最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第七十八話海の覇者

安倍川餅の襲撃より2週間後 江ノ島鎮守府 執務室

「にしてもまぁ、アレなんだったんだか.......」

 

「どうしたのだ相棒?」

 

「ん?あー、いや。こっちの話だ」

 

あの恐怖体験から2週間経ったわけだが、あれ以来何事も起きなかった。一応、長嶺が個人的に知り合いであり、古巣の大元である秘密結社『八咫烏』の伝手で神職者を呼んでお祓いもしてもらい、監視カメラの映像や当時の状況をそれとなく色んな奴に聞いてみたが、あの夜は江ノ島鎮守府自体には特に何もなく、極々普通の日常的な一夜だったそうだ。

あの現象が何かしらの攻撃か、はたまた突発的な所謂『神隠し』に準ずる事象だったのか。そもそも安倍川餅は何処から復活してきたのか。全て謎のままである。とは言え、いつまでもこの事にかまけている訳にもいかない。そろそろ兼ねてより計画していた、北方地域の攻略が始まろうとしているのだ。

 

「そういや武蔵。向こうさんから連絡は来たか?」

 

「あぁ。間も無く到着する頃だと思うが.......」

 

「提督、失礼致します」

 

「大淀が来たって事は」

 

「はい。比企ヶ谷提督が到着されました」

 

そして今日より1週間、北方海域攻略に向けた演習が江ノ島鎮守府で行われるのだ。この北方海域攻略作戦は、初の各鎮守府合同の作戦となる。これまで何度も協力作戦は行ってきており、例えば本攻撃の前の偵察や陽動の攻撃を別々の鎮守府が行ったり、本攻撃時のバックアップとして他鎮守府が動く場合なんかはあった。

だが今回の場合はそもそもの艦隊が合同となる。各戦隊は鎮守府別なのが多いが、それら戦隊が1つの艦隊として動く様になっているのだ。この試みは、今回が初である。その為、北方海域攻略作戦、作戦名『ペルーン』には江ノ島鎮守府を筆頭に、呉鎮守府、新潟基地、下関基地、そして前線拠点として釧路基地が参加する。

 

「おっ、一番乗りは比企ヶ谷か」

 

「失礼します!比企ヶ谷大佐、ただいま到着しました!!」

 

そう言って比企ヶ谷が敬礼する。白の第二種軍装であり、敬礼も見事な物だ。それは認めよう。だが、何故だろう。全く似合わない。笑ってしまう。良くて仮装パーティーのコスプレである。

 

「.......なんだよ」

 

「いや、あー、何というか、ちょっと笑えてきて」

 

「どーせコスプレだよ」

 

「いやいや、すまんすまん!似合ってる、似合ってるんだよ!凛々しいぞー。かっこいいぞー。ただ、素のお前を知ってるからどうしても」

 

やはり自堕落で適当な比企ヶ谷の素を知っている者としては、どんなに頑張ってもパリッとした制服姿に違和感が出てくる。それに総武高校の制服もブレザーであり、中学は学ランかもしれないが見た事はないので、やはり違和感が存分に仕事するのだ。

 

「うるせー」

 

「そう言うなって」

 

「.......で、俺はどうすれば良いんだ?」

 

「さっきも言った通り、まだお前以外来てない。とは言え1人寂しく会議室で待たす訳にも、かと言って霞桜の訓練に放り込む訳にもいかない。さて、どうしよう」

 

長嶺、全く考えてなかった。正直、比企ヶ谷は想定より早く着いているのだ。別にそれで迷惑だとかは思わないが、かと言ってそれで1人応接室とか会議室に放り込むのも、なんか悲しいというか侘しいというか。ぶっちゃけ他の提督が来るまで、後1時間はかかる。

 

「応接室でも会議室でも、何処でもいいぞ。どうせ仕事したかったし」

 

「そうか。なら、応接室を準備させよう。シラ」

 

「はい。シラをお呼びですか、ご主人さま♪」

 

「比企ヶ谷を応接室に案内してやってくれ」

 

「はい♪」

 

最近は秘書艦の他に、ロイヤルメイド隊の面々も常駐する様になった。長嶺不在時の代理は艦娘からは大和、長門。KAN-SENからは赤城、エンタープライズ、ウェールズ、ベルファスト、オイゲン 、ビスマルク、ヴェネト。そして霞桜からグリムとマーリンが担当するが、秘書艦は艦娘から1人、KAN-SENからは2人から3人が毎日ローテションを組んでいる。だが仕事量が多すぎて、これとは別にロイヤルメイド隊の手空きの者が、雑用係として1名常駐するようになったのだ。

