最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第七十七話恐怖の江ノ島鎮守府(後編)

数分後 江ノ島鎮守府 宿舎 玄関ホール

「よーし、状況を整理する。当初俺達はてっきりオカルト的な、神隠しとか異空間への転移という風に考えていた。だがリットリオの部屋から見つかった人骨から察するに、これは何者かによる攻撃である可能性が浮上した。ここまではいいな?」

 

全員が頷く。取り敢えずリットリオの白骨死体と思われていた物は、偽物だとわかって皆、内心ホッとしている。

 

「となればここからの行動指針は脱出ではなく、この謎の人物を突き止めて可能ならば排除する方向になる。これに必要なのは武器と情報な訳だが、深海棲艦や最近というか年単位で姿を見せてないセイレーンの可能性も考慮して、お前達には艤装を持ってきてもらおうと思う。という訳で、出撃ドックに行こうと思うが、何か意見はあるか?」

 

「あの…」

 

「どうした、大和?」

 

「もし、万が一、この異空間に艤装が無かったり、或いは装備できなかった場合はどうするのですか?」

 

「あー.......。まあ、それはその時にでも考えよう」

 

正直、長嶺としては艤装が使えて欲しい。艤装が使えれば向かう所敵なし。例え一個艦隊相当であっても、迎撃できる。陸上部隊なら戦車を有する機甲師団だとしても、艦娘とKAN-SENの火力の前では勝ち目はない。これが使えないとなると、いよいよもって打つ手がない。

 

「さーて、そんじゃ移動.......」

 

「ん?どうしたんだ指揮官」

 

「エンプラー。確かお前、目が良かったよな?」

 

「あ、あぁ。それがどうかしたのか?」

 

「あそこの街灯の近く。なんか一つ目のちっちゃいドラゴンみたいなグロイ生物いるくね?」

 

エンタープライズが目を凝らして見てみると、確かに長嶺の言う通りの生物がいた。全長は30cm程だろうか。顔がまるまる巨大な一つ目で、首が長く、鉤爪のついた足が4本あり、尻尾もついている。そしてコウモリの様な翼を持っていて、全体的に気色の悪い見た目だ。そしてそれが、何十匹といる。

 

「な、なぁ指揮官。あれは生物なのか?」

 

「悪いな。俺は生物学は専門外だ。だが、そんなズブの素人たる俺でも分かる。アレ、ヤバいヤツだ」

 

全員が顔を見合わせる。次の瞬間、全員が一斉に動き出した。ドアを閉めて鍵をかけ、窓の防弾シャッターも降ろす。

 

「取り敢えず防御は固めましたよ!!」

 

「よーし!取り敢えず、向こうの出方を見るとしよう」

 

長嶺はそのまま管理室へと向かう。この管理室にはこの建物のブレーカー等の制御基盤の他、監視カメラの映像を確認する設備もある。これを使い、外の監視カメラで様子を探るのだ。

 

「だいたいこの辺に.......。お、みっけ」

 

さっき場所を見たのですぐに見つけられたが、なんか数が増えていた。いつの間にか数百匹にまで増えている。しかもどうやら、こっちに向かってるらしい。

 

「ヤバいヤバい!!」

 

「指揮官、なんか分かったの!?」

 

「ブレマートン!!すぐに全員に武器を準備させろッ!!!!あの化け物が来るぞ!!!!!」

 

「う、うん!分かった!!!!」

 

ブレマートンがすぐに伝達し、全員が銃を構える。とは言え、オイゲンを除けば殆どが銃をまともに扱った事はない。あくまで彼女達の本業は、艤装を用いての戦闘。銃を片手に戦う事は、元より全く考慮に入っていない。

 

「指揮官殿、どうする?ここに立て篭もるか?」

 

「立て籠もってもいいが、おそらく何処かのタイミングで突破される。そもそも救援も打開策も無い状況下では、籠城は単なる破滅の先延ばしだ」

 

「何か手はあるの!?」

 

「それを考える!!その為の籠城戦!!その為の時間稼ぎだ!!!!」

 

とは言え、愛宕の言う通り手はない。何せ正面は謎の敵に囲まれた以上、艤装も確保に向かえない。かと言って打って出ても、突破できるかは未知数。そもそも敵の強さや戦い方が分からない以上、突破する手段も出てこない。

