最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

84 / 130
第七十九話作戦前夜

演習終了より1ヶ月後 江ノ島鎮守府 パーティーホール

『マイクチェック音量大丈夫?チェック1、2。それではこれより北方海域攻略作戦『ペルーン作戦』の、決起集会を開会致します。提督、登壇!』

 

あの演習から早い物で1ヶ月が経った。明日には作戦がいよいよ始動し、参加する艦娘とKAN-SEN達は明後日の08:00に抜錨予定である。参加航空隊も明日には釧路基地へと、長嶺と共に向かう予定だ。

 

『おーい霧島ー。もうちょい気楽な感じでいいぞー』

 

『あ、そうですか?』

 

『決起集会なんて大層に名を打っちゃいるが、今日は実質の所はパーティーだぜ?硬いの無し、気楽に行こう。とは言え、今からはちょっと真面目に行くからしっかり聞いとけお前達。

本作戦は知っての通り北方海域への反攻作戦であり、初の鎮守府合同で行われる。その為、いつもの江ノ島鎮守府のみでやるのとは訳が違う。例えば通常は戦場を共に駆け回る霞桜は、この作戦では極秘戦力として緊急時と決戦時にしか投入できない。理由は勿論、接触を最低限に抑える事で要らぬリスクを負わない為だ。KAN-SENについては、最早『特殊な艦娘。通称KAN-SEN』が既成事実と化している。こちらは普通にやってもらって構わん。

またいつもなら最前線で大暴れする俺も、今回ばかりは連合司令長官として釧路基地に詰めなくてはならない。という訳で今回は安全な遥か後方から、フカフカの椅子にふんぞり返って顎でお前達をコキ使う。おぉっと、狡いとかウザいとか言って俺に砲弾撃ち込んでくれるなよ?特に艦娘の瑞鶴&天龍!!』

 

「はぁ!?」

 

「何でオレたち名指しなんだよ!!」

 

『えー。だってお前達、普通に爆撃とかぶん殴るとか言うじゃん。俺嫌だよー、吹っ飛ばされるの』

 

思わぬタイミングで思わぬ所に飛んでいった矛先に当たった、憐れな瑞鶴と天龍は文句タラタラである。だが周りは大笑いしていて、翔鶴と龍田から更にイジられる始末。掴みはこれでいいだろう。

 

『さーて、話を続けるぞ。この作戦は大きく分けて四段階だ。第一段階、遊撃艦隊による陽動攻撃。第二段階、海上自衛隊、航空自衛隊によるミサイル飽和攻撃。第三段階、我々江ノ島艦隊による敵陣への切り込み。第四段階、陸上自衛隊による島嶼部解放作戦。まあ四段階とは言ったが、最後の第四段階に関しては基本はノータッチだ。あきつ丸等の一部が関わるが、基本は別艦隊が対応する事になっている。

艦隊各艦の割り振りについては既に知っての通りだ。あ、そうそう。作戦中は距離にもよるが、航空支援が受けれる様にはなっている。もしヤバくなったら、積極的に使ってくれ。以上、後は騒げ野郎共!!!!!!!!』

 

待ってましたと言わんばかりに、全員が一斉に酒や料理に手をつけ始める。開始15分もすれば艦娘の赤城と加賀の爆速大食いショーが始まり、更に30分経てば霞桜の宴会芸が始まる。最初は皿回し、ジャグリング、ブレイクダンス等の軽めだが、2、3時間もすれば竜神チャレンジを筆頭とする常人には危険すぎる余興が始まる。

この頃になると元テキ屋系のおっさん共が輪投げやら射的やらのセットを手早く設置して即席縁日で駆逐艦達を喜ばせ、もう少し大人向けの遊戯として勝手にポーカー台やら雀卓やらルーレット台やらを設置してゲームが始まる。と言っても、参加者にチップを一定数配分して誰が一番多くチップを入手するか競うだけで金は一切絡んでいない為、賭博ではない。

かなり危険というか特殊というか少なくとも普通なら警察とかの介入案件だが、ここはアウトサイダー共が集う江ノ島鎮守府。今更である。

 

「提督、貴様もやって行くか?」

 