因みにロイヤルメイド隊からは、秘書艦が選ばれない様になっている。こうなったのは他の艦娘&KAN-SENからの、それはそれは強い申し出があったからである。

 

「そうだ指揮官。他の提督達はいつ来るんだい?」

 

「1時間後には来るだろう。さぁ、それまでは仕事だ」

 

尚、本日の秘書艦は艦娘より武蔵、KAN-SENからはリットリオ、ニュージャージー、ダンケルクである。

これより約1時間後、残る3提督とその所属艦娘達が江ノ島鎮守府に到着。長嶺も4人が待つ会議室へと向かった。

 

「お、久しぶりだね長嶺長官」

 

「えぇ、風間提督。と言っても前回の会議から2ヶ月程度ですがね」

 

「僕達は会う機会がないからね〜。あ、そうだ。今晩飲みに行こうよ!」

 

「ふっ、そんな事せずとも私が用意しますとも。確か風間提督、広島の出でしたね?雨後の月、ありますよ」

 

その瞬間、風間は長嶺の手を両手で握った。何を隠そう、風間は数ある日本酒の中で一番好きなのが、この『雨後の月』なのだ。恐らくこの感じから見るに、今夜は飲みまくる事になるだろう。

 

「あ!雷兄に風間提督!こんにちは!!」

 

「ご無沙汰しております」

 

「おぉ、影ちゃん白ちゃん!」

 

「長嶺くん、言い方がカトちゃんケンちゃんだよ?」

 

今度は影谷と白鵬の2人が声を掛けてきた。恐らく、トイレにでも行ってきたのだろう。因みに最近、というか例の傷顔の商人(スカートレイダー)の一件以来、影谷からは雷兄(らいにい)と呼ばれるようになった。白鵬からは雷蔵兄さんと呼ばれている。

 

「2人とも元気でやってたか?」

 

「はい!」

 

「雷蔵兄さんもお変わり無いようで」

 

「HAHAHAHA!!そうだとも、俺も元気だったぞ!!!!」

 

長嶺自身も2人を弟の様に可愛がっており、実は何度かここに遊びに来た事もある。というか何なら、昨日とか夜にオンラインゲームで遊び倒している。

 

「えっと、部屋間違えた?」

 

「ん?おいおい、合ってるよ。入れ入れ」

 

応接室からやってきた比企ヶ谷も部屋の中に入れ、会議参加メンバーもとい、ペルーン作戦に参加する指揮官が全員揃った。

 

「ではこれより、鎮守府合同演習の直前会議を行う。本題に入る前に、新たに釧路基地司令に着任した者を紹介しておく。比企ヶ谷」

 

「はい、比企ヶ谷八幡大佐です。この間まで高校生をやっていましたので、まだ軍隊生活にも慣れていない新米ですが、精一杯頑張りますので、どうか宜しくお願いします!」

 

「知っての通り、今回のペルーン作戦に於いて、比企ヶ谷の管理する釧路基地は重要な拠点となる。攻略海域には補給と簡単な修理のできる拠点は設置するが、海域から最短の入渠施設は釧路基地となるし、ここは陸軍航空隊と基地航空隊の拠点にもなる。是非とも親交を深めておいてほしい。

では本題に戻ろう。各鎮守府、今回の演習に参加する艦隊の報告を」

 

「それじゃ、まずは僕から。呉からは戦艦扶桑、山城。重巡最上、足柄、那智。軽空母龍鳳、鳳翔。軽巡矢矧、阿武隈。駆逐艦時雨、朝雲、山雲、満潮、霞、朝霜、清霜、磯風、浜風、雪風、涼月、冬月。それから航空隊として、サイファーとピクシーのガルム隊も連れてきているよ」

 

これは会いに行かなくてはならない。なんだかんだで2人とは着任してすぐの演習の時以来、何だかんだで会ってないのだ。

 

「下関基地からは戦艦アイオワ、ウォースパイト。空母サラトガ。重巡青葉、利根。軽巡能代、大淀。駆逐艦潮、曙、朧、漣です!」

 

「新潟基地からは空母葛城、レンジャー。重巡衣笠、三隈。駆逐艦陽炎、不知火、黒潮、朝潮です」

 

