最強提督物語〜大海原を駆ける戦士達〜   作:鬼武者

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第八十話ペルーン作戦

数分後 釧路基地 会議室

「よう比企ヶ谷」

 

「長嶺提督、お疲れ様です」

 

「別に今くらい普通でいい。ってか、お前から敬語使われたら気持ち悪い」

 

「.......俺に対するパワハラって事で、防衛省の相談窓口に通報するか」

 

「俺がそんな事で止まるわけないだろ?」

 

目の前の男なら、国が立ち塞がっても普通に止まらないだろう。国連の様な国家の連合体を持ってしても、おそらく堂々と我が道を行くタイプだ。

 

「お前、ホントブレないな」

 

「伊達に軍人やってないんでな」

 

「にしても今回は、自衛隊の人間もいるんだな」

 

「あぁ。特戦群もいるからな」

 

「特戦群?」

 

どうやら比企ヶ谷、特戦群を知らないらしい。一応これでも海軍の指揮官に名を連ねる、歴とした高級将校なのだから知っていて欲しかったが、研修も基本的に海軍のことと簡単な自衛隊との協働任務についてしか話さなかった。仕方がない。

 

「特殊作戦群。自衛隊の特殊部隊だ」

 

「自衛隊に特殊部隊っていたのか!?」

 

「あぁ。特殊作戦群はその中でも特に機密性が高い部隊で、装備も人員も任務も非公開だ。一応表向きは対テロ任務部隊って事になってるが、海外に極秘裏に派遣されることもしょっちゅうだ。偶に紛争地域からの引き上げとかで、自衛隊が法人保護に出動するだろ?アレにもついて行ってる」

 

聞く人が聞いたら憲法違反だなんだと騒ぎそうな話だが、ここで1つ疑問が浮かんだ。何故、特殊作戦群という特殊部隊とは言え対テロとかの任務を担当する部隊が、この北方海域制圧に投入されるのだろうと。

 

「本作戦に於いて、彼らには陸上型深海棲艦との戦闘を担当してもらう。お前も戦車型の話は知ってるだろ?」

 

「.......あぁ。千葉の戦いで初確認された、新種の深海棲艦だろ?」

 

「その戦車型の調査が彼らの目的だ。空自と海自は、まあいつも通りだ。彼方さんの持つ通常兵器戦力も、無駄に数の多い雑魚艦掃討には一定の効果が得られる。流石に姫級とか重巡以上ともなると無効武力だがな」

 

暫く雑談していると、会議の時間となり色々と今作戦に於ける確認が行われた。

 

『それでは会議の方に移らさせて貰います。本作戦の第一段階、艦娘部隊による陽動攻撃については以下の艦隊にて行われます。お手元の資料にてご確認ください』

 

資料には第一遊撃部隊、第二遊撃部隊、第三遊撃部隊の陣容が書かれていた。

 

第一遊撃部隊第一部隊

戦艦『伊勢』『日向』

重巡『三隈』

駆逐艦『岸波』『沖波』『藤波』『浜波』

同・第二部隊

重巡『足柄』『那智』

軽巡『阿武隈』

駆逐艦『春雨』『五月雨』『山風』『潮』『曙』『朧』『漣』

同・第三部隊

戦艦『扶桑』『山城』

重巡『最上』

駆逐艦『時雨』『朝雲』『山雲』『満潮』

 

第二遊撃部隊第一部隊

戦艦『金剛』『榛名』

重巡『高雄』『愛宕』『雲仙』『鈴谷K』『熊野K』

同・第二部隊

戦艦『比叡』『霧島』

重巡『愛宕K』『高雄K』

軽巡『川内』『神通』『那珂』

駆逐艦『吹雪』『夕立』『睦月』

同・第三部隊

戦艦『South Dakota』『Washington』

重巡『Northampton』『Tuscaloosa』『Houston』

軽巡『クリーブランド』『コロンビア』『モントピリア』『デンバー』

 

第三遊撃部隊第一部隊

戦艦『ネルソン』『ロドニー』『プリンス・オブ・ウェールズ』『デューク・オブ・ヨーク』

重巡『エクセター』『サセックス』

同・第二部隊

戦艦『長門』『陸奥』

重巡『利根』『筑摩』

軽巡『阿賀野』『能代』

駆逐艦『村雨』『早霜』『島風』『天津風』

同・第三部隊

戦艦『ヴィットリオ・ヴェネト』『リットリオ』『ローマ』

重巡『ザラ』『ポーラ』『ゴリツィア』

 