「丁半博打か。やるか長門!」

 

「ふっ、望む所だ!!」

 

本当なら見るだけのつもりだったが、誘われたらやるしかない。という訳で長嶺、ギャンブル大会参戦である。

 

「お、大オヤジが参戦ですかい?」

 

「振りはワーモ、胴元はチャンプで中盆はクザンか。中隊長勢揃いだな」

 

チャンプにチップを渡して木札に替えてもらい、座布団の上に座る。参加者は長門と長嶺の他、艦娘から那智と隼鷹。KAN-SENからは伊勢と日向である。

 

「ピンゾロで入ります.......」

 

ワーモがツボと賽を持ち、勢いよく賽をツボに投げ入れて畳の上に叩き置く。少し揺らして真ん中に置くと、即座にクザンが声を上げる。

 

「さぁ張った張った!!!!丁方ないか丁方ないか!!半方ないか半方ないか!!」

 

「丁」

「半」

「半」

「丁」

「丁」

「半」

 

長門、那智、伊勢が丁。長嶺、隼鷹、日向が半である。因みに今更ではあるが、簡単に丁半賭博のルールを説明しよう。2つのサイコロを振って、出た目を足した数が偶数か奇数か当てるゲームである。偶数が丁、奇数が半と言われている。

 

「丁半出揃いました.......。勝負、ハッ!!」

 

出ていた賽は4と5。足して9、奇数である。

 

「グシの半!!!!」

 

「お、幸先いいな」

 

「ちぇっ、指揮官の勝ちかよ」

 

「司令官の勝負運は強いらしいな」

 

ここから長嶺の無双が始ま.......らなかった。実は長嶺、意外と弱いのだ。戦争とかのギャンブルは大勝ちするが、逆に普通のギャンブルは普通か、それよりも弱い。今の所10連敗中で、逆の意味でGACKT様化してしまっている。

 

「お、驚いたな。まさか提督がここまで弱いとは.......」

 

「まあな。俺の強さはイカサマにこそ発揮される」

 

「は?」

 

「別にギャンブルに勝つ(・・)っていうのは、俺はそれこそ戦闘と同じ様に負け無しの最強だ。だが正々堂々の運ゲーギャンブルは、普通に弱い訳よ。例えばそうだな、客同士のポーカーとかなら勝てるが、こういうのは無理だ」

 

勝ち方さえ拘らない、つまりイカサマ有りなら長嶺は勝ちも負けも勝ち方も勝たせ方も負けさせ方も全て思い通りに操れる。だがあくまでこれは、みんなで楽しくやろうというゲーム。ズルをする訳にはいかない。

 

「そうだな、面白いのを見せてやろう。ワーモ、賽とツボを貸してくれ」

 

「?えぇ、どうぞ」

 

「それじゃ、お前達。今から俺は、ピンゾロの半をだしてやる。見てろよ」

 

長嶺は普通に賽をツボの中に投げ入れて、勢いよく畳の上に叩き付ける。さっきまでのワーモのやり方と、なんら変わらない普通のツボ振りだ。だがツボを開けてみると、賽は2つとも1を出していた。

 

「す、スゲー!!」

 

「こんな事ができるのか!?」

 

「マジっすか大オヤジ!!!!」

 

「サイコロ自体に細工をする事もあるが、振り方とツボの置き方で中を操れる。これは単純に俺の技術だから、イカサマという訳でもない。面白いだろ?」

 

その後も同じ様にやって見せた。宣言通りの賽の目を出し続け、ゲームを意のままに操れる事を証明してしまったのだ。相変わらずのチートっぷりである。

 

「こりゃ大オヤジをツボ振りにした日には、賭博が成立しなくなるな」

 

ツボ振りの気分次第で勝ちも負けも自由自在だと言うのなら、掛け手と振り手がグルになれば幾らでも儲けられる。というかそもそも、ギャンブルでこの手のイカサマはゲーム性そのものが崩壊する。

 

「はいはい成立しようがしまいが、今日はもうお開きだ。明日は早いんだから、もうそろそろ片付けろー」

 

「えー!!そりゃないっすよ!!!」

 