「釧路基地からは戦艦ビスマルク。空母グラーフ・ツェッペリン。重巡青葉、加古。軽巡由良。駆逐艦白露、春雨、五月雨、山風、卯月が参加します」

 

「そんじゃ、最後にウチの艦隊についても説明しておくか。参加するのは戦艦大和、武蔵、長門、陸奥、金剛、比叡、榛名、霧島。カブール、サウスダコタ、ワシントン、ネルソン。空母赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴、ガンビアベイ。軽空母千歳、千代田、鈴谷、熊野、イントレピッド。重巡高雄、愛宕、ノーザンプトン、タスカルーサ、ヒューストン。軽巡球磨、多摩、北上、大井、天龍、龍田、五十鈴、名取、川内、神通、那珂。駆逐艦吹雪、叢雲、睦月、如月、望月、弥生、暁、雷、電、ヴェールヌイ、村雨、夕立、海風、天津風、浦風、萩風、夕雲、長波、早霜、照月、島風、ジョンストン、フレッチャー、ヘイウッド。潜水艦伊19、伊58、伊26、伊8、伊58。それからメビウス中隊が参加する。これに加えウチのKAN-SEN部隊も参加するんで、よろしく」

 

江ノ島の艦娘とKAN-SENは全員漏れなく霞桜と長嶺によるトレーニングにより全員が最高位の練度を誇り、装備も最上級、そして全艦改、改二等になっているのはご承知の通りであるが、他鎮守府の艦隊もその鎮守府に於ける精鋭達である。

艦娘はダブりと呼ばれる現象があり、同一存在の艦娘が同時に存在する場合がある。例えば江ノ島にも扶桑と山城はいるが、呉にも同様に扶桑と山城がいる。基本的に問題はないが、一定範囲内に同一存在がいると、何故か艦娘はその能力を行使できなくなる。水上に浮かび動く事こそ出来るが、艤装を動かして戦う事はできなくなるのだ。その為、今回の作戦ではダブり艦に関しては、鎮守府の警護に回る事になっている。

 

「KAN-SENというと、いつか僕に紅茶を出してくれた銀髪のメイドさんも来るのかい?」

 

「あー、ベルですか?アイツも、アイツの指揮するメイド隊も出ますよ。結構強いんで頑張ってください」

 

「失礼致します」

 

ベルファストの話をしていたら、まさかのベルファスト御本人が登場した。どうやら、合同演習の開幕式典の準備ができたらしい。それを知らせに来てくれたのだが、影谷&白鵬、完璧に見惚れている。いやまあ、思春期真っ盛りの14歳。艦娘にもちょくちょく際どい格好の奴、例えば島風とか長門型とかアイオワとかいるが、ベルファストのはある意味、それの上を行く。

 

「ん?あー、そういや影ちゃん白ちゃんは初対面か」

 

「お初にお目に掛かります。メイドのベルファストと申します。以後、お見知り置きくださいませ」

 

流石はロイヤルメイドのトップ。カーテシーを決める所作は、優雅かつ美しく洗練されている。だが、14歳の思春期ボーイには攻撃力がデカすぎた。ベルファストのメイド服は通常のメイド服とは違う。胸元がガッツリオープンになっており、普通に谷間丸見え。上から手を突っ込めば、そのまま直に揉めるデザインである。カーテシーを決めると、その胸の谷間が全部拝めてしまうのだ。

 

「「......./////」」

 

「(影谷くんともかく、冷静沈着を絵に描いたような白鵬くんまでも照れるか。ベルファスト、恐ろしいね)」

 

「(能力自体は優秀すぎる位なんですけど、たまにあんな感じで子供の性癖を歪ませちまうんですよ。しかもKAN-SENは、そんな奴がワンサカといます。性に目覚めさせ、性癖を歪ませる。見方変えりゃ、ある意味で最強の兵器ですよ。傾国の美女軍団って奴ですかね?)」

 

「(なにそれ。何処のおねショタ物エロ漫画?)」

 

「(割とマジで否定できねーからタチが悪い)」

 

「(KAN-SENってこえー)」

 

これまで、と言ってもまだKAN-SENが直に一般人と密接に関わったのは呉でのレース、総武高校の職業見学、江ノ島祭の3つしかないのだが、それを持ってしても、かなりの数の被害を出している。特に総武高校の場合は、あの後に男子トイレに行けば、やれ「あの黒髪爆乳(多分大鳳)がやばかった!」だの「ピンク髪のエロい先生(多分レンジャー)とハメたい」だの「今日あった艦娘は俺のオナペットだ」だのと言っていた。