 

「て、提督!!上です!!!!上から来ます!!!!」

 

「何!?」

 

大和がそう叫んだ瞬間、二階の方から物凄い音が響いた。おそらくドアか何かを破られている。だが、長嶺も打開策を考え付いた。

 

「お前達!!すぐに管理室に走れ!!!そこの点検ハッチを降りれば、そのままドックにも繋がってる!!!!急げ!!!!」

 

管理室には電源ケーブルや水道管を点検する為の地下通路的な場所に降るハシゴがあり、この地下通路はアリの巣状になってるとは言え鎮守府内であれば何処にでも行ける。それにマップも管理室にあった。問題はない。

 

「みんな急いで!!!!」

 

「指揮官さま!階段から来ます!!!!」

 

「先に行け!!!!殿は引き受けた!!!!!!」

 

長嶺は背中に担いでいたM250を右手に持ち、左手に先代の愛銃である土蜘蛛HGを持つ。長嶺は狙いを定める事なく、そのまま入ってきた謎の飛行生物に向けて乱射し始めた。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

 

低レート高威力の土蜘蛛、高レート低威力のM250を上手く使い分け、的確に弾幕を張っていく。ただ弾幕を張るのではなく、しっかり残弾や敵の状態を見ながらの連射というのは、実は結構難しい。それを未知の敵相手にやってのけれるのは、世界中に数多いる兵士達の中でも一握りだ。

 

(とは言え、これかなりヤバいな!)

 

ここは現実。ゲームよろしく、弾薬は無限ではない。幾ら機関銃とは言えど、弾薬は200発が限度。流石にそろそろ弾薬の底が見えてくる上に、そもそも銃身の方が熱で限界を迎えそうである。

 

ドカカカカカ!!!!カチッ

 

「ってジャムかよクソッ!!!!」

 

言ってる側からジャムり、そのまま投げ捨てる。こうなったら爆弾系統と土蜘蛛で戦うしかない。愛刀や愛銃達は八咫烏がいない以上使えないし、神授才も『鴉天狗』も呼び出す暇がない。ぶっちゃけ、かなり詰みである。

 

「まさか深海共でもシリウスでもテロリストでもなく、得体の知れない化け物に殺されるとか思ってなかったわ.......。だが、まだ死ぬ気はねえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 

そう叫びながら、長嶺は階段付近の敵集団に突っ込んだ。

一方その頃、別れた艦娘とKAN-SEN達は心細いながらもドックへと歩みを進めていた。

 

「提督がいないとなんか.......」

 

「こうも心細いんだな.......」

 

五十鈴と長波の呟きに、他の者は何も答えられなかった。これまで何度か死地を潜り抜けて来たが、それは常に長嶺という存在が居ての事だった。先頭を切っている事もあれば、後方にいた事だってある。彼女達にとっては『そこに長嶺がいる』という事実だけで、勇気を振り絞り敵に立ち向かえたのだ。その言うなれば根源が居なくなった現状では、士気は駄々下がりなのだ。

 

「何を落ち込んでるのよ」

 

「.......オイゲンさん?」

 

「だって、あの雷蔵よ?あの雷蔵が、あんな気色悪い化け物程度に負けるもんですか。きっと私達をすぐに追いかけに決まってるわ。もしかしたら、案外ドックに先回りしてるかもしれないわよ?

それに大和。アンタは確か、この中で付き合い長いでしょ?そんなアンタが雷蔵を信じないでどうするのよ」

 

「それも、そうですよね。きっと大丈夫ですよね!」

 

大和を皮切りに、他のみんなも口々に「指揮官なら大丈夫」「あの提督なら大丈夫」という声が上がった。だがそんな中でもオイゲンは、1人心配を募らせていた。

あんな風には言ったが、それが出来るのは長嶺の専用装備があって始めてできる事だ。確かにこれまで不可能を可能にして来たとは言えど、その場面には必ず専用の武器や愛銃達があった。それが無い今、長嶺自身、何処まで本気を出せるかが未知数なのだ。あんなふざけた戦い方が出来るのも、それに耐えうる武器や戦闘についていける装備があって初めて出来る代物。少なくともいつもの様には戦えないだろう、というのがオイゲンの結論なのだ。加えて未知の敵という、何が起こるかが分からない相手。必ず生還すると、そう断言もできないのである。

 

(雷蔵みたいに絶望から救い上げるのは私のキャラじゃないんだから、さっさと戻って来なさいよね.......。無事でいなさいよ..............)