「そうだよ提督!!夜はまだまだこれからだよ!!!!!」

 

「オーライ夜戦ニンジャ、時計を見ようか」

 

「23時!!!!まだ夕方だね!!!!!!」

 

「な訳あるか!!夜!!!!Night!!!!!!Evening!!!!!!!」

 

流石、夜戦ニンジャの川内。時間感覚がバグりまくっている。いくら生活習慣が乱れに乱れ、ニートやって昼夜逆転してる様な奴でも23時を夕方呼ばわりする者はいない。

 

「もう姉さん!!!!提督を困らさないでください!!!!!」

 

「えー!!」

 

「川内、明日からの作戦で夜戦は幾らでも出来る。今は一度休むんだ。明日からの夜戦、好きなだけ暴れるためにな?」

 

「そういう事なら大人しくしてるよ!」

 

幸いなことに、川内は意外とチョロい。こういう風にメリットを言えば、大体従う。暴走はするが、手綱は握りやすい方なのだ。

 

「あー、オイゲン!」

 

「何かしら?」

 

「後で部屋に来てくれ。話がある」

 

「はいはい、分かったわ」

 

長嶺はオイゲンに用件を伝えると、そのまま自室へと戻った。普通なら風呂なりシャワーを浴びるだろうが、今夜の長嶺は少し違った。今夜は満月なのだ。今日は眠らない。眠ってしまえば、悪夢を見てしまうから。

 

「来たわよ雷蔵。それで、何の用かしら?」

 

「あぁ。お前にコイツを、預けておきたくてな」

 

「これって.......」

 

「俺なりの保険だ。使わなければそれで良し。だが何かあった時の為に、こういう風に対策しても問題はないだろ」

 

「でも指揮官。今回は江ノ島以外の鎮守府が一線級の艦娘を出しての合同攻略作戦で、それを見られるのはヤバいんじゃないの?」

 

長嶺は静かにタブレットのロックを解除し、とあるデータをオイゲンに見せた。画面には何かの波形が映っており、右側に行くに連れて波形の振れ幅が大きくなっているのが分かる。

 

「これは?」

 

「今回の作戦海域周辺で観測された、海底の振動を計測した物だ。コイツを見て欲しい」

 

今度は複数の波形を見せられたが、まず上のグラフが左から右に波形のピークが移動して行っている。右まで行き着くと、今度はその下のが同じ様に動いている。まるで何かが移動している様だ。

 

「分かるだろ?恐らく深海で、俺達の知らない何かが動いている。この波形は地震や海底火山の爆発といった、自然現象による振動ではない。確実に人為的な物だ。質量は原子力潜水艦以上で、速力は凡そ80ノット程度と推測されている。当然だが、人類に80ノットを出せる原子力潜水艦以上の潜水物は存在しない。恐らく深海棲艦だ」

 

「深海棲艦と呼ばれる理由は、確か深海から出てくるのよね?」

 

「あぁ。深海の奥底、人類が手を出せない程の海底に深海棲艦の本拠地があると姫級2人からも聞いている」

 

深海棲艦は不思議な物で、海の中、深海で住むことは出来るが水中から攻撃はできない。例え姫級でも潜水艦タイプでなければ、水中から攻撃は仕掛けられないのだ。精々、触手を海中に突っ込んで潜水艦を直接攻撃したりである。

 

「その謎の深海棲艦が出てくるかもしれないって訳ね?」

 

「あぁ。それにその謎の深海棲艦、俺は心当たりがある」

 

「なんですって?」

 

「お前達と出会う前、江ノ島鎮守府が一度襲撃された事がある。その時に俺は深海棲姫と呼ばれる、深海棲艦を束ねる存在と戦って負けた。恐らく、その深海棲姫様がお出ましになられたのだろうよ」

 

深海棲姫とかいう存在よりも、長嶺がその深海棲姫に負けた事にオイゲンは衝撃が隠せなかった。オイゲンの中での長嶺とは、世界最強の凡ゆる戦闘に対応する戦闘マシーン。そんな風に考えており、実際そうである。故に負けるという想像ができないのだ。

 