こんな感じである。因みに『高雄K』のKとは、KAN-SENのKである。重桜のKAN-SENと艦娘は名前が同じである為、公式文書の中ではこういう風に見分けるのだ。一方海外艦で名前がダブってる場合、例えばビスマルクならKAN-SENは片仮名、艦娘は英字表記となる。

 

「(雷兄、このネルソンとかエクセターっていうのは、もしかしてKAN-SENですか?)」

 

「(あぁ。現状、うちの鎮守府は世界最大規模の艦艇を持つ部隊と言って良い。大半がKAN-SENだがな。今回は互いに経験積ませる意味も含めて、半数近くをKAN-SENにしてある)」

 

江ノ島鎮守府は知っての通り、艦娘よりもKAN-SENの方が圧倒的に多い。更に言えば日本が保有する艦娘の総数ととKAN-SENは、ほぼどっこい。これに加えて長嶺と霞桜もいるので、実はパワーバランス的にはかなりバグっているのだ。

 

『次に第二段階。当初は海上自衛隊よりDD5隻、DDG2隻、FFM12隻、DDA1隻の20隻が参加予定でしたが、新たにアメリカ第7艦隊とサンディエゴ海軍基地より第3艦隊の派遣が決定しました。これにより参加艦隊はアメリカ海軍は第7艦隊旗艦、空母『ミッドウェイ』以下、巡洋艦1、駆逐艦8、潜水艦3。海上自衛隊は第5護衛隊群旗艦、空母『いぶき』以下、DD5隻、DDG2隻、FFM12隻が参加します。

また航空隊に関しましてもアラスカのエルメンドルフ空軍基地より、10個戦闘飛行隊が作戦に参加します。無線周波数等は変わりませんので、各部隊への伝達をお願いします。第三段階の……』

 

会議後にそのまま図上演習に移ったりと、かなりの時間を会議室で過ごした後、長嶺は比企ヶ谷指揮下の独立遊撃隊、旧総武高校生徒会メンバーを呼び出してもらった。

 

「やっほーお前らー」

 

「むむ、長嶺ではないか!!!!」

 

「久しぶりだべ!!!!」

 

「そっか!会議に出てたんだね!」

 

「あぁ!!先輩が来てる!!!!」

 

「久しぶりだね長嶺」

 

「めっちゃ久しぶりじゃん。っていっても、まだ2、3ヶ月しか経ってないけど」

 

本来なら上官への態度がなってないとか何とか言われそうな光景だが、長嶺が今まで通りに接して欲しいと命令しているので問題ない。長嶺個人としても、気兼ねなく話せる同年代の存在が欲しいのだ。

 

「なんだろうな、数ヶ月しか経ってないのに妙に懐かしく感じるよな。これなんて現象なんだろな?

まあ思い出話は置いといてだ。俺がここに来たのは、お前達の顔を見に来たのもあるが、本作戦に於ける命令を伝えに来た」

 

「もしや我らも戦場か!?!?」

 

「だとしたら腕がなるっしょ!!!!」

 

「いや、今回はお前達も含め、霞桜自体には出番がない。緊急時と決戦時の、それも戦局が焦げついた時に出撃するが、基本は秘匿拠点か空中にて待機する。お前達はここで待機だ。あ、比企ヶ谷は釧路基地司令として働いてもらうぞ」

 

何やら残念そうな顔をしているが、こればかりは仕方がない。長嶺だって今回は総隊長と鎮守府で普段見せる長嶺提督としてではなく、対外的な江ノ島鎮守府提督兼連合艦隊司令長官として動く。

 

「てことはウチらは出番なしなわけ?」

 

「そうだ、とも言い切れない。無いとは思うが、戦局が最悪の最悪になった時。それこそ展開する部隊の大半が戦闘不能や被害甚大と判断した時は、俺が出張るつもりだ。その時はお前達も俺と共に来てもらう。無論、比企ヶ谷も含めてな。作戦中、お前達は黒鮫にて待機。いつでも出撃できる体制を整えて置いて欲しい」

 