 

一行は道に迷いながらも、どうにかドックに辿り着くことができた。幸いドックの中には敵は居らず、赤い光でぼんやり照らされているだけだった。

 

「よし、私達KAN-SENは地下ドックに。大和達はここで大丈夫か?」

 

「えぇ。私たちはこのまま、艦娘用のドックに向かいます。確認が済んだら、エンタープライズさん達に合流しますね」

 

「あぁ。くれぐれも気をつけてな」

 

「そちらこそ」

 

ここで一度別れ、各々のドックへと向かう。艦娘の艤装は一応人間が運びそうなサイズ感であるが、KAN-SENの場合は艤装を使わない時は元々の艦艇の見た目に戻る性質を持っている。その為、KAN-SENの艤装は出撃ドック下にある地下ドックに格納されているのだ。

 

「無いわね.......。長波、そっちは!?」

 

「ダメだ。アタシは勿論、他のもねぇな。大和!」

 

「.......ダメね。戦艦のも空母のも無いです」

 

艦娘の艤装は保管スペースに無かった。恐らくKAN-SENの方も無い可能性が高いが、向こうの場合は物が巨大だ。仮にこれも人為的に後から持ち去られたのなら、KAN-SENの方は無理な筈である。

 

「大和、早いとこエンタープライズ達の所に行きましょ!」

 

「えぇ!急ぎましょう!!」

 

4人はエレベーターに乗り込み、地下へと降る。地下ドックには案の定と言うべきか、1隻たりと艦艇はいなかった。

 

「大和さん!.......何も装備していない、という事はそちらもだめでしたか?」

 

「えぇ。状況はこちらと同じく、自分達のも含めて何もありませんでした.......」

 

「ブレマートン殿。お主は確か、ホラーに明るいのだったな?」

 

「ホラーって言ってもフィクションの話だよ?降霊術とか霊感とか、そっち系の知識は都市伝説程度しか知らないからね?」

 

「でも、現状ではそういう知識でも判断材料よ。ブレマートンちゃん、お願い。なんでもいいから、何かない?」

 

高雄と愛宕からそう言われるが、生憎とあくまで好きというだけでオタクとかマニアの域まではいかない。そこまでの知識はないのだが、取り敢えず自分の考えを言ってみて損は無いだろう。

 

「う〜ん。一応考えというか何というか、ホラー系のあるあるは言っておくよ?まずパニック物だと、よく集団から1人離れるキャラっているじゃん?」

 

「もしかして「こんな所に居られない」とか言って、部屋から出て行ったりする方ですか?」

 

「そうそれ。大体、というかほぼ確定で死ぬよ。若しくは裏切り者として現れたり、敵に操られてたりね。後は油断したのから死んでいくのも、かなりお約束かな?ゾンビ映画とかで物音がしたのを気のせいとか言ったキャラって、その直後にゾンビの大群で襲われたりする」

 

「なら、この艤装がない状況も分かったりするか?」

 

「う〜ん.......。強いて言えば、アタシ達以外は異物として残されたとかかな。後はコピーできるのが建物だけだったとか?」

 

ブレマートンの考察、とまでは行かずともホラー映画あるあるに則った考えを並べていると、奥から物音がした。全員が武器をその方向に構える。

 

「誰!!!!」

 

「その声、五十鈴か?」

 

柱の影から現れたのは、寮舎で別れた長嶺だった。全員が武器を下げて、安心する。

 

「指揮官殿、無事だったのだな」

 

「おう!お前達を地下道に逃した後、どうにか玄関方向に突っ込んで突破したんだ。で、そのまま奴等を巻いたり遠回りしたりで、今着いた訳よ。いやー、死ぬかと思ったわ。HAHAHAHA!」

 

「提督、ご無事で何よりです。オイゲンさんの言う通りですね」

 

「なに?」

 

「オイゲンさん、私達を励ましてくれたんですよ。「雷蔵ならあの位大丈夫」って」

 

「そうだったのか。よくやったな」

 

そう言いながらオイゲンの頭を撫でた。このままもう少し再会を祝したいとは言えど、今はそれどころではない。艤装が使えない事を知ると、長嶺は次なる作戦に移る。

 