「あ、負けたっ言ってもそれは人間としてだ。当時は神授才はおろか、艦娘の力も大っぴらに使えない時でな。その前に実は神授才を久しぶりにこっそり使ったんだが、アーマー無しで威力高い技を放った後でヘロヘロだった。そこに現れたもんだから、殆どもてなさず一方的にやられたんだよ」

 

「にしたって驚きよ。分かったわ。一応その深海棲姫って存在のことは、頭の片隅にでも入れて置くわ」

 

「あぁ、それで良い。もしかしたら何もせずだったり、或いはそもそも波形自体が別の物の可能性すらある。用心はして欲しいが、余り気にしなくてもいい」

 

オイゲンは長嶺からの預かり物を受け取ると、そのまま長嶺のベッドへと飛び込んだ。

 

「.......何してるの?寝るわよ」

 

きょとん顔でそう言ってくるオイゲン。だが流石に今夜ばかりは「はい寝ましょう」とはならない。先述の通り、今宵は満月。長嶺にとっては悪夢の夜なのだ。

 

「あ。もしかして、決戦の前に火照りを鎮めたいのかしら❤️?」

 

そう言いながらオイゲンは、自身のショーツを少しずつ脱ぎ出す。「違うそうじゃない」とツッコむと、ようやく長嶺が寝れない理由を察してくれたらしい。

 

「.......まだ満月は苦手なのね」

 

「流石にな。もう割り切れてはいるし、アイツらが死んだのも受け入れている。だがそれでも満月の夜は嫌いだし、寝れば悪夢を見る。少し前に俺の過去を話したが、あの後に眠ってみてもやっぱり悪夢を見て終わった。多分、これは一生治らんな」

 

「そう。なら、私が一緒に寝てあげるって言ったら?」

 

「なに?」

 

オイゲンが言うにはこうだ。これまで長嶺はずっと1人ぼっちで満月の夜に眠っており、添い寝をすれば大丈夫なんじゃないかと、そう提案してきたのだ。

 

「.......ダメで元々、試してみるか。よし、シャワー浴びてくる」

 

手早くシャワーを浴びて、いつもの部屋着に着替えるとベッドに寝転んだ。いつもの様にフカフカのベッドなのだが、何処か恐ろしさを感じてしまう。

 

「それで、私はどういう風にしたらいいかしら?何もせず横にいたら良いか、それとも後ろから抱き着いて欲しいか。他に要望があれば、好きにしてくれて構わないわ」

 

「.......なぁ、オイゲン。俺はこれまで、お前含め江ノ島の家族の前では常に堂々としていた。お前の前でも常にそうだったと思ってる。だが今夜だけは、お前に存分に甘えても良いか?」

 

「え、えぇ。勿論よ!」

 

オイゲン、平静を装っているが心臓バックバクである。いつも「立てば皆の灯台、座れば最強要塞、歩く姿は誰もが慕う英雄のソレ」と言わんばかりの完璧超人で皆が頼りにする男が、自分の目の前で弱気で塩らしい姿を見せている上に上目遣いまでセットと来た。心臓が鳴りすぎて心停止しそうである。

 

「俺と向き合う形で、お前を抱きしめながら眠りたい.......」

 

「えぇ、分かったわ。.......えっと、こんな感じかしら?」

 

オイゲンは長嶺と向き合い、そのままぎゅっと抱きしめたい。長嶺も同じ様に抱きしめる。

 

「なんか、まるでお互いを抱き枕にしているみたいね」

 

「抱き枕は睡眠効率を上げるらしい。お前が俺の抱き枕なら、安眠間違いなしだろうな。尤も、今夜だけはその限りじゃないかもしれないがな」

 

オイゲンは気付いた。長嶺が少し、震えているのだ。これまで弱った姿なんて一度も見せず、不測の事態が起きてもアタフタする事はあっても常に堂々としてして、どんな事が起きても笑顔を浮かべ、常に皆の先頭を歩いている長嶺が、震えているのだ。

その姿にオイゲンも、なんとも言えない哀しみが襲ってくる。何に対したかは分からない。長嶺への同情か、或いは何もできない自分への悔しさか。それは分からないが、どういう訳か哀しかったのだ。

 

