最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第七十三話New face

江ノ島祭より1週間後 江ノ島鎮守府 執務室

「Hi〜指揮官。本日の秘書艦は私、タイコンデロガが担当するわよ?」

 

「あれ?今日の担当、イントレピッドじゃなかったっけ?」

 

「そうだったんだけどねぇ、イントレピッド、昨日の夜に艦娘の隼鷹とか那智に捕まっちゃって.......」

 

皆まで言わずとも、もうその後の展開は決まっている。そのまま朝まで酒宴コースに巻き込まれて、酒を呑まされまくったのだろう。しかもここの呑兵衛共は、霞桜の呑兵衛、特に第四、第五大隊と連携してるので強力なのをゴロゴロ入手してくる。『越後武士』とか『二千年の夢』とか『里の曙』とかを呑んでたりする事も珍しくなく、大体こういう名酒が入ると高確率で布教がてらその辺の艦娘&KAN-SENを拉致って部屋に連れ込み、飲み会という名の魔窟で朝まで相手をさせられる。

因みに上記3つ、どれも度数が40度越えのヤベェ日本酒と焼酎である。

 

「あ、うん。全てを察した。取り敢えず、後でウコン差し入れてこい」

 

「そういえば指揮官もお酒、好きだったわよね?みんなと飲んだりするの?」

 

「あー、いや、俺は強すぎて行きたくない」

 

「はい?」

 

この鎮守府での酒の強さの序列はトップが艦娘だと隼鷹、那智、千歳、武蔵の四天王、KAN-SENだと伊勢、日向、リットリオ、チャパエフとかガングートの北方連合勢の辺りで、霞桜だとバルク&ベアキブル。その次の階級に艦娘だと大和、鳳翔、足柄、アイオワ、サラトガ辺りで、KAN-SENなら愛宕、高雄、加賀、三笠、オイゲン、ビスマルク、セントルイス、ヴェネト、ザラ、ポーラ、エンタープライズ、ニュージャージー、ベルファスト、フォーミダブルとか。霞桜ならカルファンとマーリンである。

大体この辺りまでの階級に属す連中の一部が飲み会をやるのだが、この更に上を行くのが我らが長嶺である。長嶺は序列で言うと、最早「番外席次」とか「殿堂入り」みたいな物なのだ。

 

「まだ最初期の頃、KAN-SENが合流する前の頃に飲み会をやってたんだが、いかんせん俺が入ると酒が物凄い速度で消えていき、最終的に全員が酔い潰れても1人黙々と飲んでてな」

 

「えーと、どういうことかしら?」

 

「見せた方が早いか」

 

そう言いながら、長嶺は後ろの棚から黒い一升瓶を取り出す。ラベルの文字は『越後武士』とある。

 

「えちごぶし?」

 

「武士とあるが、コイツはさむらいと読む。正しくは『えちごさむらい』だ」

 

そう言いながら蓋を開けつつ、普通のグラスとショットグラスの2つ用意して酒を注ぐ。タイコンデロガにショットグラスの方を差し出し、「飲んでみろ」と言った。言われた通り飲んでみると、タイコンデロガの喉が溶けた金属を流し込まれたかのように熱くなる。

 

「ケホッ!ケホッ!な、なにこれ!!」

 

「度数46。日本酒としちゃ、最強の度数を誇る」

 

「それもうウイスキーじゃない!!」

 

ウイスキーの度数は大体42〜49%とされるので、実質ウイスキーをそのまんまストレートで飲まされた様な物である。流石にこれを普通のグラスで飲ませたら、確実にタイコンデロガが機能不全を起こすのでショットグラスにしたのだ。

 

「その通り。しかもこれ、普通の日本酒と同じ醸造酒だからな?」

 

「.......それがどうしたの?」

 

「ウイスキーとかの洋酒は、大体が蒸留酒だ。本来醸造酒ならそこまでの度数いかないんだが、何をとち狂ったのか作っちゃったんだわ。

因みにロシア人って、酒強いよな?ソイツならロシア人を潰せる。ってかこの間、調子こいてガングートが一気してぶっ倒れた」

 

それを聞いてタイコンデロガは驚愕した。ガングート含め北方連合艦は総じて酒に強く、普通に部屋に行けば酒が酒屋の如く大量にある。それもビールとかではなく、ウイスキーとかバーボンみたいな強力なのが大量に。