「実は逃げてる途中でな、監視カメラ映像を見て来た。どうやら執務室に、元凶があるっぽいぞ」

 

「何でわかるんだ?」

 

「例の触手。あれみたいなシルエットが窓枠に無数に浮いてた。多分、執務室がその触手持ちの拠点だ。そこで、危険だがここに全員で突っ込もうと思う」

 

全員の顔が一気に強張った。態々死地に行くというのだ。それも艤装無しで。幾ら長嶺が居るとしても、恐怖が先行してしまう。

 

「危険よそんなの!!」

 

「五十鈴の言う通りだ。だがな、俺は奴の触手を斬った。やろうと思えば、恐らく通常火力で押し切れるはずだ。やる価値は、ある!」

 

長嶺の力強い一言に、皆何も言えなかった。さっきまでは長嶺は居なかったが、今度は長嶺が先頭に立って戦う。それならば勝てるかもしれないと、そう思ったのだ。

という訳でドックを出て執務室へと歩き出したのだが、いかんせん執務室までの道のりは長い。一行は適当に雑談しながら歩いていると、長嶺が立ち止まった。

 

「おい、誰だお前は」

 

「どうしたんですか指揮官.......さ.......ま.......」

 

「ど、どうなってんだこれ!!!!」

 

「提督が.......」

 

「指揮官が.......」

 

「「「「「2人いる!?!?!?」」」」」

 

なんと目の前にいたのは長嶺であった。どういう訳か、今目の前に2人の長嶺が居るのである。どう考えてもどっちかが偽物なのだが、見た目は瓜二つで見分けはつかない。

違いと言えばドックに現れた指揮官はフル装備で、目の前の方の指揮官は機関銃を装備してない位だろう。

 

「し、指揮官殿?」

 

「「なんだ高雄!」」

 

「高雄ちゃん、ダメよ。こういう時は、落ち着いて相手を観察するの」

 

愛宕はホラーとかは苦手だが、謎解き系は案外得意な口なのだ。特にこういう、探偵みたいなのは大好きである。

 

「ねぇ、そっちの新しく出て来た指揮官。機関銃はどうしたのかしら?」

 

「ん?あぁ。さっきの気色悪い生命体との戦闘で、ジャムったから捨てた」

 

「そう。ねぇ、そっちの指揮官。普通ならどうするのかしら?」

 

「そりゃまあ、重にしろ軽にしろ機関銃は銃身を換えれば問題ない。そもそも機関銃のコンセプト的に、そういう設計になるからな」

 

機関銃は100発単位で弾丸をばら撒く特性上、銃身の過熱が問題となる。これを見越して、機関銃は銃身が取り替えられる様になっているのだ。

 

「じゃあ私からの質問、というかお願いよ。まずは新しい指揮官。拳銃を出してくれるかしら?」

 

「あ、あぁ」

 

2人目の長嶺が拳銃を抜いた。出て来たのは土蜘蛛である。次にオイゲンは1人目の方にも、拳銃を出す様に頼んだ。だがそれを回避しようと、1人目は言い訳を並べ始める。

 

「そんな御託はいいわ。そのホルスター、普通よりも大きいわよね?」

 

「そ、それが何だっていうんだオイゲン!!」

 

「確か指揮官がいつも使う銃って、弾倉がトリガーの前にあるから普通のより大きいのよね?」

 

「その通りだ。いつものは口径をデカくしすぎて、グリップに収められなくなったな」

 

そう2人目の長嶺が答える。『いつもの』というのは、勿論、二代目の愛銃である阿修羅HGの事である。

 

「みんな覚えてる?指揮官の愛銃は、いつも八咫烏に格納しているわ。でも今は、その八咫烏が居ない。だから雷蔵は、先代の土蜘蛛を持って来た。なら何故、そっちの指揮官は阿修羅を持ってるのかしら?」

 

「ちょ、ちょっと待てよオイゲン!!!!俺を疑ってるのかッ!?!?」

 

「何もそれだけじゃないわ。アンタは歩き方が、いつもの雷蔵とは違うわよ?」

 

勿論、両方の長嶺も怪我はしていない。足を引きずったりだとか、そういう類いの話ではない。というかこれ、鎌掛けである。普通、歩き方で人を見分けるなんて出来ない。だが長嶺は、それが出来る。もし偽物なら、何かしらのアクションがある筈だ。