「おやすみ、オイゲン」

 

「えぇ、おやすみなさい雷蔵」

 

まず第一関門の眠れるかどうか。取り敢えず、眠れはした。安心できたのか、ものの15分で意識は落ちた。だが第一関門を突破しても、問題はその後。悪夢を見なくて済むかどうかだ。

 

 

 

翌朝 江ノ島鎮守府 長嶺自室

「.......んぅ」

 

翌朝の07:00、長嶺は目が覚めた。いつも通りの自室の天井。周りを見渡せば大きな窓から朝日が差し込んでいて、反対側を向けばオイゲンの白銀の艶々とした髪が輝いている。あの寝起き独特な感覚である、夢の中にいる様な夢を見ていた様なという不思議な感覚はあるが、少なくとも夢を見ていた記憶は今回ない。

 

「..............添い寝パワー、効果あった」

 

「らいぞう.......?」

 

「おぉ、オイゲン。スゲーよ、添い寝パワー効果あったわ。悪夢見てない。ベッドインしてから今起きるまで、俺記憶ねーもん」

 

「よかったじゃない。愛の力ってヤツかしらね?」

 

「あぁ。スゲー、スゲーよ!」

 

もうなんだかんだ10年以上悩んできた、あの悩みから解放されたのだ。今回はたまたまだったのかもしれないが、それでも長嶺にとっては大きな前進なのだ。何せ、これまで常に戦い続けていた長い戦いに終わりが見えたのだから。

これまで月に1回は、悪夢を見ていた。あの戦場で命を落としていく親友達の姿と、その断末魔、或いは彼らからの呪詛を見聞きさせられ続けられるのだ。霞桜や艦娘とKAN-SENと出会ってから、大事な家族達が死んでいく姿も見ている。火に飲まれ、砲撃でバラバラになり、切り刻まれ、目の前で死んでいく。断末魔の悲鳴や長嶺の名前の叫びを聞き、例え耳を塞いでも貫通して聞こえてくる。文字通り、地獄なのだ。

 

「ふふ、また一緒に寝ましょ?」

 

「あぁ。というか、お前と寝たら寝られなくなる気がするんだが.......」

 

「あら、もしかしたら遅刻かもしれないわよ?」

 

朝になると男は大きくなる物だ。そこを指差してジェスチャーをしてくるが、生憎と今日は釧路基地への移動がある日。おっ始めるわけにはいかない。

 

「それ、今日以外で言って欲しかったわ」

 

「今日は大変だものね。まあ良いわ。残念だけど、朝食にしましょ?」

 

本日の朝食はオイゲンの作った卵サンドとコーヒーという、朝食としては極々普通の一般的な物である。そして味も普通に美味い。だが1つ問題がある。

 

「なぁオイゲン」

 

「何かしら?」

 

「このサンドイッチは美味いし、コーヒーも豆から淹れた本格派で極めて美味。天気も晴れていて、おまけに食卓を愛する美女と囲めるというのはな、男の描く理想像としてはこの上なく完璧な朝だ。だがな、1つだけ欠点がある。お前、なんで裸エプロンなんだよ!!しかも裾丈の短いヤツ!!!!!!」

 

そう、今のオイゲン の姿は裸エプロンなのだ。しかも裾丈が短いので太腿見えるし、というか捲れば普通に見える。でもって胸も大きすぎて結構ギチギチに詰まっており、なんかもう普通に溢れてる。さっき朝からおっ始めると不味いと言ったのに、おっ始めたくなる格好をしているのだ。もう目に毒を通り越して、猛毒とか硫酸レベルのダメージである。

 

「えー?良いじゃない。だってこれ、かわいいんだもの」

 

「確かにかわいいデザインよ!?黒に赤いラインでお前のイメージカラーで、似合ってもいるよ!!でもな、我慢するこっちの身にもなってくんない!?!?」

 

「あら、解放しちゃえば?」

 

「それができねーからキツイんだよ!!!!!!!」

 

朝っぱらから夫婦漫才開幕だ。恐らくオイゲンとしてははもっと煽りたいのだろうが、本当におっ始めて遅刻するのはプロとしての矜持が許さない。おふざけはこの位にして、さっさと朝食を食べ終えるとオイゲンも最後の準備に入るべく部屋へと戻っていった。