流石に何も無いと思いたいが、例の深海棲姫と思しき反応もある。流石に保険の1つや2つは欲しい。

この後、久しぶりに集まった学友であり戦友である彼らと、適当にトランプとかウノとか人狼ゲームをし始め、そこに一部の江ノ島の艦娘とKAN-SENが混ざり、謎のゲーム大会がスタートしたのであった。

 

 

 

翌08:00 釧路基地 グラウンド

『これよりペルーン作戦、出陣式を挙行する。各司令官は、1人ずつ壇上に上がり訓示をお願いします』

 

本来なら長嶺からスタートしそうだが、今回は白鵬、影谷、比企ヶ谷、風間、長嶺の順となった。四者四様の訓示で、どれも個性豊かである。例えば白鵬なら子供らしからぬ大人びた訓示だが、一方で何処か大人になりきれてないあどけなさが残っているし、影谷なら逆にあどけなさ全開だがしっかり決めるところは決めているし、比企ヶ谷はもう比企ヶ谷らしさ全開というか遺憾無く捻くれを発揮していた。風間は大人の風格を醸し出しながらも、しっかり艦娘達への心遣いを忘れない訓示であった。だが最後、長嶺が全てをぶち壊した。

 

『最後に江ノ島鎮守府提督、長嶺元帥、お願いいたします』

 

訓示が始まるまで、しっかり第二種軍装を着ていた筈だった。にも関わらずいつの間にか制帽脱いでいるし、ジャケットは肩掛け、中に着ている筈の白シャツは普段着用している強化外骨格用のインナーな上に、脇下に阿修羅HGを納めた巨大なホルスターを装備し、軍刀は幻月と閻魔の二刀吊り。更に肩にはカラスを止まらせ、自らの横には真っ白な犬を連れるという明らかに壇上で今から訓示を行う高級将校らしからぬ格好であった。

 

『よう、お前達。昨日はよく眠れたか?いよいよ作戦開始となった。だが、俺からの命令はいつも通りだ。邪魔する奴らは全部殺せ。障害は全部破壊して突き進め。昨日とか一昨日は「いつもと違う」と言ったがな、状況は違ってもやる事は変わらない。これまで俺が鍛えてきたお前達なら、早々敵に遅れは取らない。それはこの俺が保証しよう。

もしやられそうになった時は仲間を頼れ!それでも無理なら俺を頼れ!俺は常にお前達と共にある!!カギ(・・)だって、常にお前達と共にあるのだ!!臆する事は何一つない。深海棲艦どもに自分達がどこにいるべきだったのか、それを教育してやれ!!!!テングとシンジュ(・・・・・・・・)は常にお前達と共に。さぁ、碇を上げろ!!魚雷を装填しろ!!!航空隊を青空に羽ばたかせろ!!!!砲を構えろ!!!!!!好きなだけ暴れてこい!!!!!!!!』

 

これまでの訓示とは明らかに違う、狂気すら感じる内容に他鎮守府の艦娘もこの場にいる士官達も、完全に気後れしていた。だが江ノ島鎮守府の艦娘とKAN-SEN達は。長嶺が家族と呼ぶ最高の仲間達は、長嶺が言っている事を完璧に理解した。

側から見れば将校らしからぬ見た目ではあるが、江ノ島の者からすれば、一眼で長嶺の闘志に揺るぎない事が分かる。愛刀に愛銃。強化外骨格用のインナー。肩の八咫烏に隣に控える犬神。その全てが、長嶺が戦場で使う相棒だ。更に言葉の中にも「俺を頼れ」「常にお前達と共にある」とある。オマケに「テングとシンジュ」という単語もあった。よもや天狗でも、真珠なわけがない。これは『鴉天狗』と神授才の事に他ならない。長嶺は訓示の中に、しっかりと「もしもの時は俺が出る」というメッセージを入れ込んであるのだ。

 

『以上で出陣式を終わる。各艦娘は、出撃準備に入れ』

 

艦娘達は出撃ドックへと向かい、提督達は基地内の指令室へと向かう。出撃ドックでは準備が完了した艦娘達が飛行場へと向かい、C2輸送機に乗って敵支配海域ギリギリまで空路で向かう。そして10:00、北方海域解放作戦『ペルーン作戦』は開始された。

同じ頃、遠く離れたアリューシャン列島近くの秘匿拠点もまた慌ただしく動いていた。

 

「急げ!!艦娘の嬢ちゃんに遅れるんじゃねーぞ!!!!」

 

「女の遅刻は許されても、男の遅刻は許されねぇって相場が決まってんだ!!」

 