というか何なら偶に出撃時も懐に酒を忍ばせてる事もあるし、それを飲みながら戦う事もある。でも本人達はケロッとしており、普通に素面と同じ素振りである。その位強いガングートが、一気して潰れるってヤバい。マジでヤバイ。

 

「ガングートが倒れるって、かなりヤバイわね」

 

「そう。かなーりヤバイ」

 

と言いながら、グラスを一気する長嶺。隣に一升瓶が無ければ水を飲んでる様にしか思えない位、超普通に自然に飲んでいる。

 

「し、指揮官!?」

 

「な?」

 

「えっと、その、大丈夫?」

 

「あぁ、全然普通だ。まあ車運転すりゃ1発ムショ行きだがな。それより、分かったろ?俺はこの位酒が強い。その結果、あの呑兵衛共の後始末をするハメになるんだわ」

 

 

 

大体2年前の長嶺着任当初 江ノ島鎮守府 艦娘寮舎 談話室

「「「「「かんぱーーーい!!!!」」」」」

 

———かつてこの江ノ島鎮守府は、ブラック鎮守府と言われていてな。簡単に言えば地獄、クソの掃き溜めだった。なんだかんだで俺が前任を殺し、ここの提督に着任した。だが鎮守府にしちゃ艦娘も少なくて、急遽、四方八方手を尽くして人手を増やした。

その頃に隼鷹と飛鷹もやって来て、今の呑兵衛初期メンバーが形成されたんだ。当時は隼鷹、那智、武蔵だったな。まああの日は他にも大和とか足柄とかも居たんだが。

 

「いやー、まさか提督が来るなんて思わなかったよ!さぁ、呑んで呑んで!!」

 

「はいはい」

 

早速隼鷹の持つ一升瓶が傾けられ、長嶺のグラスに2杯目の日本酒が注がれる。注がれるや否や、グイッと長嶺はグラスを飲み干した。

 

「おぉ!提督いい呑みっぷりじゃん!!」

 

「ははは!これでも酒は好きだからな」

 

「だが提督よ、貴様は確か未成年じゃなかったか?」

 

「.......武蔵、君の様に勘のいい艦娘は嫌いだよ」

 

「そうだぞ武蔵。こういう時位、司令官だってハメを外したって問題あるまい?」

 

那智からの指摘に、武蔵は笑いながら答える。別に武蔵とて、飲酒を止めたい訳ではない。というか止めるタチでもない。

 

「それもそうだな!なら提督よ、私秘蔵の麦焼酎は呑まないか?」

 

「おう、それで呑まないと答えると思うか?すぐに寄越せ!!」

 

「私も欲しい!」

 

「では私も貰えるか?」

 

———こんな感じで楽しい楽しい飲み会は1時間、2時間と経って行き、3時間も経てば全員の顔が赤くなっていて、中には呂律が回ってない者も居た。俺を除いてな。

 

「ていとく〜!なんでペースが落ちてないのさぁ!!ずっと水みたいにグビグビ呑んでんじゃん!!」

 

「俺は鍛え方が違うんだよ。こちとら酒を呑みまくって、相手酔わせてから殺したりするからな?強くなくちゃ、そんなのやってらんねぇよ」

 

「ていとく〜、わらし、よっはらっちゃいまひた〜」

 

「おぉおぉ、大和が今まで見た事ない位蕩けてる」

 

———さらに2、3時間経てば、もう周りも酔い潰れ始めてな。最終的に俺が残ったんだが、ここで1つ問題が発生した。

 

「あれまー、全員潰れちまったよ」

 

長嶺の周りには酔い潰れて夢の世界に旅立った艦娘達が転がっており、床には空の一升瓶やらグラスやら升が散乱し、机には残ったツマミと食い掛けと汚れた皿が積み上がってタワーになっている。

 

「あれぇ?この始末、誰がつけんだよ.......」

 

 

 

「———この場で唯一生き残ってるのは俺1人で、残りは全員潰れて戦力外。このまま放置して帰る訳にもいかないとなると、もう片付けは俺がやるしかない。飲み会に参加してない艦娘も、流石に寝静まってるしな。ってな訳で1人で何十人前の皿を片付けるハメになる訳よ。艦娘と言い、KAN-SENといい、食事量が常人のそれを遥かに上回る。駆逐艦ですら大盛りクラスを平然と平らげるんだから、それが戦艦空母になれば量は物凄い。それを1人で片付けるハメになった俺の気持ちが、お前に分かるか?」

 

「えっと、その、何というかお疲れ様?」

 

「因みにこれが後、4、5回あった。ついでに霞桜の連中も巻き込んでの飲みがあった」

 

「.......それは確かに飲みたくなくなるわね」

 

この過去を語る長嶺の目は、完全に目のハイライトが消えて目が死んでいた。多分、かなり大変だったのだろう。本当なら気の利いた事を言いたいが、生憎と「お疲れ様」以外出てこなかったのだ。

 

「あぁ、そうだ。今日、新たに艦娘が着任することになっている。イントレピッドから聞いて.......あ、その顔は聞いてないな」

 

「ごめんない」

 

「謝る事はねーよ。知らなければ、知ればいいだけだろ?