 

「な、何を言っているんだ!!歩き方で人を判別できる訳ないだろ!!!!!」

 

この一言で、全員が理解した。最初のドックで合流した指揮官は偽物であり、もう1人の長嶺こそが本物の長嶺雷蔵だと。となれば、動きは決まっている。全員が偽物に対して、銃を向けた。

 

「上官に銃を向けるな!!!!!!そもそも俺が偽物だって証拠、ないだろ!?!?」

 

「あら、まだ足りない?なら何でアンタは、左手の薬指に指輪がないのかしら?ねぇ雷蔵。おかしいわよね?」

 

「俺にとって指輪は、ありきたりだが家族としての信頼や永久不変の絆の証だ。基本的に外さないぜ?あ、これ俺の指輪な」

 

そう言いながら左手を見せる。その薬指には、オイゲンとお揃いの銀のリングが輝いていた。

 

「それに偽物さん。アンタ、臭いのよ。指揮官はね、すごく暖かくて安心する匂いがするの。でもアンタ、単純に臭い。ニンニクとか生ゴミとか納豆の腐った、なんかこう、世界の激臭を発する存在をかき集めたみたいな臭いがするわ」

 

「ん?なんか、そんな奴を知ってる様な.......。誰だっけ?」

 

長嶺の脳内に、なんか遠い昔にそんな奴と会った様な会ってない様な、そんな記憶がありそうな気がした。だが思い出すよりも先に、偽物が動く。偽物は触手で周りを囲んでいる皆を弾き飛ばし、変装を解除した。

 

「あーー!!!!!お、お前は!!!!」

 

「なんで、なんでアンタがここにいるのよッ!!!!!!」

 

長嶺は思い出した。ソイツは、特に五十鈴は絶対に忘れられない男だ。先代の江ノ島鎮守府提督、安倍川餅部論部論流界(べろんべろんりゅうかい)である。

 

「デュフフフフフ、久しぶりだねぇ五十鈴たん。あの時よりもおっぱいが大きくなったなぁ。それに、他にも巨乳、いや爆乳のオンパレード!!デュフフフフフ!!!!」

 

「テメェは死んだだろ!!!大人しく死んでろ!!!!」

 

長嶺が土蜘蛛を乱射するが、それを軽々と安倍川餅は避ける。しかも一々、デュフフフフフと気色の悪い笑い声を挙げながら避けやがるので、なんか腹立つ。

 

「後輩、感謝して遣わすぞ。デュフ、こ、こんな美女をたくさん連れて来たのだからなぁ。我は戻って、ベッドを準備せねば。確かここにはエロエロな下着もあるだろうから、それを着せて連れからが良い!!デュフフフフフコポォ」

 

なんかよく分からない要求を突きつけるだけ突きつけて、ご本人はさっさと何処かに消えた。まあ言わなくてもお察しだろうが、全員ドン引きである。

 

「し、指揮官さま?あの変た、いえ。性犯罪者は何方ですか?」

 

「これは言い直して酷くなった事に突っ込むべきか?」

 

「いや、エンタープライズ殿。あの変、いや、穢らわしい存在には充分であろう」

 

「なんというか、まあ、先代の江ノ島鎮守府提督だ。安定のブラック鎮守府だったんで、俺がこの手でぶっ殺して死体はミンチにして海に放流したんだけど。普通に考えて魚の栄養となり、フンとなって、今頃は海底でおねんねの筈なんだが」

 

この安倍川餅部論部論流界が誰なのか、忘れている者もいるだろう。この男はかつて、江ノ島鎮守府の提督だった男である。この男がクズであり、艦娘に対して強姦こそしなくとも、それに近しい事させていた。他にも色々やらかしまくった結果、長嶺にお仕置き(あの世送りに)されたのだ。

 

「い、五十鈴?大丈夫か?」

 

「.......えぇ、大丈夫よ。ありがとう、長波.......」

 

「そういや五十鈴、お前は」

 

「そうよ。あのクズの元にいた艦娘の1人。今思い出すだけでも、かなりキツいわ.......」

 

これまでさせられて来た事といえば、かなり酷かったという。胸やお尻を触られるなんてのは序の口で、身体中を舐められたり、体液を飲もうとしてきたり、飲ませようとしてきたり、変態の度合いを超えた奴だったそうな。