しかも学校に帰還してからも、普通にこの手の話題はちょくちょく出てきていたし、オイゲンに至ってはエミリア・フォン・ヒッパーとして潜入しているので、よくトイレとかで「エミリアをどう言うシチュで犯して抜いた」云々の話で盛り上がっていたり、非公式にファンクラブまで出来ていた始末である。ぶっちゃけ普通に長嶺も男なので性欲あるというか、一度スイッチ入れば男優以上にハッスルする歴とした男。しかも何より大事な家族である彼女達がそういう目で見られるのは、怒りたくなる反面「俺はそんなエロい奴らと暮らしてるんだぜ?」という優越感は味わえるという、物凄い感情であった。

 

「どうかされましたか?」

 

「あー、いや。うん。ベル、取り敢えず先行っててくれる?」

 

「かしこまりました」

 

とまあベルファストには下がってもらったのだが、下がっても尚、2人は現世に戻らない。頬を叩いたり、顔の前で手を振ってみたり、頭揺らしたり、色々やっても夢の世界から中々帰還しない。

 

「ねぇ、これ死んでないよね?」

 

「いやー、流石に無いでしょ。美女見て死ぬって、聞いたことないですよ?」

 

「それとも彼女、なんかサキュバス的な能力あったりする?」

 

「アイツにそんな能力ないです」

 

「でも、それっぽいのはいるよな。インプラカブルとかレーゲンスブルクとか。後、単純に悪魔っぽい奴ってならエーギルとか。というか鉄血の艤装は総じて、悪魔とかサメみたいな刺々しい見た目だし」

 

今更だが、結構KAN-SENって見た目のバリエーションが豊富なのだ。重桜勢にありがちなケモ耳&鬼っぽいツノに、セントーとかヨークみたいなエルフ耳、鉄血勢にいる悪魔っぽいツノと、見た目というか種族的特徴というか、そういうタイプの見た目が艦娘より多い。というか艦娘には、その手の特徴はない。

こんな事を考えたり、あれこれ現世に戻す方法を試していると、どうやら魂が夢想世界から帰還したらしい。

 

「あ、帰ってきた」

 

「取り敢えず、僕達も行こっか。時間推してるし」

 

「そうっすね」

 

まだなんか半分現世に帰ってきてない気がしなくもないが、そろそろ行かないと時間がまずい。他の4人は最悪遅刻してもコソッと入って、そのまましれーっと並んでしまえば問題ないが、長嶺は連合艦隊司令長官としての挨拶も控えているので遅刻する訳にはいかない。

なんとか滑り込みセーフで会場であるグランドに到着し、5分前にしっかり所定位置に着くことができた。これが江ノ島だけの式典とかなら「ごっめーん、遅れたー!」で済むが、流石に他鎮守府の艦娘の前でそれでは示しが付かない。

 

『これより、江ノ島、呉鎮守府、釧路、新潟、下関基地、合同演習開会式を挙行する。国旗掲揚、気を付け』

 

君ヶ代がスピーカーから流れ、正面のポールに国旗が掲げられる。その様子はまるで、学校の運動会である。

 

『連合艦隊司令長官訓示。長嶺雷蔵元帥、登壇』

 

「行ってらっしゃい雷蔵くん」

 

「俺、そういうキャラじゃ無いんすけど。まあ、給料分はやりますか」

 

風間に見送られ、正面の朝礼台に登る。登った瞬間、江ノ島以外の艦娘達からザワザワと声が上がる。どうやら長嶺の評価が影響してるらしい。

 

「アレが軍神の長嶺司令?」

 

「すっごいイケメン」

 

「でも、若いわよね」

 

「大丈夫なのかしら?」

 

ヒソヒソ言ってるつもりらしいが、案外長嶺には聞こえてしまう。司会役の士官がそれを咎めようとするが、それを長嶺が目配せで止める。

 

『あー、俺が長嶺雷蔵だ。一応、連合艦隊司令長官をやってる。とは言え、そもそも俺はこういう堅苦しいのは大っ嫌いだ。だから挨拶をキッチリやるつもりはない。やった所で意味ないし、別に俺が言わんでもこれが重要なのは分かるだろ?