『こちらドクターペッパー小隊。これより離水、艦隊援護に向かう』

 

「こちら管制。ドクター小隊、出撃を許可。続けてアンビュラー小隊、出撃準備に入れ」

 

艦娘の出撃と同時に、霞桜も出撃態勢に入っていたのだ。今回は表立って行動こそしないとは言え、常に影から彼女達を守るべく行動はする。その一環が艦娘、KAN-SENの治療に特化した黒鮫を保有するドクター小隊とアンビュラー小隊である。この機体のカーゴスペースは艦娘の修理に必須となる入渠ドックをKAN-SENにも使えるようにした、特殊な入渠ドックが搭載されている。

更に艦娘もKAN-SENも人間も使える応急処置ルームもあるので、前線で戦う各員の生存性を大幅に高めるのだ。

 

「何故、オ前達ハ艦娘ト共ニ戦ウノダ?我々ノ力ノ前ニハ、人間ハ矮小ナル存在ダト言ウノニ。恐ロシクハ無イノカ?」

 

「やはり不思議ですか」

 

「アァ。愚カトスラ言エル」

 

尚、この秘匿拠点には因数外戦力である戦艦棲姫と港湾棲姫もいる。彼女達も今回は共に戦うと、自ら願い出てきたのだ。特に港湾棲姫には陸上機の配備ができるというのもあって、こちらとしても願ったり叶ったりである。

 

「とても簡単な事ですよ。艦娘もKAN-SENも、私達より強い。それは横で見てきてますから、今更そこに疑いようもありません。でもですね、彼女達は女の子でしかも若いんですよ」

 

「女ダカラ共ニ戦ウノカ?」

 

「身も蓋もありませんけどね。あんな可愛らしい女の子、それも年端も行かない少女ですら戦っているというのに、大の大人が後方でぬくぬくやっている。なんとも格好の悪い話でしょ?

彼女達と同等に戦えずとも、せめて彼女達の盾や露払い位はしたい。何より『艦娘』と『KAN-SEN』という存在は、中々代えが効きません。戦略面でみても、我々のような身代わりは必要なんですよ」

 

グリムの答えは、霞桜の総意であった。無論、個人個人の戦闘理由はある。単純に戦闘狂で戦いたい奴や、長嶺という存在に惚れて隣で戦いたいという奴、これしか生きる道がない奴もいる。だがどんな理由であれ、どこかにこの考えは存在している。押し付けがましいとかお節介なのも承知の上で、自己満足なのも承知の上で、霞桜の面々はそれに命を賭けるのだ。

 

 

 

作戦開始より6時間後 釧路基地 地下指令室

「まもなく偵察機が目標上空へと入ります」

 

「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか」

 

艦隊に先んじて、航空自衛隊のMQ47が空域へと侵入。偵察を開始するのだが、予想よりも敵艦隊の数が多かった。

 

「概算出ます。敵魚雷艇978隻!何層にも渡って防衛ラインを構築中!!」

 

「魚雷艇がそんなに.......」

 

「雷兄、これってヤバい、ですよね?」

 

「あぁ。アリューシャン列島という地形では、外海はともかく島近くでは魚雷艇の様な小回り効くのは有利だ。しかも母数が多いとなると、Hit and Awayの反復攻撃でこられたらジリ貧だ」

 

これだけの規模、恐らく列島内には輸送船団もいる筈だ。となれば向こうは魚雷艇部隊と輸送船団をセットで運用し、こちらを攻撃する戦法を取るだろう。しかもこれだけの母数となると、確実に超高スパンでの波状攻撃を仕掛けられる事になる。

 

「戦艦や空母は機動力じゃ負ける。オマケに敵は数が多い。こりゃかなり面倒だな」

 

「戦艦の方がデカいし、強いんじゃないのか?」

 

「事はそう単純じゃないんだよ比企ヶ谷くん。確かに君の言うとおり、サイズで言えば戦艦の方が大きい。だが戦艦の砲塔旋回はかなり遅い上に、照準はすぐつけられる物じゃない。対する魚雷艇は、とにかく速度と機動性を追求した艦種。1隻2隻なら敵じゃないが、集団で攻められると戦艦でも捌き切れないんだよ」

 

