戦闘終結より数時間後 江ノ島鎮守府 パーティーホール
『はーい、野郎共!!!!という訳で!!!!!!』
長嶺が壇上でシャンパングラスを掲げると、下にいる仲間達から「かんぱーーい!!!!」という声が上がる。何をしてるのかって?そりゃ勿論、新入り艦娘と何だかんだで開催できてなかった比企ヶ谷達の歓迎会である。
というのは建前で、実際はただ単にうまい飯&うまい酒を楽しむ口実の山車に、歓迎会を使っているにすぎない。理由は不純でも、楽しけりゃそれでいい。
「あの、提督」
「どしたよ大和?」
「この経費、一体どこから落とすんです?」
「あー、それ。これ経費じゃなくて、例の江ノ島祭。親父からぶん獲った臨時ボーナスを使ってるから問題ねーよ」
今回のパーティーは経費ではなく、江ノ島祭で使った予算の10%を用いている。因みにあの祭りとその他諸々で、20億円の予算が使われた。その為、こちらの長嶺のボーナスは2億円である。
「竜神チャレーーーーーンジ!!!!!!」
「いきなり行くのかよ!!!!!」
「そりゃ火も吹きたい時間ですからねぇ!!!!」
「んな時間あってたまるかよー!!!!!」
「「「「「HAHAHAHA!!!!」」」」」
開始5分で既にドンチャン騒ぎである。この騒ぎに新人艦娘、全員置いてけぼりだった。だがそうなったとしても、しっかりそれを見つけて対応する良心がいる。問題はない。
「こんなドンチャン騒ぎ、多分初めてなんじゃないか?」
「私達も最初はビックリしましたもんね」
そう言いながら新人達に近付いたのは江ノ島鎮守府でも指折りのエース、艦娘の大和とKAN-SENのエンタープライズであった。
「あの、あなた方は?」
「あぁ、自己紹介がまだだったな。ヨークタウン型の二番艦、エンタープライズだ。そしてこっちが…」
「大和型戦艦一番艦、大和です。よろしくお願いしますね、皆さん」
エンタープライズと大和。どちらも海軍関係者なら必ず知っていると言っても過言でもないくらい、超ビッグネームだ。野球界ならイチロー、芸能界なら志村けんみたいな物だろう。
特にアメリカ出身のコロラド、サウスダコタ、ワシントン、ガンビア・ベイ、イントレピッド、ノーザンプトン、タスカルーサ、ヒューストン、アトランタ、ブルックリン、ノーザンプトン、タスカルーサ、ヒューストン、アトランタ、ブルックリン、ホノルル、ジョンストン、フレッチャー、ヘイウッドは驚いていた。
「エンタープライズ。同じ故郷の艦として、質問させてくれないかしら?」
「確か、コロラドだったな。いいぞ、何でも聞いてくれ」
「正直、私達の中にはあのAdmiralについて行くか迷ってる者もいるわ。私もその1人よ。だから、あなたから見たAdmiralを教えてくれない?」
現状、ついて行きたいかどうかは、かなり別れている。例えばコロラド、ワシントン、カブール、ブルックリンは付いて行きたくないと考え、逆にサウスダコタ、タスカルーサ、ホノルル、アブルッツィ、ガルバルディ、秋津洲はついて行きたいと考え、あきつ丸と神州丸は単純に「命令なので」でついて行こうとしており、残りは決めあぐねていたのだ。
「そうだなぁ.......。私から見て指揮官は命の恩人であり、英雄であり、大切な人だな」
「具体的には?」
「.......さっき同じ故郷だと、コロラドは言ったな?でも私は、正確にはユニオンという別世界のアメリカに所属していた。そもそも艦娘ではなくKAN-SENという存在で、艦娘とは似て非なる物だ。本来、この世界に私の居場所はなかった。
でも指揮官は、私や私の仲間達、更には敵だった者にまで居場所を作ったんだ。そして1人1人を家族だと言って接してくれているし、一度戦場に出れば私達のために命を賭けてくれる。そんな人だ」
その答えにコロラド含めた、ついて行きたく無い勢は少し訝しんだ。多分、エンタープライズは既に長嶺に心酔していると。ならばと、今度は大和に聞いた。