という訳で、まあ、あれだ。ウチの江ノ島鎮守府はかなり自由でな、お前達も自由にやって欲しい。ここにいる間、訓練中はこっちの指示に従って貰うがそれが終われば、何やろうが自由だ。寝ようが遊ぼうが好きにやれ。軍規?規範?んなもん知るか。法と道理に外れず、人様に迷惑かけなきゃ全てはノープロブレムだ。

それから最後に、俺の愛しの家族ども。多分さ、他の鎮守府から艦娘達はカチコチになるだろうから、うまい事ほぐしてやれよ。そんじゃ、俺の挨拶終わり。ついでに何か他のプログラムもすっ飛ばして、そのまま今後の流れの説明に行け』

 

本来の予定であれば宣誓とか、江ノ島側の代表挨拶(担当は大和)とか色々あったのだが、まさかの全カットである。江ノ島の愛する仲間達は普通に「またやったよ」位で笑っているが、他鎮守府の艦娘は口を開けてポカーンとしていた。

 

『え、あ、そ、それではこれより、1週間の簡単なスケジュール説明に移る。この後は……』

 

詳しくは長くなるので、こちらで簡単に説明しよう。と言っても初日たる本日は訓練中に専属の整備士となる江ノ島の工廠妖精との引き継ぎ、艤装の点検、夜には恒例の歓迎パーティーがあって、翌日からが訓練開始である。

2日目から3日目は各鎮守府ごとにKAN-SENとの艦隊行動、及び砲撃演習。4日目から7日目は鎮守府同士+KAN-SENを含めた艦隊行動演習、及び艦隊対抗演習である。この間、提督達は図上演習や実際に指揮を取って演習に参加する事になっている。因みに当然だが、霞桜の連中は今回不参加である。流石に法律どころか憲法違反の存在は、例え艦娘でも他鎮守府にはおいそれと見せられないのだ。

 

 

 

翌日 江ノ島鎮守府 執務室

「総隊長、いる?」

 

「ん?おぉ、レリックか。どうした?」

 

「例の兵器、できた。来い」

 

実を言うと、江ノ島鎮守府では現在、4つの計画が動いている。その1つが霞桜内部で動く『新型強化外骨格開発計画』であり、新たに艦娘から明石、夕張。KAN-SENからチカロフ、ビスマルク、明石を加えて製造している。

この際なので、他のも説明しておこう。2つ目がペルーン作戦に合わせて行われている『第二次艦娘・KAN-SEN改装、装備増強計画』。3つ目と4つ目は実質セットの計画で『江ノ島鎮守府強化計画』と『アウター・ヘイブン計画』である。河本による江ノ島基地襲撃を受けて、江ノ島鎮守府自体を要塞化するのと、大和発案の「もう一つの江ノ島鎮守府を作ろう」という物を実現させる計画である。

 

「それで、どんな感じになったんだ?」

 

「化け物性能。今の強化外骨格より出力、運動性、機動性、防御力、汎用性が格段に上。水上に限り」

 

「まあそこはな。陸戦では、これまで通りの強化外骨格を使うさ」

 

「その事だけど、これを見て」

 

そう言って、レリックは机に何かの図面を広げ出した。見たところ、これまで霞桜で採用していた強化外骨格である。

 

「陸戦に、水上滑走機能はいらない。だから、オミット。整備性、上がる」

 

「てことは、全部改造すると?」

 

「改造は簡単。取るだけ。それに新型の強化外骨格は、これの上に着ける。試作した段階で、要求スペックの動きは出来なかった。だったら主機関を増やせば良い」

 

「.......つまり強化外骨格用の強化外骨格?」

 

「それで合ってる」

 

色々詳しく聞くと、どうやら新型の強化外骨格はかなりトップヘビーらしい。一応新型だけでも水上滑走とかは出来るが、霞桜の隊員達が普段行う戦闘機動には付いていけないらしい。そこで現在使用中の強化外骨格の上から重ね着するという、ハルクバスター的な発想でこれをクリアしたのだ。

 

「なんともまぁ、かなり無茶したな」

 

「これがその強化外骨格。正式名称は海戦型特殊装甲服シービクター」

 

「海の覇者か。良い名前だ」

 

シービクターと名付けられた強化外骨格は黒と赤茶色のツートンカラーであり、まるで軍艦のようなカラーリングである。見た目としてはこれまでの強化外骨格とは違い、全体的にゴツい見た目をしている。メットは完全密閉型で、口元にチューブもある。恐らく水中でも作戦行動ができるのだろう。