 

「さて.......」

 

長嶺も同じく準備に入る。そんな時、不意にあの写真が目に入った。かつて親友達と撮った最後の写真。写真立ての写真には自分しか写ってないが、裏っ返せば3人の親友達も写っている写真と、彼らのドッグタグが入っている。

 

「.......お前達はなんだかんだ言って、懐が広かったよな。その懐の広さを見込んで、どうか頼む。彼女達を。俺の家族達を。護ってやってくれないか?」

 

返事が返ってくる訳がない。だが、きっとこの願いが聞こえたのなら彼らは、長嶺が「親友」と呼んだ彼らなら必ず護ってくれる。

長嶺は写真立てを所定の位置に戻すと、自室を出て飛行場へと歩き出す。飛行場には既に、釧路基地へ向かう為に10機のC2輸送機が待機していた。

 

「お前達、留守は任せるぞ」

 

「はい、お任せください。提督、どうかお気を付けて」

 

「あぁ。そうだ、勝利を収めて凱旋する時、大量の飯と酒で出迎えてくれ」

 

「ふふふ、分かりましたよ提督。腕によりをかけて、用意しておきますね」

 

この作戦中、例えばアイオワやサラトガ、扶桑&山城の様に他鎮守府とダブる艦娘は江ノ島の守護を命じている。例え攻略作戦中の戦闘の真っ只中、江ノ島が別動隊に襲われても距離がここまで離れていたら、あの艦娘の力が使えなくなる現象も発生しない。

 

「提督、準備完了しました」

 

「よーし!では江ノ島艦隊、出撃するぞ!!!!!」

 

まず飛び上がったのはメビウス中隊のF22ラプター8機。その後にグレイア隊のF3心神とカメーロ隊のF3Aストライク心神が続き、最後に艦娘とKAN-SEN、それから艤装の類いを載せた10機のC2が飛び立つ。

各機は編隊を組んで釧路基地を目指すのだが、その隣に彼らがやってきた。留守番組のグレイア隊とレジェンド隊の戦闘機である。見送りにやってきたのだ。

 

「提督殿!」

 

「なんだパイロットさん」

 

「アレ、そちらのお仲間じゃありませんか?」

 

「あ、ホントだ。見送りとは粋な事をしてくれる」

 

見送りの機体は編隊に横付けすると宙返りやロールを繰り返し、思い思いの見送り方で見送ってくれた。ならばこちらも、何か返さなくてはならない。

 

「う〜ん.......。あ、そうだ」

 

「何か思いつかれたので?」

 

「お構いなく〜」

 

空自のパイロット2人に適当な事を言って、長嶺は貨物区画に降りた。そしてこの機体に載せている、江ノ島鎮守府の巨大旗を持ち出す。

 

「提督、どうかしたの?」

 

「うん?まあ、そうだな。手を振りに行ってくる」

 

艦娘の鈴谷の質問に答えながら、長嶺は機体横のスライドドアを開けて屋根に攀じ登った。まさかの出来事に、後続の輸送機パイロット達から長嶺座乗の機体に無線が飛ぶ。

 

『1号機!!そっちの機体、提督が屋根に攀じ登ってるぞ!!!!』

 

「はい?いやいや、攀じ登ってる訳ないよ。物理的に不可能だろ?映画じゃあるまいし」

 

一応副機長が貨物区画に確認に行くと、案の定鈴谷から「提督なら屋根に登ったよー」という答えが返ってきて2人は大慌てである。だが長嶺はそんな事はつゆ知らず、屋根に登り切ると旗を広げた。

大空に江ノ島鎮守府の旗が翻る。本来なら霞桜の旗とかアズールレーンの旗とかも掲げておきたいところだが、流石に部外者たる空自のパイロットがいる目の前でやるのは色々不味い。というかもう既に屋根に攀じ登ってる事がヤバいのだが、もうそこは後から誤魔化すので問題ない。まあぶっちゃけ、物理的に全部の旗を掲げるのは無理があるのでやるつもりはなかったが。

