。これは朝昼晩全てで言える事だが、食事は無料かつ常に多種多様な食事が楽しめる。好きに食うといい。
08:00から12:00までは訓練だ。これは日によって変わる。戦略や戦術を教える座学だったり、操縦や射撃、後は格闘なんかの実戦だったりと様々だ。12:00から13:00までは休み時間で、13:00から19:00まではまた訓練。
夕食後、20:00から21:00までは、またトレーニングを行う。21:00から翌朝の05:00までは自由だ。寝るも遊ぶも、好きにするがいい。これが取り敢えずのカリキュラムだが、状況や訓練の内容によっては変わる場合がある。その辺りは臨機応変にやってくれ。次はそうだな、お前達にこれを配ろう」
そう言って長嶺は7人にスマホ、タブレット、ノートパソコン等のIT機器を配り出した。
「まずはそのスマホ。そのスマホには通常のスマホの機能の他、ここのセキュリティカードキー、電子マネー、クレジットカード機能が標準搭載されている。電子マネーには世界各地の電子マネーアプリが入っていて、取り敢えず限度額一杯まで入れてある。クレジットカードの方はブラックにしてあるぞ」
これを聞いた比企ヶ谷が噴き出して、それを見た6人が比企ヶ谷を不思議そうな顔で見ている。
「お前、俺達を富豪にでもしたいのか?それとも押し売りして、その方に俺達を売り飛ばすつもりか?」
「どういうこと?」
「ブラックカードってのは、クレジットカードの最高ランクだ。高い年会費を払わないといけないし、何より審査が厳しい。富裕層向けのカードだ」
「つまりこれは詐欺、ということか!?」
「え、それやばくね?」
「解約ってできんの?」
「先輩信じてたのに!!」
「はいはい、取り敢えず詐欺方向に進むのやめようか」
これは長嶺が悪い。いきなりブラックカード相当のクレカを発行している時点で、本来ならあり得ない事だ。そもそもブラックカードになるには、会社側からオファーがないとなれない。そのオファーが来るのも「数百万以上の使用履歴がある」とか「支払いがちゃんと遅延なく行われている」とか、かなり面倒なのだ。
しかも今回はアメックス・センチュリオンカード、ラグジュアリーカード、JCBザ・クラス、ダイナースクラブ・プレミアムカード、JP Morgan Chase Palladium Card という世界最高峰の5枚を作っている。どれもこれも入会金で何十万とか100万とか掛かる、化け物カードである。
「そもそもこれは、お前達がここに入った見返りだ。今後、お前達は非合法な行為を重ねていくことになるだろう。我々に法律は適用されない。だがこれは殺人や強盗で罪に問われないというメリットだけでなく、法律の庇護を受けられないというデメリットも孕んでいる。
お前達を護るのは、究極的には自分自身しかない。時に仲間も敵になるからな。となれば、権力や金がいる。これはその第一歩なんだ。別に売り払いもしないし、ここを去る時でもない限り後から返せという事もない。だから安心しろ。あ、そうそう。銀行のアプリってある?」
「あ、これ?」
「そうそれ。取り敢えず日本、スイス、アメリカ、中国、イギリス、フランスの銀行に5,000万。スペイン、メキシコ、カナダ、ブラジル、チリに3,000万。各銀行の口座にそれぞれ入れてあるぞ」
この長嶺の説明に全員が吹き出した。つまり現在、1人頭4億5000万円入っている事になる。県とか市の年間予算並みだ。
「あ、そうそう。それ単位が円じゃなくてドルだから、間違えんなよ?」
再び全員吹き出した。ということは1人頭が為替レートもあるとは言えど、最低450億円である。小国の国家予算並みだ。
「ちょ、ちょっと待つし!!もう怖いんだけど!!!!ってかアンタ、幾ら持ってる訳!?!?!?」
「ん?あー、今いくらだったかな?俺色んな戸籍持ってるから、多分全部ひっくるめると10兆ドルとか、多分そんくらいじゃね?」