全体的にゴツいとは言えど、動き易い様に関節部分などは装甲が別に施され余り不自由なく動かせるだろう。だが足周りはこれまでとは違って、かなり色々付いている。特に目を引くのは、まるで戦闘機の後部を持ってきたかの様な構造をした2つのパーツである。

 

「シービクターは、これまで腰にあったジェットパックを外して、全部太腿に持ってきた。このパーツが、ジェットパックの代わり」

 

「まるで戦闘機だな」

 

「ラプターを元にした。間違いじゃない」

 

じっくりとシービクターを見てみるが、中々に強そうである。これがあれば深海棲艦と渡り合えるというのが、誰の目にもわかるくらいには強そうな雰囲気を醸し出している。

 

「専用武器とか装備も作ってある。見ていけ」

 

「へいへい」

 

シービクターの置かれている区画の更に奥に行くと、チカロフが椅子に腰掛けてタブレットをつついていた。恐らく、何かしらの研究か設計でもしているのだろう。

 

「あら指揮官。来たのね」

 

「あぁ。にしても凄いな、あのシービクターは」

 

「勿論よ。あの子は私達KAN-SENと、あなた達霞桜と艦娘の合作にして自信作よ?物凄く強力よ」

 

「そうだろうな。俺も工学を齧ってるから良くわかる。あれは、あのシービクターは優れた兵器だ」

 

「チカロフ。専用のも見せておきたい」

 

「はいはい、少し待ってて」

 

チカロフは少し奥に引っ込むと、大量の武器を抱えて持ってきた。どう見ても女性どころか人間が生身で持つ重さじゃないであろう兵器を、複数一気に持ってきている。流石KAN-SENと言ったところだろう。

 

「これがシービクター専用の装備よ」

 

「アサルトライフルに、スナイパーライフル、盾にナイフに、ミニガン風の分隊支援火器。で、何だこりゃ?パイルバンカー?」

 

「そうよ。威力は保証するけど、使い勝手はあんまり良くないわね。でも追加ブースターと水中スクーター機能もあるから、移動用には使えるわ」

 

この後、この専用装備達やシービクター本体の説明を受けた。そして最後に、レリックからの要望が出てくる。

 

「総隊長。これを、この演習中に試験できないか?」

 

「艦娘相手にやれと?」

 

「無理か?」

 

「.......お前、俺の性格知ってんだろ?流石に隊伍を組んで行ったら誤魔化せないが、俺1人ならどうにかなんだろ。5日目でやるぞ」

 

本来なら断るべきなんだろうが、こんな面白そうなおもちゃを前に我慢できるほど、長嶺は大人ではない。最初見た時から、早く戦場でぶん回してみたいと思っていたのだ。

という訳で艦隊対抗演習が始まる5日目で、急遽シービクターの実地試験が行われる事になった。相手をするのは呉艦隊より扶桑、山城、最上、矢矧、時雨、浜風、磯風である。因みに彼女達には、長嶺が出るなんて一言も伝えられてない。

 

「ねぇ山城。ここが、指定ポイントだよね?」

 

「.......その筈よ」

 

「周り、誰もいないね。遅刻かな?」

 

「演習に遅刻って、そうそうありますかね?」

 

「というか今回の演習相手、事前に伝えられていなかったはずだ。提督も詳しくは知らぬ様子だったし、何か行き違いが起きたのではないか?」

 

誰もいない事に艦娘達は首を傾げているが、いち早く矢矧が気付いた。目の前の上空に、何かいたのだ。

 

「正面!上空に何かいる!!」

 

「どこ!?」

 

次の瞬間、空の一部が剥がれ落ちる様にして装甲服を纏った人間が出てきた。手にはライフルを持っており、一目で今回の相手が目の前に浮いている奴だと分かる。

 

「諸君、君達の相手は私だ。好きにかかってこい」

 

「アンタ、艦娘でも例のKAN-SENでもないわよね?誰!」

 

「誰も何も、君達の敵役だ。それ以上でも、それ以下でもないよ山城。さぁ、好きな様に掛かってこい。願わくば、良い実戦データとならん事を」

 

「ぬかせぇぇぇぇ!!!!!」

 

まずは山城が装備している対空砲で弾幕を貼り、それに遅れて他の艦娘達も同様に弾幕を張る。だが、そんな適当な弾幕では長嶺は倒せない。

 

(う〜ん、分かっちゃいたけどウチのに比べりゃ、余りに弾幕の張り方がお粗末だ。なんか、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってーか、取り敢えず適当に撃っとけ感が凄い)