「私に取ってもエンタープライズさんと同じですよ。あの人はいつも、私達の隣に居てくれるんです。何か困った時は、すぐに助けてくれる。もし死にそうになった時も、きっと助けてくれる。だから私達、あの人の事を信頼しているんです。
多分、皆さんは今日の戦闘を見て怖かったんじゃないですか?」
「そ、そうよ。ワシ達は見てて怖かったわ!」
「それが普通ですよ。もしあの戦闘を初めて見て恐怖を感じなければ、その人はきっと狂人です。私も初めてあの人の戦闘を見た時は怖かったですし、恐ろしく感じました。特にKAN-SENのレッドアクシズだった人達は出会った時は敵だった訳ですから、余計に怖かったでしょうね。
でもあの狂気が、私たちに向く事はありません。あの人は自分の事を差し置いて、仲間を何が何でも助け出す。そんなお人です。例えば…」
そう言いながら大和が指差したのは、机に並べられた料理達。どれも一流ホテルで出されそうな位美味しく、食材自体も恐らく一流品が使われているのは素人舌にも分かるくらい美味しい。
「この料理がどうかしたでありますか?」
「その料理は全て、提督が手配していますよ。正確には食材を。曰く「衣食住は出来る限り最高グレードの物を使わせたい」という意向で、常に世界各国の最高級品が仕入れられています。食堂のメニューも何百種類もあって、それが24時間いつでも食べる事が出来るようになっていますよ。勿論、スイーツなんかもありますし。そういう仕組みや食材の調達ルートは全て、提督が切り拓いた物です」
因みに食堂のメニューは基本、言えば何でも出てくる。それも日本だけでなく中華、フレンチ、イタリアン、トルコ、イギリス、ドイツ、ロシア、アメリカ、インド、フィリピン、ベトナム等々、世界各国の余程時間のかかる物でなければ出て来る。
更に週替わりと次替わりのセットと日替わり定食もあり、食堂全メニュー制覇にはかなりの時間を要する。しかも例えば味噌汁の味噌や、うどんなんかの出汁も好みに合わせて変える事もでき、個人個人に添った味付けが出来る。
「でもぶっちゃけ、それって予算不味いんじゃない?」
そう言い放ったのはホノルルである。ホノルルの言う通り、普通の鎮守府の予算ではまず間違いなく、早晩に財政が破綻する。というかそもそも、コストがバカみたいに上がって艦娘に充分な食事が行き渡らない可能性すら出てくる。
「あー、そういえば鎮守府の予算自体は常に大赤字を越えし何かだな」
「はぁ!?!?」
「何そんなあっさり言ってるのよ!!!!」
新人達から困惑とツッコミの嵐を喰らう2人。でもこれだけの大人数を食わせつつ、最高グレードの食材と、超絶豊富なメニューを支えるには鎮守府だけの予算ではまず足らない。
「驚かせてすまないな。でも、心配する事はない。指揮官はここの予算の大半をポケットマネーで賄っているし、そのポケットマネーも半永久的に無限大に増やせる。私も詳しくは知らないが、投資だとか貿易だとかで稼いでいるそうだ」
「ポケットマネーって.......」
「提督は提督でもあり、大富豪という訳ね」
「しかし、それは軍規違反にならないのですか?」
神州丸の問いに、大和とエンタープライズは答えられなかった。正直この行為自体、かなり黒い。だがそこは長嶺、抜かりはない。
「軍規違反も何も、俺達は既に法律やら憲法やらを反故にしてる存在だ。今更、軍規程度で一々ワタワタ言えるかよ」
「司令官!?」
「提督殿、それはどういう意味でありますか?」
「そのまんまさ。日本は軍隊を持たず、自衛のための軍備しか持たない。にも関わらず、この『霞桜』というキチガイ戦闘狂の軍団を組織している。お陰でここの予算、基本的に後ろ暗い代物が当てがわれてる。更にいえば隊員達は全員、戸籍が存在しない。持っていても、それは偽装戸籍だ。