あくまでこれは不動産とか持ち株とか、その辺りの物もひっくるめてではある。因みに参考までにアメリカの2024年予算編成方針は、6兆8830億ドルである。
「(ね、ねぇ材木座くん。アレってどの位の額なの?)」
「(う、うむ。に、日本が、2、3個買えるぞ.......)」
「「.......」」
ザ・規格外である。まあでもこれカラクリがあって、複数の戸籍を使って株式市場とかを自由自在に操っており、それを使って額を増やしまくっているのである。後は非合法な手段とか、結構色々やった結果である。
最近では貯蓄用に戸籍を作るという、もう何言ってるのかよく分からない理由で戸籍を作ったりしていたりする。
「一応言っとくが、これは霞桜の入隊と同時に全員が一律で貰う額だからな?」
「.......先輩。それって、大体何人くらいいるんですか?」
「現状、3093人だな」
「それだけの人数、全員にもれなく配ってるって化け物ですか.......」
「ん?あー、もしかしてこの金、俺の資産からだと思った?この金は俺の資産じゃなくて、霞桜の運用資金の方から抽出してるから」
全員が勘違いしていたのだ。4億5000万ドルは、あくまで霞桜の予算から持ってきている。というか『予算』というのも烏滸がましい、ぶっ飛んだ手段で金を得ていたりする。
「じゃ、じゃあその予算ってどのくらいなの?」
「戸塚よ、それを聞いちゃうか?」
「う、うん」
「霞桜の予算。それは無限大だ」
「「「「「「「.......はい?」」」」」」」
読者諸氏もこれまで疑問に思わなかっただろうか?「いくら何でも、霞桜とか江ノ島鎮守府って装備とか設備が良すぎじゃね」と。当初は長嶺のポケットマネーも使っていたりしていたが、ここ一年半位で霞桜の資金力は劇的に改善した。その禁断の秘術とも言える、最強の秘密をお教えしよう。悪用厳禁である。
「お前達さ、仮想通貨とか暗号通貨って聞いたことあるだろ?ほら、ビットコインとかリップルとか。あの手の通貨って、言ってしまえば単なるデータにすぎない。
じゃあそのデータ、作ればいいじゃない。その発想でウチのスーパーハッカーと、スーパーメカニックがタッグを組んで、本当に仮想通貨を量産してしまう装置を作っちゃったのよ。後はそれを現金化すれば良いだけで、実質無制限に金が湧き出る訳よ」
これに加えて、現在世界では暗号通貨は信用度が高い国際貨幣でもある。深海棲艦の出現により様々な影響が出たが、世界の為替レートもそれはそれは大きな被害が出ている。「金が紙屑と金属の塊になった」なんて、出現当初は珍しい話でもなかった。
そこで国連を筆頭に、様々な国家が暗号通貨に目をつけた。今や国際貿易の代金は暗号通貨で行うのがマストになりつつあり、それ故に信用度は高い。お陰で霞桜の資金は実質無限大なのだ。
「な、なぁ比企ヶ谷くん!ぶっちゃけ霞桜の隊員って、全員ぶっ飛んじゃってる感じ?」
「ぶっ飛んでるぶっ飛んでる。この前なんて、深海棲艦は食べれるか食べれないかの議論とかしてたぞ」
この一言で全員が、自分達のいる場所がかなりヤバいと知ったのである。流石に長嶺が「まあ全員ぶっ飛んでるけど、味方には優しいから。敵には容赦ないけど」とフォローを入れた。少しは印象が好転.......する訳ないな、うん。
「そう言えば金の話で話がズレていたな。話を戻そう。そのスマホはお前達の普段使いで、好きにアプリを入れてもらって良いぞ。ゲームしようが、インスタやろうが、ググろうが、何したって良い。しかもそのスマホにはネット接続の経路が分からなくなるシステムが搭載されていて、簡単にいうとハッキングとかウイルスを受け付けないシステムになっている」
「ふむ、さっぱり分からぬぞ!」
「OK。少し詳しく説明しよう。ネットは使うと、足跡とかの痕跡が残る。ログイン履歴とかIPアドレスとかな。こういった痕跡がつながらない、要は使ったそばから経路が全部ぐしゃぐしゃの迷路になる訳だ。本来一直線の線が、右に左にあっちこっちに行くんだ。