例えこれが駆逐艦でも、魚雷艇は油断ならない相手だ。だが唯一、対魚雷艇には無敵とまで言える存在がいる。それが我らが霞桜である。霞桜の主要装備は知ってのとおり、対深海徹甲弾を用いてはいるが武器自体の特性は通常の歩兵と変わらない。

更にシービクターの採用により、強化外骨格装着時以上の三次元機動が可能となった。魚雷艇のメインウェポンは魚雷艇の名にある通り、対水上目標に対してのジョーカーたる魚雷。シービクターは空中でも運用できる為、一方的にこちらが攻撃できる。しかも連射力でも単純な攻撃力でも、こちらに軍配が上がる。恐らく道中における霞桜の主任務は、この魚雷艇群への対処になってくることだろう。

 

「続けて敵艦編成、出ます!!戦艦196、空母183、重巡245、軽巡331、駆逐481!!更に防空棲姫4、装甲空母姫2、重巡棲姫6、北方棲姫1を確認!!!!」

 

「なんて数だ.......」

 

「ふえぇぇ.......」

 

「奴ら、どれだけの物量を持ってるんだよ.......」

 

「これはちょっと不味いかもね.......」

 

流石にこれには長嶺も文字通り言葉を失った。だが同時に、長嶺は頭をフル回転させて今とるべき選択を考える。幾ら二鎮守府と三基地合同かつ自衛隊と米軍の総力を上げた作戦とは言えど、これだけの数には流石に正面からぶつかれば多数の被害が出る。壊滅する艦隊が出てきたって可笑しくない。撤退の2文字が頭をよぎるが、それを即座に打ち消す。

 

「.......なぁ長嶺。ここは撤退すべきなんじゃないのか?」

 

「雷蔵兄さん。僕も比企ヶ谷司令に賛成です」

 

「俺もそう思ったが、それは出来ない。確かに撤退こそが、俺が取るべき選択だとも思う。というか俺も今、その考えがよぎった」

 

「なら!」

 

「だがな、普通に考えてこの数は異常だ。風間提督なら、分かりますよね。俺の言いたい事が」

 

風間も神妙な面持ちで、長嶺を見つめてくる。風間も撤退が選択として正しい事を知りながら、それが同時に最悪の悪手である事を見抜いているのだ。

 

「もしここで退いたら、恐らくここの深海棲艦は溢れ出す。これだけの数をたった1つの拠点に集めているのは、明らかに戦略的に見て通常なら非合理的だ。となれば攻勢前、或いは製造拠点があると見るのが妥当だろうね」

 

「一応、防衛の為に集めたとか偶然とかの可能性もあるが、流石にこれだけの数が日本に攻め込んできたら、先の大攻勢を超える被害をもたらす。あの規模の攻勢を弾き返すだけの力は、最早、日本にはもう無い。

もし攻勢が開始されたと仮定すれば、戦況は2020年5月18日*1以上の最悪な状況に逆戻りだ。しかも日本が占領される様な事があれば、艦娘の運用にも大きな支障が出てくる。それは世界の破滅を意味するも同義。であれば俺達は、敵の頭数を減らす為にも撤退を決断するべきではない」

 

「雷兄.......。みんなは、帰ってこれますかね?」

 

「影ちゃん、指揮官が部下の前で弱音を吐くもんじゃ無い。俺達指揮官はな、常に堂々としなきゃならん。それにこの戦い、まだ始まってすらいない。であれば俺達がすべきは、少しでも勝利に近づき、尚且つ彼女達が帰還できる作戦を練る事だ。それが俺達の戦争だ。

お前達!!!!今、彼女達は最前線にいる!!!!敵の砲火に晒され、海水と硝煙に塗れ、傷付いているだろう!!だが我々もまた、最前線にいるのだ!!!!オペレーター諸君は目の前のコンソールや画面が。我々司令官は作戦盤とスクリーンが戦場と心得よ!!!!我々は我々の戦場に立ち、最前線の彼女達と共に戦うのだ!!!!さぁ戦士達よ、共に戦え!!!!!!そして深海のクソどもに、しっかり勝とうぜ!!!!!!」

 

一瞬うわつきかけた空気感が引き締まるばかりか、さっきまでより強固な団結と士気をもたらした。長嶺本人は気付いてないが、これこそが僅か19歳で世界最強格の特殊部隊と多数の艦娘とKAN-SENを従えられる所以である。