今日着任するのは、海外艦艇を中心とした、というか確か大半が海外艦艇だったな。戦艦5、空母1、軽空母1、重巡3、軽巡6、駆逐4、補給艦1、揚陸艦2、潜水母艦2の25隻が新たに着任する。この艦隊は次に予定されている、北方海域攻略の為の艦隊と名を打っているが.......」

 

「何か他に理由でもあるの?」

 

「ほら最近、佐世保とか釧路とか佐世保の馬鹿とかがやらかして、軒並み鎮守府と基地が無くなっただろ?アレのお陰で再配置とか戦力の分散があってな、俺の所にこの艦隊が来るわけだ」

 

流石にこれだけの艦隊を確保するのは並大抵の事じゃなかったが、無理矢理これまで積み上げた恩と功績という名の脅しネタと、「いやー、ウチのKAN-SENが消えたらヤバいんだよなー。暴走したら国に被害あるかもなー(棒)」という、最強の決まり文句でゴリ押しで超平和的(・・・・)に掻っ攫った。

 

「佐世保2回出てこなかった?」

 

「ウチの家族に手を出したのと、オイゲン穢しやがったので2回だ」

 

「指揮官って一途というか、愛が深いわよねぇ」

 

なんて言っていると、部屋の電話が鳴った。艦隊の出迎えに行っている、艦娘の浜風と浦風からの報告である。

 

「はいはーい」

 

『提督さん!例の新入りさんと合流できたけぇ!』

 

『欠員なしです。後20分程で到着します』

 

「了解了解。まあ、深海のクソ共に襲われる事はないだろうが気を付けてな」

 

2人からの連絡が入った30分後、執務室に浜風と浦風が入ってくる。その後ろからゾロゾロと、今回配属となった艦娘達も入ってきた。

 

「提督。浜風、他1名。本日付けで着任する艦娘を連れて参りました」

 

「はいご苦労さん。休みだってのに、迎えに行かせて悪かったな。ほい、これ報酬の間宮券」

 

「ありがとね提督さん!浜風、はよ行かんとパフェが売り切れるけぇ!!」

 

「ちょ、待って浦風!」

 

引ったくるかのように間宮券を受け取った浦風は、嵐のように執務室を去っていく。それを追いかけて浜風も出て行った。それを見ていた新人艦娘達は、目を白黒させている。

 

「.......もしかして、規律がなってないとか思っているのかな?この鎮守府は、基本的に規則という規則が無いから。お前達も好きにやると良い。取り敢えず、お前達の名前から聞かせて貰おうかな」

 

「Hi! 私がステイツのBig7、Colorado級戦艦一番艦、USS Coloradoよ!貴方がAdmiralアドミラル?悪くないわね。私にしっかりついてきなさい! 返事は?」

 

「Nice meeting you.My name is South Dakota. 提督、よろしくな」

 

「North Carolina class. USS Battleship Washington、着任。貴方が私の提督って訳か.......。しっかりした指揮をお願いね」

 

「余がNelsonだ。貴様が余のAdmiralアドミラルという訳か。フッ.......。なるほどな。……いいだろう。見せてもらおう、貴様の采配を、な。愉しみだ」

 

「Buon giorno!Mi chiamo Conte di Cavourあんたが提督?