これをされると相手は個人を特定することが不可能になるし、コンピューターウイルスとかも入れられなくなる。最強のネット防犯システムを搭載している訳だ」
どうやらこれでわかってくれたのか、全員が一応頷いた。因みにこのスマホを使えばダークウェブにも入れるし、何処かの国の機密ファイルを見ても追い掛けられない。世界一のハッカー、グリムが作った逸品なのだ。この位、朝飯前である。
「カメラは最大30倍までの高倍率で、3億画素を誇る。無論手ブレ補正、ToFセンサー、色味、撮影モードも豊富だ。ppiは1000で、メモリは3TB。生体認証は指紋と顔、両方使える様になっている。Dolby Atmosにも対応しているぞ。バッテリーもフルで24時間使える。防水、防塵、耐衝撃も軍用モデルと同じだ。海の中で使おうが、砂漠に埋めようが、ビルの3階から落とそうが一切問題ない。
次にタブレットだが基本的にはスマホと大差ないが、メモリは8TBだ。好きに使え」
勿論このスペックは全て、普通のiPhoneとかAndroidを遥かに凌駕する、超スーパー高スペックである。制作がグリム&レリックの時点でお察しだ。
「さてさて、次はPC。こっちも良い感じに改造してある。CPUは1億4568pt。16TB、フル充電で連続48時間の使用が可能だ。軍や国営の機密サーバー相当のプロテクトとセキュリティが施されているし、さっきの足跡を辿られないシステムも常時作動しているから心配するな。
後はえーと、俺からのプレゼントを渡して無かったな。俺の作った高感度マイク内蔵式ノイキャン&外音取り込み機能付きのハイエンドワイヤレスイヤフォンと、ゲーミングマウス、それからポケットWi-Fiと、充電ポートに差し込んで使える外付けのイリジウム電話デバイス。これだけあれば問題ないだろ。あ、そうだ。イリジウム電話は各国の政府回線や軍用回線含めた、凡ゆる衛星に割り込んで使える仕様だ。好きに使え」
完全に頭が追いついてない。スマホに関しては三浦が。ノートパソコンとタブレットは比企ヶ谷と材木座がすぐにその凄さを理解した。どれもこれも、一般人が持てる物を遥かに超える超一流品。それを調達、もしくは自作できる技術に驚いていた。
「最後に今後お前達を世話する連中を紹介しよう。入れ!」
ゾロゾロと霞桜の隊員達、それから数名の艦娘とKAN-SENも入ってくる。
「まずは各教科の担任から。まずは座学。戦略学、本部大隊第二中隊、中隊長ナイル。戦術学、本部大隊第一中隊、ケッサル。陸戦学、第一大隊第四中隊、ヤサラ。情報工学、本部大隊、グリム副隊長。艦隊指揮学、艦娘、長門砲撃戦学、艦娘、大和。航空攻撃学、艦娘、赤城。海中戦学、艦娘、龍鳳。対潜戦闘学、艦娘、神通。夜戦学、艦娘、川内。
実技。体力トレーニング、陸上行動、第三大隊第四中隊、中隊長カプリと第五大隊第六中隊、ワーモ。射撃、第一大隊、マーリン大隊長と第三大隊、バルク大隊長。格闘術、第五大隊、ベアキブル大隊長。暗殺術、第四大隊、カルファン大隊長。水上行動、第二大隊、レリック大隊長。以上の17人だ。
そしてこれとは別に、お前達の特性を伸ばす特別訓練教官として、比企ヶ谷は俺、戸部はバルク、戸塚はマーリン、川崎はベアキブルとカルファン、材木座はKAN-SENの高雄と瑞鶴、たまに俺、三浦は基地航空隊であるメビウス中隊のメビウス1、一色はグリムがそれぞれ面倒を見る。今の内に挨拶しとけ」
大隊長達は自分が受け持つ新米達の元に歩み寄り、思い思いの挨拶を行う。実に個性豊かだ。
「よろしくな坊主!!」
「は、はい!よろしくお願いします!!」
「ガハハ!固くなんな!!」
「私がマーリンです。バスの時以来ですね。よろしくお願いしますよ、戸塚くん?」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