これより数時間後、遂に魚雷艇部隊のトラップに艦隊が引っかかる。まず最初に引っかかったのは、山城が旗艦を務める第一遊撃艦隊第三部隊。しかもその数、他艦隊よりも遥かに多い60余隻。

 

「山城!PTの群れだ!!か、囲まれる!!!!」

 

「時雨増速!迎撃するのよ!!砲戦開始!!!!」

 

「僕達もやるよ!!朝雲、山雲は右舷を!!僕と満潮は左をやる!!各艦各個に撃ち方始め!!蹴散らせ!!!!!!」

 

艦隊は対空砲も用いた全砲戦火力を持って、魚雷艇部隊の迎撃に入る。だが数が多い上に、機動性が高すぎて中々当たらない。

 

「ヤバいヤバい!!」

 

「裁ききれませ〜ん!」

 

「こんの!!」

 

だかそれでも、着実に数は減らしている。とはいえ焼石に水程度の効果な上に、敵の数に迎撃速度が追い付いていない。

 

「雷跡視認!!2時方向より15本!!!!」

 

「ッ!?四駆、回避行動!!!!」

 

「マジで!?回避!!!!」

 

「.......右?姉様ッ!!!!」

 

山城が後方に続く扶桑を見た瞬間、扶桑が爆炎に包まれた。魚雷が命中し、大破一歩手前の中破にまで追い込まれた。

 

「1GF3H扶桑、中破!!!!」

 

「扶桑が!?」

 

釧路の指令室にもナノマシンの身体情報が送られ、扶桑のアイコンが中破を示すオレンジに変わる。因みに小破はイエロー、大破は赤、轟沈は赤黒い色で轟沈地点にて点滅する。

特に扶桑の上官たる風間は、即座に反応した。自身の部下がやられたとなれば、心配にもなる。

 

「オペレーター、通信できるかい!?」

 

「繋げます!!こちら釧路HQ!山城、応答願います!!」

 

『こっちは戦闘中なんだけど何!?!?』

 

「扶桑の状況を報告してください!」

 

『.......姉様は右の主砲と右足の推力系がやられたわ』

 

スピーカーから流れてくる山城の声の後ろから、砲撃音と他の艦娘達の叫び声が聞こえてくる。未だ戦闘中なのだ。風間は拳を机に叩きつけ、敵に対してか、或いは何もできない自分自身かに怒りをぶつけていた。

 

「こうなったら、動かすか」

 

「.......雷蔵兄さん?」

 

長嶺は机の上に置いてあったヘッドフォンを手に取ると、上空にいる彼らに指示を出す。

 

「ゴールドフォックスよりデッドボックス。聞こえるか?」

 

『ハローハロー!こちらはデッドボックス!!何ですか総隊長?』

 

「現在、1GF3Hが敵と接敵。戦闘中だ。既に扶桑が中破している上に、数が多すぎる。艦種は魚雷艇だそうだ。すぐにアンビュラー小隊と共に現場へ急行。魚雷艇群へフルコースでのもてなしの上、扶桑を救出してこい!!!!」

 

『よしきた任せてくれ!!』

 

流石にこれは霞桜を動かす案件だ。指示を出せば3分以内に、敵部隊上空に迎える。間に合う筈だ。だが一応、向こうにも連絡しておかないと要らぬ心配事が増えることになる。

 

「風間提督。180秒、彼女達を耐えさせてください」

 

「君が言うんなら、何かあるんだね。分かった!」

 

風間もヘッドフォンを手に取り山城達、第一遊撃艦隊第三部隊へ無線のチャンネルを合わせる。

 

「みんな、僕だ。聞こえるかい?」

 

『提督!?』

 

「いいか、よく聞いてくれ。たった今、長嶺長官が動いた。後180秒耐えれば、戦況が変わる。今は僕を信じてくれ。180秒、君達なら持たせられる筈だよ」

 

風間の励まし、彼女達はすぐに答えた。まずは山城が他のみんなを鼓舞する。

 

「聞いたわね!!3分間、何が何でも持たせるわよ!!!!」

 

「オッケー!!みんなやろう!!!!」

 

全員が被弾した扶桑を起点に陣形を組み直し、扶桑を守るかの様に魚雷艇群に攻撃を加える。釧路基地の指令室には所属不明機として戦域殲滅VTOL輸送機『黒鮫』が映るなどの事態はあったが、現場の山城達はそんな事は知る由もなく攻撃を続けた。