ふーん。ジャ、よろしく頼むわ!」

 

「Hi! Essex class航空母艦、5番艦。Intrepidよ!貴方がAdmiralアドミラルなのね?素敵ね。さァ、一緒にいきましょう?いいかナ?」

 

「It's a pleasure to meet you.My name is Gambier Bay…ふわぁ! う、撃たないで!ふぅ…よ、よかった!」

 

「Nice meeting you.Northampton級1番艦、Northampton、ここに。あなたがAdmiral? ご一緒にまいりましょう!」

 

「私の名前は、Houston。太平洋方面の戦力の要石として、アジア艦隊の旗艦も務めたわ。提督、よろしく頼むわねれ

 

「Hi!Good to see you. あたしが、そうさ。重巡Tuscaloosa!ン、New Orleans classだ。よろしく!」

 

「How is everything?あたしは、Atlanta級防空巡洋艦、Atlanta。Brooklyn生まれ。貴方、提督さん?よろしくね」

 

「It's lovely to meet you.あたしが、Brooklyn級のnameship、Brooklynよ! 何? 文句.......ないよね!」

 

「Aloha、提督!あたしが、ニューヨーク生まれ、ハワイ育ちのHonoluluだ!よろしく頼むよっ!」

 

「Buongiorno!イタリア生まれの新鋭軽巡洋艦ルイージ・ディ・サヴォイア・ドゥーカ・デッリ・アブルッツィです。長いですよね?私、アブルッツィで構いません。提督、妹共々、どうぞよろしくご指導ください」

 

「Buongiorno!イタリア生まれの最新鋭軽巡Giuseppe Garibaldiだ。長いって?そうだな。Garibaldiでいいよ。よろしくな!」

 

「How are you?私は、Perth級軽巡洋艦Perth。HMAS Perth!イギリス生まれ、オーストラリア育ちよ」

 

「北欧スウェーデンから参りました。航空巡洋艦ゴトランドです。提督、どうぞよろしくお願い致します!偵察任務に水上戦闘.......私、自分なりに頑張ってみますね!」

 

「お疲れさまです。Fletcher級駆逐艦ネームシップ、Fletcher、着任しました。マザー、ですか?いえいえそんな.......。皆さんのお役に立てるよう、頑張ります!」

 

「Hi! あたしがフレッチャー級、USS ジョンストンよ!I'm going to be a fighting ship!文字通り弾が尽きるまで守ってみせる!今度もね!」

 

「My name iis Heywood L.Edwards.着任します。そうね。提督、共に頑張りましょう?」

 

「提督、お疲れさまです。水上機母艦、瑞穂、推参致しました。どうぞよろしくお願い申し上げます」

 

「水上機母艦、秋津洲よ!この大艇ちゃんと一緒に覚えてよね!」

 

「給油艦、神威と申します。はい、北海道神威岬由来の名前を頂いてます。できる限り、頑張りますね。」

 

「私、迅鯨型潜水母艦一番艦、迅鯨と申します。提督、貴方に会えて.......良かった。一緒に頑張っていきましょう!」

 

「提督、迅鯨型潜水母艦二番艦、長鯨です!いつも姉が大変お世話になっています!はいっ!潜水艦のお世話はあたしにお任せですよ?」

 

「自分、あきつ丸であります。艦隊にお世話になります」

 

「陸軍特種船「神州丸」です。統合的な上陸戦力を投射できる本格的な強襲揚陸艦の先駆けとして建造されました。揚陸作戦はお任せください」

 

今回新たに着任したのはコロラド、サウスダコタ、ワシントン、ネルソン、カブール、イントレピッド、ガンビアベイ、ノーザンプトン、タスカルーサ、ヒューストン、アトランタ、ブルックリン、アブルッツィ、ガルバルディ、パース、ホノルル、ジョンストン、フレッチャー、ヘイウッド、瑞穂、秋津洲、迅鯨、長鯨、あきつ丸、神州丸である。

 

「そうか。鎮守府を代表して、君達を歓迎しよ」

 

「キャーーー!?!?!?」

 

「うおぉ!?!?」

 

突如、アブルッツィとガルバルディが悲鳴を上げた。見れば2人の後ろに、何か巨大な黒い物体が倒れている。

 

「れ、レリック!?おーい、どうしたー!」

 

「.......ネムイ」

 

蚊の鳴くような声でボソリと答える。というか多分、蚊とかハエの羽音の方がデカい。

 

「参考までに何徹?」

 

「.......ゴ」

 

「風呂入った?」

 

「ネムイ......」

 

そう言い残して、レリックはそのまんま長嶺の腕の中で眠ってしまった。このまま出入り口の前で寝られては多分高確率で誰かに踏まれるし、何より邪魔でしかない。

 

「あ、バーーリ!!!!」

 

「ん、総隊長?」

 

「レリック回収してってくんない?」

 

「あーあー、また連続で徹夜して、そのまんま旅立ちやがりましたね?全く、この人目離す、いや、離さずともすぐこれだ。何徹したんです?」

 