こんな法律違反のオンパレードな部隊に、今更、軍規もへったくれもねぇ。ここの法律は3つだ。一つ、仁義を重んじよ。二つ、仲間を愛し守れ。三つ、常に明日は亡き者と思え。これだけだ」
細かい裏ルールとか暗黙の了解とかはあるが、一応のルールはこんなところである。裏ルールとしては、例えば「バルクとレリックをキッチンに入れるべからず。というかそもそも、料理をさせるべからず」とか「マジギレモードの長嶺雷蔵は大災厄なり」とか、色々である。どれもこれも、ここに住むなら必要な物ばかりである。
「へぇー。ならここ、かなり自由な感じ?」
「だろうな。ある意味、ホノルル、お前のようなタイプからすりゃ天国だろうよ。ここには学校でいう部活とかサークルみたいなもんもあるから、興味があれば入ってみると良い」
「どんなのどんなの!?」
「運動系なら柔道、剣道、銃剣道、空手、合気道、少林寺拳法、相撲、居合、弓道、テコンドー、太極拳、ムエタイ、シラット、ボクシング、レスリング、プロレス、ジークンドー、CQC、フェンシング、バスケ、バレー、ビーチバレー、硬式野球、軟式野球、ラグビー、アメリカンフットボール、サッカー、卓球、陸上、馬術、流鏑馬、射撃、水泳、水球、ホッケー、スケート、ボート、ヨット、グライダー、パラシュート
、新体操、チアリーディング、応援団とか。
文化系なら放送、パソコン、吹奏楽、バンド系、アイドル系、美術、茶道、囲碁、将棋、チェス、テーブルゲーム、eスポーツの皮被ったゲーム部、ダンス、演劇、自動車とかだな」
この部活とかサークルにあたる活動、江ノ島の中では特に呼び名は決まってなくサークルだったり部だったり同好会だったりするが、取り敢えず便宜上はサークルとさせてもらう。
このサークルには強制参加ではないにしろ、かなりの人数が参加しており一例を挙げるならグリムはパソコン、マーリンは射撃、レリックは自動車、バルクはプロレス、カルファンは新体操とチアリーディング、ベアキブルは柔道、剣道、銃剣道、空手、合気道、居合に参加している。因みに全ての運動部に参加している、ボルチモアという化け物助っ人がいたりするが、これは本当に特異例中の特異例である。
「まあ、詳しくは明日以降、色々教えていくから今はこのパーティーを楽しめ」
長嶺はそう言い残すと、パーティーの人混みの中に消えていった。このパーティーはなんだかんだ、翌朝まで続きその日の業務がストップしたのは言うまでもない。
翌々日 江ノ島鎮守府 道場
「せやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「甘いぞ!!」
「ほらまた動きが単調になってる!!もっとしっかり動きを考えて!!!!」
「まだまだぁぁぁぁ!!!!!!」
この日、長嶺は執務を休み訓練中の比企ヶ谷達を見てまわっていた。というのも、そろそろ彼らは学校にいかなくてはならない。そうなると今後の訓練は今のように集中して出来なくなるし、こちらも現在進行中の北方方面への攻勢作戦が本格化するので訓練を付ける暇が無くなる。
そこでこの辺りで、一旦試験を挟む事にしたのだ。もしこれで長嶺の見込み違いであれば霞桜から外すし、場合によっては一兵士として実戦を経験させる事も視野に入れている。だがまずは、長嶺と戦えるか軽く見定めているのだ。
「焦りは禁物だと、何度言えば分かる!!!!」
「もう5回は言ってるんだけど!!」
材木座は高雄と瑞鶴相手に、善戦こそすれど余りに荒削りすぎる。これでは戦場に出た時に、すぐやられるだろう。だがしかし、材木座は笑っていた。さっきまで焦りか何かで動きが単調で、力の入り方にもムラがあったにも関わらず、笑みを浮かべた瞬間、動きが一気に洗練された物に切り替わった。そしてそのまま、2人から一本取ったのだ。
「一本、取ったぞ!」
「.......あぁ。よくやったな、材木座。だが、ここで終わってはダメだ。もっと精進せよ」
「凄いじゃん材木座くん!私達、結構手練れのつもりだったけど、しっかり取れたね!!あの攻撃、もしかして狙ってた?」