一度、トイレに隠れて小便を飲もうとしてきた事もあったらしく、これがキッカケとなって通報されたらしい。

 

「お、おしっこ飲むの.......」

 

「拙者、その考えがわからぬぞ.......」

 

「変態、超えてるわね.......」

 

「何故かしら、セクハラがまだマシに思えるわ.......」

 

「うわぁ.......」

 

「ちょっと警察に電話してきます」

 

「ヴェネト、気持ちはわかるが、そこは自衛隊にしておけ」

 

「エンタープライズさんがバグりましたね.......」

 

「五十鈴、よく耐えたな.......」

 

余計にドン引きする艦娘&KAN-SENの皆さん。普通に考えて自分の小便を飲まれるとか、かなりキツい。というか安倍川餅の変態っぷりが、別ベクトルに突き抜けているのでショックが大きい。

因みに長嶺の場合、その手の変態も知っているので驚きこそすれど、そこまでびっくりはしなかった。まだ小便なだけマシである。これまで長嶺が見てきたワールドクラスの変態には、動物やら虫、果ては死体に興奮する奴とか、糞を自分に塗りたくって興奮覚える奴とか、車とヤッてる奴とかといた。

 

「ショックを受けるのはいいが、今は俺たちのすべき事を考えるぞ。この感じだと艤装は無理だったんだろうから、このまま地下に行くぞ」

 

「地下ですか?」

 

「なんだヴェネト、忘れたか?お前さっき警察とか言ってたが、この鎮守府には警察とか憲兵とか自衛隊よりも頼りになる組織がいるだろ?」

 

「あ、霞桜」

 

「そう。我が最強の特殊部隊、霞桜の拠点でもある。本来は立ち入り禁止だが、この際仕方ない。そこで装備を整えるぞ」

 

霞桜の地下施設へ降る場所は幾つかあるが、一番近いのはドックである。ドックの専用エレベーターで、霞桜の本部へと降りられるのだ。

 

「そういえばさ指揮官。なんで霞桜の地下施設は、アタシ達が入れないわけ?」

 

「.......霞桜が秘匿されているのは裏の仕事をこなす為とされているが、実際は違う。俺達が元々創設されていた理由は、艦娘への首輪だ」

 

「首輪?」

 

「艦娘反対派の人間への折衷案さ。もし艦娘が裏切れば俺達が殺す、という手筈になっていた。最初期はそういう名目だったが、俺と親父で形骸化させて別任務、つまり裏仕事や反乱者への粛清、深海棲艦を倒す方向に切り替えさせた。今も立ち入りを禁じてるのは、その名残だ。

それに曲がりなりにも非正規特殊部隊である以上、入れる人間は制限しておきたいというのもある。後、単純に危ない」

 

ブレマートンの疑問に答えてるうちに、またドックへと戻って来れた。さっきは通常のエレベーターに乗ったが、今度は別の場所にある専用のエレベーターに乗り込み、地下の霞桜本部へと降る。

 

「ようこそ、霞桜本部へ」

 

「こ、ここが霞桜の本部ですか?」

 

エレベーターを降りると、黒と赤のまるで鉄血の様な厳かな雰囲気のロビーが広がっていた。地下なのに、意外と天井は高く広々している。

 

「見惚れているところ悪いが、今は一刻を争う。さっさと行くぞ」

 

ロビー抜けて、武器庫のある区画へと歩いていく。3分ほど歩き続けると、如何にも厳重そうな扉が前に現れた。この奥が、武器庫である。

 

「これが武器庫なのか?」

 

「あぁ。カードキー、網膜、指紋、パスワードで開く」

 

長嶺は手早く認証を済ませ、武器庫の扉を開ける。扉の奥には一目で武器庫と分かる重厚感のある部屋に、無数の銃や爆弾が所狭しと並んでいた。長嶺の部屋にあった武器庫とは、雲泥の差である。

 

「いつも霞桜の隊員達が使ってる銃ね。それがこんなに.......」

 

「しかし指揮官殿。何故、わざわざ武器を変えるのだ?これではダメなのか?」

 

「多分いいとは思うんだけど、まあここは念には念をという事でな」

 