「5らしい」

 

中隊長のバーリはバカ上司の所業というか、バカさ加減にがっかり肩を落とし、担ぎ上げてそのまま部屋を出て行った。

 

「て、提督殿。今の方々は一体.......」

 

「お前達は特殊部隊X、或いは秘匿部隊Xという名前を聞いたことがあるか?」

 

特殊部隊Xと秘匿部隊X。海軍内、及び防衛省や自衛隊内にて都市伝説として語られる特殊部隊であり、つまり『霞桜』の事である。だが流石に、大半が知らないらしい。だが神州丸は知っていた。

 

「聞いたことがあります。たしか海軍内に存在する極秘部隊で、全員が鬼や悪魔で形成され、深海棲艦を打ち倒す腕力を持ち、不死身で、海を駆け、空を飛び、深海棲艦の生き血を啜る部隊だと。まあ、嘘であると思いますが。しかし、なぜそんな事を聞いたのでありますか?」

 

「その秘匿部隊Xは実在する。ここはその本拠地であり、俺はその部隊の総隊長でもある。後、その鬼だの悪魔だの、不死身だ何だは大体合ってる」

 

全員頭に『?』を浮かべている。だがタイミング良く、深海棲艦来襲の警報が鳴った。

 

「指揮官、どうする?いつもみたいに当直部隊をスクランブルかしら?」

 

「いや、どうせなら実地試験がてらに彼女らに行ってもらおう。それに…」

 

直後、腰から阿修羅を高速で抜いて構えた。その顔には悪魔の様な笑みが浮かんでいる。

 

「俺も暴れてぇんだよ!!!!」

 

完全に戦闘狂モードのソレである。すぐに懐から無線機を取り出して、各所に指示を出していく。

 

「俺だ。当直艦隊は現状待機!その艦隊は俺の獲物だ。手を出すな?」

 

『提督!?え、いや、構いませんけど.......。了解しました、高雄以下、当直艦隊は待機します』

 

「グリム!黒鮫を準備させろ!!後、車も表に回してくれ!!」

 

『了解しました。暴れるんですね?』

 

「勿論だ。ついでに、新入りの実地試験も兼ねる」

 

こうなる事を見越していたグリムは、無線機越しにニヤリと笑って答える。

 

『ふっふっふっ、総隊長殿。お喜びください。既に表にトラック、飛行場には黒鮫を準備してあります』

 

「お、マジで!?」

 

『そろそろ暴れる頃合いかと思いましてね。敵の進行速度は一般的ですが、お早く』

 

「おう。すぐに行く!よし、お前達。付いてこい。タイコンデロガはここで待機し、情報をまとめてくれ」

 

「了解よ」

 

と言う訳で長鯨、迅鯨、神威、あきつ丸、神州丸を除く新入り21人を引き連れて、執務室のある棟の表にある車寄せまで急ぐ。表にはグリムの言う通り、既にホロのない73式大型トラックが止まっていた。

 

「指揮官。行くんでしょ?」

 

「オイゲン!お前、なんでここに」

 

「愛の力よ。それに、私も暴れたいわ。どうせあなたも暴れるんだし、混ぜなさいよ」

 

「.......乗れ!行くぞ!!」

 

オイゲンは助手席、長嶺は運転席横にしがみ付き、他は荷台に乗り込む。トラックが走り出して2分ほど経つと、長嶺が指笛を吹いた。「ピュー」という音が鳴り響くと、長嶺は片腕を肩と水平に伸ばす。十数秒後、バサバサという音共に腕に黒いカラスが舞い降りる。そしてトラックの荷台にも、白い塊が降ってきた。

 

「What!?!?」

 

「提督!白い犬?が降ってきましたよ!!」

 

「問題ない。俺が呼び寄せた」

 

5分程で駐機スペースに到着し、戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』へと乗り込み、そのまま飛び立った。

 

「Admiral。こんな機体、見た事がないわ。オスプレイとも違うし」

 

「イントレピッド、と言ったかな?コイツは俺が設計し、さっき執務室でぶっ倒れた馬鹿が居ただろ?アイツが作った霞桜の専用輸送機。戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』だ。

多数の重火器と深海棲艦の攻撃をも防御する装甲施した、空飛ぶ戦艦みたいな機体だ。しかもコイツは最高時速、マッハ6を叩き出す。そろそろ来るぞ」

 