 

「最上!!戦闘機隊を上げなさい!!!!」

 

「うん!強風隊、発艦始め!!!!」

 

最上から水上戦闘機たる強風が飛び立つ。流石に空母の様に一気に発艦はできないが、それでもまあまあ早いスパンで8機上げてきた。

 

(お、戦闘機が来ましたねー。はーいそんじゃま、ポチポチッとな)

 

早速このシービクターの機能を試す。背中にマニュピレーターを簡素化した装置が標準搭載されており、後部に銃を乱射できる様になっているのだ。

 

「後ろ向きにも銃が撃てるのか!?」

 

「撃ち続けて!!弾幕を貼り続けなさい!!!!」

 

(精度も悪くないな。そんじゃ次は、全開戦闘でアイツらを沈めるか)

 

強風を落とした次は、お待ちかね艦隊への攻撃である。一気に高度を落とし、水上滑走に移る。

 

「浜風!磯風!時雨!防ぐぞ!!!!」

 

「僕も援護するよ!!」

 

「いい砲撃だが、こちらの速度に対応できていないな」

 

矢矧率いる水雷戦隊と最上が砲撃でこちらを牽制してくるが、シービクターの速力に対応できていない。だがそれは、長嶺も同じだった。

 

「おぉ!?はや!!」

 

結構速力に振り回されている。思ってたよりも早く、まだ慣れていないので動きがワンテンポ遅れてしまうのだ。だがそれでも、性能自体はかなり良い。訓練さえ積めば、霞桜の面々でも充分動かせるだろう。

 

「こっのーー!!!!」

 

「時雨!!早まってはダメよ!!!!」

 

「姉様!!」

 

「そう。焦りは禁物、常にクールにいかないと。でないと、こうなる」

 

速力に物を言わせて時雨の懐に飛び込み、そのまま首先にナイフを突き立てる。無論寸止めだが、これで時雨は脱落だ。

 

「次は君達、沈んでもらおうか」

 

今度は両腕に装備したシールドに内蔵された連装ミサイルランチャーから対艦ミサイルを発射し、残る水雷戦隊と最上に食らわせる。軽巡相当であれば一撃で倒せるが、流石に重巡の最上までは倒しきれない。

 

「くっ.......いったいなぁ.......」

 

「なら退場して医務室へどうぞ」

 

ライフルで頭に1発、綺麗に叩き込む。残るは扶桑と山城なのだが、ここで江ノ島鎮守府から通報が入った。曰く、深海棲艦の一団が近海に現れたらしい。数は少なく、ヲ級と重巡戦隊、水雷戦隊程度だそうだ。

 

「これは、テストどころじゃないか。山城、命令だ。指揮権をこちらに譲渡してもらうぞ」

 

「はぁ!?何処の馬の骨とも知れない奴に渡す訳ないでしょ!!!!そもそもアンタ何者よ!!」

 

「山城、すこし落ち着きなさい。しかし、あなたは一体.......」

 

「悪いな機密事項に付きお答えできない。まあそうだな、後で風間提督にこう言ってみろ。『霞深き桜を見た』と」

 

「霞深き桜?」

 

この場でシービクター脱ぎ捨てられたら、どんなに楽だろうか。一応これでも秘匿部隊である以上、おいそれと素顔を晒したり正体を明かす訳にはいかない。

 

「山城!アレ!!」

 

時雨が指差す方向には、30機ばかしの艦載機が飛来していた。

 

「あっちゃー、もう来ちゃったか。最上ー、さっきの強風出せるか?」

 

「う、うん!出せるよ!!」

 

「よーし、なら出しちゃってくれ。それから最上、扶桑、山城は三式弾装填。合図したら撃て。それから適当に撃って、空を賑やかに彩れ。

矢矧指揮の水雷戦隊は、俺の言う通りに撃て。大丈夫だ、お前達が対深海棲艦戦闘のプロなら、俺は戦争の王者だ。勝てる」

 

全員訝しんではいるが、問題はない。例え訝しんでいようと、この程度の命令であれば提督は艦娘の意思に関係なく強制的に従わせられる。提督が妖精が見える者でなければならないというのは、この能力に関係しているのだ。艦娘は妖精と意思疎通し、艤装を動かさせたり航空機のパイロットとして使う事ができる。