3分というのは意外にも早く、体感では1分程でその時は来た。突如、魚雷艇群を空中から探照灯で照らし出す機体がやって来たのだ。

 

「なにあれ!!」

 

「輸送機かしらぁ?」

 

輸送機は輸送機でも、その前に『戦域殲滅』という物騒な名前が入っている。黒鮫は機体を装甲板で覆い、各所に機関砲を搭載した機体。こういうソフトスキン相手や面制圧には大活躍の兵器である。

 

「ねぇ山城!!アレって演習の時の兵器じゃない!?」

 

「あの男の.......」

 

時雨の指差す方向には、シービクターを装備した60名の隊員が海面ギリギリの超低空飛行でこちらに向かってきていた。

 

「お客さんを出迎える。攻撃開始だ野郎共!!食い散らかせ!!!!!」

 

「「「「「了解!!!!!」」」」」

 

デッドボックス小隊の面々は艦隊の周囲に散らばり、四方八方から接近を試みる魚雷艇群に攻撃を敢行。12.7mmの対深海徹甲弾をばら撒き、全く寄せ付けさせない。

 

「おーおー!敵が溶けてくな!!!!」

 

「ぎもぢぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

「12.7mm最高!!!!」

 

正面には最大で4挺のライフルを指向できる上に、そもそものライフルが12.7mm弾と凄まじい威力を持つ。その制圧力は凄まじく、上空からの援護もあるとはいえ、ものの数分の内に敵を全て殲滅してみせた。

 

「.......ていうか、アンタ達誰よ!!!!」

 

まず最初に噛みついたのは満潮だった。いつも風間に対してやっているように、力一杯言葉で噛み付く。

 

『我々は味方だお嬢さん。助けに来た。秘匿部隊Xの名を聞いた事はあるか?』

 

「あ、僕知ってる。確か対鎮守府向けに組織された、極秘の内部監査執行機関。日本が持つ闇の特殊部隊.......」

 

最上の言葉に、艦娘達は凍りついた。聞くからにヤバい連中である。というかそもそも現時点で得体が知れない連中なのに、そこに明らかに関わり合いになるべきでない存在だという情報が来れば、恐怖が勝ってしまうものだ。

 

『こちら風間。秘匿部隊Xとは合流できたかい?』

 

「て、提督!!なんなんですか、この胡散臭い集団は!!!!」

 

「えー、俺達は胡散臭くないよ山城ちゃーん」

「僕達、平和主義者だしー」

「戦争とか怖くてできないタイプなんですけどー」

 

「うっさい!!アンタらちょっと黙ってて!!!!!!」

 

早速デッドボックスの面々が山城をいじり出し、山城からキレられる。その声を聞いて長嶺以外のHQの空気は氷漬けになった。

 

『一応その人達、しっかりとした戦争のプロだから。大丈夫、胡散臭いかもしれないけど敵ではないからね』

 

「そもそも何者ですかコイツら!!!!」

 

『海上機動歩兵軍団『霞桜』という部隊さ。国家機関への強制執行機関であり、世界唯一の人間によるカウンター深海棲艦部隊であり、長嶺長官子飼いの最強の集団でもある』

 

山城の背後で「俺達最強!!!!」「「「「ウィー!!!!!!」」」」と言いながら謎のポーズをしてる馬鹿共が、世界最強の特殊部隊と言われても現実味がない。

 

「はいはい、お前達。ポーズはいいから、とっとと扶桑を運び込むぞ」

 

「え、ちょ、ちょっと!姉様をどうする気よ!!!!」

 

「あれ聞いてない?扶桑が中破したろ?それを修復して、また前線に戻すのも俺達のミッションなんだけど.......」

 

『あ、うん。その人の言う通りだよ』

 

山城達の前にアンビュラー小隊の黒鮫が着水し、扶桑を艤装装備のまま収容。そのまま空中で治療と、艤装の応急処置に入らせる。

 

「これで一安心だね、山城」

 

「だといいけどね.......」

 

どうやらまだ完全には信じてくれていないようだ。だがまあ、別に信じようと信じてなかろうと、所詮はこの作戦で終わる関係。別にどうだっていい。ブラッドボックス小隊はまた上空にて警戒に戻り、艦娘達を陰ながら見守るのだ。

*1
深海棲艦の存在が確認され、各地の海で同時攻勢が始まった日

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