次の瞬間、シートに押し付けられる感覚と共に、機体が一気に加速したのが分かった。普通なら立ってられない筈だが、長嶺は平然と立ちながら機体を歩き回っている。

 

「パイロット、到着までどのくらいだ?」

 

『5、6分って所です』

 

「よし。総員傾注!現在、鎮守府近海海域にル級2、ヲ級élite1、ヌ級3、ネ級4、チ級3、ホ級5、イ級後期型24の航空打撃艦隊が接近中だ。俺達の仕事は、これの撃破。勝利条件は殲滅、もしくは敵が撤退すること。

こちらは航空支援はこの黒鮫を除き無いが、まあ大丈夫だろう。どうにかなる。以上、全員死ぬ気で頑張れ」

 

敢えて航空支援を黒鮫限定にする事により、彼女達を追い込める。航空支援なしの恐怖の中でも自らを律し、落ち着いて冷静に対処する。これが出来なくては、江ノ島の艦娘、KAN-SEN、隊員達と轡を並べて戦うなんてまず不可能だ。

それに長嶺とオイゲンの練度と装備を持ってすれば、万が一にも撃ち漏らす事はないだろう。それに例え撃ち漏らしたとしても、後方には艦娘の高雄、愛宕、隼鷹、飛鷹、KAN-SENのサンディエゴ、エムデン、ビルデング、夕立、時雨、雪風、秋月、涼月が手ぐすね引いて待ち構えている。もしもの場合は鎮守府全体にスクランブルを掛ければ、大和を筆頭とした艦娘達、エンタープライズ、赤城、ビスマルク、クイーン・エリザベスなんかを筆頭としたKAN-SEN達、メビウス1を筆頭とする戦闘機隊、そして安心と信頼の霞桜が出撃するのだ。どう転んでも、まず勝てる。

 

「ワシらをいきなり死地に追い込むつもりか?」

 

「ん?弩級戦艦のカブールさんは怖いのかな?」

 

「何を言うのかしら!あなた、指揮官としての才覚が無いって言ってんのよ!!」

 

「そうかい?」

 

『ポイントに到達!!』

 

この位の跳ねっ返り、想定の範囲内だ。しかもタイミング良く目標ポイントにも到着したようだし、とっとと片付ける事としよう。

 

「ハッチ開放。先に行って、ゾーンを確保する」

 

『ウィルコ!後部ハッチ、開放!!』

 

「オイゲン、先頭は俺が切る。お前は降下後、陣形の誘導を頼む」

 

「はいはい、あなたがいる時点で先手は譲るつもりだったわよ」

 

「そんじゃ、また後で」

 

そう言うと長嶺は後部ハッチに向かって走り、そのまま飛び出した。その後を犬神と八咫烏も追い掛ける。だが、ここでホノルル、ヤバイ事に気付く。

 

「お、オイゲンさん!?Admiral、パラシュート無しで飛び降りたよ!?!?」

 

「そんな!?」

 

「飛び降り自殺かよ!!」

 

そう、長嶺は強化外骨格の下に着るいつものファスナー式の服しか着てないのだ。その状態で飛び降りてるのでジェットパックも無ければ、パラシュートなんて物も勿論装備していない。

 

「はいはい、心配しなくていいわ。後ろから犬と烏が飛び降りたでしょう?あの2匹に装備を持たせてるから、空中で着替えて安全に着地、いえ。着水できるわ」

 

『オイゲン嬢さん、こっちも降下するぜ?』

 

『しっかり捕まってろよ!』

 

「フフ、ウィルコって言えばいいのかしら?」

 

『お、分かってんじゃん!』

 

パイロット、もとい機長と副機長の2人も心なしかテンションが上がっている。普段あまりそう言う事を言わないオイゲンが、こちらのノリというかルールというか、そういうのに合わせてくれたのは嬉しい限りなのだ。

1分程で機体が揺れ、後部ハッチのスロープの途中まで海水で見えなくなっている。無事に着水できたらしい。

 

「それじゃみんな、海上に移動するわよ。ついてきなさい」

 

オイゲンを先頭に黒鮫からほかの艦娘を降ろし、そのまま陣形を組ませる。取り敢えず第四警戒航行序列を組ませて、先頭を長嶺。最後尾にオイゲンを入れれば、多分どうにかなるだろう。

 

(我が主、敵艦載機がそちらに向かっている。大体、130機程度だ。会敵まで5分)

 

「対空戦闘用意!!5分以内に敵艦載機群が来るぞ!!!!」

 