これは提督も同じであり、艦娘を飛び越えて妖精に命令する事ができるのだ。ただし艦娘でなければ十二分に妖精の能力は引き出せないので、基本的には日頃の業務、例えば工廠とか入渠とか補給とかの職務中にしか使わない。だが戦闘中、緊急時にも使えたりする。なのでこういう風に艦娘が従わずとも、提督であれば艦娘をコントロールできるのだ。これが妖精が見える者しか提督になれない理由である。まあ見ての通り厳密には普通の一般人でもやろうと思えば出来るのだが、流石に反乱でもされた時に抑えられなくては国が滅びかねない以上、この手の安全策を設けるのは当然だろう。因みに長嶺の場合、反乱したら力尽くで捩じ伏せるタイプなので、戦場でこの能力使ったの何気に初めてである。

 

「艤装が勝手に!」

 

「もしかして、提督なのか!?」

 

「でも何処の提督ですか?」

 

「来るぞー」

 

次の瞬間、艦載機達が一気に高度を下げてきた。どうやら勝負は初手で決めたいらしい。

 

「水雷戦隊、投弾前の雷撃機を狙え!!水面を撃ち、水飛沫も利用するんだ!!扶桑、山城、最上は爆撃機の真ん中を狙え!!投弾タイミングをズラす!!!!それから回避行動は各自、自由に取れ!!!!攻撃開始!!!!!!!」

 

長嶺の指示は平々凡々な物であり、別に艦娘だけでも下すであろう指示だった。だが、この後が違った。

 

「堕ちろ!!!」

 

「磯風!弾道をずらす、その諸元をキープ!!」

 

「矢矧、仰角+0.6、方位まま!!時雨、仰角まま、方位039!!」

 

撃った砲弾に自らのライフル弾を当てて弾道をずらして敵に当て、指定された方角に撃てば機体に砲弾が跳弾したり破片が別の機体に当たって、ダブルキルやトリプルキルが出来ていた。こんな人間業から離れた指揮を受けていると、いつの間にか航空隊は殲滅できていた。

 

「あんなの、人間業じゃない.......」

 

「山城、気持ちはわかるけど、今は敵艦隊の迎撃が先決よ。落ち着きなさい」

 

「.......はい、姉様」

 

「よーしお前達、よく耐えた。撤収だ」

 

まさかの発言に全員が驚いた。てっきりこのまま迎撃に行くのかと、そう考えていたのだ。だが長嶺はこう続けた。

 

「現在こちらに、江ノ島の艦娘とKAN-SENが急行している。彼女達に任せる。こっちはそもそも演習中だったんだ、実弾の携行数的に、流石に敵陣に突っ込むわけにはいかんよ」

 

「でも、それじゃ深海棲艦が.......」

 

「あんまり江ノ島を舐めてもらっちゃ困る。アイツらは1人1人が、文字通りの精鋭だ。駆逐艦1隻で一個駆逐隊、軽巡なら水雷戦隊、重巡なら一個戦隊、戦艦と空母にもなれば一個艦隊も同義。たかが深海棲艦一個艦隊如き、瞬く間に殲滅する」

 

江ノ島鎮守府は初の深海棲艦への反攻作戦を行った部隊である以上、その象徴として精鋭である必要がある。元はそれだけだったが、いつの間にか世界最強の軍団を目指すようになっていった。生まれてこの方、常に戦場に身を置いていた挙句に実質神からの祝福も受けている長嶺が演習を観察し、個人にあった訓練メニューの作成やアドバイスを続ける事により、いつの間にか全員が一介の艦娘やKAN-SENという枠を逸脱しているのだ。

 

『こちらイラストリアス。敵艦隊は殲滅、全て倒しましたわ。周囲に敵影なし、帰還いたします』

 

「ほらな?」

 

流石にこうなると、もう何も言えない。全員、江ノ島へと帰還した。帰還後、山城は例の『霞深き桜』の事を、風間に伝えてみた。

 

「霞深き桜というのをご存知ですか?」

 

「霞深き桜?.......かすみ.......さくら?.......あぁ、そういうことか。うん、一応知ってるよ」

 

「何者なんですか?」

 

「何者ねぇ。何者なんだろうね彼は。文字通りの化け物で、でも優しくて、でも苛烈で。無茶苦茶でチグハグだけど、良い奴さ。それに、味方だよ。大丈夫、心配しなくていい」

 

あまりに答えがフワフワしすぎていて、更に聞いてみるがのらりくらりと躱されてしまい、結局答えは聞けなかったという。

 

 

 

 

 

 

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