「当然!師匠達の動きは、これまでの修練の中で予測が立った故、それを逆手にこちらの懐に引き込んでみたのだ!」
戦場というのは冷静な判断を失わせる。FPSなんかでも経験がないだろうか?敵を倒す事に執着しすぎて、敵陣奥深くまで入り込んでしまったりだとか、逆に軽く無双した時に周囲の敵やトラップに気付かずに殺されたりした事が。ゲームでこれなら、リアルはもっと凄い。麻薬のように作用する。
しかも接近戦は相手の命を刈り取る感覚、相手の呼吸、表情や息遣い、そういった全てを五感で鋭敏に感じ取る。お互いの間合いの中で戦うのだから、これは当然の事である。とはいえ、だからこそ接近戦では視野狭窄や恐怖に呑まれやすくなるのだ。そんな中でそこまで考えを纏めて行動に移し、しっかり勝利を収めた事は成長が見てとれる。今度は隣のスペースで格闘訓練中の、川崎の方を見ていこう。
「フッ!!!!」
「良いキックだな」
「沙希ちゃんはキックボクシングの才能があるわね」
「あんがと」
どうやらウォーミングアップ中らしく、サンドバッグに蹴りを打ち込んでいる。ムチの様にしなるキックの威力は凄まじく、良い音が鳴っていた。
「じゃあ次は近接格闘戦、いってみようか」
「わかった」
そう言うと川崎はホルスターから、二挺の銃を取り出した。特になんの変哲もない、普通のベレッタ92。だがそこから更に、銃身下に銃剣を取り付けたのだ。
「野郎共!!」
「「「「「「おう!!!!」」」」」」
ベアキブルの声に屈強なヤクザ十数人が応じ、訓練用の鉄パイプやらドスやらチャカやらを取り出して構える。
「それじゃ、始め!」
カルファンの合図と同時に、川崎はヤクザ達目掛けて飛び出した。ヤクザ達をそれを知っていたのか、チャカ持ちが弾幕を牽制で張りつつ、ドス鉄パイプ持ちが川崎を待ち構える。
「怪我するぜ嬢ちゃん!!!!」
「邪魔!」
1番恰幅のいいヤクザの腹に蹴りをお見舞いし、その衝撃で2、3人巻き込んで倒れた。すかさず銃を撃ち、更に敵陣の奥深くへ入り込む。蹴り、斬撃、銃撃を駆使して更に攻め込んでいった。
「おーおー、恐ろしいバーサーカーに育っちまった」
余りに型破りな戦法に、流石の長嶺も少し驚いている。しかも川崎、しっかりグラップリングフックを駆使して、ワイヤーをムチの様にしならせて攻撃したりしてもしている。
更に敵を殲滅していき、最後の1人となった時、川崎はミスを犯した。残弾がなかったのだ。この隙をついて残った1人が懐に入り込もうとするが、川崎も銃剣を投げつけて迎撃する。だが時は既に遅く、腹部にドスを受けていた。
「あらら、残念だったわね」
「沙希嬢ちゃん、最後の銃剣、痺れたぜ。あれもう少し早けりゃ、俺がやられとった」
「あり.......がと.......」
「おーい沙希、生きてるかー?」
少し息が切れている。恐らく、肉体的な疲れというより精神的に疲れたのだろう。水を少し飲むと復活したのか、また訓練を続け出した。これなら問題ないだろう。
「材木座、川崎、試験資格ありと。さて次はと」
道場に後にし、今度はマーリンと戸塚のスナイパーコンビのいる射撃場を目指す。運良くバルクと材木座の機関銃コンビもいたので、こちらもついでに見ていく。
「さぁ戸塚くん、撃ってみなさい」
「はい!」
戸塚が使うのはM24SWS。スナイパーライフルではなくマークスマンライフルではあるが、それでもかなりの精度を誇る。戸塚はしっかりスコープのセンターに目標を捉え、トリガーを引く。
「ふむ、悪くありません。狙撃は目標に命中していますが、しかし連射が遅い。後0.3秒縮められます」
「まだダメですか.......」
「ダメ、ではありませんよ。君は強い。アメリカだろうと自衛隊だろうと、どこの国の正規軍でやっていけます。とはいえ、それは正規軍ならです。我々の求める次元、君はそこにまだ後一歩及びません。ですが着実に、君は我々のステージに近づいていますよ」