「来ちゃったか。仕方ない、始めるよ」

 

この指示に即座に反応したのはアトランタ。種別が軽巡枠ではあるが、防空巡洋艦扱いとなっている彼女。対空戦闘は十八番のホームグラウンドなのだ。これに合わせてフレッチャー、ジョンストン、ヘイウッドも動き出す。

 

(お手並み拝見、ってところだな)

「幻月、閻魔、朧影!!」

 

愛刀の幻月と閻魔、そして朧影SMGを八咫烏に落としてもらい装備する。ついでに犬神と八咫烏にも念話で、緊急時は術で海を凍らせるなり、氷柱で攻撃するなり、竜巻を起こすなり、好きな様にして思う存分暴れる様に指示も出しておく。

 

(分かったー、いっぱい暴れる!)

(うむ、任せておけ。本来なら我々は暴れぬほうが良いのだろうが、我個人としては暴れたい。暴れられる事を祈っておこう)

 

(それでこそ、我が相棒達だ。頼むぞ)

 

暫くすると航空隊が射程圏内に到達し、対空戦闘を開始する。弾幕の砲煙が空を黒く染め上げるが、それを物ともせずに深海棲艦の艦載機は果敢に突っ込んでくる。

 

「総員、復唱はいらないから、俺の指示通りに動け!!いいな!!!!」

 

そう言って、長嶺は迫り来る艦載機に意識を集中させて、動きを読み予測する。まず1番に狙われたのは、最外縁部のフレッチャー、ジョンストン、ヘイウッドの3人。急降下爆撃機が迫ってくる。

 

「フレッチャー面舵5、ジョンストン取舵10、ヘイウッド増速5ノット!!」

 

長嶺の指示通り動くと、爆弾を全てスレスレで回避できた。長嶺の指示は更に続く。

 

「コロラド右30、高角45に弾幕集中!!アブルッツィ、左353、高角75に弾幕!!ガルバルディ増速一杯!!13秒後、二戦速!!アトランタ右左そのまま、高角85に弾幕!!ネルソン右砲戦、俯角5!!サウスダコタ左砲戦、俯角8!!ガンビア・ベイ、イントレピッド、艦載機発艦準備!!編成任せる!!カブール、強速!!ゴトランド、取舵30で回避しつつ牽制弾幕射撃!!タスカルーサ、ヒューストン面舵5!四戦速!!ホノルル、三戦速!そのままの方向に牽制弾幕!!オイゲン、右45に魚雷全弾発射!!ブルックリン、ホノルル、右砲戦!!ブルックリン35、ホノルル60、俯角3!!」

 

全員がどうにか指示通りに動いていると、魚雷も爆弾も全てギリギリで回避する事ができて、水飛沫こそ死ぬほど被っているがダメージは一切無かった。

 

「第一次攻撃は凌いだ。艦載機発艦!!攻撃位置、北方に500km!!」

 

「Squadron, attack!!」

 

「じゃあ始めましょう!Intrepid航空隊各隊、発艦はじめて!」

 

2隻の空母からワイルドキャット、ドーントレス、アヴェンジャーといったアメリカの艦載機が飛び立つ。発艦が完了すると、アトランタとフレッチャー、ジョンストン、ヘイウッドの駆逐3隻を護衛に残してイントレピッドとガンビア・ベイを後方に下げた。

代わりに他の艦は更に距離を詰めるべく増速し、砲撃戦を仕掛ける方向に持っていく。

 

「提督、アトランタさん達を下げて本当に良かったんですか?」

 

「問題ない。以降の対空戦は、俺がやる」

 

「あなたねぇ、人間如きで深海棲艦に勝てる訳ないじゃない!!」

 

「コロラド、俺をそんじょそこらの人間と同列にするな。こっちはテメェらが生まれる以前、それもまだ鋼鉄の塊にすぎない艦艇だった頃の天寿も含めて、それ以上に人を殺している。年季が違うし、そもそもの物が違う」

 

これまで感じた事がない圧を無線越しに感じ、流石のコロラドも黙る。幸か不幸か、これより15分後、第二次攻撃隊と思われる航空隊が艦隊に殺到した。だがしかし…

 

「犬神、右は頼む。八咫烏は左だ。暴れろ!!!!」

 

「ワオォォォォォォン!!!!!!!」

 

「カアァァァァ!!!!カアァァァァ!!!!」

 

まずは犬神と八咫烏が巨大化し、航空隊に攻撃を仕掛ける。今回は最初から本気モードだ。

 