「えぇ。私も本格的に人に物を教えるのは初めてですが、君を必ず立派なスナイパーにしますよ!」
「あなたが紗希ちゃんね。カルファンよ、よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
「姉貴が怖いとさ」
「べーくん?オモテ出ろ」
「.......新入り、言葉ミスるとこうなギャァァァァァァァ!!!」
「あなたが材木座くんね!私は瑞鶴!こっちは…」
「高雄型重巡、高雄だ。ビシバシいかせてもらうぞ」
「う、うむ!望むところであるわ!!」
「三浦さん、だね。メビウス中隊の一番機、メビウス1だ。メビウスと呼んでくれ」
「よ、よろしくお願いします」
「自然体で大丈夫だよ。やりづらいでしょ?今は緊張してるかもしれないけど、青空の王国に入ればそんな気持ちはすぐに吹っ飛ぶよ」
「一色いろはさん、ですね。私が君を担当する、副長のグリムです。君は情報系に強いと、総隊長殿より伺っております。君の能力、この私が伸ばしてみせましょう」
「はい!よろしくお願いしまーす!」
「良い返事ですね。一緒に頑張って行きましょう」
「まあ、よろしくお願いします。長嶺教官」
「OK、気持ち悪いから普通にやってくれ」
「八幡泣いちゃうぞ」
「じゃあもっと泣かせるか」
取り敢えずの顔合わせも済んだので、今度は演習場に連れて行く。これから師事する者の、戦闘スタイルを見てもらおうと言う訳だ。
「では、これより訓練見学に移る。まずは今後、お前達の教官となる者からだ。グリムは.......あー、そうだ!グリムどうしよ」
「私のって、正直パッとはしませんからね」
「というか絵面が左腕の上で、右指をカタカタ動かしてるだけですしね。しかもハッキングって映画みたいな、そんな派手な物でもないですし」
そうなのだ。なんか映画とかドラマだとカッコよく見えるが、アレは単なる演出に過ぎない。実際の所は、キーボードを無言でカタカタしてるだけである。グリムの場合、現場型ハッカーであるので場所によってはアグレッシブに動く。
だがいざハッキングの段になれば、左腕に装備したウェアラブルコンピューターのキーボードをカタカタしてるだけである。他の大隊長が派手なのに、1人だけパソコンでは何か締まらない。
「単純にプライマスで戦闘すれば?」
「格闘したって親父のは異次元だし、俺はドス使うから、銃使っての格闘ならネタ被りもしねーしな」
「ネタ被りとか一番やだもんなー」
「.......俺、帰っていい?装備作り、したい」
「いやあの、いてください。お願いします」
なんか地味に帰ろうとしてるレリックを長嶺が引き止めてる間に、グリムが準備に入る。その間にカルファンが簡単に、共通装備の説明をしていた。
「今後、みんなが戦闘する時にはこの、強化外骨格を装備してもらう事になるわ。この装甲服はグラップリングフック、ジェットパック、水上航行機能、マッスルスーツ機能が付いていて、深海棲艦の通常型戦艦、まあ詳しくは今度教えて貰うと思うけど、簡単に言うと普通の深海棲艦の攻撃が直撃しても多少は耐えられる様になってるの。
それからもし深海棲艦と戦う時は、この対深海徹甲弾を使って戦うわ。普通の弾丸じゃ、傷つける事すら不可能なのは知って通り。でもこれなら、艤装の防御能力を無視して本体に攻撃を与えられる仕組みになってるのよ」
「質問」
「はい、優美子ちゃん!」
「なんで深海棲艦相手に戦える訳?あ、じゃなくて、戦えるんですか?」
「ふふ。シラフで良いわよ。それと質問の答えは私じゃなくて、専門家にお願いするわ。レーくん」
「..............スーツの装甲、深海棲艦の物。銃弾も、装甲材、削って作る。理論上、艦娘にも使える」
極度の人見知りを発動し、いつも以上に口数が少なくなる。これでは説明不足なので、ベアキブルがもう少し説明を加える。