マーリンの言う通り、まだ霞桜でやっていくのに不安は残る。だが及第点は与えられる程度には、しっかり撃てている。
「もう一度!」
「はい。じゃあ、どうぞ」
もう一度戸塚が撃つ。今度は連射が素早いが、銃身が微かにブレている。これでは当たらないだろう。
「うーん、今度は少し着弾点がズレていますね。君のレベルになると、私が教えると言うより、自ら経験を積むしかありません。根気よくいきましょう」
「頑張ります!」
「その意気ですよ」
「戸塚、問題なし」
戸塚の次は戸部だ。使用武器はMk48。バルクが教えると機関銃弾ばら撒くだけと思うかもしれないが、バルク曰く「分隊支援は奥が深い」らしい。実際その通りではあるが、ただいつも乱射しまくってるトリガーハッピー野郎の言葉となると、何故だが一気に信憑性が低くなる。
「どうですバルクさん!?」
「いい感じじゃねーか翔!だが、まだ甘い。俺達機関銃手ってのは、味方を援護するのが仕事だ。あの的を見てみろ。当たり弾が少ない。まだまだ濃密な弾幕がいるって事だ」
「チクショー、まだダメとか難しすぎっしょ」
「まあそんな悲観しなさんな!お前含め、これまで総長に見入られた奴等は優秀だ。もっと練習し、もっと技術を磨け」
バルクはそう言っているが、少なくとも普通の兵士としてはやっていける技術を持っている。これなら試験をさせても問題ない。
この後、三浦と一色の方も見て来たが、充分に戦力として扱える程度には錬成されている。これなら問題なく、試験に臨めるだろう。後は最後に、比企ヶ谷のを見るだけだ。
「長嶺。今日はなんの訓練なんだ?」
「比企ヶ谷、お前、俺を倒してみろ」
「は?」
「今言った通りだ。お前の持てる、
比企ヶ谷の訓練は、他の生徒会メンバーとは一線を画す。他の生徒会メンバーは言うなれば、一点特化のプロフェッショナル。汎用性よりも各々の長所を研ぎ澄ました、尖った性能を出せる様に訓練した。
一方の比企ヶ谷は指揮官としての思考を叩き込みつつ、格闘や射撃にも対応できる様に長嶺直々に鍛え上げた。言うなれば性能が超劣化し超人レベルで収まる、長嶺雷蔵2号である。
「凡ゆる手段、使って良いんだな?」
「あぁ。格闘、銃撃、爆破、何でも良い。2時間後、演習海域でやるぞ。準備しとけー」
2時間後 演習海域 海上
「来たな比企ヶ谷」
「あぁ」
「じゃあ、始めるか」
見た所、比企ヶ谷の装備は普通だった。メインウェポンにクリス ヴェクター、サブにVP9。後は胸にナイフを持っている。何か隠し玉は、本人自身にはないだろう。
因みに長嶺の装備は幻月と閻魔、それに鎌鼬SG、竜宮AR、大蛇GL、これに朧影SMG二挺と阿修羅HG二挺を装備している。
「あぁ、始めよう」
そう言うと比企ヶ谷は長嶺にヴェクターの9mm弾を撒き散らし、長嶺の動きを封じる。
「弾幕の張り方は悪くないが、まだまだ甘いぞ」
「知ってるよ!」
比企ヶ谷は弾幕を張りつつ、そのまま別方向に走り出す。このまま持久戦を取るつもりだろう。ならばこちらも、それに乗るまで。
「なんだ、追いかけっこか?なら、それに乗るとしようか!!」
比企ヶ谷の後ろを追いつつ、こちらも適当に銃を撃つ。比企ヶ谷なら、恐らく何かを仕掛けてくる筈。現に弾幕もあくまで長嶺の行手を阻まず、こちらを自分の後ろを付いてくるように誘導する撃ち方だ。
「この辺りか.......。今だ」
比企ヶ谷を追い掛けていると、今度は長嶺の耳に砲弾が降って来る風切り音が入ってきた。すぐに阿修羅を構えて、迎撃に移る。
「やったか!?」
「やってねーよ、コノヤロー」
どうやら比企ヶ谷、しっかり策略を練ってきていたのだ。この砲撃音や砲弾の水柱を見るからにコロラド、ワシントン、カブール、ネルソンだろう。ネルソン以外は長嶺について行くかどうか、迷っている連中だ。