「氷柱拡散弾!!!!」

 

「翼扇!!!!」

 

氷柱拡散弾を食らった機体は氷柱に貫かれて穴だらけとなり、翼扇に煽られた機体は制御を失って衝突するか墜落するかの二つに一つ。とは言え、数が数なので抜けてくる機体もチラホラいる。となれば、コイツの出番だ。

 

「ヒャッホーーーーーーー!!!!!」

 

グラップリングフックで手近の機体に飛びつき、真下に朧影を乱射。機体が穴だらけになると別の機体に飛び移り、同じく乱射。時には更に手近の機体の外付けされてる爆弾か魚雷に鉛玉をぶち込んで誘爆させたりもしていて、完全に長嶺と八咫烏と犬神の独壇場だった。

 

「なんなんだ、あの戦闘.......」

 

「付いていけないわ.......」

 

ネルソンとブルックリンの呟きに、オイゲンを除く他の者も多いに同意した。だがそんな状況を知らぬ長嶺から、さらに指示が飛んでくる。

 

『何をボサっと突っ立てる。お前達も撃て撃て!全兵器使用自由!!自由射撃!!撃ちまくれ!!!!ほら見ろ、艦隊も来やがったぞ!!!!!』

 

見れば深海棲艦がこちらに接近してきているのが見える。恐らく、もう間も無く砲弾の雨が降り注ぐだろう。

 

「Enemy ship is in sight!各々方、さあ、始めるぞ!」

 

「捉えたわ、Fire!」

 

「敵艦発見! いい、あんたたち、シメていくわ! 砲撃戦、用意。さあ、やるわよ!」

 

「さあ始めるぞ!Open fire!」

 

「Enemy in sight。さあ、始めます。蹴散らせ!」

 

まずは戦艦が砲撃を開始し、次いで重巡と軽巡も攻撃を開始する。深海棲艦だって負けじと応射を開始し、砲弾が次々に落着する。

 

「カブールさん、直上!!!!」

 

「しまっ…」

 

カブールの直上から3機の艦載機が投弾体制に入っていた。多分、もう避けられない。だが次の瞬間、カブールは前に押し出されて被害範囲から脱出できた。だが代わりに、長嶺が爆弾を浴びる事になる。

 

「Admiral!!」

 

「提督!!!!」

 

「落ち着きなさい。大丈夫、雷蔵はあの程度で死なないわ」

 

「.......全く。俺に爆弾降らせるとか、アイツら全員死にたいらしい。よーし、全員手を出すな。アレ全部、俺が殺す」

 

爆炎から出てきた長嶺は傷一つ無く、代わりに2本の愛刀を抜いて逆手で構える、いつものスタイルで立っていた。一呼吸置いて、長嶺は素早く海を駆ける。深海棲艦も長嶺に集中砲火を浴びせるが、全く意に返さず、避けるか避けられない弾は刀で切り裂くかして、懐へと入り込む。そこからはいつもの様に、長嶺の無双状態だった。

 

「おらぁ!!!!」

 

「化ケ物!!江ノ島ノ化ケ物ダ!!!!」

 

「ヤラレタ仲間ノ仇、ココデ討ツ!!!!」

 

闘志に燃える深海棲艦達だが、そんな事を言っている間に腹を切り裂かれて内臓を引き摺り出される。もう現場は大混乱だ。深海棲艦の悲鳴が木霊し、その度に長嶺の身体は深海棲艦の青い血で真っ青に染め上がる。

 

「さぁ、次はどいつだ?」

 

「逃ゲロ!!逃ゲルンダ!!!!」

 

そう言ってヲ級éliteが生き残った艦を逃そうとするが、そうは問屋がおろさない。撤退を開始するとなると、どうしても長嶺に背中を向ける事になる。しかも深海棲艦は基本的に正面にしか攻撃できない。撤退中に牽制射撃は出来ない以上、もう好き勝手し放題なのだ。

長嶺は刀を鞘に納め、代わりに八咫烏から月華LMGと風神HMGを落としてもらう。

 

「ショーのフィナーレだ。ド派手に踊れ!!!!」

 

ドカカカカカカカカカカ!!!!!!

 

後ろから一方的に弾幕を浴びせ、深海棲艦を薙ぎ払った。一切の容赦なく。その姿に新入りの艦娘達はただただ、恐怖した。なにせ長嶺はこの時、笑っていたのだから。

 

 

 

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