「後、アレな。その深海徹甲弾は、普通の弾丸なんて目じゃねぇ。人に向けて撃とう物なら、死体は原型を留めずにミンチ肉になっちまう。というかなんなら、戦車とかも壊せるからな。間違っても、人に向けるなよ?それ、作るのに相当時間と金がかかる。ついでに素材も少ねぇからな。
あぁ。勿論、余程のクズになら、撃ってもいいぞ?」
「べーくん、みんなドン引きしてる」
「あら?この感じ、ダメなヤツだった?」
「みんな、このバカ弟がごめんね?コイツ馬鹿で、学もなくて、荒くれ者で、脳みそまで筋肉だから」
「姉貴よぉ、俺の扱いが酷くなってない?泣くよ?弟、泣いちゃうよ?」
カルファン、無言でワイヤーをベアキブルの首に巻き付ける。流石にこれ以上は大惨事になりそうなので、長嶺がそっと2人の肩に手を置いた。
「「ヒッ!」」
「お二人さん?そろそろ、やめようか。みんなドン引きしてるから、な?」
長嶺は笑顔である。間違いなく、誰がどう見ても笑顔である。だが、目が笑ってない。見てはいけないタイプの、ドス黒い笑顔である。全員ドン引きを通り越して、逃げたくなったのは言うまでもない。だが逃げたら何されるかわかった物じゃないので、逃げるに逃げられないジレンマに襲われていた。
そうこうしていると、グリムの準備が終わったらしい。グリムはそのまま海へと出て行く。
「それじゃ行きますよー」
「あーい」
数秒後、グリムの周囲に数体の戦艦レ級が現れる。勿論本物ではなく、立体映像なので害はない。
「それでは、始めましょうか」
まずは手近のレ級の頭に弾丸を喰らわせ、そのまま隣のレ級にハイキックを喰らわせる。今度は牽制射撃を加えながら接近し、スタンガンで動きを封じ、その隙に別のレ級の胸に弾丸を叩き込む。
さっきまでビリビリしていたレ級には、パンチマシンで後方にまで吹き飛ばす。そして落着した瞬間、スナイパーモードのプライマスでトドメを刺した。その間、僅か1分。
「グリムの本業はハッカーだが、奴は部屋に篭ってパソコンをカタカタするタイプのハッカーじゃない。奴のスタイルは、現場に赴いて実際のマシンに直接ハッキングするスタイルを取っていた。お陰であんな感じに戦闘が出来る。
次、マーリン!」
「はい」
マーリンは海に出ることなく、その場でバーゲストを構える。今度はグリムの時より遠く、大体800m位の位置に駆逐艦イ級が現れた。
「マーリンは霞桜、いや。世界屈指かつ近代に於けるスナイパー達でもレジェンド級の連中とも肩を並べる、超凄腕のスナイパーだ。専用銃のバーゲストを持ってすれば、位置にもよるが最大で8kmの狙撃すらやってのける。
尤も普段は精々、2〜3km。最大でも4〜5kmが限度だがな」
マーリンは立ったまま、イ級に照準を合わせる。イ級には回避運動する様にプログラミングしてあるので、そのプログラムに従って右に左にジグザグ航行して狙撃させない様に立ち回る。
ジグザグ航行して狙撃させない様に立ち回る。
だが、マーリンの前にそれは意味をなさない。相手の予測位置を勘で導き出し、素早く狙撃していく。物の30秒で10体のイ級を血祭りにあげた。
「次はレリックだ」
「.......面倒。帰りたい」
「分かった分かった。ならレ級1体にするから」
「許す」
レリックが早く帰りたいらしいので、素早くレ級を投影し登場の1.5秒後には、マニュピレータに装備させたMk.19 自動擲弾銃の擲弾が降り注ぎ、撃沈された。
「あー、うん。レリックの本職は技術屋でな、単純な素の戦闘力は弱い。だが奴の装備するマニュピレータアームは重火器を軽々と扱うし、爆弾の設置、解体なんかも出来る。戦闘工兵ってヤツだな。
次、バルク」
「うっしゃぁ!!」
バルクは意気揚々とハウンドを担ぎ、構える。今度は今までで一番多い、重巡リ級40体が現れた。
「バルクは霞桜一の怪力を誇る。奴は主に部隊の火力支援を担当していて、本来なら固定して使うべき重機関銃をぶん回し、タレットとして機能する。そしてアイツの武器の制圧力は…」
キュィィィン、ブオォォォォォォォォォォ!!!!!!!