「やっぱりこれだけじゃ、やりきれないか.......」
「あぁ。だが、悪くない手だったな」
「ありがとう、長嶺。でも、まだ終わりじゃない!!」
「んだとぉ!?」
今度は魚雷が長嶺の方に向かってきた。たまらずジャンプしたり、朧影を足元に撃ちまくって魚雷を迎撃して行く。
「これでもダメなのかよ!」
「まあ、肝は冷やしたがな」
「ならこうだ!!」
次はドーントレスやF4Fワイルドキャットが飛んで来た。どうやらイントレピッドとガンビア・ベイも、あっち側についているらしい。更に巡洋艦と駆逐艦による、水雷戦隊まで接近してきているらしい。
「成長したな比企ヶ谷。いいぞ、実にいい。俺の見込んだ通りだ。でもな、師匠ってのはそう簡単に越えられないものなんだぜ?」
「そうか?でも師匠を超えてこその、弟子なんじゃないか?」
「そうかな?」
次の瞬間、ガンビア・ベイとイントレピッドの航空隊が撃墜されていった。上空をF3心神とF22ラプターが飛んでいく。
「お前の戦略、俺が気付いてないとでも?昨日のパーティーで俺に反感を抱いていたカブールとかを引き込むのは予測していたし、そこからお前は中立層にも協力させているな?これは俺の予測を超えているが、まあ対応できる。
それに俺も、実は同じ手段をとっているんでね。それもお前の様なノーマルではなく、こっちはエースだがな」
「何?」
比企ヶ谷が手駒にしたのはコロラド、ワシントン、ネルソン、カブール、イントレピッド、ガンビアベイ、ノーザンプトン、ヒューストン、アトランタ、ブルックリン、パース、ジョンストン、フレッチャー、ヘイウッド。
一方の長嶺が協力を要請したのは世界最強の航空隊メビウス中隊、グレイア隊、フォーミュラー隊。艦娘の大和、武蔵、赤城、加賀、阿賀野、矢矧、能代、浜風、磯風、浦風、吹雪、叢雲。KAN-SENからはヤベンジャーズの赤城、愛宕、隼鷹、大鳳、鈴谷、ローンの他、オイゲンとエンタープライズとヴェネトである。
「これだけの火力、そして練度。たかが来たばかりの新参供に、対応しきれるかな?」
「まさか.......同じ手を使っていたなんてな.......」
「ほー、俺もみくびられたものだな。この程度で終わっているなら、俺はもう死んでいるさ。さぁ、いっちょビリビリっといきましょう!」
長嶺は懐から出したスイッチを押した。その瞬間、比企ヶ谷の持つヴェクターから電気が流れ思わず手を離してしまう。
「な、なんで!」
「お前の銃、正確にはマガジンに悪いが細工させてもらった。今ヴェクターに挿してるマガジン、その中に電気を発生させるシールを仕込ませて貰った。痺れるだろ?」
「まさか、これを選ぶと分かって.......」
「お前がいつか試射した時、それをお気に召してたからな。今回のお前の戦法は、艦娘からの攻撃が主軸。あくまでお前は餌に徹する、という考えだっただろ?なら取り回しのきくSMGをつかう。本来ならUZIとかM10みたいなのが良かったんだろうが、俺を相手にするなら使い易いのを選ぶ。となれば使う銃はヴェクターだ。
後は使うであろうマガジンに目星をつけて、予めシールを貼っておく。銃本体は確認するだろうが、マガジンまでは気が向かない。というか普通の兵士や特殊部隊員ですら、中々気が向かないだろう。この盲点を突かせてもらった。しかも一回撃てば普通に撃てる訳だから、もうトラップの事なんざ頭からさっぱり抜けているだろうしな。以上、お前はゲームオーバーだ」
阿修羅の引き金を引き、比企ヶ谷の頭にペイント弾を撃ち込む。勝負は長嶺の勝ちだ。勝ったとはいえ長嶺の想定を超える戦術を用いただけでなく、たった2時間であれだけの艦娘を動員させるだけの手腕、賞賛に値する行動である。となれば、受験資格は当然ある。
「さぁ。アイツら、どんな戦闘を見せてくれるかな」
今から試験が楽しみで仕方がない。長嶺はまるでプレゼントを待つ子供のようにワクワクした気持ちで、試験日を待っていた。