 

「おいアレ!!!!」

 

「提督だぞ!!!!!」

 

「俺達の見送りに答えてくれてんだ!!!!」

 

カメーロ、レジェンド両隊は長嶺の周りで再度編隊を組み直すと、翼を一斉に翻して鎮守府へと帰還していった。それから1時間ほどして、C2の編隊は釧路基地へと着陸。艦娘とKAN-SENは艤装搬入作業に入り、長嶺は基地の会議室へと向かった。

 

「失礼、長嶺長官でありますか?」

 

「えぇ、そうですよ」

 

移動の最中、長嶺は陸自の士官に声をかけられた。階級章は大佐を示しており、胸には空挺とレンジャーの徽章が輝いている。しかもこの士官、顔を目出し帽で覆っている。十中八九、特殊作戦群の人間だ。

 

「私、本作戦の特殊作戦群に於ける隊長を務めます、本郷大佐であります。軍神、長嶺長官と共に戦場をかけるのは我が隊の誇りであります」

 

「それはどうも。にしても、特戦群を引っ張り出すとは」

 

「やはり意外でしたか?」

 

「そりゃそうでしょ。幾らレンジャーと空挺を超える精鋭と言えど、そちらの本業は対テロ戦闘。こんな作戦に出張ってくるとは思いませんでしたよ」

 

「長官の仰る通りです。しかし我が隊、遅れを取るつもりはありません!深海棲艦であろうと、勝利をご覧に入れましょう」

 

本郷と名乗る男、決して悪くない男だろう。熱血漢ではあるが、意外とこういうタイプの方が人が付いてくる。しかし一方で、深海棲艦との戦闘には少々舐めている部分がある様だ。

 

「では、本郷大佐。対深海棲艦戦闘のプロとして、1つアドバイスしておきましょう。もしヤバいと思う存在に遭遇した際は、すぐにお逃げなさい」

 

「そんな敵がいると?」

 

「無論です。それにさっきも言った通り、そちらの任務は対テロ任務。こういう類は、専門家達(・・・・)にお任せなさい」

 

「ご注告、肝に銘じておきましょう」

 

本郷は専門家達というのを艦娘だと思っているが、長嶺の言う専門家達とは霞桜の面々である。彼らは既に、今回の作戦で江ノ島の補給拠点が設営される無人島に拠点を設営しているのだ。

 

「.......今回ばかりは、何も起きない事を祈るばかりだな」

 

長嶺は会議室へと歩き出す。では最後に今回参加する江ノ島艦隊の陣容を、簡単にご紹介しよう。

 

《戦艦》

大和、武蔵、長門、陸奥、金剛、比叡、榛名、霧島、Conte di Cavour nuovo、Colorado、Maryland、South Dakota、Massachusetts、Washington、Nelson、Rodney

《空母》

赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴、雲竜、天城、Intrepid

《軽空母》

千歳、千代田、鈴谷、熊野、隼鷹、飛鷹、Gambier Bay Mk.II

《重巡》

高雄、愛宕、妙高、羽黒、筑摩、Northampton、Tuscaloosa、Houston

《軽巡》

球磨、多摩、北上、大井、天龍、龍田、五十鈴、名取、川内、神通、那珂、Abruzzi、Garibaldi、Brooklyn、Honolulu、Atlanta、Gotland andra、Perth

《駆逐艦》

吹雪、叢雲、睦月、如月、望月、弥生、皐月、文月、長月、菊月、神風、春風、旗風、暁、雷、電、ヴェールヌイ、夕暮、村雨、夕立、海風、峯雲、天津風、浦風、萩風、夕雲、長波、早霜、照月、島風、Johnston、Fletcher Mk.II、Heywood

《潜水艦》

伊19、伊58、伊26、伊8、伊58

《水上機母艦》

瑞穂、秋津洲

《補給艦》

神威

《揚陸艦》

神州丸、あきつ丸

《潜水母艦》

迅鯨、長鯨

《工作艦》

明石

 

《航空隊》

メビウス中隊、グレイア隊、カメーロ隊

 

《KAN-SEN》

全艦艇

 

《霞桜》

全部隊

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。