「ヒーハー!!!!!!」
耳を覆いたくなる爆音。というかもう、なんか既に耳がおかしい。ハウンドが敵をなぞる度、1秒後には溶けているかの様に消えて行く。弾丸の壁とでも言うべき濃密な弾幕は、見る者全てを圧倒する。
「次、カルファン」
「さぁ、遊びましょ?あ、私は潜水艦の相手がいいわ」
「だそうだ。ソ級辺りを頼む」
当初は戦艦リ級辺りを出すつもりだったが、リクエストがあるならそれに従う。すぐにコンソールを操作する隊員に命令して、映像を変えて貰う。
「カルファンは裏世界ではその名を知らぬ者は居ないとまで言われた、伝説級の殺し屋だ。獲物は鋼鉄製の糸。攻撃も防御も自由自在だが、最大の見せ場は対潜戦闘だ」
カルファンは演習が始まるや否や、無数の糸を海中に突っ込む。糸を動かすこと数分、ソ級を海中で全て切り刻んでしまった。
「終わったわ」
「え、もう終わったの!?」
「ただ糸を動かしただけだったような.......」
「そう言われると反論できないけど、これ立体映像だから釣れないのよね」
そう言って肩をすくめるカルファンだが、全員それよりも『釣る』という単語の方に関心が向いていた。釣るって、どう言うことだ?と。
「カルファンは糸で潜水艦ぐるぐる巻にして、それを引っ張り出せるんだよ。今回は立体映像だからそういう芸当できない訳で。ってか、それならリ級にしときゃ良かったのに」
「あはは。やってから気付いたのよ」
「親父、仕方ねぇよ。姉貴って、偶にこういう天然ボケが入るから」
そう言いながら、今度はベアキブルが演習海域に進む。ベアキブルはドスを抜くと、即座にリ級へと襲いかかった。ゼロ距離でドスを捻り上げ、腹を掻っ捌き、喉を掻き切って、顔に突き立てる。
「ベアキブルは元・武闘派極道だった。アイツはドスでの近距離戦を得意とするが、拳銃の腕もある。今の霞桜切込隊長って訳だ。
次は高雄と瑞鶴、言ってこい」
今度は材木座の専属となる、高雄と瑞鶴が海へと出た。霞桜の隊員は陸の方がホームグラウンドになるが、KAN-SENである2人は海がホームグラウンド。動きが滑らかで、全く無駄がない。
「高雄!いつもの感じいくよ!!」
「あぁ!」
まず初手で瑞鶴が艦載機を飛ばし、制海権と先制攻撃を得る。敵がそっちに気を取られている間に、高雄が肉薄して場をかき乱す。
「す、スゲー。高雄さんって武闘派なんだな.......」
「戸部ー。ここの鎮守府、全員武闘派みたいな物だぞ」
「後アレな、全員一癖も二癖もある」
後ろからベアキブルがやってきて、戸部と比企ヶ谷の2人に簡単な霞桜のヤバい面を教えて行く。
「例えば副長のグリム。あの人は手先が不器用だ。前、妖怪ウォッチか何かのプラモデルを作っていたが、謎のキメラになった。マーリンは紅茶にうるさいし、レリックは言わずもがな。バルクの兄貴は料理音痴、姉貴は暴力装置だし、親父はもう、うん」
「長嶺さんってそんなヤバいん?」
「ヤバい。超ヤバい」
「俺も長い事、裏社会にいたが親父は常軌を逸してるとか、もうそんなレベルじゃねぇ。そのうち、分かってくるさ」
そうこうしていると、瑞鶴による戦闘機からの飛び降り斬撃が決め手となって、最後のレ級を打ち倒した。
「これで終わりだ。全員一騎当千の猛者達だ。お前ら気を引き締めろよー」
「むむっ!長嶺お主、自分だけ戦わないつもりか!?」
「そーだそーだ。長嶺も戦うし!」
「先輩ぃ。わたし、先輩が戦ってる所みたいですぅ」
別に戦うのは構わないのだが、立体映像だと戦ってて楽しくない。長嶺の戦闘スタイル上、実態がないのはどうもやり辛い。なら答えは決まってる。
「え、やだ」
断る。これに限る。
「えー、なんでですかー」
「もしかしてアンタ、怖いの?」
「はいはい、そんな見え透いた挑発には乗りませんよーだ。俺の戦闘スタイルじゃ、立体映像だと張り合いがない。やってて楽しくないから、致しません」
なんかブーブー言われてるが、そんな事気にしない。この後、簡単な施設巡りを行って本日の訓練は終わった。今後の訓練や鎮守府での生活を通して、彼らは長嶺の恐ろしさを知ることになって行くのである。
因みに後で他の大隊長とかに、長嶺の戦闘スタイルを聞いてみた。その答えがこちら。
「怪物」byグリム
「悪魔」byマーリン
「.......モンスター」byレリック
「大魔王」byバルク
「人間がしちゃいけないスタイル」byカルファン
「化け物」byベアキブル
「敵に回したくないわね」by瑞鶴
「一言で言い表せぬが、絶対に敵に回してはならないのは確かだ」by高雄
軒並み酷いが、全部事実なので仕方ない。というか瑞鶴と高雄に至っては、実際に敵として相対しているのだから重みが違う。全員が長嶺に恐怖し、軽く震えていたとかなかったとか。