そう言いながら長嶺は、真っ黒な弾薬ケースを蹴って皆の所に滑らせた。箱には赤黒い血の様な色で『caution』と書かれていて、なんか物々しい見た目である。

 

「何よこれ」

 

「開けてみな」

 

五十鈴が訝しみながらも、ケースのピンを外して中を開ける。中には無数のマガジンが入っていたのだが、そのマガジン内の弾丸が普通じゃなかった。普通の弾丸なら黄土色っぽい、真鍮の様な色をしている。だがこの弾丸は、弾頭から薬莢まで禍々しい迄に真っ黒なのだ。

 

「これって、まさか.......」

 

「流石大和、気が付いた様だな。答えをどうぞ?」

 

「対深海徹甲弾ですか?」

 

「イェーース。ソイツが俺達人類が生み出すも、作るのに相当手間のかかる代物。対深海徹甲弾だ」

 

説明不要の霞桜が誇る通常秘密兵器。対深海徹甲弾である。たしかにこの弾丸であれば、たとえ相手が深海棲艦の能力を有していようと戦える。

 

「な、なぁ。これ、艦娘が弾頭に触ったら溶けるとかないよな?」

 

「大丈夫大丈夫。あくまで弾丸として艦娘とか深海棲艦に撃ち込んだら普通の弾と同じ様な効果があるってだけで、なにもそんな危険な代物じゃない。弾丸な時点で危険ではあるが、そこまで身構えなくても大丈夫だ」

 

「.......でも正直、長波の言う通りちょっと怖いわね」

 

「愛宕、本当に大丈夫だろうな?拙者、少し怖いぞ」

 

「私に聞かれてもねぇ.......」

 

皆、これまでの戦闘の中で霞桜がこの弾丸をぶっ放している所は何度も見てきた。その威力は知っているが、対深海棲艦兵器でありながら対艦娘兵器でもある弾丸に、ちょっとした拒絶感を抱いてしまう。仕方がないだろうが、今回はそこを曲げてもらわなければならない。

 

「お前達、見てろ」

 

そう言って長嶺は、マガジンから対深海徹甲弾を一発抜いて自分の素肌にグリグリと押し付けた。

 

「な?何もなってないだろ。俺だって一応、半分は艦娘だ。その証拠に高速修復材が通用する。だが見てみろ。さっき弾丸押し当てた所は、別に何もなっちゃいない。お前達も安心して使え」

 

流石にここまでされれば、100%大丈夫だということが分かる。そこから先は早かった。全員にそれぞれの銃に対応するマガジンを大量に渡し、ついでに監視カメラの映像で偵察も行って、最終決戦に挑む事になった。

 

「よーし、最終確認だ。これより俺達は敵の本拠地と化した、執務室へと突入を敢行する。周囲には例の空飛ぶキショい化け物の他、なんかカタツムリと人間が合わさったみたいなよく分からん生命体がいる。お前達の任務は、これを倒す事だ。

だが無理はしなくていい。基本は俺が削るから、お前達は端から取りこぼしを掃討してくれれば良い。配置についたら合図してくれ。俺も動く。では、行動開始!」

 

艦娘とKAN-SEN達を先行させ、長嶺はこの場に残り準備する。今回の敵は何をしてくるか分からない上に、こちらは陸戦に不慣れの艦娘とKAN-SENが大量にいる。となればもう、切り札を最初から使うしかない。長嶺の切り札は2つあるわけだが、艤装が使えないのなら使えるのは唯一つ。神授才である。

 

「我願うは、大和民族の火焔なり。この身は火焔と一体となり、全てを破壊し尽くす破壊者となり、全てを滅さん。八百万の神々とて、我が火焔は止められず。この火焔は天に、地に、海に、山に巡りて、全てを焼き尽くす。我、眼前敵を排するその時まで、火炎と成り、例え果てようと悔いは無し」

 

神授才は長嶺の体内に宿る物。艤装とは違い、格納場所は長嶺自身。故にこの様な状況下であろうと、何の問題なく神授才は行使できる。

佐世保と千葉の時と同じ様に巨大な炎の鬼が現れて、長嶺に乗り移る様に消えると、長嶺自身から炎が溢れ自らを包みこむ。炎が消えればそこには、鬼の面と装甲服を見に纏った長嶺の姿があった。煉獄の主人、降臨である。

 

「オイゲンさん!アレを!!」

 

「雷蔵、本気みたいね。それじゃ、私達も急ぐわよ」

 

オイゲン達も背後に立つ、炎の鬼がよく見えた。あの鬼が出てきたということは、長嶺雷蔵が本気を出すということ。味方として、これほど心強い事はない。

 

『配置についたわよ』

 

「了解した」

 

オイゲンからの報告を受けたのと同時だった。長嶺は、静かに背後に控えるビットに命令を飛ばす。

 

「オールビット、ビーム。撃て」

 

レーザーの雨の様な攻撃が、いきなり真上から降り注ぐ。化け物共は何が起きたかを理解する前に、綺麗さっぱり消滅していった。だが母数が多いせいか、数百匹は生き残っている。

 

『お前達、攻撃開始だ。撃ちまくれ』

 

「みんな聞いたわね!?Foya!!!!」

 

今度は無数の対深海徹甲弾による弾幕が化け物共を襲う。実を言えばこの化け物は全て、通常兵器でどうにかできる相手なのだ。故にオーバースペックの対深海徹甲弾を前に、みるみる数を減らしていく。だが化け物も数に任せて弾幕を掻い潜るが、それをコイツが許すわけない。

 

「焔槍!!焔柱!!焔槌!!」

 

無数の術を同時並行で使いつつ、腕部のマシンガンでも弾幕を張って寄せ付けない。

 

「アレが指揮官の本気なわけ!?」

 

「初めて見ますけど、多分そうなんでしょう!!」

 

「あんな能力があれば、確かに佐世保の惨劇も納得だな」

 

「マジで化け物だな、うちの提督」

 

艦娘もKAN-SENも、オイゲンとイラストリアス辺りを除けば、神授才を用いた戦闘は一度も見たことがない。佐世保鎮守府で見たのは神授才を行使した後の死体と瓦礫の山と、鬼の面にスーツを着けた今の姿だけなのだ。

暫くすると、どうやら化け物は殲滅できたのか、めっきり静かになった。そして化け物の代わりに、今度は安倍川餅が現れる。

 

「な、何だこれは!!あの方の能力を持ってしても、出来なかったんでござるかッ!?!?こんなこと、ゆるさ」

「焔龍!!!!」

 

まだ話してる途中だったのに、安倍川餅は焔龍に飲み込まれてしまった。

 

「焔…ちょっと待て、アイツどこいった?」

 

次の術を準備した時、長嶺は安倍川餅がいない事に気が付いた。流石に焔龍如きで死ぬ筈ないと、そう思っていた。だが安倍川餅、しっかりさっきの攻撃で死んでいる。

 

「指揮官殿!!あの変態性犯罪者なら、さっきの攻撃で黒焦げになってしまったぞ!!!!」

 

「は!?えっ、うそぉ!?!?」

 

まさかの事実に長嶺、困惑である。あまりに弱すぎると。とはいえど、いくら化け物でも数万℃の炎の龍に喰われればアウトである。これは長嶺が悪い。

 

「みんな見て!!!!」

 

「空が砕けて…」

 

「夜空が!!」

 

あの赤い空がガラスが砕ける様に消えていき、段々と見慣れた綺麗な夜空に戻っていく。どうやら無事に戻れたらしい。艦娘もKAN-SENも、抱き合って喜び合っている。

だがそんな姿を見る影が2つ、長嶺も気付かない所にあった。

 

「プロトタイプじゃ、流石に無理か」

 

「そもそもアイツがよわいんでしょ?アイツ、なんかキモイし臭いし」

 

「それでも役に立ったわ。一応、ね。この世界は元いた世界よりも残酷な運命が待っているけど、あの男はそれを撃ち砕く。それを陰ながら、あらゆる手段でサポートし誘導するのが今の仕事。きっと楽しいわよ」

 

「にしてもあの長嶺雷蔵って、マジで強すぎだろ。戦いたくないわー」

 

「大丈夫。彼との戦闘は、まだもう少し先よ。私達は仕込みをしないと。また会いましょ、煉獄の主人。さぁ、行くわよピュリファイヤー」

 

これまで静かだったセイレーン。彼女達がいよいよ動き出す。彼女達の目的は不明だが、一つ言えるのは碌でもない事を考えてるのは確かだろう。

 

 

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